霜の巨人(北欧神話)

登録日:2020/03/24 Tue 15:28:56
更新日:2020/03/25 Wed 17:11:08
所要時間:約 27 分で読めます




『霜の巨人(jotun)』は北欧神話に於ける“巨人”の代表的な種族であり、神話内での主敵。
基本的に北欧神話で“巨人”と云えば“霜の巨人”を指すと云う位に出番や言及が多い。
英語ではFrost Giantとなる。

神々と基本的には敵対しており、巨人という呼び名からも恐ろしい怪物としての姿をイメージされることが多いものの、中には神々や人間と近しい姿(背丈)をしていたり、神話内で神々との血縁が言及されたり、人間から神の類として信仰を受けている巨人も居たりと、実際の線引きは曖昧だったりもする。

古ノルド語に由来する英語化された呼び名として、ヨトゥン(ヨツン、ヨートゥン)等と表記、紹介されている場合もある。
原義的には“大食い”や“人食い”*1の意味があるとされる。

尚、この語は北欧神話で言う“巨人”全般に使われる語ではあるものの、実際には種類こそ少ないものの霜の巨人(ヨトゥン)以外にも北欧神話には幾つかの別の巨人の種族が存在する。

霜の巨人の棲む世界(国)をヨトゥンヘイム(ヨーツン、ヨートゥン)と云い、霜の巨人の他にも山(丘)の巨人(ベルグリシ)が棲むが、血統的にはあまり区別が無いようである。
ゲルズの母アウルボザや、グロッティと呼ばれる人間には回すことが不可能だが願ったものを再現無く生み出せる石臼を回すように命じられて応じるが、最後には主人を破滅させてしまう女奴隷のフェニヤとメニヤ等が山の巨人として分類されているが、彼女達の血縁は後述のフルングニルの様な高名な霜の巨人達であるという。
このように、山の巨人と明言された巨人は霜の巨人に比べてずっと少ないが、素性を隠してアースガルドの城壁を修復する見返りにフレイヤの身柄を要求したのも、名の判然としない山の巨人であったとされる。

北欧神話に題材を取ったファンタジー作品等では“霜の巨人”に相応しい極寒地獄の様なイメージとされている場合もあるのだが、実際の神話内では地獄の様な場所ということもなく*2、敵陣ではあるものの、神々の本拠地であるアースガルドと大して変わらない文明レベルの国として描かれている。


【概説】

太古の混沌から生じた、荒々しい大地の力の象徴であり、大自然を人格化したという意味では神々とも共通しているが、巨人の名の通りに魁偉で巨大な怪物としてイメージされることも多い。
神々と巨人の戦いとは、北欧神話が信仰された地域に於ける厳しい大自然と、それに挑む文明の戦いの縮図であるとも解説されている。

創生神話に於いて原初の巨人ユミルを生んだのと同じく、霜の巨人は霜が溶けて立ち込めた毒気から生じたとされる。
その霜とは、ニヴルヘイムのフヴェルゲルミル*3という泉から伸びるエーリヴァーガルという11の大河により運ばれ、その水が末端で凍って積み重なり層となった毒気を含む氷であり、その層は遥か奈落まで届く……と『ギュルヴィたぶらかし』では記述されており、毒気より生まれているが故に巨人は獰猛なのだとも云う。

実際、そこまであからさまではなくとも勇猛さと共に賢さや美しさを讃えられまくっている神々に対し、巨人は醜悪な見た目で知性の欠けた存在として描写されるのが基本ではあった模様。
『エッダ』では子供の気性が複数回に渡り巨人に例えられているという。

北欧神話や北欧神話にインスパイアされた作品でも巨人を破壊的で知性の低い存在として描くのが基本となっている訳だが……その実、元ネタである北欧神話ではそうした“基本パターン”から外れた描写のされている巨人が多い。
固有の名前のある巨人の場合なんかでは、前述のロキの子供達やスリヴァルディの様な“怪物”として描かれる者は珍しい部類であり、見た目や背丈も普通で地位も神々に準じるか、神と同じと呼んでも差し支えのない“巨人”が存在している。

