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vol.2②Promise

最終更新:

taka18r

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だれでも歓迎! 編集

vol.2②Promise


 メール着信に気づいて、折りたたみ式の携帯を開いたのは放課後、部室に向かう途中だった。きょうは3月2日、金曜日。合否発表の日。
 大丈夫、と信じてはいても、心臓がドキドキする。目を閉じて祈ってから携帯を操作する。
「うん、やったねっ!」
 返信しようとしてキーを押していくが、気が昂ぶってうまくいかない。
「ん~、もぅ」
 口にする悪態とは裏腹に、その文面は甘さが隠せない。送信ボタンを押して、ほっと息をつく。右手をギュっと握り、小さくガッツポーズ。体の底から力が湧いてくるような感覚に襲われる。きっと、きょうの練習は充実したものになるだろう。
 彼からきたメール、彼女が送ったメールは──

件名:やったー!
──合格したよっ!
──これで4月から高校生。
──お祝い、よろしく、なんてね(笑)。
──速水さん、早く声、聞かせて、ね。

件名:おめでとう!
──よかったぁ。安心したよ。
──これから練習だから、あとで電話するよ。
──アタシもアンタの声、聞きたい。
──お祝い、春休みに、ね。

 アップから全開。声を張り上げ、目いっぱい動きまわったら、あっという間に練習終了の時間になった。片付けは1年生がやってくれる。来月になれば、もう3年生だ。
 ダッシュで部室に戻り、あたふたと着替えを終える。鞄を抱えて自転車置き場へ行こうとすると、
「お疲れさまですっ」
 という後輩の声に混じって、
「晶良ぁ、なに、そんなに急いでるのよ~?」
 ニヤリとしながら理沙が話しかけてくる。
「あ、うん…」
 とっさに言い訳が出てこない。


「ははあ。さては、年下の彼氏のこと、だなぁ」
「まあ、そうなんだけど…」
「すっかり、乙女モードですなあ、速水さん」
 からかうように理沙が言う。
「高校、受かったんだ。だから、おめでとう、って言ってあげたくてさ」
 彼に交際を申し込まれ、はい、と返事をした翌日には、勘のいい翔子にバレてしまい、逐一報告させられる羽目になってしまった。恋愛初心者の晶良だけに、例えるならライオンの群れに投げ込まれたウサギみたいなもの。2人だけの秘密なんてもてやしない。
 それでも、何かにつけアドバイス、というかお節介を焼いてくれる、ありがたい友達ではある。
「そんなに慌てなくても、彼氏は逃げないわよ。焦らすのも、恋の駆・け・引・き。どうよ、肉まんでも食べてかない?」
「いやあ。やっぱり、帰るよ」
「食い気より色気ですな、速水さん」
「ははは」
 引きつった笑いを残して理沙から逃げ、自転車にまたがるや立ち漕ぎで全力疾走。脇道にそれて自転車を止め、周囲をきょろきょろと見まわして、携帯を取りだす。
 呼び出し音が鳴るかどうかというタイミングで彼が出る。
「はいっ! 速水さん?」
「うん。合格、おめでとう」
「ありがとう。ねぇ、今度は、いつ会える?」
「う~ん…。期末テストが終わらないことにはねぇ。18日の日曜日はどう?」
「ぼくはだいじょぶ、だよ」
「そっか。じゃあ、前の日に電話するよ」
「うん。速水さん、赤点、取らないよ~にね(笑)」
「コイツぅ、生意気言うな」
「あは。あ、あの、速水さん。好きだよ」
「ばか。まだ外なんだからね。恥ずかしいでしょ」
「速水さんは?」
「………」
「ねえ?」
 少年の無邪気さ、強引さに晶良は顔を真っ赤にして、
「アタシも、好きだよ。…じゃあ、またね」
「うん。さよなら」
 2人とも、あまり電話で長く話すことはない。途中、ふっと訪れる沈黙が好きではないのだ。会って話しているときには、会話が続かなくなっても、じっと見つめあっているだけで結構幸せだったりするのだが…。


