秋津列島の中心部に当たる霞諸島――――――将軍派が治める西霞島、その内政に携わる城にて政務を終えた冨家徳光は足早にとある部屋へ向かっていた。彼にとって政務を行っている間というのはストレスが非常に溜まりやすい。
ただでさえ将軍が行うべき職務が多い上に常日頃から御門派や姫巫女派、大僧正勢力との折衝に勤しまねばならず、最近ではアルカナ教団というマジョリア大陸が本山である宗教勢力の相手までせねばならない。場内においても味方と言える人物は皆無と言って等しく常に警戒を必要とし、更にはいつ刺客を差し向けられ暗殺されるかもしれないという恐怖に晒されている。下の者たちからは要望や直訴という名の突き上げを食らうこと等日常茶飯事でしかない。ストレスを溜めるなという方が難しい。
こういう時、現姫巫女が羨ましく感じる。護家人と呼ばれる武士が付いている事。姫巫女がどれほど優秀でなくとも常に頼りになる味方が傍に控えているのだ。自分にはそんな存在はいない。手を組むことはあれど味方になることはない。そればかりか城内にいる者全てが敵に見えてすら来る。武士から下人に至るまで、その全てが。外も内もほぼ敵だらけと言っていい。そんな状態が常識と言える狂った環境だ。いつ壊れてもおかしくはないと徳光は思う。
ただでさえ将軍が行うべき職務が多い上に常日頃から御門派や姫巫女派、大僧正勢力との折衝に勤しまねばならず、最近ではアルカナ教団というマジョリア大陸が本山である宗教勢力の相手までせねばならない。場内においても味方と言える人物は皆無と言って等しく常に警戒を必要とし、更にはいつ刺客を差し向けられ暗殺されるかもしれないという恐怖に晒されている。下の者たちからは要望や直訴という名の突き上げを食らうこと等日常茶飯事でしかない。ストレスを溜めるなという方が難しい。
こういう時、現姫巫女が羨ましく感じる。護家人と呼ばれる武士が付いている事。姫巫女がどれほど優秀でなくとも常に頼りになる味方が傍に控えているのだ。自分にはそんな存在はいない。手を組むことはあれど味方になることはない。そればかりか城内にいる者全てが敵に見えてすら来る。武士から下人に至るまで、その全てが。外も内もほぼ敵だらけと言っていい。そんな状態が常識と言える狂った環境だ。いつ壊れてもおかしくはないと徳光は思う。
だが現実にはいまだに自分は壊れていない。発狂するにはまだ狂気が足りない。理由は簡単だ。自分には愛すべき存在がいる。唯一無二、ただ一人味方と言える存在が。
目的の部屋に到着した。戸に手をかける前に大きく深呼吸をし「入るぞ」と一声かける。今部屋の中にいる存在との約束事だからだ。「はい」と短い返事が返ってきたから戸に手をかけ横に引いて入室する。
目的の部屋に到着した。戸に手をかける前に大きく深呼吸をし「入るぞ」と一声かける。今部屋の中にいる存在との約束事だからだ。「はい」と短い返事が返ってきたから戸に手をかけ横に引いて入室する。
「お帰りなさい、ダンナ様」
部屋に入れば愛らしい存在が正座をして待っていた。透き通るような金色の髪を生やし、どこかあどけなさと幼さを併せ持つ可愛らしい容姿、質素だが上質な着物を身に纏う、冨家徳光の妻、冨家ユミカが笑顔で出迎えてくれる。徳光は破顔しながらユミカに縋りついた。
「疲れたぞーユミカぁ……。今日も何とか一日を乗り切ったぞー」
およそ他人には見せられないような姿をさらしているがユミカはそれに構うことなく、彼を抱擁し受け入れている。ユミカにとってはいつものことである。自分にしか見せないその姿にどこか可愛らしさすら感じている。
「偉いですねダンナ様。今日も膝枕がよろしいですか? それとも歌でも歌いましょうか?」
「両方で頼む」
「両方で頼む」
そう言って徳光はユミカの膝に頭を乗せて寝転がる。城内の武士たちからすれば非常にだらしない姿ではあるがそれを咎める者はこの部屋にはいない。徳光は破顔したまま、頭部に感じる柔らかい感触を堪能している。ユミカはそれを微笑みながら受け入れている。
