魔女

登録日:2020/03/06 Fri 19:43:05
更新日:2025/01/22 Wed 14:12:23
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『魔女(英:witch)』とは、欧州の古い俗信に依る、魔術を行使する人、または悪魔の遣いや眷属とされる人のこと。
また、中世には教会により異端、邪悪な存在と認定された過去があるが、後述の様に現在の魔女のイメージの大半は、この時に創出されたものである。
15~18世紀頃*1には、僅かでも疑いのある人物が引き出されて拷問の末に処刑される、悪名高い“魔女狩り(witch-hunt)”が行われたことでも知られる。

創作世界でも人気のジャンル、カテゴリーであり、日本でも魔法少女/魔女っ子物が数十年に渡り支持を集めている等、現代に於いては、西欧でも嘗てのような暗いイメージは薄れている。



【呼び名】

日本語の“魔女”の字面の通りに殆どは女性がイメージされており、魔女を示す、

  • 英:witch(ウィッチ)
  • 独:Hex(ヘックス)
  • 仏:sorcière(ソルシエール)

は、確かに女性を示す語であるが、witchは男性の“魔女”にも用いるのが一般的であるそうである。

一方、近代ヨーロッパ語では“魔男”と訳せる語として、

  • 独:Hexer/Hexenmeister(ヘクサー/ヘクセンマイスター)
  • 仏:sorcier(ソルシエル)

……といった語が登場しており、男性の魔法使いを指す語として、ここから米国英語:sorcerer(ソーサラー)、女性形はsorceress(ソーサレス)も誕生している。

また、男性の魔法使いを指す語としては英:wizard(ウィザード)の方がより一般的であるが、他にも英語だけでも、女性形を含むとmagic user(マジックユーザー)、enchanter(エンチャンター)、enchantress(エンチャントレス)、
mage(メイジ)、magus(メイガス)、magi(マギ)、magician(マジシャン)、warlock(ウォーロック)……等の由来やニュアンスを異にする、ほぼ同一の物を指す語が存在する。

何れにせよ、日本では“魔男”という概念は定着しておらず、男性の魔術の使い手は魔法使いやら魔術師と訳されるのが普通である。

また、日本では魔女は専らwitchであり、魔女っ子や魔法少女としてディフォルメしない場合には、妖怪的で後ろ暗いイメージを想起される為か、女魔法使いの場合にはsorceressやenchantressやmagus等と訳されたり分類されていることがある。

実際、後述の魔女宗の信奉者である“魔女”達は、暗黒時代を想起させ、言葉自体も暗いイメージがあるとしてwitchという語を嫌い、自分達の信仰をwicca(ウイッカ)と称し、信徒はwiccan(ウイッカン)と呼ばれている。


【魔女の俗信】


  • 死に際の魔女の手を握ると魔力が移る。

  • サバトで悪魔と交わった女が魔女となる。


  • 魔女は悪魔の力を借りて作物や家畜に害を与える。

  • 魔女は水中に沈められても悪魔の力で浮かび上がる。このことで、水に沈められて浮いて来なければ死亡。浮いたら処刑というトンでも論法が罷り通った。

  • 魔女は体の何処かに全く痛みを感じない“契約の印”がある。小さな痣でもあれば印と認定され、全身をチクチクと針で刺されて感覚がマヒした辺りに刺して痛みが無ければ認定というムチャな論法が罷り通った。

  • 魔女は不吉な生き物であるの何れかを遣いとしている。

  • 不吉な黒猫は魔女の遣いである。

  • 魔女狩りによって猫を殺し過ぎてが増えすぎたことが黒死病の流行の原因とするのは誤りである。

  • 12月25日の夜に生まれた女の子は魔女となる。


─魔女狩りに用いられたマニュアルより。


【魔女とは】

魔女といえば、魔法少女とは似てもつかないボロボロの黒い衣に三角帽子の、空を飛ぶための箒なんかに乗ったりしてる尖った鉤鼻をした不気味な妖怪ババア……といったイメージがあるが、実は、この邪悪なイメージ自体も暗黒時代に作られた捏造想像に基づく姿でしかない。

以下に、現代に於いて“魔女”と分類される存在のおおよその分類について纏める。


類型的魔女

サバトで悪魔と交わり力を得て、
魔術や魔法の薬で人心を惑わす……とされた魔女は、現代では類型的魔女と呼ばれている。

繰り返すが、類型的魔女とは、異端審問を請け負った聖職者や学者等の識字層の知識人が、自分達の勝手で都合のいいイメージの中のみで15世紀頃に作り上げた存在でしかない。

