G1で単勝万馬券を記録した競走馬

登録日:2020/01/10 Fri 10:53:10
更新日:2025/04/14 Mon 14:14:13
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まず万馬券とは、競馬用語で払い戻しが100倍以上の配当があった馬券、すなわち一口の最低金額100円に対し10000円以上の払い戻しがある馬券のことであり、競馬ファンのロマンである。
競馬の賭け方は単勝、複勝、枠連などいろいろあり、2004年からは高配当が狙いやすい三連単も加わっているが、シンプルに一着を当てる単勝での万馬券が最も憧れるものだろう。

しかし、単勝オッズが100倍以上も付くということは、それだけ勝つ見込みが少ないと評価されていることにほかならず、実際にそのような馬が勝つことはそうそう起こるものではない。
ましてや、高い知名度や実績を誇る有力馬が多数参戦するGⅠレースともなれば尚更であろう。
それだけにGⅠにおける単勝万馬券は、その希少性やインパクトもあり記録にも記憶にも残るのである。

この項目はグレード制導入以降(1984年)の日本のGⅠ競走において単勝100倍以上で勝利した馬をまとめる。
※1984年以前の現GⅠ級レースの単勝万馬券*1は除外しています。

+ 目次

【GⅠで単勝万馬券となった競走馬たち】

サンドピアリス(1989年 エリザベス女王杯)

人気:20番人気(20頭立て)
配当:43,060円

平成時代最初のエリザベス女王杯で起こった大波乱。単勝43,060円はこのレースから30年以上経った2024年末でもGⅠ…どころかJRAの重賞史上最高、重賞以外のレースを含めても歴代11位*2の超高額配当で、関西の名競馬実況アナウンサー・杉本清氏は「忘れたくても忘れることの出来ないレース」としてこのレースを挙げており、自著のなかで、サンドピアリスについて実況の原点に戻してくれたという意味で「引退するまでつきまとってくる馬」とまで述べている。

父親は産駒の当たり外れが大きいダート→芝の初代アイドルホース・ハイセイコー、母親は典型的なダート馬。自身も勝ち鞍はダートのみで芝レースでの掲示板経験が無く、2000mレースでは9着、前三走が全てダートで掲示板外、鞍上の岸滋彦は重賞未勝利のうえGⅠ初騎乗と、買い要素を見つけようにも「ない」と言い切っていいレベルだった。
さらに出馬させた陣営も自信があったわけではなく、彼女を所有するクラブのオーナーは「初年度募集のクラブ馬をGⅠに出走させたい」、調教師は「主戦騎手の岸をGⅠに乗せてやりたい*3」という完全なる記念出走の考えであり、勝つことは期待されていなかった。

迎えた当日、サンドピアリスの人気は20頭の20番人気の430倍。19番人気のラブオンリーユーは293倍だったため、購入したのはクラブの出資者や全頭買いした人だけだと考えられる。
何せ実況の杉本氏は逆に「この馬だけは絶対に来ない」と考えていたと後に述懐しており、生産牧場の牧場主ですら応援馬券を「どうせ外れるから金の無駄」と判断して購入を諦めたレベル
と言うか生産牧場の牧場主すら「どうせ外れる」として買わなかったのだからクラブの出資者ですら馬券購入していたか怪しい領域である。

レースが始まると好スタートを切ったのは8枠1頭の1番人気である(と同時に、このレースで引退する予定の)桜花賞馬シャダイカグラ
レディゴシップ、キオイドリーム、ファンドリポポ、リアルプリティらと先頭集団で進んでいく。一方サンドピアリスは15番手、後方集団で追いかけてゆく。
3角でメジロモントレーがじわりと順位を上げていき、中団を映していたカメラが先頭に戻った時、異変は起きていた。

なんと4角に差し掛かったところでシャダイカグラが故障で失速。先頭争いをしていた人気の先行馬達は後退してくるシャダイカグラを躱すためコーナー途中で無駄に体力を使った結果、軒並み沈んでしまう。

直線でシャダイカグラが完全に馬込に沈み、インコースが渋滞する中、大外から突っ込んでくる馬が1頭。

さあ先頭は、ずーっと外を通りまして3枠から一頭サンドピアリスか?
おお、なんとサンドピアリスだ。サンドピアリスが先頭!

実況していた杉本氏も思わず驚愕の声と共に目の前の光景が間違いではないことを確かめる事態に。

そして懸命にシンエイロータス、ヤマフリアル、さらにシンビクトリーも突っ込んでくる

だが外から鋭く伸びたサンドピアリスはそのまま他馬を振り切って先頭に立ちそのままゴールイン。

あまりの衝撃に実況の杉本氏はゴール前後で

しかしびっくりだ!これはゼッケン番号6番、サンドピアリスに間違いない!*4サンドピアリスだ!サンドピアリスであります!
なんとなんと、ゼッケン番号6番のサンドピアリス、岸滋彦!びっくりしたエリザベス女王杯!

と繰り返すように叫んだ。

2着に14番人気のヤマフリアル、3着に10番人気のシンビクトリーが入線。この当時は単勝、複勝、枠連しか存在していなかったのだが、もし三連単があったらどれだけ着いたかというのは今でも話題になる。
当時と今では賞金や配当などの条件が異なるため一概には言えないが、一説には今の払い戻し計算式に当てはめて計算すると、三連単の場合2億に届いたのではないかと予想されている。
なお、生産牧場の牧場主は応援馬券を買わなかった事を家族からメチャクチャに怒られた。

その一方でシャダイカグラは4コーナーで右前脚の繋靱帯断裂を発症しており、最後まで完走する意地を見せた*5が結果は最下位20着となり、残念な形での引退となった。予後不良を免れて繁殖入りし、無事に産駒も出せたのは不幸中の幸いである。

サンドピアリスは様々な悲喜こもごもを生み出したこのレースの後は未勝利に終わるも芝の重賞常連となり、「2度あることはサンドピアリス」という横断幕が掲げられる人気馬となった。
オグリキャップの引退レースで有名な90年有馬記念こそブービーだったものの、その他の重賞8戦で掲示板には4回乗っており、特にエリザベス女王杯と同じ京都芝2400mのコースで行われた京都大賞典と京都記念ではそれぞれ3着、2着になって、このGⅠ勝利がフロックだけではないことを証明している。

