ピルサドスキー(競走馬)

登録日:2021/08/19(木) 22:03:00
更新日:2024/11/23 Sat 21:04:08
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Pilsudski(ピルサドスキー)とはアイルランドで生まれたイギリスの元競走馬、および種牡馬である。1997年カルティエ賞最優秀古馬受賞。

イギリス、アイルランド、ドイツ、フランス、カナダ、日本で走り、ブリーダーズカップ・ターフ、ジャパンカップ、バーデン大賞、エクリプスステークス、チャンピオンステークス、アイリッシュチャンピオンステークスに勝ち、日本で種牡馬となった。

半妹に2002年の秋華賞、エリザベス女王杯を勝ったファインモーション*1がいる。
また半姉のハニーバン*2は繁殖牝馬として活躍し、その牝系からは2014年の中山大障害を制したレッドキングダムや、熊本産馬初のJRA重賞馬ヨカヨカを輩出している。

競走成績22戦10勝、GⅠレース6勝の優秀な成績の競走馬であるが、日本では1997年のジャパンカップでとあるやらかしをした事で有名になってしまった名馬にして迷馬である。

目次

来歴

生まれと血統、名前の由来

1992年4月23日生まれ、父ポリッシュプレセデント、母ココット、母の父トロイ。
父親はマイラーであった。母系は中長距離にも対応しているが、ファインモーション以外にも近親が日本に輸入されている。
名前の由来は父親の名前であるポリッシュプレセデント(ポーランドの先人と言う意味)とかかる、ポーランド共和国の建国の父ユゼフ・ピウスツキ*3よりとったもの。もともとは「ピルスドゥスキー」の登録名であったが、「ピウスツキにすべき」と言う意見がある中で馬主のウェインストック卿(ウェインストック男爵アーノルド・ウェインストック)に確認した結果、この馬名だと言う確認が取れた為……ということになっている。しかし、暫くは日本国内で国際問題になりかねないと言う声にも晒されるなど色々あった。むろん、後述の出来事からすれば大したことではないのだが。

デビューしてから

1994年に欧州戦線でデビュー。
3歳となった1995年7月にようやく初勝利をあげる。


4歳となる1996年に頭角を現しドイツのバーデン大賞に遠征、初のGⅠ競走挑戦ながら前年度の優勝馬ジャーマニーを下して優勝した。
そのままの勢いで凱旋門賞に出走、逃げるエリシオへのマークは引き離されて終わってしまうも2着と奮闘。
さらに北米の芝レースの最高峰ブリーダーズカップ・ターフでは、先行していた僚馬シングスピール(同年のジャパンカップ覇者)に対し最終直線で差し切って優勝、GⅠ競走2勝目をあげた。
騎手のスウィンバーンは怪我を乗り越えてからの勝利。調教師スタウトは15度目のBCターフ挑戦の初勝利。
なんとも劇的な勝利であった。


翌1997年はヨーロッパで連戦。
ガネー賞では再びエリシオを差し切れず3着。GⅡのハードウィックSも一旦は抜いたブレサピオに差し返されてしまう。
だが5頭立てだったエクリプスステークスは、逃げ馬ベニーザディップを徹底マークして見事に差し切り優勝。
キングジョージ6世&クイーンエリザベスダイヤモンドステークスではそれまでは負かしていたスウェインの仕掛けに対し対応が遅れ2着。なおエリシオには初めて先着した。
アイリッシュチャンピオンステークスでは愛ダービー馬デザートキングとの2強対決ムードであったが、中団から先に抜け出るとそのまま馬なりで圧勝を果たす。
凱旋門賞では他の先行馬すべてを差し切りながらも、それ以上の勢いで抜け出るパントレセレブルの2着に敗れた。古馬で2年連続2着である。オルフェーヴルみたいだな
英チャンピオンステークスは後位内側にぴったりとつけ残り2Fから馬群を潜り抜け、そのまま差し切る横綱相撲で勝利。
この年ここまで勝利したGⅠ競走は10ハロン(2000m)と中距離、敗北したのは12ハロン(2400m)と中長距離路線であった。


