ワールドトランス(遊戯王OCG)

登録日:2014/08/18(月) 14:33:19
更新日:2025/05/22 Thu 04:44:24
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モブ「こっちのデッキは【MCV】。
   そして手札には、《サイバーボッド》と《太陽の書》
   おいおい、これじゃmeの勝ちじゃないか!

ATM「それはどうかな」

セト「俺のターン!」
  「《アルカナフォースⅩⅩⅠ-THE WORLD》 召喚!!」
  「ここからずっと俺のターン!!! ワハハハハ!!!!」

モブ「…スァレンダァッ!

二人「だが断る」

「なぁにこれぇ」

…とあるデュエルスペースでの光景
(筆者註:MCVと戦うとこ以外は全て事実に基づくノンフィクションです)。


【ワールドトランス】とは、遊戯王オフィシャルカードゲームにかつて存在したコンボデッキの一つ。

ドグマブレード】を母体としつつ、《アルカナフォースⅩⅩⅠ-THE WORLD》を利用した無限ターンを可能とする。
遊戯王に存在するTOD(Time Over Death、詳しくは後述)のルールを悪用し、上手く回れば相手に一切ターンを回さずにそのままマッチ勝利まで持っていけるという、ソリティアの極みのようなデッキである。


○TODって?


このデッキを扱うには、「そもそもTOD(タイムオーバー・デス)とはなんぞや」ということを理解しなければならない。
一言で言うなら時間切れによる判定勝利を狙う戦法のこと。

そこで、ここはまず遊戯王における制限時間のルールについて解説したい。
ただし、あんまり細かいことを書くと難しくなりすぎるため、ここでの解説はあくまで雰囲気をつかむだけのものということをあらかじめお断りしておく。
詳しい話は、公式サイトやルールブックを参照して欲しい。

遊戯王OCGの公式大会では、マッチ戦を行う際の制限時間が定められている。公式の大会規定では40分。
なぜ、このような規定があるのかというと、あんまり長々と試合されても困るのがその理由だろう。
運営側もそんなに待っていられないし、1試合だけ極端に長ければ他の参加者はそれだけ待たされるわけなのでこれは仕方のない措置といえる。
(ちなみにとあるTCGでは、トーナメントの決勝戦だとこの制限時間がないので、決着に9時間(1ゲーム1時間×マッチ3戦×準々決勝~決勝まで3試合)かかった例もある)

大抵の試合は制限時間中にマッチ戦が終わるのだが、たまに制限時間内に終わらないこともある(盤面が膠着しちゃってお互いに何もできなくなったとか、プレイがやたら遅いだとか)
そこで制限時間のある試合での勝敗に関するルールができた。制限時間が経っても勝敗が決まってないならエキストラターンやエキストラデュエルを行って勝敗をつけるというものだ。
そのルールの一つにこういうものがあった。「40分経っても一本目の決着が着いていないんなら、エキストラターンを行って、その後にLPが上のほうの勝ちにするよ(エキストラターン終わっても同じならサドンデス)」「もしそれがマッチの一本目ならそのままマッチの勝者にするよ」
これだけなら良かったのだろうが、あるプレイヤーが後者のルールを読んである事を思いつく。

「これマッチ一本目で制限時間いっぱい使ってしまえばマッチキルできるんじゃね?」

そう、このルールには穴があった。
その穴を悪用して先攻1ターン目にマッチキルを狙う戦法がTODである。

そしてこのワールドトランスとは、これを意図的に発生させることで、マッチ勝利の達成を目指すデッキである。
「マッチ勝利とはどういう意味を持つのか」については《ヴィクトリー・ドラゴン(遊戯王OCG)》のページも参照していただきたい。

その由来から、単純に「ワールドTOD」と呼ばれることも多いが、ここでは遊戯王wikiに登録されたデッキ名に従ってこう呼ばせてもらうことにする。

ちなみに「トランス」とは、このTODを利用したマッチ勝利を最初に目指したロックデッキのこと。
名前の由来は色々あるらしいけど、40分も延々と試合を続けさせられたせいで自分(と対戦相手)がトランス状態に陥るというふざけた説もあったりする。ちなみにデッキ創始者曰く「《現世と冥界の逆転》による永遠の輪廻転生をコンセプトとしたデッキであるとし、輪廻転生を意味する英単語transmigrationを略してトランスと命名したという」(遊戯王wikiより引用)


