ペスト

登録日:2010/02/06 Sat 02:27:53
更新日:2025/03/27 Thu 18:39:53
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※ご自身の健康問題については、専門の医療機関に相談してください


概要

ペストとは、ペスト菌によって引き起こされる感染症である。
英語だとPlague。"plague"という英単語は本来「疫病」「災厄」「(害虫などの)大量発生」等、もっと広い意味を持つ言葉なのだが、単に"(the) plague"と言う場合たいていはペストのことを指す。
まさに伝染病の代名詞

その感染力の強さと致死率の高さから数ある感染症の中でも特に悪名高く、古くから世界各地で流行を繰り返しては多くの人の命を奪っている。
特に中世ヨーロッパにおいて「黒死病(Black Death)」と呼ばれた最大規模の流行は後の歴史や文化にも大きな爪痕を残している。

ネズミリスなどの齧歯類を主な宿主としており、人間にはそれらに寄生しているノミに媒介されて感染する。
そして感染者の体液もまた感染源となるため、そこからまた爆発的に感染が広まっていってしまう。
感染力も強く、どれくらいかというとこの病気で死亡した遺体を敵国に投石機で投げ込んだだけで一国が滅びた、との逸話があるほど。
真偽は別としても、いかにペストが恐れられたかがよく分かるエピソードである。

ペストは感染ルートや症状の進み方によって腺ペスト、敗血症ペスト、肺ペストの3タイプに分かれるとされる。
このうち最も多いのが腺ペストで、これは罹患すると数日の潜伏期間の後高熱やリンパ節の腫れに始まり、やがて衰弱を伴う全身症状が広がっていく。
敗血症ペストは腺ペストのような局所的な症状を経ずに全身症状が起こり出すというもの。
腺ペストや敗血症ペストの末期には、全身で内出血や壊死が起こり、体のあちこちが黒く変色してしまうという見た目にも恐ろしい状態になってしまう。いわゆる「黒死病」の名前はこれが由来。
肺ペストは腺ペストの症状が進行したり、患者の体液の飛沫を吸い込んだりしてペスト菌が肺に回ってしまうと起きるもの。
頻度は高くないが進行が速く、発症すると24時間以内に死に至る。その上ヒト-ヒト間の感染も起こりやすくなるため非常に危険。
いずれにしても致死率は高く、未治療だと腺ペストでも30〜60%、肺ペストに至っては90〜100%とされる。

歴史

古代からたびたび流行していたようで、ビザンツ帝国では多数の死者を出した記録がある。

中世ヨーロッパで大流行した際には、死者数7600万人という未曾有のキルスコアを叩き出した。
この数値は、当時のヨーロッパにおいて実に3人に1人が亡くなったことを意味する。
ちなみに、第二次世界大戦の総死者数が2200万人
絶対値でもペストの死者の三分の一にもならないうえに、中世と近代の総人口の差を考えると、中世の人々にとってペストの方がはるかに身近な死の恐怖だった。
誇張抜きで、戦火よりも恐れられたのである。

ペストがもたらした恐慌でヨーロッパの治安はしっちゃかめっちゃかになり、魔女狩りやネコ焼きなどの迷信が入り乱れた。
まだ生きているのに埋葬してしまい、患者が柩から出ようとした状態で死んだことで、吸血鬼伝説が現代の形でまとまったり、
はたまたあまりにも死が身近に迫ってしまったため、骸骨(=擬人化された死の概念)が人々を踊りに誘う「死の舞踏」や、同じく骸骨が街や国を攻め滅ぼす「死の勝利」といったテーマの芸術作品が多数作られたりした。
富裕な王侯貴族などは避暑地などの別荘に逃れてなんとか生き延びたが*1、市民のほとんどは死亡した。
農奴がごっそりいなくなった結果農園経営システムを変更せざるを得なくなるなど、ヨーロッパの政治・経済など社会を全局面的に激変させてしまった。

ヨーロッパで爆発的に広がった理由として、下水道などの衛生環境が悪かったことが挙げられる。
また魔女の使い魔としてが大量に虐殺されたため媒体となるネズミが大量に増えたことが原因とする説もあるが、これは時系列的にありえない。

16~17世紀にヨーロッパで流行した際は、創作でよく見かけるタイプのペスト医師が現れた。
あの特徴的な仮面(ペストマスク)の嘴には香辛料を詰めていたが、当然ロクな効果はないのでペスト医師の死亡率は高かったようだ。
ちなみにあのノストラダムスもペスト医師だったといわれている。

日本には長らく持ち込まれることはなかったようだが、明治〜昭和初期にかけては散発的に流行が起こり、少なからぬ数の死者を出している。
幸い、大規模なネズミの駆除等の懸命な対策が功を奏してか定着することはなく、1927年以降は国内での感染者は発生していない。


現代

かつては手の施しようのない病気だったペストだが、医療技術の進んだ現代ではきちんと予防法・治療法が確立されている。
細菌を原因とする病気であるためストレプトマイシンやテトラサイクリン等の抗生物質が有効で、早期に対処できれば死の危険は概ね避けることができる。
しかし肺ペストに関しては進行が速すぎるため、現在の医療技術でも手遅れになってしまうことが少なくない。
主な流行地が医療体制の不十分な発展途上国ということもあり、現代においても致死率は8.2%と決して低くはない水準である。

なお、現在でももっとも危険度の高い感染症である一類感染症(エボラ出血熱などと同レベル)に指定されており、厳重な施設内でしか培養や実験などは行えない。
治療法が確立されたとは言え、現在でもバイオハザードの危険を秘めた恐ろしい感染症には違いないのだ。

また、たびたび漫画などの創作物にも登場する。


ペストが登場する作品





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最終更新:2025年03月27日 18:39

*1 もちろん、フランス王ルイ9世やバイエルン公ヨハン4世など、ペストにより命を落とした王侯貴族も多数いる