また、鞍上の岸にとっては初重賞勝利がGⅠ初騎乗初勝利となった。

繁殖牝馬としても優秀(なんならシャダイカグラよりも成功している)であり、子供は勝ち上がりが多く、タマモストロングという重賞馬も輩出している。そして、2007年に他界した。


ダイユウサク(1991年 有馬記念)

人気:14番人気(15頭立て)
配当:13,790円

日本競馬史にその名を残す「最強の一発屋」
2023年末時点では有馬記念の史上初&唯一の単勝万馬券である。

当時6歳(旧7歳)。一応母父ダイコーターが菊花賞馬なものの、デビュー戦は大差シンガリ負けの大惨敗。しかし少しずつ実力をつけ始め、5歳秋にしてOP初勝利。
その勢いのままこの年の最初の重賞レースである京都金杯(GⅢ)を勝利し、産経大阪杯(GⅡ)2着、マイルCS(GⅠ)で5着などしたのちに、有馬記念の2週前に行われた阪神競馬場改修記念(OP)を勝利するなど勢いづいてはいたが、中山未経験、2001m以上のレースは未勝利などの要素が重なり15頭中14番人気に。

その際周囲も「正装して現れたダイユウサクの調教師を見て周囲が爆笑」「馬主も現地観戦しておらず*6、親族に「ディズニーランド行くんだったらついでに中山にも行って来て」と完全に有馬記念がおまけな頼みごとをする」レベルだった。
ただし正装して現れた事から分かる通り調教師だけは割と本気で勝てると思っていた
なんでも、この時のダイユウサクの仕上がりは「もう一度同じように仕上げようとしても絶対無理」なほど完璧であり、
「こりゃどうしても勝たせなきゃならん」と、調教師は最初岡部幸雄に騎乗依頼をかけたほどだという
そのうえ、「5枠のダイユウサクが優勝すると言う夢を見て『5枠だったら千円でいいからダイユウサク買っておけ、負けたら弁償する』とまで話していたら本当に5枠8番になった」という夢のお告げまであったということで、正装して来ていたとの事。

もっとも、そんな事情を知る由もない世間一般の考えとしては、二冠馬トウカイテイオー・菊花賞馬レオダーバンが回避したこともあり、このレースは1番人気であり、京都大賞典で当のダイユウサク(と翌年の有馬記念馬メジロパーマー)を撃破していたメジロマックイーンが、天皇賞(秋)での降着沙汰を乗り越えそっちの勝者プレクラスニーらにどう勝つか見るだけ、とまで言われていた。

しかし、ツインターボが逃げ、プレクラスニーとダイタクヘリオスがさほど離れずついていくというハイペース気味の展開の中後方待機を選んだダイユウサクは直線に入ると内ラチを急襲してマックイーン諸共先行集団を交わすと、遅れて差し切ったマックイーンの猛追をも振り切り1馬身差で勝利。ナイスネイチャ有馬記念3年連続3着の伝説が始まった瞬間でもある。
しかも勝ちタイム2分30秒6は従来のレースレコードを1秒1も更新するレコードタイム。2003年にシンボリクリスエスが0.1秒上回るまで12年間も更新されなかった。令和の今でも歴代トップ5に入る超優秀なタイムである。
その時のアナウンサーの実況は競馬ファンなら一度は聞いたことがあるのではないだろうか?

ダイユウサクだダイユウサクだ!これはびっくりダイユウサク!!

なおこの時、ついでに前々走マイルCSの勝利馬ダイタクヘリオス(5着)に対してもリベンジを達成している。

すわ覚醒の時かと思いきや翌年は6走するものの掲示板に乗ることすらなく、スワンS(15着)を最後に引退。種牡馬成績も産駒わずか17頭と失敗だった(一応地方で勝った仔はいる)ものの、功労馬として繋養され2013年に他界した。

実は馬名は馬主の孫の1人の名(コウサク)を取るつもりが、厩舎所属騎手で後に主戦にもなる熊沢重文騎手が「コ」の下の棒を長く書いてしまい、調教師が見間違えた結果の産物
一応馬名変更そのものは不可能ではないのだが、何せ初期数戦が大惨敗すぎる体たらくだった為に行われていなかった。

なお、その熊沢重文騎手は2023年に騎手を引退したが、その引退式ではダイユウサクの勝負服を着て登場、名前の元ネタになるはずだった橋元幸作(コウサク)氏から花束を受け取っている。


ダイタクヤマト(2000年 スプリンターズステークス)

人気:16番人気(16頭立て)
配当:25,750円

古馬以降20戦で一度たりとも1番人気を勝たせなかった穴党の申し子ダイタクヘリオスを父に持つ。
出走時点で32戦7勝、その年のOP勝ちもあったものの重賞成績は函館スプリントS(GⅢ)の2着しか実績がなく春のスプリントGⅠである高松宮記念や前哨戦のセントウルSでは掲示板外だったことで評価が下落。
しかも人気馬が海外GⅠを勝ったアグネスワールド、安田記念馬ブラックホークと差し馬に集中してたことから逃げ馬であることを理由にさらに嫌われてしまい、明らかに自分より短距離実績の劣るジョーディシラオキより人気が出ず16頭中16番人気となった。

しかし、スタートと同時に果敢にダッシュを決め逃げを打つと直線200mの時点でもスタミナは衰えず後続を突き放し、アグネスワールドを1馬身振り切る快勝。
さながら父ダイタクヘリオスのマイルCSを彷彿とさせる見事な走りを見せた。
そして鞍上の江田騎手は上記ダイユウサクの項にあるプレクラスニーの繰り上げ優勝以来となるGⅠ2勝目を挙げて穴騎手としての評価を確かな物とした。

逃げ切った!逃げ切った!逃げ切った!
ダイタクヤマト逃げ切り逃げ切り逃げ切り!!
アオシマバクシンオー青嶋達也アナ

その後にスワンSも勝利し同年の最優秀短距離馬・最優秀父内国産馬に選ばれた

その後GⅠ勝利こそなかったものの翌年まで短距離レースで活躍し引退して種牡馬入り。
しかしあまり結果を残せず数年後乗馬になった……はいいが、馬主の太陽ファームが親会社の大拓諸共06年に倒産してしまい、その影響か2012年頃から消息不明に。功労馬のはずなんだけどなあ。

当時の鞍上の江田照男は穴男と言われており、このレースを含めて歴代重賞の単勝万馬券の配当TOP10のうち2レースが江田照男騎乗の馬によるものである。


ユウフヨウホウ(2001年 中山大障害)

