vol.2⑧Natsume
4月。新しい生活がスタートして互いに忙しく、会うこともままならない。晶良は高校3年生、最上級生だ。この夏でテニス部は引退。それから先は受験一色の生活になるはずだ。
残り少ない"自由の日々"を精いっぱい頑張る、そう晶良は決めていた。新入生が入って活気を増したテニス部で、大声を出し全力で動いて汗を流す。そのことによって、彼に会えない寂しさを多少はまぎらすことができた。
あの日から一月近くがたとうとしていた。彼は毎日メールをくれる。きょうは何をしたとか、新しい友達(わざわざ男だと注がついていた)と何々を食べたとか、そんな他愛のない内容だったが、晶良はそれだけで癒された。ただ、会えないことが大いに不満だった。
ゴールデンウイークを前に、ようやく会えると思ったら、生理。やっとデートの約束ができたのは5月6日、連休最後の日曜日だった。
その日は傘をさしてのデートとなった。晶良は自分の傘をたたむと、彼の腕にしがみつくようにして体を密着する。
「ね~え、どこ行く?」
久しぶりのせいか、妙に甘い晶良の声が胸の鼓動を速くする。
「映画、見ようかと思ってたけど…」
「けど? な~に?」
「晶良さんが欲しくなっちゃった」
「え~ぇ、ス・ケ・ベ」
からかうような口調。拒否しているわけではなさそうだ。
「じゃあ、新宿、出よっか」
「ん。いいよ」
晶良にしてみれば、本心では痛い思いはもうしたくはない。しかし、友達から『間を空けると、また痛いぞぉ』とか、『あんまりオアズケすると浮気されちゃうかもよ』とか、脅かされていた。そんなことよりも、久しぶりに会った今、彼と2人きりになりたかった。
傘の花が咲き乱れる新宿の街。彼はそのホテルにまっすぐ向かい、躊躇することなく入った。傘が2人を隠してくれるから、晶良はそれほど恥ずかしさを感じずにすんだ。部屋に入ると晶良が聞いてくる。
「なんで、ここ?」
「んっとね。ネットで見た」
「そんなことばっかしてちゃダメだぞ」
「デートの前の日だけ。特別」
残り少ない"自由の日々"を精いっぱい頑張る、そう晶良は決めていた。新入生が入って活気を増したテニス部で、大声を出し全力で動いて汗を流す。そのことによって、彼に会えない寂しさを多少はまぎらすことができた。
あの日から一月近くがたとうとしていた。彼は毎日メールをくれる。きょうは何をしたとか、新しい友達(わざわざ男だと注がついていた)と何々を食べたとか、そんな他愛のない内容だったが、晶良はそれだけで癒された。ただ、会えないことが大いに不満だった。
ゴールデンウイークを前に、ようやく会えると思ったら、生理。やっとデートの約束ができたのは5月6日、連休最後の日曜日だった。
その日は傘をさしてのデートとなった。晶良は自分の傘をたたむと、彼の腕にしがみつくようにして体を密着する。
「ね~え、どこ行く?」
久しぶりのせいか、妙に甘い晶良の声が胸の鼓動を速くする。
「映画、見ようかと思ってたけど…」
「けど? な~に?」
「晶良さんが欲しくなっちゃった」
「え~ぇ、ス・ケ・ベ」
からかうような口調。拒否しているわけではなさそうだ。
「じゃあ、新宿、出よっか」
「ん。いいよ」
晶良にしてみれば、本心では痛い思いはもうしたくはない。しかし、友達から『間を空けると、また痛いぞぉ』とか、『あんまりオアズケすると浮気されちゃうかもよ』とか、脅かされていた。そんなことよりも、久しぶりに会った今、彼と2人きりになりたかった。
傘の花が咲き乱れる新宿の街。彼はそのホテルにまっすぐ向かい、躊躇することなく入った。傘が2人を隠してくれるから、晶良はそれほど恥ずかしさを感じずにすんだ。部屋に入ると晶良が聞いてくる。
「なんで、ここ?」
「んっとね。ネットで見た」
「そんなことばっかしてちゃダメだぞ」
「デートの前の日だけ。特別」
もう自分の右手では満足できない、そうは思ったものの、溜まってくるものはしようがない。デートの3日前まで性欲の処理は毎日だった。ようやく晶良を抱けるのだ。
