救国軍事会議のクーデター(銀河英雄伝説)

登録日:2010/06/14 Mon 18:27:21
更新日:2024/12/14 Sat 12:40:50
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救国軍事会議のクーデターとは、「銀河英雄伝説」で起きた、自由惑星同盟領における軍事クーデター。
同時期に銀河帝国内で起こった内乱、リップシュタット戦役についてはこちら





【背景】

宇宙歴797年、アムリッツァ星域会戦で大敗した自由惑星同盟では、最高評議会がロイヤル・サンフォード議長以下総辞職して入れ替わることとなった。
だが侵攻作戦に反対したヨブ・トリューニヒト、ジョアン・レベロ、ホアン・ルイの3名だけは評議会に残留し、トリューニヒトが評議会議長に就任する。

これによってトリューニヒトの権力はさらに増大したが、制服組の2トップである統合作戦本部長と宇宙艦隊司令長官には、クブルスリーとアレクサンドル・ビュコックの両大将が任じられた。
彼らがいずれもトリューニヒト派の人物ではないことからもわかるように、トリューニヒトの軍部に対する支配力は(この時点ではまだ)確立されていなかったと言えるだろう。

一方銀河帝国では、幼帝エルウィン・ヨーゼフ2世を擁立したリヒテンラーデ候が、宇宙艦隊司令長官である若き帝国元帥ローエングラム候ラインハルトと組み、実権を掌握。
これに対して政権中枢から追われた帝国門閥貴族は団結してこれを除こうとする動きを見せており、両者の激突、つまり銀河帝国における内戦の勃発は必至となっていた。

来たる内戦で門閥貴族を一掃することをもくろむラインハルトだが、しかし帝国を2分した内戦になれば、本来の敵である同盟にとっては帝国を弱体化させる絶好のチャンスと映るだろう。
流石のラインハルトにも門閥貴族と同盟を同時に相手にするほど戦力の余裕はなかったため、ラインハルトは「同盟内部に工作員を送って、内乱を誘発させる」という大胆な謀略によってこれを解決しようとした。
ラインハルトはかつてエル・ファシルにおいて名声を地に落とした同盟軍少将アーサー・リンチを選び、彼に巧妙な作戦計画を授ける。
さらにキルヒアイスを使者としてイゼルローン要塞へ送り、同盟との捕虜交換式を行うことで自然な形でリンチを送り返すことに成功。
ラインハルトの蜂起計画を携えて同盟に戻ったリンチは、トリューニヒトや彼に代表される腐敗した政界を嫌う軍人たちに秘密裏に接触し、彼らに取り入って蜂起を促した。

そしてそれから約一か月半後、アンドリュー・フォーク予備役准将によるクブルスリー大将の暗殺未遂事件を皮切りに、ネプティス、カッファー、パルメレンド、シャンプールの4惑星で次々と軍による叛乱が勃発。
クブルスリーに代わって本部長代理となったドーソン大将は、イゼルローン要塞司令官のヤン・ウェンリー大将にこれらの反乱を全て制圧するように命令する。

だがシャンプールの叛乱からわずか3日後、首都星のハイネセンで武装蜂起が発生。救国軍事会議を名乗るグループによってハイネセンは占拠されてしまう。
救国軍事会議から声明が出され、その軍国主義的・全体主義的な内容に驚き戸惑うヤン艦隊のメンバー。続けて発表された代表者の名前は、彼らをさらに驚かせる。
「救国軍事会議議長」と名乗ったその人物は、軍では珍しく良識のある高級将校として知られ、ヤンの副官フレデリカの父でもある国防委員会査閲部長ドワイト・グリーンヒル大将だったのである。



【登場人物-ヤン艦隊】

大将。旧第13艦隊に、先の侵攻作戦の生き残りをまとめたイゼルローン駐留艦隊司令官兼イゼルローン要塞司令官。旗艦はヒューベリオン。
ラインハルトが同盟内にクーデターを仕掛けてくることを予期しておりビュコックにも伝えていたのだが、未然に防ぐことは叶わなかった。
一応、法的根拠となる「クーデターが起きたら鎮圧せよ」というビュコック提督からの命令書は得ており、行動を障害無く起こせた。

  • ダスティ・アッテンボロー
少将。ヤン艦隊の分艦隊司令官。旗艦はトリグラフ。
「伊達と酔狂」がモットーの、ヤンの後輩。原作ではここで名前だけだが初登場した。

  • エドウィン・フィッシャー
少将。ヤン艦隊副司令官。旗艦はアガートラム。
艦隊運用にかけて右に出る者はいない、ヤン艦隊の生きた航路図。

  • グエン・バン・ヒュー
少将。ヤン艦隊の分艦隊司令官。旗艦はマウリア。
一撃離脱戦法に特化した、分艦隊一の猛将。

  • フレデリカ・グリーンヒル
大尉。ヤンの副官。
父がテロの首謀者となった事に心を痛める。

准将。帝国からの亡命者の子弟を中心とする白兵戦部隊「薔薇の(ローゼン)騎士団(リッター)」を率いた白兵戦の達人で現要塞防御指揮官。
帝国領侵攻作戦では出番のないまま戦況が劣勢に傾く様をボヤいていたが今回は内乱の鎮圧で大活躍。


