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ヤルダバオート/ヤルダバオト

登録日:2026/03/04 Wed 22:03:33
更新日:2026/08/19 Wed 19:20:15
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■ヤルダバオート/デミウルゴス/アルコーン

『ヤルダバオート/ヤルダバオト(Jaldabaoth)』とは、ヘレニズムにより各地の宗教儀式や智識が融合する中で、
1世紀後半頃にユダヤ教と初期キリスト教の神秘主義が融合する形で誕生したとされるグノーシス(γνῶσις)主義/派(Gnosticism)にて語られている偽りの神(アルコーン)にして宇宙の造物主(デミウルゴス)のこと。
名前の由来については様々な説があるが“混沌の子”とする説がある。

また、マンダ教ではプタヒル=(エジプト(メンフィス)神話の創造神プタハのこと)や、マニ教ではアフリマンと呼ばれているのだが、そもそもグノーシスの成立に於いてゾロアスター教エジプト神話や古代ギリシャ哲学からの影響が大きかったことは確実視されている。
ヤルダバオートは獅子毒蛇の姿をしているともされるが、これはゾロアスター教に於ける、肉体に蛇を巻き付けた獅子頭身像=アーリマン/アンラ・マンユからの発想であったのかもしれない。*1

……尚、グノーシスではヤルダバオートとは偽りの神ではあっても確かに宇宙を生み出した存在であることから、即ちユダヤ/キリスト教の造物主と同一の存在であると見なされている。

……そのためか、近年の創作物にて“神”に匹敵する存在“神”を悪役として使いたい場合の代理的な名称として用いられることも多い。


【グノーシス主義/派】

先ずは、このヤルダバオートが登場してくるグノーシスの簡単な解説から。

グノーシス(γνῶσις)とは、古代ギリシャ語(古希)にて「認識」や「智識」を意味する語の女性名詞である。(男性名詞はノーシス(νῶσις)
ここで言う「認識」とは、同じく古代ギリシャ語に由来するエピステーメー(Episteme)=真智/科学的認識とは分けられ、グノーシス/ノーシス=神智/秘教的認識のことを指す。
ミシェル・フーコーの定義ではエピステーメーは多くの人々に無意識レベルにて共有されている基本的な時代(発展レベル)毎の「知の枠組み」や「世界の基本構造の在り方」を指すが、グノーシスはあくまでも個人の内面宇宙の追求と物質世界を越えた心霊(神霊)的な概念へのアプローチを目的とすることで分けられ「究極の霊智」とも訳される。

グノーシスが誕生すると共に発展したのは1世紀後半の地中海地域であり、それから4世紀頃までに地域を広げつつ発展していった。
以降は、キリスト教に見えつつの余りの異端さから排斥されて下火になっていったのだと考えられているが、実際にはグノーシスは公にならなくなっただけで主義が廃れることもなく密かに引き継がれていたと考えられ、表立って確認されただけでも、ユーラシア大陸に広く根付いたマニ教、イラクのマンダ教、13世紀に南フランスにて広がったカタリ派はグノーシスの一派と見なせるという。

誕生した経緯もあってか、現在でも異端のキリスト教派として語られたり紹介されていることもあるものの、実際には旧約/新約聖書の概念を引用しつつも、全く別の善悪二元論と信仰に基づく独自の世界構造を持つ全く別種の宗教教義と呼ぶ方が正確である。

何しろ、原典に近いと思われるグノーシスの教義が描かれた写本群であり、かの「死海文書」とも並ぶ考古学的発見とも呼ばれる「ナグ・ハマディ文書」がエジプト南部で発見されると共に内容の検証と研究が行われ始めたのは1945年のことである。
そうして、研究が進められる中で、20世紀にもなってからやっとこさで異端どころかユダヤ/キリスト教の教義とは全くの別物だったグノーシスの実態(と排斥されたのも納得の過激さと理由)が明らかになっていったという訳である。

■グノーシスの宇宙観

前述の通りで、グノーシスの掲げる宇宙論がユダヤ/キリスト教と決定的に違っているのは世界を生み出した造物主こそが最大の悪であり、その偽りの造物主に生み出された世界は痛みに満ちた不完全な偽りの世界であり、その外側には真の神が御わす上位世界が存在しており魂を真に救うためには不完全な世界からの脱却をしなければならない……としていることである。

