大怪獣決闘 ガメラ対バルゴン

登録日:2011/07/10 Sun 16:49:38
更新日:2025/09/17 Wed 09:29:27
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一瞬に大阪市街を焼きつくすガメラか!
ひと吹きで大阪城を凍らすバルゴンか!
琵琶湖水中の大激突!


大怪獣決闘

ガメラバルゴン


『大怪獣決闘 ガメラ対バルゴン』は1966年4月17日に公開された大映の特撮映画である。
ガメラシリーズ第二作。
併映は『大魔神』。



【あらすじ】

飛行機パイロットの平田圭介は、独立の夢を叶えるため、兄の一郎が立てた特大オパールの密輸計画に一郎の知り合いの川尻、小野寺と共に参加した。

圭介、川尻、小野寺は一郎がオパールを隠したニューギニアへヘリコプターで向かい、ジャングルの奥の洞窟でそれを発見する。
しかし、川尻はサソリで死に、小野寺は独占を目論んで爆弾で圭介を洞窟に閉じ込め一人で帰国した。

神戸に帰港直前の船で小野寺が麻雀に興じる中、偶然オパールに水虫治療用の赤外線が照射される。
すると、そのオパールの中から怪獣バルゴンが誕生した…


【概要】

本作は『大怪獣ガメラ』のヒットにより製作が決定された作品で、ゴールデンウィーク用映画として通常の作品の倍のA級予算が投じられた。昭和ガメラシリーズ初のカラー作品である。
また、本作は大映東京が、併映の『大魔神』は大映京都が製作したことで、日本で唯一新作長編怪獣映画の二本立てを行った作品となった。

A級予算の作品ということで、本編監督には大映ベテランの田中重雄氏が起用され、特撮監督には移籍した築地米三郎氏に代わって湯浅憲明氏が担当した。

本作は高めの年齢層を意識してか、昭和ガメラで唯一子供が登場せず、全体のドラマを欲を剥き出しにした登場人物がいる、全体に夜のシーンが多い等、アダルトな雰囲気でまとめられている。
そのため東宝怪獣映画とはカラーが違う大映独自の怪獣映画に仕上がっている。

一方でアダルト路線を突き詰めすぎたか、「キチガイ」「放射線を浴びた奇形児」「土人」など現在では放送しにくいセリフもある。
そのため地上波放送される際にはそれらのシーンが不自然に無音になったり、場合によっては他の作品が放映されるのに対して本作だけ見送られたりすることもある。

本作は怪獣ブームも追い風となり、ヒットしたものの予算をかけすぎた関係で最終的には赤字となったらしい。
また、怪獣映画二本立ての割にドラマが長いせいか、子供が飽きてしまっていたため、湯浅監督を中心に対策が練られており、その成果は次作『ガメラ対ギャオス』で生かされる。


【登場人物】

◆平田圭介

飛行機パイロットで、独立を目指すために兄の計画に乗りニューギニアに向かう。小野寺に洞窟に閉じ込められたが、島の人に助け出されバルゴンの事を知り、カレンと共に日本へ戻る。
ちなみに演者の本郷功次郎は『特捜最前線』の橘刑事役の人である。
しかし特撮映画の主演というのは「絶対にやりたくない仕事だった」が、逃げ切れなかったという。

◆カレン

本作のヒロインでニューギニアの島民。松下医師の助手をしているため日本語は堪能。平田にバルゴンの事を教え、対策のために日本に向かう。
演者は江波杏子。

◆小野寺

一郎の友人。圭介達と共にニューギニアに行き、巨大オパールを独占しようとした欲深い男。
その為には殺人も厭わず、作中では五人(川尻、圭介、一朗夫妻、自衛隊員)を手にかけ、圭介を除く四人を殺害している。
オパールの正体がバルゴンの卵だと明らかになっても、信じないどころか最後まで改心することはなかった。最期はバルゴン対策に使われた巨大ダイヤを自衛隊から奪って作戦を妨害し、ダイヤごとバルゴンに食われるという自業自得な結末をたどった。
おそらく昭和ガメラシリーズ史上最悪の人間。それもその行動原理が物欲のみで、「人類の粛清のため」などという壮大さはまったく持ち合わせない点で「人間らしい邪悪さ」を発揮している。
演者は大映特撮作品で出演経験のある藤山浩二氏。

