コントレイル(競走馬)

登録日:2023/07/12 Wed 06:22:25
更新日:2025/04/22 Tue 08:55:02
所要時間:約 22 分で読めます







空に描く衝撃の軌跡。


コントレイル(Contrail)とは日本の元競走馬・現種牡馬。
日本競馬史上8頭目の三冠馬であり、父ディープインパクト史上初の親子での無敗クラシック三冠を達成した優駿。

目次

【データ】

誕生:2017年4月1日
父:ディープインパクト
母:ロードクロサイト
母父:Unbridled's Song
調教師:矢作芳人 (栗東)
馬主:前田晋二*1
主戦騎手:福永祐一
生産者:ノースヒルズ
産地:新冠町
セリ取引価格:- (ノースヒルズ自家生産のため)
獲得賞金:11億9,529万円 (中央)
通算成績:11戦8勝 [8-2-1-0]
主な勝鞍:19'ホープフルS、20'皐月賞・東京優駿(日本ダービー)・菊花賞、21'ジャパンC

【誕生】

2017年4月1日生まれの青鹿毛の牡馬。
父は説明不要の“衝撃の英雄”ディープインパクト
母のロードクロサイトはアメリカで生まれ、日本に輸入された外国産馬で、コントレイルは3番目の産駒に当たる。
ロードクロサイト自身は未勝利馬だが、母の父アンブライドルズソングは名種牡馬で、日本ではダノンプラチナやスワーヴリチャード、1個下のジャックドール等を母父として排出。祖母に当たるフォークロアはアメリカのG1であるBCジュヴェナイルフィリーズを制覇している他、近親にも活躍馬のいる良血である。

名前の由来は英語で「飛行機雲」を意味するcondensation trail(コンデンセーショントレイル)を略したもの。これは世界的にも一般的な馬名らしく、同名の馬が本馬含め18頭存在する。
飛行機雲には、見た人の願いを叶えるという言い伝えがあり、目にした人の夢を叶えられるようにという願いを込めてContrail(コントレイル)と名図けられた。

【現役時代】

2歳


衝撃、再び

2歳で矢作芳人厩舎に入厩し、デビューは2019年9月15日の新馬戦、阪神競馬場の芝1800m戦。JRA・GIを通算21勝(当時)、前年ワグネリアンで悲願のダービージョッキーとなった福永祐一が主戦に抜擢された。
外枠から好発を決めると外目の2~3番手追走から馬なりで3F33.5の末脚を繰り出し2馬身半差の快勝。

2カ月空けて臨んだ2戦目の東スポ杯2歳S(当時GIII)は前任が騎乗停止期間中だったため、短期免許で来日中だった欧州の名手ライアン・ムーアが手綱を握った。
すると前半1000メートル58.7というハイペースを5番手から運び、直線に向くと余力のない先行勢をいとも簡単に切って捨てる強烈な末脚を披露。
2番手につけた着差は5馬身(0.8秒)、走破時計は1.44.5(旧記録を1.4秒も上回る2歳JRAレコード)、上がり3F33.1という、高速馬場を抜きにしても衝撃のタイムで連勝を飾った。
この結果は現場の人々にも極めて大きなインパクトがあったようで、「来年のクラシックはこの馬だろうな」というような風潮が既に出始めていたとか。

順調に勝ち星を重ね、2歳戦の総決算として臨んだ年末のホープフルステークスは鞍上が福永騎手に戻った。以降、このコンビは引退まで全てのレースで解消されることはなかった*2
コントレイルを含む5頭の無敗馬*3が参戦し話題となったこの1戦、当時はまだ無名だったパンサラッサ*4が前半を60.9で入り以降も1Fあたり12.1前後が並ぶ淀みないペースを刻む中、先団を離れた位置で見る4番手集団の最前列を追走。
3コーナーから進出開始し直線入り口では2番手に浮上すると、直線は最後までほぼ馬なりで前を捉え、後続にも差を詰めさせない完勝。無傷の3連勝でGIタイトルを奪取した。