唇が重なる。長く濃厚なキスの後、彼が丁寧に晶良を裸にしていく。もちろん、その合い間にも唇と舌と指が間断なく晶良の体を愛撫した。晶良は腕時計を外すとき、なんとなしに時間を確かめた。
一月ぶりの逢瀬、一月ぶりに聞く晶良のあえぎ、一月ぶりに嗅ぐ晶良のにおい、一月ぶりに味わう晶良の柔らかい体。行為にのめり込む。
もう焦ることはなかった。たっぷりと時間をかけ、『こうしたらどうだろう』という好奇心、探究心を満たしながら、晶良を濡らしていった。経験が彼を成長させていた。
晶良の喘ぎは絶え間なくもれる。声がかすれだすほどになったとき、彼はゆっくりと晶良を貫いた。しばらくじっとしていた彼は静かに動きだし、えぐり、かきまわし、快感をむさぼった。
十分に晶良を楽しんだ彼は、
「あきら、あきら、あきらっ、…あきらぁぁぁぁぁあああ」
と声をあげて果てた。
彼の腕まくらに頭を乗せた晶良は、
「ねぇ、晶良さん。痛かった?」
と聞かれ、
「ん~。…歯医者さん」
と謎かけのようなことを言う。
「えっ、どーゆーこと?」
「痛かったら手を上げてって言われるじゃない。そんで、少しでも痛かったら、すぐに手を上げるぞって身構えてるでしょ。でも、麻酔が効いてるから、『はい、速水さん、終わりです』ってなる」
「う…ん。ん~?」
「きょうは、ね。そんなに痛くなかったよ」
「ほんと? よかったぁ」
「でも…、気持ちよくなるのかなぁ」
「ぼく、頑張る」
「ばか」
「シャワー浴びて、またしよ?」
「え~っ!? またぁ。アンタ、性欲、強すぎ!」
唇が重なる。長く濃厚なキスの後、彼が丁寧に晶良を裸にしていく。もちろん、その合い間にも唇と舌と指が間断なく晶良の体を愛撫した。晶良は腕時計を外すとき、なんとなしに時間を確かめた。
一月ぶりの逢瀬、一月ぶりに聞く晶良のあえぎ、一月ぶりに嗅ぐ晶良のにおい、一月ぶりに味わう晶良の柔らかい体。行為にのめり込む。
もう焦ることはなかった。たっぷりと時間をかけ、『こうしたらどうだろう』という好奇心、探究心を満たしながら、晶良を濡らしていった。経験が彼を成長させていた。
晶良の喘ぎは絶え間なくもれる。声がかすれだすほどになったとき、彼はゆっくりと晶良を貫いた。しばらくじっとしていた彼は静かに動きだし、えぐり、かきまわし、快感をむさぼった。
十分に晶良を楽しんだ彼は、
「あきら、あきら、あきらっ、…あきらぁぁぁぁぁあああ」
と声をあげて果てた。
彼の腕まくらに頭を乗せた晶良は、
「ねぇ、晶良さん。痛かった?」
と聞かれ、
「ん~。…歯医者さん」
と謎かけのようなことを言う。
「えっ、どーゆーこと?」
「痛かったら手を上げてって言われるじゃない。そんで、少しでも痛かったら、すぐに手を上げるぞって身構えてるでしょ。でも、麻酔が効いてるから、『はい、速水さん、終わりです』ってなる」
「う…ん。ん~?」
「きょうは、ね。そんなに痛くなかったよ」
「ほんと? よかったぁ」
「でも…、気持ちよくなるのかなぁ」
「ぼく、頑張る」
「ばか」
「シャワー浴びて、またしよ?」
「え~っ!? またぁ。アンタ、性欲、強すぎ!」
バスルームに向かう際、晶良は自分の腕時計を見た。1時間あまりが過ぎていた。ずいぶん長い時間、愛されていたんだと思うと顔が赤らむ。
「時間、ないよ?」
「だいじょおぶ。ここフリータイム3時間だもん」
「はぁあ~!? ちゃんと調べてるんだ」
「そりゃあ…。だって一月も会えなかったんだもん。晶良さんといっぱいしたいよ」
「男のコって、そーゆーもの、なの?」
「そーだよ」
「わかりました。わかったから、ね。やさしくしなさいよ。あっ、それから、浮気したら承知しないからね」
「しないよ! ぼくには晶良さんしか見えないもん」
「ばか。でも、ちょっとうれしいかな」
「晶良さん、体、洗ってあげる」
「いいよぉ。恥ずかしいよぉ」
「だめ」
