vol.3-1③Wedding model
翌週の月曜日、晶良のパソコンに2通の新着メールが届いていた。ひとつはCC社から。不出来なイベントに対するお詫びと担当者を処分した旨、そしてイベント『モンスター街侵入』のMVPを正式に承認する内容だった。
もう1通はミストラル、黒川真由美からのものだった。
もう1通はミストラル、黒川真由美からのものだった。
件名:サンちゃん来日の件
──晶良ちゃん、イベントMVP、おめでとー!\(^o^)/
──そんで、今週なんだけど。サンちゃん、成田に着くのが金曜日の夜なんだって。
──だから、会うのは28日の土曜日。TOKYOプリンセスホテルのロビーで待ち合わせね。
──時間は午後の2時でいいかな? お昼ごはんはカイトと2人で食べてきてね。
──あっ、そうそう。夜、ちょっぴり遅くなると思うから、ご両親にはちゃんと言っとくように。
──サンちゃんにニッポンをたっぷりと味わってもらえるよう、仕込みはバッチリよ(o^-')b
──あなたたちも楽しみにしててね!
──晶良ちゃん、イベントMVP、おめでとー!\(^o^)/
──そんで、今週なんだけど。サンちゃん、成田に着くのが金曜日の夜なんだって。
──だから、会うのは28日の土曜日。TOKYOプリンセスホテルのロビーで待ち合わせね。
──時間は午後の2時でいいかな? お昼ごはんはカイトと2人で食べてきてね。
──あっ、そうそう。夜、ちょっぴり遅くなると思うから、ご両親にはちゃんと言っとくように。
──サンちゃんにニッポンをたっぷりと味わってもらえるよう、仕込みはバッチリよ(o^-')b
──あなたたちも楽しみにしててね!
読み終えた晶良はケータイを手に取る。晶良はボタンを押し、ケータイを耳に当てた。
「あっ、アタシ。黒川さんのメール、見た?」
「うん。いま見たとこ。お昼に、いつもの場所で待ち合わせしようか、晶良さん」
「そうだね。いいよ。だっけど、メールにあった『仕込み』ってなんだろ?」
「う~ん。わかんないけど、楽しみだよね」
「うん。ワクワクするよね」
「じゃあ、土曜日に。晶良さん、愛してる」
「んもうっ、恥ずかしいでしょ。…アタシも愛してる。じゃ、おやすみ」
「おやすみ」
ケータイを机に置いて、晶良は思う。
(新しい服、欲しいな。そうだ、あした、予備校の帰りに買いに行こっと)
ぼくはベッドに体を投げだし、目を閉じてミストラルのメールを思い返す。
(夜、遅くなる、ってことは、2人きりにはなれそうにないか。う~ん。次はいつできるんだろう?)
ここのところ、デートといえばホテルに入るのが決まりであるかのようだった。
(ザ・ワールドのイベントといい、土曜日といい、晶良さんはこういうデートのほうが好きなのかな)
なにせ"覚えたて"のうえに"やりたい盛り"の高校1年生、性欲をもてあますのも無理はない。
(しようがない、か…。エッチなDVD借りてきて、今夜は抜いとこ)
虚しい…けど、しかたない。
「あっ、アタシ。黒川さんのメール、見た?」
「うん。いま見たとこ。お昼に、いつもの場所で待ち合わせしようか、晶良さん」
「そうだね。いいよ。だっけど、メールにあった『仕込み』ってなんだろ?」
「う~ん。わかんないけど、楽しみだよね」
「うん。ワクワクするよね」
「じゃあ、土曜日に。晶良さん、愛してる」
「んもうっ、恥ずかしいでしょ。…アタシも愛してる。じゃ、おやすみ」
「おやすみ」
ケータイを机に置いて、晶良は思う。
(新しい服、欲しいな。そうだ、あした、予備校の帰りに買いに行こっと)
ぼくはベッドに体を投げだし、目を閉じてミストラルのメールを思い返す。
(夜、遅くなる、ってことは、2人きりにはなれそうにないか。う~ん。次はいつできるんだろう?)
ここのところ、デートといえばホテルに入るのが決まりであるかのようだった。
(ザ・ワールドのイベントといい、土曜日といい、晶良さんはこういうデートのほうが好きなのかな)
なにせ"覚えたて"のうえに"やりたい盛り"の高校1年生、性欲をもてあますのも無理はない。
(しようがない、か…。エッチなDVD借りてきて、今夜は抜いとこ)
虚しい…けど、しかたない。
土曜日。Tシャツに短パン、素足にスニーカーを履き、キャップをかぶって待ち合わせ場所に行く。デジタルの腕時計を見ると、11時40分。少し早すぎたかな、と思いながら街路樹がつくる日陰に逃げ込む。
10分ほど待っていると、駅から人がぱらぱらと出てくる。そのなかに、ひときわ目を引くイエローのワンピースを着た彼女の姿が目に飛び込んできた。
「晶良さ~ん」
人目もはばからず、大きな声で呼ぶ。少し恥ずかしげに頬を染めた顔を麦藁帽子で隠すようにして、それでも久々の再会がうれしくてしかたないといった笑顔を見せて、小走りでこちらに向かってくる。
「晶良さん、かわいいね」
「いきなり何言ってんの。照れくさいじゃない」
「あは。そのワンピース、よく似合ってる。かわいいっ!」
「ありがと」
とびきりの笑顔を見せてくれる晶良。先週のザ・ワールドのイベントでMVPを獲得した重剣士ブラックローズのリアルの姿とは、とても思えない。
(女って…)
「ねぇ。アタシ、お腹すいちゃった。ここでなんか食べてこうよ」
「ん。いいよ。こないだ見つけたタイ料理のお店、行ってみない?」
「うん! 暑いときに熱い国のものを食べるって、なかなかいいじゃん」
「でしょ。夜はおそらく日本食のような気がするし。行こっか」
彼女と手をつなぎ、5分ほど歩いて店に入る。同じようなことを考える人が多いのか、かなり込んでいたが、ちょうど2人がけのテーブルが空いていた。
店内はクーラーがうなりをあげていて、それが料理の辛さを想像させる。タイ風トムヤム・ラーメンとグリーンカレー、タイ風焼きソバを注文。
「タイ料理って食べるの初めてなんだ」
「実はアタシも」
少し待たされて出てきた料理を2人で食べる。店内はキンキンに冷やされているのだが、汗が噴き出してくる。
「かっらぁ」
「でも…おいしい!」
汗を拭いながら、残さず平らげる。
10分ほど待っていると、駅から人がぱらぱらと出てくる。そのなかに、ひときわ目を引くイエローのワンピースを着た彼女の姿が目に飛び込んできた。
「晶良さ~ん」
人目もはばからず、大きな声で呼ぶ。少し恥ずかしげに頬を染めた顔を麦藁帽子で隠すようにして、それでも久々の再会がうれしくてしかたないといった笑顔を見せて、小走りでこちらに向かってくる。
「晶良さん、かわいいね」
「いきなり何言ってんの。照れくさいじゃない」
「あは。そのワンピース、よく似合ってる。かわいいっ!」
「ありがと」
とびきりの笑顔を見せてくれる晶良。先週のザ・ワールドのイベントでMVPを獲得した重剣士ブラックローズのリアルの姿とは、とても思えない。
(女って…)
「ねぇ。アタシ、お腹すいちゃった。ここでなんか食べてこうよ」
「ん。いいよ。こないだ見つけたタイ料理のお店、行ってみない?」
「うん! 暑いときに熱い国のものを食べるって、なかなかいいじゃん」
「でしょ。夜はおそらく日本食のような気がするし。行こっか」
彼女と手をつなぎ、5分ほど歩いて店に入る。同じようなことを考える人が多いのか、かなり込んでいたが、ちょうど2人がけのテーブルが空いていた。
店内はクーラーがうなりをあげていて、それが料理の辛さを想像させる。タイ風トムヤム・ラーメンとグリーンカレー、タイ風焼きソバを注文。
「タイ料理って食べるの初めてなんだ」
「実はアタシも」
少し待たされて出てきた料理を2人で食べる。店内はキンキンに冷やされているのだが、汗が噴き出してくる。
「かっらぁ」
「でも…おいしい!」
汗を拭いながら、残さず平らげる。
「ふぅ~、おいしかったぁ。晶良さん、また、こようね」
「うん。アタシも気に入っちゃった」
「ねぇ、晶良さん。こないだのイベントのMVPの賞品って、なんだったの?」
「ふっふっふ、聞いて驚かないでよ~。あのさ、旅行券だって」
「う、ん? あんまり驚かない、けど」
「50万円、って聞いても?」
「ブっ」
飲みかけた水を吹き出しそうになる。
「すごいっ!」
「でしょ~。リョースの給料から引かれてたりして」
いたずらっぽく笑って、うれしそうに話す晶良。
「いつまで使えるの? 有効期限は?」
「それがね、10年間有効なんだってぇ。いいでしょ?」
