イエスタデイ(映画)

登録日:2020/04/26 Sun 19:03:59
更新日:2020/11/22 Sun 21:32:44
所要時間:約10分で読めます





昨日まで、世界中の誰もが知っていたビートルズ。
今日、僕以外の誰も知らない——。




「イエスタデイ」とは、2019年に公開されたイギリスの映画作品。*1
監督はダニー・ボイル、脚本を手掛けたのはリチャード・カーティス。

誰もが知っているバンド、ビートルズが突如人々の記憶から消えてしまった世界で唯一その存在を覚えている売れないミュージシャンが彼らの曲を使って成り上がっていく物語を描く。
全体的にコメディタッチながらも、他人の曲を使って突如大スターになってしまった主人公・ジャックの苦悩や、恋人未満の関係のヒロイン・エリーとのすれ違いといった王道ストーリーがビートルズの数々の名曲に乗せて描かれ、
ところどころに近年の音楽業界の風潮を皮肉るようなワンシーンやビートルズファンにはニヤリとさせられるような小ネタがちりばめられた作品である。

ちなみにアニヲタ界隈では映画のPVなどが解禁になると、そのあらすじから
「遂にハリウッドも異世界転生に手を出したか」
なろう原作キタコレ」
といった感じに良くも悪くも話題となった。
残念ながら受賞は逃したが、2020年の日本アカデミー賞の最優秀外国作品賞にノミネートされている。


「これは、ビートルズへのラブレターだ」
               ————ダニー・ボイル監督


ストーリー

イギリスの片田舎、サフォークの海辺の町に住む売れないミュージシャン・ジャックは親友のエリーから支えられながら、アルバイトをしつつミュージシャンとして活動していたが鳴かず飛ばずの日々が続いており、夢を諦めかけていた。
そんなある日、全世界で突如12秒間の世界同時停電が発生、運悪くその時交通事故に遭って意識を失ったジャックは退院後、世界でもっとも有名なバンド「ビートルズ」の存在が世界から消えており、自分だけがその曲を覚えていることに気付く。
彼らの曲を使って成り上がることを決意したジャックは徐々に世界から注目されるミュージシャンとなり遂にはLAに進出、大手レコード会社と契約しレコーディングに励むことに。
夢を叶えたかに思えたジャックだったが盗作行為への苦悩やエリーとのすれ違いから徐々に追い詰められていく。
そして地元イギリスでのアルバムの発売を告知するコンサートの終演後、ジャックと同じくビートルズの存在を覚えている2人の男女が楽屋を訪れ…。


登場人物

  • ジャック・マリック
演:ヒメーシュ・パテル/CV:菅原雅芳
本作の主人公。インド系イギリス人の売れないミュージシャン。
夢をあきらめたライブからの帰り道に突如として世界同時停電が発生、運悪く交通事故に遭い意識を失い、入院することに。
目覚めた後、退院祝いに友人たちの前で「イエスタデイ」を演奏したときの反応を不審に思い、なんと世界からビートルズの痕跡が消えていることに気付く。
世界でただ一人自分だけがビートルズの音楽を覚えていることを理解したジャックはビートルズの曲を使って成り上がることを決意。
テレビに取り上げられ、世界的なミュージシャンのエド・シーランの目に留まり遂にLAに進出、彼をも超える勢いで世界中でジャックの曲は話題になっていく。
しかし事実上の盗作行為にもかかわらず天才ミュージシャンとして周囲から祀り上げられていく中での多忙な日々や、疎遠になってしまったエリーから別れを告げられたことで次第に憔悴していき…。

  • エリー・アップルトン
演:リリー・ジェームズ/CV:園崎未恵
本作のヒロイン。ジャックとは幼馴染で、中学校の教師として仕事をしながら、ジャックのマネージャーとして彼を支えている。
学生時代にジャックの演奏を聴いた時から彼に惹かれていたものの、想いを告げることはなく、売れない彼をマネージャーとして励まし、支え続けていた。
ジャックの存在が全世界で話題になり始めると次第に彼と自分では住む世界が違うと考え始め、リヴァプールでの再会でその溝は決定的なものに。

  • ロッキー
演:ジョエル・フライ/CV:鶴岡聡
ジャックの友人。
仕事のためエド・シーランの欧州ツアーに付き添えないエリーの代わりに、絶賛無職中だったためジャックの付き人を務めることに。
ジャックとの話に夢中で付き人をしていたバンドをクビになったり、空気が読めない&無神経なポンコツ男だが、彼なりにジャックに対しては恩を感じており、ジャックも昔と変わらない態度で接してくれるロッキーの存在には感謝していた様子。