「もお~。強引なんだからぁ」
この日はバスルームではしなかった。回復力に問題はないのだが、前回みたいに晶良に泣かれるのは嫌だったからだ。だから、というわけでもないのだが、明るいバスルームで晶良の裸をたっぷり堪能させてもらった。むろん、舌と指を駆使しながら…。
バスタオルだけまとってベッドに戻り、それから絡み合う。晶良のそこはもう十分に潤っていて、前戯もそこそこに挿入。まだ、こわごわ受け入れている晶良のことを思って、正常位だけでひたすら快感を追求する。
1度出しているし、晶良もそれほど痛がってはいない。今度はじっくり楽しんで放出。量も勢いも、1度目と遜色なかった。
シャワーを浴びて服を着る。時間がくるまでコーラを飲みながら楽しい会話をし、それからホテルを後にした。 サヨナラをする前に次のデートの日を決める。
「今月の26日の日曜日、いい?」
と聞かれ、満面の笑顔で
「もちろん!」
と答え、晶良の後ろ姿を見送った。
「時間、ないよ?」
「だいじょおぶ。ここフリータイム3時間だもん」
「はぁあ~!? ちゃんと調べてるんだ」
「そりゃあ…。だって一月も会えなかったんだもん。晶良さんといっぱいしたいよ」
「男のコって、そーゆーもの、なの?」
「そーだよ」
「わかりました。わかったから、ね。やさしくしなさいよ。あっ、それから、浮気したら承知しないからね」
「しないよ! ぼくには晶良さんしか見えないもん」
「ばか。でも、ちょっとうれしいかな」
「晶良さん、体、洗ってあげる」
「いいよぉ。恥ずかしいよぉ」
「だめ」
「もお~。強引なんだからぁ」
この日はバスルームではしなかった。回復力に問題はないのだが、前回みたいに晶良に泣かれるのは嫌だったからだ。だから、というわけでもないのだが、明るいバスルームで晶良の裸をたっぷり堪能させてもらった。むろん、舌と指を駆使しながら…。
バスタオルだけまとってベッドに戻り、それから絡み合う。晶良のそこはもう十分に潤っていて、前戯もそこそこに挿入。まだ、こわごわ受け入れている晶良のことを思って、正常位だけでひたすら快感を追求する。
1度出しているし、晶良もそれほど痛がってはいない。今度はじっくり楽しんで放出。量も勢いも、1度目と遜色なかった。
シャワーを浴びて服を着る。時間がくるまでコーラを飲みながら楽しい会話をし、それからホテルを後にした。 サヨナラをする前に次のデートの日を決める。
「今月の26日の日曜日、いい?」
と聞かれ、満面の笑顔で
「もちろん!」
と答え、晶良の後ろ姿を見送った。
2人のデートは月末が多くなった。晶良が妊娠の危険性を少しでも減らしたいと、生理前のタイミングを選ぶからだ。
(ちゃんとスキンつけるから、だいじょぶだと思うけど。でも、それで晶良さんが安心するならOKだけどね)
それはそれとして、
(いつか、つけないでしたいなぁ。そんで、晶良さんの中で出したいなぁ。すっごく気持ちいいんだろうなぁ)
秘めた思いを胸に、デートの日を待っていたら、前の日に晶良からメールが入った。
(ちゃんとスキンつけるから、だいじょぶだと思うけど。でも、それで晶良さんが安心するならOKだけどね)
それはそれとして、
(いつか、つけないでしたいなぁ。そんで、晶良さんの中で出したいなぁ。すっごく気持ちいいんだろうなぁ)
秘めた思いを胸に、デートの日を待っていたら、前の日に晶良からメールが入った。
件名:ゴメ~ン!
──ドタキャンで悪いんだけど、あした、パスさせてくんない?
──実はさぁ、『オンナのコの日』がきょうから始まっちゃって…。
──2日目って、つらいんだぁ。あしたは家で寝てるぅ。
──ホント、ごめん!
──P・S 会えなくて寂しいよぉ。
──ドタキャンで悪いんだけど、あした、パスさせてくんない?
──実はさぁ、『オンナのコの日』がきょうから始まっちゃって…。
──2日目って、つらいんだぁ。あしたは家で寝てるぅ。
──ホント、ごめん!
