「モビルスーツ“イナクト”。AEU初の太陽エネルギー対応型か…」
「AEUは、軌道エレベーターの開発で後れを取っている。せめてモビルスーツだけでも、如何にかしたいのだろう」
「おや良いのかい?MSWADのエースがこんな場所に居て」
「勿論良くは無い……」
「……しかし、AEUは豪気だよ。人革の10周年記念式典に新型の発表をぶつけてくるんだから……」
「どう見る?あの機体を」
「どうもこうも、うちのフラッグの猿真似だよ。独創的なのはデザインだけだね」
「そこ!聞こえてっぞ!!今何つった!?ええ?コラァッ!」
「集音性は高いようだな…」
「みたいだね」
「軍に戻らなくて良いのかい?今頃大わらわだよ」
「ガンダムの性能が知りたいのだよ…。あの機体は特殊過ぎる……。戦闘能力はもとより、
あれが現れると、レーダーや通信、電子装置に障害が起こった。全てはあの光が原因だ…。カタギリ、あれは何なんだ?
「現段階では特殊な粒子としか言えないよ。恐らくあの光は…フォトンの崩壊現象によるものだね」
「特殊な粒子……」
「粒子だけじゃない、あの機体にはまだ秘密があると思うなぁ…」
「ま、まさか…!?それは無茶だよ!」
「熟知している」
「いやはや、本当に予測不能な人だよ君は……」
「ライフルを失った。始末書ものだな……」
「その心配は無いよ。今回の戦闘で得られたガンダムのデータは、フラッグ1機を失ったとしてもお釣りが来る。
接触時に付着した塗料から、足取りを掴めるかも知れないしね…」
「驚いたな。君はこうなると予見していたのかい?」
「私もそこまで万能ではないよ。因縁めいたものを、感じてはいるがね……」
「機体の受けた衝撃度から見て、ガンダムの出力はフラッグの6倍はあると思うよ。どんなモーター積んでるんだか…!」
「彼メロメロなんですよ……」
「バックパックと各部関節の強化、機体表面の耐ビームコーティング、武装は、アイリス社が試作した新型のライフルを取り寄せた」
「壮観です、プロフェッサー…!」
「その代わり耐Gシステムを稼働させても、全速旋回時には12Gも掛かるけどねぇ…」
「望むところだと言わせてもらおう……」
「モラリアは、ソレスタルビーイングと事を構えるつもりの様だな」
「AEUが後ろ盾になったんだよ。
太陽光発電システムを完成させて、コロニー開発に乗り出す為には、民間軍事会社の人材と技術が不可欠だからねぇ。
モラリアとしても、縮小した経済を立て直したいという思惑がある。たとえ自国が戦場になったとしても、AEUの援助が必要なのさ。
それに…あわよくば手に入れようと考えてるんじゃないかな?ガンダムを……」
「君ならどう見る?モラリアの動向を」
「そういうの止めましょ。久しぶりに会ったんだから」
「大学院以来だよね…。何年ぶりかな……?」
「言わないで、歳がばれるから」
「ハハッ、もう知ってるけど……」
「女はね…実年齢を言われると、その分だけ若さが減るの」
「そんな実証データがあるなんて…」
「フフッ…。変わってないのね、ビリー…」
「誘ってくれて嬉しかったよ」
「“対ガンダム調査隊”…。何、そのネーミング?」
「新設されたばかりで、まだ正式名称が決まってないんだよ」
「その部隊にあなたが所属しているの?」
「僕だけじゃないよ。何と…技術主任は、エイフマン教授さ」
「教授が!?」
「教授は既に、ガンダムが放出する、特殊粒子の概念に気付いている」
「ふ〜ん、興味あるわね…。それって、どんな粒子なの?」
「それが…どんなに聞き出そうとしても、答えてくれなくてね」
「そう…残念だわ」
「その事は兎も角、君は今、何をしてるんだい?」
「まあ…色々とね」
「あの事は……?」
「……もう、忘れたわ」
「そう……。なら良いんだ、こうしてまた会えて嬉しいよ……」
「うん……」
「そうか、クジョウ君と……。元気だったかね?」
「ええ」
「あの事件の事は?」
「“忘れた”……と言っていました」
「そうか……」
「まさかこれ程とはねぇ…」
「終わった様だな」
「あっ…。どうやら、AEUは賭けに負けた様です」
