vol.3-2⑪Conflict
「お、おい、晶良。ちゃんと7つ買ってきたんだろうな? お父さんも食べたいぞ」
自分の分がなくなるんじゃないかという不安から、ちょっぴり強い口調で聞くお父さんに、晶良は元気よく胸を張って答える。
「もっちろん。あっ、そうだ。お父さん、お願いなんだけど…。文和と幸ちゃん、呼んできてくれない? アタシは足がこれだからさあ…」
「よし、わかった」
立ち上がったお父さんはリビングを出て、階段の下から大きな声を張り上げた。
「お~い、文和! 幸太ぁ! 下りてこ~い! ケーキ、食わんかぁ?」
2階から声が聞こえる。
「えっ、ケーキあるの? 食べる食べるー! すぐ行くー!」
素っ頓狂な声で返事をしたのは文和くんだろう。すぐにドアが開く音が聞こえ、階段を駆け下りる音に続き廊下を走る音が響いた。そうして、
「ケェキ、ケェキ、わ~い」
うれしさにあふれた小さな男の子の声。
(幸太くんだ。確か…小学1年生、だったよね)
晶良から家族の話はいろいろ聞かされていたから、すぐにわかった。
幸太は見ず知らずのぼくと目が合って表情を硬くし、それから晶良の足の包帯を見て、
「あれ~? おねえちゃん、どーしたのぉ、あし…。あっ、そいつにやられたんだなぁ~。そいつ、ワルモノだろー。おい、おまえ、おねえちゃんをいぢめると、ぼくがショーチしないぞぉー!」
ファイティングポーズをとる幸太。慌てて晶良がとりなす。
「幸ちゃん、違うのよ。この人はいいおにいさんよ。アタシを助けてくれたのよ」
「ふぅ~ん。じゃあ、せいぎのひーろーだね。ありがとお、おにいちゃん」
幸太はニッコリとして、ペコリと頭を下げた。子供らしい姿に微笑みがもれる。
「いえいえ、どーいたしまして。幸太くん、はじめまして。よろしくね」
ぼくがかがんで差し出した右手に、幸太は照れくさそうに小さな右手を伸ばした。
「えへぇ、よろしく~」
ほのぼのとした空気がリビングに流れたそのとき、だった。
トン、トンと階段を人が下りてくる。トントトン、トトン、トトトン…。
(あれ? なんか2人いるような気が…。晶良さんちって、お父さん、お母さん、晶良さん、文和くん、幸太くん、5人だよね!?)
自分の分がなくなるんじゃないかという不安から、ちょっぴり強い口調で聞くお父さんに、晶良は元気よく胸を張って答える。
「もっちろん。あっ、そうだ。お父さん、お願いなんだけど…。文和と幸ちゃん、呼んできてくれない? アタシは足がこれだからさあ…」
「よし、わかった」
立ち上がったお父さんはリビングを出て、階段の下から大きな声を張り上げた。
「お~い、文和! 幸太ぁ! 下りてこ~い! ケーキ、食わんかぁ?」
2階から声が聞こえる。
「えっ、ケーキあるの? 食べる食べるー! すぐ行くー!」
素っ頓狂な声で返事をしたのは文和くんだろう。すぐにドアが開く音が聞こえ、階段を駆け下りる音に続き廊下を走る音が響いた。そうして、
「ケェキ、ケェキ、わ~い」
うれしさにあふれた小さな男の子の声。
(幸太くんだ。確か…小学1年生、だったよね)
晶良から家族の話はいろいろ聞かされていたから、すぐにわかった。
幸太は見ず知らずのぼくと目が合って表情を硬くし、それから晶良の足の包帯を見て、
「あれ~? おねえちゃん、どーしたのぉ、あし…。あっ、そいつにやられたんだなぁ~。そいつ、ワルモノだろー。おい、おまえ、おねえちゃんをいぢめると、ぼくがショーチしないぞぉー!」
ファイティングポーズをとる幸太。慌てて晶良がとりなす。
「幸ちゃん、違うのよ。この人はいいおにいさんよ。アタシを助けてくれたのよ」
「ふぅ~ん。じゃあ、せいぎのひーろーだね。ありがとお、おにいちゃん」
幸太はニッコリとして、ペコリと頭を下げた。子供らしい姿に微笑みがもれる。
「いえいえ、どーいたしまして。幸太くん、はじめまして。よろしくね」
ぼくがかがんで差し出した右手に、幸太は照れくさそうに小さな右手を伸ばした。
「えへぇ、よろしく~」
ほのぼのとした空気がリビングに流れたそのとき、だった。
トン、トンと階段を人が下りてくる。トントトン、トトン、トトトン…。
(あれ? なんか2人いるような気が…。晶良さんちって、お父さん、お母さん、晶良さん、文和くん、幸太くん、5人だよね!?)