よって、ユダヤ/キリスト教では、究極の善にして絶対の帰依者として扱われている造物主が造りし法の世界への背信が罪として扱われ、その行為への懺悔が重要視されているのに対して、グノーシスでは錯覚と啓発を重要視しており、文書に於いても繰り返し語られている。
これは、繰り返しとなるがグノーシスでは造物主こそが悪であり魂の帰依者とは成り得ないためである。

【偽りの造物主】

ここで、ヤルダバオート自体の解説に入る。
宗派により多少の違いはあるものの、ヤルダバオートとはグノーシスにて語られる低次の霊(アルコーン)であり偽りの造物主(デミウルゴス)であるとされている。

つまりは、ヤルダバオートとは上記の偽りの造物主にしてアルコーンの首魁の固有名ということになる。

多少、宗派によって用語の扱いに違いがあるものの、基本的には概ね上記の通りとなる。

では、グノーシスで“真の神”と呼ばれる存在とは何かというと、それは高次の霊(アイオーン)と呼ばれるもので、低次の霊(アルコーン)とは似て非なる存在である。
グノーシスに於いては人間(というかこの宇宙で生きる万物)はヤルダバオートが生み出した偽りの世界に閉じ込められており、それゆえに“真の神”とは断絶させられていると考えられており、そこから脱却して魂を“真の神”の居る世界に至らせる論理を追求するのが即ち“グノーシスの教え”なのである。

では、(アイオーン)に対して悪魔(アルコーン)と呼ばれるヤルダバオートがいかなる存在なのかというと、グノーシスではヤルダバオートはアイオーンの座から零れ落ちた不具の仔であり、真の世界に至れないことから自らを崇めさせる世界を生み出したと解説されている。

この、ヤルダバオートとアイオーンの関係については宗派などによって解説が細かく異なっている部分もあるのだが、特に言及されることが多いのが最下層(最後)のアイオーンであるソフィア(ソピア、ソピアー=『知識』)が、何かしらの憂いや心の疵を負った状態で生み出した、というもの。
そしてそれ故にヤルダバオートは不完全な形で生まれてアイオーンにはなれなかった存在で、そのため傲慢で苛烈で自己への崇拝と従うことを求める忌まわしき偽神になった……と見なしている。

ソフィアの扱いや解説についても諸説があるのだが、一説ではソフィア以前のアイオーン達は四段階に対応した両性具有を示す四組八柱の夫婦神=オグドアスだったのだが、九柱目のアイオーンであるソフィアのみはパートナー(夫)を欠いた女神単体で世界の創造に関わることになってしまい、その歪みが世界の創造を失敗させた上に不具の仔であるヤルダバオートを生んだのだと解説されている。
また、別説では、世界は元々アイオーンだけで完成していたのだが、ソフィアがアイオーンを生んだ「知られざる存在の父」プロパトールを無理に知ろうとしたことが世界を歪め、失墜したソフィアが放った光からヤルダバオートが生まれたとされる。

尚、グノーシスでは欠けていたソフィアのパートナーはイエス・キリストだとされている。
グノーシスでの救世主(キリスト)の扱いと解説も細かく違っているのだが、グノーシスではイエスは=として偽りの神の息子であり肉体(物質)に縛られた(留まる)偽りの世界の王権を引き継ぐ存在などではなく、本来はソフィアのパートナーとなる十柱目のアイオーン、或いはその意志を伝える霊的な存在である真のイエス・キリストが受肉した存在であると考えられており、即ちイエスが導く世界はヤルダバオートの偽りの世界ではなく、真なる神の世界であるというのである

なお、この救世主(キリスト)がイコールで某大工の息子なのかは見解が割れており「そうだ」とする説もあれば「いやヨシュア(イエス)はヤルダバオートが人間を惑わすために遣わしたのだ」と真逆の立場をとる説もある。

……そして、この人間(万物)の魂を霊的に進化させて上位世界に至らせるという行為から真なるイエス・キリストは偽り(表向き)の教義に於ける悪魔王ルシファーと比したり同一視する考え方までもが誕生していた。

