「狩装兵 シン・カルプ」



[ショートストーリー]
頭が丸く、見ようによっては頭部が存在しない様に見える全高5mほどの機兵が、工房より集落中央の広場へと歩み出て来る。大きさや形状から言えばこの機体は、南にある三大国の領域に於いて、稼働原理的にも構造的にも機兵の1種であるのに機兵扱いされずに蔑視を受けている、従機と呼ばれる種類の不遇の機種に見えた。しかしここはカナドの大地。この機体は、他の機体と一緒に狩装兵と呼ばれている。実のところ性能も、下手な三大国の従機など問題にしない。それどころか、機装兵にすら迫る実力を持っていた。
「修理、終わったぞ。持ち込みの部品が足りなかったが、俺の手持ちを使って中身はなんとか完璧に仕上げた。だから、ガワが傷だらけなのは諦めろい。」
「助かりましたよ、親方。」
「けどな……。今回のは、貸しって言うかツケにしとくぞ?次回来る時にゃ、もっと沢山狩って、沢山使える資材を持ってこい。」
「はい!それは重々!」
「だよなぁ……。親方だからって、成人の儀式のときに決闘で負けた奴だって事だろ?」
だがそれを聞いたとたん、リーダーは顔色を蒼白にする。そして彼は大急ぎでそれを言った奴の口を押さえ、工房の入り口の方を慌てて確認する。
「……ふう、聞かれちゃいなかったか。ばかやろう、あの親方はな。怖いヒトなんだぞ。」
「「「「「「!?」」」」」」
リーダーは周囲の仲間に、真剣な面持ちで語り聞かせる。
「以前、先代のバードル(戦士長)がマキナたちに無茶を言った事があった。近隣部族との縄張り争いのために、急ぎ全狩装兵を完全整備しろってな。そんとき、親方が反論した。資材が無い、と。先代バードルは怒って、それでもやれと。」
「「「「「「……。」」」」」」
「そしたら親方は、先代バードルを殴り飛ばしてハラバル(族長)のとこまで引き摺っていった。そしてハラバルの前で、先代バードルに決闘を挑んだ。先代バードルの機体は、ハラバルの機体に次ぐ強力な狩装兵だった。でもって親方の機体は……。」
リーダーの顔は、ひくひくと引き攣っていた。
「俺のこの機体と同じ。格の低い、『シン・カルプ』さ。そして勝負が始まった。……一蹴されたよ。先代バードルの機体がな。」
「「「「「「ええっ!?」」」」」」
「先代バードルは更に機体から引きずり出され、今度は生身で叩きのめされた。親方の武器、『バールの様なもの』でな。名誉を失い、重傷を負って後遺症で戦えなくなり、先代バードルは引退に追い込まれたよ。ちなみにその先代バードルは、成人の儀で親方を倒して、クシャトリヤ階級として認められた奴だったんだ。お袋の話だと、当時は親方から一発ももらわずに勝ったらしいが。」
若者たちは、驚いた口調で口々に訊ねる。
「な、なんで成人の儀で負けた奴が!?」
「まさか復仇の念に燃えて、実はずっと鍛えてたとか!?」
「だけどマキナの仕事が忙しくて、そんな暇ないだろ!?」
リーダーは笑って言った。その笑いは苦い。
「その次の代……今のバードルに選ばれた、俺のお袋が親方に訊いてみたそうだ。『なんでこんなに強いのに、あんた成人の儀であそこまであっさり負けたんです?』と。親方曰く、『勝っちまったら、マキナになれねえじゃねえか。』だそうだ。親方はクシャトリヤとして偉くなるよりも、機械いじりができなくなる方が辛かったんだとさ。」
「「「「「「……。」」」」」」
「俺は機械関係で……。狩装兵関係であのヒトに無茶言って、殴られて再起不能にされて、クシャトリヤの地位を失うなんて御免だ。俺はガキの時分に、間近であのヒトが先代バードルを叩きのめし……いや、叩き潰したのを、目の当たりにしたんだ。……必要も無いのに、勝てない戦いを挑むのは、クシャトリヤとして失格だぜ?覚えとけ。」
