山川純一

登録日:2011/08/09 Tue 03:04:31
更新日:2025/04/22 Tue 18:16:43
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山川 純一(やまかわ じゅんいち)は、1980年代にゲイ雑誌『薔薇族』で活躍した漫画家。通称「ヤマジュン」。
「山川純一」は本名ではなくペンネームであり、薔薇族の編集長である伊藤文學氏により命名された。
男性であるとされているが、後述のように女性説もある。


■概要

男性同士による同性愛をテーマにした短編漫画を多く手がけている。
代表作はご存知『くそみそテクニック』や、実写映画化された『海から来た男』など。
前者のイメージが強すぎるが、デビュー作は1982年の『刑事を犯れ』。
『海から来た男』は活動中期の1984年、『くそみそテクニック』は1987年と活動後期の作品である。


■作風

当世風の劇画と少女漫画をミックスさせたような絵柄の男性が織りなす同性愛描写が最大の特徴。
一方、キャラの顔の描き分けが若干甘く、おっさんキャラはまだしも、青年や学生キャラの見分けがつきにくい。

主な作品が短編読切であるせいか、強引で早急なストーリー展開が多い。
そのため、山川作品が世に広まるきっかけとなった『くそみそテクニック』のように突っ込みどころだらけの話も多いのだが、
むしろそれがクスリと来るギャグ要素として魅力になっているのも事実。
それだけではなくしっかり読ませる腕も持っており、
時代劇第二次世界大戦ハニートラップ、裏切りなどの幅広い題材を取り扱い、漫画として昇華している。
またそういった自作品の傾向をあえて逆手に取ったような作品も執筆している。

しかし、山川が連載していた当時の『薔薇族』では読者、編集者の双方から受けが悪かったといい、その最も大きな要因は絵柄であるとされる。
後述の話からわかるように好意的な人もいたのは事実だが、写実的で男臭く、ディープな絵柄が求められていた業界では、
十分濃い画風に見える山川の漫画も非常に淡白だと見なされていたのだ。
では、ディープな絵柄とはどれくらいのものだったかと言うと……興味がある方は田亀源五郎でググってみてほしい。

とはいえ氏の作品はノンケにはかなりショッキングなので、画像検索するのが怖いと思う人のために例えると、薔薇族読者のニーズと山川の絵柄は、

週刊少年ジャンプなもり
◆まんがタイムきららに原哲夫
◆コミック百合姫に本宮ひろ志
◆コミックLOに和田ラヂヲ
コロコロコミック猿渡哲也
◆コミックジーンに板垣恵介
◆たのしい幼稚園に松本光司
ガンダムエース荒木飛呂彦
◆CLAMPに羽生生純加入
◆週刊漫画ゴラクに吉崎観音
◆花とゆめに小池一夫
◆りぼんにさいとう・たかを
◆ちゃおに久米田康治
なかよしに福本伸行
◆コンプティークにニンジャスレイヤー

……くらいにかけ離れていた。

また、山川の漫画によく登場する、所謂ロン毛のイケメンが持て囃されていたのは彼が活動を始める前の1970年代ごろ。
そして活動期間が終わった後の1990年代以降に再ブームが起こっており、“時代が遅すぎた&早すぎた”という二重の不遇を被っていた。
見方によっては、先見性がありすぎた…とも言えるかもしれない。

加えて、『薔薇族』は仮にもアダルト誌で、山川の作品にも当然濡れ場はあるのだが、ストーリーに重きを置いた作品が大半であるためか、
ノンケの視点で見ても「これはエロ漫画なのか?」と思ってしまうような、「抜き所」が少ない作品ばかりとなっており、
そうした点も大多数派の『薔薇族』の読者の需要を欠き、ひいては山川やその作品が嫌われる要因となってしまった可能性もある。


■連載中止~失踪

上述の事情から、『薔薇族』の編集者から毛嫌いされてしまった山川の連載を中止してほしいと訴える者が度々現れるようになり、
最初はその声を黙殺していた編集長の伊藤文學氏も、遂には連載中止にせざるをえなくなったという。
それでも伊藤氏は山川を気遣い、貧しい暮らしを送っていたであろう彼を助けるために、作品が連載されていない時にも原稿料を変わらず支払っていたが、
山川はそのことに負い目を感じてか姿を消してしまい、消息不明となってしまった。

伊藤氏曰く、当時の山川は線が細く根暗な青年で、「ゲイにはモテないタイプ」「男と寝た経験はなさそう」*1とのこと。
経済的困窮と、当時の薔薇族読者に(同性愛者が置かれていた社会的立場などの事情から)メンタルが弱く自殺してしまう人が多かったことから、
消息不明となった後の山川の同行について、「既に亡くなっているかもしれない」と発言している。
ちなみに彼が生きているなら、最初に作品を持ち込みに来た時が30代後半という伊藤氏の証言から2020年時点で70代くらいのご老人ということになる。