1997年ジャパンカップ

さて、ピルサドスキーは1997年限りで引退し、日本のJRAに買い取られて種牡馬として来日が決まる。
引退試合であるジャパンカップでは、欧米での優秀な成績から本来1番人気になると思われた…。


ところが当日、出走直前のパドックにて放送事故が発生する。
理由は不明であるが試合前にピルサドスキーが馬っ気を起こし、その様子がテレビカメラで全国のお茶の間に中継されてしまったのである。
なお馬っ気とは、勃起のことである!
ブラブラと動く大きくなったアレを観客と全国のお茶の間に見せつけたピルサドスキーだが、競馬においてレース前に馬っ気を出した競走馬は集中力を欠いてレースに勝てない傾向が強く、馬っ気を出した出走馬の馬券は買わない事が定石とされる。馬券購入を取り止める者は多く、ピルサドスキーは単勝オッズ4.6倍の3番人気にまで落ち込んでしまった。

なお他馬はバブルガムフェローが単勝オッズ3.7倍の1番人気、エアグルーヴが単勝オッズ4倍の2番人気、シルクジャスティスが単勝オッズ7倍の4番人気、オスカーシンドラーが単勝オッズ10.8倍の5番人気となった。

しかしピルサドスキーはそんな状態で、「切り」を選んだ馬券購入者の心情もお構いなく(出走馬唯一の牝馬である)エアグルーヴをクビ差破って優勝し、引退レースを見事勝利で飾った。
エアグルーヴ鞍上の武豊騎手は「あれだけ完璧な騎乗をしたエアグルーヴを差す馬が世界にいるなんて……」と絶句したと言う。

競馬評論家の大川慶次郎氏は自身の著書で、あれは発情ではなく「俺が一番強い!俺が王様だ!」というアピールを他の出走馬に対して誇示する動物行動学的見地に沿った行動であったと分析している。本人はちょっとオッズが上がった本馬を本命にしていたので儲けたであろう。
なお陣営によればピルサドスキーがパドックで馬っ気を出すのはいつものことだったらしい……。

5歳時に8戦4勝の成績を残した本馬は、日本でこんな騒動を起こしたにもかかわらずこの年のカルティエ賞最優秀古馬に選出された。


引退後と現在

引退後種牡馬入り。大川慶次郎氏も「私が牝馬を持っていたら是非ピルサドスキーを付けたい」とコメントし、ポスト・サンデーサイレンスの有力候補だとか、ジャパンカップ時の事件が原因でエアグルーヴと種付けで最強馬だとか、色々ファンに期待されたものの、2001年にデビューした個体が中央競馬で未勝利に終わるなど産駒の成績は振るわなかった。
GⅠレース6勝+最後にジャパンカップを勝っているので日本の芝適性もある+現役中に馬っ気出しながら勝った事から種付け意欲旺盛そうと思われた事から特に初年度は中々の質の繁殖牝馬を宛がわれていたのだが。後半の初年度の惨状を知って急降下した質を含めた総合の繁殖牝馬の質で見ても平均以上は確保している為、初年度はかなり質が高かったと思われる。
その後与えられる繁殖牝馬の質も量も下がっていき、産駒成績が上向くことは無かった。

ピルサドスキーのお相手の中には、日本競馬史上に残る大波乱を引き起こした「砂の貴婦人」サンドピアリスもいたが、そうそう大波乱を引き起こす馬が生まれて来ることはなく、タマモサンドスキー(牡馬)が3歳未勝利戦で1勝を上げた程度である。

