ヴリトラ(インド神話)

登録日:2019/10/23 Wed 10:23:00
更新日:2025/07/04 Fri 16:18:13
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ヴリトラ(Vṛtra)とはインド神話に登場する魔神である。

名前の意味は障害、塞ぐ者等を意味し、干ばつを終わらせるためにやって来たインドラと戦う伝承で有名。
巨大な、或いはの姿をしていたとされることから通常はナーガ族として扱われるのだが、叙事詩マハーバーラタではアスラ族の一人として扱われる。
ヴリトラ自身やインドラとの戦いは冬や干ばつを象徴・神格化しているとされており、干ばつや冬の終わりは正にインドラが勝利する為とされていた。
描かれる媒体によってその姿が異なっており、先述のように巨大な蛇や龍の姿のこともあれば巨人の姿として伝わることもあるなど、一定しないのも特徴である。


リグ・ヴェーダ

巨大な蛇の姿で登場。
その巨体で水を遮って洞窟に閉じ込めることで干ばつを起こして人々を苦しめていたが、そこへやって来たインドラが戦って死闘の末に打ち倒し、終止符を打った。
この強大な魔神を打ち倒したことでインドラはヴリトラハン、即ち「ヴリトラを殺した者」という称号を得て神は太陽と天を作り出し、インドラもヴリトラを解体した。
しかしインドラにとっても相当な強敵だったようで暫くの間恐怖に苛まれて洞窟に籠ってしまった。

しかも自然現象の象徴たるヴリトラは不死身であったので毎年蘇り、その度にインドラと対決し破られる事で冬や干ばつが終わるのだという。


マハーバーラタ

こちらでは巨人の姿であり、ナーガ族ではなくアスラ族という扱いをされている。
ここでもインドラに打倒されているが、創造神トヴァシュトリによって創造された存在と誕生含めた経歴が微妙に異なっている。

それによればリグ・ヴェーダ同様にインドラはヴリトラと戦うも途中でヴィシュヌ神が介入し、和平条約を結び、その際に「木、岩、武器、乾いたもの、湿ったもの、ヴァジュラのいずれでも傷をつけられず、昼と夜いかなる時でも殺すことはできない」屁理屈のようなインチキのような反則に相応しい能力を勝ち取ることに成功した。

しかしここで諦めないのがインドラ。屁理屈には屁理屈をと言わんばかりに昼でも夜でもない黄昏時に海辺にいたヴリトラを襲撃。
木、岩、武器、乾いたもの、湿ったもののいずれでもない海の泡を使って攻撃、見事打倒することに成功した。

ちなみにこの話には別のタイプの話も存在しており、同じような感じでいかなる武器でも殺せない能力を得たヴリトラに対して困ったインドラが、仙人であるダディーチャからもらった体内の骨を加工してヴァジュラを作り、「武器で殺せないなら武器じゃないものならいいんじゃね?」的なやはり屁理屈理論でヴリトラにリベンジし、見事勝利したとも。

このパターンでは自分を傷けられないものにヴァジュラは含まれておらず、通用したと思われる。
というかこっちのヴァジュラで倒したタイプの話の方がよく知られているかもしれない。


プラーナ文献

こちらでも巨人の姿で仙人であるカシュヤパによって創造された存在として登場。
ヴィシュヌ神が化身したヌリシンハによってヒラニヤカシプを、インドラによってヴァラの二人の息子を殺され、インドラを殺せる息子を与えるように願うと火から巨大な牙と黄色い目に黒い肌を持った巨人が誕生した。
流れ的には上記の逸話とほとんど同じだが、余りの強さに恐れおののいたインドラは正面から戦っては勝ち目がないと悟り、水の精アプサラスこっちじゃない)のラムバーを差し向け、その美貌に油断したところを騙し討ちして討伐した。
しかしヴリトラはバラモンでもあったため、インドラはその罪を背負うことになってしまった。


ほかの神との関係

インドラとの関係は当項目で書いているので言わずもがなだが、アスラ族ではないにもかかわらずアスラ族として扱われること、水に関連する伝承からヴァルナと同一視されることもある。


創作におけるヴリトラ

巨人の姿で描かれることはあまりなく、元々蛇や竜の姿で伝わっていたという伝承から巨大なドラゴンの姿で描かれることが多い。


余談

巨大な蛇、或いは龍を退治して人間の住む世界を創造したり恵みをもたらしたりする話は世界各地に存在しており、我が国に伝わる日本神話におけるスサノオヤマタノオロチ退治にも通じるものがある。

ほぼ同じ構図の神話としては、ウガリットのバアルvsヤム(リタン)、バビロニアのマルドゥクvsティアマト、そしてヒッタイトのプルリヤシュvsイルルヤンカシュがあり、此れ等の神話の源泉と主神バアルの名は古代シュメール文明にあると考えられている。
また、此れ等の古代オリエント文明の影響があったと想像される古代ギリシャ神話や北欧神話にも、分散されつつも雷神による悪竜退治や、豊穣を取り戻す神話が伝わっている。

先述のように干ばつや冬を神格化した自然現象の化身であり、それの終わりは正にインドラ神の勝利を意味していたとされている。

また、これらの神話は一説によれば中央アジアにいたアーリア人が北インドへ侵攻する様子を描いたものだという説がある。
インダス文明を築いていたインダス人はダムを建造し、農業に利用していたのだがアーリア人がそれを破壊し、征服した様子を描いているのではないかというのだ。
つまりこの神話をヴリトラ=インダス人、インドラ=アーリア人と置き換えて見ればわかりやすいかもしれない。



追記・修正は屁理屈に屁理屈で対抗できる方にお願いします。




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最終更新:2025年07月04日 16:18