妖怪

登録日:2024/08/08 (木曜日) 01:00:00
更新日:2024/09/03 Tue 23:38:31
所要時間:約 4 分で読めます




妖怪とは、日本に於いて人智を超えた不可思議な現象や存在を意味する言葉である。
鬼・天狗・物の怪・あやかし・魔物・化物・お化け・怪異・魑魅魍魎……等、様々に呼称されており、日本古来から現代に至るまで語り継がれている。
元々は、其れ等に含まれる妖物は総じてであり、仏教の伝来後には天狗が鬼と共に妖怪変化の受け皿となっていった。
更に、其処に室町時代から描かれるようになった『百鬼夜行絵巻』の登場により、それまでは一括りに鬼や天狗の仕業とされていた妖物達にも象が付けられるようになり更に細分化。
大陸より伝来した大陸由来の説話や物語が翻訳されて読まれるようになる中で、江戸時代の頃までに現代までイメージされる所の“妖怪”の大凡の象が出揃ったと考えられている。
因みに、鬼や天狗と並んで代表的な妖怪と捉えられる河童は江戸時代に成立したと考えられており、実は多くの妖怪と共に新参の部類に入る。
しかし、雑多な妖怪変化の概念が出来上がってからは“鬼”は鬼のみを指し、
“天狗”も天狗のみを指すなど、妖怪変化の総称から単体の妖怪へと変化している。

アジア圏や欧米圏にも広義の妖怪として扱われる超自然的存在(水木しげる作品でいう西洋妖怪や南方妖怪)は数多く存在するが、本項目では日本の妖怪のみを対象として記述する。


【概要】

古くから言い伝えられ、あるいは創り出されてきた妖怪達は、実に広範囲かつ無数に存在している。
人型や動物のような姿形を取るものもいれば、付喪神のように古道具の化身など無生物な場合もある。あるいは別の姿に化けたりもする。
かと思えば音や声、光だけだったり、空腹や眠気を催させるなど何らかの現象を取っていたり、等々。

良く言えば豊富で多彩、悪く言えば雑多過ぎる有り様が災いしてか、「妖怪とはこういう存在である」と明確に言い表すのは中々難しい。
いわゆる「諸説有り」の最たるもので、一般人からオカルトファン、研究者に至るまで、妖怪の分類・定義についての見解が大幅に異なる事は珍しくない(そこがまた魅力でもあるのだが)。

そもそも妖怪なんていうモノがこの世に実在しているかどうか。それすら未だ科学的に証明されておらず、迷信・都市伝説の域を出ない以上、仕方のない事ではある。字面からして「妖しい・怪しい」と重なっているのは、決して伊達では無いのだ。

それでも、長い年月を経て時に恐れられ、時に親しまれてきた日本の妖怪達が、世界に類を見ない程の独自性に富み、かつ身近な伝統文化として昇華されている事に疑いはない。



【アニミズム ~妖怪の発生~】


妖怪観の根底をなすもの、それはあらゆる動植物や自然、言葉も含めた森羅万象すべてに霊魂が宿るものとする日本人固有の「アニミズム的思考」によるものと考えられている。

古来より霊魂には喜怒哀楽の感情があり、激しい怒りで恐れを抱かせる感情は荒魂(あらたま)、心優しく穏やかで富や幸いをもたらす感情は和魂(にぎたま)と呼ばれていた。荒魂を和魂に変えるべく、人々は「鎮魂」「祭祀」を行ない、土地の守り神として崇め奉った。

その一方で祭祀されない(出来ない)ような荒魂が生じ、制御不能となって好ましくない現象を引き起こすものとみなされた。やがて、霊的事象の代名詞として鬼・大蛇・天狗等といった妖怪的存在が形作られていったとされる。

妖怪バカ研究家の多田克己によれば、そもそもが“妖”という文字自体がトランス状態となって天に祈る巫女の姿から生じた文字である、との見解を示している。



【妖怪の描写と受容、その歴史】


陰陽道がまだ最先端の科学として扱われていた平安時代。『古事記』『日本書紀』『風土記』といった各種文献に鬼や大蛇等の怪奇現象にまつわる記述が見られる。また『日本霊異記』『今昔物語集』など説話文学には怪異や妖怪を描いた話が数多く登場している。
当時は神仏や霊的存在を絵画・彫刻として造形化するような習慣が無く、人々が妖怪をどのようにイメージしていたのかは定かではない。