「へぇ~。CC社もやるもんだね」
「うん。だれと、どこに行こっかなぁ~」
「え~!? ぼくとじゃないのぉ」
冗談半分だが、不満そうに聞いてみる。
「別に、この間のイベントのパートナーとじゃなくてもかまわないって書いてあったもん」
「ちぇっ。あのとき、ウィッチごときに魅了されてなければなぁ…」
「ぼやかない、ぼやかない」
余裕の笑顔で話す晶良が、きょろきょろと周りを見てから顔を寄せ、小声でささやいた。
「新婚旅行で使いたいな。アンタとの…」
「あ、晶良さん!」
「ん。だから、大事にしなさいよ、アタシのこと」
「もちろんだよっ」
思わず、『愛してる』と叫びそうになるのをぐっとこらえ、
「あっ、そろそろ行こっか」
「そーだね。きょうはアタシがおごっちゃおう」
「えっ、いいの。わ~い、ごちそうさま」
「うん。アタシも気に入っちゃった」
「ねぇ、晶良さん。こないだのイベントのMVPの賞品って、なんだったの?」
「ふっふっふ、聞いて驚かないでよ~。あのさ、旅行券だって」
「う、ん? あんまり驚かない、けど」
「50万円、って聞いても?」
「ブっ」
飲みかけた水を吹き出しそうになる。
「すごいっ!」
「でしょ~。リョースの給料から引かれてたりして」
いたずらっぽく笑って、うれしそうに話す晶良。
「いつまで使えるの? 有効期限は?」
「それがね、10年間有効なんだってぇ。いいでしょ?」
「へぇ~。CC社もやるもんだね」
「うん。だれと、どこに行こっかなぁ~」
「え~!? ぼくとじゃないのぉ」
冗談半分だが、不満そうに聞いてみる。
「別に、この間のイベントのパートナーとじゃなくてもかまわないって書いてあったもん」
「ちぇっ。あのとき、ウィッチごときに魅了されてなければなぁ…」
「ぼやかない、ぼやかない」
余裕の笑顔で話す晶良が、きょろきょろと周りを見てから顔を寄せ、小声でささやいた。
「新婚旅行で使いたいな。アンタとの…」
「あ、晶良さん!」
「ん。だから、大事にしなさいよ、アタシのこと」
「もちろんだよっ」
思わず、『愛してる』と叫びそうになるのをぐっとこらえ、
「あっ、そろそろ行こっか」
「そーだね。きょうはアタシがおごっちゃおう」
「えっ、いいの。わ~い、ごちそうさま」
電車を乗り継ぎ、待ち合わせのホテルに着いたのは約束の15分前だった。
「あっ、黒川さん」
ホテルの自動ドアが開くと、その先に浴衣姿の母娘が目に入った。愛娘の深鈴を連れたミストラル、いや黒川真由美だ。
「カイト~♪」
母親の手を振りきって、1歳半になる深鈴が危なっかしい足どりで走ってくる。かがんで両手を広げて迎え、抱き上げる。
「大きくなったね。深鈴ちゃん」
「カイト~。好き好きぃ」
ゆっくりと歩み寄ってきた黒川さんがニコニコしながら、
「あらあら。カイトのこと、すっかり気に入っちゃって。ねぇ、カイト。深鈴のお婿さんになる?」
「う~ん。20年も待ってたら、ぼく、オジさんになってるよ(笑)」
それを聞いた晶良は、反射的に
「ダメっ!」
と言うと、はっとして顔を赤らめる。
「アタシってば、幼児相手になにムキになってるのよ!?」
深鈴はあくまで無邪気に、
「晶良も好き好きぃ」
と小さな手を広げてニパっと笑う。生え始めた乳歯がのぞく。晶良に渡すと、
「ん~、カイトがいいのぉ」
深鈴がぐずる。晶良は困った顔でぼくを見ると、
「はい、アンタがいいってさ」
「かぁたぁぐぅるぅまぁ」
「はいはい。かわいいお姫さま。これでよろしいでしょうか」
肩車されて大はしゃぎする深鈴。
「こら、深鈴。あんまり動くとあぶないでしょ」
「だぁ~いじょうぶ。だって、カイトは強いも~ん」
「あっ、黒川さん」
ホテルの自動ドアが開くと、その先に浴衣姿の母娘が目に入った。愛娘の深鈴を連れたミストラル、いや黒川真由美だ。
「カイト~♪」
母親の手を振りきって、1歳半になる深鈴が危なっかしい足どりで走ってくる。かがんで両手を広げて迎え、抱き上げる。
「大きくなったね。深鈴ちゃん」
「カイト~。好き好きぃ」
ゆっくりと歩み寄ってきた黒川さんがニコニコしながら、
「あらあら。カイトのこと、すっかり気に入っちゃって。ねぇ、カイト。深鈴のお婿さんになる?」
「う~ん。20年も待ってたら、ぼく、オジさんになってるよ(笑)」
それを聞いた晶良は、反射的に
「ダメっ!」
と言うと、はっとして顔を赤らめる。
「アタシってば、幼児相手になにムキになってるのよ!?」
深鈴はあくまで無邪気に、
「晶良も好き好きぃ」
と小さな手を広げてニパっと笑う。生え始めた乳歯がのぞく。晶良に渡すと、
「ん~、カイトがいいのぉ」
深鈴がぐずる。晶良は困った顔でぼくを見ると、
「はい、アンタがいいってさ」
「かぁたぁぐぅるぅまぁ」
「はいはい。かわいいお姫さま。これでよろしいでしょうか」
肩車されて大はしゃぎする深鈴。
「こら、深鈴。あんまり動くとあぶないでしょ」
「だぁ~いじょうぶ。だって、カイトは強いも~ん」
黒川さんは肩をすくめて
「お転婆さんで困っちゃう」
微笑みながら言う。晶良は
「アタシの小さいときよりマシですよぉ。それにしても深鈴ちゃん、言葉とか、早くないですか?」
「うん。女の子は早いって聞いてたけど、この子はちょっと違う気がするんだ」
「黒川さん、親バカ?」
「いやぁねぇ、晶良ちゃん。それも少しはあるけど…」
まさか、4歳でIQ200超の『天才児』に成長するとは、この時点ではだれにも想像つくわけがない。
「それにしても、浴衣ですか。メールにあった『仕込み』って、そのことですか?」
「うふふ。これも仕込みの一つ。あなたたちのもあるのよ。後で着替えましょうね」
「うわっ。すっご~い。アタシ、浴衣って似合うかなあ」
「大丈夫よ。晶良ちゃんなら」
「あっ、それって、胸がないからって意味ですかぁ」
「あはは。そうじゃなくて、晶良ちゃん、かわいいから。カイトも惚れ直すわよ」
晶良は照れて赤くなったのをごまかすように話題を変える。
「あっ、そうだ。三十郎さんは?」
そう聞く晶良に、黒川さんが答える。
「それがねぇ。さっき、お部屋に電話してみたんだけど、時差ボケがひどくて、もう少し眠らせてほしいって」
「ザ・ワールドの"もののふ"も、やっぱり人間なのねぇ」
女性2人が語らう横で、ぼくは小さなお姫さまに振りまわされていた。まったく、子供の体力にはかなわない。そこに黒川さんが、
「こらっ、みぃれぇいぃぃ。いい加減になさい(-_-メ)」
顔文字入りでぴしゃりと叱られた深鈴は、ぼくの背後に隠れて上目遣いに母親を見つめて、小さな声でつぶやく。
「ごめんなさ~い」
途端に黒川さんは慈愛に満ちた笑みを浮かべて深鈴を抱き、
「いい子ねぇ、深鈴は」
と言って娘の頬にキスをした。
「お転婆さんで困っちゃう」
微笑みながら言う。晶良は
「アタシの小さいときよりマシですよぉ。それにしても深鈴ちゃん、言葉とか、早くないですか?」
「うん。女の子は早いって聞いてたけど、この子はちょっと違う気がするんだ」
「黒川さん、親バカ?」
「いやぁねぇ、晶良ちゃん。それも少しはあるけど…」
まさか、4歳でIQ200超の『天才児』に成長するとは、この時点ではだれにも想像つくわけがない。
「それにしても、浴衣ですか。メールにあった『仕込み』って、そのことですか?」
「うふふ。これも仕込みの一つ。あなたたちのもあるのよ。後で着替えましょうね」
「うわっ。すっご~い。アタシ、浴衣って似合うかなあ」
「大丈夫よ。晶良ちゃんなら」
「あっ、それって、胸がないからって意味ですかぁ」
「あはは。そうじゃなくて、晶良ちゃん、かわいいから。カイトも惚れ直すわよ」
晶良は照れて赤くなったのをごまかすように話題を変える。
「あっ、そうだ。三十郎さんは?」
そう聞く晶良に、黒川さんが答える。
「それがねぇ。さっき、お部屋に電話してみたんだけど、時差ボケがひどくて、もう少し眠らせてほしいって」
「ザ・ワールドの"もののふ"も、やっぱり人間なのねぇ」
女性2人が語らう横で、ぼくは小さなお姫さまに振りまわされていた。まったく、子供の体力にはかなわない。そこに黒川さんが、
「こらっ、みぃれぇいぃぃ。いい加減になさい(-_-メ)」
顔文字入りでぴしゃりと叱られた深鈴は、ぼくの背後に隠れて上目遣いに母親を見つめて、小さな声でつぶやく。
「ごめんなさ~い」
