黄金郷のマハト

登録日:2022/05/20 Fri 00:12:34
更新日:2025/04/06 Sun 20:40:11
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相手を理解したい。この感情も知っている。これは好意だ。

俺は人類のことが好きになった。


概要

『黄金郷のマハト』とは『葬送のフリーレン』の登場人物であり、本作の敵である魔族の一人。

紫の髪を長く伸ばし、頭頂部から大きな角を二本生やした男。
魔王直属の幹部『七崩賢』の一角にしてその中で最強とも言われる大魔族であり、
得意とする魔法から『黄金郷のマハト』の異名で呼ばれる。
勇者ヒンメル一行の旅の時代においては魔族を離れ独自の行動を取っており、
断頭台のアウラ共々討伐されることなくフェルンの時代まで生き残っていた。

腐敗の賢老クヴァール』とは旧友の間柄。
人間の魔法使いであるデンケンとはなんと師弟関係にあり、彼が子供だったころから魔法を指南していた。

本編の50年前、北部高原の城塞都市『ヴァイゼ』を自身の魔法『万物を黄金に変える魔法(ディーアゴルゼ)』で丸ごと黄金化。
同じタイミングで大陸魔法協会の魔法使いが結界を張り、街もろとも閉じ込められる形で封印されてしまった。
街からの脱出こそ叶わないものの、魔法で周囲の土地を黄金へと変え続けているらしく、年月とともに黄金化の範囲は少しずつ広がっている。
封印の意味がないようにも見えるが、この地方全域が黄金化する前にマハトの寿命が尽きるという理由から、関わりさえしなければ脅威度は低い。
確実にマハトに勝ちたいのなら、強力な封印で行動を制限し寿命が尽きるのを待つことこそが最善手、との判断であった。

……そして、マハトにはひとつ致命的な弱点がある。
彼の手には魔族の心を操る呪いの腕輪―――『支配の石環』が嵌められており、「ヴァイゼの民に悪意ある行為を働けば死ぬ」という重い制約を課せられているのだ。
このことから、元「ヴァイゼの民」であるデンケンの存在こそが打倒マハトの糸口になると思われたのだが……?

人物像

力と殺戮を好み、欲望のままに勢力を拡大しようとする者の多い魔族の中では珍しく大人しい性格。
無益な争いも好まず、「穏健派」を自称する。
それと同時に「人間好き」を公言し、「人間と共存したい」という夢を掲げるとんでもない変わり者でもある。

しかし他の魔族がそうであるように、マハトもまた人間を殺したり食べたりすることに抵抗感を抱くことはなく、思いやりや罪悪感、悪意といった感情を持つこともない。
魔族にとって人間を殺すのは、人間が三大欲求を満たすのと同じ「ごく普通のこと」なのである。
また、争いを嫌うのも、後述の万物を黄金に変える魔法(ディーアゴルゼ)を含め自身の戦闘能力が高すぎて一方的すぎる形になってつまらないからに過ぎない。

マハト本人は人間の価値観を理解したがっているのだが、なにせ元の感性が魔族のそれなので、(他の魔族に比べれば有情だが)時として残酷な対応を取ることもある。
現在の彼は「結界の中に入り込んでくる人間は容赦なく殺害するが、自分から人間を襲いに行くことはない」というスタンス。
侵入してきた人間は残虐な方法で殺害してから黄金化するが、
これは本人曰く「こうしとくと後から来た人間がビビッて引き返すだろう」「というかこっちも殺したくないし入ってこないでね」との理屈らしい。


本心から人間の共存を望む一方で躊躇いなく殺し続ける様は、人間から見れば完全に矛盾しているが、マハトはそのギャップも含めて人間を理解することを目指し、人間を殺すことを繰り返している。
そのあり方から、フリーレンは明確に「人類の敵」 と呼んだ。


「人類との共存を望んでいるのに何故殺し続けるの?」

「――逆に疑問なのですが、何故そんなことを聞くのですか?」

経歴

魔王の命令を受け、とある村を襲った時のこと。
いつも通りに住民を全滅させたのだが、その際神父から「悪意や罪悪感はないのか」と責められる。
それ自体はいつもの命乞いと聞き流したものの、その態度を見た神父は「魔族にそうした感情はない」のだと理解。マハトに対する哀れみの言葉とともに命を落とした。

