登録日:2014/02/25 Tue 23:14:55
更新日:2025/04/28 Mon 20:56:51NEW!
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「現実の21世紀の放つ匂いは俺には耐え難い悪臭だ、一刻も早くおさらばしたいよ」
「出来るよ、ケンの作った20世紀の匂いに大人たちはみんな夢中だもの」
◆概要
過去の懐かしい様々な物が再現された「20世紀博」を擁する組織「イエスタディ・ワンスモア」のリーダー。
その目的は
夢と希望に満ち溢れたかつての時代、黄金の20世紀を取り戻すこと。
20世紀博の建物内に存在する常に夕焼けの町、夕日町の一画にある古いアパートで生活している。
組織名、イエスタディ・ワンスモアの名の由来は恐らくカーペンターズの同名ヒット曲。
ケンとチャコの方は昭和後期の児童向けドラマ「ケンちゃんチャコちゃん」から取られたものだと思われる。
eフロンティアというメーカーから発売されている小学生向け学習用ソフトに「ケンチャコ大冒険」というのがあるが、そっちはたぶん関係ない。
また、2人のモデルも、ジョン・レノンとオノ・ヨーコを意識していると思われるが、
日産のケンメリスカイラインのCMのイメージキャラクターでもあった「ケン」と「メリー」も含まれてる可能性もあるだろう。
◆ケン
CV:津嘉山正種
キノコ頭に眼鏡が特徴的な長身の男性で、基本的にいつも恋人であるチャコと共に行動している。
現実の21世紀を
「汚い金と燃えないゴミに溢れている」と
忌み嫌っており、
自らが率いるイエスタディ・ワンスモアの同志たちと共に野望を叶えるために暗躍する。
どういう経緯かは知らないが、リアルな20世紀を思い起こさせる「懐かしい匂い」なるものを手にしており、
それを使って現実の大人たちを黄金の20世紀に生きる頃の子供の時代へと引き戻していた。
童心に帰る、と言えば聞こえは良いかも知れないが、実際に「懐かしい匂い」の虜になった大人達は皆、仕事も生活も、そして家族すらも放り出して遊び惚け、
そしてそれを子供に咎められると幼稚な屁理屈を並べて反発する…という幼児退行にも等しい有様と化していた。
ぶっちゃけ軽いホラーである。
作中の描写を見る限りイエスタディ・ワンスモアは
春日部本部を含めて、北は
北海道から南は
沖縄まで全国各地に30以上もの拠点が存在しており、
大人たちの失踪が全国区で起こっていたことから、その規模は相当な物であったことが窺える。
愛車はホワイトカラーのトヨタ2000GT、彼曰く「俺の魂」とのことだが、
ボーちゃんの操る猫バスによってフレームを傷つけられたり、しんのすけにオシッコをぶちまけられたりと散々な目に遭っている。
野原一家との会合で自らの目的を明かした後、彼らを試すような宣言をして敢えて送り出すなど、
中盤からは徐々に心境の変化が見えていた。
◆チャコ
CV:小林愛
長身でスレンダーな茶髪の女性でケンの恋人。
しんのすけ、
ひろしの両名が認める
「イイ女」。
ケンと同様に21世紀の未来を憂いており、外の人間たちのことを
「心が空っぽだから物で埋め合わせ、いらない物ばかり作って心が醜くなっていく」と評している。
ケンと共に組織の中ではリーダー格であり、隊員たちからは「チャコさん」と呼ばれて慕われているようだ。
感情の起伏に乏しいが、野原一家を招いた際に
シロにミルクを与えて穏やかな笑みで頭を撫でてやったり、
ひろしにパンツを見られた時には赤面するなどといった一面も見せている。
因みにパンツの色は白。
恋人であるケンへの信頼は相当な物で、彼の持つ「懐かしい匂い」の力を信じきっていたり、
終盤でエレベーターに乗っている時は腕を寄せてピッタリとくっつき合っていることからもそれがわかる。
