2021年第82回菊花賞

登録日:2021/10/28 (木) 22:15:42
更新日:2021/12/05 Sun 22:18:13
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父に捧げる初タイトルは三冠最後の忘れ物

―――netkeiba 公式Twitterより


2021年第82回菊花賞とは、2021年10月24日に阪神競馬場で開催されたクラシックGIレースである。
勝ち馬の圧倒的なパフォーマンスと、人馬双方に紡がれた23年前から始まる大きなドラマが話題を呼んだ。



出走馬


枠番 馬番 馬名 騎手 オッズ 人気
1 1 ワールドリバイバル 津村明秀 85.4 16
2 アサマノイタズラ 田辺裕信 13.1 5
2 3 タイトルホルダー 横山武史 8.0 4
4 ロードトゥフェイム 丹内祐次 60.1 15
3 5 レッドジェネシス 川田将雅 3.9 1
6 セファーラジエル 鮫島克駿 90.8 17
4 7 ディープモンスター 武豊 18.1 7
8 (外)エアサージュ 藤岡佑介 36.3 10
5 9 ヴェローチェオロ 幸英明 44.1 12
10 モンテディオ 横山和生 46.4 13
6 11 ディヴァインラヴ 福永祐一 17.3 6
12 ノースザワールド 和田竜二 105.5 11
7 13 アリーヴォ M.デムーロ 40.3 18
14 ステラヴェローチェ 吉田隼人 4.1 2
15 ヴァイスメテオール 丸山元気 21.7 9
8 16 グラティアス 松山弘平 59.7 14
17 ヴィクティファルス 池添謙一 18.4 8
18 オーソクレース C.ルメール 5.4 3


王者不在の世代最終戦


まず本レースの前評判と注目度はというと、はっきり言ってそう芳しいものではなかった。
というのも近年の長距離需要低下の傾向もあって、ホープフルステークス馬ダノンザキッド、皐月賞馬エフフォーリア、ダービー馬シャフリヤールが揃って出走を回避。
元々別路線に進んでいる朝日杯フューチュリティステークス馬グレナディアガーズ、NHKマイルカップ馬シュネルマイスターも当然ながら出走せず、GI馬0頭という本命不在の一戦となってしまったのだ。

結果18頭フルゲート揃うものも、条件戦レベルの上り馬も多数出走するというメンバー的な魅力がイマイチ足りない顔触れに。

前週には、阪神ジュベナイルフィリーズ馬にして桜花賞馬ソダシやオークス馬ユーバーレーベンを筆頭に、この年様々な意味で注目を集めた3歳牝馬の世代最終戦・秋華賞が、翌週には前述のエフフォーリア含めた超豪華メンバーが揃った天皇賞(秋)*1があった事もあり、様々な意味で谷間のGIとなってしまう。

昨年の菊花賞がコントレイルの無敗三冠が懸かった運命の1戦であった事を差し引いても、売上は昨年度比から見て大幅な減少だったと言わざるを得ず、かなり盛り上がりに欠ける前評判となってしまった。フラグですねわかります。

とはいえ、見所がないかと言われればそういうわけではない。
そもそも2021年の3歳馬は、スプリンターズステークス馬ピクシーナイトをはじめ早くから各路線で古馬を撃破している馬も多く、レベルの高さが評価されていた*2。そんなレベルの高い世代の世代代表を決めるクラシックなだけあり、有力馬には魅力的なメンバーが揃っていた。
悪く言えば王者不在ではあるものの、よく言えば各馬の力が拮抗した群雄割拠の一戦とも言え、オッズにも表れている通り多くの予想家が頭を悩ます緊張感ある一戦であったと言えるだろう。


群雄割拠の有力馬達


そんな中でもまず飛び抜けて注目されたのが神戸新聞杯を優勝し菊花賞へコマを進めたステラヴェローチェである。
クラシック戦線でも皐月賞、ダービーで連続して3着をとる安定した実力と星を意味するその名の如く流れ煌めくような末脚が魅力の1頭である。

同じく神戸新聞杯にて2着を手にしたレッドジェネシスは近年の菊花賞を支配するディープインパクト産駒の最有力馬。
そのステイヤー素質をうかがわせる胴長な体格や母系にサドラーズウェルズを持つ血統、鞍上川田将雅への信頼感、更には好枠に恵まれた事もあって最終的には1番人気に躍り出た。

彼ら神戸新聞杯組はそこでシャフリヤールを撃破してきている上に、栗東所属である分輸送が有利であった事から特に有力視された。

そこに待ったをかけるのが関東からの刺客、オーソクレース。リーディングジョッキー・ルメールを鞍上に乗せた良血馬はホープフルステークスで2着と活躍するも骨折という悲運により春を振り、休養明けのセントライト記念で早速3着と好走した1頭。枠こそ大外となったものの、それを補って余りある鞍上への信頼感とまだ底の見えない実力を買われ3番人気となり事実上の東軍総大将を務めた。

