九龍城

登録日:2014/10/07 (火曜日) 00:00:08
更新日:2024/04/13 Sat 00:53:46
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九龍城(クーロンじょう)、あるいは九龍城塞(クーロンじょうさい)とは、かつて香港特別行政区に存在した、今は亡き巨大なスラム街の集合体である。



概要


建て増しに建て増しを重ねた結果、住居と商業施設とが混然一体となった一種の大迷宮――それが九龍城である。
内部には犯罪者や難民や流れ者たちが好き勝手に建築した住居から商業施設から、それはもう様々な建築物がひしめき合っていたという。

もちろんスラムなため居住性はお察しレベルで最悪だった一方、『ハウルの動く城』を具現化したような、あまりに異様なその風貌で人気を集めてもいた。
今なお世界中の廃墟マニア、裏通りマニア、ネオンマニア、怪しい店マニアを魅了し続けている、古今東西未曾有の巨大違法建築物。

取り壊されてしまった現在でさえ一度は訪れたい……否、訪れたかった名所として語り継がれており、現在でも「無計画な増設を繰り返していびつな見た目になった建築物」「ボロボロで汚くて怪しい建築物」を指して「まるで九龍城のよう」という比喩が通用するほど凄まじい知名度を誇る。
転じて、「改修を重ねて騙し騙し使っているプログラム」など、建物以外に使われることも。

取り壊されてからもう20年以上は経過しているが、それほどの時を経た今もなお九龍城をリスペクトしただろう創作物や建築物がたびたび世に出ているあたり、その愛されようがわかるというものである。


来歴


詳細は不明なものの、元々は外国の侵略に備えて砲台などもすえつけた中華風の城だったらしい。
1898年、イギリスが清帝国から九龍半島を99年間の約束で租借したとき、この城砦だけは「監視を置きたい」という清の思惑もあって租借対象外となった。
しかしその後、イギリスは清の役人を追い出してしまう*1。とはいえ租借対象外地域なのでイギリスはそれ以上手が出せず、九龍城は空白地帯に。
時代が下り中華民国が誕生して清帝国に取って代わっても、イギリスも中華民国も譲らず九龍城の扱いはそのまま。そして、日中戦争において大日本帝国が香港一帯を占領したときに城壁が壊された。

だが、この頃までは冒頭で述べたような魅力はまだ無く、その姿もそこらの城のひとつに過ぎなかった。

九龍城が「香港の魔窟」という称号とともに全世界の注目するスポットに変貌するのは、後に中国が内乱で過度の混乱に陥り共産党が支配力を強めてきた頃のことである。
中国でそれまでの国民党が追い落とされ共産党が台頭してきた。
だが、多くの中国人はそれを嫌い「おらこんな村嫌だ~ァ、おらこんな村嫌だ~ァ」と絶唱しながら党やそれの動かす軍から逃亡する民衆が続出する事態になった。
そこで逃亡先に民衆が選んだのが当時、中国警察(公安)の力の及んでいなかったこの九龍城である。

かつて英領香港と広東省の出入りは自由で、検問所も何も無かったが、1949年に香港総督府は境界線に検問所を設置。
やがて住民登録を厳格化し、身分証の携帯を義務付けた。
これは今も有効で、小児を除く全ての人間に身分証携帯義務がある(観光客は旅券でOK)。
なお、警察官からされる職務質問日本国とは違って強制。拒否権は無く、回答拒否や身分証不携帯で直ちに逮捕される。繰り返すが、これは英領時代に総督が定めた規則で、一国二制度は50年不変だから最低でも2047年まで廃止できない。
だが、九龍城だけは「ここは中国」というわけで香港警察も踏み込んで来られず*2、従って不法移民が住み着くことができたのである。
だがしょせんは小城の跡地、後から後から津波のように押し寄せる全ての民衆を収容することは不可能であった。

そこでそれらの人たちは違法にバラックを建てたり小屋を増築したり勝手に店を開いたりしていき、徐々に魔窟にふさわしい姿に変貌を遂げていく。
こう言っては何だが当時のこととて衛生面とはおよそ無縁の環境であった。
便器なども見た目洋風っぽいのにボットンは当たり前だとか、床が何かの茶色くてくっさい汁でヌタヌタしてて床オナできねぇよ!だったり、
それに対する返答として俺は悪くねぇっ!のこだまが聞こえたとか何とか。とにかく臭い、汚い。
しかもそういう場で普通に料理していたり居酒屋っぽい店があったりするから色々とキテいた。
そういう苛烈な環境だったからこそ香港の魔窟たりえたのであり、この汚さが僅かでも少なければ世界はこれほどに注目はしなかったであろう。