姿を見せたのは文和だった。そして、その背後に隠れるようにして小柄な女のコがついてきた。ツインテールの片方が恥ずかしげに揺れている。
(あっ…、千春、きてたんだ…)
晶良がケーキを一つ多く買ったわけがようやく飲み込めた。
文和は、幸太と握手をしているぼくを見てきょとんとしている。すぐに晶良が紹介してくれる。
「カイト、だよ」
「えっ!? カ、カ、カ、カイトさん!? ほ、ほんものの? うっわぁ~! すっげぇ~!」
「はじめまして。文和くん。カイトです」
「は、は、はじめまして! 会えて感激です。そのせつはお世話になりましたっ」
上ずった声で叫ぶように話して深々とお辞儀をする文和。今度はお父さんとお母さんがきょとんとしている。お父さんが聞く。
「おい、文和。おまえ、こちらのこと知ってたのか?」
「うん! 会うのは初めてだけどさ。意識不明だったぼくを助けてくれたザ・ワールドの勇者カイト!」
またゲームの話、と言いたげに、あきれた顔をするお母さん。お父さんはぽかんとしている。
(まぁ、ザ・ワールドの出来事って、大人の人に言っても信じてもらえないよね)
勇者カイトがいかにザ・ワールドですごかったか、両親に伝えられず、文和は地団駄を踏む。そこに、
「ねぇ、カズ。ちはるのこと、紹介して」
文和の着ているTシャツのすそを引っ張りながら千春が言う。
「あ、うん。カイトさん、はるです。リアルでは千春っていいます。ぼくのガールフレンド!」
「はじめまして」
ぼくは一生懸命、演技する。笑顔はちょっぴり引きつっている。背中に汗が一筋、流れ落ちていくのがわかった。
「はじめまして。ちはるです。ザ・ワールドではいつもありがとうございます」
ほんとに初めて会うみたいにあいさつをする千春。
(やっぱ、男は女には勝てない…いろんな意味で)
文和くん、千春の順に握手する。千春は握った手に力を込め、ぼくだけに見えるようにウインクした。また背中に冷たい汗が流れた。
千春はぼくの背後に視線をやると、ぼくの手を振り払って、
「晶良お姉さん、その足…、どうしたんですか!?」
小さな手を丸めて、自分の口の前に持っていき驚きを表す千春。
(あっ…、千春、きてたんだ…)
晶良がケーキを一つ多く買ったわけがようやく飲み込めた。
文和は、幸太と握手をしているぼくを見てきょとんとしている。すぐに晶良が紹介してくれる。
「カイト、だよ」
「えっ!? カ、カ、カ、カイトさん!? ほ、ほんものの? うっわぁ~! すっげぇ~!」
「はじめまして。文和くん。カイトです」
「は、は、はじめまして! 会えて感激です。そのせつはお世話になりましたっ」
上ずった声で叫ぶように話して深々とお辞儀をする文和。今度はお父さんとお母さんがきょとんとしている。お父さんが聞く。
「おい、文和。おまえ、こちらのこと知ってたのか?」
「うん! 会うのは初めてだけどさ。意識不明だったぼくを助けてくれたザ・ワールドの勇者カイト!」
またゲームの話、と言いたげに、あきれた顔をするお母さん。お父さんはぽかんとしている。
(まぁ、ザ・ワールドの出来事って、大人の人に言っても信じてもらえないよね)
勇者カイトがいかにザ・ワールドですごかったか、両親に伝えられず、文和は地団駄を踏む。そこに、
「ねぇ、カズ。ちはるのこと、紹介して」
文和の着ているTシャツのすそを引っ張りながら千春が言う。
「あ、うん。カイトさん、はるです。リアルでは千春っていいます。ぼくのガールフレンド!」
「はじめまして」
ぼくは一生懸命、演技する。笑顔はちょっぴり引きつっている。背中に汗が一筋、流れ落ちていくのがわかった。
「はじめまして。ちはるです。ザ・ワールドではいつもありがとうございます」
ほんとに初めて会うみたいにあいさつをする千春。
(やっぱ、男は女には勝てない…いろんな意味で)
文和くん、千春の順に握手する。千春は握った手に力を込め、ぼくだけに見えるようにウインクした。また背中に冷たい汗が流れた。
千春はぼくの背後に視線をやると、ぼくの手を振り払って、
「晶良お姉さん、その足…、どうしたんですか!?」
小さな手を丸めて、自分の口の前に持っていき驚きを表す千春。
「てへへ。テニス部の試合前の練習でね、ちょっと頑張りすぎちゃったんだ」
晶良は左足に巻かれた包帯をさすりながら千春の質問に答えた。
「痛そう…。大丈夫なんですか?」
「うん。捻挫だから、たいしたことないよ。それに彼がおんぶしてきてくれたから…」
恥ずかしそうに答える晶良。千春はぼくのほうを見て
「へぇ。やっぱり、お…、カイトさん、やさしいんですね」
といって目を輝かせた。
(ち、ちはるぅ、『おにいちゃん』って言いそうになったでしょぉ。頼むよぉ、気をつけてよぉ)
冷や汗が額からぽたりと落ちた。それを目ざとく見ていた晶良が
「あれ。アンタ、暑いの?」
「い、いや、そ、そんなことないよ」
「ふぅ~ん。千春ちゃんがあんまりかわいいから、テンション上がってんじゃないのぉ」
「そ、そ、そんなこと、ないって!」
ムキになって否定する。千春との秘めごとなど知るはずのない晶良は余裕の笑顔で、
