登録日:2017/08/30 Wed 18:43:28
更新日:2025/03/11 Tue 16:13:40
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ドクターイエローとは、新幹線の線路、架線、信号の状態を測定・検査するための車両の愛称である。
2024年現在ドクターイエローと呼ばれる車両は
JR東海・
西日本にしか在籍しないが、本項では同様の目的で運用される
JR東日本の車両についても解説を行う。
概要
正式には新幹線電気軌道総合検測車と呼ばれ、おおよそ10日周期で運転されている。
運転日は一切明かされておらず、見ると幸せになれるとまるで縁起物のように扱われている。
子どもたちからの人気も非常に高い。
ただ規則性さえ分かれば運転日の予測自体は可能なので運転日を公開しているサイトは存在する。
乗客を乗せることはないが、普通の座席も用意されている。主に報道関係者や視察団の添乗などで使われ、数は少ないながらドクターイエローを使った団体列車も運行されたこともある。
旅客を載せて走る通常の新幹線と形状はあまり変わらないが、その名の通り黄色いのが特徴。
これは
- 事業用の車両は警戒色という意味で黄色を入れると決められていたから
- 夜中に走る事が多いので、見えやすい色で塗装し事故を防ぐ
- 普通と明らかに違う色にする事で、お客さんが間違って乗るのを防ぐ
という3つの理由があると言われている。
東海道・山陽新幹線
921形0番台
新幹線の初代軌道検測車。
921-1は建設されたばかりの線路に不具合がないか調べるため、
東海道新幹線開業前の1962年に登場。921-2は新幹線開業後の予備車確保の意味合いを込めて1964年に登場。
1号車は完全新造車だが、2号車は在来線の旧型客車から改造された。だが後のドクターイエローと異なりどちらも結局は動力を持たない客車なので自力走行はできず、ディーゼル機関車に牽引されて測定走行を行った。
ただし既に「黄色地に青帯」というドクターイエロー色を纏っており、「黄色い新幹線の軌道等を計測する車両」をドクターイエローの定義とするならば、これが初代となるだろう。
検測走行時の最高速度は160km/hだが、200km/hで走ることも可能ではあった。
3つの台車を備え、中間台車が検測用だった。
1両は1976年に廃車・解体された。
もう1両は東海道・山陽新幹線での運用終了後に
東北新幹線小山試験線で使われ、1980年に廃車・解体された。
941形
東海道新幹線開業前、鴨宮試験線で使われていた試験電車1000形A編成から改造された電気試験車→救援車。
1000形の外見は
0系新幹線電車とよく似ているので、「普通の新幹線と同じ形だが黄色い」事をドクターイエローの定義とするならば、こちらが初代となる。
後のドクターイエローより側面の青い線が長く、ヘッドライトまで延びているのが特徴。
救援車としての出番は一度もなく、動くのは検査と訓練の時ぐらいで1975年に廃車・解体された。
922形
0番台
1964年に鴨宮試験線で使われていた試験電車1000形B編成を改造して誕生した電気・信号検測車。
単独で測定できるのは電気と信号関係だけで、レール関係は客車ベースの921形をディーゼル機関車に牽引して測定していた。
1975年に廃車・解体された。941形もそうだが、この車両の解体が新幹線用の解体設備の試験運用でもあった。つまり1000形試作電車は最期まで「試験用」としての使命を全うしたわけである。
編成記号・番号はT1。
10番台
T1編成が老朽化し、運用面での不都合も多く、博多開業も迫っていたので、1974年に新造したもの。
外見は完全に黄色い0系で、16次車と同時に発注されたので側面窓は大窓になっている。編成記号・番号はT2。
5号車には二代目の軌道検測車921形10番台が組み込まれている。
車体断面は他の車両と同一だが、車体長は他車の25m級に対して17.5mと短く、自重は60トンを超えていた。
これにより、これまで別々に検測していた電気・軌道・信号を1度の走行で検測できるようになり、効率がアップしている。
国鉄分割民営化後はJR東海へ継承され、2001年に後継車のT4編成へ役割を譲る形で廃車・解体された。
20番台
T2編成の増備車として1979年に登場。0系27次車と同時に発注されたので側面窓は小窓になっている。編成記号・番号はT3。
こちらも軌道検測車921形20番台が組み込まれている。
国鉄分割民営化後はJR西日本へ継承され、T2編成よりも後に製造されたために活躍期間も長く、0系引退後も東海道へ検測運転で乗り入れることもあった。
2005年に廃車され、先頭車922-26が名古屋の
リニア・鉄道館で展示中。
