プロット(創作)

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プロット(創作) - (2022/06/19 (日) 15:29:50) の編集履歴(バックアップ)


登録日:2011/08/23(火) 22:30:18
更新日:2024/02/24 Sat 04:29:45
所要時間:約 6 分で読めます





※注意※
この項目は例として幾つかの作品のネタバレを含んでいます。



プロットとは創作において「物語の設計図」となるもののことである。
語源は英語の「plot」。ちなみに陰謀や小区画という意味でもある。
グラフを描く際にグラフ用紙に「点を打つ」ことをプロットというが、
厳密には「○○の後××、その後△△…」が「ストーリー」で
「○○と行動したので××の状態になったので△△と…」
の形式で物語るのが「プロット」らしい。

類義語:「箱書き」

・プロットの作り方

ここではプロットの組み方を例を挙げつつ説明していく。


まずプロットを作る前に「テーマ」を決める必要がある。
ではそのテーマとは何か? それは物語の根底にある絶対条件である。

例えば「生徒会の一存」を例にすると、テーマは「生徒会室で役員+αが駄弁る」である。
偶に関係ない挿話もあるが、このシリーズは基本的にこのテーマに沿って進行している。


ちなみに上記の文に言う「テーマ」は、厳密には「描きたいもの」のうちビジュアルや人員的な要素の面と言える。
石ノ森作品で言えば秘密戦隊ゴレンジャーや仮面ライダーシリーズはどちらも「変身して戦う」という映像的要素がある。
しかし戦隊シリーズは「最初から正義の集団」であることも普通だが、ライダーは「敵対組織と力の根源は同じ」という要素を抱えている事が多い。
(昭和の時点でも全てではないが、平成ライダーシリーズに多く見られる要素でもある)

このためライダーの多くはテーマ性として「悪と同質の力を振るう正義」を描いていると言え、これはキャラクターの年齢や性別等とは関係ない概念的要素である。
つまり作品を構築する基幹要素そのものは複数存在していると言え、場合によっては下記のようになる事もある。

作家「美少女が出したい!でも担当に戦闘モノって言われた・・・せや!だったらセラムンみたいな美少女戦士にすればええんや!」
担当「(アクションをしっかり描いてくれるなら)ええんやで」

この場合、作家のビジュアル的テーマは「美少女」で、担当の求める概念的テーマは「戦闘」と言えるだろう。
その上でどシリアスに殺しあってまどマギみたいな事になるか、コメディタッチで百合モノっぽくなったりするか、といった部分はまた別の話。

年齢設定に関しても、エヴァンゲリオンのような「少年少女の主人公もの」には「ビジュアル的にそうなるべくしてなった設定」が用意されている事があったりなかったり。
魔法陣グルグルでは「ミグミグ族の子供の頃の不安定なハート」が力の源となっており、完全に「ヒロインが特殊な力を使える年齢制限」がある。
しかし蒼穹のファフナーでは「戦うためのロボットに適応するよう調整され生み出された子供たちだから」なので、主人公らは紛れもない強者だが彼らより年齢が高めのパイロットもいる。

このように、作中で主人公らがメインとして描かれる理由にも差があったりする事もある。


こうしてテーマを決めたら、早速プロットを……といきたいところだが、次に「キャラクター」「世界観」を決める必要がある。
これは何故かというと、プロットとは言うなればキャラを動かすための「予定表」のようなもので、
予定を組むにはその対象となる人物と、それを組む前提となる状況が必要だからである。

ただしここで作るキャラや世界観は仮決定でも構わない。
とかく必要なのは大前提である「テーマ」に必要な役者と舞台であり、これ以降必要に応じて修正が入るのは当然だからである。
つまり、プロットとは物語に対し脚本とほぼ同義なのである。


ではテーマが決まり、世界観を整え、登場するキャラが一通り揃ったら、ようやく本題のプロット作りである。

プロット作りにおいてよく用いられる方法に「帰納法」と「演繹法」が挙げられる。


帰納法とは、先に結論を用意し、そこに向かって式を組み立てていく方法である。いわば「テーマ優先型」といえる。

例として「ロウきゅーぶ!」を基にしてみよう。
「高校生の指導の下、小学生の女子バスケ部が男子バスケ部に勝利する」という結論に至るため、
「なぜ試合するのか」「どうして主人公はコーチをしているのか」という風に、物語を遡って構築していくのが帰納法である。
この場合、キャラクターは後から必要に応じて組み立てたり組み替えてもよい。


