ゴールドシップ(競走馬)

登録日:2021/04/20 Tue 18:33:00
更新日:2021/05/02 Sun 15:05:24
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『黄金船』



ゴールドシップとは、日本の競走馬。
高い実力と数々のエピソードを生み出す破天荒な性格から、引退した今でも多くの競馬ファンから愛される迷馬にして名馬である。

よく「ゴルシ」と呼ばれ本項目においてもこの呼び名を主に用いるが、他馬(特にゴールドシチー)との区別のために「シップ」と呼ばれることもある。そっちはそっちでルーラーシップ等と被ってたりするが。


来歴

血統と誕生からデビューまで

父はステイゴールドで、母はポイントフラッグ(母父メジロマックイーン)。
これは「小柄で頑丈 『だが気性の荒い』 ステイゴールド」「賢く癖が無い 『が大柄で虚弱な』 メジロ系列」を掛け合わせ、互いの欠点を補おうとした配合で、その内容から「ステマ配合」とも呼ばれる。
かくして関係者に「小柄かつ頑丈で、賢くて癖の無い従順な馬」となることを期待された「黄金配合」により、2009年3月6日にゴールドシップはこの世にウマれてきた。

……彼は確かに「頑丈で賢い馬」ではあったので、そこまでは狙い通りだった。
しかしここからがゴルシ伝説(後述)の始まり。
このゴールドシップ、それに加えて「気性が荒く、しかも大柄」という、親の特徴ほぼ全部乗せ欲張りマシマシフルコースのとんでもない馬だったのだ。そうそうウマいこといかないものである。

デビュー前は福島県でトレーニングを積んでいたが、東日本大震災によって預かり先の牧場が被災したため石川県へ避難した。


脚質

とにかく頑丈。父親も頑丈なことで有名だったが、500kgを超え、後述の脚質で無茶苦茶な走りをしておきながら、一番酷い怪我・病気が外的要因による筋肉痛というデタラメすぎる頑丈さを誇る。
関節が緩くて急加速ができず、ステイヤー向きとは決して言えない骨格でありながら、それを補って余りある柔軟かつ力強い筋肉を持っている。その筋力たるや、後ろ脚だけでその巨躯を数秒支えられるほど。
蹄もマックイーン譲りの丈夫さで、父親のような斜行癖も無く、走り自体 『は』 安定していた。


デビューしてから

その後に栗東トレーニングセンターへと入厩して2011年に函館の新馬戦に出走すると、いきなり2歳馬のコースレコードを叩き出して快勝。この頃からそのスケールの大きさの片鱗を見せる鮮烈なデビューを飾った。
2歳シーズンを4戦2勝で終えると、クラシックシーズン初戦となる共同通信杯をディープブリランテを捕えて勝利した。

そのままトライアルを経ずに牡馬クラシック三冠のひとつ・皐月賞に4番人気で出走。
この2012年皐月賞において、ゴルシはその特異な能力を見せつけた。
前日に降った雨でぬかるみ、さらに皐月賞前のレースで他の馬が走ったことで、中山競馬場の内ラチ沿い*1(クルマで言うインコース)は荒れ果てていた。
ほとんどの馬がそれを嫌って外側に流れていく中、鞍上・内田博幸氏は大外を回されるのを避け、思い切ってまさにこの荒れた内馬場を突っ切る勝負に出た。ゴルシは跳ねる泥に白い馬体を汚されながらも猛然と突き進み、荒れ地を踏破しているのにスタミナを切らさず、結果は2馬身差で優勝。この時に見せた豪脚は今日まで語り草となり、一躍スターホースの仲間入りを果たした。
以降、強烈な末脚を武器にゴールドシップ号は「突然爆発するおっかない後追い馬」として競馬界を湧かしていく。


……と、ここまでは簡単な彼の来歴。ここからは彼の生い立ちとその馬となりを記していく。



ゴ ル シ 伝 説

先述の通り、生産者の思惑通りにはいかず気まぐれぶりとわがままさが目立つ馬となってしまったゴルシ。
だが、ゴルシがゴルシたる真骨頂はそこではなく、「お前絶対に解っててやってるんだろ!」と言いたくなるような、狙いすましたかのように衆人環視の中で繰り広げられる奇行の数々にある。
気性の荒さに加えて妙に知能が高い*2が故にその思考回路を読める者はほとんどおらず、結果、現役から引退後に至るまでに「ゴルシ伝説」として箇条書きコピペが成り立つほどのエピソードを残し(続け)ている。