ケンとは違いラストシーンまで自分たちの計画を信じ切っていた。
計画が潰えた際に涙ながらに発したしんのすけへの問いかけとそれに対するしんのすけの答えは、
この映画のテーマを端的に表していると言っても過言ではない名シーンの一つ。
◆劇中での活躍
ネタバレを多分に含む。
作中冒頭から姿を現しており、計画の本格化に伴って全国各地の支部へ訓示を飛ばしていたりした。
直後のサブリミナル放送によって大人たちを掌握し、20世紀博へと引き込む。
その後夜中に、取り残された子供たちに対して時間は逆戻りを始めたこと、未来は失われたことを
ラジオで告げた上で、
パパやママたちに会えるとした上で子供たちの大半も連れて行った。
(実際は会わせる気は無く、隔離して再教育を施し大人と同じく自分たちの作る20世紀の世界の住人にしようと企んでいた)
翌朝になると従わなかった残りの子供を捕らえるべく、イエスタディ・ワンスモアの同志たちと
子供狩りという名の捕獲活動を開始。
最後に残ったしんのすけたち
かすかべ防衛隊と盛大なカーチェイスを繰り広げた末にしんのすけ、ひまわり、シロ以外の4人を捕縛する。
ひろしがしんのすけの尽力によって元の父親としての自分を取り戻し、
一つになった野原一家を興味深いと称して自分たちの住むアパートへと招き入れる。
そしてタワー最上部から「懐かしい匂い」を日本中へとばら撒いて、自らの計画を完遂させると告げた上で、
ケンは
「お前たちが本気で21世紀を生きたいなら行動しろ、未来を手に入れてみせろ」と、野原一家を送り出す。
しばらく経った後に二人も動き始め、タワーの中部で野原一家と再び相対。
この時のケンとひろしによる問答もまた間違いなく名シーンの一つである。
そして二人は最上階へと到達、ここへ来てボロボロになりながらも追いすがってきたしんのすけを振り払いながらも匂いの噴出装置の前へと立つも、
未来を掴み取るために必死に行動してきた野原一家の奮闘を見た住人たちの想いが変わったことにより、既に「懐かしい匂い」は力を完全に失っていた。
「私たちの町が私たちを裏切ったの!?」と泣き叫ぶチャコに対し、ケンは冷静に肯定の意を返した上で、街の住人達に解散を告げた。
納得のいかないチャコは倒れるしんのすけに対して「どうして!? 現実の未来なんて醜いだけなのに!」と問いかけるも、
しんのすけの発した「家族と一緒に生きていきたい」「大人になりたい」という言葉に何も返すことができなかった。
計画の終焉を悟ったチャコはそれでも外に行かないとし、ケンもそれを了承。
しんのすけに対して「ボーズ、お前の未来……返すぞ」と言ってその場を後にする。
直後にケンとチャコは共に
投身自殺を図ろうとするも、それを引き留めたのがしんのすけの
「ズルいぞ!」という一言と、直後に飛び出してきた鳩。
呆然とするチャコはその場に蹲って
「死にたくない!」と本心を吐露し、
側にいたケンも何かを吹っ切ったような表情で
「また、家族に邪魔された……」と呟き、
そっと静かにチャコのことを抱きしめるのであった。
全てが終わり、正気に戻った大人達が子供達と共に帰途につく中、二人も夕日を背に愛車を駈って何処かへ走り去っていく。
彼等もまた、これからの「21世紀」を生きていくために。
◆考察
○コンピューターウイルスによる世界掌握を目的とした秘密結社
こんな具合に色んな意味で濃い連中ばかりなのだが、
ケンとチャコ自体は普通の人間であるし、「懐かしい匂い」の存在さえ無ければどこにでもいるような同棲カップルである。
その目的も「黄金の20世紀を取り戻す」というこれまた異質な物。
今までの悪役たちと比べるとスケールに差があるだけでなく、どこか現実感のある計画であった以上、
この二人組には同情的な視線を向ける視聴者も少なくは無い。
が、よくよく考えてみればやっていることは全国規模でのマインドコントロールで、