途端に黒川さんは慈愛に満ちた笑みを浮かべて深鈴を抱き、
「いい子ねぇ、深鈴は」
と言って娘の頬にキスをした。
「晶良さん、三十郎さんは?」
と、ぼくが聞くと、
「睡眠不足で体調不良、だって。だから、ねっ、ホテルの中、見てまわらない?」
「そうだね。こういうトコくるの初めてだから、面白そう」
「だよね。いこいこ」
ぼくたちの会話を聞いていた深鈴が
「あぁ~、ボクも行きたいぃぃ」
「私も久々にウインドーショッピングしたいなぁ。でも、お邪魔しちゃ悪いかな(;^_^A 」
気を使ってくれる黒川さんに、
「そんなことないですよ。一緒に行きましょう!」
と元気に答える晶良。もちろん異論はない。女性の買い物に付き合うのがいかに苦痛かなんて、わかる年ではないのだから。
とはいえ、30分もしないうちに、レディスパワーに圧倒されているのがわかるようになってきた。
(う~、父さんが買いもの行っても、喫煙所で待ってる気持ち、なんとなくわかるぅ)
ブランドの店でペチャクチャ、ケーキ屋さんでキャアキャア、ジュエリー店でアーデモナイコーデモナイ…。深鈴まで一緒になって盛り上がってる。
(こ、これはダメだぁ。女って…大変かも…)
3人の女性陣がいっそう目を輝かせたのが、ウエディングのコーナー。晶良はもちろん、既婚者の黒川さん、1歳半の深鈴までもが瞳に星をちりばめてポヤ~っとしている。
「きれい…」
タメ息まじりで漏らす晶良。すっかり夢見る乙女モード、だ。
「いいなぁ~。私ももう一度、着たいなぁ」
と黒川さん。
「ボク、お色直しは、3回やるぅ」
おませな深鈴…。
半ば、呆れながら女性陣を見ていたが、ふっと晶良の花嫁姿が頭によぎり、一気に照れくさくなってしまう。
と、そこに、突然。
と、ぼくが聞くと、
「睡眠不足で体調不良、だって。だから、ねっ、ホテルの中、見てまわらない?」
「そうだね。こういうトコくるの初めてだから、面白そう」
「だよね。いこいこ」
ぼくたちの会話を聞いていた深鈴が
「あぁ~、ボクも行きたいぃぃ」
「私も久々にウインドーショッピングしたいなぁ。でも、お邪魔しちゃ悪いかな(;^_^A 」
気を使ってくれる黒川さんに、
「そんなことないですよ。一緒に行きましょう!」
と元気に答える晶良。もちろん異論はない。女性の買い物に付き合うのがいかに苦痛かなんて、わかる年ではないのだから。
とはいえ、30分もしないうちに、レディスパワーに圧倒されているのがわかるようになってきた。
(う~、父さんが買いもの行っても、喫煙所で待ってる気持ち、なんとなくわかるぅ)
ブランドの店でペチャクチャ、ケーキ屋さんでキャアキャア、ジュエリー店でアーデモナイコーデモナイ…。深鈴まで一緒になって盛り上がってる。
(こ、これはダメだぁ。女って…大変かも…)
3人の女性陣がいっそう目を輝かせたのが、ウエディングのコーナー。晶良はもちろん、既婚者の黒川さん、1歳半の深鈴までもが瞳に星をちりばめてポヤ~っとしている。
「きれい…」
タメ息まじりで漏らす晶良。すっかり夢見る乙女モード、だ。
「いいなぁ~。私ももう一度、着たいなぁ」
と黒川さん。
「ボク、お色直しは、3回やるぅ」
おませな深鈴…。
半ば、呆れながら女性陣を見ていたが、ふっと晶良の花嫁姿が頭によぎり、一気に照れくさくなってしまう。
と、そこに、突然。
「ねぇ、あなたたち! 時間あるかしら。もしよければ、アルバイトしてみない?」
と、女の人から声をかけられた。ウエディング・コーナーの従業員のようだ。そのお姉さんは笑顔を絶やさないのだが、どこか切羽詰まっているように見えた。
「アルバイト? って、何をするのかな」
年長の黒川さんが戸惑うぼくたちの前に出て聞いてくれる。
「実は…、頼んでいたモデルさんが渋滞には巻き込まれちゃって、こられそうにないんですよ」
「あら、それは大変」
「それで、そちらのお若い2人に、結婚式のモデルをやっていただけないかと…」
「えぇ~!?」
ぼくも晶良も突然の申し出にびっくりし、目を見開いて大きな声を出してしまう。
「あなたたち、とってもいい雰囲気なのよ。そう、アウラを身にまとってるのよ。一目見てピンときたわ。きょう頼んでたモデルさんたちには悪いけど、あなたたちのほうが絶対いい写真になると思うんだけどなぁ」
お姉さんは獲物を見るハンターの目で、ぼくたちのことを上から下まで眺めまわして、そう言った。
照れてぼくの腕にしがみついていた晶良が、おずおずと前に出て質問する。
「あのぉ。ウエディング・ドレス…、着られるんでしょうか」
「もっちろん! あなたのためにこさえたんじゃないかってくらい、よ~く似合うと思うわよぉ」
「えっ…、そんなぁ…」
お姉さんの歯の浮くようなセリフを聞いて、晶良はますます赤くなっている。
「晶良ちゃん、やってみれば。面白そうだし、これは人助けよ」
にっこり微笑んで勧める黒川さん。晶良もその気になっているようで、
「ねぇ、アンタ。いや?」
「いやじゃないけど。ちょっと照れくさいなぁ」
「そんなこと言わないで。男のコでしょ? アタシ、やりたいっ」
「うん…。いいけど」
「わぁ~。やったぁ。あの、お姉さん、よろしくお願いします」
目をきらきら輝かせている晶良を見て、ぼくもうれしくなってきた。
「ほんとっ! じゃあ、さっそく準備にかかるわ。着替えとお化粧、お願いっ」
お姉さんが合図をすると、待ち構えていたスタッフたちがわらわらと出てきて、ぼくたちを後ろの部屋に連れ込んだ。
と、女の人から声をかけられた。ウエディング・コーナーの従業員のようだ。そのお姉さんは笑顔を絶やさないのだが、どこか切羽詰まっているように見えた。
「アルバイト? って、何をするのかな」
年長の黒川さんが戸惑うぼくたちの前に出て聞いてくれる。
「実は…、頼んでいたモデルさんが渋滞には巻き込まれちゃって、こられそうにないんですよ」
「あら、それは大変」
「それで、そちらのお若い2人に、結婚式のモデルをやっていただけないかと…」
「えぇ~!?」
ぼくも晶良も突然の申し出にびっくりし、目を見開いて大きな声を出してしまう。
「あなたたち、とってもいい雰囲気なのよ。そう、アウラを身にまとってるのよ。一目見てピンときたわ。きょう頼んでたモデルさんたちには悪いけど、あなたたちのほうが絶対いい写真になると思うんだけどなぁ」
お姉さんは獲物を見るハンターの目で、ぼくたちのことを上から下まで眺めまわして、そう言った。
照れてぼくの腕にしがみついていた晶良が、おずおずと前に出て質問する。
「あのぉ。ウエディング・ドレス…、着られるんでしょうか」
「もっちろん! あなたのためにこさえたんじゃないかってくらい、よ~く似合うと思うわよぉ」
「えっ…、そんなぁ…」
お姉さんの歯の浮くようなセリフを聞いて、晶良はますます赤くなっている。
「晶良ちゃん、やってみれば。面白そうだし、これは人助けよ」
にっこり微笑んで勧める黒川さん。晶良もその気になっているようで、
「ねぇ、アンタ。いや?」
「いやじゃないけど。ちょっと照れくさいなぁ」
「そんなこと言わないで。男のコでしょ? アタシ、やりたいっ」
「うん…。いいけど」
「わぁ~。やったぁ。あの、お姉さん、よろしくお願いします」
目をきらきら輝かせている晶良を見て、ぼくもうれしくなってきた。
「ほんとっ! じゃあ、さっそく準備にかかるわ。着替えとお化粧、お願いっ」
お姉さんが合図をすると、待ち構えていたスタッフたちがわらわらと出てきて、ぼくたちを後ろの部屋に連れ込んだ。
3人の女性がぼくを取り囲み、あっという間にパンツ1枚にされる。しかし、照れくさく感じるのがはばかられるほど、スタッフの真剣さが伝わってきて、されるがままにしていた。
採寸がすむと、今度は椅子に座らされて化粧される。かなり濃いめなのを見てギョっとしていると、
「キツめにしたほうがね、写真にしたとき、ちょうどよくなるのよ」
と、ぼくを安心させるように教えてくれる。そう言うときでも手は休みなく動いている。
(なんか、プロって感じ。すごいや)
どんどん違っていく自分の顔など、そっちのけで感心していた。化粧が終わるのとほぼ同時に、
「新郎さまの衣装、完了!」
その声が早いか、衣装班のスタッフが2人、ぼくにとりつく。Yシャツ、パンツ、ネクタイ、タキシードをすさまじい勢いで着せられる。シルクの白い手袋を渡され、最後に靴を履いてフィニッシュ!