ここまでの戦績が評価され、年明けの記者投票によりJRA賞の最優秀2歳牡馬部門を受賞(197票/274票)。
この世代にもう1頭いた無敗の2歳GI(朝日杯FS)勝ち馬サリオス(77票)と票を分け合う形となったが、歴代で初めての「ホープフルS優勝馬(つまり朝日杯FS勝ち馬ではない馬)による最優秀2歳牡馬」である。
今になって思えばこの時から既にサリオスは恵まれてないなぁ……こっちだって府中芝1600の2歳レコードなのに……

3歳


三冠は果てなき夢への滑走路

皐月賞と同じ中山2000m戦を制し2歳王者となったコントレイル。もちろん3歳戦は王道のクラシック戦線へと駒を進めることとなり、その第1ラウンド皐月賞へは前哨戦を使わず本番直行を選択した。
先述したもう一頭の2歳王者サリオスも同じく皐月賞直行、言うなれば統一王者を決める戦いとなった。

単勝2.7倍の1番人気に推されて臨んだ皐月賞は前日の雨の影響が残っての稍重馬場となった。コントレイルはこのコンディションでは好枠とは言い難い最内1番枠*5
五分のスタートでゲートを出るも状態のよくない馬場でダッシュがつかず、外からポジションを取りに行った各馬に押し込められる形で中団後方の12番手を選択。積極的に前に出て先団を見る4番手で進めるサリオスとは対極的な位置取りになった。
1000m通過が59.8と道悪としては速いペースで前が展開する中、3コーナーに入り馬群が散り始めたタイミングで福永騎手が馬場状態の良い外へ誘導し前へ進出。中団待機していた各馬を4コーナーで一まくりし、先に抜け出して押し切りにかかっていたサリオスを残り1ハロンで外から強襲しての叩き合いとなった。
最後は内の荒れた馬場を通らざるを得なかったサリオスを半馬身競り落とし先着。
王者統一、無敗の皐月賞馬誕生である。
そして2~3着の間についた着差は3馬身半。概ね「コントレイルとサリオス、そしてそれ以外」と評するような結果になった。
ちなみに鞍上の福永騎手はこれが皐月賞初勝利であり、同時に五大クラシック完全制覇も達成。奇しくもダービーと同じ19回目での戴冠であった。

二強ムードから一転、一強という評価へと変わりつつある中で迎えたクラシック戦線第2ラウンド、東京優駿・日本ダービー。集めた支持は単勝1.4倍。
引き当てたのは3枠5番他でもない、父ディープと同じ枠・同じ番号である
好発から内ラチ沿い好位の3番手を確保すると、前が1~2コーナーでペースを緩めたことで1000m61.7のスローペースに。あまりに遅すぎたので後方待機していた横ノリが向こう正面でまくりに行った
このまま4コーナーまでスローのまま展開し、直線での末脚勝負……にすらならなかった。
そもそも世代屈指の切れ味を持つコントレイルが前で楽に競馬している時点でもはや他馬に割って入れる余地など残されていなかったのである。

「更に外から12番のサリオス!サリオス来るが!」

「今度は、ちぎり捨てられた!!」

「このダービーは、コントレイルのためにあった!!」

(フジテレビ実況・福原直英アナ)

坂を上りきって残り300m程、後方から追い込んでくるサリオスが1馬身程後方に接近してきたところで鞍上がゴーサインを出すと詰まっていたはずの差が一瞬で開き始めた
終わってみれば3馬身差の完勝。それもまともに脚を使ったのは終いの300m余りだけである。
福永騎手は最後の直線について、「直線に入ってからこの馬は遊んでしまうので追い出しを少しだけ待った」というコメントを残している。早い話が本気を出すまでもなく楽々勝ってしまったのだ。
レース後、ウイニングランを追えて正面のスタンド前まで戻ってきたコントレイルは馬場の真ん中で歩を止め、馬上の福永騎手と共に静かなスタンドに向けてお辞儀をしたという。