人気:10番人気(10頭立て)
配当:11,470円

ハイセイコーの曾孫で、障害レースの名馬ゴーカイを兄に持ったため、平地でデビューから5連敗した後はあっさりと障害レースに転向することとなる。
障害4戦目に初勝利し、その後2着3着と健闘するもだんだんと掲示板入りも出来なくなり、迎えた中山大障害では10頭中10番人気となる。

1番人気は兄ゴーカイ、2番人気は前走を9馬身差で圧勝したカネトシガバナー。この2頭が人気を分け合ったためユウフヨウホウは2桁オッズからはじき出されることとなった。

レースではそのカネトシガバナーを含む計4頭が落馬する荒れた展開となり、ゴーカイが直線で先頭にたったところを大外一気で交わし勝利。障害GⅠでは初の単勝万馬券およびJRA全体で見ても珍しい兄弟でのワンツーとなった。あと、兄ゴーカイは中山大障害で3年連続2着という珍記録を樹立した。
鞍上の今村康成*7に至ってはこれが通算9勝目、結果的に最初で最後の重賞勝ちとなり、それ以前に午後のレースを勝つ事自体も初めてだった。

その後は勝てないどころか掲示板に乗ることすらなくなり引退。最終成績は30戦2勝となった。その後は乗馬に転向している。


ノーリーズン(2002年 皐月賞)

人気:15番人気(18頭立て)
配当:11,590円

新馬、500万下(現:1勝クラス)と連勝した後、皐月賞の出走権利を得るために若葉Sに出走するも7着。
しかし、2/7の抽選枠を勝ち取り出走が叶う。落馬による負傷で主戦の武豊が離脱していたため(離脱していなくてもタニノギムレットに乗っていた可能性が高いが)、イギリスのブレット・ドイル騎手が騎乗。若葉Sの敗戦もあり18頭中15番人気だったが、道中は中団で構えると残り100mの地点でタイガーカフェを交わしそのままゴールイン。勝ち時計1分58秒5は三冠馬ナリタブライアンの記録を0.5秒上回るレコードタイムだった

アナウンサーはゴール直後に、本馬の名前の由来を使い「理由なき反抗とは言わないでくれノーリーズン」と実況した。

その後、ダービーで8着に敗れたあと、軽い骨折で休養。秋は復帰した神戸新聞杯で2着に入って復活をアピール、1番人気で菊花賞に臨む。
……が、レーススタート直後に躓いて鞍上の武豊が落馬してしまい競走中止
結果総売り上げの47%である112億円が一瞬で紙屑になってしまい場内は阿鼻叫喚。
しかもこの時人気薄のヒシミラクル・ファストタテヤマがワンツーフィニッシュを決め馬連9万6070円・三連複34万4630円と複数の万馬券が発生したため、JRAには八百長を疑う抗議の電話が殺到したという。
こちらは単勝万馬券とまではいかなかった(36.6倍)が、奇妙な形でクラシック二冠にわたって波乱を巻き起こすことになった。
この後は不調と屈腱炎に苦しみ、馬券に絡むことなく2年後に引退。

種牡馬入りしたが注目を浴びることはなく、そちらも辞めてから繋養されてた福島県相馬市では被災するなど苦労気味だが、2022年までは福島県で行われる相馬野馬追の花形スターとして活躍するなど、元気に余生を送っていた。
そして2024年5月7日、老衰のため永眠。享年25歳。


ビートブラック(2012年 天皇賞・春)

人気:14番人気(18頭立て)
配当:15,960円

父の母は名マイル馬ノースフライトなものの、父ミスキャストはサンデーサイレンスの直仔だが普通のオープン馬という地味な血統の持ち主で、
2010年の菊花賞で3着に入線してから中長距離の重賞レースの過去五走は5→11→4→6→10着と結果が残せておらず、このレースから当時GⅠ未勝利ジョッキーの石橋脩に乗り替わったこともあり18頭中14番人気となる。

1番人気はこの年の阪神大賞典で無茶苦茶なレースをしながら2着まで追い込んできた黄金の暴君こと三冠馬オルフェーヴル。オッズはなんと1.3倍と誰もがオルフェーヴルの勝利を確信していたのだが…。

レースが始まるとゴールデンハインドが大逃げを打ち、2番手に控える形になる。しかし高速馬場の影響と他の人気馬がオルフェーヴルをマークしていた影響で直線を向いた時点で後続に8馬身以上のリードをつけており、そのまま天皇賞秋春連覇を目指すトーセンジョーダンの追撃をものともせず4馬身差で圧勝。タイムは3分13秒8であのリアルチートディープインパクトの超レコード並み(僅か0.4秒差)という素晴らしい結果だった。なおオルフェーヴルは全く動かず11着と大敗してしまった。

ビートブラックは重賞初勝利をGⅠで挙げ、鞍上の石橋もGⅠ初勝利*8。ミスキャスト産駒にとってもこれが唯一の重賞勝利となった。なお、80年以上の歴史がある天皇賞で単勝万馬券が出たのは春秋合わせてもこのレースだけである。

なお3連単の配当は残りが3番人気→2番人気での決着ながら145万2520円と100万馬券になった。これは圧倒的1番人気に支持されたオルフェーヴルが馬券外に沈んだことが大きい。2024年現在、単勝100倍以上の馬が勝ったGⅠで100万馬券が出たのはこれだけである。

その後は宝塚記念やJC、有馬記念などに出走。特にJCでは7着だったものの大逃げで見せ場をたっぷり作る活躍を見せた。ところが翌2013年に馬体に故障をしてしまい、2014年復帰戦となった大阪杯8着を最後に引退。
2015年以降は結果として唯一となる重賞勝鞍を挙げた京都競馬場で誘導馬として活動していたが、2023年をもって引退。馬事公苑に移った直後の2024年2月に転倒による骨折が元で死亡した。


コパノリッキー(2014年 フェブラリーステークス)

人気:16番人気(16頭立て)
配当:27,210円

日本競馬に絶大な影響を齎した大種牡馬・サンデーサイレンスの産駒の中でも唯一のダートGⅠ馬であるゴールドアリュールの産駒。馬主は風水で知られる「Dr.コパ」こと建築家の小林祥晃氏。
3歳春に1番人気で伏竜Sと兵庫CS(Jpn2)を勝ち、その勢いで日本ダービー出走を表明するが不運にもその直後に骨折して休養。復帰後の秋2戦はそれぞれ10着9着と惨敗していた。