もう一つの演繹法とは、前提を基に結論を導き出す方法、いわば「キャラ・世界観優先型」である。

同じく「ロウきゅーぶ!」を解体していく。
「部長のロリコン騒動で休部中の主人公」(前提A)に「小学生女子バスケ部のコーチング」という依頼が来る。
ここで主人公は「一週間という期限つきで承諾」する(結論A)。
次に「一週間という期限」(結論A→前提B)に対し「コーチングが必要な理由を知る」というファクターが加わり、
「試合まで勝てる指導をする」と約束を交わす(結論B)……という風に、
玉突きのように前提から結論が産まれ、その結論が次の前提になるのが演繹法である。
こちらはキャラクターの思想や状況が結論を出すための条件になるため、事前にある程度確定して組み立てる必要がある。


こうしてプロットを組み立て、そこに肉付けして物語を作っていくのである。


・シナリオの部分的プロット


先の例は物語の開始や主人公の行動の根源など、全体のバックボーンとなる部分の書き方である。
しかし漫画の週刊連載やなろう小説の更新などは「このキャラを活躍させる」とか「このキャラは生かす」といった大雑把な事は決まっていても
その回その回の詳細が決まってはいない事も普通であり、こうした場合にもプロットは存在しうる。

うしおととらの単行本版巻末漫画では、作者がプロットの例として「うしおたちがきけんなば所でわるものをたおす」と書いているネタがある。
これは前述の例で言えば「読者にスリルやアクションの爽快性を与えて楽しませる」という大きな概念的目的に対し組んだプロットと言える。

こうした考え方は映画などでも例える事が出来、エンターテインメントとしての要件を満たすための考え方と言える。
ここに盛り込む肉付けの要素をうまく組み換えれば、別の作品を作ることだって可能なのだ。

例:主人公がきけんなば所(乗っ取られた戦艦=海の上の要塞状態で助けが来にくい)でわるもの(テロリスト)をたおす=「沈黙の戦艦」
ちなみに2作目は「高速で移動していて助けの来ない列車」が舞台。
これが「高空を飛んでいるから〜」となると「エアフォース・ワン」になる。うしとらで言うとふすまの回とか。


またこの舞台設定をしていく上で、空を飛べるキャラクターが少ないという世界観などがあると主人公の状況も変わってくる。

実例としてはHELLSINGでは、敵の英国襲撃作戦前にアメリカ議会で吸血鬼が暴れて大混乱を引き起こすなど「即時の援軍」を遮断しているところがある。
これは推理漫画における孤島ものにも類似点があり、特に現代においては警察の組織的・科学的捜査や、
法的根拠のある拘束力、複数の人間を監視下に置ける人員数などはどうしても「それがあれば事件が解決してしまう」ところがある。

それ自体はいいことなのだが、警察が機能する=主人公を活躍させるといったプロット上の前提との衝突が発生してしまう。
このため「すぐには警察の増援が来ない」という前提が必要となり、そのために雪崩先生や台風アニキにお出まし願うことになる。
(前述で言うと「民間人の主人公キャラを、警察の介入なく活躍させるには」を考えていく事で話が出来上がる演繹的な手法に当たるだろう。
「現代で」という前提を崩さない場合は自然災害が強いが、「民間人」のキャラだけを守りたいなら警察の科学捜査力が無い時代を選ぶというのも手である)

事件の重要参考人または少数の犯人候補を合法的に拘束したり、逆に「安全のため」という方便のもと監視を行うのは警察ならば可能である。
が、単なる民間人同士では現行犯逮捕しない限り、ただの名誉棄損を行った人間による違法な軟禁などになってしまう。
よほど強引で後先を考えない人間(か疑われた側が前科持ちなど相当疑われ易い存在)でもなければ「帰ったら訴訟する」という言葉の前に拘束は不可能となる。
だからこそ「こんな場所にいられるか!俺は部屋に帰らせてもらうぞ!」といったセリフと新たな死体が生まれたりするのだ・・・。


