櫻子さんの足下には死体が埋まっている

登録日:2015/10/25 Sun 00:37:30
更新日:2024/02/21 Wed 23:14:59
所要時間:約 12 分で読めます





- 過去に囚われたモノたちへ贈る物語 -




『櫻子さんの足下には死体が埋まっている』は、太田紫織によるミステリ小説シリーズ。表紙イラストは鉄雄が担当している。
角川文庫より出版されており本編シリーズは全17巻。基本的には短編で1話完結だが、12巻・13巻、16巻・17巻は話の展開上、エピソードが巻を跨いでいる。
本編の完結後、同レーベルより外伝「Side Case Summer」が刊行されている。
タイトルは梶井基次郎の小説『櫻の樹の下には』の冒頭文から採られている。


◇概要

天才的な観察眼と検死の知識を持ちながら三度の飯より骨が好きなお嬢様“九条櫻子”と、彼女に振り回される高校生“館脇正太郎”が
その先々で遭遇する様々な人の死に絡む事件について、死体から“聞こえてくる声”から隠された真実を見抜き導き出していく物語。

似たようなコンセプトのアメリカのドラマ『BONES』とはコラボ企画などが行われていた事も。

主な舞台は旭川市を中心とした北海道
主役の一人である正太郎が食べることが大好きなためか、食べる描写や北海道グルメの話がほぼ毎回登場する。
「後味が悪い」系の話だと思ったら実は「泣ける話」だったり、逆に「いい話」系だと思ったら「ものすごく後味が悪い話」だったりと、
最後の最後にどんでん返しがあることが多く、そんな部分も魅力の一つになっている。

作者曰く、「残念美人が草食系男子とあくまで個人的な趣味の一環で謎を解いたりするお話」。

2015年10月から12月にかけてTVアニメが放映された。全12話。製作はTROYCA。
2017年にはフジテレビ系列でTVドラマ版も放映されている。


◇あらすじ

北海道・旭川。
この街には、「櫻子さん」が住んでいる。
櫻子さんは、美人で名家のお嬢様。
なのに三度の飯より「骨が好き」。
そんな彼女と一緒にいると、なぜか僕まで骨と縁ができるようで。
骨にまつわる事件と櫻子さんに、振り回されっぱなしの僕だけど、
それが嫌じゃないのは、櫻子さん、きっと、あなたのせいだと思う。


◇登場人物

◆九条櫻子
CV:伊藤静(テレビアニメ)/小清水亜美(ラジオドラマ)/演:観月ありさ
旭川に古くから建っているモダンな白い屋敷にばあやと二人で暮らしているお嬢様。
年齢ははっきりとは明かされていないが20代半ばくらい。

法医学の神様と謳われた設楽教授の姪で、法医学や検死を始め非常に広範な知識を持つ。
容姿端麗、頭脳明晰だが人嫌いで三度の飯より骨が大好きな骨マニア。
人・動物に関わらず骨や死体を見ると興奮してその知識を並べ立てる。
また、「骨と同様に目に見えないところですべてを支えているから」という理由で真実を知ることにこだわっている。

普段は標本士の仕事で生計を立てており、自身の屋敷は彼女が作った骨の標本で埋め尽くされている。
山や海岸を歩いて骨格標本の材料にするための動物の死体を探すのが趣味。
大の甘党で甘い物には目がない。

天才的な観察眼と推理力を持っており、現場の状況だけで真相を見抜く安楽椅子タイプの探偵役。
某バーロー並みに死体によく遭遇する死神体質の持ち主でしょっちゅう人の死に行き当たる。

一方で、死後に変貌を遂げてゆく死体や骨には心打たれるものの、それはあくまでも死体は「物」で魂の無い「器」であるからであり、虫でも獣でも人間でも生き物が死ぬことは大嫌いである。
人の命を救うために必死になったことも何度かあるほか、前述の死神体質についても内心嫌悪しており、自分に関わったせいで周りの人間が死んでしまうのではないかと恐怖している。
そのため正太郎を自分から遠ざけようとしたことも何度かある。
他人に対してしばしば意地の悪い心無い言動をしたり、孤高ぶった態度をとるのもそのためで、本来はとても心優しい性格。
最初は人間味のなさそうだった彼女の印象が読み進めるうちに次第に変わっていくこともこのシリーズの大きな魅力の一つ。

