2020年第40回ジャパンカップ

登録日:2021/06/20 (日) 23:18:00
更新日:2025/03/31 Mon 19:20:26
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三冠馬の競演だ!三冠馬の競演!


2020年第40回ジャパンカップとは、アーモンドアイが勝ったレースであり、日本競馬史上屈指の伝説のレースである


枠順


枠番 馬番 馬名 騎手
1 1 カレンブーケドール 津村明秀
2 2 アーモンドアイ C.ルメール
3 ワールドプレミア 武豊
3 4 キセキ 浜中俊
5 デアリングタクト 松山弘平
4 6 コントレイル 福永祐一
7 ミッキースワロー 戸崎圭太
5 8 ウェイトゥパリス M.デムーロ
9 トーラスジェミニ 田辺裕信
6 10 パフォーマプロミス 岩田望来
11 クレッシェンドラヴ 内田博幸
7 12 マカヒキ 三浦皇成
13 ユーキャンスマイル 岩田康誠
8 14 ヨシオ 勝浦正樹
15 グローリーヴェイズ 川田将雅


開戦前夜 ~伝説の3週間~

2020年、世界は新型コロナウイルスの脅威に晒され、競馬も無観客での開催を余儀なくされた。
そんな中、日本競馬界は史上稀に見るメモリアルイヤーとなった。

10月18日の秋華賞ではデアリングタクトが史上初の無敗での牝馬三冠を達成。
ジェンティルドンナやアーモンドアイですら成しえなかった偉業を成し遂げ、彼女らと同じローテでジャパンカップへの参戦を早々に表明した。

その1週間後、10月25日の菊花賞にて、コントレイル史上3頭目の無敗でのクラシック三冠を達成
この1年前に逝去した英雄と呼ばれた父の遺志を継ぎ、衝撃の続きを描いた。
そしてコントレイルもデアリングタクトに対抗するかの如くジャパンカップへの参戦を表明。

またその1週間後、11月1日の天皇賞(秋)にて、アーモンドアイが勝利。前人未到の芝GⅠ8勝を成し遂げた
皇帝から続く芝GⅠ7勝の壁を打ち破り、現役馬の頂点に立った。

そしてこの歴史的な年に人々は夢のドリームマッチを望んだ。…そう、ジャパンカップでの三冠馬三つ巴決戦である。
コントレイルとデアリングタクトそれぞれの陣営もそれを望んでいたのだろう。なんせ、三冠目の疲れが抜けきっていない中わざわざ東京2400mというアーモンドアイが最も得意とする条件のレースに出走するのだから。
これは間違いなく最強女王への挑戦状だった。


しかし、アーモンドアイには戦う理由があまりなかった。
秋天で古馬中距離勢最強と目されていたフィエールマンとクロノジェネシスを下して古馬の格付けも済み、大目標だったGⅠ8勝も達成した。
クラブ馬主への利益還元もとっくに済んだ。
なんならこれ以上の出走は事故のリスクしかなく、ビジネス的に考えれば危ない橋は渡らずさっさと引退して繁殖入りするべきだろう。
また、アーモンドアイは脚や体質があまり強くなく、詰めて使うと途端に弱体化することで有名だった。
4歳時に秋に凱旋門賞へと挑戦するつもりで試金石としてドバイターフを使ったら、レースには勝利したにもかかわらず消耗が激しすぎてもっと厳しい事になる凱旋門賞は辛い*1と挑戦断念を決定。
3歳~4歳時はレースを使う度にレース後熱中症めいた症状が出て危ない状態になる程であり、それ以降はかなりゆったりとしたローテを組んでいた。
2歳~5歳まで大きな故障もなく走っていたのに天皇賞(秋)終了時点で14戦しかしておらず*2、もっと言うならば4戦目以降は前哨戦で重賞を使うと言う事すらせずにGⅠしか走っていなかった
そのため、アーモンドアイは当初香港カップに登録しており、ゆったりしたローテで引退を迎える予定だったようだ。
ファンの間でも「せっかくだからすごいレースを見てみたい」「あまり無理はしないで欲しい」など、この予定には賛否両論。陣営の動向に注目が集まっていた。