「でも、千春ちゃんって、ほんとにかわいいよねぇ。文和なんかにゃ、もったいない」
「あ~、ねぇちゃん! なんてこと言ってんだよぉ。ひっでぇなぁ」
「文句あんの? ったく、だいたいねぇ」
晶良が姉弟ゲンカをふっかけたところで、ケトルがピーっとけたたましい音をたてた。
「お湯が沸いたわ。文和、お紅茶いれるから、テーブルかたづけて」
そう言ってお母さんは、一触即発の空気をものの見事に静めてしまった。
「はぁ~い」
返事をしながらテーブルにあったお弁当の入っていた容器を流しに運ぶ文和。
「おばさま。ちはるもお手伝いします」
「あら、千春ちゃん、ありがとう。じゃあ、お皿、出してくれる?」
「はいっ」
弾むように答える千春。そのはつらつとした姿を見ていたお父さんがしみじみ言う。
「女のコのいる家庭っていいよなぁ」
瞬間、ぼくの隣の空気が凍りついた。晶良が低い声で、
「お・と・う・さ・ん。それ、どーゆー意味かしら?」
ぎくりとして固まるお父さん。
晶良は左足に巻かれた包帯をさすりながら千春の質問に答えた。
「痛そう…。大丈夫なんですか?」
「うん。捻挫だから、たいしたことないよ。それに彼がおんぶしてきてくれたから…」
恥ずかしそうに答える晶良。千春はぼくのほうを見て
「へぇ。やっぱり、お…、カイトさん、やさしいんですね」
といって目を輝かせた。
(ち、ちはるぅ、『おにいちゃん』って言いそうになったでしょぉ。頼むよぉ、気をつけてよぉ)
冷や汗が額からぽたりと落ちた。それを目ざとく見ていた晶良が
「あれ。アンタ、暑いの?」
「い、いや、そ、そんなことないよ」
「ふぅ~ん。千春ちゃんがあんまりかわいいから、テンション上がってんじゃないのぉ」
「そ、そ、そんなこと、ないって!」
ムキになって否定する。千春との秘めごとなど知るはずのない晶良は余裕の笑顔で、
「でも、千春ちゃんって、ほんとにかわいいよねぇ。文和なんかにゃ、もったいない」
「あ~、ねぇちゃん! なんてこと言ってんだよぉ。ひっでぇなぁ」
「文句あんの? ったく、だいたいねぇ」
晶良が姉弟ゲンカをふっかけたところで、ケトルがピーっとけたたましい音をたてた。
「お湯が沸いたわ。文和、お紅茶いれるから、テーブルかたづけて」
そう言ってお母さんは、一触即発の空気をものの見事に静めてしまった。
「はぁ~い」
返事をしながらテーブルにあったお弁当の入っていた容器を流しに運ぶ文和。
「おばさま。ちはるもお手伝いします」
「あら、千春ちゃん、ありがとう。じゃあ、お皿、出してくれる?」
「はいっ」
弾むように答える千春。そのはつらつとした姿を見ていたお父さんがしみじみ言う。
「女のコのいる家庭っていいよなぁ」
瞬間、ぼくの隣の空気が凍りついた。晶良が低い声で、
「お・と・う・さ・ん。それ、どーゆー意味かしら?」
ぎくりとして固まるお父さん。
「あ、いや、その、あの」
ビールを飲んでいるせいか、とっさにうまい言い訳が浮かばないみたいだ。たたみかける晶良。
「速水家には女のコ、いないってーの?」
「す、すまん」
晶良ににらまれ、あっさり白旗を揚げるお父さん。
「昔はさ、『晶良は世界一かわいい』って言ってくれてたのにぃ」
「だから、すまんって」
平身低頭のお父さん。ぼくは緊張感みなぎる空気に耐えられず、
「ケ、ケ、ケーキ。ケーキ、食べよ。ね、晶良さん」
はっとしてぼくを見た晶良は、途端に表情をやわらげ、
「うん! そーだね。さあ、千春ちゃん、座って座って」
ぼくは、お父さんが声を殺して息を吐き出したのを聞き逃さなかった。
全員がテーブルを囲んで座り、お母さんのいれてくれた紅茶に砂糖とミルクをたっぷり入れて準備は完了。みんなして、穏やかな笑顔を浮かべ、
「いっただきまぁ~す!」
はからずも声がそろった。用意されたフォークを手に取り、イチゴのショートケーキを口に運んだ。
「! おいっしぃ!」
一口食べて、ぼくは思わず声を出していた。
「うん! おいしいね」
晶良が微笑みかけてくる。
左隣ではケーキより甘いんじゃないか、という光景が展開されている。
「はい、千春。あ~ん」
「あ~ん。…ん~、おいしいぃ。じゃ、カズにもお返し。あ~ん」
「あ~ん」
2人の世界に入っている文和と千春。うらやましい、と思っていたら、そこに晶良の不機嫌そうな声。
「アンタたちねぇ、見てらんないわよ。ったく、こっちが照れくさくなってくるじゃないのっ」
晶良が文和をにらみつけて注意する。千春はぺろっと舌を出して首をすくめ、
「ごめんなさぁ~い」
すぐに謝った。しかし、文和は口を尖らせ姉に反抗する。
「ちぇっ、いいじゃん、べつにぃ。たまにしか千春と会えないんだからさぁ」
ビールを飲んでいるせいか、とっさにうまい言い訳が浮かばないみたいだ。たたみかける晶良。
「速水家には女のコ、いないってーの?」
「す、すまん」
晶良ににらまれ、あっさり白旗を揚げるお父さん。
「昔はさ、『晶良は世界一かわいい』って言ってくれてたのにぃ」
「だから、すまんって」
平身低頭のお父さん。ぼくは緊張感みなぎる空気に耐えられず、