TRPGのダブルクロスには<瞬間退場>というエネミーエフェクトがある。
要するにルール上「この敵キャラクターは攻撃に当たらず一瞬で拠点などに帰れる」と定めてあり、必ず生還出来るようになっている。
(ちなみに「レネゲイドと言われるものにより特殊能力を得た超人がいる世界」など、基本的設定はゲーム側が提供している)

このエフェクトは『我々に逆らう者の顔を見に来てやt「あ、スキルマシマシの全力攻撃でそいつ殴ります」ひでぶ!?』といったような悲劇を防ぐためのものである。
物語序盤でラスボスが死んでしまったら、ゲームマスター=シナリオ製作者は話を進めることが困難になってしまうからだ。
城から出て5分でボスキャラが死んでしまったら、最後の決戦に誰を出せばいいんだという話である。

これはプレイヤー側も必ずしもわざとやっている訳ではなく、後で出てくる中ボスだとウザいし数減らしておくか位の考えで殴ったら、
クリティカルヒットにより真の力を開放するなど段階的な強化をされていないラスボスがしんでしまいました。という感じである。

それを防ぐ設定上の能力により、射程外から煽り台詞を言った後で瞬間退場する事で「ボスっぽい空気を出しつつ死なない」みたいな行動が出来るようになっている。
GM「ぼ、ボスキャラが死んだーっ!?プロットダイーン!
となった後のゲームマスターは、誰もがアドリブの効く玄人ではない。初めてGMをやって、プロットが爆発四散し大混乱・・・そのままゲーム自体がグダグダ・・・という事もありうる。
というかそういう現象が実在したが故に、ゲームや会社の方針によって「ボス出オチ対策」が練られた結果である。


ただし項目最後のライブ派、すなわちある程度までの矛盾は気にしない(または考えている暇がなかった)というパターンも存在する。
(著名な作品として北斗の拳はそのように作られた面がある、と作者がインタビューで語っている)
TRPGにおいても(ラスボスが死んだようだな・・・じゃあ中ボス予定の奴を)「ふはは、奴など所詮小物。本当の黒幕は俺だ!」(ってことにしとこう)
みたいな事をやって凌ぐことが出来る人もいる。


◆有名な構造の作り方


・起承転結/序破急

プロットを組む時、箇条書きで流れを書くのもよいが、それでは際限なく続いたりどうでもいい部分が増えることがある。
そこで情報を整理しシェイプアップするために、起承転結や序破急といった区切り、緩急を付けることが重要になってくる。


起承転結とは分かり易く言うと「四コマ漫画」構成である。
起で物語が始まり、承で発展し、転で最高潮を迎え、結で収束する。
涼宮ハルヒの憂鬱」をこれで分解すると、

起:涼宮ハルヒという破天荒な少女が主人公のキョンに絡み始める
承:キョンの前にハルヒの望む宇宙人未来人超能力者が現れ、彼女の特性が語られる
転:ハルヒは自らの能力で新たな世界を作り、そこにキョンも呼び出される
結:キョンは元の世界を望み、ハルヒと二人で帰還する

と、こうなる。
これをさらに「起の転」や「承の結」など細かく分け、16区切りにするとかなりすっきりする。
スペースも取るし面倒なので16分割についての例は省略。


序破急は主に演劇などの分野で使われる言葉で、転を承と結に分割したと思えば分かり易い。
新世紀エヴァンゲリオン」を分解してみると、

序:人智を越えた「使徒」に対抗するため、碇シンジがエヴァンゲリオンの操縦者となる
破:使徒を撃破する内に、その裏で蠢く陰謀や真実が少しずつ明かされる
急:遂に発動した人類補完計画。そこでシンジが選ぶ未来は――