 期末テスト最後の科目が終わって、ほぉ~っとタメ息をついて机に突っ伏す。
「あ~きらっ。新しくできたケーキ屋さんに行ってみない?」
 理沙が誘ってくる。顔を上げると、翔子と美穂と3人、ニコニコしながら帰り支度を済ませて立っている。
「うんっ! 行く行く。ちょっと待ってて」
 急いで鞄に教科書やノートをしまう。どうせケーキが目的なのではなくて、3人のメインディッシュはアタシの"ラブバナ"なのはわかっているが…、のろけたい気持ちだって、もちろんある。
 それに、きょうくらいは羽を伸ばしたい。テストの手ごたえも悪くないから、よもや追試なんて心配しなくてもよさそうだし。
「ところでさあ、晶良。ちゅ~ぼ~の彼氏とはどうなのよ?」
 2皿目のケーキをぱくつきながら美穂が聞いてくる。
「まあ、順調かな。あっ、もう高校生だよ、アイツ」
「そっか。じゃあ、お祝いしないとね?」
 翔子がやさしい口調で投げかけてくる。すかさず、
「それでは、リボンを買いに行きますかぁ」
 と、理沙がニヤニヤしながら言う。意味がわからず、
「えっ? なんで? どーしてリボン?」
 聞き返すと、理沙と美穂がユニゾンで、
「プレゼントはア・タ・シ。きゃははははっ」
 一瞬、きょとんとする晶良だが、意味を理解すると顔を赤らめ下を向いてしまう。
「晶良。あながち冗談でもないよ。彼に『お祝いは晶良が欲しい』って言われたら、心の準備、できてる?」
 真面目な口調で翔子が聞いてくる。
「…まだ、晶良って呼ばれたこと、ないもん…」
「ごまかさないの。…って、ここじゃ話しづらいか。ウチ、くる?」
 まったく、翔子にはかなわない。付き合ってるのが祐士みたいなヤツだというのに、恋愛関係は頭が上がらない。
 翔子の家にはだれもいない。母親は働きに出ている。なのに翔子は
「ただいま~」
 と声に出して言い、アタシたち3人は
「おじゃましまぁ~す」
 と挨拶してしまう。翔子の部屋で他愛のないおしゃべりに興じる。しばらくすると、翔子が飲みものを持ってきてくれた。
「待ってましたぁ」
 美穂がうれしそうに声を上げる。お盆の上には4本の缶ビール。
「お茶とかジュースとか、ないの?」
 とアタシ。


「晶良のために持ってきたのになぁ。気が楽になるよ。まあ、飲んで」
「かんぱーい!」
 いつの間にかプルトップを開けた缶を渡され、一口飲んでいた。おいしくない…けど、ぽ~っとして気持ちが緩んでくる。
 翔子は窓を少し開け、バッグから緑色のタバコの箱を出して1本を口にくわえ火をつけた。
「ふぅ~」
 と煙を吐き出す翔子が、やけに大人っぽく見える。美穂が窓の近くに場所を移し、
「私もぉ~」
 と言ってタバコを出す。こちらは背伸びしている女のコ、という感じ。
「翔子、美穂。タバコ、喫ってたの?」
 驚いて聞くアタシに
「うん。祐士がね、した後に彼女がつけてくれたタバコを喫いたいなあ、って言うからさ」
「えっ、"した後"って?」
「セックス、した後」
 はっきり言われてしまって、一気に顔が真っ赤になり絶句してしまう。なんだって、翔子みたいないい娘が、そんなことできちゃうんだろう。
「私はねぇ。やった後に彼がぁ、あんまりおいしそうに喫うから、私もと思って」
 やった後って、とはもう聞かない。かわいい顔して、やることはしっかりやってるんだ、美穂も。
「まあ、晶良はやめときなよ。スポーツするのに、いいことないからね。それに、彼氏にもタバコ喫わしちゃダメよ」
「うん」
 翔子に諭されるまでもなくタバコは嫌いだ。それでも素直に返事をしてしまう。
 と、それまで黙っていた理沙が、
「ねぇ、晶良。ケーキ屋さんの話の続きなんだけどさあ…。彼に、したいって言われたら、どーするの?」
 と核心を突いてくる。ビールのせいだろうか、頭の中がぐるぐる回る。答えは出てこない。
「晶良はきれいなままでいてほしいなぁ、私は」
 と理沙。すかさず美穂が
「理沙ったら、そ~んなこと言ってぇ。先、越されたくないだけでしょ?」
「あっ、バレた!?」
 頭をかいて、てへへっと笑う理沙。…ったく、もお。翔子が話を戻す。
「どうせ、近いうちに会うんでしょ。晶良が欲しいって言われたときには、パニックにならないようにね?」
「…はあ」
「頼りないなあ。コートの上とは別人みたい。晶良。もうマッチポイント、なのよ」
「え~っ!? そうなの?」