そもそも、敵対している神々からして巨人から妻を娶っている者が少なくない上に、実際にはロキに限らず巨人族の血を引いている者も多い。
……そもそも、最高神であるオーディンからしてがそうなのだから、神々と巨人の違いとは“実際には殆ど無い”と言ってもいいのだろう。

そうした意味では、北欧神話に於ける“巨人”とは見た目の属性ではなく、ギリシャ神話でのティターンやインドでのアスラと同様の、メインの信仰対象である神々に敵対こそすれ、
元を辿れば神々とは近縁、同根の存在であり、場合によっては神々の席に加わることもあるという位の存在と言える。
こうした構図は古代オリエントに共通するインド-ヨーロッパ族の自然神信仰に共通している構図であるし、北欧神話もまた、その類型神話である証明の一つでもある。

尚、後述のスリヴァルディの様な見た目にも怪物的な“巨人”のイメージは、後に北欧各地で伝承を語られた魔物や妖怪、精霊の類であるトロールに引き継がれたと考察されている。
トロールというと、キモ可愛い小人の妖精というイメージも強いが、ああした平和的で牧歌的なトロール像はノルウェーやスカンジナビア半島での伝承に依る物で、アイスランドやフィンランドでは邪悪で破壊的な人食いの怪物としてのトロール像が伝えられており、そうしたイメージは正に神話内での“霜の巨人”を思わせるものとなっている。

実際、トロールは年を経て強力となると複数の頭を持つようになったり、単眼の邪鬼とも呼ぶべき種が居たりする。
これも、インドやギリシャ神話での同種の怪物からの影響であるかもしれない。


【巨人と神々の誕生】

──北欧神話の創世神話より。

まだ、世界にニヴルヘイム(極寒の世界)とムスペルヘイム(灼熱の世界)しか無かった頃。

世界ば未だ形作られておらず、中央にはギンヌンガガプ(空虚)と呼ばれる裂け目しか存在していなかったが、そこで北方と南方より吹き込んだ極端な温度差の空気がぶつかった。
北からの冷気が運んできた霜が南からの熱気で溶かされて毒気が生じ、その毒気が凝り固まってユミルという途方も無く大きな原初の巨人となった。

ユミルは自分と同じく霜から生じた毒気が凝り固まって生まれた原初の雌牛アウズンブラが氷を舐めることで滴らせる乳を飲んで暮らし、その巨大な肉体の各所からはユミルの子である巨人達が生み出されて群れを成した。

そんな中、アウズンブラが餌としていた、周囲の塩分を含む氷より人の形が現れてきた。
アウズンブラが舐め続けることで外に出でた人の形は最初の神であり、ブーリと云った。

やがて、ブーリにはボルという息子が生まれた。
如何に生じたのかは判明していないが、ボルはユミルの子の一人であるボルソルンの娘のベストラと惹かれ合い夫婦となり、三人の息子が生まれた。
長男はオーディン、次男はヴィリ、三男がヴェーで、彼等がアース神族の始祖となった。

神であるオーディン達三兄弟は血縁関係がありながらも基本的に粗野な巨人達とは相容れず、対立の末に、遂には巨人達の始祖にして長となっていたユミルを殺害するに至った。
そして、オーディンに殺されたユミルから流れ出た血の奔流は大洪水となって、最初の世代の巨人達の殆どを飲み込んだ。
しかし、ユミルの孫のベルゲルミルと彼の妻だけは方舟を作って洪水から逃れた。
そうして、別天地(恐らくはヨトゥンヘイムとなる地に)へと漂着した夫婦は、新たなる世代の巨人の始祖となった。

一方、ユミルと共に巨人の殆どを滅ぼす形となったオーディン達はユミルの肉体を解体すると、血から大河と海を、肉体から大地を、骨から山を、歯と骨の残りから岩石を、髪から草木と花を、睫毛からミドガルズを覆う城壁を、頭蓋骨から天を生み出すと、ノルズリ(北)、スズリ(南)、アウストリ(東)、ヴェストリ(西)の名を持つ小人(ドヴェルグ)に支えさせ、更に脳髄より雲を作り出して天に浮かべた。
更に、余ったユミルの死骸に涌いた蛆に人の形と魂を与え、これが妖精になり……こうして世界が生み出された。