もちろん警察の力が及ばないので犯罪は日常茶飯事。麻薬、売春、賭博、窃盗、強姦などありとあらゆる犯罪の温床でもあった。
無免許の病院だって当然のようにあった。
だが決して住人が冷酷な犯罪者ばかりだったわけではなく、多くの人はいたって普通の一般市民で、それぞれ自分なりに日々の幸せを見つけて暮らしている人々であった。
「強盗犯は捕まえ次第手足を斬る」という殺伐とした内容の罰則があった一方、定期的にのど自慢大会が開かれたり九龍城限定の町内会会報が配布されたりといったのどかな側面もあったとか。
そもそも境遇が同じゆえに殺伐としながらも団結力や仲間意識は強かったと思われる。


毒々しい色の、林立する小部屋、唐突に出現する店、その隣の歯医者など内部は完全に迷路であり、
「九龍城に入ったら二度と出られない」と言われたほどで当然ながら非常に広い。いや狭いのに広い。

内部は龍津路や龍城路と言うおおまかな通りで区切られており、そこに○○中心だとか、○○飯店、○○街といった店や施設がそれぞれ勝手自由に存在していて非常に雑多。
後述のゲーム『クーロンズゲート』では、これらの要素も見事に再現されている。

アジアンテイストの巨大建造物で、どんな人間も一目おかざるを得ない威容と魅力を誇り、香港映画ではよくロケーションの舞台にもなった。
怪しさ、危険さ、汚さ、雑さ、暗さ、ネオンだけが綺麗に輝き、奇妙な閉塞感、サイレントヒルの赤錆の裏世界のごとき禍々しさと、そんな中に暮らす住人のたまに見せる人なつっこい笑顔と生活感……。
これほどの魅力を閉じ込めた建造物は、もはやこの地球上に二度と出ることはあるまい。


伝説の数々

  • 中国の役人には「ここはイギリス領なんで」と言い張る
    イギリスの役人には「俺たちは中国人だから」と言(ry
  • 基本的に生活基盤(住居、水道管、電気配線など)は勝手に作って勝手に使う
    • 電力は外から勝手に引き込んで使っていた
    • どう見ても廃棄され、埃をかぶってグシャグシャの電線の束にしか見えない電気配線。もちろん通電中
    • 後に香港政庁が正式に電気や上下水道の供給、ごみ収集など行政サービスを始めた(周辺への影響を抑えるため)
  • 近くに飛行場があるのに高層化の一途を辿り、屋上スレスレを飛行機が通過する
  • 内部に食品工場があり、衛生法を無視して作られた食品が香港にも出回っていた。低コストで製造できるし、食う前に加熱すれば菌は死ぬから無問題(モーマンタイ)、というわけ
  • 幼稚園・小学校・中学校に老人ホームまで設置されていた
  • なぜか歯医者が多かったらしい
    • 香港ではイギリス式の医療免許だけが有効で、香港大学か英本国あるいはカナダやオーストラリアなど旧英領の医科大学の卒業資格しか有効ではなかった。だが、九龍城では「ここは中国だ」という理屈で中国の教育を受けた人なら看板を出せたのだ。
    • 数が多くて競争も激しく、腕が悪いとたちまち悪評が広まって客足が絶えるので、質の維持はされていたらしい
  • 無法地帯だが、「香港の他の地域より安全だった」という証言まである
    • それぐらいかつての英領香港警察は腐敗しきっていて、マフィアを取り締まるどころかマフィアの構成員も兼ねている警官が大勢いたのだ
      • 「植民地の支配者として職権乱用で私腹を肥やす事しか頭にないイギリス人警部」「そいつらにへつらいつつ一般市民から金を巻き上げる中国系チンピラ巡査」と、現代日本人には信じがたいほど上から下まで腐敗していた
  • いたるところで雨漏りよろしく不潔な水が滴り落ちている
    • なのでヨソ者が立ち入る際、まず麦わら帽子を渡される



