デモン・デウス・マキナ

静寂が響き渡る廊下、シックな扉を二度三度と誰かが叩きノブを回した。
「やぁ君か。珍しいね」
潜った先では眼鏡をかけた男が座って待っていた。
「珍しいね。うちの昔話を聞きたいなんて」
男は彼のデスクに置かれたカップを手に取り、紅茶を口へ運んだ。
「君も飲むかい? ジャムと一緒が美味いんだ」
「あー、君はそんなことより話を聞きたいようだね」
男は紅茶をもう一度口へ運ぶと真剣な表情になって口を開いた。
「機体開発コードPlan038 DXM、幻装兵デモン」
男が紡いだ言葉は古く、場を貫くような響きがあった。
「今はうちの倉庫で復元されて壁の幻装兵デモン・デウス・マキナとして保管されている機体だ」
「さて時は新世暦332年、この機体が開発されたのはちょうど旧大戦末期のことだね。」
「この機体は燭光の幻装兵 ザイン・ソル・マキナを原型として開発された射撃特化型で、専用に速射性と連射性を高めたレールガンが用意された」
「デモンの当時の記録にはそれはもう凄まじい連射だったと残っているよ。まぁ今はレールガン用に作られた特殊弾が15発しか残ってないし、再現も出来てないけどね」
「15発なんか連射しようものなら一瞬で弾が尽きるよ」
男はカラカラと笑った。
「こいつの頭は凄くてね、オーパーツと化したセンサー類の塊なんだよ。修復するのも苦労したらしくてね、今は当時の性能の半分くらいらしい」
「どうしたんだい?ぽかーって顔して」
「あぁ壁の幻装兵っていうから防御特化の機体だと思ったのかな。これくらいの情報ならバロカセクバの資料館で普通に閲覧出来るよ」
「まぁザインから装甲を強化してないこともないんだけどね」
「この機体は主に胴体、肩、腰部フロントアーマー、膝の装甲が分厚いものを追加または変更をしているよ」
「そしてなにより一番硬いのは盾だよ。これも若干というかかなりオーパーツなんだけどLEVの装甲以上の強度とかいう馬鹿みたいなスペックなんだよね」
「その製法は一切不明で、ロココの持てる力全て使っても判明しなかった。今残ってるのは当時の物だけさ」
「どうやらロココ家初代当主のオーダーメイド品らしい」
「この盾のお陰で機体は大破しても炉と操手は無傷。そして今のロココが存在してるよ」
「この盾の意匠はうちの看板機兵であるリャグーシカにも取り入れられたね」
男はカップに入っていた紅茶を飲み干したのか、ポットから紅茶を注いだ。赤みがかった液体が光を反射しキラキラと輝いている。
男が口に運ぶ紅茶は湯気立っていて、彼の掛けていた眼鏡を曇らせる。
「アッツ!!!」
男はオーバーなアクションで熱さを訴えた。
「僕は猫舌でね。熱いのが苦手だけども、たまにこうやって忘れるんだよ」
室内に二人分のささやかな笑いが通った。
「さて、じゃあさっき少しだけ触れたデモンが大破した時の話をしよう」
「やぁ君か。珍しいね」
潜った先では眼鏡をかけた男が座って待っていた。
「珍しいね。うちの昔話を聞きたいなんて」
男は彼のデスクに置かれたカップを手に取り、紅茶を口へ運んだ。
「君も飲むかい? ジャムと一緒が美味いんだ」
「あー、君はそんなことより話を聞きたいようだね」
男は紅茶をもう一度口へ運ぶと真剣な表情になって口を開いた。
「機体開発コードPlan038 DXM、幻装兵デモン」
男が紡いだ言葉は古く、場を貫くような響きがあった。
「今はうちの倉庫で復元されて壁の幻装兵デモン・デウス・マキナとして保管されている機体だ」
「さて時は新世暦332年、この機体が開発されたのはちょうど旧大戦末期のことだね。」
「この機体は燭光の幻装兵 ザイン・ソル・マキナを原型として開発された射撃特化型で、専用に速射性と連射性を高めたレールガンが用意された」
「デモンの当時の記録にはそれはもう凄まじい連射だったと残っているよ。まぁ今はレールガン用に作られた特殊弾が15発しか残ってないし、再現も出来てないけどね」
「15発なんか連射しようものなら一瞬で弾が尽きるよ」
男はカラカラと笑った。
「こいつの頭は凄くてね、オーパーツと化したセンサー類の塊なんだよ。修復するのも苦労したらしくてね、今は当時の性能の半分くらいらしい」
「どうしたんだい?ぽかーって顔して」
「あぁ壁の幻装兵っていうから防御特化の機体だと思ったのかな。これくらいの情報ならバロカセクバの資料館で普通に閲覧出来るよ」
