レミソルト級スイートクルーザー > シーズン5


概要

 レミソルト級スイートクルーザー・シーズン5は、共立公暦1001年、混迷の様相を極めるロフィルナ王国を舞台に繰り広げられたアリウス一行の冒険譚である。この物語においては、コックス政権の圧政に反旗を翻した王都軍と、武力解放を目論む平和維持軍、その他・複数国の思惑が複雑に絡んでおり、壮大な群像劇を描いた。セ連国内において、融和路線を掲げるリティーア公女を筆頭に多くの市民団体が決起し、停戦交渉に努める様子も記録された。かつてアリウスとの政争に敗れ、1000年以上もの長きにわたる忍耐を強いられたヴァンス・フリートンが本性を表すと、これに触発された多くの勢力がロフィルナ問題を巡る駆け引きを本格化させ、その後の情勢を大きく一変させた。スイートクルーザーの一行に所属不明の部隊が遅いかかると、いよいよ混迷の度合いを深めていき、アリウスは自分を庇って斃れた多くの部下に復興の誓いを新たにする。同1008年に全ての元凶たるセトルラーム本隊と対峙。そこに至るまでの過程で多くの味方を得たアリウスは自ら連合部隊の指揮を取り、ロフィルナ全土の防衛を目的とする最後の決戦へと突き進んだ。

経緯

第三次ロフィルナ革命(前編)

 時は共立公暦998年。セトルラーム国内におけるイドルナートの大火を契機に第二次世界動乱が起こると、アリウス公王はロフィルナ首都圏(王都コルナンジェ)における軍事クーデターの実行を決断。同1001年。国際社会による大規模な武力侵攻に伴って第三次ロフィルナ革命が勃発し、以後の凄惨な殺し合いに身を投じる流れを辿った。一方、ロフィルナ国民武装赤軍解放戦線(通称、コックス軍)は革命記念都市グロノヴェイルに後退。そこで戦力を立て直し、反撃へと転じたのである。これに怒った多くの地方軍閥が挙兵すると、領邦各地において新たに独立勢力も台頭し、そこに大量の外国勢力が雪崩れ込む最悪の事態となった。この一連の戦いは、8年もの長きにわたる泥沼化の一途を辿っていき、結果的に厭戦感情を高める要因となる。同1003年に差し掛かり、多くの外国勢力が次々と派兵部隊を引き上げる中、なおも戦意を失わないセトルラーム侵攻軍の横暴が報道されると、追求の矢面に立つフリートン大統領は年々立場を硬化させ、更なる大部隊を投じた。

 同1004年にユミル・イドゥアム連合帝国が参戦すると、死に体となっていたコックス軍(ティラスト派)の抵抗も激しさを増し、更に混迷の度合いを深めていく流れとなる。これにより、 キューズ・アライアンス 率いるFT2執行本隊も本腰を入れはじめ、ロフィルナ全土が戦火に晒されたのである。都市部において苛烈な強襲計画を目論むFT2執行会議(曰く、難民保護の努力を継続するが、人間の盾を用いたテロリストの蛮行は許さない)の方針に反対の立場を貫くTB機動作戦司令部は人道支援を名目に追加戦力を派遣。年々悪化していく国際情勢をよそに、なおも併合の既成事実化を諦めていないフリートン大統領は、同1007年、ついにゾラテス級の投入を決断した。そうしたセトルラームの暴挙に対抗するため、ロフィルナ国内における多くの武装勢力が一時団結。レミソルト級スイートクルーザーを旗艦とする王党派主導の連合部隊が発足すると、これを良しとしないFT2執行部隊も攻勢を強め、更に夥しい数の死傷者を出していく流れとなる。

第三次ロフィルナ革命(後編)