類型的魔女とは、一言で言うと悪魔の遣い”のことである。
その、仕える相手である悪魔も教会の都合のいいイメージで纏められた存在か訳だが。

(類型的)魔女は、当時の社会不安や教会の力でもどうにもならない悪天候や飢饉、流行り病といった諸々の凶事の元凶とされた。
そのイメージは、後の創作世界に於ける悪い魔女その物であり、不吉の象徴である。
そして、魔女を狩り出し、追及し、処刑してる間に凶事が収まれば、それは神を信じる善き人々の勝利となったのだ。

魔女にはキリスト教が“異端”と断じた、教会から外れた知識や旧世界の多神教的信仰に基づく信仰や呪術への一方的で誤った認識や、それ等を操るマイノリティへの差別意識も込められている。
特に、ユダヤ人への差別がイメージの原型としてあり、グリム童話が類型的魔女の像を民間にも膾炙させることになったとも分析される。

因みに、サバトで悪魔と交わり魅惑の肉体で人を誘惑すると語られていることがあるにもかかわらず、魔女が多くは老婆の姿で描かれるのは、身も蓋も無い言い方をすれば魔女を大義名分として邪魔になった老人を殺せるようにしたからだと云う。


何れにしても、類型的魔女は“魔女のテンプレ”なれど、中世に都合良く生み出された存在ということである。

それでも、裁かれた“魔女”達が何かしらの邪悪な儀式に関与していた、とする意見もあるが、それは下記の原型的魔女像で語られるキリスト教に由来しない伝統的な多神(自然神)教に基づく宴や民間医療のことだったのであろう。


原型的魔女

類型的魔女が創作された存在であるとするのならば、本来の“魔女”と呼ばれていたものが何なのかと云えば、旧世界~中世前期までは表向きにも存在が語られて社会構造にも組み入れられていた、キリスト教以前のペイガニズム(多神教信仰)やシャーマニズム(精霊信仰)に基づく、民間伝承として根付いていた諸々の占いや専門的知識の使い手達のこととなる。

原型的魔女の信仰とは、ユダヤ~キリスト教により排斥された自然神崇拝であり、月の女神や大地母神を優位とする女権社会の構図も含まれた。

彼女達は現代では原型的魔女と分類されており、上記のリアリティーの無い類型的魔女とは明確に別の概念とされている。
彼女達は民間医療の担い手でもあり、産婆なんかも含んだと考えられている。
彼女達は“賢い女性達”と呼ばれる、村程度の社会生活には欠かせざる存在であり、現代では黒魔術の徒たる(類型的)魔女に対して、白魔女とも称される。
ケルトのドルイドの文化等、旧世界からの記憶を色濃く残すイングランドでは、教会が彼女達を異端として審問にかけようとしても住民から無視されることが殆どだったそうである。
後には異端=魔女として裁くべき相手の矛先がカトリックvsプロテスタントになっていたという事情もあるのかもしれない。

一方、ユダヤ人への悪意あるイメージが類型的魔女像に込められたように、原型的魔女の姿も本質を歪められて類型的魔女像の造形に用いられている。

前述の様に、(類型的)魔女は魔宴、魔女の夜宴や夜会と訳されるサバトにて山羊の頭をしたレオナルド(仏:レオナール)やバフォメットとも呼ばれる“悪魔”と交わり力を得るとされていたが、サバトとは言葉が歪められただけでユダヤ教でいうシェバト(シャバット)=休息日のことであるのは確実であるし、出版物では散々に邪悪な物として喧伝しておきながら、実際の魔女裁判では大した実害を感じさせる証言が得られなかった宴の内容の真相も、単なる片田舎の異教の祭りに対する悪意のある見方や、完全なる想像の産物であろうとして現在では断じられている。
バフォメットの語源も、イスラムの開祖であるムハンマド(マホメット)を歪めた物とも予想されており、もう何かやりたい放題である。

教会が悪しき者として広めた山羊の頭をした悪魔とは、本来の伝統的、或いはその教義を引き継ぐと自称されるウイッカや魔女宗では有角神(Horned God)と呼ばれ、神の女性相である月の三相の女神(処女、母、老婆)か大地母神の王配となる、神の男性相である。
そもそも、一神教の神にも女性相があったと言われるが、教会が男権社会に移行すると共に排除されたとの説もあり、本質的には欧州でも“神”は男女両性か配偶神として祀られていたことが解る。



下記のウイッカや新異教主義は、こうした原型的魔女の復活や後継を自称する活動となっており、主神として女神(月の女神と大地母神)と、その配偶神となる有角神に祈りを捧げる。