作者によると好物は生クリーム。子供の頃、ケーキの上の生クリームだけ食べて、よくばあやに怒られていたらしい。

幼少期に実弟の「惣太郎」が不審死した過去を持ち、その真相に対する疑念を今でも持ち続けている。


◆館脇正太郎
CV:榎木淳弥(テレビアニメ)/梶裕貴(ラジオドラマ)/演:藤ヶ谷太輔(Kis-My-Ft2)
本作の語り部でいわゆるワトソン役。
旭川市在住の高校生。
自分の住む旭川を「時間の死んだ街」と評しているが、これは昔の空気や雰囲気がそのまま残っているという、どちらかというと好意的な意味。
中学3年生の時にある事件を通じて櫻子と知人となり、以来彼女に振り回されながらも事件解決に協力するようになり、たびたび彼女の家を訪れる。
彼曰く櫻子との関係は「師弟関係」。
彼自身は骨はあまり好きではないが、櫻子には「手先が器用でものの扱いが丁寧なことから標本士に向いている」と評価されている。
櫻子には「少年」と呼ばれている。

素直でまっすぐな性格で感情豊か。
他人に感情移入してしまうことが多く、そのため櫻子が見せる心無い言動にしばしば腹を立てたり傷ついたりしている。
また、相手の言葉を鵜呑みにしてしまいやすく、だまされることもある。
美味しい物には目がない非常に食い意地のはった性格で、小説内では毎回必ず彼のグルメレポが登場し、食べ物につられて人の頼みを引き受けることも多い。

愛車はBianchiのクロスバイク。
サックスや釣り、登山、ツーリングなど広範囲にわたる趣味を持っており、祖父が柔道教室を開いているためそこそこ腕が立つ。
母親が忙しかったことから祖父母に育てられた。
父を早くに亡くしており、一人いる兄も本土の大学に通うために家を出ているため、現在はアパート経営を務める母と二人暮らし。
作者曰く、俳優の瀬戸康史がモデル。

ドラマ版では高校生から自然の森博物館の技術補佐員に設定が変更されている。


◆沢梅(ばあや)
CV:磯辺万沙子/演:鷲尾真知子
櫻子の屋敷で櫻子と一緒に住んでいる老女。通称「ばあやさん」。
古くから九条家に仕えており、本人曰く櫻子の母親が10歳の頃から奉公に出ているとのこと。
櫻子を育て上げた張本人で彼女に説教が出来る数少ない人物。
甘い物ばかり食べる櫻子にたびたび小言を言っている。
とても料理上手で、正太郎をはじめ家に人がやって来るたびにたくさんの料理を出してもてなす。
家にたびたびやって来る正太郎の事を非常にかわいがっている。


◆鴻上百合子
CV:今村彩夏
正太郎の同級生。
正太郎の親友・今居の想い人。
学校の前で死んでいた猫を正太郎が埋葬していたのを見たことで正太郎に興味を持ち始める。

明るく快活な性格だが、祖母を喪ったトラウマを持っている。
元々は今居と同じくテニス部に所属しており同学年で一番の実力があったが、祖母の死後に祖父の介護を手伝うために退部することを決めた。
将来の仕事として介護士を目指している。

祖母の死に関する事件を通じて正太郎達と深く関わるようになり、次第に正太郎に好意を持ちはじめているが、正太郎はそのことには気が付いていない。
櫻子は百合子との仲について正太郎をしばしばからかっている。
櫻子ともとても親しくなるが、彼女と正太郎が非常に親密であることに関しては内心気にしている。

作者曰く、イメージは女優の高田里穂(『仮面ライダーOOO』時代)。
また原作小説とアニメ版では「メンタルのベクトルの方向性が真逆」と作者から評されており、原作小説は「ダークサイドの化身」、アニメ版は「ペカペカ光ってる方ですごいかわゆい」とのこと。