「これがぼく?」
姿見をながめて、ぼんやりつぶやく。
「まぁ、素敵!」
お世辞半分だろうけど、それでもうれしい。間を置かず、最初に声をかけてきたお姉さんが撮影の手順などをレクチャーしてくれる。
「あまり緊張しなくていいからね。彼女を見て、素直な気持ちを出してくれれば、きっといいものが撮れるわ」
「うん。わかった。うまくできるかどうかわからないけど、頑張ります」
そう言うと、彼女はニコっと微笑み、
「それじゃあ、行こっか」
撮影用の場所に連れて行かれる。見たこともないカメラや照明器具が何台も据えつけられていて、いやがうえにも緊張してくる。
「表情、硬いわよ? リラックス、リラックス。あそこから彼女が出てくるわ。その姿を見て、あなたの感じるままに動いて、ね」
「は、はい」
少し待たされる。部屋の片隅には黒川さんと深鈴、それに外国人の男性が1人、こちらを見ている。
「三十郎さん」
そう呼んだぼくに彼は笑顔でこたえ、大きく右手を振った。
採寸がすむと、今度は椅子に座らされて化粧される。かなり濃いめなのを見てギョっとしていると、
「キツめにしたほうがね、写真にしたとき、ちょうどよくなるのよ」
と、ぼくを安心させるように教えてくれる。そう言うときでも手は休みなく動いている。
(なんか、プロって感じ。すごいや)
どんどん違っていく自分の顔など、そっちのけで感心していた。化粧が終わるのとほぼ同時に、
「新郎さまの衣装、完了!」
その声が早いか、衣装班のスタッフが2人、ぼくにとりつく。Yシャツ、パンツ、ネクタイ、タキシードをすさまじい勢いで着せられる。シルクの白い手袋を渡され、最後に靴を履いてフィニッシュ!
「これがぼく?」
姿見をながめて、ぼんやりつぶやく。
「まぁ、素敵!」
お世辞半分だろうけど、それでもうれしい。間を置かず、最初に声をかけてきたお姉さんが撮影の手順などをレクチャーしてくれる。
「あまり緊張しなくていいからね。彼女を見て、素直な気持ちを出してくれれば、きっといいものが撮れるわ」
「うん。わかった。うまくできるかどうかわからないけど、頑張ります」
そう言うと、彼女はニコっと微笑み、
「それじゃあ、行こっか」
撮影用の場所に連れて行かれる。見たこともないカメラや照明器具が何台も据えつけられていて、いやがうえにも緊張してくる。
「表情、硬いわよ? リラックス、リラックス。あそこから彼女が出てくるわ。その姿を見て、あなたの感じるままに動いて、ね」
「は、はい」
少し待たされる。部屋の片隅には黒川さんと深鈴、それに外国人の男性が1人、こちらを見ている。
「三十郎さん」
そう呼んだぼくに彼は笑顔でこたえ、大きく右手を振った。
そのとき、ウエディング・マーチが鳴り響いた。胸がドキドキいってる。
奥のドアが開き、花嫁が現れた。最初、それが晶良だとわからなかった。
純白のウエディング・ドレスをまとった晶良。はっと息を飲む。
「きれい…」
うっとりとした深鈴の声が、まるで天使のささやきに聞こえる。
「Oh! Very cute! Beautiful!」
三十郎さんがもらす。
晶良はうつむいていた顔をゆっくりと持ち上げる。健康的に日に焼けた晶良の面影は跡形もなく、透きとおるように白い顔。大きく開いたドレスからのぞく肩も腕も、やはり真っ白だ。
「晶良さん、とてもきれいだ」
自然と言葉がこぼれる。晶良はまっすぐにぼくを見つめ、引き寄せられるように近づいてくる。
「晶良さん」
もう一度、名前が口をつく。ウエディング・マーチは耳に入らない。瞬くストロボの眩い光も気にならない。ここには、ぼくたち2人しか存在していない。2人だけの世界が広がっていた。
ぼくと晶良の距離がゼロになる。ただ見つめあう。潤んでいた晶良の瞳から一筋の涙が流れ落ちる。頬で止まった涙に唇を寄せて吸い取る。
ぼくは晶良をそっと抱き寄せる。身を任せる晶良。ぼくの胸に顔を埋め、幸せをかみしめるように目を閉じる。そこに、
「カッ~ト! グッジョブ! オッケ~イ!」
カメラマンの人から声がかかる。途端に拍手が降りそそぐ。瞬間、我に返った晶良は、
「きゃっ、恥ずかしい、よぉ」
と言って、カメラとは逆方向に顔を向ける。その耳に、だれにも聞こえないようにそっとささやく。
「愛してる。かわいい、ぼくの晶良さん」
「あぁ…、アタシも」
その後、いくつかのポーズをとらされて、それを撮影し、お役御免となった。お姉さんが近寄り、
「と~っても、よかった! 腕によりをかけて素敵な作品に仕上げるから、ね。期待しててね」
と言ってウインクする。
「あの、作品、って…?」
奥のドアが開き、花嫁が現れた。最初、それが晶良だとわからなかった。
純白のウエディング・ドレスをまとった晶良。はっと息を飲む。
「きれい…」
うっとりとした深鈴の声が、まるで天使のささやきに聞こえる。
「Oh! Very cute! Beautiful!」
三十郎さんがもらす。
晶良はうつむいていた顔をゆっくりと持ち上げる。健康的に日に焼けた晶良の面影は跡形もなく、透きとおるように白い顔。大きく開いたドレスからのぞく肩も腕も、やはり真っ白だ。
「晶良さん、とてもきれいだ」
自然と言葉がこぼれる。晶良はまっすぐにぼくを見つめ、引き寄せられるように近づいてくる。
「晶良さん」
もう一度、名前が口をつく。ウエディング・マーチは耳に入らない。瞬くストロボの眩い光も気にならない。ここには、ぼくたち2人しか存在していない。2人だけの世界が広がっていた。
ぼくと晶良の距離がゼロになる。ただ見つめあう。潤んでいた晶良の瞳から一筋の涙が流れ落ちる。頬で止まった涙に唇を寄せて吸い取る。
ぼくは晶良をそっと抱き寄せる。身を任せる晶良。ぼくの胸に顔を埋め、幸せをかみしめるように目を閉じる。そこに、
「カッ~ト! グッジョブ! オッケ~イ!」
カメラマンの人から声がかかる。途端に拍手が降りそそぐ。瞬間、我に返った晶良は、
「きゃっ、恥ずかしい、よぉ」
と言って、カメラとは逆方向に顔を向ける。その耳に、だれにも聞こえないようにそっとささやく。
「愛してる。かわいい、ぼくの晶良さん」
「あぁ…、アタシも」
その後、いくつかのポーズをとらされて、それを撮影し、お役御免となった。お姉さんが近寄り、
「と~っても、よかった! 腕によりをかけて素敵な作品に仕上げるから、ね。期待しててね」
と言ってウインクする。
「あの、作品、って…?」
お姉さんはぼくの質問に胸を張って答える。
「日本全国のプリンセスホテルにあるウエディング・コーナーで使うポスターとかパンフレットのことよ。もちろんホームページにも載せるわ」
「えぇっ、ほんとですか? うわぁ~、なんだか恥ずかしいなぁ」
「あら。ごめんなさいね。あんまり急だったから、そのへんのこと、お話できなかったわ」
一瞬、確信犯では? という考えが浮かんだが、もうどうしようもない。晶良は夢心地でぼんやりとしていて、そこまで考えがまわらないようだ。
(ウエディング・ドレスって、魔法の服なんだ…)
そんなことを思っていると、お姉さんが
「アルバイト代、払わなくちゃね。あなたたちの名前や住所、連絡先なんかを教えてくれない?」
そのリクエストに晶良が答える。
「はい。それで、あの…、きょう撮った写真、いただけないでしょうか」
「いいわよ。何点か見つくろって、CDに焼いて一緒に送るわ。それと、できあがった作品も、ね」
「ありがとうございます」
2人そろって頭を下げる。
「お礼を言いたいのは、こっちのほうよ。きょうは、どうもありがとう。あっ、そうだ」
そう言って、お姉さんは自分のデスクに戻り、一番上の引き出しから白い封筒を取り出してきて、それをぼくに手渡した。
「なんですか、これ?」
「プリンセスホテルの無料宿泊券。もちろんペア・チケットよ。系列のホテルなら、日本全国、どこのホテルでも使えるのよ」
「いいんですか、いただいちゃって」
「もちろんよ。きょう私にできる、ささやかなお礼、よ」
お姉さんはぼくにだけ見えるように小さくウインクした。
そこに黒川さんが割り込んできて、手にした袋を差し出しつつ、
「あのぉ、2人の着替えなんですけどぉ、この浴衣を着せてあげてもらえませんか。それと、お願いついでに、あそこにいる外人さんの着付も頼めないでしょうか」