翌年のフェブラリーステークスでは、前哨戦の根岸ステークスを勝利した同厩馬テスタマッタの故障引退によって空いた出走枠をケイアイレオーネとの抽選の末に勝ち取り出走が叶うも、前年のジャパンカップダート勝利馬ベルシャザールや前年のJpn1*9を4勝したホッコータルマエなど強敵が揃ったこともあり16頭中16番人気(単勝オッズ272.1倍)というぶっちぎりの最低人気*10に。
鞍上も、今まで騎乗したジョッキーたちが別の馬に乗ることもあって、テスタマッタからスライドした田辺裕信騎手が騎乗することとなった。

スタートするとエーシントップが先頭に立ちコパノリッキーは2番手に控える形に。
直線に入ると馬群に沈んでいくエーシントップを横目に先頭に立ったあとは脚色が衰えることなく逃げ粘り、ホッコータルマエの追い込みを半馬身しのいで勝利。
コパノリッキー、馬主、騎手は揃ってGⅠ初勝利となった。

見ての通り本項で扱われる馬はその後そこそこ程度には活躍するか、あるいは正真正銘の一発屋に終わるのが大半だが、コパノリッキーは例外中の例外
その後も風水によって武豊に乗り替わったり田辺に戻ったりしながらホッコータルマエとともに二強の一角として長きにわたってダートレース界に君臨、GⅠ・Jpn1の勝ち星を重ね続け、
最終的に日本馬で歴代最多であるGⅠ級レース11勝をマーク。万馬券の実績が霞むほどの名馬へと成り上がった。

この翌年のフェブラリーSでは、最低人気の前年とは打って変わって1番人気に支持され、そのまま連覇を達成している。

去年はなんとまさかのコパノリッキー!今年はやっぱりコパノリッキー!


キャッスルトップ(2021年 ジャパンダートダービー(JDD))

人気:12番人気(13頭立て)
配当:12,950円

令和に起こった大波乱。
なんとこの馬、ジャパンダートダービーの出走二ヶ月前まで未勝利の状態でJpn1に殴り込んできたのである。陣営側も同週の条件戦とどっちを使うか迷ってたとか

鞍上は重賞勝利どころか地方所属歴8年で通算44勝、JDD前時点で2021年は4勝(なお、その内2勝がこの馬)しか挙げられていないし船橋所属と言う事もあり前年度含めて大井未勝利、今年に至ってはこのJDDが大井競馬場初騎乗の仲野光馬騎手。
そもそも調教師もオーナーブリーダーもダートグレード重賞制覇経験なし
さらに血統的に見ても父バンブーエール、母父マヤノトップガンというあまり繁殖成績が芳しくない血統
これで地方と中央の実力差が大きく堅いレースになりやすいダートグレード競走に出走。遠征疲れっぽく見える-11kg。買える要素が少なすぎる。
ただ初めて逃げ戦法を取り、8馬身差で大楽勝したレース以降は3連勝中で、どれも強い勝ち方をしていた。

本命馬が不在と目され上位人気をスマッシャー(ユニコーンS(GⅢ):一着)やゴッドセレクション(伏竜S(OP):一着、兵庫CS(Jpn2):二着)、牝馬によるJDD初制覇を目論む紅一点ウェルドーン(関東オークス(Jpn2):一着)など中央馬が分け合ってる中、
キャッスルトップはひっそり隠れて13頭立て12番人気のブービー人気
と言っても本来は出走資格すらなかったのが同地区の代表馬が回避したことによる繰り上がり出走であると言う状況を鑑みればむしろ殿人気じゃないだけ人気があるとも言える*11

そして迎えたレース本番。
新型コロナ感染対策のため無観客試合で行われた大井競馬場の静寂をゲートの開く音が破ると、スタートダッシュですんなり前を取り後続と3馬身のリードを確保、稍重のダートを1000m62秒6のペースで先頭を走る。
第3コーナーで少し詰め寄られるものの、再び引き離して最終コーナーへ。この時点で地方馬としては充分な健闘である。
もちろん最終直線に入ると中央馬のゴッドセレクション、ウェルドーン、スマッシャーが本格的に追い上げてくる。
道中に貯金したリードはどんどん詰まり、健闘空しくキャッスルトップは垂れ………てこない。それどころか最後の一伸びを見せるではないか!
そのまま絶句する視聴者を尻目に先頭でゴールイン。実況アナウンサーまでもゴール直後、放送席スタッフのざわめきが聞こえるほど一瞬絶句。そして開口一番「恐れ入りました!」と発した。

仲野騎手の一世一代の大騎乗による鮮やかな逃げ切り勝ちであった。
何せインタビューで「こうなったらいいなと妄想していた理想のレース展開そのまま行った(意訳)」と言っているぐらいである
1番人気に支持されたスマッシャーは4着に敗れてる。

ちなみにこのとき東京MXテレビの生中継でパドック解説をしていたトラックマンだけがキャッスルトップを本命として挙げていた。全く彼の慧眼には恐れ入るものである。彼は穴党として有名で普段外しまくってるのは内緒。

レース後に血統表をよく見てみると、日本の主流血統であるサンデーサイレンスの血が入っていない…のはまだいいとして、それどころか世界的な主流血統であるノーザンダンサーの血すら一滴も入っていないこと、
その代わりとばかりにブライアンズタイム*12、タケシバオー*13、リユウフオーレル*14、ヒンドスタン*15、ボストニアン*16、セフト*17、プリメロ*18、ダイオライト*19、シアンモア*20
往年の八大競走を制した名馬や名種牡馬等の血が入っている超ロマン血統だったことが判明。
もはや走る骨董品だよ。
競馬民をさらに驚かせたのであった。

なお彼はこの激走で完全に燃え尽きてしまったのか、JDD後は勝ち星ゼロどころかほぼ全戦掲示板外(一応2着は一回あるが)という状況が長らく続いていた。

2024年10月に高知競馬に移籍。そこでのデビュー戦を得意のスタートダッシュと逃げ切りで、2021年のJDD以来3年3ヶ月ぶりの勝利で飾った。
新天地での復活劇がこのまま続くのか、要注目…とか言っていたらその後も馬券に絡み続ける大活躍。
どうやら上手く復活できたようだ。