──P・S 会えなくて寂しいよぉ。
読み終えるなり、がっくりと肩が落ちる。
(なんですとぉー! はぁぁぁぁ。せっかく3日も出すの我慢したのにぃ)
とはいっても、事情が事情だけに文句は言えない。『気にしないで』と返信した。
(この、やり場のない気持ちをどうすればいい?)
日曜の予定が空っぽになった土曜の夜。このままフテ寝するには体が疲れていない。だからといって右手で処理するのも、なんだか虚しい。ボケ~っとしながら、『ザ・ワールド』にインしていた。
(そうだっ、あの娘とコンタクトとってみよっと)
それは、出来心ともいえない、ほんの軽い気持ちからだった。呼び出しをかけてみる。
Σサーバー、フォート・アウフのカオスゲートの前で待っていると、そのPCは、いかにも慌てた様子でインしてきた。ゲームだというのに、肩で息をしているのがわかる。
「そんなに慌ててこなくてもいいのに(笑)」
そう言ってショートカット・キーを操作し、にっこり微笑んだ。
(なんですとぉー! はぁぁぁぁ。せっかく3日も出すの我慢したのにぃ)
とはいっても、事情が事情だけに文句は言えない。『気にしないで』と返信した。
(この、やり場のない気持ちをどうすればいい?)
日曜の予定が空っぽになった土曜の夜。このままフテ寝するには体が疲れていない。だからといって右手で処理するのも、なんだか虚しい。ボケ~っとしながら、『ザ・ワールド』にインしていた。
(そうだっ、あの娘とコンタクトとってみよっと)
それは、出来心ともいえない、ほんの軽い気持ちからだった。呼び出しをかけてみる。
Σサーバー、フォート・アウフのカオスゲートの前で待っていると、そのPCは、いかにも慌てた様子でインしてきた。ゲームだというのに、肩で息をしているのがわかる。
「そんなに慌ててこなくてもいいのに(笑)」
そう言ってショートカット・キーを操作し、にっこり微笑んだ。
PCの表情、雰囲気からも『ジ~ン』としているのがわかる。自分のPCは微笑んでいるが、リアルでは苦笑してしまう。
「あ、あの、お久しぶりです! ずっと、ずっと連絡、待ってましたぁっ!」
ここまで喜ばれると、まんざらでもない。だからといって正直に『ヒマつぶし』だなんて、とてもじゃないが言えるわけがない。困っていると、
「お風呂入ってたから、遅くなってゴメンナサイ!」
リアルで会ったことはないが、お風呂という言葉にドキっとする。
「いいんだ。ここんとこ忙しくて、ザ・ワールドは久しぶりだったから…声、かけてみたんだ」
「うれしい! 私を呼んでくれて、ありがとうございます」
以前と少しも変わっていない。丁寧な受け答えも感激屋なのも、あのころのままだ。
2年近く前、ザ・ワールドで意識不明者の救出に突き進み、その難題の解決に明け暮れていた。そのため、こうした交流、他愛のないおしゃべり(ネットゲームの一側面だ)は不慣れだった。そのせいか戸惑ってしまう。
「あのぉ…、あした、時間ありませんか?」
いきなり切り出され、返事に窮してしまう。
「えっ? えっ…と、まあ、あしたは予定、ないかな…っていうか、なくなった…っていうか」
(まあ、久しぶりにザ・ワールドでの冒険に付き合ってほしい、とかでしょ)
ところが、彼女の口から出た言葉は
「お会いできないでしょうか? その、リアルで」
「えっ!」
「ご迷惑でしょうか…」
声のトーンが、いかにも心細げに変わる。
「い、いや。迷惑なんてことないけど。その、いきなり言われたから、ちょっとびっくりした、だけ」
予期せぬ展開に、手には汗をかいている。
「高校入学のお祝い、させてください! 私の料理、食べてください。少しは上達したんですよ」
「いいの? わぁ~い。楽しみ!」
「ほんとですか!? うれしいです。あっ、私の家の住所と地図、ケータイの番号、メールしておきますね」
「うん。わかったよ。お昼ごろに行けばいいね」
「はい! お腹、空かしてきてくださいね。そうしないと、おいしくないかも(笑)」
「ははは、そうするよ。それじゃあ、あした!」
「あ、あの、お久しぶりです! ずっと、ずっと連絡、待ってましたぁっ!」