【登場人物-統合作戦本部】

  • アレクサンドル・ビュコック
大将。宇宙艦隊司令長官。ヤンから同盟内にクーデターが起きる可能性を聞かされており、突拍子もない内容に驚きを見せつつも決して否定せず対処を約束していた。
だが未然に防ぐことは叶わず、統合作戦本部にいたところをクーデター派の襲撃を受けて拘束されてしまう。
叛乱が佐官どころか大将中将まで参加する大規模なものであり、自分やヤンですら信頼している人物が敵に回るとはさすがに想定できないだろう。
救国軍事会議の面々と顔を合わせた場面は名皮肉の嵐。
「忘れたいところだが、そうもいかんて。民間人を保護する義務も、部下に対する責任も投げ捨てて、自分ひとりの安全をはかった有名人だからな。」
「(軍部の中でも理性と良識に富む人物と思っていたグリーンヒル大将が)このような軽率な行動に参加なさるとは、理性も良識も居眠りしているとしか思えん。」
救国軍事会議士官「ビュコック提督、我々は可能な限り紳士的に行動したいと考えています。しかし、あまりお口がすぎるようだと、こちらとしても考えざるをえませんぞ。」
「紳士的だと?人類が地上を這いまわっていたころから今日にいたるまで、暴力でルールを破るような者を紳士とは呼ばんのだよ。
 そう呼んでほしければせっかく手に入れた権力だ。失わないうちに新しい辞書でも作らせることだな。」

  • ドーソン
大将。クブルスリー大将に代わり、統合作戦本部長代理に就く。
トリューニヒト派の軍人。人望は芳しくなく、「大将に就任したのさえおかしい程度の男」、「こりゃわしが(本部長を同時に兼ねるのを)やったほうがよかったかな」byビュコック、と評されている。

  • クブルスリー
大将。統合作戦本部長で帝国領侵攻作戦前は第1艦隊司令官。アンドリュー・フォークに襲撃され重傷を負う。
ヤンを高く評価し幕僚総監として統合作戦本部に招こうとしたり、フォークに早急な現役復帰措置を求められた際も諭すようにしっかりと断る良識的な人物なのだが、
不幸にもこの良識さが彼の軍人としてのキャリアを縮めてしまうことになった。



【登場人物-救国軍事会議】

  • ドワイト・グリーンヒル
同盟軍大将にして国防委員会査閲部長。そしてヤンの副官のフレデリカ・グリーンヒル大尉の父。救国軍事会議の代表である議長を務める。
アムリッツァの敗戦後責任を問われて宇宙艦隊総参謀長及び統合作戦本部次長を解任され、現職に左遷させられていた。軍部では良識派の人物として知られていたが、トリューニヒトなどの利権政治家によって腐敗していく同盟政府を憂うあまり、ついに軍の一部を率いてクーデターを起こす。
統合作戦本部で相対したビュコックにあくまでも国を憂いての行動であることを説いたが、民主主義を愛するビュコックは武力に訴え出たグリーンヒルを痛烈に批判した。
ちなみにOVA版では妻の墓前において、クーデター軍のトップとなった理由(性急な若手メンバーに担がれ、彼らの暴走を抑制するため敢えて引き受けたこと)を独白するなどやや人物描写が掘り下げられた。

  • ブロンズ
同盟軍中将にして情報部長。救国軍事会議のメンバー。
クーデターに関する情報は事前に彼が握りつぶしていた模様。
OVA版ではリアクションに定評のある小者。
クーデター鎮圧後は逮捕拘禁された。その後の処遇は不明。
ちなみに道原氏のコミック版でも自決せず逮捕されるのには変わりはないが、その理由は「責任を取る高官がいなくては若い者が迷惑を被るから」というものだった。

  • エベンス
同盟軍大佐。救国軍事会議のメンバー。
グリーンヒルの片腕で、クーデターの声明文を読み上げた。
他にはクーデター派占拠下のハイネセンにおける経済活動関係の責任者でもあったようで、フェザーン商人と口論になる場面も。
はっきり言って階級がさらに上であるはずのブロンズ中将より大物っぽい。