その後、同車は石川県にある白山市立高速鉄道ビジターセンター(トレインパーク白山)への移設が決まり、2025年5月から同所で展示予定。
923形
T2・T3編成の老朽化や、最高速度の向上により検測ダイヤを組み込むのが難しくなったため、
700系をベースにして製造された。
最高速度は東海道・山陽どちらも270km/h
軌道検測方式も従来の3台車方式から2台車レーザー光方式に変更され、車体軽量化・車体長統一を実現した。
ちなみに実車が登場する前のイメージイラストでは、車体がパールホワイトで塗装され帯が黄色になっていた。塗り分けはベース車の700系と同じ。
JR東海に0番台T4編成が、JR西日本に3000番台T5編成が在籍しており、外観の違いは殆ど無い。JR西日本分も普段は東京に常駐しており、検査もJR東海へ委託している。
後述の理由から引退が決まり、T4編成の先頭車はリニア・鉄道館へ展示される予定。
阪神淡路大震災とドクターイエロー
1995年1月17日に発生した阪神淡路大震災。この地震で、
山陽新幹線は神戸市内の区間を中心に高架橋崩落などの被害を受けた。
一刻も早く復旧させるため、高架橋の補修に必要なモルタルを調達したものの、京阪神エリアには在庫がなく、名古屋や関東などから調達することになり、名古屋からはヘリで運べたものの、関東エリアから運ぶにはトラックでの長距離輸送が必要となった。
しかし当時は
新東名高速道路や新名神高速道路も完成前。道路状況は壊滅的でトラックでの迅速な輸送は不可能に等しい。そこで考え出されたウルトラCが
東京で待機しているドクターイエローを使って神戸へモルタルを運ぶというものだった。
白羽の矢が立てられたのはJR東海所属のT2編成。地震発生から2日後にモルタル200袋と作業員24人を載せて東京を出発。以後東京と関西の間をドクターイエローを使用した建設資材の運搬列車が往復することになった。
こんな芸当が出来たのは地震発生当日たまたまT2編成が神戸より東側に、T3編成が神戸より西側に居たのと、ドクターイエローの車両そのものが建設資材の運搬にも耐えられる設計になっていたからである。
懸命の資材輸送と作業員の奮闘により、崩落した高架橋は無事復旧。復旧後最初に通過した列車は西日本所属のT3編成だったとか。
東北・上越新幹線
925形
東北・上越新幹線用の200系がベースで、乗り入れることができたのはフル規格の三線(東北・上越・
北陸新幹線)だけ。
外見は「黄色い
200系」と言って差し支えない。
東海道新幹線のドクターイエローと異なり、帯の色が200系と同じ緑色なのが特徴。
0番台
1979年登場。軌道検測車として921-31を組み込んでいた。
登場時は200系と同じ色をしていたが、1983年に黄色に塗り替えられた。
北陸新幹線長野開業時に周波数50/60Hz両用化改造、勾配対策がなされ、軌道検測車に2台車の921-32を組み込むようになった。2001年廃車。
編成記号・番号はS1。
10番台
1983年登場。200系のプロトタイプ車である962形を改造したもの。
こちらも当初は営業車と同じカラーリングだったが、緑の色味が異なっていた。
軌道検測車として921-41を組み込んでいた。
北陸(ry、周波数(ry。
2002年9月に運用終了。
編成記号・番号はS2。
921形
30番台
軌道検測車。仕様は東海道・山陽用の10・20番台とほぼ同様の3台車、17.5m級車両。31と41の2両が存在し、31がS1編成へ、41がS2編成へそれぞれ連結されていた。
921-32
軸重制限が東北・上越よりも厳しい北陸新幹線での軌道検測を可能にするため、200系の中間車から改造。レーザー光による測定を日本で初めて導入した車両で、外観をよく見ると方向幕・座席案内表示・雪切り室を塞いだ跡が残っていた。
1両しか存在しないので、S1・S2のどちらかへ組み込み、通常の定期検測では一定期間同一編成を連続して使用した。
East-iの導入による925形の廃車直前に検査期限が切れたため、2002年に廃車された。
E926形
925型の置き換え及びミニ新幹線区間の検測を目的に
E3系をベースに開発された。
愛称は「East i」で救急車をイメージした白と赤のカラーリングとなり、在来線向けの検測車も同じカラーリングで登場している。
北は北海道新幹線の新函館北斗から西は北陸新幹線敦賀まで検測し、新幹線車両では唯一JR3社にわたって走行する形式である。
6両編成1本とバラの1両が製造された。軌道検測車のE926-3・13以外すべての車両が
モーター付きで、ATC検測を行う時は先頭車両の運転台側台車のモーターをカットして運行する。
