【コインブラについて】

以下は、ある方とメールでやりとりした時に送った文章です。
テクモ版キャラクターの中でも特に印象深いコインブラについて、いろいろと考えたことをまとめたものです。
個人的な想像が多く含まれていますが、ご容赦下さい。



【幼少期~2の試合までのコインブラ】

2のコインブラは不思議な、と言うよりも不自然な存在です。
あのずばぬけた能力の選手がどこで鍛えられたのか。(他人に発見された当時、すでにあの能力だったというナトゥレーザの設定はおかしいですよね)
どうしてあの天才選手が、サッカーが大人気のブラジルで無名のままでいられたのか。
どうやってロベルトは無名であるはずのコインブラの存在を知ったのか。
ブラジルユース代表を選ぶ際に、どのようにしてコインブラが選ばれたのか。「監督であるロベルトの一存、半ば強権的に決定」であるのは間違いありませんが、そのために誰かがユースから落選するのです。それをロベルトはどうやって言い訳したのか。
チームメンバー表に不自然な空欄が用意されている、もしくはコインブラという誰も知らない選手の名が登録されているが、それはいったいどういう事なのか、ブラジルのサッカー関係者や報道陣は誰もロベルトに問い質さなかったのでしょうか。
そして、最大の謎は「なぜロベルトはコインブラをチームに同行もさせず、決勝戦後半まで起用させなかったのか」という事。ただ「翼をびっくりさせたかった」だけではおかしいですよね。


考えられる事の一つは、「コインブラはロベルトの秘蔵っ子であった。コインブラを育成したのはロベルト」という事です。
これならロベルトの他に誰も知らなかった、しかしロベルトはコインブラの事を知っていたという事の説明はつきます。
しかし、この場合、なぜロベルトはサンパウロFCにコインブラを入れて育成しなかったのかという疑問があります。
チームプレイを学ばせる事もできますし、チームも強化できますし、なにより翼とコインブラを並べて鍛え上げる事ができる。
これをしなかったのは不自然すぎます。
サンパウロFCの仕事をしながら、裏でコインブラに個人的にレッスンを続けていたというのもおかしいですし。
そんな理由で、私は「コインブラの師匠はロベルト」説は違うのかなと思っています。

次の可能性は、「コインブラの師匠はジョアン」という可能性です。
ジョアン監督がカンピオーネを作り始めたという話は5での後付けなので、2の時点ではそんな話は無かったのは確実なのですが、考えてみるとこちらの方が辻褄が合いそうなのです。

ロベルトが目の治療のためにブラジルから日本へ行き(結果、絶望的である事が判明する)、そのままロベルトはブラジルに戻ってきませんでした(翼にコーチをするため)。
そして責任を感じたジョアンはサンパウロFCの監督を辞め、一時サッカーから離れてしまいます。
しばらくしてロベルトはブラジルに帰国。ジョアンが退任したサンパウロFCの監督に就任し、サッカーに携わる人生を続けて行きます。
これを見てジョアンもサッカー界に復帰。今度は世界最高の選手達を鍛え上げ、最強のチーム「カンピオーネ」を構想していきます。
この時に、カンピオーネの最初の団員として育てあげられたのがコインブラだった、というのが私の想像です。
(しかし、カンピオーネの結成と同時期にコインブラは怪我で入院してしまい、本来の計画であるカンピオーネ入団は実現できませんでした)

初登場時のコインブラのサッカーは極端な個人主義でした。性格は傲岸不遜で他人の気持ちを考えない、偉ぶった態度で接する人物です。
習得している技は、上手いプレイヤーは標準装備のオーバーヘッドキックを除けば、マッハシュートと倍速ドリブルだけ。
相手をどうやって抜くかという必殺ドリブル、相手のボールをどうやって奪うかという必殺スライディング、相手のシュートをどう防ぐかという必殺ブロックなどは一切ありません。(必要が無いほど能力値が高いという事もありますが)
コインブラのサッカーには他人が存在しないのです。
相手と接触したらどうするかという以前に、倍速ドリブルで接触できない。
相手のキーパーをどうかわしてゴールに入れるか(曲がるシュート)、あるいは蹴散らすか(一直線に飛んで威力で吹き飛ばすシュート)ではなく、人間の動体視力で捉えられない超高速シュートでキーパーの存在を無力化する。
作戦もチームプレイも不要、ただコインブラ自身が全力で駆け抜け、全力でシュートを撃つだけで勝ってしまうサッカー。
この「フィールドにいるのは自分一人だけ、敵も味方も同じフィールドに存在していないサッカー」がコインブラの最初のサッカーでした。
これが、芸術的ドリブルこそありませんが、ジョアンがカンピオーネで指導していたサッカーによく似ていると思うのです。