「まぁザインから装甲を強化してないこともないんだけどね」
「この機体は主に胴体、肩、腰部フロントアーマー、膝の装甲が分厚いものを追加または変更をしているよ」
「そしてなにより一番硬いのは盾だよ。これも若干というかかなりオーパーツなんだけどLEVの装甲以上の強度とかいう馬鹿みたいなスペックなんだよね」
「その製法は一切不明で、ロココの持てる力全て使っても判明しなかった。今残ってるのは当時の物だけさ」
「どうやらロココ家初代当主のオーダーメイド品らしい」
「この盾のお陰で機体は大破しても炉と操手は無傷。そして今のロココが存在してるよ」
「この盾の意匠はうちの看板機兵であるリャグーシカにも取り入れられたね」
男はカップに入っていた紅茶を飲み干したのか、ポットから紅茶を注いだ。赤みがかった液体が光を反射しキラキラと輝いている。
男が口に運ぶ紅茶は湯気立っていて、彼の掛けていた眼鏡を曇らせる。
「アッツ!!!」
男はオーバーなアクションで熱さを訴えた。
「僕は猫舌でね。熱いのが苦手だけども、たまにこうやって忘れるんだよ」
室内に二人分のささやかな笑いが通った。
「さて、じゃあさっき少しだけ触れたデモンが大破した時の話をしよう」
各地でWARESの抵抗も弱まり、新人類の勝利が目前に迫った夜。最後の悪あがきと言わんばかりのWARESの襲撃が起きた。場所は旧コーパスクリスティ、新人類が建設したシェルター群がある。
「ったくふざけやがって! なんだってこんな時間に叩き起こされにゃならんのさ!」
新人類軍の操手であるサマナバ・ロココは爆発音で目を覚ました。どうやらシェルターの外壁にミサイルのようなものが着弾したらしい。
ロココは寝床から飛び出すと真っ直ぐに駐機場へ走った。
息を切らして駐機場に辿り着いた時、整備班の連中は慌ただしくロココの乗り込む機兵の最終チェックを行っている。叫び声、よし、よし、よし、叫び声、よし。
ロココはそんな人の波をすり抜けて立て膝付いた新型機兵の操縦槽へと潜り込んだ。
「おい、こいつ今すぐにでも出せるんだろな!?」
「当たり前だロココ! ぶちかまして来い!」
「お""う""よ""さ""!!」
ハッチが閉じ、操縦槽が密閉され、映像盤が外の映像を映し出す。
「デモン出るぞ!」
ロココは機体を立ち上がらせた。彼の前にある出撃用のハッチがゆっくりと開いて行く。たった一人の出撃だ。何故ならば、今このシェルターにはロココの駆るデモンしか機兵が配備されていないからである。
「ったく准将のやつキツいぜこんなの。ジョーニーのやつくらい置いていってくれたって良かったろうになんで俺だけなんだ」
ロココがぼやいていると半開きのハッチの向こうからエーテリック・ライフルの閃光。魔導障壁が可視化されバチバチと明滅した。
「くっそ!」
ロココは瞬時に閃光の方向へ照準を合わせ、引き金を引いた。
「ったくふざけやがって! なんだってこんな時間に叩き起こされにゃならんのさ!」
新人類軍の操手であるサマナバ・ロココは爆発音で目を覚ました。どうやらシェルターの外壁にミサイルのようなものが着弾したらしい。
ロココは寝床から飛び出すと真っ直ぐに駐機場へ走った。
息を切らして駐機場に辿り着いた時、整備班の連中は慌ただしくロココの乗り込む機兵の最終チェックを行っている。叫び声、よし、よし、よし、叫び声、よし。
ロココはそんな人の波をすり抜けて立て膝付いた新型機兵の操縦槽へと潜り込んだ。
「おい、こいつ今すぐにでも出せるんだろな!?」
「当たり前だロココ! ぶちかまして来い!」
「お""う""よ""さ""!!」
ハッチが閉じ、操縦槽が密閉され、映像盤が外の映像を映し出す。
「デモン出るぞ!」
ロココは機体を立ち上がらせた。彼の前にある出撃用のハッチがゆっくりと開いて行く。たった一人の出撃だ。何故ならば、今このシェルターにはロココの駆るデモンしか機兵が配備されていないからである。
「ったく准将のやつキツいぜこんなの。ジョーニーのやつくらい置いていってくれたって良かったろうになんで俺だけなんだ」
ロココがぼやいていると半開きのハッチの向こうからエーテリック・ライフルの閃光。魔導障壁が可視化されバチバチと明滅した。
「くっそ!」
ロココは瞬時に閃光の方向へ照準を合わせ、引き金を引いた。