同盟軍予備役准将。救国軍事会議のメンバー…なのかは微妙。
出世欲を満たすために持ち込んだ帝国領侵攻作戦中にビュコックに詰め寄られて失神し、敗戦以降は予備役に回された上で療養していた。
統合作戦本部長に就任したクブルスリーに接触して早急な現役復帰を願い出るも断られ、さらに説得の言葉を受けたことで逆上して襲撃。重傷を負わせる。
その場で逮捕されて精神病院送りになるが、焚きつけたクーデター派にとっては殺害失敗も想定内の捨て駒でしかなかった。
後年さらなる災厄をもたらすことに…。

  • クリスチアン
同盟軍大佐。救国軍事会議のメンバー。
ただのマジキチバカ。武器を持たない市民の鎮圧に本気出しちゃう人。

OVA版では彼のバッジから陸戦関連の部隊の人間である事がわかる。
DNTでは「アスターテの慰霊祭で起立しないヤンを叱責*1」「ヤン邸襲撃に参加した憂国騎士団メンバー」と別ベクトルのマジキチっぷりとヤンとの妙な因縁が追加された。
どちらかというとトリューニヒトに近い憂国騎士団の所属で反政界クーデターに参加したのは奇妙と言えば奇妙だが、セカンドシーズン時点で動機は不明。

ただどの作品でも「こいつ単に暴れたいからクーデターに参加したのと違うか?」という疑惑が拭えない。

  • ベイ
同盟軍大佐。救国軍事会議のメンバー。
実はトリューニヒトの回し者だった。

  • ルグランジュ
中将。第11艦隊司令官。旗艦はレオニダスⅡ。救国軍事会議のメンバー。
勇猛果敢な提督として、その名を知られていた。

  • ストークス
同盟軍少将。第11艦隊分艦隊司令官。OVA版オリジナルキャラクター

  • バグダッシュ
同盟軍中佐。ルグランジュかブロンズの部下の諜報部員。
ハイネセンからの脱出者を装い、ヤン艦隊に潜入する。
…が、シェーンコップに見破られ、ドーリア星域の戦いが終わるまで眠らされる。(OVA版ではタンクベッドの冷凍睡眠モード、原作及びコミック版は特殊な睡眠薬)
その後はヤン艦隊に転向する。

  • アーサー・リンチ
同盟軍元少将。エル・ファシルの奇跡の際に帝国軍に捕まった指揮官その人。
敵からも味方からも軽蔑され、晴らしようもない汚名を背負って、酒に溺れる日々を送っていたところをラインハルトによって帝国から送り込まれた工作員。
個人的な知己だったらしいグリーンヒルらを焚き付け、ラインハルトの思惑通りクーデターを引き起こす。

  • その他
OVA版には3名名無しの幹部(銀髪の初老の男、色黒の中年男、髭を生やした黒髪の男)が出ている。
ちなみに彼らは全員クーデター鎮圧後にブロンズ中将と共に逮捕され、連行された。


【登場人物-民衆】

  • ジェシカ・エドワーズ
野党議員。ヤンの親友。
アスターテ星域会戦で戦死したジャン・ロベール・ラップの元婚約者。







【影響】

クーデターは失敗し首謀者であるドワイト・グリーンヒル大将は死亡。
ヤンによる鎮圧が成功したタイミングで、潜伏していたヨブ・トリューニヒトが颯爽と登場。
ベイというスパイの存在を明かし、ヤンの手柄をさも自分の物のように喧伝。
実際には、ベイから得た情報を元に自分だけ逃げ隠れして、鎮圧のためには何もしてないにもかかわらず、である。

ヨブ・トリューニヒトはクーデターに際して何もしなかった。地球教の信者にかくまわれ、地下に潜伏していただけだ。
クーデター派と戦ったのはヤン艦隊であり、市民を代表して言論と集会で戦ったのはジェシカ・エドワーズだ。
トリューニヒトは事態の解決に1グラムの貢献すらしていない。
それなのに、いま生きて群衆の歓呼をあびているのはトリューニヒトで、ジェシカは虐殺されて墓場にいる。

さらには、クーデターに加担した者たちの後任として軍に自分のシンパを送り込み、より強固な政権体制を固めることに成功。
クーデターを防げなかったどころか、責任放棄して逃げ出しておきながら、最後にはおいしいところだけを全て持っていく手腕に、ヤンをして冷や汗を流させ、キャゼルヌも「妖怪じみている」と評した。

腐敗した民主政治への失望から起こったクーデターが、最悪の民主政治家トリューニヒトをさらに台頭させる結果となってしまった。

またヤンがアルテミスの首飾りを全滅させたのは救国軍事会議の抵抗の意思を折るべく短期決着を狙ったためであるが、これが同盟の政治家からあらぬ疑いを持たれることになる。
一方で、首飾りの全滅には機械仕掛けの軍事力を嫌っていたヤンの私心が含まれているのもまた事実であり、貴重な防衛機構を失ったハイネセンは後に帝国軍による速やかな首都侵攻を許してしまうことになる。






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最終更新:2024年12月14日 12:40

*1 原作では無名の将官