山口暁

登録日:2011/04/14 Thu 22:06:14
更新日:2025/04/06 Sun 02:01:13
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山口(やまぐち)(あきら)(後に山口あきら→ 山口豪久(たけひさ)に改名)は東京都池上生まれの俳優(1945年1月25日〜1986年4月6日)。本名は山口智之(ともゆき)
1963年、蒲田の東京実業高騰学校を卒業後、新東宝のオーディションに合格した事がきっかけで、翌1964年『忍者部隊月光』の名月でデビュー。モノクロではあるが、のべ130話にも渡るロングラン作品のレギュラーを好演。
この作品の助監督である土屋啓之に気に入られ、土屋が監督し、後に夫人となる山口千枝と共演する『マグマ大使』へのゲスト出演や『怪獣王子』出演、『月光』と局側プロデューサーが同じ『戦え!マイティジャック』等に出演。
また当時は自ら演技の未熟さを感じ藤岡弘、佐々木剛、鷲尾真知子といった面子も通った劇団『NLT』の俳優教室で修行もしており、山口もまたライダーへの道を進む事となる。

その作品こそが、『仮面ライダーV3』である。

依然として変わらず、王者として高視聴率をキープしていたV3だったが、いわゆる夏枯れを切っ掛けに緩やかに下降を始めていた。
ここでライダーシリーズの生みの親、平山Pを筆頭に東映が推したのが、前作の偶然の産物にして番組を大ヒットに導いた、"もう一人の仮面ライダー"の登場であった。

これに対し毎日放送サイドは、現役のヒーローを増やすことにより1人1人の価値が半減するリスクを恐れ、ギリギリまで反対していた(近代のシリーズの流れを思うとなんとも因果な話である)

そこで登場したのが、ライダーマン。
そして理想に燃える若き科学者、結城丈二である。


「僕は当時、NLTという劇団にいました。そこの1期生が藤岡さんや佐々木さんで、元から『ライダー』には縁があったんですね」

その情熱には並々ならぬものがあり、当初はV3役を強く希望し、プロデューサーの平山亨宅まで押し掛けて頼んだという逸話で知られている。

元々の山口氏の自宅が藤沢、平山Pの自宅が辻堂にあり、地理的に物凄く近く、ライダー以前から、かねてより親交があったとされている。

既に充分な実績があった俳優の志願。
平山Pとして望外の喜びであったが、主演が既に宮内洋に決まっていた事から渋々その申し出を断らざるを得なかった。

しかしその時の印象が強く残り、上述の流れでライダーマン投入が決まった際に平山Pが強く推薦し、見事に役を射止めた。

バットマンのように顔の下半分が露出したハーフマスクであるライダーマンは、基本的に山口氏本人が中に入り、体当たりで演技をこなした。
なんとなくカッコよくみえる風邪マスクの反対に、顔の下半分というのは当人の顔の造作がモロに出てしまい、誤魔化しが効かない。
それを見事に演じた端正な顔立ちとともに、危険なアクションなどにも挑んだが、生傷が絶えなかった。

「現場に行って驚いた事は、それまでの子供ものと違う、すごいアクションばかりだった事ですね」

たまに無免で受かる人がいるライダーの必須要素であるバイクも大型の免許を持ち、操縦自体は難なくこなしたが、撮影の最中に横転し、左足にスタンドが突き刺さったという危険なエピソードも。
ライダーの左足には魔物が棲む。

時には殺陣のタイミングを誤り眼の負傷もあったが、それが理由で仕事に穴をあける事は決してなく、役者業に対して真摯なプロフェッショナルであった事でも知られる。
まさに結城丈二がそうであったように、真面目で責任感が強い人物だったのいうのが、関係者の印象である。

共演者・宮内との間に一切のわだかまりはなく、役作りの上では「V3とライダーマンは反目し合うライダーだから普段は視線を外す」というこだわりを撮影外でも持っていた他、ヒーロー番組の矜持について熱く語り合ったとされている。

『ライダーマンはこうあるべきだ』という定義は別段作られなくて、完全なサイボーグになりきれない、一歩引いたヒーローを演ずることをいつも心がけていました。V3より前面に出てはいけませんからね」


「宮内氏にはずいぶんお世話になりまして、『正しい心を子供たちに伝えるような演技をしたいなぁ』と話したものです。僕もライダーマンの生い立ちを通して、そういったものを訴えたつもりでした」

2人の男たちのビビッドな感情がぶつかり合うライダーマン編は脚本段階では難解な台詞回しが入り乱れていたが、視聴層である子供達の事を慮り、現場での両氏の判断で平易な言葉遣いに直すという一幕もあり、ヒーローは教育番組であると憚らない宮内洋に勝るとも劣らない情熱を秘めていた。