これが、北欧神話に於ける創世神話であるが、矢張り古代オリエントに共通する原人(巨人)伝説や洪水伝説が取り入れられているのが解る。

北欧神話の神は、発生こそ巨人達とは分けられているものの、独神であった原初の神ブーリを除いては次なるボルが早速巨人であるベストラを娶って子供を生み出していることからも、矢張り曖昧な関係にあると言っていいだろう。
尚、ブーリとボルに関する記述はこれのみであり、最高神オーディンの祖父と父であるとされている以上の存在理由は皆無である。
……ひょっとすると、アース神族の神系譜が出来上がる頃には既に存在価値を無くしていた“閑な神”なのかもしれないが、それにしても、全く信仰の形跡が確認出来ないことからオーディン(や他の最高神格)から遡って生み出された“父”に過ぎないのかも知れない。
此れはオーディンの兄弟達にも言え、オーディンが主権を握った後は直ぐにオーディンの他にはトールを初めとした息子世代の神々の物語となってしまい、本来ならば重鎮となるべき筈の弟神達に言及されることは殆ど無くなってしまう*4
何れにせよ、始祖の世代から血縁関係があるにも関わらず犬猿の仲であったのが北欧神話の神と巨人の関係である。


……一方、上記の創生神話にてユミルが生み出される切欠となったムスペルヘイムには、ユミルの血族とは別の巨人族=火山の人格化と考えられる炎の巨人ムスペルと、その王にして番人であるスルトが居たことが後々の伝承にて語られているのだが、彼等が登場するのは最終戦争ラグナロクという、最終盤のクライマックス部分になってから漸くである。
創生神話は勿論、平時を描いた神話で出てくるのは殆どが霜の巨人で、稀に丘の巨人が言及される程度で炎の巨人には殆ど記述が見られない。
こうした事実からも、ラグナロクの展開や、そこで世界をリセットさせる役割を果たすスルトとムスペルは、この神話を信仰していた人々が北欧地域に定住した後に、元々の信仰に付け足していった部分なのではないかとも想像される。

また、ニヴルヘイムにはフリームスルスと呼ばれる種族が住むともされており、研究家によっては彼等は海の人格化で、ユミルより生まれた第一世代の巨人である……と主張する意見もある。


【主な霜の巨人】


  • ユミル
原初の巨人であり、全ての巨人の始祖。
そして、世界の元となった材料。
同様の神話はシュメールを初めとして、古代オリエントの各地に残る。
ユミルの名はインド神話に於けるヤマと同じである。
最初の死者にして、それを踏まえても名前には“混成物”や“両性具有”の意味を含むと解せ、単独で雄も雌も生み出せた理由付けとなっていると受注され、ユミルは巨人は勿論、人間の始祖でもあるという。
他の異名にアウルゲルミル(耳障りにわめき叫ぶ者)がある。
普通は、ユミルから生まれたのは霜の巨人であり、ユミルはその第一世代の長であるとされるが、前述の様にユミルから生まれた第一世代はフリームスルス(霧氷の巨人)であるとして区別する研究家も居る。


  • ボルソルン
オーディンの母ベストラの父。
名はベルソルとされている場合もある。
名前の意味は“災いの茨”である。
古エッダの『ハヴァマール』によれば、オーディンに九つの神秘的な呪い、或いは歌(galerar)=呪文を教えた無名の巨人の父とされている。


  • ベルゲルミル
オーディン達による始祖ユミルの殺害により生じた血の洪水より、妻と共に方舟を作って逃れた新たなる世代の巨人の始祖。
前述の様にユミルから生まれた世代が霧氷の巨人とするのならば、ベルゲルミルから後の世代からが霜の巨人であるとして分けるべきとの意見もある。
この伝承に関して、研究家はユダヤ-キリスト教の洪水伝説=ノアの方舟の件から発想されたのだろうと見ている。
ベルゲルミルの父は、ユミルの子で六つもの頭を持つ巨人スルーズゲルミル(猛烈に叫ぶ者)とされているが、カッチョいい響きはともかく他の伝承に乏しく、名前の登場してくる『ヴァフスルーズニルの言葉』を残した詩人が考え出したものだろうと想像されている。


