龍(東洋神話)

登録日:2009/07/25(土) 00:20:51
更新日:2023/05/06 Sat 15:32:56
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西洋世界のドラゴンが絶対悪の象徴であったり、神の敵として災害や苦痛を招くのに対し、
西洋と違いアジア、あるいは南米文化圏の竜は、知識・豊穣・融和を司り、天候を操る雨の聖獣(神)である。

一般に、西洋のドラゴンとの決定的な相違には、西洋人と東洋人の自然への視点の違いが根源にあると言われることがある。
自然を統御しようとした西洋人に対し、自然との共存を選んだ東洋人。
その文化性の差が、大自然の象徴たるドラゴンの扱いに表れているという。

しかし一方で、ドラゴン(西洋の神話)の項目に詳しいが、西洋でも古くは守護神であった。
東西の違いは、西洋では古いドラゴン信仰の成立後に対立する別の神話体系への改宗が行われ、
後からやって来た神話体系が自身の正統性を強調するため、旧い信仰対象であるドラゴンを邪悪に貶めたのに対し、
東洋ではそのような現象が発生しなかったため、古代から続く信仰が保存されたためである、と説明される。

東洋──ひいては中華世界の龍(竜)は、偉大な霊力を備えた霊獣、水に棲み自在に天を飛翔する神に近い精霊、あるいは神そのものとして敬われた。
この項目では、霊獣たる龍を紹介する。

【姿】


一口に竜といっても、その姿は伝承によりまちまちである。

蛟竜:淵や湖に潜む蛇に似た竜。ただし四足がある
きゅう竜:蛇身の竜。角がある。
あま竜:角が無く、赤か白か蒼の竜。

という具合に種類が細かく分類されている。


後漢の学者・王符の記述を基本とした通念では、

  • 頭はラクダ
  • 目は鬼(一説には兎)
  • 角は鹿
  • 首(項)は蛇
  • 腹は蜃(蜃気楼の源とされた竜の一種*1)
  • 鱗は魚(鯉)
  • 爪は鷹
  • 掌は虎
  • 耳は牛

といったように、九つの生物の特徴を併せ持つ(九似説)、並外れて強力な存在であるという事である。


頭頂部には、これがないと飛翔出来ないと言う博山なる山状の突起がある。

竜はドラゴンと違い、普通は翼を持たない(例外あり)。
しかし、この博山のおかげで自在に空を飛翔出来た。
また竜の背中には81枚の鱗があり、喉の下には「逆鱗」と呼ばれる逆向きの鱗があったという。

竜はうまく飼い慣らせば人が乗る事が出来る程大人しくなる生物だが、
この一尺程の「逆鱗」に触れると竜は猛り狂い、触った者を誰彼構わず噛み殺すという。

基本は蛇体に他の動物のパーツが組合わさっているが、古代中国や南米及びツングース民族圏では人面蛇体も龍に含まれる。
竜生九子と言って角は鹿、頭はラクダ、眼はウサギ、背中は蛇、腹は蜃、鱗は魚、爪は鷹、掌は虎、耳は牛に似ているという。

前漢時代の墳墓から出土した壁画に既に現在とほぼ同様の姿で描かれている為、2000年以上の歴史をもつ事が判明している。
そのルーツには諸説あるが、人々に煮炊きを教えた燧人氏や治水の神である伏羲、
修繕神の女カ(女媧)などの三皇五帝の南方系列の神々が変容した説などもある。
戦国春秋期に屈原の『楚辭』で初めて龍という名称で描かれるが、長江流域ではそれ以前から名称は違えど同じ存在は語り継がれていたらしい。

一節には龍の概念は太古狩猟時代に確立したと言われている。
各部族はトーテムとして各々動物を崇めていたがそれらの部族が融和し、合成獣を連合のトーテムとして崇めたのが龍の原点と唱える研究者(聞一多など)もいる。
それ故か、龍の瑞窕は『天下太平』である。
また、河口等で出土した太古の恐竜や巨大な鰐等の化石から龍の存在が連想された、とする説も存在する。
また、インダス文明以前からインド-イラン地域には蛇(コブラ)を畏れると共に神格化したナーガ(インド神話)信仰があり、此れが仏教に取り入れられたりすると共に中国にも伝わり、道教に於ける龍の成立にも影響を与えたと考えられている
仏教で云う龍王とは、元はインド神話に於けるナーガ・ラージャ(蛇の王)である。

