SCP-1644-JP

登録日:2020/03/04 Wed 02:37:48
更新日:2023/05/28 Sun 19:32:56
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SCP-1644-JPはシェアード・ワールド『SCP Foundation』に登場するオブジェクトである。
オブジェクトクラスはEuclid。



特別収容プロトコル

まずは特別収容プロトコルから確認しよう。

SCP-1644-JPは場所系オブジェクトであり、財団は民間人がここに進入することを阻止している。
もちろん、逆にSCP-1644-JPに住む人達がこちらに進入することも阻止している。
とはいえ、SCP-1644-JPには、財団に協力的な組織『スシアカデミア』が存在しており、
ポータルの現実空間側には財団のフロント企業施設が建設されていて、SCP-1644-JP側にはスシアカデミアがあり、
それぞれのポータルを管轄している。
アカデミアとの交渉、情報交換等の交流は、財団渉外部門及び、超常食文化研究チームによって行われる。

ここまではふつうの異世界系オブジェクトだが、異世界系オブジェクトであるにも関わらず、
超常食文化研究チームなる食べ物系オブジェクトで出てきそうな連中が出張っているのがわかるだろうか。

概要

SCP-1644-JPは東京都中央区築地に存在する小規模な余剰次元空間とされている。
異世界系オブジェクトだが、SSAIS2世界重複に分類されているらしいので、現実世界となんらかの方法で被っている状態なのだろう。
ちなみにSSAIS2とは、「Stable:安定/Stationary:静止/Aided:従属/Instantaneous:同時/Safe:安全/Two Way:双方向」らしく、
おそらく「ポータルは安定していて動きもせず、こちら側の世界に大きな影響を及ぼさず、同じ時間の流れで危険ではなく双方向に行き来ができる」状態なのだろう。

で、SCP-1644-JP空間内の大部分は「スシアカデミア」と呼称される施設として利用されている。
……スシアカデミア?ああまあ築地だしね、お寿司の握り方とか教えてくれる施設くらいあってもいいだろう。
目で見て盗めなんて時代じゃないもんね、適切なカリキュラムのもとに寿司を学んで早く独立したほうがいいに決まっている。

で、そんなスシアカデミアのカリキュラムがこちらである。

  • 寿司史
  • お寿司の美味しい握り方
  • 現代寿司学
  • 軍艦設計理論
  • 寿司工学
  • 「スシとアート」理論/実践
  • 「スシとオカルト」理論/実践
  • 闇の寿司に対する防衛術

……2番めはいいとして、1番目も…まあ歴史は重要だよね、日本文化の重要なピースだし、寿司。
現代寿司学っていうのも、まあカリフォルニアロールとかアボガド巻とか出てきている現代では重要だろう。
軍艦設計理論っていくらとかウニでいいんだよね?いきなり吹雪ちゃんとか設計しないよね?
寿司工学…うーん、独創性のある創作寿司とかに使うのかな?
寿司アートはまあなんかいいかもしれない。フォトジェニックな寿司でインスタ映え狙おうぜ。

……うん、それでもである。

どう考えても、「スシとオカルト」はよくわからんし、最後に至ってはハリー・ポッターならぬブリー・ニギッターが出てきそうな気がするぞ。




……前任者がネギトロになってしまったので、後を引き継ぐ。

いちおう、スシアカデミアでも国語とか数学とか、そういう一般的な科目はある。
1年目で全部終了し、2年目以降は寿司専門科目のみになってしまうようだが。
大半の学問は、超常的な寿司に関係する講義であるらしく、食品、とりわけ寿司に関係するアノマリーが多用され、
その中には財団によって収容されているオブジェクトも含まれるようである。
なお、教員および生徒について、その身元は現時点でも確認できていない。
全寮制の高等専門学校であるらしく、5年間でカリキュラムは修了し、学年ごとに3クラスとなっている。
クラス名は松・竹・梅とつけられており、成績上位者から順に、松・竹・梅となっているものと財団は推察している。
寿司屋とかで松セットがいちばん高くて梅セットが一番安い、と言うのを知っていればわかるだろうが、
もし松竹梅のことをよく知らないのであれば、松はオベリスクブルー、竹はラーイエロー、梅はオシリスレッドであると覚えておけば良い。