そう言ってリーダーは、修理なった自分の狩装兵『シン・カルプ』に乗り込んだ。
[解説]
カナド人の一部族、カナン族で下級のクシャトリヤ(戦士)が使う機体や、あるいは作業用として用いられている狩装兵。
アルカディア帝国、カーライル王朝・聖王国、自由都市同盟の三大国において、従機として扱われている物と同等の、格の低い機体である。だがカナドの領域では、こう言った機体も立派に狩装兵として分類されている。
アルカディア帝国、カーライル王朝・聖王国、自由都市同盟の三大国において、従機として扱われている物と同等の、格の低い機体である。だがカナドの領域では、こう言った機体も立派に狩装兵として分類されている。
ただひたすら、頑丈さを追求して建造されており、丈夫で長持ちが合言葉。
ことに骨格構造の頑健さはただ事では無く、手荒く扱っても歪みすらしない。
そしてその頑強さに頼って、凄まじいパワーの強力な魔力収縮筋を用いており、機体の格からは信じられない膂力を絞り出している。
だがその分、動きの正確さ、精密さは望むべくもなく、速さもさほどでは無い。
ことに骨格構造の頑健さはただ事では無く、手荒く扱っても歪みすらしない。
そしてその頑強さに頼って、凄まじいパワーの強力な魔力収縮筋を用いており、機体の格からは信じられない膂力を絞り出している。
だがその分、動きの正確さ、精密さは望むべくもなく、速さもさほどでは無い。
目を惹くのは、大型の拳パーツである。
これを採用する事で、この機体より大きな通常サイズの機兵が使っている武器を、そのまま何の修正も無く用いる事ができる。
これを採用する事で、この機体より大きな通常サイズの機兵が使っている武器を、そのまま何の修正も無く用いる事ができる。
なお、この機体の名前には接頭語として「シン」の言葉が付けられている。
これは「信」の意味を持つ言葉であり、カナン族の狩装兵名称には、かならずこの言葉が頭に付く事になる。
理由としては、カナン族が北方の開拓者イザナミの血を引く者として、約束を重んじる民であるからだ。
これは「信」の意味を持つ言葉であり、カナン族の狩装兵名称には、かならずこの言葉が頭に付く事になる。
理由としては、カナン族が北方の開拓者イザナミの血を引く者として、約束を重んじる民であるからだ。
[武装・特殊装備]
[偽・聖剣 電光剣]
この機体には、特に専用装備は無い。写真に載っているこの剣は、「伝説の十聖剣の三・雷光剣」を模して造られただけの、ただの鋼の剣である。
伝説では、本物の雷光剣の刀身左右に6本存在する牙の1本1本に雷の力が宿っており、その雷を発射して敵を雷撃で討ち滅ぼす恐るべき力を秘めている、らしい。どうも聖剣とは言うが、聖剣ではなく霊剣に類する剣であったのではないかと思われるが……。
何にせよ、この「電光剣」はただの鋼の剣であるが、打ち手であった鍛冶師が只者でなかった様であり、業物ではある。
この機体には、特に専用装備は無い。写真に載っているこの剣は、「伝説の十聖剣の三・雷光剣」を模して造られただけの、ただの鋼の剣である。
伝説では、本物の雷光剣の刀身左右に6本存在する牙の1本1本に雷の力が宿っており、その雷を発射して敵を雷撃で討ち滅ぼす恐るべき力を秘めている、らしい。どうも聖剣とは言うが、聖剣ではなく霊剣に類する剣であったのではないかと思われるが……。
何にせよ、この「電光剣」はただの鋼の剣であるが、打ち手であった鍛冶師が只者でなかった様であり、業物ではある。