  • ミーミル
オーディンの伯父に当たるとされる知恵の巨人であり、その名も“ミーミルの泉”と呼ばれる知恵の水の沸きだす泉の番人たる賢者。
知識を得る為に世界を旅したオーディンは泉に立ち寄った際に、自らの片眼を担保として差し出すことで泉の水を飲む権利を得たという。
また、泉には世界の終末を告げるヘイムダルの角笛ギャラルホルンが隠されており、普段はミーミルが杯として使っているという。
……一方、ミーミルはアース神族とヴァン神族の戦争が終結した際にアース神族より送り出された人質の一人であったともされている。
伝承によれば、彼がヘーニルと共にヴァナヘイム(ヴァン神族の国)に送られて後、当初はヴァン神族は彼等の到来を喜びヘーニルを新しい王として迎えたのだが、ヘーニルは何を決めるにもミーミルを頼る情けない男であった。
此れに我慢のならなかったヴァン神族は自分達の決定の誤りを認めたくなかったのかミーミルの首をはねてアースガルドに送り返したという。
オーディンはミーミルの首が腐敗しないように薬草を刷り込んだ上に、魔術を用いて生き返らせると、以後は首を自分の相談役として側に置いた。
以上の様に、ミーミルの伝承は微妙に時系列が解り難く、巨人なんだか神なんだかもハッキリとしていない。
一説では、泉の番人であることから水に纏わる現象の人格化である「水の巨人」であり、泉その物が肉体で首だけが立ち現れていたと想像されたりもしている。
一方、首を相談役とする猟奇的な描写については、古代のアイスランドには死んだばかりの男や子供の頭(霊?)が様々な物事を教えてくれるという言い伝えがあり、オーディンが縊死者に語りかけて様々な事柄を知るという描写と同じく、その言い伝えが神話にも盛り込まれたものだろうと想像されている。


  • ヴァフスルーズニル
オーディンと命を賭けて知恵比べをして敗れた巨人の賢者。
前述の『ヴァフスルーズニルの言葉』にて、オーディンにアウルゲルミル(ユミル)より始まる巨人の歴史を詳らかにした。創生神話では思いっきり当事者なんですが最高神はボケてたのだろうか?
最終的に「息子のバルドルの遺骸に私は何と声をかけるか?」とするオーディンの質問には答えられずに命を落とした。
息子の名はイームとされる。


  • グンロズ
アース神族とヴァン神族の戦争後、休戦のシンボルとして神々が吐き集めた唾液よりも生み出された聡明なクヴァシルが世界に知識を広める為の旅の途中でドワーフのフィアラルとガラールに殺されてしまい、遺体から絞り出された血と蜂蜜を混ぜて“飲んだ者を詩人や学者にする”蜜酒を作り上げた。
後にこの性悪な二人組は霜の巨人のギリング夫妻も謀殺するが、その息子のスットゥングに悪事が暴かれ殺されそうになったのを蜜酒を差し出して命乞いした。
そして、グンロズはスットゥングの美しい娘で、父の手に入れた蜜酒の見張りを命じられていた。
後に、世界を旅していたオーディンは蜜酒を得る為にスットゥングの弟のバウギの奴隷達を殺し合わせると、ボルヴェルクを名乗って取り入り唯一の働き手として信用を勝ち取ったが、バウギの口添えがあっても蜜酒を飲むことは叶わなかった。
しかし、バウギがラチ(錐)で蜜酒を隠してあるフニットビョルグ山に穴を空けると蛇に変身したオーディンが潜り込み、そこでグンロズに出会った。
オーディンはグンロズを籠絡すると三夜を共にし、メロメロになったグンロズは三口を飲むことを許すが、オーディンはその三口で全ての蜜酒を飲み干すと鷲に化けて逃げ出すのだった。ヤリ捨てですかそうですか。
娘を傷物にされた蜜酒を奪われたスットゥングはオーディンを追いかけたが取り戻せなかった。
しかし、追跡に慌てたオーディンは幾らかの雫を溢してしまい、それは誰でも飲めたので“ヘボ詩人の分け前”として広まった。
しかし、後に最高神となったオーディンは神々や才能のある人間には公平に蜜酒を分け与えた。
尚、古エッダの『高き者の言葉』では、オーディンとグンロズの愛が、互いに結ばれないことを理解していながらも純粋な想いで結ばれていたことを示す物となっており、後の神話とは印象が違う。ヤリ捨てた側の勝手な思い込みかもだが。