  • ギャビン
演:アレクサンダー・アーノルド
ジャックの地元での演奏を聴き感動して自分のスタジオを無償で提供したサウンドエンジニア。
彼の協力でジャックはCDを制作し、バイト先のスーパーで無償配布、TVの取材を受けることになり、エド・シーランの目に留まるきっかけとなった。
ジャックと破局したエリーと付き合うことになったが…。

  • エド・シーラン
演:本人/CV:勝杏里
なんとエド・シーランが本人役として登場。
TV番組で観たジャックの曲に感銘を受け、彼を自分の欧州ツアーの前座にスカウトする。
ジャックの才能を認め、
「いつか誰かに追い越されると思っていたが、それが君だった」
「君はモーツァルト、俺はサリエリだ」
と自嘲気味に語るちょっと不遇な役どころだが、途中で吹っ切れたのかジャックのレコーディングは楽しそうに見学していた。
「ヘイ・デュード」の件は絶許。
スマホの着信音は自身のヒット曲「シェイプ・オブ・ユー」。

  • デブラ・ハマー
演:ケイト・マッキノン/CV:深見梨加
エドのマネージャーを務める女性。
エドとの作曲対決に勝ったジャックに目を付け、彼にLAへの進出を持ち掛ける。
「私が差し出そうとしているのは世界一甘い毒杯——金と栄光よ」と語り、彼をスターダムへとのし上げる。
アーティストのことを「商品」と言い切る、昨今の音楽業界を象徴するような敏腕マネージャー。凄まじい顔芸とあわせて強烈なインパクトを残すキャラクター。

  • マーケティング責任者
演:ラモーネ・モリス
キャラクター名は不明。ジャックの初アルバムの「マーケ戦略最高会議」の代表を務める。
ジャックが提案していたビートルズのアルバム名をことごとく却下する会議シーンは視聴者からすると爆笑モノ。
「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」⇒妙ちくりんなタイトルで単語多すぎ。
「ホワイト・アルバム」⇒『多様性の問題』でNG。白過ぎるのはちょっと…
「アビイ・ロード」⇒普通の道路で地味、これじゃ売れないねぇ…。
自分で作詞作曲を行うジャックをただ一人の純粋な天才、と熱弁をふるいアルバム名を「ONE MAN ONLY(ワン・マン・オンリー)」と名付ける。
意識高い系イケイケ面白黒人枠。
純金のトイレットペーパーでケツを拭くぜ!

  • レオ
演:ジャスティン・エドワーズ
  • リズ
演:サラ・ランカシャー
ビートルズが消えてしまった世界で、ジャック同様ビートルズの存在を覚えていた2人。
レオはモスクワでの前座ライブで、リズは歌詞を思い出すためにビートルズの聖地・リヴァプールを訪れていたジャックを目撃していた。
イギリスでのコンサート後にジャックの楽屋を訪れ、ビートルズがいない世界で彼らの楽曲を世界に発信していることに感謝し、とある人物の住所が記されたメモを渡す——。

ストーリーの結末



作中に登場したビートルズの楽曲

  • イエスタデイ
作品タイトルにもなっている名曲
事故に遭ったジャックの退院祝いとしてプレゼントされたギターを使って友人たちの前で披露した。
「初めて」ビートルズの曲を聴く友人達のリアクションに戸惑うジャック。
この時はまだ、皆が自分をからかっているのかと思っていたが…。

  • ア・デイ・イン・ザ・ライフ
ジャックが事故に遭う瞬間に間奏部が流れる名曲
「とある事故のニュース」と「夢から覚めた男の日常」を描いたこの曲のイメージが、ジャックの運命を暗示している。

  • レット・イット・ビー
ジャックが両親とご近所さんの前でピアノを演奏して披露した名曲
玄関チャイムの音やら携帯の着信音で何度も演奏を遮られ、その上曲名を間違われたジャックは「ダ・ヴィンチがモナリザを描く瞬間だぞ!」とブチ切れた。

  • 抱きしめたい
  • シー・ラヴズ・ユー
  • アイ・ソー・ハー・スタンディングゼア
ギャビンのスタジオで収録した名曲
エリーやギャビンもノリノリで収録に参加していた。
ちなみにこの時に制作したCDは上記の3曲に加えて、「イエスタデイ」と「イン・マイ・ライフ」の5曲が収録されている。

  • イン・マイ・ライフ
バイト先のスーパーマーケットで配布していたCDが話題になり、取材を受けたTV番組で披露した名曲
この演奏をTVで観ていたエド・シーランがジャックの自宅を訪れ、自分のライブの前座にスカウトしたことでジャックの曲が全世界に知られるきっかけとなった。