名も知れぬこの神父の言葉が、マハトの運命を大きく動かすこととなる。
「哀しみ」「恐怖」「怒り」―――これらの感情は言葉としても知っているし、魔族であるマハトにも理解できる。
しかし、「悪意」や「罪悪感」は魔族が抱くことのない感情であり、マハトにもまったく理解できない。
これをきっかけとして、マハトの心に変化が生まれた。人間を知りたい、理解したいと思ったのだ。
そして「「相手を理解したい」という思いは「好意」という感情に違いない」と考えたマハトは、自らが「人類を好きになった」と認識する。

そうした考えのもと、マハトは人間を知るための「実験」に着手した。
まるで小学生が「昆虫が好き」といいつつも虫相撲をさせたり手足をちぎったり、世話をサボったりするのと同じように、
人間を理解するため、人間を殺したり脅迫などで人間同士を殺し合わせる等の非道かつ残虐な試みは繰り返された。

そんなある日。
一組の幼馴染の男女を目の前で殺し合わせながら、マハトはひとつの結論に思い至る。
何も知らない人間を殺したところで、罪悪感など抱けるわけもない。「悪意」や「罪悪感」を学ぶためには、特定の人間と仲良くなったうえで殺す必要がある、と。

そして彼は北部高原の城塞都市、ヴァイゼに足を向けた……。

黄金郷の真相

城塞都市ヴァイゼへの道すがら。
マハトはたまたま見つけた貴族の馬車を襲撃し、配下の戦闘員を皆殺しにする。
しかし、命運尽きかけた貴族の男―――グリュックは、怯える様子もなく手元の煙草に火を点けた。
血生臭さはないのに、人殺しの眼をした人間。そんなグリュックにマハトは強い興味を持った。

きっと魔族(おまえたち)は"悪"という概念自体がわからないんだろうな。

その方が幸せだ。

グリュックはヴァイゼの領主を務めているが、実権は他の一族に握られており、事実上お飾りの立場でしかなかった。
汚職の蔓延によって法は意味を成さず、民の多くが飢餓で命を落としている。
……そして、そんな現状を変えようとしたグリュックの息子は、他の貴族によって暗殺されてしまった。

グリュックはマハトに交渉を持ちかけた。
自分ほど人の悪意に触れてきた人間はそういない。だからこそ、マハトの知らない感情を教えてやることができる。
ヴァイゼの実権を握っている一族の粛清を対価とし、人間と魔族の交渉は妥結に至った。
マハトはグリュックの命に従い、敵対する貴族たちを次々と葬っていった。

そして間もなく勇者ヒンメル一行により魔王が討ち取られ、世界に平和が訪れる。
融和の意図も込めてマハトはグリュック家お抱えの魔法使いに任じられ、表舞台でも活動するようになった。
魔族には人を信頼させ、欺く力がある。皮肉にもその力は、マハトが貴族社会で生きていくうえでの絶大な助けとなった。
時には魔法の指南役として、時には魔族の残党から都市を守る用心棒として、マハトはヴァイゼの貴族社会を如才なく立ち回った。

……そんなある日、北部高原最北端の城塞都市が魔族に落とされたとの情報が入る。
恐れ戦く住民の声を味方につけ、貴族たちはグリュックにひとつの要求を出した。

『支配の石環』
賢者エーヴィヒが造り上げた魔導具で、魔物の心を操る効果を持つ腕輪。これをマハトの腕に嵌め、ヴァイゼの民に悪意を抱けないよう制御する。
理不尽とも思える要求に、グリュックは嘲るような表情を見せた。

前述のようにマハトには悪意という感情がわからない。
つまり貴族たちの言う条件で『支配の石環』を嵌めたとしても、何の効力も発揮しないのである。
マハトは口元に僅か笑みを浮かべ、恭しく頭を下げた。

……それからいくらかの時が流れ、グリュック家にも悲しき変化が起こった。
グリュックの愛娘、レクテューレが病で命を落とし、婿養子のデンケンもヴァイゼに寄り付かなくなってしまったのである。
グリュックはすっかり消沈し、娘の墓参りを日々の慰めとするようになった。
かつての意気はもはやなく、立ち上がるにもマハトの手を借りなければならないほどに弱っている。
そんなグリュックに付き添いながら、マハトはついに決断を下した。


貴方と出会い過ごした時間は私にとって掛けがえのないものだと考えております。

だから、その全てをぶち壊そうと思いました。

マハトの足元から広がる、黄金の煌めき。
悪意を、罪悪感を知るための、取り返しのつかない選択。
グリュックはいつかのように煙草を取り出し、マハトに火を点けるよう願った。