+ 余談 ジョアン監督の不自然な妄執
ジョアン監督はなぜか翼個人に対して敵対意識を抱いており、それが何故だったのかは5の作中では明示されません。
試合前にアルシオンに向けて言った「翼を倒してこい」と個人の名を挙げての指示。
ルーベンやシニョーリ達、有望な選手をカンピオーネに入れなかったのは「翼に負けたから」という理由です。
(一度でも試合に負けたらカンピオーネに入れない、という条件ではありません。翼抜きの日本に負けたクスタは入団させているのです)
どこでそんなに翼を憎むきっかけが生まれたのか、5のストーリー内では明かされることはありませんでした。

そしてもう一つ、アルシオンを決勝戦まで隠していた理由が「デビューと同時に世界一になる。これは伝説になるじゃろう」というのは、
コインブラの起用法をもう一度やろうとした、そして今度は失敗しないよう前半から出すことにした、と考えれば全てが繋がるのです。

ジョアンはコインブラを倒した翼を憎んでいた。
そしてアルシオンにコインブラの影を見出し、コインブラでできなかった「初出場の世界最高選手」の栄光を掴もうとした。

この点も、デビュー前のコインブラを指導したのはジョアンだったと考える理由の一つです。


コインブラは映画版の「サッカーサイボーグ、カルロス・サンターナ」の「冷たいプレーをする最強の選手」という個性を受け継ぎ、カルロスは名前だけを受け継いだ完全な別人ではないかと思います。
テクモ版のカルロスはサッカーサイボーグではなくジャイロの再来。(原作者が絡んできた5でサッカーサイボーグ、サンターナと呼ばれてしまいましたが、その横槍が無ければサッカーサイボーグではありませんでした)
そしてコインブラは、翼によって否定される「サッカーサイボーグ」から、翼が目指すべき目標「スーパーストライカー」へと肯定的な意味に生まれ変わり、敗退後も翼に諭されて「俺のサッカーは間違っていた、翼のようにプレーしよう」ではなく、カルロスに労われるという結末に向かいます。これは二人に別れていた映画版カルロスが最後に一人に戻り、その存在が否定ではなく昇華されたようにも思います。
(普通だったらラスボスは主人公に諭されて改心するはず。これを主人公以外にやらせたのはストーリー展開上異質なのです)


さて、こんなコインブラをジョアンから紹介されたロベルトは内心頭を抱えた事でしょう。
確かにコインブラは完成されたスーパーストライカー。
しかし、あまりにも圧倒的すぎてブラジルのメンバーでも動きについて来れない、コインブラは他人に合わせるつもりが全く無い、しかし恩師ジョアンの紹介では断る事ができない。
「ここでの監督はこの俺だ、俺のやり方に従え」とも言いづらい。なにしろ完成されたスーパーストライカーです。下手に指示を出したらコインブラの個性を潰しかねない。
これだけの厳しい競争を勝ち抜いてきたメンバーに「コインブラにボールを回して、後は見てるだけでいいぞ」とも言えない。たとえ最適解がそうだったとしても。
こうしてコインブラはロベルトの中で「強い事は分かるが、最後の最後まで使いたくない」という存在になっていったのです。
先に挙げた「メンバー表の中にあるコインブラという選手は何者なのか。なぜリオ・カップに参加していない選手を抜擢したのか」という質問を受けた時にも、「ジョアン監督が推薦してくれた選手です」の一点張りで逃げ切ったのでしょう。ジョアンの名を出すだけで「それなら切り札となる強豪選手に違いない」と相手も納得してくれたかもしれません。