いくつか例を挙げると
  • 毎日遊んであげないと暴れる。遊んでやったらやったでシャツを破られる
  • 調教は基本的にやる気が無いが、調教で出くわした馬を威嚇する時「殺る気マンマン
  • 好き嫌いが激しく、気に入らない人or馬の存在を察知すると暴れ出すが、気に入った相手に対しては全力でデレる。極端すぎるツンデレ
  • 人だろうと気に入らなければ容赦なく蹴る*3
  • 特にトーセンジョーダンにはあちらの方が歳上にもかかわらず、目に入れば必ずといっていいほど突っかかっていく
  • 逆に馬房が隣で優等生的な性格のジャスタウェイとは何故かウマが合う
  • 担当厩務員の今浪隆利氏にやたら懐いている。しかし一方で、担当調教師の須貝尚介氏のことは苦手としているのか、同氏とのツーショット写真では目が死んでいる
  • ゲート入りを(後ろ歩きから振り向きざまに入ることすら)拒否した結果、目隠しをさせられた状態でゲートに押し込まれる。なのにそのレースでは当たり前のように優勝*4
  • ゴルシが厩舎に帰って来ると隣の長浜厩舎の馬がざわめく
  • レース中に並走しただけでビビってヨレた馬もいる
  • レース中に舌をペロペロさせながら走って余裕の圧勝
  • 凱旋門賞出走のためのフランス遠征中、調教のための移動に通った森で機嫌が良くなりすぎて今浪氏を置き去りにした
  • その凱旋門賞での入場時に勝手に列を離れて観客に愛想を振りまく。なおこの時ジャスタウェイは目を逸らし必死に他人ならぬ他馬のフリをしていた。親友でも奇行を前にすると関わりたくなくなるのは馬も人間も同じらしい
  • 暴れ馬乗りの名手である横山典弘氏ですら「お願いですゴルシさん走ってください」と懇願しながら乗る*5
  • ゴール後に何故か馬よりも騎手の方がヘトヘトになっている
  • (特に繁殖牡馬入り以降の)顔芸
  • ステゴ名物の「アレ」は「大に小をかける」という謎の進化を遂げる
  • カメラの前で「お〇ん〇んびろーん」を披露する

などなど、いくつものエピソードがある。
そしてこれを目の当たりにしたファンは、ある者は乾いた笑いを浮かべながら、またある者は自分に言い聞かせるかのように、皆口々にこう一言――。


「まぁゴルシだし」


中でもゲートとの相性は最悪の一言に尽き、上述のエピソードにもあるようにゲート入りを嫌がり、ゲート入りしてもゲート内で暴れたのはしょっちゅう。
ゴルシがすんなりゲート入りしたり、入ってからすぐスタートできたりするだけで客席がどよめいていたのも、その気質の激しさ・強さを象徴するエピソードと言える、かも。

競走馬としてのキャリア最後のレースとなったのは2015年の有馬記念。キタサンブラックら若き新鋭達を抑えて1番人気となったものの、最後の直線でまるで燃え尽きたかのように失速し8着に終わった。
が、その後の引退式でも誘導馬に向かっていななき、このレースの鞍上の内田氏のインタビューを中断させ、更に記念撮影を嫌がって5分間ごね続けるなど、最後までゴルシらしさを全開させて笑いを誘ったのだった。


120億円事件


ゴールドシップの三連覇か、それとも他馬が待ったを掛けるのか!

あーっ!?
ゴールドシップが立ち上がった!?

あーっ!!?
おーっと、立ち上がったゴールドシップ! 出ない出ない!
6万大観衆からどよめきーーーっ!!

ゴルシの特に有名なエピソードとして、『3連覇の掛かった』第56回宝塚記念(2015年)にてゲート内で立ち上がって盛大に出遅れ、およそ120億円分の馬券全てを一瞬でただの紙屑にしてのけた通称「120億円事件」で、16頭中15着という自己最悪の結果を叩き出してしまった一件は欠かせないだろう。むしろこれ無しにゴルシを語るべきではない。
(スタート直前に隣でチャカつかれて気が立ったとはいえ)この時はさすがに彼も場内の空気を察したらしく、調教師が近寄って来ると気まずそうに顔を逸らしていた。この様子は写真にバッチリ収められている。
終始この白いのに振り回されて最下位になってしまったアドマイヤスピカはマジで泣いていい。
とはいえそのハチャメチャさと、このレースまでの順調さからやらかしを期待予想した者が多かったためか、ブーイングは「金返せ白いのー!」、「ゴルシ金返せぇ!!」とほとんどゴルシに向けられ、当時のゴルシの騎手の横山氏にはむしろ同情的・擁護的な声の方が多かったそうな。
かくしてこの年の宝塚記念は 「競馬に絶対は無い」 の代表例の1つにして、当時のゴルシのやらかしの意外性と人気の高さも窺えるレースとなったのであった。