 文明共立機構最高評議会は、暴走するセトルラーム政府に対し重度の警告を発したものの、アリウス率いる王都軍に対しても違法な武装勢力との連携を即時停止するよう要求した。時のメレザ・レクネール常任最高議長は、事態を収束させるための『PLコマンド・ヒュプノクラシア(PLK.H-2nd.サモニング)』の発令を決断。パルディ・ルスタリエ以下、複数名の究極戦力を投じ、ゾラテスもろともセトルラームの主力艦隊を壊滅へと至らしめたのである。この行いは多くの共立加盟勢力を震撼させ、フリートン大統領にとっても想定外の事件として報じられた。共立機構代表総議会においては、改変事態にあたらない通常戦域に非常な武力を投じた最高評議会の行動を戒める巨大なインセンティブが生じ、ユピトル連合を始めとする中小諸国のレクネール下ろしが始まった。一方の連合部隊も高出力の波動を直に受け、殆どが全滅。一連の報道に堪えられなくなったリティーア公女は、イドゥニア星域を封鎖するFT2執行艦隊の静止を振り切り、単身ロフィルナ王国の大地に降り立ったのである。現地の武装勢力のみならず、味方であるはずの連邦軍からも攻撃を受け、泥と血に塗れながら愛しのアリウス公王を連れ戻すための戦いに身を投じた。そのようにして、ようやく目的地に辿り着いたものの……見るも無惨な姿と成り果てた王都コルナンジェの戦場において、彼女が目にした光景は、無数の残骸とともに墜落していくスイートクルーザーの末路だった……

戦いの結末

 激しい市街戦を重ね、廃墟と化して久しいコルナンジェの市中は視界を遮られるほどのガスで満ちており、多くの兵士が四方からの攻撃に警戒していた。あらゆる方向から聞こえてくる断末魔と喧騒の中に殺意に満ちたイドルナートの歌声が入り混じっている。『愛しき我が敵よ♪そこにいるのかい?必ず見つけ出し♪お前の心臓を♪抱きしめてやるからな♪』。その悍ましい男達の囁きに両耳を塞ぎ、ガタガタと震えている平和維持軍の若き兵士がいた。『ロフィルナ~♪ロフィルナ~♪嗚呼、愛しき我が故郷よ♪ここが俺達の楽園♪地獄へようこそ♪これぞロフィルナ♪ロフィル~ナァ~♪』。血と硝煙のこびりついた腐臭に嘔吐する者。両の手のひらを高らかと上げて必死に降参の意を叫ぶ者。拘束したコックス軍の捕虜を容赦なく射殺し、復讐の雄叫びを上げる王党派に平和維持軍の隊列が銃口を向けた。夥しい数の焼死体。放置され、腐り果てた臓物が散乱する市街地において、慟哭の叫びを上げたリティーアTB機動陸戦部隊が保護し、強制的に後方へと引きずっていった。世界の敵となった屈強な男達が歌う。堪えられなくなったセトルラームの分隊長が怒鳴った。『こそこそと隠れてないで、さっさと出てこい!すぐにぶっ殺してやる!!貴様らなど怖くねえ!どうした?俺の前に出るのが、そんなに怖いのか!?最上級の獲物がここにいるぞ!!こっちにこいよォ!!!』。触発されたコックス軍の残兵が笑みを浮かべ、ナイフに舌を、まるで甘い蜜を味わうかのように這わせている。けたたましい笑い声が響いた。

 王宮の行進広場に墜落したスイートクルーザーから、複数の人影が降りてくる。満身創痍の状態で、今後の方針を問われたアリウスは自らの指揮下にある全ての生存部隊に対し、完全なる停戦を命じた。『ふざけるな!まだだ!まだ……ッその時ではない!!我らの王が臆病者では困るのだよ』。徹底抗戦を主張するサンリクト公国グラウストラ元帥に峰打ちを食らわせ、アリウス公王停戦を命じる。間もなく突入してくるであろうFT2執行部隊に対し、剥き出しの敵意をもって猛り狂う王都直轄司令官を黙らせたのは、意外にも敗北主義者のレッテルを貼られて久しい反戦派の男達だった。開戦直前の夜。精鋭中の精鋭として恐れられた彼らの望みは、荒廃を極めたロフィルナ社会の再生である。―――かつて男達の指導者は言った。『いいか?良く聞け。俺には戦って負ける覚悟がある。そのために必要な大掃除をしてやるから、すべての責任を俺に被せろ!!お前達には、これからのロフィルナを導いてもらわねばならん。……何があっても絶対に出てくるなよ。その時がきたら、アリウスの姉貴を頼れ!いいな!?コックスおじさんとの約束だぞッ!!』。その堂々たる大宰相の願いを、『ようやく果たす時が来たのだ』リーダー格の大男が吠えた。時は共立公暦1008年。7月28日PM18:00をもってアリウス公王による停戦の勅令が下され、未だ抵抗を続ける多くのロフィルナ国民に武装解除を促した。同8月12日に平和維持軍主導の臨時軍政へと移行し、暫定政権の発足を見届けたアリウスは連邦筆頭公爵たる責任を果たすため、セトルラーム本国に帰還。彼女の生還に多くの市民が喜びの声を上げる中、ひとり恐れ慄き、憔悴しきったフリートン大統領明確な殺意を含む辞職勧告の言を突きつけられ、その政治生命に自ら終止符を打ったのである。