食品に関するアノマリーの取り扱い方に長けているスシアカデミアによって、
財団は寿司を中心に15のアノマリーの収容方法を確立するための知識や技術を提供されている。
このことから、財団はスシアカデミアとの交流を維持するための活動に尽力している。

小樽博士の実験:Y群

小樽博士はスシアカデミア生徒会長、焼津寿一郎氏を案内人としてSCP-1644-JPの調査を行った。
スシアカデミアでは、初対面の相手に自分の得意な寿司を食わせるというのが礼儀らしく、シメサバを握って提供した。
そのシメサバは小樽博士がいままで食べたことがないほど旨かった上に現実歪曲効果を齎すほどのアスペクト照射を観測されていた。
これから分かることは第六生命エネルギー(EVE)の濃度が高いことを意味し、結果として寿司の鮮度と味の向上に繋がっているという。
小樽博士は焼津氏に頼み、他にもたくさんの寿司を握ってもらい、寿司を堪能しつつアスペクト照射の測定を続けた。

さらに、このとき握ってもらった寿司を他のお寿司ーピーとクロステストさせてみた。

クロステスト:SCP-389-JP

SCP-389-JPとは:とある2店の寿司屋の店内BGM用CD。これに曝露させると軍艦巻きは自律移動をできるようになる。別々のCDに曝露した軍艦巻き同士は海鮮ならぬ開戦。
西軍に焼津氏の握ったイクラ軍艦、対照実験として東軍にふつうのイクラ軍艦を据えて開戦。

西軍側のイクラ軍艦は目視可能範囲が拡大し、速度、破壊力、耐久力の向上、更に戦術の高度化が見られた。

クロステスト:SCP-571-JP

SCP-571-JPとは:西行という名字の寿司屋の板前。トラフグの肝、カシワの根の煮汁、三酸化二ヒ素を加えて、掛け声を叫びながら寿司を握ることで生きた寿司を握ることができる。
焼津氏のシメサバ握りを一度分解してプロトコル西行を行い、対照実験として普通のシメサバ握りも握ってもらった。

すると焼津氏のシメサバ握りのほうが移動速度、跳躍高度が上昇し、知性的な行動が見られた。
西行さんいわく、「美味しく食べられたいという気持ちがより強くなっている」とのこと。

クロステスト:SCP-1134-JP

SCP-1134-JPとは:
スシブレード!それは熱きスシブレーダーたちの戦い!
スシブレード!それは人生の縮図、男のロマンである!
焼津氏のシメサバと、ふつうのシメサバを持ってふたりのDクラス職員にスシブレードで対決してもらった。
結果、焼津氏のシメサバ……改めシメサバスターXXは対照群……改めシメサバスターに75%の勝率を記録。
秒間回転数は15~20回ほど向上している。なお名前が違う理由は不明。

焼津氏の寿司の高EVE濃度は、ただ食って美味いだけでなく寿司オブジェクトにおいても実績を向上させる結果に繋がっている。

この梅野郎が……


そんなこんなで再びスシアカデミアを訪れた小樽博士。

担当者: 小樽博士

付記: 調査は前回同様、スシアカデミア側からの案内人(焼津 寿一郎氏)を同行させる形で行われました。

<記録開始>

小樽博士: ではこれより調査を開始します。案内人は前回調査と同じく、焼津 寿一郎さんです。よろしくお願いします。

焼津氏: よろしくお願いします。本日は私以外のお寿司のサンプルが必要なのでしたよね。

小樽博士: はい。どなたかいらっしゃいますでしょうか。

焼津氏: そうですね…では教育棟の5年生教室の方へ向かってみましょうか。今は放課後ですから誰かいるかもしれません。

小樽博士: わかりました。しかしこの学校、随分と広いですね。前に伺った時はこんなに大きいとは思いませんでした。

焼津氏: 前回は厨房室のある実習棟しか行きませんでしたからね。このアカデミアは教育棟、実習棟、研究棟、管理棟、魚の養殖や米の栽培を行っている野外エリア、学生寮のある居住エリアに分けられます。