何はともあれ、父以来となる7頭目の無敗二冠馬*6がここに顕現した。
この世代じゃなきゃサリオスが無敗の二冠獲れたという声もまあまああった
次なる目標はもちろん菊花賞。これまた父以来の無敗三冠と同時に世界でも類のない「親子での無敗三冠」への挑戦権を得て秋へ臨む。

秋戦線は西の菊花賞トライアルである神戸新聞杯(中京競馬場・芝2200m)*7から始動。
内の2番枠から五分のスタートで中団の内目を追走し、直線を向くまでほぼ馬群の中で進める難しい展開も直線で抜け出すコースができたところを軽々と突き抜け、余力を残しての1着。
負けるわけにはいかない前哨戦を次につながる内容と両立しながら乗り切り、いよいよクラシック最終戦の舞台である淀へと歩を進める。

迎えた本番、菊花賞。決戦の地である京都競馬場には1000人ほどのわずかながら観衆の入場が許された。
春二冠で鎬を削った相手のサリオスが長距離戦線に向かわなかったためライバル不在と目され、集めた人気は単勝1.1倍。2番人気だったヴェルトライゼンデすら10倍を超えるという圧倒的な支持を得てのスタートとなった。
2枠3番からゲートを五分に出ると1周目の3~4コーナーを中団前目の7番手で追走。しかしその外目後方にピッタリとマークを付けてくる馬が1頭いた。

クリストフ・ルメールが操るアリストテレスである。
アリストテレスは春先は善戦しながらも勝ちきれない競馬が続いていたが、夏に自己条件を連勝し抽選(6分の4)で菊花賞のゲートを勝ち取った、言わば「持っている夏の上がり馬」。
その背に乗るルメールはフランス出身の名手*8。2018年にはJRA賞騎手大賞*9も勝ち取り、以降も全国騎手リーディング争いの常連であるトップジョッキーである。その2018年にはフィエールマンでこの菊花賞も勝っている、まさに勝ち方を知っている男が虎視眈々と一発を狙っていた。
スタート直後から終盤までずっと半馬身も離れていない近くからプレッシャーをかけられる格好となり、終始掛かり気味にレースは進んでいく。*10

2周目3コーナーで内側に少しスペースができたところでコントレイルが少し内寄りに進路を取り、一瞬マークが外れる。内に切り込めなかったアリストテレスは外から進出し、4コーナーで再び併せる形になり直線へ。
3番手以下は早々と先頭争いから脱落し、馬場の3分どころ~真ん中でひたすら2頭の鍔迫り合いが続く。
粘るコントレイル、迫るアリストテレス。
決着がついたのはスタートから3.05.5。
ゴール板を通過する最後の最後まで、コントレイルはクビ差残して抜かさせなかった。
コントレイルの上がり3F35.2に対してアリストテレスは35.1とわずかに速いタイムで迫っており、結果としては2周目3コーナーの一瞬の仕掛けが勝負の分かれ目であった。

これによりシンボリルドルフトウカイテイオー親子が成しえなかった親子での無敗三冠を達成した
この時の実況である、「三冠は果てなき夢への滑走路!」は必聴。*11


-父ディープインパクトの偉業から15年、衝撃には続きがありました!-


その後は、スケジュール上はやや無理を押す形となるが、状態が良かったことや有馬記念を使うには向かないことからジャパンカップに出走。
同期の無敗の三冠牝馬デアリングタクトと最強女王アーモンドアイと激突。
通常なら一時代に一頭出るかどうかという三冠馬が三頭も出走し「世紀の一戦」と呼ばれたこのレースは、アーモンドアイの2着だったものの、負けてなお強しの戦いを演じた。

4歳


空の彼方に

しかし、年明け以降は雨の重馬場(ただしコースコンディションとしては実質的に不良馬場に近い程の環境)で開催された大阪杯では持ち味である末脚を活かせず、クラシックをスルーして無敗街道を歩んでいた同期で同父の牝馬レイパパレにまんまと逃げきられ3着。