【性格】

頭が良く、人間に友好的。三本指から五本指まであり、本数が増えるほど賢く偉い。
玉を守っていると更に偉い。まぁ、本来の仕事は玉を守ることだけど。
また、玉を持っている龍は、海や湖など水の中に居ることが多い。

上で人間に友好的と書いたが、ある部分を触られると怒り狂い人を殺す。そう、かの有名な「逆鱗」である。
この事から転じて「触れてはいけない所」という意味になった。
因みにドラゴン(所謂、西洋の竜)にはない。元々、恐怖や悪の象徴なので。簡単に言えば、桃太郎の鬼。

【天敵】

上記の通り西洋のドラゴンと違い東洋の龍は水の聖獣で人間に友好的なのだが、殺すのが罰当たりとか言うわけでもないようで、創作では結構殺されている。
例えば唐代の小説『封神演義』の哪吒は、幼少の頃に龍の背骨を抜いた逸話がある。
同時期の小説『西遊記』でも独断で天命に背き雨を降らさなかった罪で、涇河龍王が魏徴の手で処刑されている(というか西遊記の龍は全般的にあまり強くない)。
また無用の長物の喩えに「屠龍の技」なんて言葉もある。

毒蛇を食らう猛禽を神格化したガルーダ(インド神話)はナーガの天敵であるため、此れを各々に仏教に取り入れた迦桜羅と竜は矢張り天敵の関係で、竜は生まれながらに迦桜羅に食われる宿業を背負っているという……ただし、これは普通の竜の話であり、悟りを拓き護法善神となった龍王は其れからも逃れているという。


【中国の代表的な竜神】


  • 伏義・女カ(女媧)
人首竜身の竜神。
伏義は八卦の祖とされ、女カは人類の母とされる。


  • 共工
人面蛇身
洪水をもたらす悪神として貶められた竜。
伝説的な聖王として敬われた(炎帝)神農を祖父に、
神農の補佐をした火神の祝融を父にもつ、強大な神威を持つ竜神であった。

  • 四海竜王
四つの大海(東海、西海、南海、北海)を治める4柱の竜神。
それぞれ「東海竜王」「南海竜王」「西海竜王」「北海竜王」と呼ばれる。
水と竜の王であるため魚やカニや貝などの海生動物や下位の竜たち、蛟や虹などの水棲の妖怪などを家臣として従えている。また海そのものはもちろんのこと陸地の天候(各地の降雨量や風の強さなど)までも制御している。
一方、彼ら自身もまた天帝(中国神話における世界の全てを支配する帝王)の家臣とされる。
個人名もあるのだが伝承によって名前が違っており、これは代替わりしたということなのか同じ名前が違う表記で伝わったのかは不明。
その姿については、普段は人間の姿をしているがいざとなると竜の姿になる、普段は竜の姿で人間界に出向く時だけ人間の姿になる、普段から人間の姿だが頭が魚という異形であるなど、伝承によって描写は様々である。
海や天候を操る偉大な存在として信仰されている反面、西遊記や封神演義などの民間の物語では主人公たちの咬ませ犬として情けない姿で描かれることも多い。
日本では田中芳樹氏の小説『創竜伝』(主人公たち4兄弟が四海竜王の生まれ変わり)で知ったという人が多いかもしれない。


【日本の竜信仰】

ここからは日本の竜(竜蛇)について紹介しよう

日本人の竜に対する観念は、中国のそれから強い影響を受けている。
だが、ただ輸入しただけの存在と見なす事は出来ない。
日本にすんなりと竜の概念が定着したのは、それ以前に蛇を神聖な生物とする観念が広く我が国にあったからなのだ。


日本の美術品などに描かれている竜の図柄には、大陸から流入した中華風のものが圧倒的に多い。

しかし『日本書紀』などの古い文献や、考古学的な出土品の意匠を検討してみると、そうした印象とは若干違う。
日本の竜の原型──すなわち古い蛇神信仰が浮かび上がってくる


日本における蛇は、世界的な傾向と同じく豊穣神、
すなわち田の神、水(雨、嵐)の神、山の神、生殖の神として信仰の対象になっていた。

これ等が統合されたのは、前述の様に東洋への仏教伝来と共に、中国でインドのナーガが竜と呼ばれて龍となり、これと同様のことが日本では民間レベルで起きた為である。
……とはいえ、インドの頃から蛇神は水神でもあり、肥沃な河川を其の姿に見立てられた龍神であった為に、こうした構図は“最初から”とも言える。


