百鬼丸(どろろ)

登録日:2012/03/23(金) 00:22:02
更新日:2025/02/17 Mon 09:33:28
所要時間:約 8 分で読めます





百鬼丸(ひゃっきまる)とは手塚治虫作品『どろろ』の主人公である。

声優:野沢那智(旧アニメ版)、杉田智和(ゲーム版)、中村悠一(アトム:時空の果て)、鈴木拡樹(新アニメ版)
俳優:妻夫木聡、鈴木宗太郎(幼少期)、鈴木拡樹(舞台版)

年齢:14歳(原作)15歳(旧アニメ版)16歳(新アニメ版)18歳(ゲーム版)20歳(実写版)

【概要】

ボロボロの貧相な着物をまとい*1一本のを携える14歳の少年。
苛烈な生い立ちを背負い、荒んだ戦国の世に孤独に生きていること、そして行く先々で疎まれ差別される境遇からめったなことでは他人に心を開こうとせず、飄々とした性格をしている。

下記の生い立ちから人ならざるものを知覚することができ、生まれから身についた異能の力により多くの異形のものを意図せず惹きつけてしまうという業を負っている(本人はこのことを指して「死神に付け回されている」と表現している)。

旅の道中で出会い親密になった女性を侍の横暴で殺されて以来、身分を盾に横暴にふるまうものや権力者を深く憎んでいる。


【来歴】

【生い立ち】

戦国の地侍、醍醐景光(だいごかげみつ)の息子。
景光が生まれてくる我が子を己の野望の犠牲にして、四十八の魔神に生け贄として捧げてしまう。
そのため、身体の四十八か所をもぎ取られた姿でこの世に生を受けた。
ちなみに作中で明言された喪失部位は「両腕・両足・両目・耳・鼻・髪の毛・皮膚・声・心臓・背骨・触覚(寒暖差を感じない)」等。
用済みとして実の父の手によりたらいに乗せて川に流されて捨てられた後、寿海(じゅかい)という医者に拾われ、彼の養子となる。
最初は只はい回るだけだったが、五感を持たない代わりか念話や超感覚を得て寿海と会話出来るようになり、寿海の手で全身を義体とする手術を施される。
見た目は人並みの赤子となったが、人並みの動きは以降、寿海の指導と彼の努力により身につけられていくこととなる。


【決意と旅立ち】

百鬼丸は寿海により実の息子のように育てられ彼も寿海を父と慕うようになる。
が、成長した百鬼丸をつけ狙って死霊や妖怪たちが頻繁に出現するようになったため、
村に迷惑がかかるから旅に出なさいと寿海に言い渡され旅立つことになる。

この世の中に自分が幸せに暮らせる場所が必ずあると信じて。
そして四十八体の妖怪を倒し、失われた自分の身体を取り戻すために……。


【数奇な運命】

自分の分身と言うべき妖怪達を倒さねばならない宿命。
一体倒す毎に自分の目や鼻が戻ってくる喜び以上にその旅は苦悩に満ちていた。
愛した女性は殺され、血を分けた弟・多宝丸と争い死に別れ、民に圧政を敷く父親とも対峙する。
父親が国を追放された後は自分の身体を奪った残りの魔神を倒すためにどろろに別れを告げて1人旅立つ。
その後、彼の行方を知る者は誰もいない……。


【武装】

両腕・両足を始め、肉体の大部分は寿海が制作した義体である。
なお作中の姿は旅をする為に寿海が施した最後の改修状態で当初は年齢に合わせた普通の人の姿を再現するものでしかなかった。
腕は肩の筋肉の力で指が曲がるよう設計されており、物を掴んだり精密な動作も可能。
また、肘から先の内部には拵を外した状態の刀が仕込み刀として内蔵され、肘から先を鞘のように抜くことで二刀流のスタイルで戦う。
他にも足には焼水(酸の様な溶解性を持つ劇薬)の発射機構、鼻は外して爆雷になるなど全身が武器の塊である。
小説版やゲーム版では機銃や大砲といった火砲を義足に内蔵するアレンジが見られる。
全身凶器とはまさにこの事である。
ちなみに腰に差している刀は原作序盤では刀身が入っておらず(実写版では竹光をいれている)、
右腕奪回後右腕に入っていた刀身をこちらに移している(アニメ版とゲーム版では最初から刀身が入っている)
尚、原作では腕の刀を普通に腰の刀に移植しているが、腕の刀に対して腰の打刀サイズでは鞘が長過ぎるという判断からか、実写版では腰の刀は打刀から脇差に変更されている。
更に2019年のアニメ版では刀身の長さ調整の為義手の肘から刀身の根元と茎がはみ出たデザインになっている。



