劇症型ウイルス性呼吸器不全熱 |
電子顕微鏡により約10万倍に拡大されたエルフ熱ウイルス |
概要 |
診療科 |
家庭医療, 呼吸器学, 感染症内科学, 救急医学 |
症状 |
発熱、頭痛、筋肉痛、関節痛、嘔吐、下痢など |
原因 |
エルフ熱ウイルス |
合併症 |
出血傾向(消化管出血、脳出血など)、肝機能障害、消化器障害、呼吸障害、播種性血管内凝固症候群(DIC)、脳炎、脳症、脳浮腫、腎機能障害、多臓器不全 |
治療 |
支持療法、回復者血清・血液の輸液、電解質輸液による全身状態の改善など |
予後 |
不顕性感染が多いが、発症すると致死率90%以上。発症後は予後不良の傾向がある。 |
エルフ熱(
elf'd kiesyt)、または
劇症型ウイルス性呼吸器不全熱(
eccexlowirkenasch lizarmonasch favedurkoustu'd kiesyt)とは、エルフ熱ウイルスを病原体とする急性ウイルス性感染症。ヒトに感染するエルフ熱ウイルスは非常に高い感染力と致死性を表し、
ファイクレオネにおいて甚大な被害をもたらした。早期に治療を始めなければ、致死率は最大90%までに及び、救命できたとしても重篤な後遺症を残すことがある。
日本語文献においては
エルフ出血熱の語も良く用いられる。
感染源
自然宿主
自然宿主の特定には至っていないが、複数種のブタだと言われており、ブタを食用とする習慣があるレアディオ北東部から全世界に広く流行することとなった。サルからの感染例も報告されており、サルの血液が傷口に付着したことによるウイルスの侵入が疑われている。
感染経路
基本的に患者や宿主の体液による飛沫感染が主な感染経路となる。また、死亡した患者の遺体や動物の接触によって感染する。ウイルスは非常に強い生命力をもち、患者の死後24時間が経過してもウイルスは十分感染力を残している。ウイルスの感染力自体は強いものの、空気感染はせず、感染者の体液や血液に触れなければ感染しない。これまでに見られた感染拡大も、医療器具の不足や理解不足により、患者の血液や体液に触れたことによりもたらされたものが多い。また、患者の隔離に関する措置が十分に行われていれば、感染することはないとされている。
症状
潜伏期(感染から発症まで:約4日)
エルフ熱ウイルスに感染してから発症するまでの潜伏期は約4日程度である。この期間、ウイルスは主に呼吸器粘膜上皮細胞に感染・増殖する。体に入ったウイルスは、初期段階にはインターフェロン抑制を行い、一定量増殖後にアポトーシスを誘導することで、体内に拡散していく。また、ウイルスは所属リンパ節で急速に増殖し、徐々に全身に広がっていく。またこの際に、ウイルスが樹状細胞に乗って血管内皮に到達し、血管内皮細胞感染を開始する。
潜伏期には特異的な症状は見られないが、感染者は既にウイルスを体外に排出しており、他者への感染源となりうる。
前駆期(発症の1週間前から発症まで)
発症の1週間ほど前から、インフルエンザ様症状が現れる。39から40℃程度の高熱、筋肉痛、悪寒、頭痛、倦怠感などがみられ、次第に咳嗽や鼻汁も伴うようになる。この時点では、エルフ熱ウイルスに特異的な症状はなく、インフルエンザなどの呼吸器感染症との区別は困難である。
前駆期には、ウイルス血症が生じ、全身の臓器にウイルスが播種される。ウイルスは血管内皮細胞や免疫細胞に感染し、サイトカインの過剰産生(サイトカインストーム)を引き起こす。その結果、全身性の炎症反応が生じ、発熱や倦怠感などの症状を引き起こす。サイトカインによる気道過反応によって肺血管内皮障害に伴う間質性浮腫が発生し、咳嗽が引き起こされる。また、血管内皮細胞の傷害により、血管透過性が亢進し、浮腫や出血傾向の素地が形成される。
発症期(発症から10日以内)