創作世界の魔女

暗黒時代を抜け出すと、近世以降の魔女は原型的魔女と類型的魔女の双方のイメージを伴って創作の世界に登場するようになる。

昔話の中のメルヘン的魔女、19世紀以降の創作では ロマンチックな魔女像が生まれた。
善き魔女は光の魔術を使い願いを叶えるが、悪しき魔女は願いと引き換えに犠牲を強いる……的なテンプレも結構以前の作品から見られる共通のルールであり、こうしたイメージの大元は神話世界の女神であろう。
日本でも、世界の流行を敏感に感じ取ったかのようにして、芥川龍之介等が早速に題材としている。

とはいえ、魔法使いと同じく、魔女は舞台装置や重要な脇役とはされつつも単独で主役とされることは殆どなかった訳だが、エポックメイキングとなったのが日本では1966年より放送が開始された海外ドラマ『奥さまは魔女』であり、それにインスパイアされて同年に横山光輝が原作漫画を描いてアニメ化されたのが、アニメ『魔法使いサリー』である。

この2作のヒットを受けて、日本ではアニメでもドラマ(特撮)でも“魔女っ子”物が一大ジャンルとして確立することになる。

特に東映動画の主導した一連の“魔女っ子”物は女児をメインターゲットとした、明るく夢のある作品であった訳だが、80年代に入ると“魔女っ子”のフォーマットを引き継ぎながらもリアリティーのある視点を持ち込んだ東映動画の正統派の“魔女っ子”物から外れた『魔法のプリンセスミンキーモモ』を始祖とする作品群が誕生し、基本的には変わらず女児向け作品として制作されつつも、マニア層の男性アニメファン(オタク、ヲタク)にも注目されるようになる。
90年代に入ると“魔女っ子”とは名乗っていないながらもフォーマットは引き継ぎ、それでいながら男児向けアニメや特撮のような悪と戦うヒーローとしての要素を加えた『美少女戦士セーラームーン』が誕生。
実際には米国の女児向け魔法ヒロインが直接的な元ネタと分析されつつも、此所で“魔法少女”物が確立されたとされる。

尚、魔法で何でも出来るは日本に限らず……というか、それも西欧の創作から引き継がれたものなのかも知れないが、アメコミ作品等でも魔法使いキャラは強さの本質が計れない程のワイルドカード的な扱いをされていることが殆どであり、つまりは魔法サイコー。

近年では『ハリー・ポッター』シリーズ等、伝統的な魔術やドルイド的価値観の影響下にある新世代のファンタジー作品が市民権を得ると共に、新しい潮流を生んでいる。


現代の魔女

20世紀に入ると、前述の様に中世の暗黒時代には全て異端とされて、白魔女すらも公には存在を語れなくなっていたのに対し、世代を跨いで知識を引き継いできた人々が“魔女”を自称して表に出てくるようになった。
たまに日本のTVなんかの取材を受けているのが彼女達である。

特に、日本でいえば市井の民俗学の徒である税関職員のイギリスのジェラルド・ガードナーは、引退後に本物の魔女に師事して自らが魔女となると、かの20世紀最大の魔術師の異名で知られた、晩年のアレイスター・クロウリーの協力まで得て、古より魔女達が筆者して引き継いできたと称した『影の書』を創作(・・)
この、ガードナーの元に集っていた人々から、日本では魔女宗と訳されるウイッカ(wicca)が勃興した。
因みに、日本に支部があるし、ちゃんと正統派の魔女として活動している人もいる。

これに類する思想として、一神教以外の宗教、特に古代のケルト的な多神教信仰(主にケルト、北欧、ローマ神話の神々が信仰対象として挙げられ、一部で“魔女の女神”として知られるアラディアの名前も挙がる。)に傾倒した新異教主義(ネオペイガニズム)や、純粋に魔女の持つ技術や知識に目を向けたウィッチクラフト等のムーブメントが起きている。

魔女宗の中のスカイクラッドと呼ばれる宗派では、魔女達は“伝統に倣う”として、全裸で活動している。
それこそ、類型的魔女を思わせるスキャンダラスな姿として捉えられることもあるが、実際には禁欲的で清浄を尊ぶが故の姿であり、これを性的な活動に結びつけたり、それを“売り”とするような不心得な集団は本来の魔女からすれば、それこそ黒魔術を用いる、謂わば“邪教”であるとして批判されて廃されている。
こうした姿が、前述のサバトでの悪魔との乱行のイメージに繋がったのだろうが、古代バビロニアの神聖娼婦の実態が研究が進んだ結果、それまで常識とされてきたものとは違うと解ってきたように、実態も知りもせずに排斥されて大袈裟に喧伝された結果だということなのだろう。


【関連項目】

各作品固有の用語としての「魔女」。



追記修正は箒で飛べてからお願いします。

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最終更新:2025年01月22日 14:12

*1 最も激しかった時代を指して、16~17世紀頃までとする場合もある。