そんな中、陣営はアーモンドアイのラストランについてコメントを発表した。


「調子も良さそうなのでジャパンカップに出走します


ここに、一世一代のドリームマッチの開幕が決定した


最強女王、有終の美

前述した3頭の他にも菊花賞馬ワールドプレミアや4年前のダービー馬マカヒキ、香港ヴァースを勝ったグローリーヴェイズにこの情勢の中フランスから参戦したウェイトゥパリスなど、実にGⅠ馬8頭に加えて、
第38回ジャパンカップで惜しくもアーモンドアイの2着に敗れたものの、一緒にワールドレコードを更新する走りを見せたキセキ、デビュー以来一度も掲示板を外した事が無く、これまで挑んだGⅠGⅡ全て連対という令和の善戦ウーマン・カレンブーケドール、その他には福島重賞2勝の福島巧者クレッシェンドラヴ、エプソムCで最低人気ながら3着に逃げ粘り特大万馬券を演出したトーラスジェミニ、亡きオーナーの夢を背負い参戦を決めたヨシオといったなかなかのメンバーがそろった。

だが、人気はやはり三冠馬たちが独占。1番人気アーモンドアイ、2番人気コントレイル、3番人気デアリングタクト、4番人気以下はみんな10倍台以上という凄まじいことに。
競馬場も人数制限付きとはいえ現地観戦が解禁され、制限ギリギリの観客が押し寄せた。もし人数制限がなかったら全国から大観衆が詰め掛けていただろう。指定席の抽選に落ちて悔しい思いをしたファンも多いのではなかろうか。

そしてレース本番、注目の三冠馬たちは揃って好スタートを切った。
まずヨシオとの先頭争いでエキサイトしたキセキがハナを切って大逃げを打ち、1000m57.9秒というハイペースで引っ張る展開。
アーモンドアイ、デアリングタクトは4番手あたりの好位につけ、その少し後ろをコントレイルが追走する。
その他各馬目立った動きはなく、キセキが先頭のまま最終コーナーに突入、各馬キセキを捕らえんと動き出す。

早めに動き出したのはグローリーヴェイズ。早々に2番手に上がり、前のキセキを追いかける。
それに連れてアーモンドアイは馬場の真ん中に入り、カレンブーケドールは外に持ち出す。
内を縫ってデアリングタクトも進出開始、そしてやや後方から睨みを利かせていたコントレイルもメンバー最速の末脚を繰り出してアーモンドアイに襲い掛かり、レースは一気に激しい展開に。


しかし、ただ1頭、女王は強かった


残り400mあたりでアーモンドアイが仕掛けると抜群の手ごたえを見せ、一気にキセキを捕らえて先頭に躍り出て独走態勢に入る。
後方からはコントレイルやデアリングタクトが必死に追い込んでくるが、2番手で伸びあぐねるグローリーヴェイズを捕らえるのがやっと。アーモンドアイには届かない。
ただただ最強女王の「最強の走り」を見届けていた。
そしてアーモンドアイは後続に1と1/4馬身の差をつけ先頭でゴールイン。コントレイルがクビ差デアリングタクトを抑え込み、デアリングタクトは善戦ウーマンの意地で粘るカレンブーケドールをハナ差で差しきり3着入線。

コロナ対策で声が出せない中、観客は万雷の拍手で素晴らしいレースを魅せた3頭の王者を祝福した。


レース結果
1着 アーモンドアイ
2着 コントレイル
3着 デアリングタクト
4着 カレンブーケドール
5着 グローリーヴェイズ
6着 ワールドプレミア
7着 ミッキースワロー
8着 キセキ
9着 マカヒキ
10着 ウェイトゥパリス
11着 パフォーマプロミス
12着 ユーキャンスマイル
13着 クレッシェンドラヴ
14着 トーラスジェミニ
15着 ヨシオ


払い戻し
単勝 2 220円 1番人気
複勝 2 110円 1番人気
6 110円 2番人気
5 120円 3番人気
枠連 2-4 350円 1番人気
馬連 2-6 330円 1番人気
ワイド 2-6 170円 1番人気
2-5 190円 2番人気
5-6 220円 3番人気
馬単 2→6 610円 1番人気
三連複 2-5-6 300円 1番人気
三連単 2→6→5 1340円 1番人気


三冠馬たちが順当にトップ3を独占したせいで払い戻しはめちゃくちゃしょっぱくなった。3連複300円と言う数字はJC史上最安値である。
まあこれほどの素晴らしいレースを見れただけ神に感謝だろう。