「それはどうかな?確かに…20機以上のモビルスーツを失ったのは痛いけど、
これでAEUは国民感情に後押しされて、軍備増強路線を邁進する事になると思うよ。
モラリアに貸しを作った事で、PMCとの連携もより密接になるだろうしね……」
「しかし、アザディスタンに出兵とは…」
「軍上層部が議会に働きかけた結果だよ。人革に後れを取る訳にはいかないからね」
「わざわざ来てくれて嬉しいよ」
「あんな物騒なファイル、勝手に送っといてよく言うわ」
「それは失礼をしたね」
「で、このファイル…本物なの?」
「軍のシミュレートプランという事で…納得してくれないかい?」
「現行戦力に於ける、ガンダム鹵獲の可能性…」
「君の意見を聞かせて貰えないかな?戦術予報士としても…」
「ガンダムの情報が少な過ぎるわ。性能面もそうだけど、4機しかいないと断定できないし…」
「量産化は考えられないね…。人員や資材の確保でルートが割れる」
「そうね…」
「君が作戦指揮官だとすれば…どうする?」
「分かってるくせに……」
「……確かに、現行戦力でガンダムは倒せない。しかし、圧倒的物量で包囲戦・消耗戦に持ち込み、中にいるパイロットを疲弊させれば―――」
「機密保持の為に、オートで動く可能性があるわ。最悪自爆だって…」
「流石だね。君なりに分析していたんだ、ソレスタルビーイングを……」
「えっ…!止めてよ、そういう言い方…」
「あっ、ご免……」
「……ファイル、コピーもとってないから安心して。っていうか、こんな情報を私に見せるなんて、あなた軍人失格よ」
「良かったら、基地に寄ってかないか?エイフマン教授も君の事を心配していた」
「ご免なさい。用事があるから」
「待ってる人でもいるのかい?」
「あっ……いるとしたら?」
「んー、穏やかじゃないね……」
「本当に用事があるの。じゃあ、また…」
「いいさ、また会えるのなら……」
「グラハム……」
「カタギリ!」
「教授が……。エイフマン教授が……!」
「おや、どうしたんだい?こんな時間に…」
「カタギリ!何故ここにいる!?君は入院している筈――」
「僕がいないと、このカスタムフラッグの整備は出来ないよ。何てったって、エイフマン教授が直々にチューンした機体だからね…!」
「……無理をするな」
「そうもいかないよ。君に譲れないものがあるように、僕にも譲れないものはある……!」
「ッ……!フッ…。強情だな……」
「君程じゃないさ……」
「僕はね、こう思ってるんだ。オーバーフラッグスの本部を、ガンダムが襲った本当の目的は…エイフマン教授なんじゃないかって……」
「何故だ?」
「教授は…ガンダムのエネルギー機関と、特殊粒子の本質に迫ろうとしていた。
何らかの方法でそれを知ったソレスタルビーイングは、武力介入のふりをして、教授の抹殺を図った……」
「…ッ!軍の中に内通者が…?」
「いないと考える方が不自然だよ……」
「単独出撃なんて無茶だ!」
「そんな道理、私の無理でこじ開ける!」
「カタギリ、新型のガンダムから奪取したビームサーベルの調査結果だが―――」
「いや、それどころじゃないよ」
「何があった?」
「どうやらソレスタルビーイングに、裏切り者が出たらしいんだ」
「裏切り者…ですか?」
「ああ。しかも手土産に、ガンダムと同タイプのエンジンと、それを搭載するモビルスーツを提供してきたそうだよ」
「何だと?」
「何と30機分もね。だからこそあんな発表も出来るのさ」
「成程、そういう事か……」
「提供された機体のパイロットは、オーバーフラッグス隊員から、選ばれる事になるだろうね。勿論…隊長は君だよ」
「断固辞退しよう」
「!?」
「私はフラッグでガンダムを倒す。ハワード・メイスンの墓前にそう誓ったのだよ」
「しかし隊長、フラッグの性能ではガンダムに――」
「男の誓いに、訂正は無い」
「やれやれ…」
「遂に公表したか…」
「まるで自分達が作ったかのような口振りだねぇ……」
「フラッグの状況は?」
「見ての通りだよ、突貫作業でやっている。もう少し待って欲しいな」
「私は我慢弱い」
「分かってるよ…」