彼の言う「黄金の20世紀」というのも、過去の時代の良い面だけを切り取った美化された思い出である。
戦後の復興から立ち上がり、多くの人々がより良い日本を目指していた当時の20世紀が良い時代だったのは事実だろうが、
物事は良い面ばかりでなく悪い面もあるのが常である。
(詳しく挙げると、あの当時は武闘派のヤクザ組織が抗争を繰り返し、さらには窃盗やおぞましい猟奇犯罪が巻き起こるなど、
この男が歓喜しそうな、
荒くれ者達の理想郷
と言えるだろう。)
そしてそれは二人が忌み嫌う21世紀という時代にも当然のように当て嵌まることなのだ。
実際のところ二人は美化された思い出に逃げ込み、それを周りの人間全てに押し付けようとしていただけとも言える。
さらに「汚い金と燃えないゴミで溢れ返っている」と評した現実の21世紀の日本もまた、
「黄金の20世紀」を実際に生きた人々が積み上げてきた負の因果の産物なのである。
(現に「汚い金」は、「黄金の20世紀」を造り上げた中心人物の一人である田中角栄の影響が大きい。
また
20世紀の当時でも環境問題を投げかける特撮作品が制作されるほど、高度経済成長の裏で、公害問題も深刻な問題にもなっていたりしている。)
最後まで計画に縋っていたチャコはともかくとして、ケンの方は野原一家と出会ってから敢えて計画が失敗するような行動も取るようになる。
そもそも計画の完遂に本気だったのならあの時点で野原一家を拘束すれば済む話であるし、
わざわざ彼らの奮闘の一部始終を町の住人にリアルタイム中継で見せる必要も無い。
匂いのレベルがゼロになった際に言ったセリフ、「町の住人たち"も"アイツらを見て、21世紀を生きたくなったらしい」からもそれが窺える。
そして、最後に投身自殺を図ろうとしたのも計画が潰えた後に尚も外の世界を拒むチャコの言葉を受けてのことだった。
このことからケンの方は自分自身も20世紀に世界を逆戻りさせることを望んでいたのは確かであろうが、
中盤からは21世紀という未来の可能性を野原一家に賭け、町の住人にもそれを問いかけていたこと、
それでも20世紀の過去の思い出に縋る恋人のチャコの為に計画の完遂を成し遂げるという二つの気持ちの狭間で揺れていたのかもしれない。
なお上述の通り、チャコは「現実の未来なんて醜いだけなのに!」としんのすけに訴えかけ、
実際、クレしん世界には
燃えないゴミが云々などどうでも良くなるくらいろくでもない未来が待ち受けている可能性も示唆されている。
しかしその中においても、しんのすけ自身は夢や希望を失うことはなく、逆に彼自身が人々の希望にさえなっている(更に言えば、チャコに言い放った「お姉さんみたいな綺麗なお姉さんといっぱいお付き合いしたいから!」を叶えてさえいる)。
そのような強い夢と希望に満ちた子供の「未来」を奪い去る事など、過ぎた過去に縋る者には元より不可能であった、と言うことだろう。
ちなみに、
彼らの目指していた理想と、「20世紀博」が行き着く果てが別のアニメ作品(ある意味で)にて描かれている。
◆余談
アニメ本編の12代目エンディングではアパートで暮らしている姿がチラりと描かれており、劇場版第25作「
襲来!!宇宙人シリリ」では、二人でサーカスを観覧していた。
ちなみにケンの声優とチャコの声優には「劇団出身」かつ「ドラマ出演経験あり」(2人とも本作と同じ年に顔出しの出演もしている)という共通点がある。
またケン役の津嘉山正種氏は同じ2001年に公開されたアニメ映画『
ドラえもん のび太と翼の勇者たち』で英雄イカロス役を演じており、
同じ局・制作会社のアニメながら方や「過去に縋る男」、方や「未来を目指す少年たちを助ける男」と逆方向の役を同時期に演じていた。
追記・修正は21世紀を手に入れてからお願いします。
最終更新:2025年04月28日 20:56