最後まで悲しい運命に翻弄され続けた百鬼丸だが、そのニヒルさが女性にも人気であった。


【旅の仲間】

CV:松島みのり(旧アニメ版)、大谷育江(ゲーム版)、鈴木梨央(新アニメ版)
もう一人の主人公で旅の途中で知り合ったこそ泥。
百鬼丸の持つ太刀を狙っていたが物語が進むにつれて良き相棒に。
実は女の子で作品のヒロイン。

  • ノタ
どろろの愛犬で旧アニメ版のオリジナルキャラ。



【解説】

本作は当時人気のあった水木しげるの名作『ゲゲゲの鬼太郎』に触発され、
「こんなの僕だって書けるさ」と持ち前の負けん気を発揮して生み出した作品であった。
だが、ダークすぎる序章から人気にはならず打ち切りの憂き目にあうことに。

しかしながら後年は手塚らしい狂気じみた冒頭から人間のなりを失った主人公が、
それらを取り戻すために全身に暗器を仕込み闘うバトルアクションとして、
またその闇のようなストーリーにひとすじの光明をさすような展開から評価は高く、ファンも多い作品となっている。

ちなみに手塚が『どろろ』を執筆に至った過程は上記の通りだが、
実は自分の子どもが『ゲゲゲの鬼太郎』を見ておもしろいといっていたことに発奮してのものであった。
しかし、出来上がった作品『どろろ』は子どもからもやっぱり不評であった。

また特徴的なタイトルである『どろろ』とは、
手塚の友人のこどもが「どろぼう」を「どろろう」といったことにヒントを得て生まれたものである。


【旧アニメ版】

年相応に明るい一面もあった原作とは違い、クールでニヒリストな性格で原作以上に周囲の人間に心を開かない。
原作では身体を全て取り戻せないまま終了するが、アニメでは最後には全ての身体を取り戻す。
しかし、実の父親は四十八番目の魔神となってしまい百鬼丸は実の父親と刃を向ける事になる。

俺の親父は、俺を拾って育ててくれた寿光という医者1人でいい…………。
1人でいいんだ…………。

そう呟き父親を切る百鬼丸。
身体を取り戻したものの、あまりの過酷な運命に百鬼丸は心を閉ざし人知れず姿を消す。


【PS2ゲーム版】

ゲーム版では、奪われた部位が大幅に変更されている。というか、変更され過ぎてえらいことになっている。

ざっと挙げると……、
両腕・両足・鼻・耳・声帯・歯・両目・涙腺、
血小板・骨髄・リンパ管・肋骨・骨盤・痛覚・食道・胃・小腸・大腸・膵臓・胆嚢・肝臓・腎臓・副腎、
肺・横隔膜・心臓・頭蓋骨・背骨・大胸筋・腹筋・僧帽筋・背筋・海馬・小脳・大脳新皮質・甲状腺・チャクラ系。

寿海「この子はまだ生きている!」

無理言うな。

どう考えても欠けちゃいけないものがごっそりなくなっている。「比較的大丈夫そう」と思える部位の方が圧倒的に少ない。

しかも、古くなった赤血球を破壊する脾臓は奪わず血液の元となる骨髄を奪うというコンボまで決めてきやがった。なので赤血球も実質奪われている。
大脳(一部除く)・皮・血管・神経・脳幹・鎖骨・肩甲骨・脾臓・膀胱・髪くらいしか残ってないので、もはや新手の妖怪にしか見えない。

あまりの異形っぷりに、もしかしたら妖怪さえ逃げる可能性もある。

こんなのが川から流れてきたら、ブラックジャックだってきっと匙どころか手術道具丸ごと投げ出すだろう。
臓器やがバラバラの状態だったが丸々一式揃っていたピノコが本気でまともなレベルである。

と言うのも、こちらでの百鬼丸は生まれつき、魔神たちを打ち滅ぼす役割を天から与えられた光の子
・・・即ち魔神を討つ者と言うべき存在であるため、その力を恐れた魔神の策略により
先述の通りえげつないってレベル通り越して徹底的に持って行かれまくった次第。