「ケ、ケ、ケーキ。ケーキ、食べよ。ね、晶良さん」
はっとしてぼくを見た晶良は、途端に表情をやわらげ、
「うん! そーだね。さあ、千春ちゃん、座って座って」
ぼくは、お父さんが声を殺して息を吐き出したのを聞き逃さなかった。
全員がテーブルを囲んで座り、お母さんのいれてくれた紅茶に砂糖とミルクをたっぷり入れて準備は完了。みんなして、穏やかな笑顔を浮かべ、
「いっただきまぁ~す!」
はからずも声がそろった。用意されたフォークを手に取り、イチゴのショートケーキを口に運んだ。
「! おいっしぃ!」
一口食べて、ぼくは思わず声を出していた。
「うん! おいしいね」
晶良が微笑みかけてくる。
左隣ではケーキより甘いんじゃないか、という光景が展開されている。
「はい、千春。あ~ん」
「あ~ん。…ん~、おいしいぃ。じゃ、カズにもお返し。あ~ん」
「あ~ん」
2人の世界に入っている文和と千春。うらやましい、と思っていたら、そこに晶良の不機嫌そうな声。
「アンタたちねぇ、見てらんないわよ。ったく、こっちが照れくさくなってくるじゃないのっ」
晶良が文和をにらみつけて注意する。千春はぺろっと舌を出して首をすくめ、
「ごめんなさぁ~い」
すぐに謝った。しかし、文和は口を尖らせ姉に反抗する。
「ちぇっ、いいじゃん、べつにぃ。たまにしか千春と会えないんだからさぁ」
千春はテーブルの下で文和のTシャツのすそを引っ張り、顔を寄せて小声で言う。
「カズ、やめなよ。せっかくのケーキが台無しになっちゃう」
それで気を取り直した文和は、デレ~っとして千春に答えた。
「うん、そーだね。千春の言うとおりだね」
晶良は満足そうにケーキを食べながら、
「よしよし。最初っから素直にアタシの言うこと、きーとけばいいのよ」
お姉さん風を吹かせる晶良に、文和がカチンときたのがわかった。反撃に転じる。
「どーせ、ねぇちゃんだって、カイトさんと『あ~ん』ってしたいんだぜ、きっと」
「文和! なにいってんのよっ」
「怒るのは図星ってことだろ、ねぇちゃん。欲求不満なんじゃないの」
晶良の目がギラリと光った。
(敵に向かっていくときのブラックローズの目だ…。そ、それにしても、姉弟ゲンカにしちゃあ、激しすぎる気がするんだけどぉ)
息を飲むぼくなど、まるで眼中にない晶良がドスの利いた声を吐き出す。
「ふ・み・か・ず。てっめぇ、いま、言ったこと、よっく覚えてろよぉっ。後悔してぇんだな? あーっ!」
キレた晶良の口汚い言葉に、お父さんが怒声をあげる。
「こらっ、晶良。女のコがそんな口きいちゃ、いかんっ!」
一方的に叱られた晶良は、悲しげな顔をして言い返す。
「な、なんでよ。お姉ちゃんは我慢しなきゃダメ? お姉ちゃんはいつもいいコにしてなきゃダメ? アタシだって…、アタシだってねぇ…」
両目を押さえてうつむく晶良を見て文和はオロオロし、慌てて謝罪する。
「あ、あの…、ねぇちゃん、悪かったよ。ごめん」
すぐに千春が続いて、
「晶良お姉さん、ごめんなさい」
謝ると、晶良も気を取り直し、無理に笑顔をつくって言った。
「あ、いいのよ、千春ちゃん。こっちこそ、ごめんね。みっともない姉弟ゲンカ、見せちゃって」
(どーしていいか、わかんないよ、あーゆーときって。あ~、ドキドキした)
ほっと胸をなでおろしながら汗を拭うぼくを後目に、速水家の人たちは何事もなかったようにケーキを食べ、紅茶を飲んでいた。
「カズ、やめなよ。せっかくのケーキが台無しになっちゃう」
それで気を取り直した文和は、デレ~っとして千春に答えた。
「うん、そーだね。千春の言うとおりだね」
晶良は満足そうにケーキを食べながら、
「よしよし。最初っから素直にアタシの言うこと、きーとけばいいのよ」
お姉さん風を吹かせる晶良に、文和がカチンときたのがわかった。反撃に転じる。
「どーせ、ねぇちゃんだって、カイトさんと『あ~ん』ってしたいんだぜ、きっと」
「文和! なにいってんのよっ」
「怒るのは図星ってことだろ、ねぇちゃん。欲求不満なんじゃないの」
晶良の目がギラリと光った。
(敵に向かっていくときのブラックローズの目だ…。そ、それにしても、姉弟ゲンカにしちゃあ、激しすぎる気がするんだけどぉ)
息を飲むぼくなど、まるで眼中にない晶良がドスの利いた声を吐き出す。
「ふ・み・か・ず。てっめぇ、いま、言ったこと、よっく覚えてろよぉっ。後悔してぇんだな? あーっ!」
キレた晶良の口汚い言葉に、お父さんが怒声をあげる。
「こらっ、晶良。女のコがそんな口きいちゃ、いかんっ!」
一方的に叱られた晶良は、悲しげな顔をして言い返す。
「な、なんでよ。お姉ちゃんは我慢しなきゃダメ? お姉ちゃんはいつもいいコにしてなきゃダメ? アタシだって…、アタシだってねぇ…」
両目を押さえてうつむく晶良を見て文和はオロオロし、慌てて謝罪する。
「あ、あの…、ねぇちゃん、悪かったよ。ごめん」
すぐに千春が続いて、
「晶良お姉さん、ごめんなさい」
謝ると、晶良も気を取り直し、無理に笑顔をつくって言った。
「あ、いいのよ、千春ちゃん。こっちこそ、ごめんね。みっともない姉弟ゲンカ、見せちゃって」