◆阿世知蘭香(あぜち・らんか)
正太郎の同級生。登場は単行本8巻から。
ゴスロリテイストな衣服に身を包んだ少女で、高校2年目になって正太郎たちの学校に転入してきた。
過去にネット上で素顔を晒されて中傷の的とされたことが現在もなお心の傷として残っており、ゴスロリ衣装も彼女自身の趣味というよりは、辛かった過去から逃れるため自分自身を変えたい気持ちによるもの。
何だかんだで正太郎たちとは早いうちに打ち解けたりと、見た目とは裏腹に友達想いの良い子。
現在っ子らしくネットやサブカル関連に通じており、正太郎達にそっち方面で助力することも。
気合を入れる時には青い口紅をさす。

原作小説での登場時期もあってアニメ版には未登場だが、原作の完結に併せてアニメ版キャラクターデザイン担当のサトウミチオ氏が書き下ろした集合絵には彼女の姿も描かれている。
作者曰く、モデルは女優の森川葵。


◆在原直江
警視庁公安の外事第一課に努めている、櫻子の幼馴染で許嫁。
だが櫻子には割とぞんざいに扱われており、時に警察とのパイプとして使われる。
容姿端麗、頭脳明晰かつ紳士的な性格であり、正太郎は理想の将来像として彼に憧れている。
ばあやさんと同様に櫻子の保護者的な立ち位置にあり、事件に首を突っ込む櫻子にしばしば説教をする。

……と、ここまで書けば重要人物っぽく見えるが、実際は原作序盤で存在がちょこっと仄めかされただけで以降のシリーズ展開においてはほぼ空気未満の扱い
コミカライズやアニメ版、ドラマ版などのメディアミックスでも登場すらしないという不憫な立ち位置のキャラクター。本項でもCV表記が無い時点でお察し。
一応、原作中盤以降も「櫻子の許嫁」として存在が明示されているため、完全に忘れられている訳ではないが……


◆内海洋貴
CV:高橋広樹
交番勤務の警察官。
「いいちゃん」という幼女を巡る事件を通じて正太郎や櫻子と仲良くなる。
双子の姪がおり、しばしばその姪たちといいちゃんをつれて櫻子の屋敷に遊びに来ている。
もじゃもじゃの鳥の巣頭がトレードマーク。
気さくでお喋りかつ非常に調子の良い性格をしている。
動物が大の苦手。
人の好い性格だが警察官としては正直言って某群馬県警の刑事並みにヘッポコで頼りない。
しかしいざという時には非常に勇敢な行動を見せており、その胸にはゆるぎない正義感を宿している。キメるときはビシっとキメる人。
俳優の大泉洋がモデル。


◆磯崎齋
CV:石田彰(テレビアニメ)/比留間俊哉(ラジオドラマ)/演:上川隆也
正太郎のクラスの担任で、生物教師。
スラっとした長身で「王子」とアダ名を付けられる程の美形であり、生徒たちからの人気は高い。
しかしやや子供っぽくナルシストな一面のあるほか教師のくせに面倒くさがりでサボり魔という残念な性格。
一方で生徒のことは本当に大切に思っており、好きも嫌いもはっきり言う、自分にも他人にも正直な部分が生徒たちに好かれている大きな理由でもある。
1年に1度しか花を咲かせない月下美人の開花を見るために学校をさぼってしまうほどの植物マニアで、自宅は鉢植え植物に囲まれているが、それにはある理由がある。

ドラマ版では教師から自然の森博物館学芸員に転職したことになっている。

原作小説随一の人気キャラクターであり、ドラマ版では櫻子と正太郎以外の登場人物で唯一出番が用意された他、
2018年度に著者がSNS上で行ったキャラクター年賀状企画で当選したリクエストの殆どが彼宛ての手紙だった事からもそれがうかがえる。
作者曰くモデルは俳優の及川光博。


◆千代田薔子
CV:井上喜久子
在原直江の従姉で、薔薇園の経営者。
名家である東藤家の出身。
40代に半ばだが、そうは見えない年齢不詳の美人。
櫻子とは幼少期からの知り合いでよく彼女の面倒を見ていた。
人当たりのいい性格だが少々強引で子供っぽい部分があり、人をその気にさせるのがうまい。
正太郎のことを気に入っており、よく彼をからかっては楽しんでいる。
夫とは半年前に死別しており、子供はいない。