  • スリヴァルディ
雷神トールにより殺されたとされる、九つもの頭を持つとされる巨人。
名前は“三倍強い(thrice mighty)”という語が名前として縮められたもの。
トールを讃える語、そしてトールを示すケニング(代称語)として“九つの頭を叩き潰した者”が使われていることから、相当な強者だったと想像されるが、上記の様に謂わば過去の武勇伝に名前が登場してくるのみで詳細は不明。


  • ヒュミル
隻腕の軍神テュールの父ともされる賢い巨人。
幾つかの異説があるが、トールと釣りに出かけた際にトールがヨルムンガンドを釣ってしまう話にてトールと釣りに出かけた巨人。
古エッダでは邪悪で粗暴な性のある巨人として、エッダではトールのハチャメチャに巻き込まれてしまう好人物と、人物造形に違いが見られる。


  • フルングニル
“最強”を謳われる巨人。だが、微妙に人間味溢れて仕様の無い性格。
頭は石で、心臓は砥石で出来ており巨体。
無敵の盾と投擲武器として砥石、更には近接武器として槍を持つ。
自慢の駿馬グルファクシ(黄金のたてがみ)により、オーディンのスレイプニルと競争していたが、勢い余ってヴァルハラ宮に突入してしまう。
こうなったら勝負も無いと、オーディンは客人としてもてなすが、フレイヤの酌もあってか悪酔いして調子に乗ったフルングニルはフレイヤとシヴを国に連れ帰り、他は皆殺しにしてやると放言をかました。
タチの悪い客が居ると云うことで呼ばれてきたトールもこれを聞いて大激怒、いきなりミョルニルで叩き殺そうとするが、雷神の怒気に素面に戻ったフルングニルは、自慢の盾と槍の無い状況では勝ち目が無いと、何とかこの場を取り繕うと決着は後日の決闘で付けることに。
国境のグリョートトゥーナガルザルで行われた決闘では、神々も巨人も“おらほのじまんのせんし”を勝たせるべく知恵を絞ったが、巨人側がフルングニルの援軍として作った巨大な粘土人間のモックルカールヴィは、雌馬の心臓を使っていたことからトールを見るなり失禁するという役立たずで失敗。
対して神側は、トールの召使いシャールヴィの“トールは地下から攻める”というミスリークが功を奏し、フルングニルに防御の為に自慢の盾を地面に置かせることに成功。
武器同士の対決に絞ってしまえばミョルニルの前にフルングニルの砥石が勝てる筈も無く、空中で激突したミョルニルはあっさりと砥石を破壊したばかりか、勢いそのままにフルングニルの頭蓋骨を砕き、決闘はトールの勝利となったのであった。


  • ヤールンサクサ
トールとフルングニルとの決闘に於いて、フルングニルの死体の下敷きとなった父トールを生後三日目にして助けたマグニの母親とされる。
トールの正妻はシヴなので、愛人や側室と思われるが詳細は不明。
ヘイムダルの母親とされる、後述のエーギルとラーンの九人姉妹の一人ともされるが矢張り詳細は不明である。


  • スリュム
霜の巨人の王の一人で、トールよりミョルニルを盗み出した。
ありとあらゆる宝を有しているが、唯一持っていない宝として、愛の女神フレイヤの身柄をミョルニルとの交換条件に出して神々を困らせた。
当のフレイヤも断固として拒否の意思を示した訳だが、ヘイムダルの提案でトール当人を女装させてロキと共に送り込むというイカれた作戦が決行され、超近眼とか何かだったのかすっかりと騙されたスリュムがミョルニルを女装したトールの膝に置いた瞬間に頭をカチ割られて殺害された。
特に名前は伝わっていないが、スリュムにはトール達に持参金を要求した姉が居たが、彼女も同じく頭をカチ割られて殺害されている。