蛇祭祀は大抵女性の巫女の役目であると考えられている。


【日本の神話における竜蛇】


日本神話で最大最強の怪物。
前述の様に竜(龍)は河川の流れに喩えられていた歴史があるが、八妓大蛇は、更に火山国である日本では火山の溶岩の流れなのではないか、とする説が有力視されている。
更には、渡来人により日本にも根付いていた、火を使って金属加工を行う青銅、製鉄技術の象徴と見る説もある。
スサノオの振るった十拳剣(銅剣)が、大蛇の尾から見つかった天叢雲剣(鉄剣)に折られたのは、青銅よりも後から誕生した製鉄の方が優れているという構図。
そして、大蛇がスサノオに破れたのは、その技術を有していた出雲が大和の支配下に降ったことを顕すのだと云う。


  • 三輪山の神(蛇)
大和平野の三輪山に住まう神(オオモノヌシ)
「箸墓伝説」で有名。


  • 夜刀ノ神
『常陸国風土記』に登場する土着の神格。
角のある蛇という特徴的な姿をしており、多くの蛇を眷属として従えていた。


  • 九頭竜
日本各地にゆかりの地名や神社が存在し、信仰を集めている竜神。
岩戸の中に封じられ、梨を好物とした竜。
歯。


  • 竜宮城
日本の代表的な昔話の1つ、浦島太郎に出てくる竜宮城は竜王が住む海中の城であり、乙姫は竜王の娘とする説もある。
古いバージョンでは乙姫の正体は亀とするものがあるが、亀もまた龍神の眷属である。


  • 金太郎
金太郎のストーリーには竜は出てこないが、金太郎は赤竜と山姥の間に産まれた息子という伝承がある。


  • 五頭竜
神奈川県に伝わる伝説の竜。
かつて五つの頭のある邪悪な竜が湖にすみついて周囲の人々を苦しめていたが、
ある時ここに弁天様が現れてこの竜を改心させて人々を守護する竜神に変えてしまったという。
日本各地には同じような伝承があり、(海や川、湖に住む邪悪な竜を神や高名な僧侶が改心させる)
これは水害と治水を暗示していると考えられている。


【日本の創作における竜モチーフのキャラクター】


  • 龍の子太郎(たつのこたろう)
龍の息子である太郎が行方不明となった母親を探しに行く中で様々な冒険を繰り広げ、人を思い遣る心や仲間と力を合わせることの大切さを学んでいく物語。
ちなみに太郎の母親は太郎を産んだ後に山の神に龍に変えられてしまったので厳密には太郎は龍の子供ではなかったりする。
たまに伝承や昔話と勘違いされることもあるがれっきとした近代の創作絵本。

7つのドラゴンボールを集めると呼び出すことができる。
どんな願いでも一つだけ叶えてくれる龍。
見た目はまんま伝説の東洋系の竜。
神様によって作られた存在であるため、神の力を超える願いは叶えられない。
自分に可能なことであれば善悪などは気にせず誰のどんな願いでも機械的に叶えてしまうために悪役に利用されて騒動を起こす切っ掛けになることも多い。
また戦闘能力自体はあまり高くないようで悪役にバラバラに引き裂かれてしまうこともあった。

読みはしんりゅう。東洋の伝承の竜そのままなデザイン。最終ボスよりも強い裏ボスという扱いでリメイク版の3に登場。裏ボスだけあってその戦闘能力は凄まじいものがある。
規定ターン数より少ないターン数で倒すと様々な願いを叶えてくれる。

  • マンダ(東宝怪獣シリーズ)
『海底軍艦』やゴジラシリーズに登場した東洋竜タイプの怪獣。
ムウ帝国の守護神として崇められていた。普段は深海に住んでおり縄張りに入ってきた相手には獰猛に襲い掛かる。一応陸上にも上がれる。
全長150m(ゴジラ FINAL WARSでは300m)もの巨体で敵に巻き付いて絞め殺す戦法を得意とする。特にこれといった特殊能力はないがその肉体は非常にパワフル。
しかし冷気に弱く、冷凍兵器によって凍らされて粉砕されてしまうことが多い。

漢字では壬龍と書く。
本体はワニのような体格の四足の竜で、尻尾が8本の細長い竜になっているという特徴的な姿をしている。
本体はシルエットだけ見れば西洋風のドラゴンっぽくもあるが頭や首、鱗のデザインなどは明確に東洋竜を意識したデザインとなっている。(東洋竜の胴体と脚を太くしたようなデザイン)
恐らくはヤマタノオロチがモチーフと思われる。
日本の地脈を守る守護神であり、雷撃、水を操って形成するバリア、神通力など、伝承上の龍神のような能力を操る。一度はウルトラマンガイアを撃退してしまうほどの強豪。最終的にはウルトラマンとともに根源的破滅招来体と戦う。
後の『ウルトラマンマックス』に登場するナツノメリュウとの関係性は不明。