軌道検測車は車両検査と検測スケジュールが被った場合に備えて予備が1両製造されている。この予備車は専用の改造を施したE2系N21編成の1号車と2号車の間に連結して使用していた。車体断面が揃っておらず、デコボコな編成が高速走行する様はとてもシュールだった。
E2系の老朽化および後述する理由から2015年に廃車。
(ドクターイエローと比べると)地味なカラーリングや、検測ダイヤが平日に組まれており親子連れが見に行きづらいせいか非常に地味な存在で、JR東日本の公式Xでもその不人気ぶりを嘆いたことがある。
いっそ黄色にしたほうがいいんじゃないかな
創作の中のドクターイエロー
子供人気が高い車両でもあることから、子供向けのアニメ作品やおもちゃへの登場が多い。
925形をモチーフにしたヒカリアンとしてDr.イエローが登場。ヒカリアンステーションのオペレーターの一人であり、メカの整備から線路の整備まで一手に担う技術者。ヒカリアントレーラーやビッグワンダーの操縦手も兼ねている。
922形以降様々な形で製品化されたが検測車という立ち位置からライト付きは勿論「リモコン式」「カメラ付き」といった特殊なギミックを搭載する車両に選ばれることが多い。
E926形は中間車にドラム式の計器を搭載。ただ走行中計器は外から見えにくくなってしまうので、初期出荷分にはご丁寧に計器観察用の透明ボディーが付属していた。
主人公ダッシュの先輩として923形が登場。子供向け作品なのに「ドクターイエロー」の呼称はほぼ使われず「でんききどうそうごうしけんしゃ(電気軌道総合試験車)」名義という割と硬派な存在。
先輩レスキュートレインとしてダッシュの指導を行うがドジでおっちょこちょいなダッシュには手を焼いている。そして本作のオチ要員でもある。
オープニングと車両紹介にはE926形も登場したが本編の出番は無し。
ポケトレイン共々打ち切りで出番が消えたか。
923形T4編成をベースに開発されたシンカリオンとして
シンカリオン ドクターイエローが登場。運転士は
清洲リュウジ。
シンカリオン初の5両編成で変形する。使用する武器はレーザーウェポンで、状況に応じてソード、ブラスターと変形して使い分ける。更にE5はやぶさとのクロス合体機構も備える。
原作に相当するおもちゃのラインナップにはなく、アニメ版が初出となる。
その後第73話にて同じ編成をベースにした別機体の
シンカリオン 923ドクターイエローが登場している。運転士は速杉ホクト。こちらは2両変形となっており、オーバークロス合体に対応させている。武装はケンソクウェポン。劇場版ではリュウジも搭乗した。
続編『シンカリオンZ』では
シンカリオンZ ドクターイエローが登場している。運転士は安城シマカゼ。武装はトングレールソードとイヌクギショットガン。こちらは強化モード「Zホセンモード」への変形、更にE5(Z)との超Z合体機構も備える。
北上秋彦作の長編推理小説。
時速100kmを下回ると爆発する爆弾を取り付けられた
東北新幹線やまびこ・こまちが突貫工事による線路の接続で東北新幹線から東海道新幹線へ乗り入れた後の霞払いと作業員の輸送を兼ねる列車として登場。
発刊が1998年なので、922形が使われたと思われる。
922形20番台がモチーフの
でんこ、
黄陽セリアが登場。
妹のレイカ(E926形)共々、新幹線検測車がモチーフのためナースの格好をしている。スキルも検測車らしく「一定確率でHPが30%以下になったでんこのHPを回復」というもの。
詳細は項目参照。
将来
今後、
ドクターイエローの後継車は製造されないという見方が強い。なぜなら検測装置の小型化が進み、営業用車両に搭載することが可能になったからだ。
実際、
九州新幹線を保有する
JR九州では、営業車両である800系の一部編成に検測装置を必要に応じて搭載して検測を行っているし、JR東日本も同様に営業用車に検測装置を搭載した車両を導入し、前述のE926形の予備車を廃車にしている。
営業車両への測定装置搭載は営業車両に余計な負荷がかかることになるが、営業運転をしながらデータ収集が可能になるというメリットもある。効率化を進めたい鉄道会社としてはドクターイエローを無理に維持することもないのだ。
そして2024年6月13日、JR東海はドクターイエロー923形を2025年1月で引退させることを発表。
無事に1月末で最後の運用を終え、今後は営業用のN700Sに検測機器を搭載することで検測を行う。
同時にJR西日本の所属編成についても、2027年以降引退させることを発表した。
追記・修正は見かけてからお願いします。
- 保育園時代の乗り物ビデオでこの新幹線ばっか何度も観たよ。 -- 名無しさん (2017-08-30 20:48:55)
- とうとう引退か。 -- 名無しさん (2024-06-13 12:06:35)
最終更新:2025年03月11日 16:13