「この決断に至るまで多くの犠牲を出しました。わたくしの行動が遅きに失したと非難する者もいることでしょう。わたくしにはロフィルナ社会に属するすべての国民の生命及び財産、その他の尊厳に関わる一切の安寧について、これを擁護し、全うしなければならない責務がございます。ロフィルナ政府の名のもとに実行された、すべての犯罪行為の責任は連邦共同体の長たるわたくしに帰属するものです。……ですから、大統領?何も心配する必要などないのですよ」

影響

 墜落すれど、致命的な破壊を免れたスイートクルーザーは再び元の姿を取り戻し、アリウス一行の移動手段として用いられた。本来、戦闘用ではない本船を戦場に投じたアリウスの軽率さを咎める意見もあったという。しかし、最先端の装備で守りを固めるセトルラーム空軍に対し、予想以上の成果を上げた電子戦闘システムの功績から、多くの連合部隊にとって心強く、新たな実戦記録として従来の固定観念を覆した。批判を覚悟の上で自ら戦闘の指揮を取り、生還を果たしたアリウス公王の実力がフリートン大統領の計略を遥かに超えて多くの支持を得たのである。これにより、再びの政治的敗北を喫したフリートンは辞職を余儀なくされ、事実上、最大同盟国たる帝国に亡命せざるをえない状況へと追い込まれた。文明共立機構メレザ・レクネール常任最高議長も辞職の意向を表明。PLコマンド発動の責を取る形で次の世代にバトンを渡した。戦後、ロフィルナ王国は領土を大きく縮小し、多くの地域が独立。イドゥニア星内における反セトルラーム感情の爆発を受け、ロフィルナ連邦共同体も解散する流れとなり、以降はラマーシャ公国主導の新たな同君連合を成立させる機運が生じた。

 一方のセトルラーム政府(ゾレイモス政権)は、『998年イドルナートの大火』に関する賠償請求を取り下げる意向を表明。この決定は報復路線を掲げる多くの国民の怒りを誘ったが、それ以上にアリウス公王の勅意に忖度する意見が大勢を占めていき、共立党内におけるフリートン派の完全排除に繋がった。セトルラームの国際的影響力は依然として高く、ユミル・イドゥアム連合帝国をはじめ、オクシレイン大衆自由国ラヴァンジェ諸侯連合体の政治的判断によって本格的な制裁を免れたのである。共立公暦1010年。依然として小さな紛争が繰り返されるロフィルナ王国の治安を鑑み、アリウス率いる暫定政権は民主化を先送りする決定を下した。共立機構国際平和維持軍をはじめとする多くの外国軍が駐留する中、戦後処理を巡る暫定政権主導の国際軍事裁判所が設置され、抑留中の戦争犯罪容疑者(前コックス大宰相を含む)に対する審議が始まった。

 アリウスは、一人孤独に意地を張るコックスとの面会で、ある取引を持ちかけたという。それは、コックス自身に悪のコントロールを期待するトローネ皇帝(これ以上、国内外のテロリストに煩わされたくない)の提案を踏まえてのことであったが、それ自体は明かさず、あくまでも事の真相を追求するための司法取引として交渉を試みる内容であった。共立機構および三大列強間で合意された免罪の条件を伝えると、コックスはロフィルナ社会の独立と健全化を条件に受諾する意向を示したという。ここで漸く、コックスの真意を聞かされたアリウスは涙を流し、傷だらけの彼に心からの労いの言葉をかけた。コックスの周辺を取り巻く暗部のネットワークは、あまりにも巨大で、もはや三大列強の力をもってしても抑え難い規模に膨れ上がっていたのである。最悪のシナリオを避けるためにアリウスは非公式に事の経緯を関係各所に伝え、遅かれ早かれ牙を剥いてくるであろう真の黒幕との戦いに備えた。同1012年。メレザ・レクネール前最高議長は故郷であるセトルラームへ帰還し、新たに事後処理(改革)を担う新大統領との非公式会談を重ねた。年々、肥大化していく平和維持軍内部のFT2執行会議に関して、不確かな情報のピースが一つ、また一つと埋まっていき、二人の意見が一致したのである。関係諸国を巡り、全ての調整を終えたアリウスは、再びスイートクルーザーを駆って最悪の未来を回避するための活動に取り組んだ。

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最終更新:2025年03月28日 16:14