その後

アーモンドアイはこの勝利により前人未到の芝GⅠ9勝を達成
更に、ジェンティルドンナを超えて賞金女王…どころか、キタサンブラックを超えてJRA賞金王に輝いた。
更に更に、この勝利が評価されたのかアーモンドアイは無敗の牡牝三冠馬たちを抑えて年度代表馬に選出された顕彰馬行きも時間の問題だろう……と言われていたが、投票で選ばれたのは2023年と遅めだった。
繫殖入り後は初年度にエピファネイアとの仔を受胎し、2022年1月に初仔となる牡馬を無事出産した。繫殖牝馬としての今後の活躍に期待したいところである。

一方、年が明けてからのコントレイルとデアリングタクトに大きな試練が訪れた。

コントレイルは年明け2021年初戦の大阪杯でクラシック路線をスルーして無敗街道を歩んでいたレイパパレと道悪の鬼モズベッロに差されてまさかの3着。更に、疲れが溜まったようで宝塚記念も回避という事態に。春競馬が僅かに一戦のみにとどまったことで嫌な予感がしたが、このとき繋靭帯炎を患っていたと矢作師は後に語っていた。
昨今の情勢から海外遠征も難しく、陣営は2021年内の引退を発表。出走レースとして天皇賞(秋)の他、ラストランとして奇しくも初黒星となったジャパンカップを選択した。
そして挑んだ秋古馬戦線。天皇賞(秋)ではこの年の菊花賞を投げ捨てて古馬戦線に突っ込んできた2021年皐月賞馬エフフォーリア*3を差し切れずに2着に。休み明けのせいかスタートの出負けで好位を取れず、上がり3F最速の33.0秒で追い込むも、エフフォーリアと横山武史騎手の人馬一体の走りに1馬身届かなかったのだ。
しかしラストランのジャパンカップでは中団につけ、この年のダービー馬シャフリヤールや同期でアルゼンチン共和国杯を連覇したオーソリティなどをまとめて差し切って勝利。
菊花賞以来の勝利を収めて連敗に終止符を打ち、有終の美を収めてターフを去った。
現在は社台SSにて種牡馬として供用中、数年後にデビューするであろう彼の産駒の活躍を期待したいところである。

一方でデアリングタクトはクイーンエリザベスⅡ世カップを目指したが前哨戦として出走した金鯱賞では伏兵ギベオンの逃げ切りをクビ差許し、2着。本番のクイーンエリザベスⅡ世カップでは鞍上の松山騎手をして「敗因が分からない」という3着に敗れた。
更に帰国後、右前肢繋靱帯炎を発症していたことが発覚して長期療養入りに。今後の予定はすべて白紙となってしまった。
その後は復帰を目指して幹細胞移植手術を受け、リハビリと調教に励むことになる。そして2022年3月末、正式にレースへの復帰が発表された。実に前走から385日ぶりの復帰となり、ヴィクトリアマイルから再開で宝塚記念を目指すことに*4
そして迎えた復帰初戦のヴィクトリアマイルこそ一歳下の白毛の女王、ソダシの6着とキャリア初の掲示板外に終わるが続く宝塚記念では前年の有馬記念及び同年の天皇賞(春)で2着となった同期の実力馬、ディープボンドをクビの上げ下げの差で差し切り見事3着を確保。同じ岡田スタッド育成の後輩である勝ち馬、タイトルホルダーとは4馬身離されるというまだ勝ちに遠い内容ではあったものの、女王はまだターフで戦えるという事を満天下に示して見せたが、
秋はオールカマー・重馬場のエリザベス女王杯で両方とも三冠牝馬ジェンティルドンナの娘ジェラルディーナの6着、中一週で出走したジャパンCでは上がり3F最速タイで追い込むも直線で前が開かなかっちめ僅差の4着と惜敗し、その後は再び休養に。
いち競馬ファンとしては、彼女が再びあのジャパンカップのような素晴らしいレースを魅せてくれることを願って止まないところであったが、復帰出来ないまま2023年10月に繋靱帯炎再発から無念の引退。岡田スタッドで繁殖入りとなった。

6着のワールドプレミアは翌年天皇賞(春)を勝利し、そのレースでの3着は本レースでの4着カレンブーケドールだった。
しかしワールドプレミア・カレンブーケドールは共に同年の天皇賞(秋)後故障により引退、再びジャパンカップに立つことは叶わなかった。それぞれ無事に繁殖入りは果たした為、次世代に願いを託すこととなる。