楽しかったよ、マハト。


ええ、私もです。グリュック様。


―――そして、城塞都市は黄金郷へと姿を変えた。


戦闘能力


俺は争いがあまり好きじゃない。

だから侵入者はなるべく惨たらしく殺してから黄金に変えるようにしている。


自他ともに認める『七崩賢』最強の魔族。*1
人類最強格の魔法使いであるフリーレンも600年前に打ち負かされており、魔王を倒した今でさえも勝てるイメージが湧かずにゼーリエでも連れてこないと勝算がない*2と語っている。
神話の時代の魔法使いと謳われるゼーリエをして「魔法の極み」に近いと称されるだけあり、魔力探知も黄金郷全域に及び、魔力制限に秀でたフリーレンでさえ簡単には欺けないという。
つまり、黄金郷を調査したくとも一歩でも踏み入れた途端まず間違いなく捕捉される。
しかし魔力量自体はフリーレンに劣る模様。

南の勇者との決戦にも、本人は関心はなかったが「そこに立っているだけでも南の勇者の手数を減らせる」とした
全知のシュラハトにより半ば強制的に参戦させられている。
上記の言葉通りに積極的には戦闘へ関与しなかったともとれるが、
しかし、シュラハトは数え切れない程の予知でもその戦闘で自身が生き延びられる未来は見られなかった。
この戦闘の結果は魔族にとって後の「敗戦」を決定づけるものであり、それを避けられるのならどんな手段も厭わなかったはずである。
仮にマハトがやる気を出せば勝てたというものでもないのだろう。


魔族も魔法使いか前衛ではっきりと分かれていることが多いが、マハトは使用魔法の関係か接近戦もかなりの手練れ
仮に最強と謳われる所以をどうにかできたところで強力無比な魔法を併用する前衛と相対する必要があるという、敵からすれば前提条件が困難なのにその先もまったく楽ではない構成。

ソリテールという人類研究を趣味とする魔族と交流があり、彼女経由で人類の魔法を学んでいる。
ゆえに他の魔族と異なり人類の魔法も使える。
総じて最強の名に相応しい実力者だが、七崩賢の一人である奇跡のグラオザームとは相性が悪く、少なくとも彼とは敵対したくないらしい。


使用魔法

  • 万物を黄金に変える魔法(ディーアゴルゼ)
『黄金郷のマハト』の異名の由来となったマハトを七崩賢最強たらしめる魔法にして『呪い』である。
万物を黄金に変えるという石化のような効果を持ち、現状の人類はこの魔法を知覚・解析することができていない。
僧侶が使う『女神様の魔法』でも解除できず、広範囲に凄まじい速度*3で効果が表れる上、使用もノーモーションかつ知覚できない。
そしてこれだけの性能を誇っていながら、「特定状況下でしか発動できない」というような制限も一切なし
マハトが戦闘でこの魔法を使うか使わないかは本人の気分次第。

ただ決して万能で必殺の魔法というわけではなく、呪い返しの魔法で反射されてしまうし、
600年前にフリーレンらを敗走させた際は彼女の右腕のみを黄金化させたに留め、100年掛かりとは言え解呪もされている。
作用には彼我の魔力量も関係していた様子。

この魔法で黄金化されたものは、魔法使いに強烈な違和感を抱かせる。
頭では「魔法による産物」と理解できるのに、魔法による鑑定では「普通の黄金」と認識され、魔力探知にも引っかからないのである。
ゆえに黄金郷は魔法使いにとって極めて気味の悪い存在となっている。

また、この魔法で生み出される黄金にはひとつの特徴がある。それは絶対に壊れないということ。
なのでマハトの黄金を加工する事は出来ず、この魔法について既知であれば金銭的な価値はまったくない。
生存競争という点でも厄介この上ないのに、何も知らされない状態でこの黄金が市場に出回れば経済的な面でも混乱を起こすことが危惧される。ただし判別自体は容易、傷つかないので。
「絶対に壊れない」という特徴を生かし、美術品にするか武具として利用するくらいだろうか……。仮にその場合でも「加工できない」のだから、マハトによる黄金化を受けたものをそのまま使うことになる。