もちろんこちらもさらに細かく9段階に分けることでより明確になる。
が、やっぱり面倒なので省略。

三幕構成は主にハリウッド映画などで使われる言葉で、初めから1/4までが1幕で物語の前提を描写し、
1/4から3/4までが2幕で本題である事件を展開し、3/4から最後までが3幕で解決編となる。
2幕の中でも1/2時点の前後で流れが変わり、ここから解決までの方向性が定まると同時に危険も増すため
実質起承転結と等価と言えるかもしれない。
ハリウッド版「GODZILLA ゴジラ」を例に挙げると、
1幕:過去にブロディ一家を襲った事件と、真相究明に動くジョー、そして真相であるムートーが出現する
2幕前半:父に家族を守るように言われたフォードはサンフランシスコへ向かう作戦に参加するが、彼が時限装置をセットした核弾頭がムートーによって街に運び込まれてしまう
2幕後半:ゴジラがムートーを殺し、フォードは核弾頭を街から引き離す
3幕:フォードは核爆発前に救出され、避難所で家族と再会する

こちらも幕の中をさらに細かく分ける場合もある。
ビート・シート(Blake Snyder) 13フェイズ構造(金子満) ライターズ・ジャーニーの12ステップ(クリストファー・ボグラー) ヒーローズ・ジャーニーの神話類型(ジョゼフ・キャンベル) 昔話の構造31の機能分類(ウラジーミル・プロップ)
第1幕 オープニングイメージ
設定
テーマの明示
触媒
選択
(背景)
日常
事件
決意
1.平凡な日常:キャラクターの日常描写
2.非日常への誘い:日常から非日常へのきっかけの描写
3.非日常の拒絶:非日常に対する葛藤の描写
4.師との出会い:葛藤を克服し非日常へ移行する描写
5.事件の発端:非日常の本格的な到来の描写
冒険への召命
召命の辞退
超自然的なるものの援助
最初の境界の越境
鯨の胎内
1.家族の一人が家を留守にする(不在)
2.主人公にあることを禁じる(禁止)
3.禁が破られる(侵犯)
4.敵が探りをいれる(探りだし)
5.敵が犠牲者について知る(漏洩)
6.敵は犠牲者またはその持ち物を入手するために、相手をだまそうとする(悪計)
7.犠牲者はだまされて、相手に力を貸してしまう(幇助)
8.敵が家族のひとりに、害や損失をもたらす(敵対行為)
9.不幸または不足が知られ、主人公は頼まれるか、命じられて、派遣される(仲介・連結の契機)
10.探索者が反作用に合意もしくはこれに踏み切る(始まった反作用)
11.主人公は家を後にする(出発)
12.主人公は試練をうけ、魔法の手段または助手を授けられる(寄与者の第一の機能)
13.主人公は将来の寄与者の行為に反応(主人公の反応)
14.魔法の手段を主人公は手に入れる(調達)
第2幕 Bストーリー
お楽しみ
中点
迫り来る悪い奴ら
全てを失って
心の暗闇
苦境
助け
成長・工夫
転換
試練
破滅
契機
6.試練、仲間、宿敵との出会い:新しい世界での新しい経験の描写
7.ストーリーの深淵の描写:物語の大テーマの描写
8.最大のチャレンジ:試練の克服の描写
9.勝利:勝利の末、得た結果の描写
試練への道
女神との遭遇
誘惑者としての女性
父親との一体化
神格化
終局の報酬
15.主人公が探しているもののある場所に、運ばれ、つれて行かれる(二つの王国間の広がりのある転置、道案内)
16.主人公とその敵が直接に戦いに入る(戦い)
17.主人公が狙われる(照準)
18.敵が勝つ(敵の勝利)
19.初めの不幸または欠落がとりのぞかれる(不幸または欠落の除去)
第3幕 フィナーレ
ファイナルイメージ
対決
排除
満足
10.帰路:日常の奪還の描写
11.復活:進化と再生の描写
12.帰路:エンディングの描写
帰還の拒絶
呪的逃走
外界からの救出
帰路境界の越境
二つの世界の導師
生きる自由
20.主人公は帰還する(帰還)
21.主人公は迫害や追跡をうける(迫害、追跡)
22.主人公は追跡者から救われる(救い)
23.主人公は、気付かれずに家または他国に到着する(気付かれない到着)
24.偽の主人公が、根拠のないみせかけをする(根拠のないみせかけ)
25.主人公に難題を課す(難題)
26.難題が解かれる(解決)
27.主人公が気付かれる(判別)
28.偽の主人公や敵、加害者が暴露される(暴露)
29.主人公に新たな姿が与えられる(姿の変更)
30.敵が罰される(罰)
31.主人公は結婚し、即位する(結婚もしくは即位のみ)