ここまで喜ばれると、まんざらでもない。だからといって正直に『ヒマつぶし』だなんて、とてもじゃないが言えるわけがない。困っていると、
「お風呂入ってたから、遅くなってゴメンナサイ!」
リアルで会ったことはないが、お風呂という言葉にドキっとする。
「いいんだ。ここんとこ忙しくて、ザ・ワールドは久しぶりだったから…声、かけてみたんだ」
「うれしい! 私を呼んでくれて、ありがとうございます」
以前と少しも変わっていない。丁寧な受け答えも感激屋なのも、あのころのままだ。
2年近く前、ザ・ワールドで意識不明者の救出に突き進み、その難題の解決に明け暮れていた。そのため、こうした交流、他愛のないおしゃべり(ネットゲームの一側面だ)は不慣れだった。そのせいか戸惑ってしまう。
「あのぉ…、あした、時間ありませんか?」
いきなり切り出され、返事に窮してしまう。
「えっ? えっ…と、まあ、あしたは予定、ないかな…っていうか、なくなった…っていうか」
(まあ、久しぶりにザ・ワールドでの冒険に付き合ってほしい、とかでしょ)
ところが、彼女の口から出た言葉は
「お会いできないでしょうか? その、リアルで」
「えっ!」
「ご迷惑でしょうか…」
声のトーンが、いかにも心細げに変わる。
「い、いや。迷惑なんてことないけど。その、いきなり言われたから、ちょっとびっくりした、だけ」
予期せぬ展開に、手には汗をかいている。
「高校入学のお祝い、させてください! 私の料理、食べてください。少しは上達したんですよ」
「いいの? わぁ~い。楽しみ!」
「ほんとですか!? うれしいです。あっ、私の家の住所と地図、ケータイの番号、メールしておきますね」
「うん。わかったよ。お昼ごろに行けばいいね」
「はい! お腹、空かしてきてくださいね。そうしないと、おいしくないかも(笑)」
「ははは、そうするよ。それじゃあ、あした!」
『大黒』と記された表札を確認、インタホンのボタンを押す。
「はぁ~い」
と元気な声が返ってくる。パソコンを通して聞いていた声とほんのわずか違うが、まぎれもなく彼女の声だ。
「カイトです」
そう答えると、ドアの向こうでパタパタと走ってくるスリッパの音が聞こえる。ドアが開き、
「お待ちしてました。あ、あの、初めまして! 大黒なつめです、って知ってますよね」
エプロン姿のなつめが恥じらう。ふんわり柔らかそうな長い髪を三つ編みにして後ろで束ねている。色白で、ほっそりしていて、なるほどスポーツするより読書が似合いそうだ。
「こちらこそ、初めまして」
「迷いませんでしたか?」
「うん。地図どおりにきたから、ちゃんとここにいるよ」
「よかったぁ」
「ん? なんか、焦げくさい…」
「あっ! いっけな~い。お料理の途中でしたぁ」
慌ててUターンして駆けだしていく。くすっと笑ってしまう。
(なんか、想像していたとおりの女のコだなぁ。でも、なつめって結構かわいいや。1つ年上には見えないな)
キッチンと思われるほうから、
「あっ、カイトさん。上がってくださ~い」
と声が聞こえる。それではと、
「おじゃましま~す」
と元気な声で言い、靴を脱いで、なつめの家に入った。
「料理、だいじょぶだった?」
と、なつめの後ろ姿に声をかける。
「えへへ。肉じゃが、ちょっと焦がしちゃいました。でも、いっぱい作ったから大丈夫ですよ」
「よかった~。もう、お腹ぺこぺこ」
「もう少し待ってくださいね。すぐできますからね」
「なんか、お母さんみたい」
「え~っ、そんなことないですよぉ」
頬を赤らめているのが、後ろからでもわかった。
「はぁ~い」
と元気な声が返ってくる。パソコンを通して聞いていた声とほんのわずか違うが、まぎれもなく彼女の声だ。
「カイトです」
そう答えると、ドアの向こうでパタパタと走ってくるスリッパの音が聞こえる。ドアが開き、
「お待ちしてました。あ、あの、初めまして! 大黒なつめです、って知ってますよね」
エプロン姿のなつめが恥じらう。ふんわり柔らかそうな長い髪を三つ編みにして後ろで束ねている。色白で、ほっそりしていて、なるほどスポーツするより読書が似合いそうだ。