弥生賞馬にして皐月賞で2着の成績を修めた4番人気のタイトルホルダーはステラヴェローチェと同じくクラシックの王道を突き進み好走を続けた1頭。更にお姉ちゃん*3に、JRAの誇る最小アイドルにして菊花賞5着馬メロディーレーンという母系のスタミナ血統が魅力。
実績面ならメンバー最上級ではあるものの前走セントライト記念で乗り替わった騎手・横山武史の判断ミスと展開に大いに嫌われ、まさかのブービーに屈した事や菊花賞で逃げ馬が勝ったケースが少ない事もあり、やや前3頭とは離れた穴気味人気馬となった。

上記4頭が全員単勝オッズ3.9 - 8.0倍となっており、更には単勝万馬券を超える馬が最不人気となったノースザワールドのみな事からも混戦模様が伺えるだろう。

他にもセントライト記念の勝ち馬であり素晴らしい末脚を披露したアサマノイタズラ、牝馬ながらも安定感ある鞍上を迎え長距離条件戦も制した上り馬ディヴァインラヴ、美しい尾花栗毛に父が菊花賞馬ゴールドシップであるヴェローチェオロ等々どの馬にもそれぞれ魅力と長所がある。
実力差がほとんどない面々が最後の一冠奪取を目指し準備を進めてきた。
この中で最後の一冠を手にするのはどの馬なのか―――
ファンが静かに見守る中、京都競馬場大幅改修により仁川へ舞台を移した菊花賞のゲートが開いた。


混戦を断つ


スタートと同時にワールドリバイバルが早速いつものように逃げを打つが、その横を激しく手綱をしごきながらタイトルホルダーが駆け上がりハナを主張した。
基本先行馬であり、誰もいかなかったときだけ消極的に逃げる、という形の多いこの馬がここまで激しくハナを主張するのは初めてであり、そのままワールドリバイバルを交わして先頭につけるとハイペースで飛ばし続け後方とのリードを3馬身、4馬身と広げた。
そのまま隊列は縦長に広がり、大逃げを打つタイトルホルダーをどのタイミングで捕まえに行くのか―――いや、そもそも3000mをハイペースで逃げる馬を捕まえる必要はあるのか?仕掛けどころの難しい一戦となり早速場は盛り上がる。

そのまま大きくリードをとったタイトルホルダーは1000mを60秒フラットで通過。
予想通りのかなりハイペースなラップとなった。
しかし流石選ばれた18頭の優駿達。自分の競馬を大逃げに惑わされず崩す事なく遂行。隊列が決まれば競馬はスムーズに流れていく。スタート直後こそ大きく動いたが、後は予定通り先行馬達が逃げるタイトルホルダーにじわじわ迫り、後続が足を溜めて直線勝負を目指す流れに。
ややかかり気味に後方から早くに上がっていったセファーラジエルが2番手に付けると先行集団もこれに従うように先頭に迫る。
一方で彼はもうスタミナ切れしたのだろう、最初はあれほど大きく開いていたタイトルホルダーと2番手との差は、第3コーナーが近づいてきた今や3/4馬身程度まで縮まってしまっていた。
これも全て前走・セントライト記念に続いて後先考えない若手の騎乗が招いてしまった過ちに違いない。

そして直線勝負へ。3000mの阪神競馬場、タフなレースで多くの馬がスタミナを切らし、末脚を伸ばせない中、前目につけていたディヴァインラヴが粘る。
そこへ外から迫るオーソクレースとステラヴェローチェ。多くのドラマを演出したクラシック最終戦に相応しいたたき合い。後続はこの3頭に付いてこれない。残り100mほどで3頭が一直線に並ぶ―――!



「オーソクレース、ステラヴェローチェ、ディヴァインラヴが争う!」



「しかし!」



「これは一頭桁が違った!!」



―――関西テレビ放送実況・川島壮雄アナウンサー



そんな2着争いの激戦を尻目に遥か前方で3番・タイトルホルダーがゴール板を横切った―――。
第82代菊花賞馬の誕生である。
勝ち時計は3:04.6。
なんと2番手との着差は5馬身の大圧勝であった。