これら氏の努力は身を結び、V3が最終回を迎える頃の視聴率は関西が27,5%。関東では20,6%と大きく持ち直す。

登場時点では最終的にどのような運命を辿るか決まっておらず、V3と交代して次シリーズの主人公となる案も存在していた。
残念ながら実現はせず、熱心に番組への意気込みを談判してくれた山口氏の姿を知る平山Pにとって、ライダーマン主役シリーズは悔恨として残り続けた。

が、この努力は実を結び、V3終了直後には74年には縁の深かったピープロの作品で初の主演作『電人ザボーガー』で大門豊を演ずる。

基本的にロボットであるザボーガーを売りとする作品ではあるが、影のあり思い悩む結城丈二とは真逆の直上熱血漢を体当たりで熱演。
まるでライダーで果たせなかった分を取り戻すかのような激しいアクションとたまにブルースリーが混ざったような高いテンションの主役を務め上げた。
石油ショックなどで駄目な番組は容赦無く打ち切られていた74年当時、間に再放送を挟みながら1年以上続く人気作となり、冗談めかしてライダーマンの主役番組とファンから語られたりする。

77年には初の悪役レギュラーとなる『大鉄人17』に出演。
善悪の狭間で思い悩む結城丈二、正義に一直線の炎の妖精な大門豊とも違う冷酷な悪の青年将校・チーフキッド役は氏の役者としての芸風を世に知らしめた。
残念ながらコミカル路線への転換により浮いてしまったチーフキッドは中途退場してしまうが、熱心なファンには氏の代表作の一つとして知られている。

俳優業の傍ら飲食店の幹部としての顔も持ち、周囲からは「ライダーマンのおじさん」と呼ばれ親しまれていた。
晩年は俳優としての武器である髪も飲食業のために短く切り落とし、食堂に顔を出していたという。
ちなみに、歴代ライダー俳優では一番生年月日が上でもあった。

し か し

1986年、肝臓ガンのため急逝。41歳の若さでこの世を去った。
その2年前にライダーマン役で出演した特番『10号誕生!仮面ライダー全員集合!!』の時には既にガンに侵されており、体調不良の中での出演だったという。
結果的にこれが山口の遺作となった。

メディア全般を含めたライダー関連の遺作(遺著)は、1986年4月2日に講談社から出版された「仮面ライダー大全集」(インタビューは1985年11月12日のもの)
無くなる4日前の発売で、婦人が病院に差し入れた時は嬉しそうに病院のベットで読んでいたという。これと前後して肺炎を併発しており、これが決定打となってしまった。


入院時には家族に「お腹が痛いので注射を射ってくる」とだけ告げていたため、当初子供たちは「お父さん大丈夫なんでしょ?」と心配していなかったが、4日後に容態が急変したため急遽見舞いに訪れたという。
また、彼の死は食堂の常連客の投稿によって雑誌『宇宙船』で周知された。

とにかく仕事には几帳面かつ生真面目であり、趣味でもあったカメラで「忍者部隊月光」の頃からマメに現場の写真を撮っては、いつ、どこで、誰とを写真毎に非常に細かくメモし、アルバムにしていた。

そしてそのアルバムの中には、奥方や娘たちの写真も、まるで成長記録のように並んでいたとされている。

幼くして母を亡くした境遇から、家庭では大変な子煩悩であった事で知られている。
家に仕事の話を持ち込むタイプではなく、子供たちに撮影で負った怪我について聞かれても笑って誤魔化し、どんなに多忙でも家族揃っての食事をしようと心がけていた。
更には子供たちが小さい頃には地元の子供会で(本職のプロという立場ながら)演劇指導を買って出たというエピソードもあり、その家族愛と子供への慈しみには並々ならぬものを感じさせる。

劇中でカマクビガメの罠とは知らず逃げ遅れた赤ん坊を優しくあやす結城丈二のシーンも、あるいは山口氏の生来持つ優しさが見えてくるのではないだろうか。

「子煩悩な人でした。ヒーローものの仕事を好んでやったのも、大の子供好きだったからでしょうね。」
「自分が幼くして母を亡くしているものだから、よけい子供たちには、家庭の暖かさを教えてやりたかったんだと思います」
婦人:山口千枝 談


空に消えたライダーマンのように、鮮烈で儚い生涯。
しかしその姿は共に仕事をした仲間たちに、あるいは愛情を持って育まれた家族の胸に確かに生きている。

そしてその夭折後に生まれ、テレビ画面での活躍を目の当たりにした年若いファンたちをも、遠い国から見守っていると信じたい。

例え星となっても、人々が忘れない限り、そこに君は生きている。


〇主な出演作


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