【眷属】

此方も扱いについては宗派によって違いがあるのだが、ヤルダバオートを第一のアルコーン(プロート・アルコーン)と見なし、その配下として以下のアルコーンの軍勢が存在して偽りの神として宇宙を支配しているともされる。

■権力アルコーン

ヤルダバオートが“息子”として生み出した最大の力を持つ眷属で、古代魔術にて共通して語られる七つの惑星(月、水星、金星、太陽、火星、木星、土星)の支配者。
七個組(ヘブドマス)とも呼ばれる。
名称は、順にヤオート(プロノイア)/エローアイオス/アスタファイオス/ヤオー/サバオート/アドーニ/サバタイオス…とされる。
更に、その下に黄道十二宮のアルコーンが続き、更に下位に360のアルコーンが続いて偽りの宇宙を管理しているのだという。


創作におけるヤルダバオート

前述の通り「倒してもいい唯一神」「偽物の神」という形で登場することが多い。
その後のことを突き詰めてしまうと「今の物質世界の否定」になりかねないため、アイオーン等は省略されがち。

性質上、多くの作品にて存在そのものがネタバレなので注意。



  • 真・女神転生/ペルソナシリーズ
デビルサマナー』にデミウルゴスが登場。強敵だがあくまで終盤の一ボスであり、背景に触れた形での搭乗は『SJ』が初。
NINE』にはヤルダバオートが登場。顛末も含めて特にグノーシス主義の要素が色濃い。
『ペルソナ5』には「統制神ヤルダバオト」が、『ペルソナ5 スクランブル』には「偽神デミウルゴス」が登場。「偽りの神」として登場しているが、下地にある設定を考えると単に偽りと切って捨てられない出自を持つ。

黒幕の元ネタ(の一つ)がヤルダバオート(デミウルゴス)と予想されている。

主人公フォルカ・アルバークが駆る修羅神(生体ロボット)の名前がヤルダバオト。
他の多くの修羅神の名前がソロモン七十二柱からとられていることからすると、「新たな世界を想像し得る悪魔」という意味合いのネーミングだろうか?

存在そのものが作品の根幹に関わる。どの作品の事かはリンク参照。

最大の敵たる闇の力は「進化を否定する創造主」というヤルダバオート的存在である。
だが描かれた限りでは彼より上位の存在はなく、進化を促す「光の力」は明らかに彼と同格以下の存在である。

ラスボスとしてヨルダ・バオト・アルコーン、通称ヨルダ・バォトが登場する。
造物主(ライフメイカー)という異名と人智を超えた力を持つが、人間の子孫がいるなど少なくとも本来の意味での神・創造主というよりは人間に近い存在。
「完全なる世界」の創世を目指したが、その実態はおよそ「真なる世界」とは言い難いものである。

機神界と呼ばれる領域の種族「機神界人(マシーナ)」の盟主であるエギルという人物が搭乗する「ヤルダバオト」という兵器が登場。
そのボディは黄金に輝いており、身の丈数十mの巨体である。

ゼノシリーズでは他にもゼノサーガEPⅠに同名のグノーシスがエネミーとして登場している。

要注意団体の一つであるカルト教団『サーキック・カルト』においての主神的存在。
ただしグノーシス主義での神そのものというよりその性質からくる一側面からの呼称の一つといった感じ。
神々と世界を生み出す創造神であると同時にそれらを自ら貪り食らう盲目白痴の破壊神として描写される等どちらかというと在り方的にはこちらに近い。
眷属のアルコーン含め、様々な異常存在や神格存在が登場するSCP世界においても明確な『邪神』として危険視されている。

マッチポンプで主人の名声を高めるために凶悪な悪魔を演じた際に名乗った名前が「ヤルダバオト」。

聖闘士星矢 冥王異伝 ダークウィング
女神アテナと冥王ハーデスの聖戦に介入し、意図的に偽りの聖戦を起こしたダークウイングのラスボスがデミウルゴス。
その分体がヤルダバオトであり、双子座の時任総次郎の体を乗っ取ったが兄・翔一郎に体を倒され、心理内で精神体の総次郎に止めを刺された。

追記修正は“真の神の世界”に至ってからお願い致します。

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最終更新:2026年08月19日 19:20

*1 ミトラ/ミスラやズルワーン説もあるが、矢張り有力なのはアーリマン説らしい。