◆へクター
九条家の飼い犬。犬種はサモエド。ばあやからは「へー太」と呼ばれる。
真っ白いフワフワの毛並みに黒いつぶらな瞳と愛くるしい姿をしており、とても温厚で人なつっこい性格。
もともとは内海の知人である、藤岡夫妻の飼い犬だった。
過去に飼い主が何人も死んでおり、呪われた犬と言われ恐れられていた。
その事件の解決後、紆余曲折を経て九条家にやってきた。
動物の死体を探し出すのが上手という特技がある。


◆設楽教授
櫻子の叔父の法医学教授。
法医学の神様とまで謳われたその道の権威で警察からの信頼も厚かった。
櫻子の人となりに大きな影響を与えた人物。
現在は難病に侵され、入院している。


◆花房
CV:子安武人
画家と名乗る、素性不明の怪人物。
その正体は地獄の傀儡師のように自ら直接手を下すのではなく、別の人物を陰から操り、殺人へと導いてきた連続殺人教唆犯。
人の心の闇に付け入るのが非常にうまく、数々の人間の狂気をあおり、殺人へと駆り立ててきた。自分が操る人物を蝶の種類に例える。
その目的は人の頭がい骨の中にある蝶の形をした骨「蝶形骨」を集めてコレクションすることであり、犠牲者の遺骸から蝶形骨を採取し続けている。
決して表に立つことは無く、その存在の痕跡を全く残していないが、体毛がほとんどないという身体的特徴があることが分かっている。
設楽教授が調査した事件の裏にも彼が関わっており、少なくとも10年前には既に活動を開始している。

(以下、ネタバレ注意)
第14巻ラストにて「既に花房本人は死亡している」事が、とある人物の口から示唆された。


◇余談

著者の太田紫織は本作以外にも北海道の各地を舞台にした小説作品を発表しており、
『魔女は月曜日に嘘をつく』(全3巻)では江別市、『オークブリッジ邸の笑わない貴婦人』(全3巻)では東川町、『あしたはれたら死のう』(単巻)では音更町、
『ホームズは北海道で怪異を嗤う』(単巻)では札幌市を中心に道内各地、『銀河の森、オーロラの合唱』(単巻)では陸別町、
『昨日の僕が僕を殺す』(全3巻)では小樽市、『涙雨の季節に蒐集家は、』(全3巻)は本作と同じ旭川市を舞台とした物語が紡がれている。

特に『昨日の僕が僕を殺す』『涙雨の季節に蒐集家は、』の2作は出版社が同じ角川文庫という繋がりもあってか、
作中の同一世界で『櫻子さん~』の事件が起きている事を示唆する描写も挿入されている。
これらの新刊発売時に際して両作と『櫻子さん~』の世界観を繋ぐ短編を掲載したペーパーが書店に配布され(一部書店では文庫封入)、
『櫻子さん~』『昨日の僕が僕を殺す』『涙雨の季節に蒐集家は、』が同一世界線上を舞台にした物語である事が公式に明言された。
『涙雨の季節に蒐集家は、』はまだしも、『昨日の僕が僕を殺す』は妖怪・死霊が跳梁跋扈するホラー作品なのだが、路線的に『櫻子さん~』と同一世界扱いにして大丈夫なのだろうか。
その他、『オークブリッジ邸~』と『あしたはれたら死のう』も(ほぼ裏設定レベルで)『櫻子さん~』と世界観を共有している事が作者のSNSにて明言されている。
『ホームズは~』と『銀河の森~』はどうなのかって?正直この2作の評価は著者ファン界隈でもお世辞にも高くないので……



追記・修正は骨を見つけてからお願いします。

この項目が面白かったなら……\ポチッと/

+ タグ編集
  • タグ:
  • 櫻子さんの足下には死体が埋まっている
  • 太田紫織
  • 角川文庫
  • KADOKAWA
  • 小説
  • 一般小説からのアニメ化
  • 15年秋アニメ
  • 鉄雄
  • ミステリー
  • 北海道
  • 旭川市
  • 法医学
  • キャラクター文芸
  • TROYCA
  • ドラマ化
  • アニメ
  • 実写化
  • フジテレビ

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2024年02月21日 23:14