とお願いする。お姉さんはにっこり微笑んで、
「おやすい御用よ。それじゃあ、衣装係さん、お願いね」
後ろの部屋に、三十郎さんと一緒に連れて行かれる。
「日本全国のプリンセスホテルにあるウエディング・コーナーで使うポスターとかパンフレットのことよ。もちろんホームページにも載せるわ」
「えぇっ、ほんとですか? うわぁ~、なんだか恥ずかしいなぁ」
「あら。ごめんなさいね。あんまり急だったから、そのへんのこと、お話できなかったわ」
一瞬、確信犯では? という考えが浮かんだが、もうどうしようもない。晶良は夢心地でぼんやりとしていて、そこまで考えがまわらないようだ。
(ウエディング・ドレスって、魔法の服なんだ…)
そんなことを思っていると、お姉さんが
「アルバイト代、払わなくちゃね。あなたたちの名前や住所、連絡先なんかを教えてくれない?」
そのリクエストに晶良が答える。
「はい。それで、あの…、きょう撮った写真、いただけないでしょうか」
「いいわよ。何点か見つくろって、CDに焼いて一緒に送るわ。それと、できあがった作品も、ね」
「ありがとうございます」
2人そろって頭を下げる。
「お礼を言いたいのは、こっちのほうよ。きょうは、どうもありがとう。あっ、そうだ」
そう言って、お姉さんは自分のデスクに戻り、一番上の引き出しから白い封筒を取り出してきて、それをぼくに手渡した。
「なんですか、これ?」
「プリンセスホテルの無料宿泊券。もちろんペア・チケットよ。系列のホテルなら、日本全国、どこのホテルでも使えるのよ」
「いいんですか、いただいちゃって」
「もちろんよ。きょう私にできる、ささやかなお礼、よ」
お姉さんはぼくにだけ見えるように小さくウインクした。
そこに黒川さんが割り込んできて、手にした袋を差し出しつつ、
「あのぉ、2人の着替えなんですけどぉ、この浴衣を着せてあげてもらえませんか。それと、お願いついでに、あそこにいる外人さんの着付も頼めないでしょうか」
とお願いする。お姉さんはにっこり微笑んで、
「おやすい御用よ。それじゃあ、衣装係さん、お願いね」
後ろの部屋に、三十郎さんと一緒に連れて行かれる。
「はうどぅゆどぅ…、えっと、ないすとぅみぃつぅ…、でいいんだっけ?」
「初めまして。三十郎です。お会いできて、大変うれしいです」
ザ・ワールド同様、流暢な日本語で話される。これでは下手くそな英語を無理してしゃべることはない。
「初めまして! ぼくも三十郎さんに会えて感激です」
あいさつが終わらないうちに、ぼくたちは浴衣姿になっていた。
「Wao! Japanese kimono! Excellent!」
「あは。三十郎さん、これは『ゆかた』っていうんですよ」
「Yukataですかぁ。日本の文化は奥が深いですねぇ」
着替えが終わって後ろの部屋から出る。ぼくは明るいブルー、三十郎さんは濃紺の浴衣だ。黒川さんと深鈴が声をかけてくる。
「2人とも、よく似合ってるわ」
「カイトぉ、すてきぃ。三十郎さんもしぶ~い」
ぼくたちは互いを見てから黒川母娘に向き直り、
「ありがとう」
「こんなときはもっと感謝の言葉を知っていたらと思いますね。ありがとございます」
と、お礼を言う。そこに晶良が姿を現した。三十郎さんが『ピュ~っ』と口笛を吹く。
「かわいい…」
思わずつぶやかずにはいられない。健康的な小麦色の肌によく映える鮮やかな黄色の浴衣を着た晶良。ぼくのつぶやきが耳に届いたのか、頬を染めてうつむく仕草もいとおしい。
「晶良ちゃん、とってもきれいよぉ。きょうのワンピースもそうだけど、晶良ちゃんには明るい色が似合うわ。黄色を選んでよかったぁ」
黒川さんの言葉に晶良は照れ笑いを浮かべ、ぼくに小声で聞いてくる。
「ねぇ、どうかな? 似合う?」
「すっっっごぉ~く、かわいい!」
素直に思ったことを口にすると、晶良は
「よかった。うれしい!」
と笑顔を弾けさせ、それから
「黒川さん、ほんとにありがとうございます」
と言って、ぺこりと頭を下げた。
「初めまして。三十郎です。お会いできて、大変うれしいです」
ザ・ワールド同様、流暢な日本語で話される。これでは下手くそな英語を無理してしゃべることはない。
「初めまして! ぼくも三十郎さんに会えて感激です」
あいさつが終わらないうちに、ぼくたちは浴衣姿になっていた。
「Wao! Japanese kimono! Excellent!」
「あは。三十郎さん、これは『ゆかた』っていうんですよ」
「Yukataですかぁ。日本の文化は奥が深いですねぇ」
着替えが終わって後ろの部屋から出る。ぼくは明るいブルー、三十郎さんは濃紺の浴衣だ。黒川さんと深鈴が声をかけてくる。
「2人とも、よく似合ってるわ」
「カイトぉ、すてきぃ。三十郎さんもしぶ~い」
ぼくたちは互いを見てから黒川母娘に向き直り、
「ありがとう」
「こんなときはもっと感謝の言葉を知っていたらと思いますね。ありがとございます」
と、お礼を言う。そこに晶良が姿を現した。三十郎さんが『ピュ~っ』と口笛を吹く。
「かわいい…」
思わずつぶやかずにはいられない。健康的な小麦色の肌によく映える鮮やかな黄色の浴衣を着た晶良。ぼくのつぶやきが耳に届いたのか、頬を染めてうつむく仕草もいとおしい。
「晶良ちゃん、とってもきれいよぉ。きょうのワンピースもそうだけど、晶良ちゃんには明るい色が似合うわ。黄色を選んでよかったぁ」
黒川さんの言葉に晶良は照れ笑いを浮かべ、ぼくに小声で聞いてくる。
「ねぇ、どうかな? 似合う?」
「すっっっごぉ~く、かわいい!」
素直に思ったことを口にすると、晶良は
「よかった。うれしい!」
と笑顔を弾けさせ、それから
「黒川さん、ほんとにありがとうございます」
と言って、ぺこりと頭を下げた。
そんなぼくたちを見ていたウエディング・コーナーのお姉さんが、うれしい申し出をしてくれる。
「よかったら、皆さんの記念写真、撮りましょうか」
「いいんですか!? やったぁ! スタジオでプロに撮影してもらえるなんて、めったにあるものじゃないし、お願いします」
黒川さんが目を輝かして答える。ぼくたちはまず全員で撮ってもらい、黒川さんと三十郎さんが持ってきたデジカメをカメラマンに渡して撮影してもらった。
それから晶良とツーショットを撮影してもらった。さらに深鈴がぼくに抱きついてきて、晶良の視線を気にしながら写真に納まった。
三十郎さんがお姉さんに丁寧にお辞儀をして、
「Thank you very much! とてもいい思い出ができました。ありがとう」
と、お礼を述べた。
時計を見ると4時を回っている。
「さあ、そろそろ行きましょう」
黒川さんは深鈴の手を引いて歩きだす。黒川さんはホテルの入り口で客待ちの列をつくっていたタクシーに乗り込み、……にある船宿浜元に行ってください、と告げた。
前のシートに黒川さんと深鈴が、後ろにはぼくと晶良、三十郎さんが乗った。タクシーの中、初対面だというのに三十郎さんとの会話が弾む。ぼくたちのリアルの話、サウスダコタのこと、日本でのスケジュールなど、話題はつきない。
しばらく話をした後、晶良が、
「あの、黒川さん。どこに行くんですか?」
と聞いた。
「うふふ。きょうはねぇ、隅田川で花火大会があるのよ。それを特等席で見るの」
「すっご~い! でも、どこなんですか、特等席って?」
「屋形船の席を予約したのよ。人気があるから大変だったのよぉ」
「へぇ~。ぼく、船に乗るなんて初めて」
驚きで声が裏返ってしまう。三十郎さんもびっくりしたようだったが、すぐに冷静になり、
「かたじけない」
と頭を下げた。そんな三十郎さんのサムライ言葉に、運転手が怪訝そうな顔をしてルームミラーをのぞき込んでいる。その様子がなんともおかしく、笑いをこらえるのが大変だった。
「よかったら、皆さんの記念写真、撮りましょうか」
「いいんですか!? やったぁ! スタジオでプロに撮影してもらえるなんて、めったにあるものじゃないし、お願いします」
黒川さんが目を輝かして答える。ぼくたちはまず全員で撮ってもらい、黒川さんと三十郎さんが持ってきたデジカメをカメラマンに渡して撮影してもらった。