「こちらこそ、初めまして」
「迷いませんでしたか?」
「うん。地図どおりにきたから、ちゃんとここにいるよ」
「よかったぁ」
「ん? なんか、焦げくさい…」
「あっ! いっけな~い。お料理の途中でしたぁ」
慌ててUターンして駆けだしていく。くすっと笑ってしまう。
(なんか、想像していたとおりの女のコだなぁ。でも、なつめって結構かわいいや。1つ年上には見えないな)
キッチンと思われるほうから、
「あっ、カイトさん。上がってくださ~い」
と声が聞こえる。それではと、
「おじゃましま~す」
と元気な声で言い、靴を脱いで、なつめの家に入った。
「料理、だいじょぶだった?」
と、なつめの後ろ姿に声をかける。
「えへへ。肉じゃが、ちょっと焦がしちゃいました。でも、いっぱい作ったから大丈夫ですよ」
「よかった~。もう、お腹ぺこぺこ」
「もう少し待ってくださいね。すぐできますからね」
「なんか、お母さんみたい」
「え~っ、そんなことないですよぉ」
頬を赤らめているのが、後ろからでもわかった。
テーブルに、なつめの手料理がずらりと並ぶ。肉じゃが、ハンバーグ、サラダ、ご飯に味噌汁…。できたての湯気が、においが、食欲をそそる。
なつめはグラスにシャンペンを注ぎ、
「合格、おめでとうございます!」
「ありがとう。お招きにあずかりまして…って言えばいいのかな」
と言って乾杯した。
「さあ、カイトさん。どんどん食べてくださいね」
「うん! いっただきま~す」
箸を手に取り、一心不乱に食べる、食べる、食べる。最初の一口までは不安そうな表情をしていたなつめだが、その様子を見てホッとしたようで、
「お口に合いますか?」
と笑顔で聞いてくる。
「おいしい! あっ、ご飯、お代わり」
無邪気に食べる。出された料理のほとんどを平らげ、ふぅ~と息をつく。
「おいしかったぁ。ごちそうさまっ!」
「よかったぁ。ほんとに…よかったぁぁぁ」
なつめは涙をこぼしそうなくらい感激している。
「なつめ…って、年上に名前呼び捨てじゃダメだよね。えっと、大黒さん。きょうはありがとう」
「いいんですよ。ザ・ワールドと同じに『なつめ』って呼んでください。大黒さんのほうが照れくさいです」
「じゃあ。なつめって、とっても料理、上手なんだね。遠慮できないくらい食べちゃった」
「うふふ。カイトさんって、なんだかかわいい」
「あは。あっ、そうだ。家の人に挨拶するの忘れてた!」
「きょうはお父さんとお母さん、旅行に行ってて留守なんですよ」
「そおだったんだ」
ということは、2人きり、なわけだ。意識してしまい、グラスをあおる。
(あれ…。シャンペンって、お酒だよね。う~、顔が熱くなるぅ)
「? カイトさん、どうかしましたか?」
「いやぁ、あんまりおいしかったんで食べ過ぎちゃったかなぁ。ちょっと苦しいや」
なつめはグラスにシャンペンを注ぎ、
「合格、おめでとうございます!」
「ありがとう。お招きにあずかりまして…って言えばいいのかな」
と言って乾杯した。
「さあ、カイトさん。どんどん食べてくださいね」
「うん! いっただきま~す」
箸を手に取り、一心不乱に食べる、食べる、食べる。最初の一口までは不安そうな表情をしていたなつめだが、その様子を見てホッとしたようで、
「お口に合いますか?」
と笑顔で聞いてくる。
「おいしい! あっ、ご飯、お代わり」
無邪気に食べる。出された料理のほとんどを平らげ、ふぅ~と息をつく。
「おいしかったぁ。ごちそうさまっ!」
「よかったぁ。ほんとに…よかったぁぁぁ」
なつめは涙をこぼしそうなくらい感激している。
「なつめ…って、年上に名前呼び捨てじゃダメだよね。えっと、大黒さん。きょうはありがとう」
「いいんですよ。ザ・ワールドと同じに『なつめ』って呼んでください。大黒さんのほうが照れくさいです」
「じゃあ。なつめって、とっても料理、上手なんだね。遠慮できないくらい食べちゃった」
「うふふ。カイトさんって、なんだかかわいい」
「あは。あっ、そうだ。家の人に挨拶するの忘れてた!」
「きょうはお父さんとお母さん、旅行に行ってて留守なんですよ」
「そおだったんだ」