(どーしていいか、わかんないよ、あーゆーときって。あ~、ドキドキした)
ほっと胸をなでおろしながら汗を拭うぼくを後目に、速水家の人たちは何事もなかったようにケーキを食べ、紅茶を飲んでいた。
「あ~ぁ。アンタさぁ、なんでアタシと同じケーキにしたのよぉ。別のにすれば2種類、味わえたじゃないのよぉ」
不満そうに言う晶良。なだめるように返す。
「ぼく、こんなにおいしいケーキ食べるの、初めてだよ」
「ま、男のコじゃあ、あんまりケーキなんて食べないか…。あっ、アンタ、イチゴ食べないの?」
ぼくのお皿を見ながら、舌なめずりして晶良が言う。大慌てでお皿を引き寄せてガードし、
「だ、だめだよ、晶良さん。これはぼくが最後に味わって食べようと思って残しといたんだから」
「ちぇ~。アタシ、そーゆーのって信じらんない。おいしいものは最初に食べなきゃ、後悔することになるじゃない」
「後悔って?」
「もしも、よ。もしも、いま地震がきたら、『あのとき、最初にイチゴを食べておけば』って、絶対後悔すると思うんだけど」
当たり前でしょ、とでも言いたげに話す晶良。それを聞いていたお父さんとお母さんは、ユニゾンでため息をつき、
「なんで、こんな娘に育っちゃったかなぁ」
「だいたい、あなたが甘やかすから、いけないんですよ!」
「オレは甘やかしたりしてないぞ。母さんが厳しく言わないからだろぉ」
夫婦ゲンカが勃発してしまった。ところが、晶良も文和も、ニヤニヤして見ているだけだ。
次の瞬間、お父さんが普通の口調できりだす。
「あ、そうだ、母さん。晩は寿司でもとらんか。千春ちゃん、カイトくんがせっかくきてくれたんだし」
「あら、いいわね。お寿司なんて久しぶり」
何事もなかったかのように会話している。
(なんか、この空気って、きっと慣れることはできないんだろうな)
残ったイチゴを口に入れたが、甘いんだかすっぱいんだか、わからなかった。
口の周りにクリームをつけた幸太くんが歌うように歓声をあげる。
「たっまごやきぃ。あなごぉ。おっすし、おすしぃ!」
目を細めて弟の子供らしい姿を見ていた晶良が、ぼくのほうに向き直って聞いてくる。
「ね、アンタ。食べてってよ。いいでしょ?」
「あ、うん。でも、いいのかな。突然おじゃまして、ごちそうしてもらって…」
あまり図々しい男だと思われたくない、なんて考えたが、それはいらない心配だった。
不満そうに言う晶良。なだめるように返す。
「ぼく、こんなにおいしいケーキ食べるの、初めてだよ」
「ま、男のコじゃあ、あんまりケーキなんて食べないか…。あっ、アンタ、イチゴ食べないの?」
ぼくのお皿を見ながら、舌なめずりして晶良が言う。大慌てでお皿を引き寄せてガードし、
「だ、だめだよ、晶良さん。これはぼくが最後に味わって食べようと思って残しといたんだから」
「ちぇ~。アタシ、そーゆーのって信じらんない。おいしいものは最初に食べなきゃ、後悔することになるじゃない」
「後悔って?」
「もしも、よ。もしも、いま地震がきたら、『あのとき、最初にイチゴを食べておけば』って、絶対後悔すると思うんだけど」
当たり前でしょ、とでも言いたげに話す晶良。それを聞いていたお父さんとお母さんは、ユニゾンでため息をつき、
「なんで、こんな娘に育っちゃったかなぁ」
「だいたい、あなたが甘やかすから、いけないんですよ!」
「オレは甘やかしたりしてないぞ。母さんが厳しく言わないからだろぉ」
夫婦ゲンカが勃発してしまった。ところが、晶良も文和も、ニヤニヤして見ているだけだ。
次の瞬間、お父さんが普通の口調できりだす。
「あ、そうだ、母さん。晩は寿司でもとらんか。千春ちゃん、カイトくんがせっかくきてくれたんだし」
「あら、いいわね。お寿司なんて久しぶり」
何事もなかったかのように会話している。
(なんか、この空気って、きっと慣れることはできないんだろうな)
残ったイチゴを口に入れたが、甘いんだかすっぱいんだか、わからなかった。
口の周りにクリームをつけた幸太くんが歌うように歓声をあげる。
「たっまごやきぃ。あなごぉ。おっすし、おすしぃ!」
目を細めて弟の子供らしい姿を見ていた晶良が、ぼくのほうに向き直って聞いてくる。
「ね、アンタ。食べてってよ。いいでしょ?」
「あ、うん。でも、いいのかな。突然おじゃまして、ごちそうしてもらって…」
あまり図々しい男だと思われたくない、なんて考えたが、それはいらない心配だった。
「遠慮しないでくださいな。ケーキと、それになんといっても晶良のお弁当を食べてもらったお礼よ」
お母さんに笑顔で勧められる。断るのも失礼になると判断。
「それじゃあ、ごちそうになります」
ぺこりと頭を下げた。
「お弁当つくってあげたんだから、お礼をしてほしいのはアタシのほうだっつーの」
口を尖らせて言う晶良。お父さんはぼくの肩にそっと手を乗せ、じっとぼくの目を見つめた。その目の奥には同情がはっきりと感じられ、『大変だな』という言葉が書いてあった。
「あのぉ…、ちはるはサビ抜き、お願いします」