それから晶良とツーショットを撮影してもらった。さらに深鈴がぼくに抱きついてきて、晶良の視線を気にしながら写真に納まった。
三十郎さんがお姉さんに丁寧にお辞儀をして、
「Thank you very much! とてもいい思い出ができました。ありがとう」
と、お礼を述べた。
時計を見ると4時を回っている。
「さあ、そろそろ行きましょう」
黒川さんは深鈴の手を引いて歩きだす。黒川さんはホテルの入り口で客待ちの列をつくっていたタクシーに乗り込み、……にある船宿浜元に行ってください、と告げた。
前のシートに黒川さんと深鈴が、後ろにはぼくと晶良、三十郎さんが乗った。タクシーの中、初対面だというのに三十郎さんとの会話が弾む。ぼくたちのリアルの話、サウスダコタのこと、日本でのスケジュールなど、話題はつきない。
しばらく話をした後、晶良が、
「あの、黒川さん。どこに行くんですか?」
と聞いた。
「うふふ。きょうはねぇ、隅田川で花火大会があるのよ。それを特等席で見るの」
「すっご~い! でも、どこなんですか、特等席って?」
「屋形船の席を予約したのよ。人気があるから大変だったのよぉ」
「へぇ~。ぼく、船に乗るなんて初めて」
驚きで声が裏返ってしまう。三十郎さんもびっくりしたようだったが、すぐに冷静になり、
「かたじけない」
と頭を下げた。そんな三十郎さんのサムライ言葉に、運転手が怪訝そうな顔をしてルームミラーをのぞき込んでいる。その様子がなんともおかしく、笑いをこらえるのが大変だった。
船が出るまでの時間、ぼくは晶良を誘って船着場を散策することにした。黒川さんと三十郎さんは、待合室でビールを酌み交わして談笑している。
「屋形船って、意外と大きいんだ」
晶良が好奇心いっぱいの目で、あちこち見まわしている。
「そうだね。でも、黒川さんって、いろんなこと知ってるんだなぁ」
堤防に腰を下ろしてつぶやく。晶良もぼくの隣にちょこんと座り、
「うん。アタシも黒川さんみたいな素敵な大人の女性になりたいなぁ」
「晶良さんは素敵だよ。きれいだし、かわいいし」
「そーゆー意味じゃなくて、にじみ出る知性と教養。そーゆーのを身につけたいの」
「ふ~ん。そーいえば受験勉強、どう?」
「うっ…。きょうだけは忘れさせてぇ」
「あ~あ。素敵な大人の女性になる前に、ちゃんと女子大生になってよ、晶良さん」
「こいつぅ。生意気言わないのっ。2年後にはアンタだって同じ目に遭うんだからね」
「そのときは家庭教師、お願いね」
「いいわよ。アンタが真面目な生徒をやってくれれば、ね」
「それ、自信ない。晶良さんがそばにいたら、勉強なんてどーでもよくなっちゃうよ」
「ばか」
晶良の向こう側に、無雑作に置かれたコンテナが目に入る。
「晶良さん。あそこなら人目につかなそうなんだけど…」
耳元でささやくように誘う。無言で立ち上がる晶良。ぼくは素早く手をつなぎ、コンテナのほうに歩きだした。
「時間、いいの?」
晶良が聞いてくる。
「あと15分あるよ」
そう答えたら、目的の場所に着いた。きゅっと抱き寄せて、夢中でキスをした。
5分前に待合室に入る。2杯めのジョッキを空にした黒川さんがいたずらっぽく微笑んで、
「さっき、姿が見えなくなったけど、なにしてたのぉ」
晶良はぼくの背中に隠れてしまう。
「えっと、あの、いやぁ」
しどろもどろになってしまう。
「屋形船って、意外と大きいんだ」
晶良が好奇心いっぱいの目で、あちこち見まわしている。
「そうだね。でも、黒川さんって、いろんなこと知ってるんだなぁ」
堤防に腰を下ろしてつぶやく。晶良もぼくの隣にちょこんと座り、
「うん。アタシも黒川さんみたいな素敵な大人の女性になりたいなぁ」
「晶良さんは素敵だよ。きれいだし、かわいいし」
「そーゆー意味じゃなくて、にじみ出る知性と教養。そーゆーのを身につけたいの」
「ふ~ん。そーいえば受験勉強、どう?」
「うっ…。きょうだけは忘れさせてぇ」
「あ~あ。素敵な大人の女性になる前に、ちゃんと女子大生になってよ、晶良さん」
「こいつぅ。生意気言わないのっ。2年後にはアンタだって同じ目に遭うんだからね」
「そのときは家庭教師、お願いね」
「いいわよ。アンタが真面目な生徒をやってくれれば、ね」
「それ、自信ない。晶良さんがそばにいたら、勉強なんてどーでもよくなっちゃうよ」
「ばか」
晶良の向こう側に、無雑作に置かれたコンテナが目に入る。
「晶良さん。あそこなら人目につかなそうなんだけど…」
耳元でささやくように誘う。無言で立ち上がる晶良。ぼくは素早く手をつなぎ、コンテナのほうに歩きだした。
「時間、いいの?」
晶良が聞いてくる。
「あと15分あるよ」
そう答えたら、目的の場所に着いた。きゅっと抱き寄せて、夢中でキスをした。
5分前に待合室に入る。2杯めのジョッキを空にした黒川さんがいたずらっぽく微笑んで、
「さっき、姿が見えなくなったけど、なにしてたのぉ」
晶良はぼくの背中に隠れてしまう。
「えっと、あの、いやぁ」
しどろもどろになってしまう。
そんなぼくを見て、三十郎さんは笑みを浮かべて
「ザ・ワールドのアルティメット・パーティーがリアルではベスト・カップルなんて、映画か小説のようですね」
と話し、それから
「おっと。そろそろ時間のようですね。ヤカタブネにレッツ・ゴー!」
と言って勢いよく立ち上がり、さっさと乗船してしまった。
ぼくは三十郎さんに続いて乗船し、振り返って黒川さんから深鈴を受け取る。その場に座っているように言って、言うとおりにした深鈴の頭を撫でる。それから黒川さんの手をとり乗船を助けた。
晶良の手をとったとき、船が少し揺れた。慌てて強く手を引くと晶良はぼくの胸に飛び込む格好になった。
「ひゅ~ひゅ~。カイトと晶良、あっつあつぅ~」
見上げていた深鈴に冷やかされてしまった。
ぼくたちの席は一番前の左側だった。三十郎さんは舳先に出て腕組みをしている。その姿は凛としていて、どこから見てもサムライそのものだ。ぼくたちも舳先に出る。
「風が気持ちいい」
と晶良が沈んでいく夕日に目を細めながらつぶやく。その横顔は朱に染まり、浴衣姿と相まってドキっとするほど艶っぽかった。
出船の声がかかり、ぼくたちは席に座った。エンジンが低く唸りをあげ、屋形船はすべるように川面を走る。スピーカーからはタイムスケジュールやコースの案内が流れてくる。
ふと開け放たれた障子の外を見ると、なぜか左舷一番前方の提灯がなく、裸電球がぶら下がっている。
「なんか変ね」
ぼくの視線を追って、それに気づいた黒川さんが言う。そこに料理が運ばれてきた。黒川さんは天ぷらの大皿を持ってきたお兄さんに声をかける。
「あの、どうしてあそこだけ提灯がないんですか?」
お兄さんはちょっと得意そうな顔をして
「へへっ。あんまり大きな声じゃ言えないんだけど、あれはウチの船が"世界"を救った記念なんだそうだ」
「えぇ~!? なんですか、それ?」
晶良が驚いて聞き返す。お兄さんは、
「いやぁ、実はオイラもくわしくは知らないんだけど、ウチの大将がおととしのクリスマスに、なんか武勇伝をやらかしたみたいなんでさ。ま、本人がすごいって言ってっから、オイラたちはうんうんってうなずくしかないんですけどね」
お兄さんは早口でまくし立てると、次の料理を運ぶために戻っていってしまった。
「ザ・ワールドのアルティメット・パーティーがリアルではベスト・カップルなんて、映画か小説のようですね」
と話し、それから
「おっと。そろそろ時間のようですね。ヤカタブネにレッツ・ゴー!」
と言って勢いよく立ち上がり、さっさと乗船してしまった。
ぼくは三十郎さんに続いて乗船し、振り返って黒川さんから深鈴を受け取る。その場に座っているように言って、言うとおりにした深鈴の頭を撫でる。それから黒川さんの手をとり乗船を助けた。
晶良の手をとったとき、船が少し揺れた。慌てて強く手を引くと晶良はぼくの胸に飛び込む格好になった。
「ひゅ~ひゅ~。カイトと晶良、あっつあつぅ~」
見上げていた深鈴に冷やかされてしまった。
ぼくたちの席は一番前の左側だった。三十郎さんは舳先に出て腕組みをしている。その姿は凛としていて、どこから見てもサムライそのものだ。ぼくたちも舳先に出る。
「風が気持ちいい」
