未来放浪ガルディーン

登録日:2024/07/04 (木) 01:29:20
更新日:2025/07/09 Wed 10:18:08
所要時間:約 7 分で読めます




『未来放浪ガルディーン』は火浦功による小説。メカデザインは出渕裕、キャラクターデザインはゆうきまさみ。
出版元は角川文庫→角川スニーカー文庫で、『野生時代』や『ザ・スニーカー』に掲載されていた時期もあった。

作者

火浦功という作家は異常なまでの遅筆*1で有名であり、『遊んでて悪いか!!』という開き直ったエッセイを著していたり、果ては架空人物(覆面作家or合作ペンネーム)説すらあるほどの無茶苦茶な御仁である。
今は日本海で漁師になったのか、あるいはテニスプレイヤーになっているのか……

作風は本作のようなスチャラカからハードボイルドや青春もの、果ては幻想的な短編まで幅広い。『幻想的』に「ダンディで人情味のある自販機」とかが含まれるのがマジ凄い
また、掌編のひとつ『お前が悪い!』は『世にも奇妙な物語』のエピソード(の原作)になっている。

機動警察パトレイバー』の漫画版をご記憶ならば、序盤のホラー回『閑話休題(いんたーみっしょん)』に描かれた「血迷ったグラサンの殿様」の元ネタが彼である。
TVアニメ版でもそのエピソードは再現されたが、殿様からグラサンは外されてしまっていた(原画担当は残したかった旨の証言をしている)。*2


概要

始まりは雑誌『アニメック』に掲載された『ストップ!!ひばりくん』と『うる星やつら』のクロスオーバー、というネタ(カット:ゆうき)。
そこから火浦と出淵が『性別逆転コンビによる珍道中もの』というアイデアを作り、ゆうきのアイデアも添えてアニメ制作会社に持ち込んだものの没(その際にもう一つ持ち込んだのが後のパトレイバーだったとか何とか)。[※異説あり]
そのアイデアを小説として火浦がサルベージしたのが本作となる。

ジャンルとしては

珍道中を抜いて上手く盛れば重厚な作品になりそうなものだが、そこは火浦功。軽妙なスラップスティック作品である。
ただし、昭和時代末期スタートなのを加味してもネタが古い落語は常識*3であることに始まり、『あたり前田のクラッカー』*4に突っ込んでいたら身がもたないレベルであり、
新しいもので『遠い海から来たCOO』*5というものすごい世界。
あとがき代わりの座談会も“まるぺ”*6が出てきたりと実に濃い。ちなみに3巻収録のゆうき・出渕との座談会時点で『じゃじゃ馬グルーミン★UP!』が完結直前で『鉄腕バーディー』再開の可能性をゆうきが仄めかしていた*7


登場人物

CVはカセットブックでのもの。

コロナ一行

  • コロナ〈筋肉娘〉フレイヤー
CV:田中真弓
フレイヤー王国の王子王女。父に男として育てられた、原始的超パワー(物理)の持ち主。
祖国をヴァルマー帝国に滅ぼされ、復讐の旅をわずかに40ページほど経て逃亡者の身に。以後はお家再興のため旅をしている(はず)。
気風のいい男ぶりから女の子にモテるが、割と世間知らずで鼠嫌いな辺りはしっかりお姫さま。鼠を見ると暴走してモビルスーツ隊を生身で撃滅するお姫さま
名の元ネタは恐らくメキシコのビール『コロナ・エキストラ』。キャラクタ造形の元ネタは『うる星やつら』の藤波竜之介。

  • シャラ〈シャール〉酒姫(サキ)
CV:井上遥
謎の踊り子。男をたぶらかしては懐を狙うのだが、概要からわかる通り正体は男。
コロナのとばっちりで追われているのだが、記憶喪失な上に異言を発することもあり結構な謎を抱えた人物。
女装が似合うくらい女の子そのものな細身ではあるが、(ある程度手加減はされていたらしいが)コロナと互角に殴り合うという大概な戦闘力を持つ。
こちらの元ネタは『ストップ!! ひばりくん!』の大空ひばり。竜之介からすれば、そりゃあ腹立たしかろう。

  • スリム〈口先男〉ブラウン
CV:鈴置洋孝
場違い気味なスーツとサングラスでキメた、"ティッシュより薄っぺらい"と評される二枚目。別名『18金の男』。
シャラとは腐れ縁で、箸の使い方を仕込まれていたりする。食事マナーを指摘される様はまるで母子。
基本的には頼りないが人に取り入るのは得意で、豊富な経験からコロナたちの窮地を救うことも(たまに)ある、やるときはやる(かもしれない)男。
とうぜん戦闘の役には全く立たないが、ガルディーンとコロナが攻めあぐねた怪物を仕留めた戦果も一応ある。

  • T-178ガルディーン
CV:塩沢兼人銀河万丈
ガルちゃん。自我を持つ巨大ロボットであり自律行動可能。有人操作も受け付け、そちらの方が性能を発揮しやすい。
『歌って踊れてベタ塗りも出来る』ことが売りの『オーガニックエンフォーサー』を標榜するが、むしろ『ナンデイルノ』と言われそうなボンクラロボット。じっさい声はあ~るだったし
自己修復・自己適応・自己判断の三大機能の裏に環境対応可変機構やら武装生成ナノマシンなどの剣呑な機能と人格を持っている。
パイロットの状態もモニターできるため、コロナの性別を一目(?)で見破った数少ないキャラでもある。