「わかったわ。それじゃあ、お寿司屋さんに電話しなくちゃね」
お母さんはコードレスの電話機を手に取り、メモリーからお寿司屋さんを呼びだす。
「あ、速水でございます。今晩6時に出前をお願いしたいんですが。…はい、2人前を5つ、サビ抜き1.5人前を2つ、全部で7つです。…はい、…はい。それでは、お願いします」
時間はたっぷりあった。紅茶のお代わりをゆっくり飲んで、それから晶良に、
「ねぇ、アタシの部屋、行かない?」
と誘われる。すごく興味がある。首を縦に2度振った。
「じゃあ、おんぶ」
お父さん、お母さんの前だというのに甘えてくる晶良。ちょっぴり困る。すると、お母さんが、
「文和、千春ちゃんも一緒に行ったら。若い人同士のほうが話が弾むでしょ」
それとなく両カップルが2人きりにならないように予防線を張ってくる。
(そうか。さっきまで文和くんの部屋には、『お目付け役』で幸太くんが送り込まれていたのか…)
感心する。2人きりになりたい気持ちも少しはあったが…。晶良は少し頬を膨らませたが、
「そんでは、みんなでウノでもやろっか」
一応、お姉さんらしくふるまっている。幸太はあくびをし、昼寝の時間がきたことを知らせていた。
「うぃ~っす」
しぶしぶ(?)同意する文和。千春はニコニコと笑み、文和の腕を取ってうながす。
「さ、行きましょ」
ぼくは席を立って晶良の前までいき、くるりと背中を向けた。晶良はテーブルに手をついて自分の体を支え、それからぼくの背中に体重をかけて、
「レッツ・ゴー!」
元気に号令を発した。
お母さんに笑顔で勧められる。断るのも失礼になると判断。
「それじゃあ、ごちそうになります」
ぺこりと頭を下げた。
「お弁当つくってあげたんだから、お礼をしてほしいのはアタシのほうだっつーの」
口を尖らせて言う晶良。お父さんはぼくの肩にそっと手を乗せ、じっとぼくの目を見つめた。その目の奥には同情がはっきりと感じられ、『大変だな』という言葉が書いてあった。
「あのぉ…、ちはるはサビ抜き、お願いします」
「わかったわ。それじゃあ、お寿司屋さんに電話しなくちゃね」
お母さんはコードレスの電話機を手に取り、メモリーからお寿司屋さんを呼びだす。
「あ、速水でございます。今晩6時に出前をお願いしたいんですが。…はい、2人前を5つ、サビ抜き1.5人前を2つ、全部で7つです。…はい、…はい。それでは、お願いします」
時間はたっぷりあった。紅茶のお代わりをゆっくり飲んで、それから晶良に、
「ねぇ、アタシの部屋、行かない?」
と誘われる。すごく興味がある。首を縦に2度振った。
「じゃあ、おんぶ」
お父さん、お母さんの前だというのに甘えてくる晶良。ちょっぴり困る。すると、お母さんが、
「文和、千春ちゃんも一緒に行ったら。若い人同士のほうが話が弾むでしょ」
それとなく両カップルが2人きりにならないように予防線を張ってくる。
(そうか。さっきまで文和くんの部屋には、『お目付け役』で幸太くんが送り込まれていたのか…)
感心する。2人きりになりたい気持ちも少しはあったが…。晶良は少し頬を膨らませたが、
「そんでは、みんなでウノでもやろっか」
一応、お姉さんらしくふるまっている。幸太はあくびをし、昼寝の時間がきたことを知らせていた。
「うぃ~っす」
しぶしぶ(?)同意する文和。千春はニコニコと笑み、文和の腕を取ってうながす。
「さ、行きましょ」
ぼくは席を立って晶良の前までいき、くるりと背中を向けた。晶良はテーブルに手をついて自分の体を支え、それからぼくの背中に体重をかけて、
「レッツ・ゴー!」
元気に号令を発した。
ピンポ~ン、と呼び鈴の音が響いた。お寿司の到着だ。
「ふぅぅぅぅぅ」
ぼくと文和、千春の3人がいっせいに深いため息を吐き出した。みな焦燥しきっていた。
ウノは晶良の一人勝ちだった。実の弟の文和はともかく、千春や、恋人のぼくにもいっさい手加減なし…、いや情け容赦すらなかった。
守りにまわればもろい晶良だったが、ひとたび攻勢に転じるや、その攻め手は半端でなく、まさに強烈無比だった。なんとか打開しようと3人が暗黙の了解で組んだものの、木っ端微塵に粉砕された。
タイミングよく繰り出されるリバースにスキップ。そしてドローフォー、ドローツーの連打…。などなど、まさに完膚なきまでにたたきのめされた。
(やっと…、やっと解放される。もう少しで、晶良さんのこと、嫌いになるとこだった…)
「お寿司、きたわよ~。下りてきなさ~い」
少し間を置いた後、お母さんの呼ぶ声が階段の下から聞こえた。
「はぁ~いっ! すぐ行くぅー!」
返事をする晶良の元気いっぱいな声が恨めしい。まだ、ウノの敗戦のショックから立ち直れずにいた。
「よ…っと。ほんじゃあ、下、いこっか」
文和が立ち上がりながら千春を誘う。千春のウノの敗戦のショックからか放心状態で、
「ん」
と言ったきり立てないでいる。焦点の定まらない目をする千春に向かって文和が、
「千春? ねぇ、どーしたの、だいじょうぶ?」
「え? あぁ、うん…。へーきよ」