ゴルシ並、あるいはそれ以上の額の紙屑化事件自体は他にもあるものの、それらは単純にレースで普通に負けたり*6落馬したり*7といったものであり、強いのにやらかしで有名な馬がよりにもよって3連覇の懸かった宝塚記念で自己最低記録のブービーを叩き出したがゆえに有名となっている節がある。
ゴルシが1位を取った2012年有馬記念のルーラーシップも10馬身もの大幅な出遅れがあったがゴルシほど有名ではなく、こちらは奮闘のかいあって3位だった。

このようにあまりにもゲート絡みで問題を起こしまくるため何度かゲート入りの再審査が課せられたが、その度に一発合格していたらしい。故意犯だと疑われるのもむべなるかな。

ただ、今でこそこうして笑い話になっているが、真面目な話をするとこうしたゲートでの警告行為が積み重なれば最終的に出走停止処分とされてしまう。
そしてゴルシはその時点であと1回の警告でアウト、という瀬戸際まで来ていた。
そのため最終的にファンはもはや勝ち負けの前に「とにかくまずは無事にゲートに入ってスムーズに出てくれ」と祈るようになっていた、という背景があったことも付け加えておく。

この事件はゴルシの引退式に招かれた横山騎手が印象に残ったレースを聞かれた際、勝ち馬となった2014年の宝塚・2015年春の天皇賞や、惨敗するも初参戦した凱旋門賞などではなくこの宝塚記念を挙げていた。むしろ忘れるほうが無理な話である。
この回答に対し会場では大爆笑が沸き起こり、同時に「ゲートはちゃんと出て普通」とも答えるとこれに対しゴルシは唸っていた。
なお引退式では他にも涙ぐむ関係者に対して「気にすんなよ」と言っているかのように答える場面もあった。……やっぱりこいつ頭良いわ。


引退後と現在

かくして良くも悪くも人の言うことを聞かなかったのが結果的に幸いしてか、 ゲート内で暴れて 筋肉痛になった時以外大した怪我もせず無事に引退している。
そのため「 現役時代の舐めプに見えた仕草が実はゴルシなりの自己管理だったのではないか? 」という疑惑すら浮上している。
奇しくも父にも同じような疑惑が持ち上がったこともあるが、一線を退いた今、もはや真実はゴルシのみぞ知る……。
この唯我独尊ぶりから、現役時代も28戦中のわずか3戦を除いて全て1番人気か2番人気という人気を誇り、ゴルシの引退式には4万人ものファンが詰めかけた。

2021年現在は北海道のビッグレッドファームで種牡馬として余生を過ごしている。
当初は繁殖牡馬としてはその気性の荒さが懸念されていたが、いざ種牡馬入りするとむしろ非常に種付けがウマいことが判明*8し、最終的な種付け成功率4年連続90%超えというチン記録を達成。
引退後も種だけでなく更なる笑い話題を提供することとなった。*9
ちなみにゴルシも種牡馬としての生活が性に合っているらしく、他の種牡馬が種付けに向かうのを見ると「自分も連れて行け」とばかりに騒ぐようになったとか。


総評

エンターテイナー精神を振るってそのレパートリー豊富な奇行ファンサービスなどでファンの心を掴んでおり、何とも憎めない馬である。
ちなみにこんなんでも気性難揃いと評判のステイゴールド産駒の中では比較的マシな方
おそらく母方の血が、説明しづらいがとにかくこう、……何か良い方向に作用したのだろう。
気に入らないことは断固拒否する頑固な性格は母父からの遺伝説が濃厚だけど。