  • バック・イン・ザ・U.S.S.R.
エド・シーランの欧州ツアーの前座で、モスクワ会場で演奏した名曲
モスクワでのライブということでこの曲を披露し会場でも大ウケだったが、
ライブ後のエドとの会話で「わざわざ“U.S.S.R.(ソ連)”と歌うのがシブい」と褒められた時にジャックはその理由を答えられなかった。

  • ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード
エドと即興での作曲対決で演奏した名曲
「ミュージシャンとしてのプライドをかけての対決」と告げるエドに対して、ジャックは悩みながらもこの曲を披露し、エドが敗北を認めるも後味の悪い決着になってしまった。

  • エリナー・リグビー
ジャックがなかなか歌詞を思い出せず苦戦していた名曲
他にもいくつか歌詞を思い出せない曲があり、ジャックはビートルズゆかりの地であるリヴァプールまで足を延ばし、そこですっかり疎遠になっていたエリーと再会する。

  • ヘイ・ジュード
ジャックのアルバムの収録曲となった名曲
レコーディングスタジオを訪れたエドとの音楽談議でジャックは歌詞や曲名の由来をうまく語ることができず、気まずい思いをしていた。
そのためエドに押し切られる形で「ジュード」は古臭いと「ヘイ・デュード(Dude、相棒という意味)」にタイトルと歌詞を変更させられてしまった。大ヒット確実!

  • ヘルプ!
ジャックの地元ホテルの屋上を使ったアルバムの告知ライブで演奏した名曲この世界の日本で鑑定団とかヨーカドーはどうなってるんだろ。
この時期、ジャックは事実上の盗作行為への罪悪感、エリーにギャビンとの交際を告げられるなど公私ともにストレスで憔悴しており、加熱する人気に助けを求める気持ちでジョン・レノンが作詞したというこの曲の背景と重なるようなシチュエーションとなっている。

  • ヒア・カムズ・ザ・サン
  • 愛こそはすべて
エドのライブに飛び入り参加して披露した名曲
この曲と共にジャックはエリーへの想いを打ち明け、そして会場に集まった観客たちに真実を告げる——。

  • オブ・ラ・ディ、オブ・ラ・ダ
エピローグでジャックが演奏した名曲
彼の選んだ、ささやかながらも幸せな人生の様子が歌詞とリンクする演出は必見。


余談・小ネタ

  • 実は「ビートルズ」以外にも色々なものが世界から消えている。
    • オアシス:ビートルズの流れをくむ正統派ブリティッシュ・ロックバンドも消滅。これでもう一本映画作れるのでは?
    • コカ・コーラ:世界で愛されているあのドリンクが消滅。そのため“コーク(Coke)”と言っても何のことか通じなかった。ペプシ派大歓喜。
      ビートルズの曲では、『カム・トゥゲザー』で「コカ・コーラ」という歌詞が出てくる*2
    • サタデー・ナイト・ライブ:アメリカの人気番組。「サーズデー・ナイト・ライブ」にタイトルが変わっていた。
    • タバコ:「こんな夜はタバコが恋しくなる」と言うジャックに対して「タバコって何?」とロッキーが聞き返して判明した。
      劇中では紙巻き煙草を意味する「cigarette」という単語が使われていたため、葉巻の様な他の種類のタバコが存在するのかは不明だが、環境や健康に配慮して近年映画などにタバコが出てくることが減ったのを皮肉っているのかもしれない。
    • 『ハリー・ポッター』シリーズ:作品のオチとなった一幕。エリーとの幸せを選んだジャックの言葉にエリーが質問するというシーンだったが、実は劇場公開時とは逆にジャックがエリーに「ハリー・ポッターって誰だい?」と聞き返す別エンディング案があり、ブルーレイの映像特典として収録されている。
      視聴者と同じ立場にいると思われていたジャックも実は『ハリー・ポッター』が失われた世界の住人だった…というなかなか秀逸な二段オチだが、少々ややこしいと思ったのかこちらは採用されなかった。

  • 主演のヒメーシュ・パテルはオーディションでジャック役を勝ち取っている。
    オーディションで独自のアレンジをして演奏した「イエスタデイ」と「バック・イン・ザ・U.S.S.R.」が監督に高評価されたとのことで、劇中のライブシーンや、のちに発売されたサウンドトラックに収録された楽曲もすべて彼が歌っている。


追記・修正はビートルズの全曲を完コピしてからお願いします。

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最終更新:2020年11月22日 21:32

*1 本国イギリスとアメリカでは19年6月に、日本では10月に公開された。

*2 ジョン・レノン作のこの歌は歌詞が結構ナンセンスで、日本でもレコード発売時に「歌詞が対訳不能」という状況になったりしたのだが、基本的にこの「コカ・コーラ」のくだりは、「(ポール・マッカートニーが)コカインを打ってラリっている」と解釈するのがファンの間では一般的。