キキキーンと3発の弾丸が放たれた。衝撃波でハッチは吹き飛び、照準を合わせた先では複数の爆発が見える。機兵も少しよろめいた。
「なんだこの銃!?」
ロココはそのレールガンの三点バーストに困惑混じりの驚きを見せた。この驚きは旧人類も新人類も関係なく、人類共通のもののようで、一瞬だか敵の進行が止まった。
今が好機とロココは機兵を走らせた。シェルターを抜け、闇夜の月明かりの下へ機兵はその純潔を曝した。デモン初陣の時である。
デモンの装甲は月夜を青く反射し、ただ魔晶球だけが赤く灯っている。美しかった。その瞬間、世界の美はそこに集約されていたと言っても過言ではないだろう。
ロココは映像板に映し出された敵の数を見て眉を歪める。何万ものドローンや戦闘車両だけでなく、1個大隊分のLEVがデモンとロココを待ち構えていた。
そしてロココの背には何万人と負傷兵や非戦闘員を収容したシェルター群がある。
後には退けない戦いである。
WARESのLEVは主に第三期のファイアボルトⅡと第四期のヴェルクートを中心に構成され、中にはロココが見たことの無かった赤茶色をした砲戦特化型のLEVもいた。
ロココは難しい選択を迫られている。ドローンや戦闘車両は優先順位は低いとして、ヴェルクートとファイアボルトIIと砲戦特化型、この三つがどれもシェルターの脅威となる。ロココは1秒ほど真剣に頭を悩ませ、消去法で撃墜する優先順位を確定した。
「ファイアボルトから優先して叩く!」
そう決めた時には既に地上のファイアボルトIIへ照準を合わせていた。
ヴェルクートによる機体へのダメージは無視し、砲戦特化型は数が少ないことから後回し、並ば残るは単純な火力の高いファイアボルトIIである。
キキキーン、もう一度鳴る。その攻撃は狙った一機だけでなく、周囲の機体をも巻き込んだ。巨大な爆発に数機分の残骸とドローンや戦闘車両が混じる。嬉しい誤算だった。誰もLEVのエネルギー伝導装甲をここまで簡単に突破する武装など考えてはいなかっただろう。
だが、それでも戦闘は簡単には運ばなかった。ファイアボルトIIの殲滅に専念しようとするも砲戦特化型の支援砲撃に行動を阻まれ、ヴェルクートのテトラ・ファンネルに障壁を突破される。再び障壁を展開するも突破されのいたちごっこ。ある時障壁を破った一機のヴェルクートがプラズマ・ソードを一閃し、デモンの右腕を切断した。度重なる射撃により痛み始めた間接は簡単に脱落してしまったのだ。
「最""新""型""が""負""け""る""は""ず""ね""ぇ""だ""ろ""ぉ""!!!」
ロココは吠えた。彼はデモンの右腕を切断したヴェルクートにすかさず左手のシールドで殴り反撃した。
回避しきれなかったヴェルクートはその馬鹿げた強度のシールドに弾き飛ばされて大きくひしゃげて動けなくなった。
これはこの男、サマナバ・ロココの得意技であった。彼は卓越した射撃スキルを持つと同時にそれに劣らない格闘の才能も持ち合わせていた。そうやって彼はデモン以前からこの盾でいくつものLEVを鉄屑にしてきたのである。
「死にたいやつからかかってこい!!!!」
「なんだこの銃!?」
ロココはそのレールガンの三点バーストに困惑混じりの驚きを見せた。この驚きは旧人類も新人類も関係なく、人類共通のもののようで、一瞬だか敵の進行が止まった。
今が好機とロココは機兵を走らせた。シェルターを抜け、闇夜の月明かりの下へ機兵はその純潔を曝した。デモン初陣の時である。
デモンの装甲は月夜を青く反射し、ただ魔晶球だけが赤く灯っている。美しかった。その瞬間、世界の美はそこに集約されていたと言っても過言ではないだろう。
ロココは映像板に映し出された敵の数を見て眉を歪める。何万ものドローンや戦闘車両だけでなく、1個大隊分のLEVがデモンとロココを待ち構えていた。
そしてロココの背には何万人と負傷兵や非戦闘員を収容したシェルター群がある。
後には退けない戦いである。
WARESのLEVは主に第三期のファイアボルトⅡと第四期のヴェルクートを中心に構成され、中にはロココが見たことの無かった赤茶色をした砲戦特化型のLEVもいた。
ロココは難しい選択を迫られている。ドローンや戦闘車両は優先順位は低いとして、ヴェルクートとファイアボルトIIと砲戦特化型、この三つがどれもシェルターの脅威となる。ロココは1秒ほど真剣に頭を悩ませ、消去法で撃墜する優先順位を確定した。