…と、ラブオイル校長こと伊藤氏の回顧録で山川の実像が語られているが、彼の話には少々食い違いが見られるので、いささか信憑性には欠ける。
また、山川は伊藤氏にも住所や連絡先などの個人情報を話すことなく、事務所内に立ち入ることすらなかった(玄関先で用事を済ませてさっさと帰ってしまった)そうで、
彼の作品群からそれなりに描き慣れていることはうかがえるが、別ジャンルでの作家活動があったか否かも解っていない。

つまり、山川の活動当時から彼の事を良く知る人物は、少なくとも薔薇族関係者にはいなかった。
極端な話、伊藤氏と直接会って原稿のやり取り等を行っていた人物が本人ではなく、何らかの事情でその代理をしていた人物であった可能性もあり、
「山川氏本人ではなかった」という前提に立って「山川氏女性説」を唱える者もいる(伊藤氏が会っていた青年が「本人ではない」とすれば性別すら不明となるため)。
死亡説もあくまで伊藤氏の推測で存命の可能性もあるが、後述の『ヤマジュン・パーフェクト』発売の際にも本人から連絡は一切なかったとのこと。*2
たとえ存命であったとしても、現在になって山川本人が名乗り出ることは望み薄だと言えるだろう。


■再評価

消息不明後まもなく、後述の単行本の出版社が倒産。
数千冊という在庫を伊藤氏が買い取ることになったが、一定数のファンは当時からいたらしく、数年で完売したという。

それでも山川の作品はその後永らく顧みられることはなかったが、21世紀に入り転機が訪れた。
2002~2003年頃、匿名掲示板やふたばちゃんねるなどに『くそみそテクニック』がアップロードされたことから、ネット上で広がりを見せはじめた。
その流れるような台詞回しや、男同士の恋愛というテーマながらも淡麗な絵柄というギャップが受け、一躍有名に。
くそみそ人気に伴い、その他のヤマジュン作品も発掘・アップロードされていき、ヤマジュンブームは加熱。
特に国立国会図書館の存在は大きく、改めて出版物全てを保管している同施設の偉大さを思い知った人間は多い。

…とはいえどちらかというと「同性愛」、特に男性同士の恋愛というデリケートすぎる問題を笑い者にしていた一面も無くはない。
インターネット黎明期という、人間の悪いところがストレートに現れていた時代の産物とも言えるだろう。
令和の現代では同性愛の理解も深まり、改めてヤマジュン作品を再評価する動きも少しは見られている。

復刊ドットコムへの復刊運動で『ウホッ!!いい男たち~ヤマジュン・パーフェクト』という、それまでに発売された単行本や未収録作品をまとめた本が発売。
4800円とかなり高額だったにもかかわらず好調な売上を見せ、薔薇族編集部引き払いの際に発見された未発表原稿を収録した第二弾やベスト版も発売された。

ちなみに2000年代から2010年代前半期にかけては、山川の消息が不明だった事もあってか割と著作権が宙ぶらりんな状態だったらしい。
その間に製作されたサブカル系作品、特にアニメ媒体では『やわらか三国志 突き刺せ!! 呂布子ちゃん』『じょしらく』などでヤマジュン作品のキャラデザまんまの登場人物が出てきたりと、
冷静に考えると割と無法地帯気味なパロディが横行していた時期もあった。
しかし、2013年には伊藤氏と契約を取り交わしたIKD Internationalに山川作品の著作権管理が正式に移管され、
その後FMC'sエンタテインメントへの再移管を経て、2018年以降は株式会社サイゾーに再々移管されている。


■作品

未発表の4作を含めて、合計39作が確認されている。
未発表でない35作は『ウホッ!! いい男たち~ヤマジュン・パーフェクト』に収録。未発表作品は『ウホッ!!いい男たち2 ヤマジュン・未発表作品集』に収録。
『ウホッ!! ヤマジュン・セレクション やらないか』に収録されている作品には★をつける。

■単行本『君にニャンニャン』収録作

けいせい出版刊。1986年発行。絶版。

■単行本『兄貴にド・キ・ド・キ』収録作

けいせい出版刊。1986年発行。絶版。

■単行本『ワクワクBOY』収録作

けいせい出版刊。1988年発行。絶版。全て単行本描き下ろし作品。

■単行本未収録作

増刊号など『薔薇族』本誌以外に掲載された作品が多い。

■未発表作品

『薔薇族』の編集部を引き払う際に発見された。



追記・修正はヤマジュン先生の消息を知っている方にお願いします。

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最終更新:2025年04月22日 18:16

*1 これに関連して、彼の作品は妄想で作られたものだと推測し、だからこそ面白くなったのではないかと伊藤氏は語っている。

*2 これに関しては、70代以上の人でインターネットに親しんでいる人はさほど多くなく、それ故に自分が昔描いた漫画がインターネット上で評価・注目されていること自体知らないからではないか、とも言われている。