テンハッピーローズ(2024年 ヴィクトリアマイル)

人気:14番人気(15頭立て)
配当:20,860円

ヴィクトリアマイルで起こった令和2度目の、そしてGⅠとしては初の大波乱(前述のJDDはJpn1)。

何かと「荒れやすい」と言われるヴィクトリアマイルだが、過去10年ほどでみると二桁人気が勝ったのは連覇した時のヴィルシーナ(11番人気)が最後で、以降は最低でも8番人気。
5年ほどで見れば最も人気が低くてノームコアの5番人気でそれ以外はアーモンドアイ・グランアレグリア・ソダシ・ソングラインと人気馬が勝っており大荒れとは無縁。
馬券に二桁人気が絡んで3連単などの大荒れはあっても、1着馬の大荒れは第2回のコイウタの12番人気(60.3倍)が過去最低だった。
そして2024年のメンバーはレース前は前年のマイルCSを制し、前走のドバイターフでも2着に入り、しかも鞍上にこの日前人未到のJRA通算4500勝を挙げた武豊騎手を迎えたナミュールと、
前走の阪神牝馬ステークスを制し、鞍上にこちらも世界的名手モレイラ騎手を迎えたマスクトディーヴァの2強ムード。
オッズもこの2頭が2倍台で人気を二分し、3番人気で9倍台というほぼ決まったともいえる堅そうなメンバーだった。

そんな中テンハッピーローズは重賞未勝利&GⅠ初挑戦・前走阪神牝馬Sで自分(0.4秒差6着)に先着した馬がほぼ全馬出ている・鞍上の津村明秀騎手はGⅢだけで17勝しながらGⅡ以上は0勝のGⅢ専とも揶揄される騎手・父エピファネイアの産駒が古馬になってからGⅠを勝った馬がおらず早熟早枯れ傾向とみられていたといったこともあり、複勝やワイドならともかく単勝を積極的に狙う要素が少なかった。
上がり3Fは安定して早め・メンバーの中では府中含めた左回り経験が豊富な方…など好材料が無いわけではなかったのだが、その辺をひっくるめて調教から判断してみようとしたら出てくるのは、顔を左右に上げて暴走しているクソみたいな最終追切
その結果阪神牝馬Sで1.2秒差10着のライラックより人気を落とし15頭中14番人気のブービー人気という評価となってしまった。

レースではなんと2番人気のナミュールが出遅れる波乱で幕を開ける中、中団後方で上手く折り合いをつけて辛抱強くレースを進め、最後の直線で1番人気のマスクトディーヴァがマークされまくって外に持ち出せず進路確保に手間取るのと対照的にロスなく外に持ち出して末脚一閃。
上がり3F33.9(メンバー3位タイ)の脚で撃沈していく先行馬たちを次々交わし、残り100m近くで先頭に躍り出ると、上位人気&前走上位着順馬を嘲笑うかのようにそのまま押し切って1着入線、見事リベンジを果たす大金星を挙げた。

9番テンハッピーローズだゴールイン!!!大荒れの歴史は繰り返された、ヴィクトリアマイル!!!

鞍上の津村明秀は騎手生活21年目にしてGⅡすっ飛ばして悲願のGⅠ初制覇馬主の天白オーナーに至っては馬主生活32年目にしてなんと重賞初勝利。エピファネイア産駒も古馬になってGⅠを勝利する馬は彼女が初*21
単勝配当20860円と馬連配当93690円ヴィクトリアマイル史上最高配当(馬連・馬単ベース)*22
2着に4番人気の同期フィアスプライドが、3着に1番人気のマスクトディーヴァが入ったことで三連単は9166.4倍と100万馬券にはならなかった*23もののかなりの大波乱となった。
これによりヴィクトリアマイルは3年連続で2021年クラシック世代が制した一方、2強と目されていたはずのナミュールは出遅れたこともあり8着に沈んだ。
ちなみにWIN5*24は他のレースも人気薄が複数回来ていたのもあり、払戻金は歴代4位の4億4605万7430円となったがそれを見事に的中させた勝負師が一人だけいたのも話題になった。
また、勝利後のウイニングランでは観客のいる外ラチ一杯まで寄っていき、声援に斜め横歩で応じるファンサービスを見せ、その可愛らしい様子に心に薔薇が咲いた(ファンになった)観客も多かった模様*25

なおこの勝利は当然他の人たちにとっても予想外過ぎる出来事であり、オーナーは「本当に自分の馬かと疑ってしまいました」と述べ、またその時津村騎手の家族は東京競馬場に来ておらず全員サッカーの試合を見に行っていた*26ことを本人がインタビューで暴露している。
2着のフィアスプライドを管理している名伯楽・国枝栄調教師も「きょうは描いたようにうまく乗ってくれてここまで頑張ってくれた。しかし津村か。うちの馬で勝てなくて(カレンブーケドール*27で3度のGⅠ2着)うちのを負かしていくんだから」と苦笑せざるを得なかった。

その後はセントウルステークスをステップにBCマイルへ挑戦。セントウルステークスは7着だったが、BCマイルは果敢な先行策で勝ち馬モアザンルックスの僅差4着と大健闘(後輩皐月賞馬ジオグリフにも先着)。ヴィクトリアマイルの勝利が決してフロックではないと言える内容で、津村騎手も「悔いのないレースができた。夢を見ましたね。いい経験をさせてもらった。」と清々しい表情だった。
7歳となった2025年はヴィクトリアマイル連覇を目標としサウジアラビアの1351ターフスプリントから始動したが7着に敗れた。帰国後は予定通りヴィクトリアマイルに挑むかどうか協議したが「今なら繁殖に間に合うし頑張ってくれたので元気なうちに引退しましょう」というオーナーの意向により3月5日付で登録抹消して引退・繁殖入りとなった。


番外編

ミナレット(2015年 ヴィクトリアマイル)

人気:18番人気(18頭立て)
単勝オッズ:291.8倍

新馬戦を14番人気で勝利(単勝:12,190円)。そのレースの2着は同着となったが、その2着の馬もヘイハチピカチャン(12番人気)とファイヤヒース(10番人気)だった。
この場合、馬連、馬単、三連単の三種類の馬券のあたりは2通りとなるため当選金額は半分となってしまう。
しかし、新潟競馬場の電光掲示板に表示された三連単の金額に観客は度肝を抜かれる事となる。その配当は……