ちなみに、心臓を取り返すまでガチで心音がありませんでした。
寿海って何者だ。

あと、手足にはマシンガンとランチャーを仕込まれている。完全に改造人間ってか石ノ森先生んとこの004だろ。
しかし、部位を取り返すごとにパワーアップする。
初期状態は義肢みたいなもので補っているので当然なのだが、若干納得がいかない。
あと一応作中の時代は室町時代相当だがその頃に連射機構の有る銃火器それも義肢仕込みってオーパーツにも程が……。

なお、マシンガンは最後に取り返す部位である右腕に仕込まれているため、奪取すると使えなくなる。
魔神全滅状態で続行できるのもどうかと思うが。

ランチャーは右足内蔵から手持ちに切り替わるので使える。というか、何故かパワーアップする。
サイズ・重量の制限がなくなって大型化されたのだろうか。
もっとも時代とテクノロジー的にこちらは「大筒の一種」で一応考察可能なのだが。


【新アニメ版】

新アニメ版ではストーリー構成の都合上体の一部を奪うのが一二体の鬼神と大きく減っている。
奪われた部位は、顔面(表情)・両腕(腕力)・両足(脚力)・鼻(嗅覚)・耳(聴覚)・神経(体感)・脊椎・声帯(発声)・目(視覚)の11個。
鬼神の数と合わないのは二体で一組の鬼神がいるためである。
一話時点で顔の皮膚を取り戻していない百鬼丸は代わりに仮面を被っており、後述の特徴も相まって人形を想起させる。
また、取り戻してない部位も色が白めになっており、全体的に無機質な印象を受ける。

これまでの作品との一番の違いは「コミュニケーション能力の有無」に尽きる。
五感を奪われている段階で腹話術やテレパシーなどの超能力を駆使して他者とも問題なく会話が出来、ある程度当時の世間の荒波を乗り越えて生きてきた状態が基本設定となっていた以前の作品に対し、
新アニメ版ではそのような意思疎通を図る術を持ち合わせていない為、他者とのコミュニケーションがそもそも取れない。
代わりに、常人には見えない炎のような光(琵琶丸曰く「魂」)を感じ取る能力を持っており、その光の色で相手が無害な存在かそうでないかを判断している。
色は悪人や人喰い妖怪なら赤、そうでない場合は主に白。赤の相手に対しては攻撃することに躊躇はないが、程度があるのか人間を愛し始めた妖怪には赤であってもすぐさま仕掛けなかったりもする*2
以上の設定から、人生経験的な部分や人格面において旧作より幼いとかそういう以前の問題で「無垢」「人間味がない」とも言える状態である。
琵琶法師が彼を指して「獣」だの「赤子」だのと喩えたのも道理と言えよう。

更に、奪われた部位が減ったことで多少はましな人生を送れるかと思いきや…
  • 取り戻した痛みによって無茶が利かなくなる
  • ずっと無音の生活だったため、耳を取り戻したら不気味なくらい静かな森ですら騒音に感じる。しかも、最初に聞いた音は自分に家族を殺された女性の嗚咽
  • 生身の足を取り戻していたばっかりに、鬼神撃破の際にそれを食いちぎられて声を取り戻して早々絶叫する羽目に。そして、初めて呼んだのは腕の中で事切れている想い人の名
とまあ、これまで以上にリアル&シビアな作風のため、痛々しい描写がちらほら。
原作やゲームでは失われたものを取り返せたことに喜んでいたが、こちらは部位を取り返さなかった方が幾分ましだったんじゃないかという気にすらなる。

加えて、本作で景光が一二体の鬼神に願った対価の1つが「己の領地の安寧」の為、鬼神を倒す=鬼神の加護を失って領地が衰える(土砂崩れ、日照り、内乱、ete…)事に他ならず、要するに体の一部を取り戻す度に本人の預かり知らぬ所で大勢の人間が不幸になるという業まで背負っている……。
構成の小林靖子は一三体目の鬼神と評されてもしょうがない

ちなみに、妖怪に体を食われるとその部位を「奪われた」ことになり、その相手を倒すことで奪還と同じように再生する模様。
これが鬼神だけの特性であるかは不明。


追記・修正は四十八体の妖怪を倒してからお願いします。

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最終更新:2025年02月17日 09:33

*1 作中でもよくコ〇キ呼ばわりされる

*2 この回では聴力が戻っているので、会話の内容を把握できたのもあると思われる。