「ファイアボルトから優先して叩く!」
そう決めた時には既に地上のファイアボルトIIへ照準を合わせていた。
ヴェルクートによる機体へのダメージは無視し、砲戦特化型は数が少ないことから後回し、並ば残るは単純な火力の高いファイアボルトIIである。
キキキーン、もう一度鳴る。その攻撃は狙った一機だけでなく、周囲の機体をも巻き込んだ。巨大な爆発に数機分の残骸とドローンや戦闘車両が混じる。嬉しい誤算だった。誰もLEVのエネルギー伝導装甲をここまで簡単に突破する武装など考えてはいなかっただろう。
だが、それでも戦闘は簡単には運ばなかった。ファイアボルトIIの殲滅に専念しようとするも砲戦特化型の支援砲撃に行動を阻まれ、ヴェルクートのテトラ・ファンネルに障壁を突破される。再び障壁を展開するも突破されのいたちごっこ。ある時障壁を破った一機のヴェルクートがプラズマ・ソードを一閃し、デモンの右腕を切断した。度重なる射撃により痛み始めた間接は簡単に脱落してしまったのだ。
「最""新""型""が""負""け""る""は""ず""ね""ぇ""だ""ろ""ぉ""!!!」
ロココは吠えた。彼はデモンの右腕を切断したヴェルクートにすかさず左手のシールドで殴り反撃した。
回避しきれなかったヴェルクートはその馬鹿げた強度のシールドに弾き飛ばされて大きくひしゃげて動けなくなった。
これはこの男、サマナバ・ロココの得意技であった。彼は卓越した射撃スキルを持つと同時にそれに劣らない格闘の才能も持ち合わせていた。そうやって彼はデモン以前からこの盾でいくつものLEVを鉄屑にしてきたのである。
「死にたいやつからかかってこい!!!!」

ロココは力いっぱいに叫び、備え付けの拡声器で大気を震わせた。
ロココとWARESとの戦闘は明け方まで続いた。WARESは最後の一機まで抵抗を続け、ロココもまたそれに応え、デモンもロココに応えた。
デモンは全身の装甲が脱落し、満身創痍の状態であったが戦い続け、最後のヴェルクートがよろめきながらレールガンをデモンの胴体目掛けて放った時、この戦闘の決着が付いた。
機体中凹凸だらけのヴェルクートは最後の余力を使い果たして墜落し、放たれた弾頭はデモンの盾で受け止められた。
互いに傷付き合いながらも最後まで立っていたのはデモンだった、ロココだった。
Sunrise for me.
夜明けを迎えたのは新人類であった。
ロココとWARESとの戦闘は明け方まで続いた。WARESは最後の一機まで抵抗を続け、ロココもまたそれに応え、デモンもロココに応えた。
デモンは全身の装甲が脱落し、満身創痍の状態であったが戦い続け、最後のヴェルクートがよろめきながらレールガンをデモンの胴体目掛けて放った時、この戦闘の決着が付いた。
機体中凹凸だらけのヴェルクートは最後の余力を使い果たして墜落し、放たれた弾頭はデモンの盾で受け止められた。
互いに傷付き合いながらも最後まで立っていたのはデモンだった、ロココだった。
Sunrise for me.
夜明けを迎えたのは新人類であった。
「とまぁこんなことがあってデモンは大破。その後初代当主が設立したロココ設計所で復元が行われて今に至るわけ」
男は少し疲れた様子で紅茶を啜った。
「この時の戦闘で新人類側に出た死者は0。そしてシェルターの人々は敬意を表してデモンを壁の幻装兵と呼んだんだ」
「この時のシェルターのある場所っていうのが今のここバロカセクバで、街にはまだシェルターが残ってるよ。幾つかは実際にシェルターとして、そしてあとは資料館だったりロココの倉庫だったりだね」
「デモン・デウス・マキナも当時の駐機場に保管されてるんだ」
男は手に持ったままだったカップをデスクに置き、眼鏡の傾きを直した。
「まさにロココ始まりの幻装兵だっただろう?」
男は少し疲れた様子で紅茶を啜った。
「この時の戦闘で新人類側に出た死者は0。そしてシェルターの人々は敬意を表してデモンを壁の幻装兵と呼んだんだ」
「この時のシェルターのある場所っていうのが今のここバロカセクバで、街にはまだシェルターが残ってるよ。幾つかは実際にシェルターとして、そしてあとは資料館だったりロココの倉庫だったりだね」
「デモン・デウス・マキナも当時の駐機場に保管されてるんだ」
男は手に持ったままだったカップをデスクに置き、眼鏡の傾きを直した。
「まさにロココ始まりの幻装兵だっただろう?」