全然平気じゃない気がするが…。ともかく、千春はふらつきながらも立ち上がった。遠慮がちに手を差し伸べて千春の腰を支える文和。その手つきに大胆さなど、かけらも感じられなかった。
(高校入試に合格するまでオアズケか。千春、ちゃんと我慢してるんだ)
この2人は未経験だ。ぼくは確信した。
「はい」
ぼくは晶良に背中を差し出す。
「ん。ありがと」
すまなそうに、それでいて満足そうに晶良が肩に手を掛けて体を起こし、それから体をぼくにあずけてくる。背中に感じる柔らかな胸の感触が心地よい。
勢いもつけずに軽く立ち上がる。まだ高校1年生、「よっこらしょ」なんて言わない。
「ふぅぅぅぅぅ」
ぼくと文和、千春の3人がいっせいに深いため息を吐き出した。みな焦燥しきっていた。
ウノは晶良の一人勝ちだった。実の弟の文和はともかく、千春や、恋人のぼくにもいっさい手加減なし…、いや情け容赦すらなかった。
守りにまわればもろい晶良だったが、ひとたび攻勢に転じるや、その攻め手は半端でなく、まさに強烈無比だった。なんとか打開しようと3人が暗黙の了解で組んだものの、木っ端微塵に粉砕された。
タイミングよく繰り出されるリバースにスキップ。そしてドローフォー、ドローツーの連打…。などなど、まさに完膚なきまでにたたきのめされた。
(やっと…、やっと解放される。もう少しで、晶良さんのこと、嫌いになるとこだった…)
「お寿司、きたわよ~。下りてきなさ~い」
少し間を置いた後、お母さんの呼ぶ声が階段の下から聞こえた。
「はぁ~いっ! すぐ行くぅー!」
返事をする晶良の元気いっぱいな声が恨めしい。まだ、ウノの敗戦のショックから立ち直れずにいた。
「よ…っと。ほんじゃあ、下、いこっか」
文和が立ち上がりながら千春を誘う。千春のウノの敗戦のショックからか放心状態で、
「ん」
と言ったきり立てないでいる。焦点の定まらない目をする千春に向かって文和が、
「千春? ねぇ、どーしたの、だいじょうぶ?」
「え? あぁ、うん…。へーきよ」
全然平気じゃない気がするが…。ともかく、千春はふらつきながらも立ち上がった。遠慮がちに手を差し伸べて千春の腰を支える文和。その手つきに大胆さなど、かけらも感じられなかった。
(高校入試に合格するまでオアズケか。千春、ちゃんと我慢してるんだ)
この2人は未経験だ。ぼくは確信した。
「はい」
ぼくは晶良に背中を差し出す。
「ん。ありがと」
すまなそうに、それでいて満足そうに晶良が肩に手を掛けて体を起こし、それから体をぼくにあずけてくる。背中に感じる柔らかな胸の感触が心地よい。
勢いもつけずに軽く立ち上がる。まだ高校1年生、「よっこらしょ」なんて言わない。
「それじゃあ、いくよ。晶良さん」
電気を消し、ドアを閉めると、
「階段、気をつけてね」
晶良が耳元で言う。耳にかかる晶良の吐息にぞくぞくしてしまう。危うくムスコが勃ちそうになる。ほんの少し立ち止まったままでいると、晶良が心配そうに聞いてくる。
「どーした?」
「あ、いや。なんでもないよ。階段、下りるよ」
まさか、勃起しちゃった、とは言えるわけはない。ごまかすように言って足を踏みだした。
テーブルにはすでにお寿司の桶が並べられ、湯のみからは湯気が立ち上っていた。ほかの5人は席についている。
肩を貸して晶良を座らせ、ぼくも隣に座る。
「いっただきまぁ~す!」
全員が声をそろえて、お寿司にぱくついた。文和も千春も食べるのに夢中で「あ~ん」とか、いちゃついたりはしなかった。
「ふぅー、ごちそーさま。お腹いっぱい」
ガリまで残さず平らげ、晶良がお腹をさすりながら言う。ぼくも最後のギョクを食べ終え、
「ごちそうさまでした。おいしかったぁ」
お父さんとお母さんに笑顔で言った。
熱いお茶をすすり、食後の休息をとっていると、千春が申し訳なさそうに文和に告げる。
「ちはる、そろそろ帰らなくっちゃ。きょうは遅くなるって言ってきてないんだ」
文和は残念そうに表情を曇らす。
「え~っ。千春、まだいいだろ。もっと遊んでいってよ」
「ごめんね。ちはるももっとカズと一緒にいたいけど…。きょうは帰るね」
「ぶぅー」
あきらめ悪くブーたれている文和。そこに晶良の雷が落ちる。
「こらっ。千春ちゃんを困らせないのっ! 未練たらしい男は嫌われちゃうぞぉ」
「そ、そんなぁ。千春、ごめん。でも、ねぇちゃんはいいよなぁ。カイトさんがまだ帰らないから」
うらやましげにぼくを見る文和。そんな弟を見かねた晶良は強がって言い放った。
「あら。かわいい女のコを一人で放り出すわけないじゃないの」
それから、ゆっくりぼくに視線を向けて言った。
電気を消し、ドアを閉めると、
「階段、気をつけてね」
晶良が耳元で言う。耳にかかる晶良の吐息にぞくぞくしてしまう。危うくムスコが勃ちそうになる。ほんの少し立ち止まったままでいると、晶良が心配そうに聞いてくる。
「どーした?」
「あ、いや。なんでもないよ。階段、下りるよ」
まさか、勃起しちゃった、とは言えるわけはない。ごまかすように言って足を踏みだした。
テーブルにはすでにお寿司の桶が並べられ、湯のみからは湯気が立ち上っていた。ほかの5人は席についている。