・ハードル

  • ログライン
作品の簡単な要約を行う。作品を一行で説明した時に面白みが出るようにする。これにより作品全体の目的が定まり、客層や制作予算も予想しやすくなる。
これは謂わば作品の面白いと思わせる部分を最初に決める方法であり、プリビズのように最終的な演出などを考慮するものではない。

ログラインは主人公が皮肉な状況に陥るほど強度を増す。例えば弁護士を主人公にしたのであれば、その人物が嘘をつけなくなるという状況が皮肉であるから、そのように設定するのである。

  • カタルシス
松元美智子や荒木飛呂彦がその著作で主張するように、主人公の感情にはボルテージがあり、これが物語の進行とともに上下することにより読者は続きを読みたいと思うようになる。ずっと明るい話であるよりも、暗い話から明るい話に入った方がカタルシスがあるということである。この辺に関しては本によって言っていることがバラバラであるため、自分の望むジャンルの作家の出した本を参考にした方がいいだろう。

主人公に対するハードルが高ければ高いほど、それを解決した時のカタルシスは大きなものとなる。ストーリーにおいてキャラが重要であるという所以はこのハードルを描くことにあるだろう。蜘蛛が苦手な主人公が蜘蛛のいる場所に赴くというのであれば、主人公をどれだけ魅力的に描き、どれだけ蜘蛛の恐ろしさを描くか、どれだけ主人公の恐怖を描くか、ということが物語にとって重要であることは言うまでもないからである。

・異化

物語の受け手がその先を読みたいと思う推進力となるのは空所の存在である。たとえば「ルパン三世」を例に挙げれば「ルパンは何を/どのように盗むのか」という問いがまず受け手に与えられることになる。受け手はストーリーを追うことでこの謎を解決しようとする。そこで更にお宝が提示されたなら、なぜそれがそこにあるのか, なぜそれほどの価値があるのか…といった謎が次に生起するため、読者は継続して物語を読み進めることができる。この謎の作り方をどうやって見つけるかに関しては自分の心と向き合いながら個々の作品を見ていくしかないだろう。

この謎に関して退屈だと思わせないためには出来るだけ予想のつかない方法での組み合わせを用いる必要がある。「布団が吹っ飛んだ」という駄洒落は、本来なら吹っ飛ぶはずのない重いものが吹っ飛ぶというインパクトがあり、次にその理由が発音の類似に由来するものであることが理解されるプロセスを経て笑いに繋がる。つまりまずそこにありそうにないものを置き*1、その理由を解説することによって受け手に常識の新たな視点を与えるのである。これを異化と呼ぶ。

異化されたものは繰り返し用いられることですぐに受け手にとって新たな常識となってしまう。アシモフの「われはロボット」を例にとると、「ロボットは人を襲うかもしれない」と考える読者に対して物語の最初で「ロボットは人を襲わない。なぜなら人を生かすようにプログラムされているから」と説得すればそれが異化になるだろう。しかし次の瞬間にそれは読者にとっての常識となり異化は継続しない。これに続けざまに「ロボットが壊れた」という更なる情報を与えることで読者はその理由を探すことになり、最後にその意外な理由を与えられることで読者にはまた新たな異化が与えられるのである。

  • 後説(あとせつ)
最初から前提となる知識を全て説明していたのではテンポを損ねてしまう。そこでまず設定そのものの異質性が味わえるよう、説明は最小限にし、主人公の態度や道具の名前などからなんとなく作品世界の状況が推測できるようにする。その後、その設定が本格的に必要になったときに初めて具体的な説明を加えていく。

