「精霊機 ゼートゥルー・オライオ」
[ショートストーリー]
「自分」はその動きに合わせ、そしてその人間の意志に合わせ、場合によっては先んじて、場合によっては掣肘を加えながら、ただひたすらに、ひたむきに踊る。
踊りの相手は目の前のゲア・ガロウド……灰色をした、アルカディア帝国の先兵だ。
踊りの相手は目の前のゲア・ガロウド……灰色をした、アルカディア帝国の先兵だ。
両腕で構えた、従機の物だった長槍を得物に、踊る、歌う、踊る、歌う、踊る、歌う、踊る、歌う、そして踊り、歌った。
踊り歌っている間は、恐怖を忘れていられた。
踊り歌っている間は、恐怖を忘れていられた。
視界の隅に、長槍の持ち主だった従機が映る。
それは地面に倒れ伏し、それでも今なお命の灯のかけらを宿している。
それは地面に倒れ伏し、それでも今なお命の灯のかけらを宿している。
しかし「自分」には分かる。
操縦槽の中の人間にも、理解できているはずだ。
操縦槽の中の人間にも、理解できているはずだ。
ほどなく、あの機体は「死ぬ」。
自分は、そっとその人間の心へと手を伸ばした。
踊りから心が一瞬離れた隙を突き、灰色の巨人(ガロウド)が長剣の切っ先を突き込んで来る。
長剣の切っ先はこちらの目を狙っていた。
長剣の切っ先はこちらの目を狙っていた。
甘い。
「自分」は/操縦槽の人間は、紙一重でそれを躱し、足を踏ん張り長槍を相手の胴体めがけて突き込んだ。
必殺の念を込めて。
必殺の念を込めて。
甘かったのはこちらの方だった。
槍で突き刺すべく、力を込めて右脚を踏ん張ったとたん、その脚が折れたのだ。
槍で突き刺すべく、力を込めて右脚を踏ん張ったとたん、その脚が折れたのだ。
予備部品を組み合わせて、しかも時間も無い中で造った、間に合わせの機体だ。
ここまで保ったのが不思議かも知れない。
槍の狙いは外れ、敵の左腕を抉り取っただけに終わる。
ここまで保ったのが不思議かも知れない。
槍の狙いは外れ、敵の左腕を抉り取っただけに終わる。
あの恐怖が戻って来る。
外の世界はやはり恐ろしいところだった。
外の世界はやはり恐ろしいところだった。
相手のゲア・ガロウドは損傷部位の血管弁を閉じ、右手の長剣を持って「自分」へ/操縦槽の人間へと、嫌味を込めて、ゆっくりと、ゆっくりと歩み寄って来る。
「自分」は右脚の血液弁を閉じようとした。
だが操縦槽の人間はそれを許さない。
「自分」は右脚の血液弁を閉じようとした。
だが操縦槽の人間はそれを許さない。
どう言う事か。
いや、操縦槽の人間との精神接続により、理由は理解した。
いや、操縦槽の人間との精神接続により、理由は理解した。
敵の油断を誘っているのだ。
こちらが戦意喪失したか、それとも転倒時に頭でも打って死んだか、あるいは気絶したか、そう思わせようと。
こちらが戦意喪失したか、それとも転倒時に頭でも打って死んだか、あるいは気絶したか、そう思わせようと。
弁を閉じたわけでは無いから、流血は止まらない。
しかし、それでいい。
相手からは、もはや血が無くなりかけている様に見えるはずだ。
しかし、それでいい。
相手からは、もはや血が無くなりかけている様に見えるはずだ。
「……あきらめるな。」
そう言ったのは、操縦槽の人間だった。
その声は、「自分」の「ココロ」に冬の氷の様に張り巡らされていた壁をわずかだが穿つ。
その声は、「自分」の「ココロ」に冬の氷の様に張り巡らされていた壁をわずかだが穿つ。
[解説]
精霊機ゼートゥルー・オライオは、元々ゼータル・ケーニスの予備パーツを、放浪の鍛冶師ハルクスが大破したゼータル・ケーニスの機体の中でなんとか無事に残った魔導炉を使って、無理矢理組み上げて造った間に合わせの機体である。
更にこの機体は、その後も幾度かの大破と修復、大改修と言うパターンを繰り返す。
その最たるものが、バーザン・ガロウド・アフラとの最初の戦いで敗北し、修復のために機装兵(奇装兵)マルクルス・オル・ワイオグのパーツ移殖を受けたことである。
その最たるものが、バーザン・ガロウド・アフラとの最初の戦いで敗北し、修復のために機装兵(奇装兵)マルクルス・オル・ワイオグのパーツ移殖を受けたことである。
更にそれに準ずるものとして、バーザン・ガロウド・アフラとの2度目の戦いで勝利したものの中破し、修復ついでにハルクスオリジナルの技術、鋼銀甲冑を装備したことだ。
まあ、あとひとつ、別のある戦いで勝利に等しい引き分けと共に、これまた大破して修復工事を受けた際に強化改造を受けたりするのだが。
まあ、あとひとつ、別のある戦いで勝利に等しい引き分けと共に、これまた大破して修復工事を受けた際に強化改造を受けたりするのだが。
なお、移殖されたマルクルス・オル・ワイオグのパーツには隠し武器が装備されており、ゼートゥルー・オライオもまたその隠し武器を受け継いでいる。
これにより、素の状態でも非常に強力であったゼートゥルー・オライオは、それこそ尋常でない戦闘力を手に入れた。
しかし聖華暦300年代にはあまりに斬新なこの装備は、他の操手や騎士の目には、あまりにも卑怯に映った様だった。
これにより、素の状態でも非常に強力であったゼートゥルー・オライオは、それこそ尋常でない戦闘力を手に入れた。
しかし聖華暦300年代にはあまりに斬新なこの装備は、他の操手や騎士の目には、あまりにも卑怯に映った様だった。
[武装]
この機兵の装備は、両手剣以下の刀剣類、盾(中)である。
添付ファイル