東洋竜モチーフのデザインのドラゴンポケモン。
なぜか進化してカイリューになると西洋ドラゴンモチーフになってしまう。
詳しくはカイリュー、ハクリューの各記事にて。

東洋竜モチーフのデザインのドラゴンポケモン。
伝説のポケモンの一体であり、他のポケモンとは一線を画す強大な力を持つ。
詳しくは個別記事にて。

ゴジラシリーズに登場する三つ首の黄金竜。
全体としては西洋ドラゴン風だが頭部自体は東洋竜風であり、ドラゴンと竜の両方の特徴を持つ怪獣である。
特に「ゴジラ モスラ キングギドラ 大怪獣総攻撃」版のキングギドラは頭部デザインや設定が明確に東洋の龍神を意識したものとなっている。

五星戦隊ダイレンジャーに登場。
リュウレンジャー/"天火星"亮が使役する気伝獣で、口から放つ大火炎でゴーマ怪人と戦う。
さらに、人型ロボ・気伝武人 龍星王に武人変化することで巨大戦に移行。カンフーにも似た格闘戦を得意とし、孫悟空の持つ如意棒にも似た飛龍棍から繰り出す大風車斬りが必殺技。
さらに、他の気伝獣四体と五星合体することで大連王となる。

  • 無双龍ドラグレッダー/烈火龍ドラグランザー
仮面ライダー龍騎に登場。一応は怪人に分類される。
レッダーとつく通り、真っ赤。

なんやかんやあって主人公の城戸真司と契約。
最初こそ真司を食べようとしたりもしながらも、主役ライダーのパートナーとして一年間共に戦い抜いた。

必殺仕事人V(1985年)の登場人物。京本政樹が演じている。
女性的な顔立ちで綺麗な着物羽織い、悪人を闇に葬る姿は必殺シリーズでも特に異彩を放っている。
パチンコ必殺仕事人激闘編では中堅のリーチを担当、続編の必殺仕事人Vではプレミアに昇格された。
その強さまさに竜の如し。

  • 金つばのリュウ
あんみつ姫(2007年-2008年)の登場人物。
やはり京本政樹が演じている。
普段は町の遊び人。
裏の姿は○○町同心。
その凄まじき力はまさに竜の如し。

  • 独眼竜
奥州の独眼竜伊達政宗
戦国BASARAの、CoolでPartyでYA-HAな蒼い人。
爪は六本。決して刀三本のマリモヘッドではない。
マヨラーな瞳孔全開な方でもない。
祓魔師を目指してもいない。
元は唐に仕えた武将で、後に後唐の太祖とされた 李克用 の異名。
元ネタの人が幼い頃に病によって右目を失い早くから「龍」の字を含む印を用いていたことから、江戸時代後期の頼山陽によって李克用に準えられた。
一説には教養人だった元ネタの人自身も李克用のことを意識して「龍」の字を使っていたとも。

  • リュウ
ストリートファイターシリーズの人物。
殺意の波動に目覚めたり確かに強く、逞しく。
昇竜拳を破らぬ限り勝ち目は無いが、残念ながら彼は竜ではなく隆。

名古屋に本拠を置くプロ野球チーム。
中部日本軍から中日ドラゴンズになった時のオーナーの干支である辰が球団名の由来であることから、球団公式ではモチーフは東洋の竜とされており、シャオロン&パオロンのデザイン、ナゴヤドーム旧ビジョンでのホームランの演出などで使われている。



【余談:漢字について】

  • の2通りの表記があり、日本では「竜」が略字で「龍」が旧字体とされているが、歴史的には 「竜」の方が甲骨文字に近く、「龍」の方が装飾を加えられた字 である。
また、字面のイメージとして「龍=東洋の竜」「竜=西洋のドラゴン」という意味で使われるケースがあるが、これはあくまでも日本の創作におけるフィクション特有の解釈である。



追記・修正は逆鱗を触らない人がお願いします。

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最終更新:2023年05月06日 15:32

*1 国土交通省がまとめた身延山久遠寺 - 本堂(墨龍)の解説ではコモドオオトカゲと英訳されている