どうしてこんなことに……。炎に焼かれ、悲鳴と血しぶきが舞う光景を目の当たりにしながらハルトヴィン・バルツァーは一人の少女と女性の遺体――――――エリンと言う名のハルトヴィンの大切な相棒だった冒険者――――――を抱き抱えながら呆然としていた。
ハルトヴィンはエリンと共に冒険者ギルドからの依頼をこなし拠点としている街に帰っていた時の事だった。街から上がっている煙の数がやけに多いことを訝しんで急ぎ戻ってみれば魔物たちと暴徒によって街が焼かれていたのだ。ハルトヴィンとエリンは慌てながら武器を携え駆けつけたのだ――――――それが間違いだったとハルトヴィンは後に後悔することとなった。生き残りを助けようと魔物たちを倒していったが一向に数が減ることがなく、そればかりか逆にこちらが劣勢に追い込まれていく始末だった。
そんな時だった。エリンの悲鳴が聞こえてきたため、急いで駆け付けたところ相棒のエリンが魔物に食われている光景を目撃した。ハルトヴィンは叫びながら魔物をハルバードで突いて殺すも手遅れで、すでに彼女は息絶えていた。彼は慟哭した。これまで何度も助け合ってきた相棒がこんな呆気なく命を落としたことに、彼女を助けられなかったことに。
エリンの遺体を抱き締めながら嗚咽を零しているとふと微かな呼吸音が聞こえてくる。音がした方を向くと子供が――――――それも年端もいかない少女が血を流し瀕死の状態で倒れていた。それを見てハルトヴィンはエリンが死んでしまった理由を察した。少女を庇ったのだ。ハルトヴィンは少女を抱き締めた。エリンが命がけて庇った少女を守るように、エリンの偉業を残そうとするかのように。そしてふと周囲を見回して絶望した。
いつの間にか魔物に囲まれていたのだ。どの個体もいつでも襲えると言わんばかりに舌なめずりをしている。自分一人ならこの状況でも脱出できた。エリンの遺体を捨てれば、少女を見捨てればいくらでも活路を見出すことができた。しかし、ハルトヴィンはそれを選ぶことができなかった。せめてエリンを、大切な相棒をきちんと埋葬してやりたかった。エリンが命に代えてでも守った少女を見捨てたくなかった。だからハルトヴィンが活路を見出せる選択肢は自分の手で握りつぶすこととなった。
ハルトヴィンはエリンと共に冒険者ギルドからの依頼をこなし拠点としている街に帰っていた時の事だった。街から上がっている煙の数がやけに多いことを訝しんで急ぎ戻ってみれば魔物たちと暴徒によって街が焼かれていたのだ。ハルトヴィンとエリンは慌てながら武器を携え駆けつけたのだ――――――それが間違いだったとハルトヴィンは後に後悔することとなった。生き残りを助けようと魔物たちを倒していったが一向に数が減ることがなく、そればかりか逆にこちらが劣勢に追い込まれていく始末だった。
そんな時だった。エリンの悲鳴が聞こえてきたため、急いで駆け付けたところ相棒のエリンが魔物に食われている光景を目撃した。ハルトヴィンは叫びながら魔物をハルバードで突いて殺すも手遅れで、すでに彼女は息絶えていた。彼は慟哭した。これまで何度も助け合ってきた相棒がこんな呆気なく命を落としたことに、彼女を助けられなかったことに。
エリンの遺体を抱き締めながら嗚咽を零しているとふと微かな呼吸音が聞こえてくる。音がした方を向くと子供が――――――それも年端もいかない少女が血を流し瀕死の状態で倒れていた。それを見てハルトヴィンはエリンが死んでしまった理由を察した。少女を庇ったのだ。ハルトヴィンは少女を抱き締めた。エリンが命がけて庇った少女を守るように、エリンの偉業を残そうとするかのように。そしてふと周囲を見回して絶望した。
