2階建車両

登録日:2018/04/17 Tue 23:06:20
更新日:2024/04/20 Sat 07:57:14
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2階建車両とは鉄道車両や自動車、特にバスにおいて客席部分が2層構造になっている車両のこと。ダブルデッカーとも言う。

複数の行先に向かう列車を1本にまとめた多層建て列車とはまた別の話。

●目次

概要

なぜ2階建て車両が作られるかだが、目的は大きく分けて2つある。
  1. 輸送力確保
  2. 眺望性で乗客を楽しませる
がある。

1.の輸送力確保だが、客室部分が2層に増えた分、同じ規格でも平屋車に比べて多くの座席を置いたり、立ち席スペースを広く取ったり出来る。
JR東日本の新幹線MAXに2階建て構造を採用したのも増え続ける新幹線通勤の需要に応えるため。
高速バスに2階建て車が多いのも、3列シートを採用しても広めの4列シートと同じレベルの輸送力を確保できる、逆に4列シートの詰め込み仕様にして1便あたりの乗客数を増やし、割引運賃を設定しやすくするというメリットを享受するという狙いがある。
ロンドンの2階建てバスも同じような理由で、とにかく大勢の人を運ぶために2階建て構造を採用した。
ちなみにヨーロッパにおいて2階建てバスは定員を増やすためのものと考えられており、西日本JRバスが夜行路線用に2階建て車を3列シート仕様でヨーロッパのバス車体メーカーに発注した所、「日本人は何故定員が多い2階建てバスをわざわざ定員の少ない仕様にしたいんだ?」と返され、事情をなかなか理解してもらえなかったという逸話がある*1

2.の眺望性だが、これは観光路線に多いもので例えばはとバスのオー・ソラ・ミオは屋根が開閉可能になっており、通常のスーパーハイデッカー車よりも高い床面から東京都心の風景を楽しめるようになっている。
新幹線100系も食堂車とグリーン車に2階建て車を採用したが、これも防音壁の上になる客席からの風景を楽しんでもらおうという意図があった。

瀬戸大橋線で運行されている快速マリンライナーの2階建ての車両も眺望確保が目的で連結が決定した。
この2階建て車のベースはJR東日本E217系の2階建てグリーン車とJR西日本の223系で、実車登場前のプレスリリースには223系の顔が付いた2階建て車のイメージ図が掲載されていた。

メリット・デメリットをまとめると
  1. 同じ長さでより多くの人を乗せられる
  2. 座席の間隔を広げたり、1列あたりの座席数を削ってもある程度定員を確保できる
  3. 眺めがいい
反対にデメリットは
  1. 車両のサイズには制限がかけられており、どうしても車内が窮屈になってしまう
  2. 普通の平屋車に比べて大きいので走行できる箇所に限りが生まれる
  3. 大きな機器類を設置できない→機器類の少ないトレーラー車が多くなる(客車列車主体の欧米では大して問題にならない場合が多いが、電車列車主体の日本では大問題となる)
  4. 車内のスペースを確保するために荷物棚が設置できない。設置できたとしても申し訳程度のサイズ
  5. 車内に階段が存在するので車内販売のワゴンが通り抜けできない
  6. 重心が高くなるため、横転しやすくなる(日本に2階建てバスが少ないのは法律の規制等は勿論、台風国家であることを意識したとも)
  7. 前面投影面積や表面積が増すので、空気抵抗や騒音が大きくなる
  8. 定員は増えても乗降扉の数は増やせないため、乗り降りに時間がかかる
がある。

鉄道における2階建て車

一度に大勢の人が乗車できる鉄道車両でも乗せられる人数には限界がある。
例えば山手線で使われているE235系電車は1編成11両の定員がおよそ1800人。乗客に命の危険が出るレベルまでぎゅう詰めにすれば1編成に5000人乗車も無理ではないが、下手すりゃ圧死する人間が出てくるし、快適性もガタ落ちである。
それに面積も限られているので設置できる座席の数にも限界がある。新幹線だと最大100人、在来線の特急型電車だと70人程度が最大となる。
しかし2階建て車を導入すると新幹線なら130人強、在来線だと90名分の座席を確保できる。