ミナレット→ファイヤヒース→ヘイハチピカチャンが1491万6520円
そして、ミナレット→ヘイハチピカチャン→ファイヤヒースの三連単は歴代最高額*28である2983万5250円

という超大波乱を演出。
もしこれで2着が同着ではなく上のケースで決まっていた場合、5966万5980円という空前絶後の配当額になっていた。

その後もコンスタントに勝ち星を重ね、2014年の暮れにターコイズSを勝利してOP馬に昇格。しかし2015年の重賞競走では中山牝馬Sは逃げバテて11着、福島牝馬Sは先行して5着(どちらもGⅢ)と競走成績は超一流とは程遠いものだった。重賞で掲示板に入れただけでも十分すごいことではあるのだが
福島牝馬S5着…とはいっても0.2秒しか負けていなかった(=展開さえ向けば優勝は十分ありえた)ため、陣営はヴィクトリアマイルに出走することを選択。鞍上にはかつてダイタクヤマトで一波乱起こした江田照男を新たに迎えて出陣。
人気は18頭中18番人気*29だったが、調教師は「無印も立派な印だ!頑張ってください!」と関係者に檄を飛ばしていた。
レースが開始するとミナレットは大逃げを打ち、1000m56.9秒のハイペースで通過し直線へ。誰もが二番手のケイアイエレガントと共に力尽きると思っていたが、二頭の足は止まらなかった。
残り50mでケイアイエレガントがミナレットを交わし、さらに外からストレイトガールが交わした所でゴールイン。結果としては3着だったが、GⅠ初挑戦3着は立派な結果である。
勝ったストレイトガールは5番人気、2着のケイアイエレガントは12番人気。その結果3連単はGⅠ歴代最高配当の2070万5080円となった。ちなみにミナレットの複勝馬券も8,500円。これ以前は先述したサンドピアリスの7,670円がGⅠ史上最高の複勝配当だったのだが、それを上回ってしまった。2025年現在も、この記録は破られていない。

その後は特に目立った活躍は無く2016年に引退、繁殖牝馬となった。

2024年5月現在、彼女の息子であるコルニリアが高知競馬で頑張っており、中央在籍時には10番人気(オッズ30.4倍)で1着になったり最低人気(オッズ221.2倍)で3着に来たりなど波乱を何度か起こしていた。波乱を起こすところまで遺伝するんかい。

余談であるが実はGⅠどころか重賞で三連単が1000万円を超えたのはこのレースを含め2回しかない。
もう一つは2008年の秋華賞で1098万2020円(ブラックエンブレム→ムードインディゴ→プロヴィナージュ(それぞれ11-8-16番人気))である。

なお東京芝1600mのGⅠは年3レースある(当項目のヴィクトリアマイル、NHKマイルカップ、安田記念)が、どれも単勝100倍超えが馬券内となることが時折ある難解なレースとして知られている。


コズミックフォース(2018年 日本ダービー)

人気:16番人気(18頭立て)
単勝オッズ:223.7倍

平成最後のダービーで起こった大波乱の立役者。

僅差ではあったもののプリンシパルS(東京芝2000m)を1番人気に応え優勝しダービーに殴り込みをかけたが、2歳王者ダノンプレミアム、3戦無敗の毎日杯馬でのちに有馬記念も勝つことになるブラストワンピースが人気となる中、2000m以上は未勝利&それまでのルメール騎手からダービー初参戦の石橋脩騎手に乗り替わりとなったことなどが重なり18頭中16番人気という超低評価となってしまう。

ただ、東京芝2000mの走破タイムが3歳馬トップクラスに速いタイムなことに気づいた人は当時どれだけいたのだろうか。

本番ではプリンシパルSより前の3~4番手に着けたことが功を奏し、一瞬だが先頭に立つ場面もあるなど最後の最後まで粘りを見せたが、勝ち馬ワグネリアン(5番人気)と0.2秒差の3着と惜敗。だが1・2番人気となった上述の二頭には先着することができたので大健闘である。

上述のようにかなりの低評価だったため配当金が爆上がり。馬連が7950円だったのに対しコズミックフォースの馬番(7)が入った馬券は複勝でも3,640円、ワイドは最高3万4420円でワイドベースでダービー史上最高配当、三連単に至っては285万6300円でこちらもダービー史上最高配当となった。

その後はたまに掲示板に入る程度で負け続きとなり、2020年8月に鼻出血&肺出血を発症したことで地方に移籍。2021年には勝島王冠で優勝するなど活躍していたが、2023年に現役引退。彼の引退をもって2018年日本ダービーの出走馬は全員表舞台から去ることとなった。


ショウナンアンセム(2019年 高松宮記念)

人気:17番人気(18頭立て)
単勝オッズ:358.9倍

上記のコズミックフォースと同じく、平成最後の大波乱の立役者。

2018年の多摩川S(1600万下(現:3勝クラス))・パラダイスS(OP)で2連勝した後は二桁順位がほとんどだったが、前走の夕刊フジオーシャンS(GⅢ)では13番人気ながら5着と好走。そのためか高松宮記念当日は最低人気こそ免れたもののブービーの17番人気に。

レース序盤はやや後ろにつけ様子をうかがい、残り200m地点付近で3番人気ミスターメロディと2番人気モズスーパーフレアの間にできた僅かな隙間を抜け3番手につけたが、序盤から飛ばしたセイウンコウセイと根性を見せたミスターメロディを抜かすことはできなかった。鞍上の藤岡康太騎手も「着差が着差だけに何とかしたかったです」と悔やんだが、1番人気のダノンスマッシュ(4着)に先着できたのだから大健闘だろう。

結果は1着ミスターメロディ、2着セイウンコウセイ、3着ショウナンアンセム。それぞれ3-12-17番人気だったため、三連単が449万7470円、馬連でも3万530円、セイウンコウセイとショウナンアンセムのワイドは8万8520円*30という大波乱。なお、GⅠで単勝オッズが300倍以上の馬が馬券内に入ったのは前述のサンドピアリス以来30年ぶりのことだった。

その後は5つのレースに出場したが全て惨敗し2020年に引退。現在は福島競馬場にて誘導馬として活動している。

余談だがこの大波乱から3年経った2022年も、ショウナンアンセムと同じ17番人気だったキルロードが3着に激走。どちらも以前に東京芝1400mで逃げ切り勝ちがあるという共通点があるので、今後の予想の参考にするといい…かも。