◆川尻

一郎の友人。貨物船「あわじ丸」の船員で、オパール密輸のために圭介と小野寺の船員手帳を偽造した。妻子持ち。
オパールを発見して喜んでいる間に、足元にサソリがいる事に気付かず、しかも小野寺がそれをわざと黙っていたために、そのまま刺されて死亡。
演者は早川雄三。

◆平田一郎

圭介の兄で、二十年以上前の太平洋戦争中、ニューギニアの洞窟で巨大なオパールを発見した。
戦時中の負傷から歩行障碍を負ったため、代わりに圭介と小野寺・川尻をニューギニアへ派遣した。
最期は小野寺に妻・さだ江とともに殺害された。
小野寺ほどのインパクトはないが、彼がこの事件を起こした元凶である。
演者は夏木章。

◆天野教授

自衛隊のバルゴン対策に協力した科学者。誘導装置を作ったり圭介の案の裏付けを取る等活躍した。
が、本来の研究は殺人レーザーの開発と結構物騒である。
演者は北原義郎。

◆松下

ニューギニアで十数年活動してきた日本人医師。洞窟へ行こうとする圭介達を止めようとし、その後瀕死の重傷を負った圭介の治療を行なった。
演者は菅井一郎。

◆自衛隊

バルゴンに対して戦車などの通常兵器で太刀打ち出来なかったが、圭介達の案を受け入れ、バルゴンの性質を利用した誘導作戦や、人口雨による足止め作戦、虹の反射作戦を行った。誘導作戦は小野寺のせいで失敗、虹反射はバルゴンが虹を出すのを止めたため失敗したが、どれもかなり効果的だった。


【登場怪獣】

◆ガメラ

前作でロケットで宇宙に追放されたが、たまたま隕石が当たって助かり、地球に戻り黒部ダムを襲い、火山に隠れた。

その後バルゴンの虹に反応して大阪に襲来、バルゴンと戦う。炎があまり効果がなく冷気を使うバルゴンとは相性最悪で、凍らされる。
しかし氷が溶け、虹反射作戦でダメージを負ったバルゴンの前に現れ、バルゴンを琵琶湖に沈めて勝利した。
バルゴンが話の軸で、ガメラは自衛隊とバルゴンの戦いに乱入する形であるため、ストーリーにはほとんど絡まない。
序盤の前作の場面は新撮も交えており、また黒部ダムの場面は非常に迫力がある。


◆バルゴン

本作の悪役怪獣。モチーフはトカゲ。記念すべきガメラが最初に戦った怪獣。
ニューギニアの虹の谷に1000年に一度現れると島民に伝えられてきた怪獣。オパールに似た卵から誕生する。
本来、生まれたばかりの個体はまだ小さく、本編に出てきた大きさになるには十年近い年月が必要らしいのだが、卵に赤外線が当たった事で異常な発育をしたらしい。

宝石を食べ、水に極端に弱いという特徴があり、ニューギニアではダイヤを使って湖に誘導し、湖に沈めて倒してきた。
攻撃は伸びる舌からの強力な冷凍液と背中から出す異常な射程の虹色の光線。

本作の序盤で船の中で赤外線を浴びて誕生し巨大化、神戸へ上陸した。血液は紫で、上陸前は神戸港を紫に染めた。
神戸を蹂躙した後は大阪へ到達、大阪城を中心に氷漬けにし、ガメラも凍らせた。

その後は誘導作戦にかかり、琵琶湖畔まで行くが小野寺が誘導作戦に使用したダイヤを強奪し、そのまま小野寺ごとダイヤを食べた。


平成ガメラシリーズ2作目の敵怪獣候補には当初、本作より大型の個体として登場が予定されていたらしい。
ただ、後述するコミック版に記載された樋口真嗣監督のインタビューでは「バルゴンは一作目でも二作目でも、選択肢になかった」と否定している。理由は、四足歩行怪獣の宿命である「人間が入っても、後ろ足が逆関節にならない」という問題が解決不可能だったため。
(実際、平成ガメラは昭和ガメラの特徴だった四足歩行をしない。平成ゴジラvsシリーズでアンギラスが復活しなかったのも、川北紘一監督は同じ理由を挙げている)