2階建て構造になっているのは台車と台車の間だけで、台車の部分には1階が存在しない。
このため海外の鉄道のようにプラットホームが低い場合は1階部分にドアを設けて車椅子利用者に配慮しつつ、2階部分にのみ貫通路を設けていることもある。
しかし日本の鉄道はホームが高いので、台車上は乗降扉や貫通路が設けてある平屋部分となっており、実質2階3層建てである。
車椅子利用者もそこに乗車することになるが、E4系のように車内にエレベータを設置することで車椅子利用者に配慮している例もある。
更に2階建て構造ということは当然車両内に階段が存在するので、車内販売でワゴンが使用できないというデメリットが生まれる。
このため車内販売は売店スペースや自動販売機を一部車両に設置し、巡回は手にカゴを提げて行うことになる。
解決策としては車椅子同様車内にワゴン用エレベータを設置するというものがあり、これについてはE4系がやはり実現している。
というかE4系の車いす用エレベータそのものが車内販売のワゴン用リフトを大型化したものである。

日本での歴史は大阪市電に登場した路面電車が最初で、普通鉄道では1960年代に近鉄特急のビスタカーが嚆矢となる。その後も長らく近鉄にしか導入例が無く、「2階建て=近鉄」の独壇場が続いていた。
1985年の100系登場を皮切りに、JR・私鉄各社で様々な2階建て車両が登場したが2000年代以降は前述したデメリットの多さから導入例は少なくなっており、現在継続的に導入・増備されているのはグリーン車のみである。

そういえばとある自治体のトップが自身の選挙公約に「満員電車ゼロ」を掲げ、その解消策に今の鉄道車両をそのまま2段重ねにし、ホームも2段重ねにした2階建て車の導入を提言した人*2が居たが、これはいくらなんでも無理があると思われる。

バスにおける2階建て車

イギリスの首都ロンドンで運行されていた真っ赤な車体の2階建てバス「ルートマスター」はロンドン市内の路面電車とトロリーバスの置き換えとして製造されたもので、利用者の多い路線では非常に好まれた。
香港、シンガポール、インドのムンバイなどイギリスの植民地だった都市では今でも2階建てバスが路線バスとして運行されている。
本家イギリスのルートマスターは2005年に第一線を退いたものの、ロンドン市内の名所を巡る観光バスとして今も現役である他、日本でもルートマスターが輸入されて運行されたことがある。

我らが日本では法律で自動車の全高は特認がない場合は3.8mまでに規制されている上、高さ3.8mで設計されているアンダーパス・立体交差・バスターミナルが多い。
なのでどうしても車内が窮屈目になり乗客の移動が頻繁にある路線バスではほとんど導入されず、高速バスやグレードの高い観光バスとして導入されたものばかりである。
全席3列独立シートを設置しても平屋の4列シート車と同レベルの定員を確保できるというメリットから2階建てバスは人気であり、特にドリーム号を筆頭に夜行・昼行高速バスを多数運行するJRバスグループではよく見かける。

ただ平屋車に比べて需要が大きく限られるのは否めず、製造・販売されたのは
  • 三菱ふそう・エアロキング
  • 日野自動車・グランビュー
  • 日産ディーゼル・スペースドリーム(国産車体を架装する前期型と、ヨーロッパ製の車体を架装する後期型がある)
の3車種のみ。まとまった台数が売れたのはエアロキングだけで、グランビューとスペースドリームの前期型に至ってはわずか10数台しか売れなかった。更にエアロキングも年々厳しくなる排気ガス規制への対応にかかるコストと販売実績が釣り合わず、2010年に製造中止。以後国産の2階建てバスの新車は全く存在していない。

それでも2階建てバスを欲しがる事業者が全くなくなったわけではなく、今も2階建てバスの製造が続くヨーロッパのメーカーから2階建てバスを輸入して対応しているところもある。
特にはとバスはヨーロッパサイズの2階建てバスをベースに日本サイズへ縮小したものを発注し、終いにはメーカーが正式ラインナップに加えた。

なお2階建てバスの導入目的として少数ながら「バリアフリー対応」というのがある。これは2階建てバスが限られた高さの範囲内で可能な限り室内高を確保するために1階席の床面高さが低く抑えられており、結果として1階へ乗り降りする時はステップがなくなり、バリアフリーを実現できたというもの。

バスにおける2階建て車はリアエンジン・リアドライブの場合フロントから後輪の手前あたりまでが2階建てとなり、後輪部分から後ろはエンジンルームやトランクスペースに充てられる。ルートマスターはフロントエンジン・リアドライブのため、現在主流のタイプとは構造が別。
2階建てのトランクルームはエンジンや燃料タンク、補機類の関係で非常に狭く、荷物が入り切らないことも多い。