チェーホフの銃

異化によって生まれた謎は解決のときを待っている。謎を抱えたままの読者はストーリーを謎と関連づけて考えてしまうため謎と無関係な出来事を頭に入れることが難しく、そのような情報が与えられ続ければ読者は読むのに疲れ、退屈してしまう。チェーホフの銃と呼ばれる現象である。したがって複数の謎を展開させるときは二つ目以降の謎を読者にそれと気づかれないようにし(もしくはそれほど重要でない出来事だと思わせて)、後からそれが(重要な)謎であることが明かされるような仕組みが必要である。具体的には、たとえば「人間ではない主人公はどんな存在なのか」「主人公の相方はどんな存在なのか」という二つの謎を用意した場合には、まず主人公が人間ではないという事実を隠し人間であるように振る舞わせておいてから、主人公の相方に対する謎を与えて読者に先を読み進めさせ、相方に対する謎が解決してきた段階で主人公の人間である可能性に疑念を持たせるというやり方である。これを叙述トリックと呼ぶ。

叙述トリックは言語学における語用論によって説明できる。まず語り手と聞き手は多くの文脈を共有している。語り手が何かについて語るとき、聞き手はそのことと関係のある出来事を頭の中に呼び出している。具体的なことを言わないのに婉曲的に語り手の暗に意味するところが分かるのはこの仕組みによる。だが語り手と聞き手の持つ前提が違う場合には齟齬が起きる。語り手の意図していることが分からないような仄めかしのことを「弱い推意」と呼ぶ。
物語の初め、まず謎を提供する弱い推意が行われて読者は物語に引き込まれる。最初の謎が解決した時、隠された第二の謎の存在が明らかになる場合がある。叙述トリックもそのひとつである。
叙述トリックの最初の段階に於いて、聞き手たる読者/視聴者は語り手と自分とが同じ前提を共有していると思い込んでいる。話を進めていくうちに読者は前提が異なることに気が付き、実は話し手が「弱い推意」を行っていたことに気がつくのである。通常、それが弱い推意であることが明らかでない仄めかしは「伏線」、明らかなものは「布石」と呼ばれることが多いだろう。

ジャンルの問題

タイトルやあらすじ等で読者は事前にジャンルを意識している。読者が望んでいるものを提示しなければ顰蹙を買ってしまうだろう。眼鏡ヒロインとの絡みを望んでいたのにヒロインが眼鏡を外すような話を提示されたのでは面白くない。読者に対する裏切りは、このジャンルに無関係な場所で行わなければならない。

前述した弱い推意とハッキリとした発言との間には「強い推意」も存在する。それ自体が仄めかしではあるものの、受け手と充分に前提が共有されており、ある程度語り手の言わんとしていることが特定できる場合である。「布団が吹っ飛んだ」の例であれば「発音が似ている」というのが「強い推意」であると言えるだろう。「こういう見方もあるかもしれないよね」と暗に教えるのである。直接言うのが野暮に感じられるようなものでも推意によって暗に伝えることで受け手が物語の空所を補い、完成させることができるのである。

しかしながら例えば三島由紀夫は『文章読本』の中で感情はダイレクトに書かなければならないと言っているし、また少女漫画家の松本美智子は『少女マンガの作り方』の中で、恋愛漫画は必ず最後に言葉で気持ちを伝えなければならないとしている。前述した叙述トリックの存在により、「もしかしたら嘘かもしれない」という疑いを読者に抱かせてしまうのを防ぐためである。ジャンルによって読者の求めるものに対してはハッキリとした言葉遣いが求められるのだ。

新規性と共感

  • アイデア
異化は読者の知らないことを語るものであるため、必然的にアイデアには新規性が求められる。特に幻想文学系の作品では安易に設定を真似ると剽窃の謗りを受ける可能性があるため注意を要する。

ログラインやキャラのアイデアについて、さとうあきらは『マンガ脚本概論』の中でヤングの『アイデアのつくり方』を援用し、1. 資料を集める 2. 心の中でこれらの資料を組み合わせ、手を加える 3. 問題を放棄し自分の想像力や感情を刺激するものに心を移す…といったステップを提案し、第二のステップにおいては平凡なアイデアを次々と出していくことを勧めている。さとうはこの時の方法としてオズボーンのチェックリストやマンダラートなどを挙げている。

  • 現前性
物語に説得力を持たせるためには読者にとってリアルだと思わせる必要がある。このリアルはどれだけ現実らしいか、ということではなく、どれだけその世界と合っているか、ということに近い。例えば物語世界に魔法が存在するような場合でも、事前にそのように伝えられていれば読者にとってそれが真となる。