中世・鎌倉時代になると、絵と言葉の両方を用いて物語を表現する「絵巻物」「御伽草子」という媒体の登場によって、状況が変化していく。時事や寺社関連の添え物的な扱いではあるものの、妖怪的存在も描き込まれるようになる。室町時代には、酒呑童子の討伐を物語る『大江山絵巻』を始めとする妖怪退治話も語られるようになった。すなわち、妖怪が恐怖や信仰上の対象であると同時に次第に一種娯楽化の様相も見せ始めたのである。

江戸時代、徳川幕府はこれまでの政体と異なり、妖怪含む怪異事象に対し、公的には存在しないものとして否定的な態度を取った。その一方で、妖怪受容の大衆化・娯楽化が飛躍的に進んだのもこの時代の特色である。妖怪はもはやかつてのように恐れられるだけのものでなく、ユーモアや親しみの対象となったのだ。
印刷・出版技術の発展による貸本業によって、妖怪に関する本が盛んに読まれ、イメージが固定された。庶民の間で百物語が流行し、浮世絵の題材としても人気となる。こうした過程で新たな妖怪が創作され、鳥山石燕の『画図百鬼夜行』は、後世の妖怪創作に多大な影響を与えている。

石燕の『画図百鬼夜行』は、自らが絵を学んだ狩野派の手習い本の一つである第二代古法眼狩野元信の描いた『百鬼夜行絵巻』を元に描かれたものであったが、博識な石燕は単に化物繪を書き写すのみならず、更に細かく分類して妖怪の種類を分けたり、大陸由来の物語に絡めて肉付けしたりと江戸時代以前の“妖怪”という存在を再編すると共に現代にまで残る形で創出したとまで言っていい人物である。
実際、石燕の『画図百鬼夜行』は江戸市井の人々に広く読まれる人気作となったようで、人気に応えてシリーズ化されたが後半になると石燕が最初から生み出したオリジナル妖怪のみになっていく。

また、江戸時代には当時の文学的価値としては『画図百鬼夜行』とは比べるまでもなかっただろうが、現代の妖怪研究家にとっては同じくらいに魅力的な作品として竹原春泉による『桃山人夜話(絵本百物語)』も登場している。
此れも『画図百鬼夜行』の二番煎じ的な作品でしかない訳だが、その中でも比較的に『画図百鬼夜行』に近い……ぶっちゃけると妖怪図鑑として見られるということで人気の作品となっている。

そして、それ等を水木しげるが現代に於いて伝統的な妖怪として漫画に描き『ゲゲゲの鬼太郎』を通じて我々も知ることになったという訳である。




【本Wikiに項目のある妖怪(一部都市伝説系含む)】




【妖怪が登場する作品】




【余談】

  • アニヲタ諸氏、特にTRPG愛好者の間で知られた妖怪としては「妖怪イチタリナイ」がいる。
    ここぞという場面に出没してはダイスの出目を1だけ足りなくしていく憎い奴。
    「クソッ!…よりによってこの場面で!なんで足りないんだよォ…ッ!(涙目で机バンバン)」

  • 「妖怪の日」という記念日があり、妖怪関連コンテンツの発売日や宣伝に用いられたりするが、同様の日は複数確認されており、はっきりしていない。
    • 3月8日説:水木しげるの誕生日
    • 8月8日説:民俗学者・柳田国男の命日
    • 毎月8日説:ソーシャルゲーム『ゲゲゲの鬼太郎 妖怪横丁』の特典日が由来
    • いずれにせよ、日本記念日協会には登録されていない模様。



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最終更新:2024年09月03日 23:38

*1 作中での呼び名こそ「⚪︎級妖怪」と表されるが、実際には魔族と言った方が近い。

*2 下記の巷説百物語シリーズと共に京極夏彦の小説シリーズ。妖怪と呼ばれる存在の構成要素を主にミステリーとカテゴリーされる物語の構造に落とし込み、クライマックスにかけて妖怪の姿を“組み上げる”ことで構成されている。一見すると妖怪のそのものが登場していないように見えて、どうしてテーマとなっている妖怪の概念が生まれたのかが読者に理解させるという画期的なシリーズ。