2階建てバスの亜種にセミダブルデッカーバスというのもある。セミダブルデッカー、つまり車両の一部が2階建てになっているというもので、運転席の部分だけ2階建てにしたアンダーフロアコクピット車や、エンジンの位置を変えることでリアだけを2階建てにしたものが当てはまる。
前者は三菱・エアロクィーンIII、いすゞ・スーパークルーザー、日産・スペースウィングが、後者はボルボ・アステローペが当てはまる。
余談だが、アステローペはシャーシこそボルボ製だが、車体はSUBARUでお馴染みの富士重工業製で、アステローペの商標権は富士重が持っている。

主な2階建て車

鉄道

全車両が引退している。
100系は基本的に2両連結だが、「グランドひかり」の愛称を持つV編成は4両連結していた。
200系で唯一2階建て車両が連結されたH編成は他の編成と異なり、先頭車の顔が100系タイプの車両だった。
E1系とE4系はオール2階建て車両。そのうちE4系は8両で1編成を構成するが、2編成まで連結して運転することが可能で、2編成連結時の定員は1634人と時速200km/h以上で運転する高速鉄道では世界最大の定員を誇る。引退が決まっていたが、2019年台風19号によって長野新幹線車両センターが水没し、留置中のE7系が全滅したことで急遽定期検査の再施工がなされた。その後2021年10月に全車引退となった。
  • JR東日本
    • 113系(サロ124形・サロ125形)
    • 211系(サロ212形・サロ213形)
    • 215系
    • 251系(クロ250型・クロ251型・サロ251型)
    • 415系(クハ415-1901)
    • E217系・E231系・E233系・E235系・E531系のグリーン車
    • E26系カシオペア
215系はオール2階建て車両を銘打っていたが、両先頭車の1階は機器室となっている。主に通勤ライナー中央本線ホリデー快速、湘南新宿ラインに使われていた。2021年3月のダイヤ改正で湘南ライナー・ホリデー快速ともに特急格上げに伴い廃止となり全車運用離脱し、同年7月までにすべて廃車となった。
113系と415系はJR東日本からは全車両が引退済みで、113系のうち211系に編入された車両もすべて廃車となった。
251系もサフィール踊り子導入及びライナーの特急格上げにより運用離脱し、全て廃車となった。
中央線快速へのグリーン車導入に伴い、E233系通勤タイプにグリーン車が登場した。このグリーン車は従来の形式と異なり乗降時間を短縮するため両開き扉になっているのが特徴。

  • JR他社
    • 371系(JR東海)
    • 285系サンライズ瀬戸・サンライズ出雲(JR東海・JR西日本)
    • 5000系マリンライナーのグリーン・普通指定席車(JR四国)
    • キハ183系キサロハ182形・クリスタルエクスプレス・ノースレインボーエクスプレス(JR北海道)
371系は1編成のみのレア車両で、引退後は富士急行に譲渡されたが平屋の3両のみで2階建て車両は譲渡されていない。
キサロハ182形はスーパーとかちとして使用されていたが、現在は全て廃車となり現存していない。
クリスタルエクスプレスは小田急ロマンスカー同様、先頭車が展望座席となっていたが、函館本線で発生した特急の踏切事故の影響から座席は撤去された。いずれも引退済。

  • JR以外の各社
    • 近鉄50000系
    • 近鉄30000系・10100系・10000系(全てビスタカー)
    • 近鉄20100系「あおぞら」
    • 近鉄20000系「楽」
    • 小田急20000形RSE
    • 京阪8000系
    • 京阪3000系(初代)→富山地方鉄道10030系「ダブルデッカーエキスプレス」
近鉄20100系は、1962年にデビューした世界初のオール2階建て車両だが、中間車は電動車につき2階だけの構造だった。2階建て車両では珍しい非冷房車で、側面窓が開閉できたのも特徴。
定員確保を目的とした構造*3から修学旅行専用列車に主に使用されたが、時折特急や料金不要の快速急行など臨時列車に充当されることもあり一般人も利用可能だった。
近鉄ビスタカーは現役である30000系と団体用の「楽」以外は引退後、全て廃車となり現存していない。
普通鉄道規格での導入は長らく近鉄が唯一だったため、JR東日本は2階建てグリーン車の設計に際してビスタカーを視察したというエピソードも残されている。