「そうよ。するのも、しないのも、晶良次第よ」
「でも、そんなこと、言われないかもしれないし…」
「往生際が悪い娘ねえ。じゃあ、そう言われたと仮定して、晶良がOKしたとして、ね。避妊はちゃんとしなさいよ。向こうも初めてだろうから、そういうとこまで気がまわらないかもしれないし、ね」
「そんなこと言われても…。保健体育で習ったけど、具体的に考えたこと、ないもん…」
「それはそうか。ちょっと待ってて」
 翔子は机の引き出しの奥から何かを出し、それを2つ渡してくれる。
「なに、これ?」
「コンドーム」
「…なんか、さ。しなきゃ、いけないみたいな展開、だよね?」
「ん~。みんな、晶良には幸せになってもらいたいんだよ」
 もう、どうでもいい。ビールのせいにしちゃえ。
「そっか。ありがとね」
「だけどさ、翔子。彼、ゴムつけてる余裕あるかな?」
 と美穂。きっと自分も同じような経験をしたのだろう。
「そうだねえ」
 と言って、翔子は握った拳を口の前に持ってきて考え込んでいる。
「晶良、次の生理はいつ?」
「ん~と。4月1日から」
「じゃあ、ね。前の日にすることね。リスクは最小限にしとかないと」
「はあ。そういうものですか、翔子さん」
「まったくぅ。晶良、赤ちゃん、できちゃったら困るでしょ? 悲しい思い、したくないでしょ?」
「それは。…もちろん」
「いっそ生理中にするってのも、ありかな」
 想像できる範囲をとっくに超えている翔子の発言に、美穂が反応する。未経験の理沙は勉強のつもりか、じっと聞いている。
「あり、ありぃ。"滑り"がよくなるからねぇ。あっ、でもケチャマンじゃ、彼が引いちゃうかな」
 あけすけな会話にボー然とするしかない。言ってる意味は、よく考えればきっとわかるとは思うが、いまは考えたくない。残りのビールを一気に飲み干す。


「…痛いの、かな?」
 いつの間にか、する気になっている自分がそこにいる。
「私はそうでもなかったけど…」
 と翔子。美穂は
「痛いのなんのって。あんなおっきいモノ、入るわけないって思ったもん」
「やっぱ、祐士のって小さいんだ…。はぁ~。あっと、そんなことはどうでもいいけど、大丈夫だよ、晶良」
「赤ちゃんより大きいってことはないんだしぃ」
「そうそう。それで死んだ女っていないんだから(笑)」
 さんざん言われ放題言われ、ことの顛末の報告まで約束させられ、家に帰り着いたのは夕食直前だった。
 家族全員そろっての夕食は楽しげな会話が弾んでいるが、晶良はそれに入り込めず、うわの空だ。
「ごちそうさま」
「どうしたの、晶良? ご飯、残すなんて」
「ん~。帰りにケーキ食べてきたから」
「ケーキは別腹だろ、ねぇちゃん」
「具合、わるいのか?」
「えっ、大丈夫だよ。なんともないから」
 そう言って部屋に戻り、ベッドに横になる。翔子の家での話が頭の中でいったりきたりを繰り返している。食卓はまだにぎやかだ。
 翔子たちの話がフラッシュバックする。
「よ~く愛撫してもらって、びしょびしょになるくらい濡らしてもらうんだよ。そうすれば、初めてでもスムーズに挿入できるし、痛みも少なくてすむよ」
「焦っちゃダメよ。2人して舞い上がっちゃうと、うまくいかないから」
(…はぁ~。抱きしめられてキスするだけで十分なんだけどな、アタシは。でも、男のコって、違うのかな)


 考えても答えが出るはずもない。またタメ息が漏れる。左手を胸に当てる。
(小さい…。こんなのでいいのかな、がっかりされたりしないかな…)
 指を動かし揉んでみる。指を押し戻すような弾力。ブラのホックを外し、直接触れる。人差し指の腹で乳首をなぞると、思わず声が漏れてしまう。
「はぁ~、くぅ~ん」
 右手をパンティの中に入れ、控えめに秘所をまさぐる。
「あっ」
(濡れてる…。アイツ、やさしくしてくれるかな…)
 ファーストキスをした後で覚えた指遊び。いけない、と思ってもやめられない。部活で体を動かした日は、全然そんな気にならないのだけれど。
 彼のことを思いながら、指の動きを速くする。
(ダメぇ、声出ちゃうよぉ)
 左手を胸から離し、枕元に置いたスポーツタオルを取る。それをくわえて声が漏れないようにする。だれかが2階に上がってくる気配は、ない。
 敏感な突起に指を押し当てると、晶良はビクっとして体を反らせる。
「うっ! うっ、うぅっ、ぁぐっ」
 まだ、膣に指を挿れることはない。それでも十分な快感は得られる。
 指が円を描くように突起を撫でまわす。その動きは次第に速くなり、激しさを増していく。
「! っ! あひぃ、いい、…あっ!」
 到達したものの、気持ちは満たされない。息の乱れはすぐにおさまる。
 パジャマに着替え、机に座ってパソコンのスイッチを入れる。秘密のフォルダの"鍵"を開け、一番好きな写真のファイルをクリック。楽しそうに笑う自分、そして彼。その写真をしばらく見つめてから、
「うん!」
 と晶良はうなずく。幽霊とかUFOとか、正体のわからないものは怖いけど、大好きな彼と抱きあうことを怖がってるなんて変だ。
 心は決まった。晶良はもう一度、大きくうなずいた。