名勝負を大逃げで引き立てることになった今回の助演男優賞キセキはさすがに逆噴射を起こし8着。しかしながらこれほどの大逃げをしながらラスト1ハロンまでは先頭を守り、脚が止まりながらも8着に留めたのはキセキの強さが伺える。
翌年も現役続行し、自由自在の脚質で様々なGⅠレースを盛り上げる気まぐれ面白ホース時代の名脇役として活躍し、2021年ジャパンカップにもマカヒキ共々参戦している。
その後、同年の有馬記念を最後に引退して種牡馬入り。
結局2017年の菊花賞以降勝ちには恵まれなかったが、4歳以降グランプリにおけるファン投票で8期連続一桁順位に居続けたことからも、彼が根強い人気を持っていたことが分かる。
引退したはずの翌年の宝塚記念でもカルト的なファンが(出来ないはずの)キセキへの投票を試みてキセキ民の亡霊とネタにされる一幕もあった。それだけ愛されてるとも言える

9着となったマカヒキは3歳時のニエル賞以降全く勝てておらず今回も敗れたが、翌年の京都大賞典にてこれも菊花賞以降勝てなくなった1歳下のキセキ、コントレイルを菊花賞で追い詰める奮闘を見せながらもアメリカジョッキークラブカップを制して以降勝ちに恵まれなくなったアリストテレスに競り勝ち、5年ぶりの勝利となった。
その後もしばらく重賞を走り続け、種牡馬入りが決まって競走馬を引退したのが2022年10月のこと。この頃には既に9歳となり、同期のサトノダイヤモンドの産駒がデビューし始めていたと言えば、いかに長い間ターフを駆け抜けていたかわかるだろう。

10着のウェイトゥパリスは今回が引退レースだったが、枠入りをごねて発走時刻が5分遅れたため、もう走る事はないのに20日間の出走停止・ゲート入り再審査処分を受けることになった。
誰が呼んだか「フランスのゴルシ

単勝がヨシオより人気薄だった14着トーラスジェミニはその後もほぼ休まずオープンや重賞競走に出走しまくり、翌年の七夕賞を制覇することとなる。同年の安田記念でも5着と健闘するなど活躍していたが、七夕賞の次走札幌記念で大敗してからは重篤なスランプに陥り、2023年七夕賞シンガリ負けを最後に引退。2024年7月現在は13着のクレッシェンドラヴとともに福島競馬場の誘導馬として頑張っている。そのため福島競馬場ではヨシオが亡くなるまでこのジャパンカップ出走馬3頭が揃って誘導馬となっていた。

最下位のヨシオは激戦の疲れも抜けきらないであろうこの翌週にチャンピオンズカップに出走する無茶ローテとなり(こっちも最下位)、2021年1~3月には障害競走にも挑戦するも不調から再び平地競走に戻り、2022年5月に同期のマカヒキより一足早く引退。
そのハードなローテ等で話題となり、重賞未勝利ながら2021年に企画「アイドルホースオーディション」で一位に選ばれ、他の上位入賞馬カレンブーケドール・キセキ等とともにぬいぐるみ(アイドルホース)に。
引退後はトーラスジェミニ、クレッシェンドラヴとともに福島競馬場の誘導馬として活動していたが、2024年5月11日、腸捻転のために11歳の若さで亡くなった。



テレビ・ラジオ中継


地上波テレビはフジテレビ系列、BSではNHKBS1とBSフジ、ラジオ中継はラジオNIKKEIと関東AMキー局とラジオ日本で中継。
フジテレビ系列での中継は関東地区では8.3%、関西地区では9.0%と日曜昼としてはかなりの高視聴率を獲得した。



追記・修正は指定席抽選を勝ち取って現地観戦した人にお願いします。

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最終更新:2025年03月31日 19:20

*1 凱旋門賞はドバイターフと比較しても「日本からの遠征距離が長い」「レース自体の距離も長い」「コースは芝が深く、高低差も激しい」と、明らかに馬の負担が増える条件が多く存在したため、陣営の判断は賢明と言える。

*2 デビューが3歳のキタサンブラックが同条件だと18戦、2歳時のレース数が1戦少なく、骨折療養が1回あったテイエムオペラオーだと24戦。

*3 2018年生まれの牡馬。デアリングタクトと同じエピファネイア産駒で、父父にはシンボリクリスエスを持つ。余談であるが、この馬は次走の有馬記念も勝利。最終的に父父と同じく3歳で2021年の年度代表馬に選出された。

*4 ちなみに、もしデアリングタクトがこれからGⅠを制した場合、364日ぶりに復帰したトウカイテイオー1993年の有馬記念を制して達成した「長期休養明けGⅠ勝利の最長記録」を更新することとなったのだが…