1着 タイトルホルダー
2着 オーソクレース
3着 ディヴァインラヴ
4着 ステラヴェローチェ
5着 ディープモンスター
6着 ヴェローチェオロ
7着 アリーヴォ
8着 エアサージュ
9着 アサマノイタズラ
10着 ヴィクティファルス
11着 セファーラジエル
12着 ロードトゥフェイム
13着 レッドジェネシス
14着 モンテディオ
15着 グラティアス
16着 ヴァイスメテオール
17着 ノースザワールド
18着 ワールドリバイバル

払い戻し
単勝:3番 800円(4番人気)
複勝:3番 290円(4番人気) 18番 210円(3番人気) 11番 480円(6番人気)
枠連:2-8 1600円(6番人気)
馬連:3-18 2420円(6番人気)  馬単:3>18 5220円(15番人気)
ワイド:3-18 1050円(7番人気) 3-11 2590円(28番人気) 11-18 1410円(12番人気)
3連複:3-11-18 14610円(42番人気) 3連単:3>18>11 79560円(222番人気)



「……何が起こった?」
「後先考えずハイペースで大逃げしていたタイトルホルダーは終盤にスタミナ切れして、オーソクレースたちに飲まれて負けたんじゃないの?」
と思うのも当然だろう。


かくしてそのまま悠々とリードを広げ切ったタイトルホルダーはゴール板を駆け抜け1着。
見事クラシック最後の一冠の栄誉に輝いたのである。



「阪神の3000m一人旅!!」



―――ラジオNIKKEI実況・小塚歩アナウンサー



タイトルホルダー及び管理厩舎の栗田厩舎にとっては初のGI制覇となり、鞍上の横山武史は皐月賞のエフフォーリアと併せて別馬での変則クラシック二冠達成となった。
母父にMotivatorを持つ馬がGIを獲るのは何気に世界初だったりする。
日本調教馬で父子三代クラシック制覇も日本初であり、キングカメハメハは日本調教馬史上初のGIサイアーを3頭産んだ種牡馬となった。*5

グレード制導入以降逃げ馬の菊花賞勝利は2例目。また、2着以下に5馬身以上差をつけての勝利もスーパークリーク(5馬身)、ビワハヤヒデ(5馬身)、ナリタブライアン(7馬身)、エピファネイア(5馬身)と4例しかなくいずれも競馬史に名を残す名馬ばかりであり、王者不在を野次るのも野暮ったく感じる程の強さをタイトルホルダーは見せつけたと言える。

「タイトルホルダー」。その名の通り「王者ならここにいる」と示し菊花賞を勝ち取ったのだ。

また、戴冠を逃しはしたもののディヴァインラヴは牝馬史上菊花賞最高順位を記録。
また一つ牝馬の常識が破られる事になったという意味でも注目に値する結果となった。

このように目を見張る記録づくしのレースだったが、それ以上にファンの心をとらえたのは23年前から始まる人馬の父子の物語であった。

人馬に紡がれる父子のドラマ


菊花賞は基本的に逃げ馬が不利とされている。前述した通りグレード制導入以降、本レースを含めて僅か2例しか全コーナーを先頭で回って優勝した馬がいないのだからどれだけ不利かは推して知るべし。*6
さて、その第1例こそが他でもない23年前の菊花賞―――1998年第59回菊花賞。横山武史の父、横山典弘がセイウンスカイで制覇したレースである。
この時のセイウンスカイもタイトルホルダー同様スタートから大きく逃げ、その後ペースダウン、最終直線で一気に加速するという変幻自在のペースメイクで優勝しており、これを23年後に今度はセイウンスカイの騎手の息子が、しかも父と同じ2枠の黒い染め分け帽子をかぶって達成するのだから運命とは不思議なものである。
実際に横山武史は父が勝利した菊花賞の映像を研究し、参考のひとつにしていたという。
また、横山武史が生まれたのがその1998年の冬であり、その後誰も菊花賞での逃げ切りを達成しなかったのだから、ある意味このドラマは23年前に横山武史が誕生した時から宿命付けられていたのかもしれない。
ついでに勝利後のポーズも、見比べてみればわかる通り父親のそれと同じものであった。
これら往時のレースを彷彿とさせる数々の事項から「セイウンスカイの再来」と話題となった一方でこのレースには直接的には全く関係ないセイウンスカイがTwitterトレンド入りを果たした
なお、余談だが今回の菊花賞には23年前の菊花賞にも出走していた騎手がいた。
牝馬ディヴァインラヴの福永祐一と、中盤馬群に埋もれてしまったディープモンスターの武豊、かつてセイウンスカイと共に3強を形成していたキングヘイローとスペシャルウィークの主戦騎手だった2人である。
彼等がかつて同じ作戦で勝利するライバルの姿を目の当たりにしていた事は、この2頭が最終的に性別や展開の不利を覆して掲示板に名を連ねる事が出来た事実と決して無関係ではないだろう。