いつの間にか魔物に囲まれていたのだ。どの個体もいつでも襲えると言わんばかりに舌なめずりをしている。自分一人ならこの状況でも脱出できた。エリンの遺体を捨てれば、少女を見捨てればいくらでも活路を見出すことができた。しかし、ハルトヴィンはそれを選ぶことができなかった。せめてエリンを、大切な相棒をきちんと埋葬してやりたかった。エリンが命に代えてでも守った少女を見捨てたくなかった。だからハルトヴィンが活路を見出せる選択肢は自分の手で握りつぶすこととなった。
「……助けてくれ……」
ハルトヴィンの口からそんな言葉が零れた。只の命乞いに聞こえる言葉。しかし自分が助かりたいがためではなかった。
「この子だけでも……助けてくれ……!」
祈るような、縋るような声で少女の命を守るための命乞いを魔物たちにしていた。背後で建物が崩れる音が響く。
「頼む……!」
ふり絞るような声で少女とエリンの遺体を抱き締め顔を俯かせながらハルトヴィンは命乞いを続ける。しかし、魔物たちにハルトヴィンの言葉を解する知性などなく今にも襲い掛かろうとする。その直後、魔物の短い悲鳴と肉を斬り裂くような音が聞こえてきた。ハルトヴィンは恐る恐る顔を上げるとそこには魔物たちの死体と二人の男女が目に前に立っている光景があった。男の方は黒い髪に筋肉質でやけに禍々しい魔力を放つ奇妙な剣を肩に担いでいる。女の方はくすんだ薄桃色の髪に肌の露出が多い服装をしている。ハルトヴィンが男女を呆然と眺めていると女の方が彼の方に近づいてきて、目線を合わせるように屈みこんでくる。
「いいですよ?」
開口一番に女はそのような言葉を発する。ハルトヴィンは女が何を言っているのか一瞬理解できなかった。しかし女が立て続けにはなった言葉で何を言われたのか理解する。
「助けてあげましょう。あなたも、その子も、どちらも」
ハルトヴィンは地獄で仏を見たかのような表情を浮かべ頭を下げる。少女が救われることに感謝を示すように。
「頭を上げてください。私達の仲間になることが条件ですよ」
ハルトヴィンは顔を上げ女の言葉にすぐさま頷き肯定の意思を示した。一刻も早く少女を救いたかったのだ。女は満足するように、どこか蠱惑的な雰囲気を感じさせる笑みを浮かべながら満足そうに頷いた。
「わたしはノキア、ノキア=フィームと言います。これからあなたはわたしたちの仲間です。よろしくお願いします。今すぐ治療を施しますからその子をこちらに」
ノキア=フィームと名乗った女に瀕死の少女を預けハルトヴィンは安堵した。これで少女が救われる。エリンが命と引き換えに守った少女をが。エリンの行動が無意味ではなくなる。そう確信した。誤った選択をしたと自身の判断を呪うことになるとは思いもしなかった。
「さあ、ショウタイムってやつだ。この場でボク達の仲間になったことを証明してくれ」
大勢の人間に囲まれながらつい先日まで酒を飲み合った冒険者の男にハルバードを突きつけていた。コルギと名乗った天空人とリベリオ=ギルノーツと名乗る人族の男に連れられたと思ったら獲物のハルバードを握らされ、目の前の男と殺し合うよう命令されたのだ。
「これは儀式だ。さぁ、証明してくれ」
何の冗談だとハルトヴィンは思った。しかし自分を囲う者たちは武器を掲げながら囃し立てる光景から逆らえば殺されると思った。その上最悪なことに拒否すれば自分共々少女を殺すと脅してきたのだ。
「……嘘だろ……嘘だと言ってくれ……バルツァー……!」