ぬいぐるみは高山良策によって造型され、エキス・プロダクションが細部の仕上げを行った。バルゴンのまぶたは横方向に開くが、これは当時の撮影所所長をモデルにしたものだった。湯浅監督によると、この所長は実際にそういうイメージの顔をしていたそうである。またバルゴンの頭が大きいのは人間体型を出来るだけ隠すためで、撮影では足元を写さないよう気をつけたという。湯浅監督は「バルゴンは見栄えよりも動きを優先させて作った」とコメントしている。

高山良策の怪獣造形は、「動きやすさ」を重視して作られ、非常に軽いぶん傷みやすかった。撮影でも痛みが激しく、連日補修が欠かせなかったという。ラストの琵琶湖に沈むシーンではぬいぐるみがなかなか沈まず、ハサミで腹を切り裂いて水を入れ、最後はほぼ頭だけの状態にしてようやく目的を達した。これには見学に来ていた子供たちも大笑いしたという。

ぬいぐるみと同サイズで、垂れ目気味で上半身だけの、舌が伸びるギミック入りのギニョールも高山によって作られた。舌を伸ばす仕掛けは、3人がかりで行うものだった。長い舌を伸ばしての冷凍液の噴霧には消火器が使われたが、舌を長く伸ばすのは、噴霧を拡散させて遠方まで冷凍液を飛ばしているように見せるためだった。

3尺サイズのギニョール人形も、同サイズのガメラと併せて琵琶湖セットでの撮影に使用された。卵から生まれる幼体のバルゴンはギニョール人形を使い、下から手を入れて動かしている。ギニョール制作はエキスプロ。孵化シーンで漂う煙には煙草が使われ、幼体バルゴンを覆うねばねばした粘液は、アメリカ製の特注素材を使っている。この「バルゴンの孵化シーン」は、湯浅監督が「本作で最も気に入っているシーン」だそうである。


【余談】

  • 本作と同年の怪獣映画は夏に『サンダ対ガイラ』、冬に『南海の大決闘』とまとまった休みには怪獣映画が公開されていた。
    また、この年の作品はガイラ、エビラと人を食べた怪獣が登場している作品である。

  • ガメラ対宇宙怪獣バイラス』で脳波コントロール受信機を付けられ、バイラス星人に操られたガメラは本作の映像を流用しているため、暴れるシーンに受信機がなく、本作の使い回し映像で黒部ダムを破壊する。

  • 宇宙怪獣ガメラ』で洗脳装置を取り付けられ、ギルゲに操られたガメラは「地球を破壊せよ!」という具体性の無い命令で使い回し映像で黒部ダムを破壊する。

  • 2003年に本作を下敷きにしたコミック『大怪獣激闘 ガメラ対バルゴン』が発売された。作者は『機動戦士ガンダム0079』シリーズで知られる近藤和久氏。ちなみに、巻末には平成ガメラの監督・樋口真嗣のインタビューが載っているが、冗談めかして「ガンダムを出してほしかった」とのコメントがある*1。あと、在日米軍を出せたのが羨ましかったとも。
    世界観は平成ガメラ3部作がベースで時期的には『レギオン襲来』と『邪神覚醒』の間である。
    バルゴンはデザイン・設定が大幅にアレンジされている。ゲスト怪獣としてギャオスハイパーも出演。

  • 上記の通り大人向け&長編作品の二本立てだったためか見ている映画に飽きた子供達は映画館内を走り回ったという。





オパールとダイヤを独り占めしてバルゴンに食べられたい方は追記・修正をお願いします。

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最終更新:2025年09月17日 09:29

*1 当時、近藤氏は『機動戦士ガンダム0079』連載中だった。ガンダム執筆の合間を縫って一人製作していたとのこと。