父子のドラマは鞍上だけではない。優勝馬タイトルホルダーにも大きな大きなドラマがあった。
時は2015年。この年のクラシックを支配する1頭の馬がいた。
その名はドゥラメンテ。荒々しい気性とその気性に見合った大迫力の走りにより皐月賞、ダービーの二冠を制覇するも最後の一冠を前にケガの悲運に泣いた馬である。
三冠は確実かと期待された競走能力は度重なるケガにより失われ、その夢を後世に託すも2021年8月31日に急性大腸炎により夭逝。僅か5世代しか産駒を残せなかったのだが、その最初の世代の産駒の内の1頭こそがタイトルホルダーであった。
そして、上記の通りドゥラメンテが取り逃し挑む事さえ許されなかったタイトルこそが菊花賞であり、タイトルホルダーの勝利はまさに父子の夢の結実であったと言える。
ケガしなかった世界線のドゥラメンテがいたとしても菊花賞いった可能性はそんなに高くない?知らんな*7
かくしてこの孝行息子の活躍によりドゥラメンテの血は時を超えた三冠達成に成功した。アニヲタ的に言えばこの馬のようなドラマだったと言えばわかりやすいか。*8
そしてこれに続くように、彼の半姉メロディーレーンも一週間後の10月31日に菊花賞と同じ場所・距離設定で行われた阪神3勝クラス「古都ステークス」にて勝利しオープンクラス入り。ドラマは多重に繋がることとなった。

ドラマはこれだけではない。ドゥラメンテは生涯最後のレースとなった宝塚記念で一番人気に推されながらも一頭の伏兵により勝利を阻まれた。その伏兵の名はマリアライト。―――二度に渡りタイトルホルダーのキャリアに立ちふさがり、本レースでも2着につけたライバル、オーソクレースの母である。
この父子揃って実はマリアライトとオーソクレースの母子に負け続けており、クラシックもラスト一冠になったこの大舞台でついにリベンジを達成したという事になる。また、オーソクレースの父母父が前述したセイウンスカイに菊花賞で敗れたスペシャルウィークだったりする。*9このライバルとの出会いもまた競馬の神が導いた運命だったのだろう。

他にもクラシック三冠連続3着の珍記録を惜しくも逃したステラヴェローチェだが、逆に阪神で終わったクラシックの最終成績を334にしたとネタにされる、等変なドラマもいくつか生えた*10


まとめ


かくして地味な印象とそれを裏付けるかのような売上減を見せた菊花賞だったが、終わってみれば内容は後々の競馬史で間違いなく語られる一戦となり、そこに刻まれる物語も多くのファンの記憶に残る一戦となった。
情報量が多過ぎて一時期「横山武史がセイウンスカイ産駒で亡き父の悲願だった菊花賞勝利」なんて何もかもが間違った情報が流れたりしたのはご愛敬。

セイウンスカイの勝利から23年。既に古い時代の物語となった1998年の菊花賞が今再びこうして多くのファンの胸に思い起こされた、という意味でも競馬史にとって大きな意味を持つ一戦であったと言えるだろう。

1998年から2015年、2016年、そして2021年へ。時も場所も違えど、快晴の空はあれからも変わらず青く広がっている。



追記・修正は阪神3000mを逃げ切ってからお願いします。

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最終更新:2021年12月05日 22:18

*1 牡馬クラシック三冠馬コントレイル、短距離とマイルの2路線制覇の快速女王グランアレグリアが出走、エフフォーリアと並んで三強と見られていた

*2 奇しくもこの一週間後に開催された天皇賞(秋)で、それを更に裏付ける出来事が起きるのだがそれはまた別の話

*3 半姉

*4 同計算でライスシャワーが46.6、オルフェーヴルが46.5から6と言った所

*5 ルーラーシップ、ロードカナロア、ドゥラメンテ

*6 この年は舞台が阪神に代わっているが、阪神3000mの全コーナー1位通過で考えても1993年阪神大賞典のメジロパーマー以来である

*7 ドゥラメンテの3歳秋は凱旋門賞行きのプランも練られていた為

*8 奇しくもアマゴワクチンも前述のセイウンスカイを意識したような描写が度々あり、ペースを操って勝つ事を得意とする逃げ馬であった

*9 更に更に言えばタイトルホルダーの母父父はMontjeuなのでそういう意味でもリベンジを果たしたと言える一方で、オーソクレースの母母父の方はよりにもよってエルコンドルパサーだったりするのだが、そろそろキリがないのでこの辺にしておく。

*10 誤解の無いように言っておくが、クラシック全てで掲示板内というのは相当な実力馬以外には出来ない。