「今日はどのような歌にしましょうか? 最近東霞島の街中で流行っていると言う噂の短歌でもいかがでしょうか?」
「ユミカが好きな歌であればそれでもよい。とにかく聞かせてくれ」
「はい、それでは――――――」
「ユミカが好きな歌であればそれでもよい。とにかく聞かせてくれ」
「はい、それでは――――――」
徳光の許可を得てユミカは歌いだす。瑞々しさを感じる唇に目を奪われつつ徳光はユミカの歌声に聞き惚れる。何度聞いてもユミカの歌はいいと感じる。その甘い声も歌っている時の優しい顔も何もかもが素晴らしいと徳光は思う。
ユミカさえいればいい、彼女が傍にいてくれるのならそれ以上はいらない。ユミカがいるのだから自分は生きていられるのだと、そう思いながら徳光は瞼を下ろし、いつの間にか眠りに誘われていた。穏やかな寝顔を浮かべながら。
ユミカさえいればいい、彼女が傍にいてくれるのならそれ以上はいらない。ユミカがいるのだから自分は生きていられるのだと、そう思いながら徳光は瞼を下ろし、いつの間にか眠りに誘われていた。穏やかな寝顔を浮かべながら。
歌を歌い終えたユミカは徳光の規則的な呼吸音と徳光の目を閉じている様子から彼が眠っていることに気づいた。子守唄を歌っていたわけではないのだが徳光の寝顔があまりにも安らかであったため、仕方がないと言いたげな表情を浮かべつつ彼の頭に手を添える。
「今日もお疲れ様ですね、ダンナ様」
徳光の寝顔を見ながらユミカは一人呟く。いつも職務を終えた後の徳光はとても疲れた顔をしながら自身に抱き着き縋りついては甘えてくる。そんな彼の事をユミカはとても愛おしく感じていた。そんな徳光を甘やかすことは自身の生きがいとさえ言っていい。
徳光だけだった。海外の血をその身に流し、秋津では滅多に見ない金色の髪を伸ばす自分を愛してくれたのは。他は誰も愛してくれなどしない。自身を産んだはずの母でさえ常に疎んでいた。同年代の女児からは虐められ、助けを求めてもだれも見て見ぬふりをする。
そんな日々の中で死にかけの徳光を見つけたのはただの偶然でしかない。しかし、その偶然の中でユミカと徳光は共に過ごし、こうして夫婦となり愛してくれる。そんな徳光の事をユミカは愛おしくて仕方がなかった。彼が自分を愛してくれる、自分は愛されている。それがユミカにとって大きな救いだった。
だから、彼に愛されるのであればこうして甘えられることも、縋りつかれることも、依存されることも厭わない。徳光を独占できるのであればそれでいいとさえ思っている。その分だけ彼に尽くせば喜んで愛してくれるのだから。
徳光だけだった。海外の血をその身に流し、秋津では滅多に見ない金色の髪を伸ばす自分を愛してくれたのは。他は誰も愛してくれなどしない。自身を産んだはずの母でさえ常に疎んでいた。同年代の女児からは虐められ、助けを求めてもだれも見て見ぬふりをする。
そんな日々の中で死にかけの徳光を見つけたのはただの偶然でしかない。しかし、その偶然の中でユミカと徳光は共に過ごし、こうして夫婦となり愛してくれる。そんな徳光の事をユミカは愛おしくて仕方がなかった。彼が自分を愛してくれる、自分は愛されている。それがユミカにとって大きな救いだった。
だから、彼に愛されるのであればこうして甘えられることも、縋りつかれることも、依存されることも厭わない。徳光を独占できるのであればそれでいいとさえ思っている。その分だけ彼に尽くせば喜んで愛してくれるのだから。
「――――――ダンナ様、愛してます」
そう呟き、ユミカは徳光に口づけをする。静かに、そして深く、長く、熱く。しばらくして彼の唇から離れ、再びその寝顔を見つめる。
「だから、ワタシを捨てないでくださいね?」
そう言って、徳光が目を覚ますまで、熱っぽい視線を向けながら彼の寝顔を見つめ続けた。