小樽博士: どれくらいの広さがあるものなのですか。

焼津氏: そうですね…正確な数字は知りませんが、先生が東京ドーム60個分くらい…などと話しているのは聞いたことがあります。と言っても幼い頃から寿司の修行ばかりで、そのドームというのがどういうものなのか良く知らないのですが。

ここまでは終始和やかなムードである。

しかしここから状況は一変する。

小樽博士: …いえ、ありがとうございます。正確な数字は恐らくここの管理者の方々に問い合わせれば分かるでしょうから。…ところで何か変な音がしませんか。

[爆発音。気絶しているらしき生徒がカメラの方に吹き飛ばされてくる。]

小樽博士: 落ち着いて、安全確認をしてください。

[口笛と推定される音声。一般的な寿司と比べて明らかに巨大な軍艦巻きが隊列を組んで出現する。]

焼津氏: この口笛と軍艦は。

小樽博士: 知人ですか。

焼津氏: ええ。本校の風紀委員長、三崎 総司くんです。三崎くん、どうしてこんなことを。お客様も来ていらっしゃるのだから、失礼な行動は慎みたまえ。

唐突に現れた風紀委員長。焼津氏が生徒会長なので、さしずめライバルキャラといったところか。
そんな三崎氏は巨大な軍艦巻きを隊列を組ませて引き連れていた。
なぜ三崎氏は軍艦巻きで生徒をボコったのか。

三崎氏: おや、それは失礼いたしました。あとでお詫びに伺います。しかし今は委員会の業務中なので、少々お待ち頂きたい。…さぁ、生徒会長さん、そこの梅野郎をこちらに引き渡しては貰えないだろうか。

焼津氏: 委員会の業務だと。一体なんの権限があって人をこんなに傷つける。寿司は人を傷つけるためにあるんじゃない。

三崎氏: …アカデミア校則第12条3だ。僕の寿司は人を守るためにある、闇寿司なんかと一緒にするな。

焼津氏: 第12条…闇寿司思想か。だが、この子のことは知っているぞ、成績こそ振るわないが、真面目で人柄のいい生徒だったと記憶している。彼が一体何をしたというんだ。

三崎氏: 梅野郎を庇い始めるとはな。…そいつはな、寮の部屋にマヨネーズを隠し持っていたんだ。そうしてそれを問い詰めると、新たな寿司の可能性の探求などと梅のくせに生意気なことを抜かしやがる。

梅野郎とかいう悪口でバラン生えそうだが、
どうやら三崎氏はその落ちこぼれがマヨネーズを持っていたことに激怒していたらしい。
しかし、三崎氏は別にマヨネーズアンチというわけではない様子で……

焼津氏: 梅だの松だのは関係ないだろう。

三崎氏: いいや、能力の無いものがそれを誤魔化すために寿司の基本を疎かにし、邪道な素材に頼り始める。それが闇寿司堕ちの可能性が最も高い行為なのだ。

焼津氏: だからってそんな、こんなこと許されるはずが…。

三崎氏: こうでもしなければアカデミアは、ひいては日本の寿司界は闇に飲まれる。君の父親の様な犠牲も増えることになるぞ。…とはいえ、お客様の前でこれ以上の面倒ごとは避けたい。ここは退いてやるから、その梅野郎を医務室に運んでおけ。それと、お客様を応接室にご案内しておけ。じゃあな。

そう、「基礎も出来てないやつがマヨネーズなどの素材に頼って創作寿司に走る」行為を嫌っていたのである。
軍艦巻きを暴力行為に使う奴が言うなよ。

焼津氏: 三崎くん…どうして君は変わってしまったんだ…。いえ、失礼しました。お見苦しいところを見せてしまいましたね。

小樽博士: いえ、興味深い記録が取れました。気絶した生徒さんを運ぶのも手伝いますよ。

焼津氏: ありがとうございます。

[小樽博士らが応接室へ向かうと、寿司折と簡素な謝罪文が置かれていた。]