ご都合主義な展開とは往々にしてこの事前の説明がされていないか、読者に理解されていないことによって生じている。特別な説明がない限り物語の中のハードルは主人公の手で解決されなければならないのだ。

また推理小説などにおいて、事件やそのトリックは可能性のある出来事から順に起こるものとして推理される必要がある。例えば密室殺人において犯人が超能力を使えるような場合は可能性がかなり低いと考えられるので、それよりも高い可能性のあるトリックをその場の状況から導き出すのが優先されるだろう。超能力が考慮されるのは密室に秘密の抜け穴があったという可能性を潰してからだし、抜け穴があった可能性が考慮されるのは他のあらゆる可能性を潰してからなのである。探偵や読者は今までにあったヒントだけからまず推理を行うし、作者も読者にとってヒントとなる出来事を意識はされないまでも十分に覚えさせておく必要があるだろう。これをフェアであるという。

    • リアリティライン
主人公のいる場所がどこにあるのかを明確にするのと同様、序盤にはどれほど現実らしい世界にいるのかも明確にしなければならない。これをリアリティラインと呼ぶ。

リアリティラインに沿わない説明はリアリティのない説明だと思われてしまい、受け手は現実に引き戻されてしまう。リアリティラインを現実寄りにしたのであればそれ相応の取材や考証が必要となるだろう。曖昧なことを描くにしても一定の方向づけは必要である。*2

・緩急

緊張した場面がずっと継続すると読者は疲れてしまう。バトル系の話でもアニメに日常回があり、ラノベの最初や最後に日常に戻るのはそのためである。

石ノ森章太郎はシリアスなシーンにギャグを挟むことで劇的な効果を上げることができると主張している。『ゴールデンカムイ』でしばしばギャグの後に凄惨なシーンが来るようにしてあるのは有名である。

・サスペンス

主人公に危機や異変が起こっていることを読者/視聴者にだけ見せておき、主人公には隠しておく手法。

・話法

報道番組等にも言えることだが、特に小説において物語は誰が話しているかも重要な要素である。語り手が嘘を言っている場合もあるし、意図的に事実を隠している(叙述トリックを行なっている)場合もある。三人称の小説においても、ある時には誰かの気持ちを代弁し、またある時には誰かの意図しない心の中までも客観的に説明する場合もある。

物語は全てが虚構ではあるもののその虚構においてさえ「虚構的に真」なるものが存在している。語り手の欺瞞を見抜き、物語の核心に迫るには再現性の高い表現を見つけなければならない。それは小説においては鉤括弧「」で括られたセリフだし、報道においては「直接話法」と呼ばれる生の言葉である。

・媒体ごとの違い

商業漫画/小説の場合

漫画では作品作りの前にイメージラフを描く場合がある。やりたいことや雰囲気を先に決め、プロットをそこへ向かうように作る。
また小説ではこれに似た方法としてプロット作成の前に人物同士をやり取りさせて雰囲気を掴んだりする方法がある。

商業作品ではページ数が決められているため描きたい話が大体何ページで終わるのか掴んでおく必要がある。例えばSFならば必然的に要求されるページ数が多くなるし、絵本のようなファンタジーでは複雑な設定が必要とならないかもしれない。

報道やCMの場合

受け手に何かを伝えることが優先される映像作品では神話系, ナラティブ, レシの三種類を理解する必要がある。

例えばこれが洗剤のCMであるならばまず頑固な汚れという問題があることを視聴者に伝え、それを打破するために新しい洗剤を買うべきだというメッセージを伝える必要がある。このように映像を通して視聴者に伝えられるメッセージは神話系*3と呼ばれる。

神話系を効率的に伝えるには視聴者に映像を分かりやすくインパクトのある方法で伝えなければならない。このため実例としてストーリーが用いられる。

ナラティブは、物語世界での時系列順の出来事(=イストワール)と、それを語る段階で起承転結などの形に構成し直したもの(=ディスクール)に分けられる。推理小説で例えるなら、最初に被害者の死体という結果が先に示されてからそこまでに至る経緯が後から説明されることがあるが、これは時系列順に物語が進んでいるとは言えない。犯人が被害者を殺害し、探偵が解決するまでを記すのがイストワールであり、それを視聴者にわかりやすく構成しなおしたものがディスクールである。プロットと呼ばれるものはイストワールを指している場合が多い。