【2の試合後~3のコインブラ】

コインブラは日本に敗れてしまいます。
その時のカルロスの台詞「負けはしたが、お前は良くやったよ」という台詞もまた、意味深なものです。
その台詞はまるで、実際に戦っていない監督や応援団が選手たちに投げかける言葉です。
「俺たちブラジルユースは全員精一杯やったよ」ではなく、「お前は」とはどういう事なのか。
それは、コインブラがたった一人で全日本の全員を相手に戦っていて、ブラジルのメンバーは後半戦では戦いに入れなかった事を示唆しています。
そこで「自分一人しかフィールドに存在しないサッカー」をしていたコインブラは、敗戦の全責任を自分一人に感じていたことでしょう。
「他の連中が頼りにならないから負けたんだ」とも、「俺を最初から出してくれていたら負けなかった」とも思わず、後半戦だけで自分一人で勝てると思っていた自信、完成されたスーパーストライカーとしての誇りが打ち砕かれて、ただ呆然としていた。自分がこれから敗者として生きていく事が信じられなかった。

そこに声を掛けてくれたのがカルロスでした。
初めて自分に仲間として声をかけてくれた人。
「負けはしたが、よくやった」と自分を肯定してくれた人。
コインブラにとってはサッカー人生で初めて得た友達であり、孤独や絶望から救い上げてくれた人がカルロスなのです。
(普通ならこの役を翼がやるはずなのですが、コインブラの場合はカルロスでした。ここで「翼に対して友好的でない」という性格が固まります。以後ほとんど翼とは口を利かない。翼に対しては「いつか逆襲してやるぞ」以外の感情は無い)

こうしてコインブラはカルロスに完全に懐いてしまいました。
これまでジョアンのもとで一人でサッカーの練習をしていたのが、カルロスと同じクラブチームに入りたいと言い出す。
カンピオーネ結成まで待っていろと言うジョアンの指示も聞かず、とうとう「幻の超強豪」が「普通のクラブチームの一員」になってしまうのです。
そこでコインブラが作り出したものは、カルロスと一緒に放つシュート、リーサルツイン。たぶん、これの練習ばっかりやってたのではないだろうかと思います。
チームの中に入って共同生活とかチームプレイとかも一応学ぶものの、やりたかったことはカルロスとの合体シュート。
カルロスにべったりの日常生活が容易に想像できます。
ブラジルユースの全体練習にも参加はするものの、やっぱりどこか浮いた存在になってしまっていたことでしょう。
ただ、カルロス大好きっ子なのは周りの目から見ても一目瞭然ですから、「カルロスに通訳を頼めばいい」という事になって、カルロスが苦労人ポジションになってしまっただろうと。
そんな感じで、ブラジルはエースストライカーばかりで我が強い選手が多くいそうですから、チーム内の統一された作戦として「カルロスかコインブラにパスを送ってリーサルツイン撃たせようぜ」で徹底されず、個々がそれぞれにドライブシュートやバナナシュートを撃ってしまって若林に取られてしまうという結果になってしまうのです。
コインブラにしても、3の台詞は「俺はあの時から生まれ変わった、チームプレイを身につけたんだ」という感じの言葉ではなく、「完成されたスーパーストライカーのパワーを見よ!」です。ツインシュートだと言うのにカルロスのパワーは無視です。「俺とカルロスの力を~」では無いのです。よっぽど、スーパーストライカーとしての自分が負けた事に恨みを持っていたのでしょう。
普段はカルロスべったりでも、この時ばかりは全日本への恨みや怒りが爆発してしまったのでしょう。技名の「リーサルツイン」というのがもう殺意に満ち溢れていますね。

これは普通だったら、「もう新しいストーリーに入っているのに、一人だけ前作のことを言っている、過去の栄光が忘れられない、時代に取り残された旧ラスボスの惨めな台詞」そのものなのですけど、今からリーサルツインが飛んでくるという時にそんな事は言ってられません。立派に3でも通用する恐怖の必殺技です。そのキャッチフレーズを出されただけで前作の恐怖が蘇る演出ですね。