  • スィアチ
莫大な黄金を持っていた巨人アルヴァルディの子で兄弟はイジとガング。
兄弟が、父の遺産の黄金を自らの口を秤にして正確に数えたとする伝承から黄金を“巨人の口数え”と呼ぶケニングが出来たという。
鷲に変身するのを得意としており、その姿で旅の途中のオーディン、ロキ、ヘーニルが昼食に牛を焼いて食おうとしていた所にちょっかいをかけ、魔法で牛が焼き上がらないようにしておき、止めるように抗議にやって来たロキをまんまと拉致した。
スィアチは解放の条件として神々の不死を保つ黄金の林檎と管理者である女神イズンの身柄を要求すると、突き落とされたくないロキは此れを承諾してしまい、哀れイズンは黄金の林檎と共にヨトゥンヘイムへ連れ去られてしまった。
すると、本当に神々は老い初め、原因であるイズン誘拐に関与していることが明らかになったロキが解決を命じられる。
ロキはフレイヤより借りた鷹の羽衣でスィアチの屋敷であるスリュムヘイムへと赴くと、運良くイズンのみが残されていた。
ロキはイズンを一個の胡桃に変えてからアースガルドへと飛び立つが、戻ってきたスィアチが鷲に変身してロキを追う。
もう追いつかれるという段でロキはアースガルドに入ると、待ち構えていた神々は用意していた鉋屑の火の粉で鷲の翼を焼き、スィアチは墜落して果てたという。
直接的に神々と戦ってはいないものの、以上の様にかなりの強者で、古エッダの『グロッティの歌』ではフルングニルとその父より強かったと謳われている。
また、古エッダの『ヒュンドラの歌』によれば、スィアチはオーディンやフレイの妻ゲルズの身内であるとする趣旨の記述がある。


  • スカジ
またはスカディと呼ばれる美しい女巨人で、巨人とされているが、元来は山の女神だったと予想される。
スィアチの一人娘で、父が倒されたことを知ると武装して単身アースガルドに乗り込んでいくが、そこで神々の内の誰かを婿とりさせるという条件を出されると、それを飲んで和睦に応じた。
以前から懸想していたのか、スカジとしてはオーディンの息子で美少年のバルドルと結婚したかったのだが、婿選びの条件として布を被って誰だか解らなくした男神達の足だけを見て選ぶようにと言われ、スカジが選んだのは波で常に足を磨かれているので一番の美脚となっていた海神ニョルズであった。
ちょっと機嫌を損ねたスカジだったが、続いて出した“自分を笑わせよ”という課題を、ロキが身体を張った爆笑必至の宴会芸*5を披露してクリア。
更に、オーディンがスィアチの両眼を天に上げて星にしたことで彼女は機嫌を直しニョルズとの同居にも応じた。
……しかし、海の神と山の女神では根本的な生活環境が違いすぎて互いにストレスを抱えることとなり、二人はそれでも、互いの元の生活圏内をローテーションで行き来する等の涙ぐましい努力を続けるも、自然と別れてしまったという。
その後のスカジについては幾つかの異説がある。
『ロキの口論』では、実はロキとも関係を持っていたことを当人からバラされて恥をかかされるが、後にロキがバルドルの謀殺の件で捕縛された時には報復だったのか、罰である蛇の毒がダイレクトに顔面に滴るようにした。
別の伝承では、後にトールの義理の息子で狩猟とスキーの神であるウルと出会い、同じく山を愛する者同士で、今度こそ幸せに暮らしたとされる。
『ユングリング家のサガ』では、ニョルズと別れた後はオーディンと結婚し、セーミングを初めとした多数の子を得たという。
一方、このセーミングが10世紀のノルウェーの統治者ハーコン大公の祖先とされていることから、為政者の氏神や血脈をオーディンに繋げる意図があった話なのでは、とも思われる。
尚、一時的とはいえニョルズの妻であったことから、フレイとフレイヤの母親と見られることもあるが異論が大きい。
フレイとフレイヤはニョルズがヴァナヘイムに居た頃に妹との間に生まれた子供とされ、アースガルドに来た時には既に成人=スカジがニョルズとの結婚を最初は嘆いたのも、美男子というより美丈夫というか、既に結構な年の子持ちのオッサンだったからだろうか。