前駆期の後、突然の高熱(40℃以上)と全身の膿疱形成をもって発症する。膿疱は直径5~10mmの大きさで、痛みを伴い、破れやすい。皮膚のみならず、口腔粘膜や結膜にも形成される。膿疱形成と同時に、皮膚や粘膜からの出血斑が見られるようになる。
発症期には、ウイルスによる直接的な細胞傷害と、過剰な免疫反応による組織傷害が複合的に生じる。サイトカインストームによって、全身の血管透過性が更に亢進し、重度の浮腫と出血傾向を引き起こす。また、ウイルスや組織傷害によって放出される組織因子により、播種性血管内凝固症候群(DIC)を合併する。
呼吸器症状としては、咳嗽・喀痰・呼吸困難が見られる。ウイルスによる肺胞上皮細胞の傷害と、サイトカインストームによる非心原性肺水腫により、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を呈する。重症例では人工呼吸管理を要する。
消化器症状としては、嚥下痛・嚥下困難、悪心・嘔吐、腹痛、下痢などがみられる。ウイルスは消化管上皮細胞にも感染し、粘膜傷害と出血を引き起こす。また、DICによる消化管出血も生じうる。
中枢神経症状としては、頭痛、羞明、意識障害、けいれん、麻痺などを呈する。ウイルスは血液脳関門を通過して中枢神経実質に侵入し、脳炎・脳症を引き起こす。また、サイトカインによる脳浮腫や、DICによる脳出血も生じうる。
終末期(発症から10日以降)
発症から10日以降は、多臓器不全が進行し、死に至ることが多い。ウイルス増殖と免疫反応による組織傷害が高度となり、肺、肝臓、腎臓、副腎などの重要臓器が不可逆的に傷害される。DICや血管透過性の亢進により、重度の出血傾向と浮腫が全身性に生じる。中枢神経症状が増悪し、昏睡状態となる。
最終的には、呼吸不全、循環不全、肝不全、急性腎不全などの多臓器不全により死に至る。発症から10日以内の致死率は90%に及び、一旦多臓器不全が生じれば、現代の集中治療をもってしても救命は困難である。
ごく一部の症例では、10日以降に症状が改善に向かうこともある。この場合、膿疱は徐々に痂皮化し、発熱や出血傾向は消退する。臓器障害は残存するものの、支持療法によって回復が期待できる。ただし、重度の臓器障害が残存した場合は、慢性期に移行し、長期の療養を要する。
予防
ワクチン開発には成功しておらず、現代
ファイクレオネ人を含めた悠里人類は免疫を持たないとされる。このため、罹患の予防のためには自然宿主であるとされる野生ブタとの接触を避けることが求められる。一般的な衛生観念ではあるが、自然動物をむやみに触らないことがエルフ熱感染への最も重要な予防と考えられている。
また、感染者の体液や排泄物に直接触れないこと、それら及び死亡者の高温による焼却処理、適切なバイオハザード管理などが医療機関には求められている。
治療
長らくは特異的な治療法が発見されず、支持療法を基本としていた。
現在では感染者のうち回復した元患者には抗体があり、元患者の血液や血清の投与が有効な治療法とされている。また脱水に対する点滴や、鎮痛剤及びビタミン剤の投与、播種性血管内凝固症候群 (DIC) に対する抗凝固薬等の投与が行われる。
流行
レアディオ国北東部のミレオアスディ村で最初に同定され、そこから2000年に急速な拡大を見せ、社会の存続にダメージを与えていた。しかしながら、上記で述べている通り、空気感染はしないために適切な防護と隔離を実践すれば感染がコントロール出来ることが分かったが、人口密集地帯や公的な施設が多いところでは体液の隔離が徹底できず発生は断続的に続いた。このような事態による社会的な風評被害は経済の不全を引き起こし、ひいては長期化による医療体制の脆弱化と医療リソースの漸進的な低下を引き起こした。これにより、医療システムが大規模ではない地方圏での発生をコントロール出来なかったためにエピデミックが断続的に続いた。
最終更新:2025年02月09日 22:18