  • ヤマト・マーベリック
CV:富山敬
影の薄い常識人。驚き役で突っ込み役でボヤきキャラ。外宇宙から地球に帰還した宇宙重巡洋艦『ゆうばり』の乗組員。なので地球の現状・常識が欠落している。
第二巻ラストで登場してから第三巻冒頭で合流するまで13年の間があくという憂き目にあった。逆に、その間に出版された外伝では何の説明もなく仲間になっている。正になんでいるの

ヴァルマー帝国

  • ジョージ〈無謀王〉ヴァルマー
CV:郷里大輔
辺境の油売りから一代で帝国を築き上げた皇帝。勢力拡大する中でフレイヤー王国を滅ぼしたのが運の尽き、宴の最中にあっさりとコロナに斬られて死亡。
その間抜けな最期に反して、外伝第二巻『大ハード。』で描かれた油売り時代の姿は非常に格好良い。必見。

  • キリー〈陰険王〉レステス
CV:青野武
ヴァルマー帝国の奸臣。無謀王亡き後の帝国を乗っ取ろうと画策する上に、部下にクソ寒い小話を聞かせる悪党。そのためには犬や海底人8823を巻き添えにする極悪人
やはり『大ハード。』での姿は格好良い。帝国拡大の二十年間にまぬけ時空に引きずり込まれたのだろうか。

  • ベリアル
CV:神谷明
陰険王の懐刀、情報担当将校。キリーの野望のため、コロナ抹殺の任を受けているのだが……出撃しては体のどこかを失って、トロルキン博士の趣味で珍妙なサイボーグ化改造を受けるというループにはまっている。
コイツもコイツで、モビルスーツ隊をろくな武器もなく単身で撃滅するポテンシャルがある。それで勝てないコロナの化け物ぶりよ。

  • J・R・トロルキン博士
キリーのお抱え科学者。いかにもなマッドサイエンティスト風の老人。
ベリアルの改造が主なネタであるが、あるエピソードでは粋なファインプレイを決めている。
どっかの言語学者兼小説家みたいな名前の割に、メルキドの町出身。書かれた年代がわかろうというもの。

  • トロイ〈軟弱王〉ヴァルマー
CV:難波圭一
ジョージ・ヴァルマーの息子。父親には似ても似つかない、名前の通りとろい二つ名通りの優しい青年。
キリーの策略で(いちおう建前上は通る筋なのだが)仇討部隊を率いて送り出され、返り討ち本願を遂げることを期待されている。
コロナやレーベンブロイとの交流により少しずつ成長していく、未来の大器……だと思われる。

  • アルタミラ〈出戻り〉カーン
CV:榊原良子/多岐川まり子
トロイの教育係で、実質的なコロナ討伐隊の指揮官。美人だが気性が荒く口も悪い。
キリーの期待を裏切る程度の能力はあるのだが、不条理ギャグコロナのパワーには及ばない。
気弱で善良なトロイ・キリーの陰謀・コロナの理不尽な戦闘力に振り回されつつ、レーベンブロイに弄られる苦労人。

  • ブラスターキッド・レーベンブロイ
CV:銀河万丈
さすらいの賞金稼ぎ。ティンプ時代劇の素浪人と西部劇のガンマンを掛け合わせたような姿をしている。
コロナの賞金を狙い帝国の討伐隊に接近しているが、別な意味でアルタミラを狙っているようにしか見えなかったり。割とお似合い
名の元ネタはドイツのビール『レーベンブロイ』だと明言されている。

その他

  • ガイ〈すちゃらか王〉フレイヤー
フレイヤー王国の主にしてコロナの父。二つ名どおりのすちゃらかな人物であり、彼女を男として育てた元凶。
しかし、自身の死と国の滅亡に備えてビデオメッセージを(二通も)用意しておく程度には先を見通している人物であった。そのメッセージが開口一番「てけれっつのぱ」*8なんだけども。
とまれ、部下の忠誠心はかなり高かったようで、各地に残党がコロナ(のお家復興)を支援するために潜んでいるらしい。

  • ますこみ族
事件があればどこにでも潜り込んで来ては関係者にインタビューを敢行し、その様子を世界に配信する風習を持つ部族
他者のプライバシー・感情や自身の安全にろくな配慮をしないが、その反面で貴重な情報インフラでもあるのは皮肉。


火浦氏の行方をご存じの方 続編をまだ待っている方、追記・修正をお願いします。

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最終更新:2025年07月09日 10:18

*1 無事完結した長編シリーズがほとんどなく、月刊誌の紙幅ならば読み切りで終わるであろう短編小説を連載にしてしまう

*2 本気でどうでも良い脱線なのだが、バラまかれた書類の落書きも西村誠芳氏の仕業であるそうな

*3 『らくだ』『死神』辺りがスッと出てこないと戸惑うことになる

*4 1960年代のテレビドラマ『てなもんや三度笠』での定番ギャグ/宣伝

*5 1988年に発表された景山民夫による直木賞受賞の冒険小説。1993年のアニメ映画版(主演が子役時代の山崎裕太)の絵面がネタにされている。元は掲載誌が同じ『野生時代』だから通ったネタだろうか

*6 『長い』の枕詞。もとい、SF小説『宇宙英雄ペリー・ローダン』。1990年代当時で既に四ケタの巻数を誇る超長大シリーズ。

*7 『鉄腕~』は元々未完作品で、本作時点では本編+短編数作くらいの分量だったが、3巻発売後の2003年から実際にリメイクという形で再開。続編への移行を経て2012年に完結している。

*8 落語『死神』に登場する、死神を退散させる呪文。遺言にはなんともブラックなネタである