更に疲れが抜けないという理由で宝塚記念を回避。春を1戦0勝で終えることになる。
当時は公表されていなかったが、元々デビュー前から球節に不安を抱えておりレース後にその状態が悪化したことが回避の要因となっている。
そして、同時期に今年度での引退・種牡馬入りも発表されており、言わば「万が一にも壊すわけにはいかないから使いたくても使えない」という事情であったことが推察される。
今年で引退ならばなおのこと「三冠馬として、負けたままでいるわけにはいかない」というのは当然であるが、同時に、偉大なる父ディープ亡き今、彼の「血」の価値は、「たかだか意地一つ」と換えられるようなものではないのだった。

陣営のビッグマウスがありながら一転して逃げたように見えるこの回避と、クラシックで争ったライバルたちがこの時点では古馬になってGⅠでまるで勝てていない*12ことからクラシックのレベルを疑われてしまうことになり、一部からは「世代が弱かっただけのラキ珍」「最弱の三冠馬」という汚名を被ってしまう羽目に。

汚名返上を賭けた天皇賞秋では、この年の皐月賞を制したエフフォーリアをマークしながらレースを進め、最後は上がり最速の脚で追い込むも、それを次ぐ脚を前で繰り出したエフフォーリアを捉えきれず2着*13。これで三冠達成から三連敗を喫してしまう。

そして、初の敗北から丁度1年。コントレイルは再びジャパンカップに挑戦。
このレース後にはコントレイルの引退式が予定されており、彼は敗戦の日々が始まった場所を、自身最後の戦場として選んだのだ。
出走馬には、この年のダービーでエフフォーリアを下したシャフリヤールや、アルゼンチン共和国杯を連覇して調子を急激に上げているオーソリティ、前年の菊花賞でコントレイルを追い詰めたアリストテレスなど強力なメンバーが揃い、シャフリヤールの他にもマカヒキ・ワグネリアンと「『ディープ産駒のダービー馬』が本馬含め4頭参戦」というある意味伝説的な出来事も起こりつつ、コントレイルは連敗を喫しながらも出走レースのレベルが相応に高かったことと、その中でも大崩れせずに走れていたことから、単勝1.6倍の圧倒的1番人気(2番人気はシャフリヤール3.7倍)に支持された。

レース本番、コントレイルはシャフリヤールとオーソリティを前に見ながら序盤のレースを進め、最終直線で大外に出すと、上がり最速の脚を使って有力馬2頭の前にあっさりと踊り出た。そのまま食い下がろうとするオーソリティを2馬身引き離しゴール板へ。これで菊花賞以来、実に13ヶ月振りの勝利を手にした。

「空の彼方に最後の軌跡!」

「コントレイル有終の美を飾ってみせました」

連敗に終止符を打ち、有終の美を飾るという最高の形でターフを去ったコントレイル。
場内は温かい声援で満ち溢れ、全てのGⅠレースで鞍上を務めた福永騎手は、ゴール後に人目をはばからず涙を流した。

【引退後】

引退後は当然種牡馬入りしたものの、性格からちゃんと種付けができるかが不安視されていた…がなんと牝馬を見るとガツガツ行くロールキャベツ男子*14であったことが発覚。
これによって、本来適性がないとされた菊花賞を制したことを一部から「種牡馬入りに三冠馬という箔付けのために頑張った」という意見が出る始末であった。