ということは、2人きり、なわけだ。意識してしまい、グラスをあおる。
(あれ…。シャンペンって、お酒だよね。う~、顔が熱くなるぅ)
「? カイトさん、どうかしましたか?」
「いやぁ、あんまりおいしかったんで食べ過ぎちゃったかなぁ。ちょっと苦しいや」
「大変! リビングにソファがありますから、そこで楽にしてください」
うろたえるなつめ。言われるままに、のろのろと移動する。なつめの視線を気にしながらベルトを緩め、ソファに体を沈める。
リラックスして目を閉じると睡魔が襲ってきた。抵抗を試みるが排除できそうにない。満腹のせいか、あっさり眠りに落ちてしまった。
どれくらい眠っていただろうか。目を覚まして、きょろきょろと周りを見渡す。置き時計が目に入り、時間を確認。2時間ほどがたっていた。
左足に重みを感じ、そちらに視線を移すと、なつめが小さく寝息を立てている。横顔にドキっとする。三つ編みしていた髪は解いていて、ウエーブのかかった薄茶色の細い髪の毛が左手をくすぐっている。
こちらの気配を感じたのか、なつめが目を開けた。寝起きのボーっとした顔が瞬時に真顔に戻り、姿勢を正して真っ赤に染まった頬を両手で押さえる。
「わ、私、つい…。ごめんなさい」
「いやあ、ぼくこそ眠っちゃったりして…、恥ずかしいや」
「あっ、いけない。コンタクトしたまま眠っちゃった。眼鏡、とってきますね」
そう言って、なつめは自分の部屋に小走りで行ってしまった。ほどなくしてなつめは、大きめの丸いレンズ、フレームレスの眼鏡をかけて戻ってきた。
「眼鏡も似合うね、なつめは。なんか、文学少女って感じ」
「えぇ!? そんなこと言ってくれたの、カイトさんだけですよ」
「ほんとに? なつめって結構男子に人気あるんじゃない?」
「そんなこと、全然ないです! 男の人と2人きりになったの、お父さんを除けばカイトさんが初めてです」
2人きり、という事実を思い出す。
「あ、あんまり長くおじゃましちゃ悪いよね。ぼく、そろそろ…」
「えっ、まだ帰らないでください! お願いです」
懇願するような目。声は真剣だ。
「あ、うん。なつめがよければ、まだいるよ」
「よかったぁ。…カイトさん…、あの、もう一つ、お祝い、受け取ってください…」
うろたえるなつめ。言われるままに、のろのろと移動する。なつめの視線を気にしながらベルトを緩め、ソファに体を沈める。
リラックスして目を閉じると睡魔が襲ってきた。抵抗を試みるが排除できそうにない。満腹のせいか、あっさり眠りに落ちてしまった。
どれくらい眠っていただろうか。目を覚まして、きょろきょろと周りを見渡す。置き時計が目に入り、時間を確認。2時間ほどがたっていた。
左足に重みを感じ、そちらに視線を移すと、なつめが小さく寝息を立てている。横顔にドキっとする。三つ編みしていた髪は解いていて、ウエーブのかかった薄茶色の細い髪の毛が左手をくすぐっている。
こちらの気配を感じたのか、なつめが目を開けた。寝起きのボーっとした顔が瞬時に真顔に戻り、姿勢を正して真っ赤に染まった頬を両手で押さえる。
「わ、私、つい…。ごめんなさい」
「いやあ、ぼくこそ眠っちゃったりして…、恥ずかしいや」
「あっ、いけない。コンタクトしたまま眠っちゃった。眼鏡、とってきますね」
そう言って、なつめは自分の部屋に小走りで行ってしまった。ほどなくしてなつめは、大きめの丸いレンズ、フレームレスの眼鏡をかけて戻ってきた。
「眼鏡も似合うね、なつめは。なんか、文学少女って感じ」
「えぇ!? そんなこと言ってくれたの、カイトさんだけですよ」
「ほんとに? なつめって結構男子に人気あるんじゃない?」
「そんなこと、全然ないです! 男の人と2人きりになったの、お父さんを除けばカイトさんが初めてです」
2人きり、という事実を思い出す。
「あ、あんまり長くおじゃましちゃ悪いよね。ぼく、そろそろ…」
「えっ、まだ帰らないでください! お願いです」
懇願するような目。声は真剣だ。
「あ、うん。なつめがよければ、まだいるよ」
「よかったぁ。…カイトさん…、あの、もう一つ、お祝い、受け取ってください…」