肩を貸して晶良を座らせ、ぼくも隣に座る。
「いっただきまぁ~す!」
全員が声をそろえて、お寿司にぱくついた。文和も千春も食べるのに夢中で「あ~ん」とか、いちゃついたりはしなかった。
「ふぅー、ごちそーさま。お腹いっぱい」
ガリまで残さず平らげ、晶良がお腹をさすりながら言う。ぼくも最後のギョクを食べ終え、
「ごちそうさまでした。おいしかったぁ」
お父さんとお母さんに笑顔で言った。
熱いお茶をすすり、食後の休息をとっていると、千春が申し訳なさそうに文和に告げる。
「ちはる、そろそろ帰らなくっちゃ。きょうは遅くなるって言ってきてないんだ」
文和は残念そうに表情を曇らす。
「え~っ。千春、まだいいだろ。もっと遊んでいってよ」
「ごめんね。ちはるももっとカズと一緒にいたいけど…。きょうは帰るね」
「ぶぅー」
あきらめ悪くブーたれている文和。そこに晶良の雷が落ちる。
「こらっ。千春ちゃんを困らせないのっ! 未練たらしい男は嫌われちゃうぞぉ」
「そ、そんなぁ。千春、ごめん。でも、ねぇちゃんはいいよなぁ。カイトさんがまだ帰らないから」
うらやましげにぼくを見る文和。そんな弟を見かねた晶良は強がって言い放った。
「あら。かわいい女のコを一人で放り出すわけないじゃないの」
それから、ゆっくりぼくに視線を向けて言った。
「アンタ。いい? 千春ちゃんのこと、ちゃんと送ってってね」
「あぁ…、う…、うん。わかった」
(きょうは…、キスもしてない。せっかく久しぶりのデートだったのに…)
とはいえケガをしている晶良を押し倒すほど鬼畜ではない。それに、ここは晶良の家だ。どっちにしたって最後までいけるわけはなかった。
千春はそそくさと帰り支度をすませていく。ぼくは身ひとつ。用意もなにも、靴を履くだけだ。玄関で千春を待つ。
晶良はお父さんの肩を借りて、玄関まで見送りに出てきてくれた。
「じゃあ、また。ね、今夜、メールして」
「うん。わかったよ。帰ったらケータイにメールする」
晶良と見つめ合っていた。ぼくはお父さんの存在に気づく。その後ろにはお母さん、幸太くんが見送りに出てきてくれていた。
「あの、きょうはおじゃましました。どうも、ごちそうさまでしたっ」
大きな声であいさつし、深々と礼をした。
「懲りずにまた遊びにきてくれよ」
「晶良のこと、よろしくお願いしますね」
お父さん、お母さんにまじめな顔で言われる。
「そ、そんなぁ。あ、あの、また遊びにきますっ。ありがとうございましたっ!」
もう一度、頭が床につくほど体を折り曲げて礼をし、きびすを返した。そのとき、
「あ、カイトさん、もうちょっと待ってて」
文和の慌てた声が聞こえた。見れば、千春のバッグを持って立ちつくしている。
「千春ちゃんは?」
ぼくが声をかけると、文和は口ごもる。
「あの、もおちょっと待ってやって、ください」
(あぁ。トイレ、かな)
ぼくの考えは当たっていた。ほどなくして、千春はハンカチで手を拭きながら小走りで姿を現し、
「すいません。お待たせしましたぁ」
焦っているのか、声が少し上ずっている。ぼくはやさしく微笑みかけて言う。
「だいじょうぶだよ、ちはるちゃん。それじゃあ帰ろっか」
「はいっ!」
ニッコリ笑って千春は見た覚えのあるミュールを履いた。
「あぁ…、う…、うん。わかった」
(きょうは…、キスもしてない。せっかく久しぶりのデートだったのに…)
とはいえケガをしている晶良を押し倒すほど鬼畜ではない。それに、ここは晶良の家だ。どっちにしたって最後までいけるわけはなかった。
千春はそそくさと帰り支度をすませていく。ぼくは身ひとつ。用意もなにも、靴を履くだけだ。玄関で千春を待つ。
晶良はお父さんの肩を借りて、玄関まで見送りに出てきてくれた。
「じゃあ、また。ね、今夜、メールして」
「うん。わかったよ。帰ったらケータイにメールする」
晶良と見つめ合っていた。ぼくはお父さんの存在に気づく。その後ろにはお母さん、幸太くんが見送りに出てきてくれていた。
「あの、きょうはおじゃましました。どうも、ごちそうさまでしたっ」
大きな声であいさつし、深々と礼をした。
「懲りずにまた遊びにきてくれよ」
「晶良のこと、よろしくお願いしますね」
お父さん、お母さんにまじめな顔で言われる。
「そ、そんなぁ。あ、あの、また遊びにきますっ。ありがとうございましたっ!」
もう一度、頭が床につくほど体を折り曲げて礼をし、きびすを返した。そのとき、
「あ、カイトさん、もうちょっと待ってて」
文和の慌てた声が聞こえた。見れば、千春のバッグを持って立ちつくしている。
「千春ちゃんは?」
ぼくが声をかけると、文和は口ごもる。
「あの、もおちょっと待ってやって、ください」
(あぁ。トイレ、かな)
ぼくの考えは当たっていた。ほどなくして、千春はハンカチで手を拭きながら小走りで姿を現し、
「すいません。お待たせしましたぁ」
焦っているのか、声が少し上ずっている。ぼくはやさしく微笑みかけて言う。
「だいじょうぶだよ、ちはるちゃん。それじゃあ帰ろっか」
「はいっ!」
ニッコリ笑って千春は見た覚えのあるミュールを履いた。