レシは、それを表現する演出や演技の方法。映像表現ではモンタージュ, 文章では比喩や話法がこれにあたる。

作る順としてはイストワール→ディスクール→レシの順に考えると考えやすい。特に、ドキュメンタリーなどではノートの右側にディスクールを、左側にレシを書いていく方法が提唱されている。

  • 三つの話法
遠藤大輔は『ドキュメンタリーの語り方: ボトムアップの映像論』において、映像には「直接話法」「間接話法」「言説話法」の三種類が存在するとしている。直接話法はその名の通り、出来事を直接撮影した一次情報である。間接話法はその状況を目にした人の言葉であり、言説話法は、それらを元に作成した再現VTRのようなものである。言うまでもなく直接話法はほぼ疑いのない事実であるが、映像を作る者は自身の提示したい神話系に応じて映像を切り抜くため注意が必要である。

・プロットを組むメリット/デメリット

なぜここまで手間をかけてプロットを組み立てるのか?

一つは、こうすることで物語を矛盾なく進めることができるということ。
気分でつらつらと書いた文章は時に前後で致命的な矛盾を抱えることがあるが、そういうミスを少しでも減らすため。

もう一つは、あらかじめ予定を組むことで時間的にも内容的にも無駄なく創作するため。


逆に問題点としては、キャラクターが突然予定外の行動を取り始める、所謂「一人歩き」の妨げになること。
その回限りのゲストキャラに予想外の人気が集まって活躍させざるを得なくなった、などといった例もよくあることである。
もしそういう場面に向き合ったら、無理やり元の道を歩ませるのではなくキャラクターの歩く先にゴールが来るようプロットを修正するほうが、
キャラクターの魅力や作品の味が出たりとプラスになることが多い。
逆にキャラクターの演出に力を入れ過ぎると『DRAGON BALL』の鳥山明先生みたいに毎週「次回はどうなるんだ?!」という思いと戦いつつ、行き当たりばったりの矛盾だらけの展開を開き直って出さなければならなくなるが

例を挙げると『あしたのジョー』のライバル、力石徹は元々プロボクシングには参加しない予定だった為、主人公のジョーよりかなり大柄に描かれていた。
しかし読者からの人気が予想以上だったため、彼がプロボクサーとなってジョーと戦う展開に変更することになったのだが、前述の通り大柄に描かれていたことで
プロボクシングでは避けては通れない「体重差があり過ぎるのでジョーと同じ階級で戦えない」という問題が発生してしまう。
この問題を解決する為に力石を13㎏近く減量させてウェルター級からバンタム級に変えるという常識的に考えてあり得ない方法を取らざるを得なかった。
(ジョーを太らせる手もあったが、太ったジョーと痩せた力石が戦っても絵にならないと判断された)
結果、無理にも程がある減量が原因でガリガリとなった力石はジョーとの試合後に死亡することになる。
(試合中に頭を打ったことが直接的な死因ではあるが、減量によって弱っていたことも要因なのは明らかであり、プロのトレーナーは力石のような減量をしたら間違いなく死ぬと断言している)
プロットの甘さが原因で力石は死ぬ形になったが、そのヒロイックな死も彼が人気となる要素となっている。
(ちなみに編集部やテレビ局の人間は「力石を殺さない方がいい」と進言したらしいが、ちばてつや先生は彼の死を押し通したとのこと。飲み屋で力石の件で言い争いになった際に「(力石は)絶対に殺す!」と大きな声を挙げたことで通報されたというエピソードが残っている。)


プロでもプロットを組まない人(ライブ派)もいるので、組むのなら「予定はあくまで予定である」ことを頭にいれて使うのが正しいプロットの組み方といえるだろう。
創作の技巧は人によって十人十色なので、これが絶対的に正しいという回答はないのだから。




起:項目が建てられた
承:たくさんの人が読んだ
転:誤字や不適切な表現が見つかった
結:追記・修正で事なきをえた

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