実際にマハトはこの特徴を生かし、身に付けているマントを黄金化して戦闘に使用している。
マントを広げれば絶対に破壊できない盾となり、剣の形にすれば当たり負けの存在しない刃が降臨。
小技ではあるが、無造作に抜いた髪でさえ破壊不可能な投擲武器になるあたり「ほとんどなんでも武器になる」と言って差し支えないだろう。
質量攻撃したくとも操る自然物がないと弱体化するのが現代魔法戦のネックだが、そこを解決しているとも言える。

そしてこの魔法はマハトが自分の意思で解除しない限り効果が維持される。
そのため、黄金化の解除を目論むならマハトを殺すことはできないという人質じみたアドバンテージすら生み出す。

上述のように過去にフリーレンは右腕を黄金に変えられた際、健常な生身の腕に戻すまでに約100年を費やしている。
1000年単位を軽く生きるエルフであったこと、また部分的であれ解呪に成功したフリーレンの言でも「自分の体だけは元に戻せる自信があった」との限定的な範囲なので、
普通の人類には寿命の問題で現状は実質的に治す道が無い。
一応の対処に成功したフリーレンでさえ呪いという認識は変わらないあたり、いかにこの魔法が高度か痛感させられる。

なお、実はマハトはこの魔法を完璧には扱いきれておらず、黄金になった人間を元に戻すことができない
魔法はイメージの世界であり、イメージしやすい自分の体や衣服などは黄金化も解除も自由自在だが、人間のことを理解していない=イメージできないマハトでは金を人間に戻すことは不可能なのだ。
とはいえ、わざわざ敵対した相手をもとに戻す場面というのはそうないはずなので、戦闘という面ではほぼ意味をなさない欠点だが…。

+ こんなに楽しいのは、本当に久々だ。
魔王軍、七崩賢黄金郷のマハト。

参る。



デンケンを倒すべき敵と判断したマハトは、それまでとは全く違った戦い方を披露した。
それは今まで剣や盾として使っていたマントを槍に変化させて、黄金化させた地面を砕いて無数の金片を作り、それを自由自在に操作して戦うというもの。
他の漫画でいうとこの人の能力に近いかもしれない。
この金片による大質量の攻撃は直撃すれば原型も残らないと推測されている。
なお掠っただけなのにデンケンの防御魔法が粉砕されてしまい、彼は攻撃魔法の領域を超えていると感じていた。
勿論攻撃だけではなく防御にも使用できて、デンケンの一般攻撃魔法をたやすく防げるため、この時のマハトはそれまで使っていたマントの盾や防御魔法すら使用していない。
これは人の身では決して辿り着けない魔法の高みであり、七崩賢の強さをデンケンは改めて思い知ることになる。

ちなみに少なくとも現代の魔法戦を想定したものとは思えず、何と戦うためにマハトはこれほどの研鑽を積んだのかデンケンは疑問に思っていた。
なのでかつてマハトと互角以上に戦っていたゼーリエとの再戦に備えて研鑽を積んでこの戦い方を編み出した可能性がある。
しかしこの戦い方に切り替える直前に「こんなに楽しいのは、本当に久々だ。」と過去にも使った事があるともとれる発言しているので、ゼーリエ戦では使う前に封印されてしまっただけかもしれない。



  • 人を殺す魔法(ゾルトラーク)
旧友であるクヴァールが開発した史上初の防御貫通魔法。
人類がゾルトラークを解析するずっと前に習得していたため、
一般攻撃魔法と呼ばれるようになり戦場を席巻している頃に使えるかと聞かれた際には、人類よりはるかに上手く使えると自負していた。
しかし実際に戦場の主流だった頃は人類よりもうまく扱えていたのかもしれないが、マハトが封印されている間も人類は人を殺す魔法(ゾルトラーク)を探求し続けていた。
半世紀にも及ぶ防御魔法と対を成すように改良に改良を重ねた激動の時代を知らないため、マハトの封印が解かれたころには「…これはもはや別物だ」と感じるまでになっている。




追記・修正はマハトと共存してからお願いします。

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  • 師匠
  • 主人公←実質主人公(黄金郷編の)
  • 魔王軍
  • 人類の敵
最終更新:2025年04月06日 20:40

*1 但し、更に上の存在として魔王とその腹心の全知のシュラハトがおり、同格の奇跡のグラオザームとも相性が悪いらしい

*2 実際ゼーリエはマハトと互角以上に戦えており、彼の背後もあっさりと取っているので殺すつもりならその時に殺せていた

*3 具体的には、都市一つを住人ごと黄金に変えた際、住人は異常を感じたようなそぶりもなく黄金に変えられている