  • ウートガルザ・ロキ
ヨトゥンヘイムにある、巨大な城壁で守られた都市ウートガルズの王。
巨人の王であるのは確かなのだが、霜の巨人か否かについては微妙にハッキリとしていない。
幻術が得意で様々な策謀を巡らすのを好み、自分の領地や館にやって来たトールと御付きのシャールヴィとレスクヴァの兄妹(及びロキ)を散々に翻弄して敗北を味わわせた。
トールが最初に領地に入ってきた際に自ら出向いていくと、遠くの山を肉体に見せかけた超巨大な巨人スクリューミルに化けて翻弄。
トールは挑発されるままにスクリューミルの頭を叩くのだが、それは山であった。
そして、トール一行を自分の砦に迎えた際には、様々に趣向を凝らした競技に挑ませ対戦相手までも用意するが、それ等は何れもがウートガルザ・ロキが幻術で配下の巨人や老婆、猫の姿に見せかけた概念的存在達ばかりだった。
トール(またはロキ)は大食いでロギ(正体は全てを焼き付くす火)に敗れ、従者のシャールヴィはかけっこでフギ(正体はウートガルザ・ロキの思考)に敗れ、今度はトールはウートガルザ・ロキの愛用という杯で呑み比べに挑むが、実は杯が海に繋がっていて当然の如く海水全部は飲み干せず敗れ、続いて力試しとして飼い猫を持ち上げてみるように言われるが、猫の正体はヨルムンガンドで上半身を持ち上げるだけに留まった。
最後にトールはエリという老婆との力比べに挑まされるが、神々の中で一番の力持ちである筈のトールすらエリを揺るがせられない。
エリは神々ですら逃れられず、得意の(物理)ではどうすることも出来ない“老い”の化身であった。
……こうして、散々にやり込められてしまったトール達であったが、今までのことが全て幻術だったと聞かされると、怒り心頭でミョルニルを投げつけるが、それも見越していたのかウートガルザ・ロキと彼の砦は跡形もなく霧の中に消えていったという。
『デンマーク人の事績』には、旅の途中で嵐に遭遇し多数の犠牲者を出してしまったゴルモ王が生け贄を捧げ生き延びさせて貰った相手、そして、年老いたゴルモ王が死後の魂の行く末を従者に聞きに行かせるが幽閉されていて期待していた答えを得られなかった相手……の、謂わば死や魂に纏わる存在としてウートガルザ・ロキの名前が登場している。
しかし、その印象は前述の一般的な北欧神話中の姿とは大きく違うものであり、これはラグナロクを前に幽閉されていたロキの姿をダブらせたものとも言われる。
実際、上記のロギ(火)共々、他の神話とは矛盾しているものの、名前の似ているロキと同一視されることがあったとのこと。


  • エーギル
霜の巨人ではあるが、同時に海(特に危険な外海)の神と呼んでも差し支えのない位の立ち位置にあり、神々の酒宴も催す等、アースガルドとの関係も良好でラグナロクでも神々と敵対しない。
しかし、時折は船に噛み付いて沈めてしまうとも言われ、海で死んだ魂はエーギルの元へと送られると言われた。
妻は投網で人間を捕まえてしまう女神ラーンで、夫婦揃って海の恐ろしさを象徴している。
夫婦の子供は波の乙女とも呼ばれる荒波の神格化された九人姉妹とされ、更にその子がヘイムダルである。
一説によれば、後にフレイの嫁となった絶世の美女ゲルズの父ギュミルとはエーギルの異名だと云う。


  • ゲルズ
豊穣神フレイに見初められた絶世の美女で、フレイの従者スキールニルは苦労して彼女とフレイのお見合いをセッティングした。
しかし、彼女を娶る為にフレイは様々な宝を手放すこととなってしまい、中でも“剣”を手放したことがラグナロクでの戦死に繋がってしまった。
父は海の巨人のギュミル、母は山の巨人のアウルボザとされ、彼女自身にも地母神としての属性がある。


  • フリュム
最終戦争ラグナロクに於いて、ヨルムンガンドの起こした高波を越えるナグルファル*6の舵を取っている=霜の巨人の指揮を執っていると『散文のエッダ』ではされている。
しかしながら『詩のエッダ』では、その役目はロキの物となっている。
フリュムの名の意味は定かでは無いが“老いた者”や“虚弱な者”とされ、これ迄の神話では主敵だったのに、ラグナロクでは炎の巨人(ムスペル)に出番を奪われている霜の巨人(ヨトゥン)を象徴しているかのようである。