先述したあれこれだけ見ると"迷馬"としか思えないが、 G1を6勝 、結果的に惨敗してしまったものの 世界でも指折りのレースである凱旋門賞にも出走 するなどの実績を残しており、それだけでも 名馬 であることは間違いない。レース内容でも やる気にさえなれば 雨で荒れた馬場をフルスピードで突っ切るすさまじいパワーを見せつけ、人々の印象に残っている。
特にその末脚は驚異的で、道中は後方でぽつんと走っていた、と思いきや最終コーナーに差し掛かった辺りでいつの間にか先頭集団に紛れ込んでそのまままとめてぶち抜いていくという豪快な走法を得意としていた。その様はあたかも瞬間移動したかのようにすら見えたので「ワープ」と形容されたほど。
その やる気にさえなれば 最下位から全員ごぼう抜きにしてあっさり1位を取ってしまう実力ゆえ「レース前半はゴルシを見なくていい」とまで評するファンもいるほど。*10

しかしゴールドシップはその一方、気が乗らないとテコでも走らない、気まぐれを絵に描いたような馬でもある。
おかげで当時の競馬ファンの間ではゴルシが勝てば「なんでゴルシを買わなかったの」と突っ込まれ、彼がやらかせば「なんでゴルシを買ったの」と責められた、らしい。どうしろと……。


余談

上記の破天荒なエピソードの数々から、漫画『みどりのマキバオー』に登場するベアナックルになぞらえる声も散見される。

Cygames社がアプリ・アニメなどのメディア展開を行っている『ウマ娘 プリティーダービー』は、競馬を題材に実際の競走馬を(初の牝牡不問で)擬人化・美少女化させたキャラクターが登場しており、その中にはゴールドシップも含まれている。
当作では見た目こそ美人だが言動は非常にハジケている、という元ネタに忠実な強烈な個性を持っており、彼女の影響で実際のゴールドシップも競馬ファン以外からも認知されるようになった。あと120億円事件のことも……。
ちなみに、作品内に登場させる際には運営がモチーフの競走馬の馬主さんに許可を取っているが、ゴルシの馬主さんは「何させてもおk(意訳)」と非常に御寛大な対応をしてくださったという。
かくしてハジケたウマ娘のゴールドシップが誕生したが、 馬の方がまだキャラが濃い と言われるのはさすがとしか言いようがない。



スタートダッシュで出遅れるΣ(゚Д゚)

どこまでいっても離される(;´Д`)

ここでオマエが負けたなら


おいらの生活ままならぬ!(´;ω;`)




追記・修正はスタート直前にゲートから立ち上がってからお願いします。

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最終更新:2021年05月02日 15:05

*1 競走馬が走るコース、その内側の柵を内ラチと言う。これに沿って走れば距離が短いので有利……と思いきや、旋回角度がきつくなり足への負担が大きくなるため、実は苦手とするお馬さんも多い。

*2 関わった人々は口を揃えて「頭が良いのは間違いない」と証言している。具体的には、人の意図や場の空気を理解しているかのような反応が何度も目撃されていたり、舌を出して相手をバカにするなどの行動に出たりしていた、など。

*3 ただしこれに関しては気性難の馬なら特に珍しい事例ではない。例えばゴルシの父親であるステイゴールドは父親に当たる名種牡馬・サンデーサイレンス、更にその父ヘイローと三代続けて容赦なく噛みついたり踏み付けたりとガチで人を殺しに来るレベルの由緒正しい暴れん坊だったのは有名な話。

*4 加えて、この時走った京都競馬場でのそれまでの戦績は振るっておらず、ゴルシの勝利を予想する下馬評は少なかった。

*5 同氏曰く「賢いが故に反感を持つと意地でも従わなくなってしまうらしいので、とにかくゴルシの機嫌を損ねないことを優先した」とか。なお、このご機嫌取り戦法で見事優勝をもぎ取っている。

*6 例:2019年有馬記念・アーモンドアイの200億円。

*7 例:2002年菊花賞・ノーリーズンの110億円。

*8 『臨戦態勢』に入るまでが早い、種付けも早く済む、相手の牝馬に紳士的、等々。

*9 牝馬の平均受胎率は70%程度。失敗率1/3未満でもヒトには恐れ入る話だが、つまりゴルシはそこに1/10未満を叩きつける存在であり、繁殖でも名馬と言う他無い。

*10 実際は脚質の項にあるように急加速(≒スタートダッシュ)が不得手で、それを「序盤から少しずつ加速したのち、持ち前の切れにくいスタミナでゴリ押す」ことで補っていたのがズブく見えていただけなのだが。