2003年9月には母国アイルランドに買い戻され、障害競走の種牡馬を経て現在は国営牧場にて余生を送っているようである。

産駒の成績が振るわず後継種牡馬も得られなかったことから、現在日本にピルサドスキーの父系血統は残っていない。余談だが半妹ファインモーションは引退後受胎能力が無い事が判明したためそっちの子孫も存在しなかったり。

しかし彼の産駒の中から繁殖に入った牝馬がいることから、現在でも血統表の母系にピルサドスキーの名が載る馬は少数ながら日本で生まれており、
近年では母母父がピルサドスキーな牡馬フジユージーン(父ゴールデンバローズ。2021年生まれ)が所属する岩手競馬で重賞6勝を上げている。

また、元の馬主であるウェインストック卿が繁殖牝馬デザートビューティーを日本に送り込んでピルサドスキーを付け、再出国させてアイルランドで産まれた牝馬デザートブルームの産駒に、2013年のメルボルンカップ(芝3200m・GⅠ)を制したオーストラリア調教馬のフィオレンテ(牡馬、父モンズーン)がいる。ピルサドスキーの母父としての代表産駒では、今の所彼が一番の出世頭だろう。


ピルサドスキーの血を引く競走馬の中から、再び彼のような名馬にして迷馬が生まれてくるかもしれない…。


創作作品での登場

  • 漫画『優駿たちの蹄跡』
6巻収録の「第17回ジャパンカップ観戦記」に登場。
エアグルーヴに勝った事で彼女を応援していた記者に敵視されるが…。
一応この回はエアグルーヴが主役という事になってはいるが、テーマ的にはもう一頭の主役と言っても過言ではない重要な役割を担っている。
さすがに馬っ気には触れられていない。

日本馬との対戦はジャパンカップの一回だけで産駒もパッとしなかったという事もあって出番は少ないものの、
  • ジャパンカップ回ではいきなりエアグルーヴをナンパし始めて止めに入ったバブルガムフェローと乱闘騒ぎを起こす
  • なんでもアリま記念ではヨダレのチアズサイレンス、放尿のマーベラスサンデーに続いて仁王立ちのウマムスコでオチを付ける。
  • イトウユウジ厩舎の歴代名牝を代表してファインモーションの調査に来たエアグルーヴとタマタマ再会してナチュラルに口説きだす
……と、その少ない出番はなかなか「濃い」。そして当然の様に下半身にかかるモザイク

権利等の関係からピルサドスキー本人は実装していないが、史実で半妹だったファインモーションの育成ストーリーの中で「ファインの姉」なるピルサドスキーをモデルにしたであろうウマ娘が台詞だけ登場している。
世界を股に掛けて活躍しているウマ娘らしく、中性的な男口調が特徴。妹ファインモーションの事は「麗しのプリンセス」と呼んで大切に想っており、定期的に海外からメッセージやプレゼントを贈っている。
また、詳細は不明だがこちらでも過去にエアグルーヴとはなんらかの形で出会っている様子で、「我が心の女帝陛下」「忘れられぬ朱の眼差しの君」と案の定並々ならぬ情愛を抱いている。
妹を介して熱烈なアプローチを仕掛けているらしく、何度も接触のチャンスを窺っている。
当然エアグルーヴ本人からは苦手意識を抱かれており、その都度何かしらの理由をつけて逃げられている。

……と、名前も姿も声も無い存在でありながら、非常に「濃い」キャラに仕上がっている。

異国の茶の間に一度出てしまったのが運の尽き、迷馬扱いになってしまうとは……



追記・修正は放送事故を起こさずにお願いします。

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最終更新:2024年11月23日 21:04

*1 1999年生、父デインヒル

*2 1991年生、父アンフワイン

*3 1867-1935。当時実質ロシア帝国領だったポーランドを日露戦争・第一次世界大戦に乗じた1917年のロシア革命と翌年のドイツ革命を機に建国させ、独裁としながらも多民族国家を形成しようとした建国の父として知られる。なお日露戦争の際に来日もしており、東欧史では有名な人物でもある。