ユニバーサルユースで日本戦直前のカルロスとコインブラ。
「所感諸々」のkariu様にイラストを描いて頂きました。本当にありがとうございます。

【4のコインブラ】

4では会話シーンがいくらか増えていますが、性格がかなり丸くなっているようです。
ラテンアメリカカップで翼と同じチームになった時に会話無し、海外遠征編で翼とストラットが決勝で戦おうと話しているところに「そうはさせないぞ」と割り込んでいく等、相変わらず翼に対しては友好的な姿勢を見せませんが。
カルロスやゲルティスが翼を褒めると、コインブラはそれに対してストラットや全日本の事を讃えます。翼だけにこだわるのではなく、視野が大きくなったように見えます。
ストラットに対して「去年は棘のあるプレイだったが、今年は伸び伸びしていい方向に向かってるな」というのは、どの口が言う台詞かと苦笑してしまうくらいなのですが、自分もそうだからこそ分かる事だったのかもしれないですね。
全日本に対して「翼の力だけじゃ無い……。日本のサッカーは底知れぬ力を持っている」と言うのはチーム全体に対して目を配る事ができているという事、コインブラのサッカー観が以前とは異なってきている事を示しています。
ただ、これらも、実は「翼に負けたんじゃないぞ!他の奴らも強かったんだ!」という翼を認めたくない子供っぽい言い訳だったら、結構可愛いのですけど……(笑)

ところで、4の話の中ではブラジルがデンマークに負けるとか、前年にコインブラがストラット(メガロゾーンシュート修得前)に負けているとか、そのストラットがメオンに負けているとか、どうにも力関係がおかしい勝敗結果が見られます。サッカーは実力通りには行かないという事なのでしょうか……?


【5のコインブラ】

コインブラは試合中の負傷で入院してしまいます。
コインブラの方が「カルロスを失ったらもう生きていけない」という状態になるのは分かりますが、カルロスにとってもコインブラは失う事のできない存在になっていました。

コインブラは「ここまで思い切りやってこれた、悔いは無い」とまで語ります。それはどういう意味だったのか。
(テクモキャラクターの代表としてここまで思い切りやってこれた、原作が再開したのならもうテクモ版は完結する、という裏の意味こそが真意であるのでしょうが、それはともかくとして)
コインブラはこれまで日本に勝つ事はできなかった。スーパーストライカーとしての意地を貫徹する事はできていなかった。
それなのに「思い切りやってこれた」と言い切れるのは、彼のサッカーが「自分こそが世界最強のサッカー選手だ」という2の頃から変質している事の証です。
コインブラが「思い切りやってこれた」のは、世界大会で優勝することでも、自分が最強のサッカー選手だと世の中に示すことでも、日本や翼に借りを返すことでも無くなっていた。
ただカルロスと一緒にプレーしている時間こそがコインブラにとってのサッカーになっていたのです。
それは日々の練習の中でも良かった。何かを目標とする必要は無かった。
そうしてコインブラが変わっていった時間を共有するカルロスにとっては、「せっかくコインブラがここまで変わってくれたと言うのに」「コインブラからサッカーを取ってしまったら一体何が残るんだ。サッカーをしていなかったら俺と共有できる時間も無くなってしまうのに」という不安や心配と同時に、カルロス自身も「コインブラの面倒を見てあげていないと心配で心配でたまらなくなってしまう自分」に気づいたのでしょう。
サッカーどころではなくなり、力も出なくなってしまい、一時はチーム内で窮地に陥ってしまう。

そしてコインブラも復帰を決意するのですが、そのきっかけは何だったのか。
もう一度翼に勝負を挑みたい。もう一度カルロスと一緒にプレーをしたい。それも間違いないはずなのですが、もう一つあります。
シニョーリという新しい子がカルロスに懐いたのです。
これまで言う事を聞かなかった我が儘な子がチームプレイに目覚めました。
これはもうカルロスべったりにならないわけがありません。
たいてい、こういう子は改心後には可愛い弟キャラになるものです。
コインブラから見れば、弟が生まれたために母親を取られてしまった長男のような気分。
「お前にはカルロスを渡さないぞ」の一念が復帰を決意させたのです。


【6が出るとしたら】

ブラジルチームにとってはコインブラ復活編になることでしょう。
5でほとんど消されてしまったかつてのメンバーを戻し、新メンバーのシニョーリも加え、
あとはディフェンダー達が無闇にドライブシュートを遠距離から撃ちたがる悪癖を無くしてドライブパスとバナナパスでカルロスとコインブラにボールを集める作戦に変える。

ストーリー上でも楽しくやれそうです。
カルロスとコインブラの中にシニョーリが混ざると、困った子(無愛想な兄)と困った子(やんちゃな弟)のドタバタに巻き込まれる苦労人という形になって、会話の想像がどんどん出来上がっていくんです。


最終更新:2024年08月31日 19:13
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