○ループ・コンボ


さて、ここからは核となるループコンボについて説明させていただこう。

このデッキの目標は最初に述べたとおり《アルカナフォースⅩⅩⅠ-THE WORLD》の効果を毎ターン発動することを目標としている。
《アルカナフォースⅩⅩⅠ-THE WORLD》は「自分の場のモンスター2体を墓地に送ることで、次の相手ターンをスキップするというとんでもない効果を持っている。
つまり、効果を毎ターン発動し続けることができればずっとオレのターンになるということだ。
だが、自分の場のモンスターを2体というコストは非常に重く、普通に使えば1・2ターン飛ばすのが限界である。

そのコストを用意するために利用されるのが《混沌の黒魔術師》と《次元融合》のループコンボ。
混沌の黒魔術師》を除外する(場を離れる時強制的に除外される)ために利用されるのが《光帝クライス》。
こいつは戦士族だから《神剣ーフェニックスブレード》に対応する。

そこでまずは墓地に《光帝クライス》を2体と《神剣ーフェニックスブレード》、フィールドに表の効果を得た《アルカナフォースⅩⅩⅠ-THE WORLD》、手札に次元融合、除外ゾーンに《混沌の黒魔術師》を用意する。これでループスタート。
①《光帝クライス》2体を除外して《神剣ーフェニックスブレード》を手札に戻す
→②《神剣ーフェニックスブレード》をセット、《次元融合》で《光帝クライス》2体と《混沌の黒魔術師》が帰還
→③《混沌の黒魔術師》で《次元融合》を回収、《光帝クライス》で《混沌の黒魔術師》と《神剣ーフェニックスブレード》を破壊
→④《アルカナフォースⅩⅩⅠ-THE WORLD》で《光帝クライス》をコストにターンスキップ
→⑤ターンエンド。次のターンには①に戻る、という寸法。

後は《光帝クライス》の効果で適当に相手のフィールドのカードを破壊し、
エキストラターンに身動きできなくなった対戦相手をアルカナフォースでボコってやれば、
マッチキル 完☆成☆である。

上記コンボだけだとデッキが尽きるので、《マジックブラスト》(セットして《光帝クライス》で破壊すればいい)で自分のドローを止める。もしデッキがなくなっていたら大抵入っているサイバー・ヴァリーか鳳凰神の羽根で墓地のカードをデッキに戻してやればいい。まあマジックブラスト自体が入っていないこともあるのだが。

《次元融合》のライフコストを補うため、《魔力倹約術》も張って置く。

さらにアルカナフォースを確実に表にするため、フィールド魔法の《光の結界》も必要になる。こちらも場合によっては必要ないこともあるが。

…なに? やっぱり「まるで意味がわからんぞ!」だと!?
まあとりあえず、「《次元融合》使えばいっぱいモンスター出せるので、いろいろやって《アルカナフォースⅩⅩⅠ-THE WORLD》のコストを揃えてずっとオレのターンデッキ」とでも思ってもらえれば結構かと。


○コンボ達成への道のり


このデッキの強みは、上記のコンボを先手第1ターンに成立させて、そのままマッチ勝利まで持っていくという圧倒的な決定力にあるが、
それ以前にコンボの構成要素が多すぎてコンボ自体が決まりそうにないと思うだろう。

だが、安心(?)してほしい。この手品には、ちゃんとタネも仕掛けもある。

そのカギを握るのが、かの有名な先攻1ターンKillデッキ、【ドグマブレード】である。
このデッキ、名前こそ《D-HERO ドグマガイ》+《神剣-フェニックスブレード》だが、その実態は「《サイバー・ヴァリー》+《混沌の黒魔術師》+《次元融合》のループコンボ」である。

そこに《魔力倹約術》を足せば無限ドローまで達成できることも知られてはいたが、【ドグマブレード】ではそこまでする必要はなかったのだ。(推理ゲートのおかげでマジエクの下準備が整うから)

ちなみに《混沌の黒魔術師》+《次元融合》のループに《魔力倹約術》を足したデッキとしては、それ以前にも【エアブレード】からの派生デッキである【アーチャーブレード】が存在していた。

そこでこの無限ドローコンボにより必要なパーツをかき集め、マッチキルさえも可能にしたのがこの【ワールドトランス】なのである。
元よりこのデッキ、「サイドデッキからの対策に脆い」という【ドグマブレード】の弱点を補うために生み出されたという事情がある。
これにより安定性自体は下がった(それでも結構高い)が、マッチキルというリターンはそれを補って余りある。

また、上記のループ解説と【ドグマブレード】のページとを比べてみてほしい。《混沌の黒魔術師》《次元融合》《光帝クライス》《神剣-フェニックスブレード》…と、その大半が共通していることに気づくだろう。
つまり、このコンボだけに必要なカードというのは思いのほか少ないし、無限ドローでデッキの全てを引ききれるのでそれらも一枚差しで十分。
しかも、その中の一枚の《アルカナフォースⅩⅩⅠ-THE WORLD》は、《混沌の黒魔術師》などと《トレード・イン》を共用できるというおまけつきである。