巨人出身の悪神ロキが女巨人アングルボザと交わることで誕生した三兄妹の長兄。
名の意味は“フェン(沼地)に棲む者”で、有名な異名はヴァナルガンドで、意味は“ヴァン川のガンド(動物姿の精霊)”である。
成長したら、口を開いただけで天に届いたと言われる程の巨大狼で、北欧神話を代表する怪物の一つであるが、出自的に巨人族として数えられる。


フェンリルの弟、ヘルの兄に当たる三兄妹の次兄で、途方もない大きさに成長した大蛇。
名の意味は“大いなるガンド”で、海に捨てられても死ななかったばかりかミドガルズ(人間界)の周囲を取り巻くように成長し続け、遂には自分の尾を咥えるまでになったことからミドガルズオルム(ミドガルズの大蛇、世界蛇)の異名を持つ。
フェンリル同様に全く人の形をしていないが巨人族に数えられる。


  • ヘル
フェンリル、ヨルムンガンドの妹で、彼女のみは人間に近い姿をしているのでロキがアングルボザに生ませるのではなく、アングルボザの心臓を食べた後で自らが女体化して生んだとも言われる。
しかし、一見すると上半身は健康そうで普通の見た目だが下半身は死んで腐っている怪物である為にニヴルヘイムへと送られたが、オーディンは彼女にヴァルハラに迎えられないような病や老衰で死んだ者や悪人の魂を送るので管理をするように命じ、こうしてニヴルヘイムは冥界ヘルヘイムとなった。
出自的には巨人であるが、役割の大きさから死の女神と呼ばれ、エーリューズニルという館に住む。


  • アングルボザ
ロキがフェンリル達三兄妹を生む時に交わったとされる女巨人で、兄妹達の高名から彼女の名前も良く知られているが伝承は極めて少ない。
異伝によれば、ロキは三兄妹を生み出す時にアングルボザの心臓を食べて自ら生み出したと言われてしまっている程である。
一方『バルドルの夢』で、オーディンがバルドルの見た予知夢からヘルヘイムにて死したる巫女(ヴォルヴァ)の魂を呼び起こしてバルドルの運命を訪ねるが、彼女はアングルボザであったとも予想されている。


北欧神話を代表するトリックスターであり、キリスト教影響か悪神とまで後世には言われてしまっているロキも巨人に数えられる。
ハーフとされることも多いが、父ファールバウティも母ラウフェイ(またはナール)も霜の巨人族である為、実際には生粋の巨人である。
オーディンと義兄弟の関係を結びアースガルドに住み神として高い地位を得るが、神々の助けになる以上に厄介事を持ち込んだり起こすことが多い。
最終的にはバルドルの死に大きく関わりラグナロクを起こす切欠となるが、その前後の行動からヨトゥンではなくムスペルの一員と考えられたりもしている。


  • ファーフナー
通常の北欧神話では霜の巨人とはされていないファフニール*7だが、かの『ニーベルングの指輪』ではファーフナーの名で巨人として扱われている。
三兄弟の長兄で、旅の途中のオーディン、ロキ、ヘーニルにより誤ってカワウソに変身していた弟が殺されてしまったことから父と末弟と共謀し、運悪く宿泊を求めてやって来た彼等を捕らえて神々に賠償を要求。
しかし、逸早く解放されて賠償金を用意したロキが黄金の中にドワーフのアンドヴァリより盗み出した再現無く黄金を生み出すが破滅する呪いをかけられた指輪(または腕輪)を紛れ込ませていた。
指輪に魅せられたか、黄金の魅力に取りつかれたファフニールは父親を殺害し、末弟レギンにも黄金を分け与えず逃亡した末に毒を吐くワイアーム(邪龍)へと姿を変えてしまう。
その後、デンマーク王の元で加治屋として働いていたレギンはフラグランド王シグムントの遺児シグルズ(ジークフリード)の養父となってファフニールの打倒を依頼。
レギンが鍛え上げた愛剣グラムによりファフニールは殺害されるが、レギンもまたファフニールの血を得たことで鳥の声が聞こえるようになり、真実を知ったシグルズに邪な企みを見破られて殺害された。






追記修正お願いします。

この項目が面白かったなら……\ポチッと/