小田急20000形はJR東海371系同様に引退後は富士急行に譲渡された。しかし、こちらも2階建て車両は譲渡されていない。

京阪3000系(初代)は中間車1両を改造したもので、史上唯一となる平屋建てからの改造車である。
試験的な導入だったが開始後運用の問い合わせが殺到したことから、最終的には8000系にも新造連結されるまでとなった。
引退後は富山地方鉄道に譲渡され、先に譲渡されていた先頭車2両と組み合わせて塗装*4もそのままで運用されている。地方私鉄では数少ないダブルデッカー車である。

  • 日本国外
    • TGV-Duplex(フランス国鉄)
    • IC2000(スイス国鉄)
    • ITX-青春(韓国鉄道公司)
    • アムトラック・スーパーライナー(アメリカ)
アムトラックが誇る2階建ての寝台客車。
シカゴを中心にアメリカの縦断・横断路線を走るかつての鉄道全盛時代の残滓。
…だが、余生を楽しむリタイア組や飛行機嫌いを中心に今でも結構な需要がある。
どちらの階も圧迫感を感じさせないほど天井が高く、当然ながら凄まじくデカい。貫通路も2階側にある。
まさに米国面
寝台車(スリーパー)と座席車(コーチ)があり、寝台の方は結構なお値段がするが、座席車はリーズナブル。
食堂車は必ず相席になり、知らない人とも会話を楽しむのがルール。がんばろう。
  • ギャラリーカー / ハイライナー(アメリカ)
それぞれ総2階建ての制御運転台付き客車と、シカゴで採用されている通勤電車。
アメリカでも北東回廊やシカゴ、カリフォルニアでは鉄道による通勤輸送が盛ん。
大人三人分にせまる全高と「カ」形式クラスの重量をもった巨大な車輌がひっきりなしに走り回っている。
車内改札をスムーズに行うため、2階の中央部分が吹き抜けになっている。

バス

  • 三菱ふそう・エアロキング
キングの名を冠する三菱のバスの中で最も大きな車両。2005年に一旦製造中止に追い込まれるもユーザーの熱烈なラブコールで2008年に復活したという経緯がある。
  • 日野・グランビュー
日野にとって初の本格的2階建てバス。1985年に発売されたが当時多発した事故の影響もあり販売は低迷、販売実績は5年でわずか10数台と開発費用をペイできず、1代限りで終了。現存する個体も非常に少ないが、1台は八王子にある日野オートプラザに保存されている。
但し、自動車玩具のトミカでは2000年まで発売が続けられたせいか、意外と知名度は高い。
  • 日産ディーゼル・スペースドリーム
1983年に登場した日産にとって初の本格的2階建てバス。富士重工業製の車体を載せ、まず横浜市交通局へ観光路線バス用として納車された。前述の理由から販売台数がグランビューと同じぐらいに低迷し、1988年に製造中止。
90年代の高速バスブームで2階建てバスの需要が激増したのに目をつけ、1993年に再デビュー。今度はベルギーのバス車体メーカーであるヨンケーレ製の車体を載せた。最初の方で書いた「3列シートの2階建てを発注したらメーカーに理解されなかった」というエピソードはこの車両のこと。足回りは日本で製造し、それを一旦ベルギーへ輸出して車体を載せ、もう一度日本へ輸入していた。
  • バンホール・アストロメガ
ベルギーの車体メーカーが開発した2階建てバス。元々ヨーロッパの基準に合わせたものがラインナップされていたが、はとバスの熱意が実って日本サイズに少しだけ小さくした車種がラインナップに加わった。はとバスの他には東京ヤサカ観光バス、京成バス、JRバス関東が運用している。
  • ルートマスター
ロンドンの風景でおなじみ真っ赤な塗装が特徴的な2階建てバス。日本にも何台かが輸入され乗客を乗せて走っていたほか、最近では広告バスとして様々なラッピングを施し、(お客は乗せずに)街中を走る例も見受けられる。


追記・修正は2階建て特有の揺れに耐えられる人がお願いします。

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最終更新:2024年04月20日 07:57

*1 ただこの車体メーカーにとって日本進出はエポックメイキングだったらしく、直後のモーターショーでは西日本JRバス仕様の車両が出品されている。

*2 そのトップには鉄道関係に詳しいらしいプレーンがいるため、おそらくその人物が言ったものと思われる。

*3 2人掛けと3人掛けの固定クロスシートや冷水器、スピードメーターの設置は国鉄の修学旅行電車である155系に準じている。

*4 側面には京都の時代祭のイラストが描かれている。