冒険者の男が声を震わせながら、懇願するように言葉を口にする。しかしハルトヴィンは男の言葉を肯定すること等出来なかった。恐怖や嫌悪感を押し殺すように叫びながらハルバードを構え目の前の男に突撃し、滅多差しにして殺した。それ以外にできること等なかった。周囲の者たちがハルトヴィンを賞賛するように、迎え入れるように囃し立ててくる。コルギと名乗る天空人が馴れ馴れしく肩に手を回してくる。ハルトヴィンにはそれがどうしようもなく悍ましいと感じられた。命を救うために命を奪った自分に対しても。
それからのことはあまり覚えていない。気が付けば銀髪碧眼で褐色肌の少女と共に行動していた。自分が仲間入りしたのが魔王崇組織ゲルド・バルク教団だということに気づいたのもそんな頃合いだった。今更拒否すること等出来なかった。
少女は命こそ救われたものの何も覚えていないようだった。それでいいとハルトヴィンは思った。ハルトヴィンは少女にキルメアと言う名を与えた。昔好きだった小説の主人公の名前から取ったものだ。キルメアはそっけなさそうにしていたが何度もつぶやいていたことから気に入ったようだった。
ゲルド・バルク教団――――――終末派と呼ばれる知的種族の集まり――――――ではキルメアと共に『殺戮』に従事することとなった。本当はキルメアを巻き込ませたくなかった。しかし、教団の連中がキルメアを言い包めたためか本人が従事する意思を見せてしまっていた。嫌悪感を覚えたがハルトヴィンにはそれ以上何も言えなかった。『今』を生きるためには、キルメアを生かすためにはそうするしかなかった。それ以上に惨いものをキルメアに味合わせたくなどなかった。
少女は命こそ救われたものの何も覚えていないようだった。それでいいとハルトヴィンは思った。ハルトヴィンは少女にキルメアと言う名を与えた。昔好きだった小説の主人公の名前から取ったものだ。キルメアはそっけなさそうにしていたが何度もつぶやいていたことから気に入ったようだった。
ゲルド・バルク教団――――――終末派と呼ばれる知的種族の集まり――――――ではキルメアと共に『殺戮』に従事することとなった。本当はキルメアを巻き込ませたくなかった。しかし、教団の連中がキルメアを言い包めたためか本人が従事する意思を見せてしまっていた。嫌悪感を覚えたがハルトヴィンにはそれ以上何も言えなかった。『今』を生きるためには、キルメアを生かすためにはそうするしかなかった。それ以上に惨いものをキルメアに味合わせたくなどなかった。
「次は何をするのですか? バルツァーさん」
キルメアはハルトヴィンと行動することにこだわっていた。普段の態度こそ素直な物ではないのに後を付いてくるのだけはやめなかったのだ。ハルトヴィンはキルメアに対してどう接すればいいのか分からなかった。ただ、キルメアを守ることだけは決めていた。いつの間にか自分よりキルメアの方が強くなっていたとしても、それだけは譲らないつもりだった。
「……次の目標となる街に潜入する。荷物をまとめておくんだ」
「分かりました」
「分かりました」
本当はキルメアにこんな残酷なことはさせたくなかった。しかし、他に選択肢等なかった。彼女に手を汚してほしくなくて何度も置いて行こうとした。その度にキルメアは無理矢理ついてきて挙句守られる羽目になってしまった。不甲斐無いと何度も自分を責めた。その度にいつかキルメアをこの教団から解放してやりたいと願うようになった。いつか、いつの日か、この教団から逃がして自分のことなど忘れさせて自由の身にしてやりたかった。いつになるか分からなくとも、それだけが望みとなった。
「……絶対に置いて行かないでくださいね……ハルトヴィンさん……」
彼女が自身に何を望んでいるのかすら気づかないまま、今日もハルトヴィンとキルメアはゲルド・バルク教団で共に生きていく。自分たちにどんな末路が待ち受けているか知れぬまま、自らの手を血で汚しながら、二人は生きていくのだった。