と晶良が沈んでいく夕日に目を細めながらつぶやく。その横顔は朱に染まり、浴衣姿と相まってドキっとするほど艶っぽかった。
出船の声がかかり、ぼくたちは席に座った。エンジンが低く唸りをあげ、屋形船はすべるように川面を走る。スピーカーからはタイムスケジュールやコースの案内が流れてくる。
ふと開け放たれた障子の外を見ると、なぜか左舷一番前方の提灯がなく、裸電球がぶら下がっている。
「なんか変ね」
ぼくの視線を追って、それに気づいた黒川さんが言う。そこに料理が運ばれてきた。黒川さんは天ぷらの大皿を持ってきたお兄さんに声をかける。
「あの、どうしてあそこだけ提灯がないんですか?」
お兄さんはちょっと得意そうな顔をして
「へへっ。あんまり大きな声じゃ言えないんだけど、あれはウチの船が"世界"を救った記念なんだそうだ」
「えぇ~!? なんですか、それ?」
晶良が驚いて聞き返す。お兄さんは、
「いやぁ、実はオイラもくわしくは知らないんだけど、ウチの大将がおととしのクリスマスに、なんか武勇伝をやらかしたみたいなんでさ。ま、本人がすごいって言ってっから、オイラたちはうんうんってうなずくしかないんですけどね」
お兄さんは早口でまくし立てると、次の料理を運ぶために戻っていってしまった。
「おととしのクリスマスって…」
晶良がつぶやく。
「うん。"薄明"…だよね」
ぼくが答える。
「世界って、ザ・ワールドのこと?」
黒川さんも考え込んでいる。すると、三十郎さんが
「まあ、いいじゃねぇか。せっかくの料理が冷めちまうぜ。さあ、食べよう」
と言って器用に箸を使って海老の天ぷらをつまんだ。
「やっぱりその口調が似合うわね)^o^( 」
と言う黒川さんの言葉に、三十郎さんは照れ笑いしながら、
「ちょいとビールが効いてきたみてぇだぜ。みんな、許しておくんなせえよ」
みんなで笑ったら、それっきり提灯のことは忘れてしまった。
天ぷら、お寿司、焼き鳥、茶碗蒸し、次々に運ばれてくるご馳走に舌鼓を打つ。
「やっぱり日本で食べる日本料理は格段においしいぜ」
冷酒をくいくいあおりながら三十郎さんが満足そうに話す。黒川さんも冷酒を口に運んでいる。ぼくと晶良は、乾杯のビールだけ付き合って、あとはひたすら食べた。深鈴はデザートのプリンに大喜びだ。
「おいしかったぁ」
「ふぅ~、もう食べらんない」
後ろに手をついて体を伸ばしていると、『ドーン』っと大きな音。
「あっ、始まったぁ」
深鈴がとことことぼくのところにきて、ちょこんと膝の上に座る。それをうらやましそうに見ながら、晶良はぼくにぴったり寄り添って花火を見上げる。三十郎さんが
「おっ、深鈴ちゃん、特等席だねぇ」
と声をかけると、深鈴はうれしそうに
「うん!」
と言って振り返り、愛らしい笑顔を見せた。
晶良がつぶやく。
「うん。"薄明"…だよね」
ぼくが答える。
「世界って、ザ・ワールドのこと?」
黒川さんも考え込んでいる。すると、三十郎さんが
「まあ、いいじゃねぇか。せっかくの料理が冷めちまうぜ。さあ、食べよう」
と言って器用に箸を使って海老の天ぷらをつまんだ。
「やっぱりその口調が似合うわね)^o^( 」
と言う黒川さんの言葉に、三十郎さんは照れ笑いしながら、
「ちょいとビールが効いてきたみてぇだぜ。みんな、許しておくんなせえよ」
みんなで笑ったら、それっきり提灯のことは忘れてしまった。
天ぷら、お寿司、焼き鳥、茶碗蒸し、次々に運ばれてくるご馳走に舌鼓を打つ。
「やっぱり日本で食べる日本料理は格段においしいぜ」
冷酒をくいくいあおりながら三十郎さんが満足そうに話す。黒川さんも冷酒を口に運んでいる。ぼくと晶良は、乾杯のビールだけ付き合って、あとはひたすら食べた。深鈴はデザートのプリンに大喜びだ。
「おいしかったぁ」
「ふぅ~、もう食べらんない」
後ろに手をついて体を伸ばしていると、『ドーン』っと大きな音。
「あっ、始まったぁ」
深鈴がとことことぼくのところにきて、ちょこんと膝の上に座る。それをうらやましそうに見ながら、晶良はぼくにぴったり寄り添って花火を見上げる。三十郎さんが
「おっ、深鈴ちゃん、特等席だねぇ」
と声をかけると、深鈴はうれしそうに
「うん!」
と言って振り返り、愛らしい笑顔を見せた。
「たぁ~まや~、か~ぎやぁ~」
あちこちで聞こえる掛け声に合わせて、三十郎さんが野太い声を張り上げる。周りのお客たちも、三十郎さんのフレンドリーな雰囲気に違和感は感じていないようで、みな温かい眼差しを投げかけている。
ぼくは夜空に向けていた視線を横に移す。すぐ近くに晶良の顔。その瞳の中で弾ける花火は、これまで見たどんな花火より、ずっときれいに見えた。
花火に照らしだされる晶良の顔にしばし見惚れてしまう。ぼくの視線に気付いた晶良が、
「どしたの?」
と小首を傾げて聞いてくる。浴衣からのぞくうなじにドキッとする。
「きれいだな、って」
「そーだね。こんなに間近で花火、見たことないもんね」
「いや。晶良さんがきれいだなって思って、見てた」
「ばか言ってないで、ちゃんと花火を見なさい」
晶良はかすかに頬を赤くし、天空の花火に顔を向けてしまった。
クルージングは3時間ほどで終了した。屋形船を降りると、夜風が気持ちいい。三十郎さんは、翌日早起きして都内をいろいろ見てまわると言い、
「みなさん、ほんとにありがとうございました。おかげでとっても素敵な思い出ができました」
と深々とお辞儀をした。最後に全員と握手をして、タクシーを拾ってホテルに戻っていった。
ぼくたちは少し歩くことにする。ぼくの背中で深鈴がかわいく寝息をたてている。
「ごめんなさいね、カイト」
申し訳なさそうに言う黒川さんに、
「いいんですよ」
と答えて笑顔を向けるが、手をつなげない晶良はちょっぴり不満そうだ。それに気付いた黒川さんが、
「そうだっ、晶良ちゃん。ウチに泊まる…っていうか、泊まったことにする?」
と聞いてくる。最初、晶良はその意味がわからず戸惑った顔で、
「えっ…っと。あの、それって、どーいう?」
と聞き返す。
「さっきもらった宿泊チケット、今夜使ったら? アリバイ工作は引き受けるわよ。どう?」
やっと黒川さんの提案を理解した晶良は、
「やだっ、そんな…。気を使わないでくださいよ」
と、申し出を断ってしまう。
あちこちで聞こえる掛け声に合わせて、三十郎さんが野太い声を張り上げる。周りのお客たちも、三十郎さんのフレンドリーな雰囲気に違和感は感じていないようで、みな温かい眼差しを投げかけている。
ぼくは夜空に向けていた視線を横に移す。すぐ近くに晶良の顔。その瞳の中で弾ける花火は、これまで見たどんな花火より、ずっときれいに見えた。
花火に照らしだされる晶良の顔にしばし見惚れてしまう。ぼくの視線に気付いた晶良が、
「どしたの?」
と小首を傾げて聞いてくる。浴衣からのぞくうなじにドキッとする。
「きれいだな、って」
「そーだね。こんなに間近で花火、見たことないもんね」
「いや。晶良さんがきれいだなって思って、見てた」
「ばか言ってないで、ちゃんと花火を見なさい」
晶良はかすかに頬を赤くし、天空の花火に顔を向けてしまった。
クルージングは3時間ほどで終了した。屋形船を降りると、夜風が気持ちいい。三十郎さんは、翌日早起きして都内をいろいろ見てまわると言い、
「みなさん、ほんとにありがとうございました。おかげでとっても素敵な思い出ができました」
と深々とお辞儀をした。最後に全員と握手をして、タクシーを拾ってホテルに戻っていった。
ぼくたちは少し歩くことにする。ぼくの背中で深鈴がかわいく寝息をたてている。
「ごめんなさいね、カイト」
申し訳なさそうに言う黒川さんに、
「いいんですよ」
と答えて笑顔を向けるが、手をつなげない晶良はちょっぴり不満そうだ。それに気付いた黒川さんが、
「そうだっ、晶良ちゃん。ウチに泊まる…っていうか、泊まったことにする?」
と聞いてくる。最初、晶良はその意味がわからず戸惑った顔で、
「えっ…っと。あの、それって、どーいう?」
と聞き返す。
「さっきもらった宿泊チケット、今夜使ったら? アリバイ工作は引き受けるわよ。どう?」
やっと黒川さんの提案を理解した晶良は、
「やだっ、そんな…。気を使わないでくださいよ」