○弱点


基盤は【ドグマブレード】なので、弱点もあちらと一緒。先手取れないと厳しいとか、結局事故ると全く動かないとか、対策カードとか。パーツもやっぱり高い。

だが、このデッキはマッチ勝利も可能なので、サイドデッキからの対策では無意味という強味がある。

またこのデッキ、巷では「かの【MCV】にも不可能な(「実質」のつかない)先攻1ターンマッチキルさえも可能なデッキ」と評され、それ自体は正しいのだが、一つ注意点がある。
それは、TODのルール上マッチキルが成立するのは一本目にコンボを成立させた場合のみだいとうことである。
よって「一本目を落としても二本目で問答無用にマッチ勝利に持ち込む」芸当はできない。

そのため、二本目に入ったときは潔くマッチ勝利を諦め、サイドデッキと入れ替えて構成のよく似た【エアブレード】か【ダークガイア】などに切り替えるほうが得策。
(このように、TCGではサイドデッキを利用してデッキの動きそのものを変化させることも時として行われる。アグレッシブサイドボーディングと言われる。)

また、遅延目的の反則行為を指摘されかねないなど、何かとトラブルの元になりやすいデッキでもある。
TODのルールを完璧に理解し、自分の行為があくまで遅延行為でないことをジャッジに立証し、
相手の口撃に負けないようにする必要はあるだろう。
最悪、その後のリアルファイトにまで備えるという、場外乱闘まがいのことをしなければならない。
 ←蟹「おい、デュエルしろよ

で、当然の事ながらこのデッキは当時滅茶苦茶嫌われていた事でも良く知られる。
TCGの醍醐味であるカードの駆け引きを事実上否定するのもそうだが、毎回毎回制限時間いっぱい使うせいで大会の運営に支障をきたすため*1、プレイヤーのみならず大会関係者からも非常に嫌われていた

遊戯王OCGの規定にはサレンダーに関するルールが存在しなかった事は有名だが、TOD目的のデッキだと判断されると例外的にサレンダーを認めるジャッジも結構多かったぐらいである*2

その後、母体となる【ドグマブレード】が禁止カード指定により厳しい規制を受けたり、構成カードがエラッタされて別物になったため、このデッキも仲良く消滅してしまった。
大会規定には遅延行為と思われるプレイに関する罰則規定が明文化され、多くの公認非公認大会において故意のTOD狙いと判断された場合、即座に敗北し場合によっては出禁という非常に重い罰則が与えられるようになった。
また、2023年に至ってサレンダーも「マッチの成績が決定する場合には申告できない」などの制約付きながら公式ルールに明記された。可能ならサレンダーされる事が確実なデッキコンセプトからも価値は暴落している。

そのため現在使用する場合には、ノーリミットデュエルで使うか、遊☆戯☆王タッグフォースなどのゲーム作品に頼るしかない…、のだが、
ゲームではTODのルール自体が実装されていないため、マッチ勝利までは再現できないのが残念。

…まあ、《アルカナフォースⅩⅩⅠ-THE WORLD》で「ずっと俺のターン」して俺TSUEEEE!ぐらいはできるので、ヒマなら試してみればいいかも。
案の定、ソリティア系パズルゲームとして見ればよくできているので。


最後に、このデッキを使う上での注意点を纏めておこうか。

  • 練習が大事!
 このデッキは適当にネットでコピーデッキを拾ってきたらすぐに回せるほどの甘いデッキではありません。
 まずは前身の【ドグマブレード】から回してみて、ある程度決まるようになってからチャレンジしましょう。
 その後このデッキを動かすことができるようになったらいろいろな状況に対応できるようにやり込まないとループに持ち込めずに負けてしまうことが多いので注意。練習あるのみ。

  • フリー対戦では使わない!
 友だちを失くします。まあそもそも上記の通り一般的なリミットレギュレーション下では組むことすら無理なのだが。
 使用する際は許可を取るなど、相手の了解を得てからにしよう。


【ワールドトランス】は用法・用量を守って正しくお使いください。
お兄さんとの約束だぞっっ!!


追記・修正は遊戯王で「ずっと俺のターン」したことのある人がお願いします。



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最終更新:2025年05月22日 04:44

*1 非公認の大規模大会だと大会のために借りたイベントホールの返却時間やスタッフの帰宅時間に影響が出るし、店舗大会だと大会のために確保したデュエルスペースを長々と使われる羽目になる。

*2 2008年の選考会で【ワールドトランス】を相手にしたプレイヤーのデュエルロスを認めた事例がある。