カワキタレブリー(2022年 NHKマイルカップ)

人気:18番人気(18頭立て)
単勝オッズ:229.1倍

2025年1月現在、令和時代のGⅠレースにて最低人気が馬券内となった唯一の事例。

当時の戦績は8戦2勝(3着2回)とまずまずではあったものの、前哨戦のアーリントンカップ(GⅢ)で勝ち馬から1秒離された大敗であったことや1600m戦での勝利が一度しか無かったことも響いたか、何故かダート1400mの未勝利戦で勝利したばかり&芝実績一切なしのセイクリッドより人気を落とす*31超人気薄となってしまった。
レース中は後方4番手あたりでじっくりと構え、最終直線で一気に加速。1番人気に推されていたセリフォスを1馬身抜かし3着に入線する大健闘を見せたのであった。カワキタレブリーの馬番(10)が入った馬券は複勝で4,780円もつき、これはNHKマイルカップ史上最高配当である。ちなみに当レースで最低人気が馬券に絡むのは2007年のムラマサノヨートー以来2例目。

結果論であるがデイリー杯2歳Sで勝ち馬セリフォスから0.2秒差3着だったのがフラグなのだろう

その後は条件戦をウロウロしていたが、翌2023年のNHKマイルカップ開催日に行われた湘南Sで見事優勝しオープン入りを果たす。

オープン入りしてからの戦績はイマイチであるものの短距離戦で頑張っていたのだが、屈腱炎を発症し2024年8月に引退することとなってしまった。


ファウストラーゼン(2024年 ホープフルステークス)

人気:17番人気(18頭立て)
単勝オッズ:303.3倍

2024年の中央競馬最後のGⅠレースで発生した波乱の立役者。

デビュー戦は10着だったものの、京都芝2000mの未勝利戦で初勝利。そのまま格上挑戦でGⅠに参戦することになったはいいが、東スポ2歳S勝ち馬クロワデュノールや札幌2歳Sでのちの阪神JF馬に勝利したマジックサンズらがいる中ではどうしても見劣りする戦績なのは事実。加えてオープンやリステッド競走に出走すらしていないこともあり単勝303.3倍のブービー人気という悲しい扱いを受けてしまった。

レースではスタート直後隣馬にぶつかってしまうアクシデントがあり最後方からの競馬に。逃げた経験が一度もないジュンアサヒソラが先導したため1000m通過タイムは61.4秒となったのだが、これを遅いとみた鞍上の杉原騎手は思い切って捲り逃げを敢行。向正面で一気にジュンアサヒソラに並びかけて先頭で4コーナーから直線へ入り、結果は勝ち馬クロワデュノールから0.5秒差3着入線という人気を大きく上回る大健闘。上記の通りかなりの人気薄だったため、1番人気クロワデュノールとのワイド馬券は15,600円、三連単は293,380円で1番人気が勝ったとは思えない高額配当がついた。

その後は3月上旬の弥生賞に出走。ホープフルSの走りがフロックと思われたのか、またしても低人気(単勝7番人気16.9倍)。しかし前走同様、最後方一気の捲り逃げを決め今度はしっかり勝ち切ったのであった。


トルカータータッソ(2021年 凱旋門賞)

人気:13番人気(14頭立て)※日本において
配当:11,050円

JRAでは、一部の海外レースについて、JRA独自で馬券を発売している。その中で起きた万馬券のお話。
この馬はドイツの馬であり、ベルリン大賞、バーデン大賞とドイツGⅠを2勝している。
ただ、凱旋門賞では英ダービーとキングジョージ連勝中のアダイヤー、BCターフ勝利経験があるタルナワ、英オークスを圧勝した日本産のディープ産駒スノーフォールといった強豪がそろったうえ、ドイツ競馬は基本的に英愛仏などと比べるとやや格が落ちる。陣営も「状態が良いので好走できるかも」といった後ろ向きなコメントであり、挙句の果てに騎手のレネ・ピーヒュレクは凱旋門賞初騎乗である。
日本のオッズでは出走取消した馬を除く14頭の中で13番人気という極めて低い評価だった。
まあ日本のオッズは現地の評価とはあまり関係ないだろうと思うかもしれないが、海外でも大した違いはなく、10月3日のとあるブックメーカーのオッズは67倍と3番目に倍率が高い有様だった。

しかし蓋を開けてみれば、馬場が非常に重たくなったロンシャン競馬場を激走。最終直線でタルナワとハリケーンレーンとの叩きあいを制し、記念すべき第100回凱旋門賞を制することになったのである。

ちなみに、この凱旋門賞の開催日は奇遇にも東西ドイツ再統一の日
さらに、この年に延期開催された東京五輪でドイツ勢は金メダル3個を取る活躍を見せており、馬術でも競馬でも世界一の勲章を手にしている。翌2022年の凱旋門賞にも出走し、3着に突っ込んだのちに現役を引退している。
なお休み明け以外のレースでは複勝を外さないのに休み明けレースは最下位惨敗すら頻発する休み明けクソ弱マンだった模様

なお、彼の曾祖母の半姉は史上最高の繁殖牝馬*32と名高い凱旋門賞馬アーバンシー。かつて彼女は彼と同じ13番人気で勝利、凱旋門賞に大波乱を引き起こしている。

+ 騎手に関する余談
レネ・ピーヒュレクはこの時34歳。一月前にトルカータータッソで初GⅠを手にし、翌年以降もGⅠを勝つようになった。
トルカータータッソ騎乗の際には一回り年の差がある親友で日本では「ミナリクおじさん」として親しまれたフィリップ・ミナリクから引退後に受け継いだ彼が愛用していた鞍で凱旋門を制覇した。

元々この鞍はミナリクと共に2017年のJCに参戦するもその後末期がんで死去した親友ダニエレ・ポルクが愛用していたのを譲り受けたもので、この時ピーヒュレクもミナリクの助手として来日している。
ミナリクは大の日本好きで日本のファンからも愛されており、特に日本茶に対する愛はあのミルコ・デムーロに引けを取らないほどだった
2020年の落馬事故で瀕死の重傷を負い生還するが騎手復帰が絶望的との判断で引退。
だが競馬に対し現役時から並々ならぬ愛情があった彼の心は徐々に蝕まれていき、2023年に重度の鬱を発症の末自ら命を絶ってしまった。
ピーヒュレクはミナリクと共に再来日を望んでいたがそれが叶うことはなかった。
2024年に騎手として初来日、きさらぎ賞を制するなど初来日ながら順調な滑り出しを見せたが一身上の都合で予定よりも早めに帰国している。