と、申し出を断ってしまう。
黒川さんは、
「あら、いいじゃないの? 久しぶりのデートなんでしょ。ねっ、晶良ちゃん、ケータイでご両親に連絡しなさいよ。私がうまく話してあげるから」
「そんなぁ…」
と言って、ぼくに視線を向ける晶良。ぼくは泊まる気満々の目をして晶良を見つめ返す。
「あの、黒川さん、ほんとにいいんですか」
そう言うと晶良はケータイを取りだして耳にあてる。ぼくは思わぬ展開に心の中でガッツポーズを繰り返す。
「あっ、アタシ。あの、ちょっと待って」
晶良は相手が電話に出るとすぐ、押しつけるように黒川さんにケータイを渡した。
「もしもし、黒川と申します。晶良さんにはいつもお世話になっておりまして。…いえいえ。…それで実は、娘の深鈴がどうしても晶良さんと寝るってきかないものですから。…えぇえぇ、そんな、迷惑なんて、とんでもございません」
横で聞いていると、感心するしかないほど話をうまくまとめていく。黒川さんはひととおり話し終わってケータイを晶良に返し、
「カイトは自分でなんとかしなさいよ? 男のコだもんね」
ニコっと笑みを浮かべながら、ぼくの背中から深鈴を引き剥がす。あっと思って、ぼくは慌てて自分のケータイを取りだし、
「あっ、ヤスヒコ? あのさ、きょう、これからなんだけどさ、泊めてくれない? …あ~っと、そうじゃなくってぇ、えっと。…だ~か~らぁ、つまり、その、ヤスヒコんちに泊まることにしてくれないかなぁ」
こんなことは初めてだから、うまくしゃべれない。そんなぼくを少し離れて見ている晶良と黒川さんは笑いを噛み殺している。横目でそれを見ていると、ますます焦りが募ってくる。
「だ、だからぁ。…そう! そういうこと。お願い。…うんうん、わかった。埋め合わせぇ? わかったよっ。…あ~、今度ね。…うん、だから頼むね」
ケータイを切って、ふぅ~っと息を吐く。次は家に連絡しなくてはならない。
「あ、ぼく。きょうさ、ヤスヒコんち、泊まるから。…うん、…うん、大丈夫。…食べたよ。…だから、だいじょぶだって。…悪いことなんてしないって。…飲まないってば。…うん、心配いらないから。じゃあ」
なんとか取りつくろえたみたいで、ほっとする。晶良がニコニコしながら、
「ふ~ん。アンタ、ずいぶん心配されてるんだねぇ」
「あら、いいじゃないの? 久しぶりのデートなんでしょ。ねっ、晶良ちゃん、ケータイでご両親に連絡しなさいよ。私がうまく話してあげるから」
「そんなぁ…」
と言って、ぼくに視線を向ける晶良。ぼくは泊まる気満々の目をして晶良を見つめ返す。
「あの、黒川さん、ほんとにいいんですか」
そう言うと晶良はケータイを取りだして耳にあてる。ぼくは思わぬ展開に心の中でガッツポーズを繰り返す。
「あっ、アタシ。あの、ちょっと待って」
晶良は相手が電話に出るとすぐ、押しつけるように黒川さんにケータイを渡した。
「もしもし、黒川と申します。晶良さんにはいつもお世話になっておりまして。…いえいえ。…それで実は、娘の深鈴がどうしても晶良さんと寝るってきかないものですから。…えぇえぇ、そんな、迷惑なんて、とんでもございません」
横で聞いていると、感心するしかないほど話をうまくまとめていく。黒川さんはひととおり話し終わってケータイを晶良に返し、
「カイトは自分でなんとかしなさいよ? 男のコだもんね」
ニコっと笑みを浮かべながら、ぼくの背中から深鈴を引き剥がす。あっと思って、ぼくは慌てて自分のケータイを取りだし、
「あっ、ヤスヒコ? あのさ、きょう、これからなんだけどさ、泊めてくれない? …あ~っと、そうじゃなくってぇ、えっと。…だ~か~らぁ、つまり、その、ヤスヒコんちに泊まることにしてくれないかなぁ」
こんなことは初めてだから、うまくしゃべれない。そんなぼくを少し離れて見ている晶良と黒川さんは笑いを噛み殺している。横目でそれを見ていると、ますます焦りが募ってくる。
「だ、だからぁ。…そう! そういうこと。お願い。…うんうん、わかった。埋め合わせぇ? わかったよっ。…あ~、今度ね。…うん、だから頼むね」
ケータイを切って、ふぅ~っと息を吐く。次は家に連絡しなくてはならない。
「あ、ぼく。きょうさ、ヤスヒコんち、泊まるから。…うん、…うん、大丈夫。…食べたよ。…だから、だいじょぶだって。…悪いことなんてしないって。…飲まないってば。…うん、心配いらないから。じゃあ」
なんとか取りつくろえたみたいで、ほっとする。晶良がニコニコしながら、
「ふ~ん。アンタ、ずいぶん心配されてるんだねぇ」
「からかわないでよぉ」
きまりが悪くて口を尖らせて不満そうに言うと、晶良は目を閉じ、黒川さんに聞こえないように小声で、
「おとうさま、おかあさま。お許しください。大事な息子さんをたぶらかして、ごめんなさい…なんてね」
と冗談ぽく言って、それから
「やっと2人きりになれるね。悪いこと、しよ?」
潤んだ瞳でぼくを誘惑する。
(いざとなると女のほうが度胸が据わってるっていうけど、ほんとにそうだなぁ。でも…晶良さんとできる!)
ぼくは"悪いこと"がしたくて、元気いっぱいに答える。
「うん!」
黒川さんがいるというのに、晶良を抱きしめてしまう。
「こらっ、まだ早いってば」
「あらあら。お~い、カイトく~ん。目のやり場に困るぞぉ(*^^*) 」
晶良に叱られ、黒川さんには冷やかされてしまう。
「いっけね」
顔を真っ赤にして頭をかくしかない。
再び歩きだす。ぼくと晶良は黒川さんの数歩後ろで、ひそひそと話し合う。
「ねぇ、どこに泊まる?」
「う~ん。三十郎さんのいる東京プリンセスは、なんか行きにくいし。どうしよ」
「アタシ、わかんないよ」
よっぽどラブホテルのほうが気が楽だ、などという考えが浮かんでくる。黙り込んで下を向いていると、
「あなたたち、どこのプリンセスホテルに行くの?」
立ち止まった黒川さんが聞いてくる。
「それが…、よくわからないんで困ってます」
「それじゃあ、赤プリなんて、どう?」
「赤プリって…」
「赤坂プリンセスホテル。途中までタクシーで一緒に行こうか」
「あ、はい。お願いします」
乗り込んだタクシーの中で、黒川さんがチェックインの仕方、部屋の種類などをレクチャーしてくれる。
途中のJRの駅で黒川さんがタクシーを降りてしまうと、赤坂プリンセスホテルに着くまで、ぼくたちは無言でいた。ただ、握りしめた手にじんわりと汗をかいていた。
きまりが悪くて口を尖らせて不満そうに言うと、晶良は目を閉じ、黒川さんに聞こえないように小声で、
「おとうさま、おかあさま。お許しください。大事な息子さんをたぶらかして、ごめんなさい…なんてね」
と冗談ぽく言って、それから
「やっと2人きりになれるね。悪いこと、しよ?」
潤んだ瞳でぼくを誘惑する。
(いざとなると女のほうが度胸が据わってるっていうけど、ほんとにそうだなぁ。でも…晶良さんとできる!)
ぼくは"悪いこと"がしたくて、元気いっぱいに答える。
「うん!」
黒川さんがいるというのに、晶良を抱きしめてしまう。
「こらっ、まだ早いってば」
「あらあら。お~い、カイトく~ん。目のやり場に困るぞぉ(*^^*) 」
晶良に叱られ、黒川さんには冷やかされてしまう。
「いっけね」
顔を真っ赤にして頭をかくしかない。
再び歩きだす。ぼくと晶良は黒川さんの数歩後ろで、ひそひそと話し合う。
「ねぇ、どこに泊まる?」
「う~ん。三十郎さんのいる東京プリンセスは、なんか行きにくいし。どうしよ」
「アタシ、わかんないよ」
よっぽどラブホテルのほうが気が楽だ、などという考えが浮かんでくる。黙り込んで下を向いていると、
「あなたたち、どこのプリンセスホテルに行くの?」
立ち止まった黒川さんが聞いてくる。
「それが…、よくわからないんで困ってます」
「それじゃあ、赤プリなんて、どう?」
「赤プリって…」
「赤坂プリンセスホテル。途中までタクシーで一緒に行こうか」
「あ、はい。お願いします」
乗り込んだタクシーの中で、黒川さんがチェックインの仕方、部屋の種類などをレクチャーしてくれる。
途中のJRの駅で黒川さんがタクシーを降りてしまうと、赤坂プリンセスホテルに着くまで、ぼくたちは無言でいた。ただ、握りしめた手にじんわりと汗をかいていた。