<記録終了>

やっぱり菓子折じゃないんだ。
ともあれ、今度は焼津氏とは違う三崎氏の寿司を手に入れた小樽博士。
そして三崎氏の口笛は、SCP-389-JPと同等の効果を持つ可能性があることも示唆された。
ならばやっぱりやるしかない。



小樽博士の実験:M群


クロステスト:SCP-389-JP

イクラ軍艦を使用。

こちらの軍艦は目視可能範囲が焼津氏のイクラ軍艦以上に広がっており、
かつ破壊力も抜群であった。……まあ人間をぶっ飛ばせる破壊力だもんな……。
耐久力と戦術も更に向上。

クロステスト:SCP-571-JP

今度はマグロの赤身。
こちらは速度、跳躍高度は向上したが、運動能力自体は焼津氏のシメサバに比べて落ちた。
またプロトコル西行の時間が15%ほど増加している。
西行さんいわく、「美味しく食べられたいという気持ち以外の雑味がある」らしい。

クロステスト:SCP-1134-JP

ネギトロ軍艦で再びスシブレード。

結果は勝率97%とふつうのネギトロ軍艦に圧勝してしまっていた。
むしろ3%勝ちを拾った普通のネギトロ軍艦がすげえレベル。

なお、普通のネギトロ軍艦がネギトロイヤーなのに対して、三崎氏のネギトロ軍艦はネギトロイヤーZZらしい。

全体的に非常に攻撃的かつ破壊的な結果が得られている。
三崎氏の寿司調理の方向性が闇寿司思想への懲罰にあることなどが一因か。

闇寿司ってなんなの

小樽博士がこの訪問を行ったときはあくまでよくわからなかった闇寿司思想。

……しかし、スシブレード実験を行ったあと、SCP-1134-JPハンバーグラーメンの前に敗れ、意識不明の重体に陥った。
そのラーメンを放ったのが闇寿司の親方を自称する男である。

小樽博士は焼津氏にインタビューを行った。

闇寿司は寿司職人の誇りを失い、邪道に堕ちた者の組織、とアカデミアで教えられる存在であるという。
それだけでなく、焼津氏の父親をも手にかける、人間性も失った外道の集まりであったという。
といっても焼津氏の父親は命を取られたわけではない。……が、寿司屋として命である、手を潰されたのだと。
他者の技術を奪い、独占せんがために人々を傷つける外道、それが闇寿司である。

……と同時に、アカデミアで規定された「闇寿司思想」とは、
そうした闇寿司に堕ちかねない生徒への規定らしく、
適切に教育がなされれば三崎氏のような懲罰をしなくとも改善され得るはずだと焼津氏は主張する。
そして、三崎氏のやっていることは闇寿司にむしろ近いのだと。
寿司が持つ超常性、それを先人たちは美味さに変えてきた。三崎氏はそれを美味さではなく力に落とし込んでいる。

闇寿司がラーメンを使うことも、焼津氏からすればおかしくないのだという。
闇寿司は寿司の概念を拡張しており、物理的に寿司でなかろうが寿司を言い張って出しているのだと。

焼津氏は夢を語る。
いつか職人としてみんなに寿司を食べてもらいたい、そのためにも闇寿司を倒してほしいと。
財団も人々の生きる正常な世界とうまい鮨を守るのが使命ゆえ、打倒闇寿司を目指すことで合意した。
そして、焼津氏と三崎氏がいつか寿司について語り合える日が戻ってくることを祈念した。

そして財団は寿司の概念について研究を開始した。


舞台は豊洲へ

2020年2月、東京都江東区豊洲にもポータルが出現。
これと日を同じくしてスシアカデミアから三崎氏が行方不明になっていることがわかった。

三崎氏が寮に残した置き手紙には、「闇寿司の親方の居場所がわかった」という旨と、
マヨネーズ、及びトウモロコシやまぐろフレークなどの缶詰の空き缶が発見された。






焼津氏と三崎氏が再びわかり会える日は来るのか。
そして、寿司の明日はどっちだ。






SCP-1644-JP - スシアカデミア 築地校



追記・修正は異常性のないお寿司を食べてからお願いします。

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最終更新:2023年05月28日 19:32