 日曜日。待ち合わせの5分前に着いたというのに、彼はもうそこにいた。ザ・ワールドで出会ってすぐのころ、『女のコ、待たせたらルール違反よ!(笑)』とアタシが言ったのを覚えていた彼が、リアルでは絶対に遅れないからね、と言って笑ったのを思い出した。
 晶良に気づくと彼は右手を上げ、ゆっくり大きく振りながら小走りで近づいてくる。
「お待たせ」
「久しぶりだね。速水さん」
「あれっ、アンタ、また背ぇ、伸びた?」
 初めて会ったときは同じくらいだったのに、今では10㎝くらい高くなっている。まだ1年もたっていないのに。それに、胸板もひとまわり厚くなっていて、晶良をドキッとさせた。
「速水さんは、きれいになったね」
「お姉さんをからかうもんじゃないわよ」
 えっ? どうして? という表情から冗談とか社交辞令でないことがわかる。少し顔を赤くし、
「人前でそーいうこと言わないの。バカップルみたいでしょ」
 そう諭すと、すごくいい笑顔を返してくる。
「うん、ごめんね。2人きりになったら、いっぱい言うよ」
「ん、もう。恥ずかしい、でしょ」
 彼に手を握られ、
「さあ、きょうはどこへ行こうか」
 その手を握り返して歩きだす。
「ん~。おいしいもの、食べにいこっか」
「速水さんとなら、何食べてもおいしいよ」
「アタシも、よ」
 …バカップル…


 太陽が西に傾いていく。2人で過ごす時間は、なんて短く感じるんだろう。デートの最後に別れる駅の近くの公園。ここには死角になっているポイントがあり、2人のお気に入りだ。
「ん…、んん…」
 きつく抱きしめられ、重ねられた唇から切なく吐息を漏らす晶良。半分だけ開いた目。
「きれいで…かわいくて…、すごく心配になるんだ」
 彼が耳元でささやく。耳にかかる彼の息がくすぐったい、というかゾクっとする。
「…心配って?」
「だって、ほかのだれかに取られちゃうんじゃないかって…」
「…ばか。アタシが好きなのはアンタだけ、だよ」
 おでことおでこをくっつけ、目を見つめて言う。
「うん」
「安心した?」
「少し」
「なんで。アタシのこと、信じられない?」
「そうじゃなくて。信じてるけど…。きれいで、かわいくて、やわらかくって…。やっぱり心配」
「もぉ。お姉さんを困らせないの。じゃあ、さ。デブになろっか」
「…そおいうのが好きな人もいるからなぁ。じゃなくって、ぼくは今のままの速水さんが好き」
「だいじょおぶ。アタシも今のままのアンタが大好き。ねぇ…」
 そう言って唇をねだる晶良。持ち上げるように抱きしめられ、夢中でキスをする。


 遠くに話し声が聞こえ、キスを中断。公園の中のベンチに場所を移す。彼の肩にちょこんと頭を乗せて、上目遣いに目を合わせる。
「ねえ。合格のお祝い、何がいい?」
 少しの沈黙の後、
「…速水さん」
 トクン。…きた。きてしまった。覚悟は決めていた、そのつもりなのに言葉が出てこない。
「速水さんが、欲しい」
 目をそらさずにもう一度、彼が言う。いいよ、という言葉に重りがくくりつけられたかのように喉の奥に沈んでしまって、出てこない。少し心細げな目をして彼が
「ダメ?」
 と聞いてくる。
「…いい、よ」
 やっと言えた。途端に彼の笑顔が弾ける。本当にうれしそうな笑顔。どうして、この人は笑顔だけでアタシを安心させてしまうのだろう。ほっとした気持ちで彼に聞く。
「31日、会える?」
「うん。うん!」
 彼は周りを見て、だれもいないことを確認すると、そっとキスをした。

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