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最終更新:2025年04月14日 14:14

*1 第16回優駿競走(日本ダービー)のタチカゼなど。

*2 長い間歴代10位だったが、2022年2月12日の東京12Rにて単勝54,940円の超大穴馬券が飛び出したためトップ10から陥落。

*3 当時はこのレースの前週にあった菊花賞にもお手馬の鞍があったがその馬が抽選に外れて出走できなかった。

*4 ちなみに、この『間違いない』については、来る馬がことごとく人気薄だったことから先頭の馬だけは間違えないようにしようという思いで発したそうだが、後日関係者から「サンドピアリスに間違いなかったですね」と弄られたらしい。

*5 鞍上の武豊は途中で止めようとしたが、シャダイカグラはゴールまで止まらなかったという。

*6 経営している会社の忘年会が被っていて名古屋に居ざるを得ない状況だった。それでも有馬記念のタイミングだけは抜け出してTVで観戦していたらしい。

*7 今村聖奈騎手の父である。

*8 ついでに、美浦所属だった彼のキャリアで初となる京都競馬場での勝利でもあった。GⅠでの当該競馬場初勝利としては、2000年天皇賞(秋)にてテイエムオペラオーで東京競馬場の初勝利を挙げた和田竜二、2021年菊花賞にてタイトルホルダーで阪神競馬場の初勝利を挙げた横山武史などの実例が有るが、騎手4年目で達成した彼らに対して石橋は騎手としてのキャリアが長く9年目でのこと。

*9 日本国内ではGⅠと同格に扱われ互換性があるが、レーティングなどの事情で国際的にGⅠの格付けを得ていない競走を指す。GⅠ・Jpn1を纏めて「GⅠ級競走」と書くこともある。

*10 ちなみに先述した兵庫CSで2着…とは言っても6馬身差で蹴散らしていたベストウォーリアも出走しており、こちらは7.0倍の3番人気だった。二連続大敗とはいえどれだけリッキーが期待されていなかったかが良くわかる。

*11 一説にはウマ娘の血統で馬券を買ってみた勢がいた模様。まあそれを言ったら本馬の母父マヤノトップガンの他にもスペシャルウィークマンハッタンカフェアグネスタキオンキングヘイローフジキセキの血統馬もいた訳だが。

*12 前述したマヤノトップガンの父で、サンデーサイレンス・トニービンと並び三強種牡馬と称され、ここで挙げる馬の中では段違いに知名度があるのだが、後継に恵まれなかったため現代で血統表に見かけるのはわりと珍しくなっている。

*13 1969年、春天・英国フェア開催記念(第3回スプリンターズS)優勝馬。また当時ダートの東京新聞杯や毎日王冠でも勝利するなど馬場・距離を問わないあらゆる競走条件で活躍し「野武士」とも称された、中央競馬初の「怪物」。

*14 1963年、秋天・有馬記念優勝馬。関西馬初の有馬記念制覇。

*15 リーディングサイアーに7度選出された種牡馬。代表的な産駒に前述のリユウフオーレル、「鉈の切れ味」と評された三冠馬シンザンなど。

*16 史上最多の33頭出走となった1953年・東京優駿優勝馬。メジロ牧場の基礎繁殖牝馬となったアサマユリの父。

*17 リーディングサイアーに5度選出された種牡馬。代表的な産駒に前述のボストニアン、10戦10勝で皐月・ダービーの二冠を達成した直後に破傷風で散った「幻の馬」トキノミノルなど。

*18 産駒のクラシック競走通算15勝の種牡馬。大牝系を築いたシラオキの父。

*19 リーディングサイアーに5度選出された種牡馬。日本初の三冠馬セントライトの父。ブルードメアサイアーとしてもボストニアンやシラオキの母父。

*20 産駒であるカブトヤマ、フレーモア、ガヴァナーが1933年から3年連続で東京優駿を制した種牡馬。

*21 なお、本馬の勝利に加え、このレースの同年に行われた宝塚記念で未勝利勝ち上がりまでに9戦を要した5歳のブローザホーンが勝利し、更に同年のダービー馬ダノンデサイルが翌年のドバイシーマクラシックを勝利した事で先述の評価は見直されつつある。

*22 3連系は後述する2015年が過去最高配当。

*23 なお4着にはクビ差で11番人気のドゥアイズが入っており3着と4着が逆なら三連単も66565.2倍と特大百万馬券になっていた。

*24 2011年から導入された5つの指定されたレースの1着馬をすべて当てるという馬券。当然難易度は高く、その代わり配当はとんでもなく高い。

*25 実際この年の「アイドルホースオーディション」の現役馬部門で3位に食い込んでいる。

*26 津村騎手とその家族は熱心な鹿島アントラーズのファンである。なお、この日の鹿島は3点差を追いつかれてドロー決着というなんとも言えない試合をやらかしている。一方、父の大金星は帰りのPAで停まってからリアルタイムで見られたので家族で感動を分かち合えたとか。

*27 国枝栄厩舎にかつて所属していた津村明秀騎手の代表馬。幾度となくGⅠ古馬王道路線で好走したものの最後まで重賞を勝てなかった。

*28 この三連単の配当額の記録は2023年1月現在でも破られていない。これに匹敵しうるのは中央競馬では2015年9月21日の中山競馬場第1R・2792万9360円、地方競馬では2020年1月24日の大井競馬場第7R・2848万1550円。

*29 福島牝馬S9着のウエスタンメルシーより人気薄だった。

*30 ミナレットが3着となったヴィクトリアマイルより高配当で、2023年1月現在重賞史上最高記録。

*31 日本時間早朝に行われたケンタッキーダービーにて超人気薄のリッチストライクが大金星をあげたため、それにあやかって最低人気のセイクリッドに大量の投票が入り人気が逆転したという説があるが真偽は不明。

*32 産駒に英ダービー馬ガリレオ、凱旋門賞馬シーザスターズなどGⅠ馬が4頭もいる。さらに、リーディングサイアーを10年連続で獲得したガリレオのみならず、シーザスターズも種牡馬として成功し、牝系からも活躍馬が出ている。