関連作品


映画だけでなく、ゲームなどでもたびたび取り上げられる。いかに多くの人が影響を受けていたか分かる。

日本で代表的な作品は何といってもプレイステーションのクーロンズゲートであろう。
九龍城の持つ雰囲気を当時の技術で見事に再現してみせた、怪しさ全開だが一度やったら忘れられないタイトルである。
ほかにドリームキャストの『シェンムーⅡ』にも九龍城は登場し、内部もかなり再現度が高いと評判である。
PS2の『シャドウハーツ』にも隠しダンジョンとして登場するし、近年ではFPSの『コール・オブ・デューティ ブラックオプス』にも出た。
というか、それより何より『九龍城』という、名前がそのまんまの麻雀ゲームもある。
コメ欄の情報によると「secondlife」というオンラインゲームに九龍城が再現されたステージがあるそうだ。マニアは要チェックだろう。

漫画『GetBackers-奪還屋-』の主要な舞台、「無限城」のモデルになったのも有名。
原作のそれはバブル崩壊で打ち捨てられた高層ビル「バビロンタワー」を中心に、違法建築のビルやバラックが折り重なり、それが怪しい地下街に接続され独自の社会が築かれているといういかにもそれっぽいものだった。
しかも中の様子は何故か日本国内であるにもかかわらず中華風であり、設定のインフレに伴って時間も空間も歪み倒している。
アニメ版では九龍城へのオマージュ要素は無くなり、単なる廃ビルの群れになっている。

富士見ファンタジア文庫のライトノベルBLACK BLOOD BROTHERS』には「九龍の血統(クーロン・チャイルド)」と呼ばれる吸血鬼たちが登場する。
この作品内では、九龍半島で「香港聖戦」という戦い、そしてそれを引き金にして「九龍ショック」という虐殺事件が、あの1997年に起きている。
それらの事件を引き起こしたのが上記の吸血鬼たちであり、「九龍の血統」という名称の由来はそこから来ている。
だが生憎、上記の事件は物語が始まる10年前の出来事であり、1巻で既に九龍城はもちろん香港自体が廃墟と化している。
物語の終盤、ある吸血鬼の回想という形で、九龍城が登場する。

直接明言されずともゲームのステージエリア等のモチーフに使われる事もあり、PC用ゲーム『Stray』のスラム、『Splatoon3』のバンカラ街などにその傾向がある。


類似する施設

また日本にも「日本の九龍城」と称される類似性のある場所が存在する、または存在した。
類似性があるというだけだが中野ブロードウェイ「沢田マンション」などがそう呼ばれている。
何と九龍城の中身も汚さ怪しさまで、完璧に近いように作りこんで再現されたゲームセンター「電脳九龍城 ウェアハウス川崎店」という建造物まであった。
もはや職人技で涙なしには訪れられない、九龍城を感じることができるのは日本ではこれらの場所くらいだったかもしれない。
壁に張り出されているポスターなどを始め、本当にリアル九龍城にあった、あるいはかの魔窟で使われていたあれこれを輸入していたとか。
ちなみに中は18歳未満入場禁止。トイレや両替機も一見汚く見えるが、単なる塗装なので実際は清潔。
が、非常に残念なことにウェアハウス川崎は2019年11月17日をもって閉店した。



九龍城、その後

1997年に香港が返還される事となり、1993年に取り壊しが決まって地上から姿を消した。現在その跡地は地域の憩いの場、九龍寨城公園になっている。
確かに小奇麗にはなった……が、香港や中国の魅力は大きく削がれたとも言われる。
九龍城無き香港なんざ、気の抜けたビールのようなもんだ。
だが我々は忘れない、忘れまい。かの姿を、かの威容を。

っつーか、誰か九龍城を完全再現したゲーム出してくれ!!
完全に自由に歩き回れて、視点も一人称と三人称切り替え可能で住人がそれぞれAIで暮らしてるみたいなやつ!
できれば初回限定版では緻密な九龍城の完成フィギュアつけてくれえぇぇ~~~!!
……『クーロンズゲート』の続編『クーロンズリゾーム』が開発中とのことなので、差し当たってはそれに期待。



追記・修正は九龍城で迷わなくなってからお願いします。


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最終更新:2024年04月13日 00:53

*1 祝いの席で爆竹を鳴らしたせいらしい。現地の風習なんだが。

*2 もしくはそれを口実に怠慢を正当化していたという説もある。