初年度の種付料は初年度1200万円、父の初年度と同額である。
競走面で順風満帆とはならなかったことも加味すれば相当な期待をかけた強気の設定と言えるが、牝馬は順調に集まり、最終的に193頭と社台SS内でもトップクラスの数となった。
2023年誕生の初年度産駒は、同年7月のセレクトセール*15で、全21頭と他の種牡馬より多くの数が売りに出される事になった。
当歳馬でありながら馬体の出来の良さが評価されていたものの、ノースヒルズが主戦騎手だった福永調教師が
コンヴィクションⅡの2023を「一番いい、是非落として欲しい」と口にし、厩舎開業祝を兼ねていたとはいえ5億2000万*16という1歳部門も含めて歴代3位の高額落札を筆頭に
前日の1歳馬でドゥラメンテのラストクロップ、ジェンティルドンナの半妹に2億1000万円の歴代牝馬最高落札が出た翌日に2億8000万円に更新するなど億越え落札が連発。
結果産駒20頭が計25億7200万円で落札された。
産駒の評判がよかったのか応募が殺到しすぎたのかは不明だが、2024年には種付け料が1500万円に増額。
産駒が走っていないことを考えると非常に珍しいが、馬産界の期待が大きいことをうかがわせる。
これからの産駒の活躍に期待したい所だ。

【評価】

前提として評価基準は原則的に「三冠馬」であることは前置きしておくところだが、大変、毀誉褒貶が激しい馬である。

数値上の戦績では最初に書いてある通り8-2-1-0。出走数が少なめとはいえ、安定感はこれ以上ないほどである。
G1は2歳1勝+古馬1勝を含めた5勝と十分に多く、三冠馬として特別に劣るわけではない。

しかし前述したように、三冠達成以降は4戦1勝という戦績と、2021年を通して同期が総じてパッとしなかったことで世代のレベルを疑われたことで、特にジャパンカップで汚名返上するまでの期間には心無い非難の嵐であった。
中には「菊花賞で負けて二冠馬で終わった方が競走馬として正当な評価を得られた」というものもある。まあ、競馬関係者にとってそれだけ三冠馬という肩書きは重く、それを持つことで求められるハードルが高くなるということであるのだが…

世代のレベルが低い疑惑に関しては、クラシック組以外から様々な馬が名を上げ、コントレイルと対戦した同期馬だけ見ても神戸新聞杯12着のパンサラッサが2022年ドバイターフと2023年サウジカップ勝利・同14着のイロゴトシが2023年・2024年中山グランドジャンプ連覇、天皇賞(秋)6着のポタジェが2022年大阪杯勝利でG1馬となったため、今となっては低レベルな世代などと軽々しく言える状態ではなくなった。
特にダートに至っては3歳シーズンからテーオーケインズとカフェファラオを筆頭に群雄割拠の黄金世代と言われるほどのハイレベルな馬が当初から活躍、そしてウシュバテソーロがダート転向を契機に覚醒するや国内外問わず高額賞金のG1で暴れ回って日本調教馬の総獲得賞金記録を更新し、低レベルどころか近年稀に見るダート最強世代候補にも挙がるほど。
……クラシック三冠を争った相手の評価についてはあまり払拭されてないのだが(一応その後重賞勝ちした馬は複数いる)、そもそもこの問題自体が三冠馬あるあるで、ディープだってその風評があったうえで今の評価を得ている馬である。
結局はコントレイル自身の走りを以て評価すべきところであろう。

大阪杯に関しては良くも悪くも重馬場に適応できなかったとしか言いようがなく、重馬場はいかに強い馬だろうと得意不得意が極めて強く出るものである。適性不足という前提なら「よく3着で耐えた」という見方はできる
代わりに、かなりの素質馬だったが以降は勝ち星なく終わるレイパパレや、G1では穴馬にすぎず典型的な重馬場巧者のモズベッロ(2着)に負けたというのは厳しいところではあるが……
一方で残る2戦で負けたのは、紛れもない日本史上最強馬候補であるアーモンドアイや、翌年から失速するもののこの時は前後に皐月賞と有馬記念を制し、紛れもない超一流の能力を有していたエフフォーリア。
こいつらに約1馬身差で敗れたところで実力の程を決めつけられるのか相当に疑問が残るのは確かだろう。

……要は総じて「負けても仕方ない」と言えるところばかりだし、「そこで勝ってこそ本物だろ」と言えるところでもある。そりゃ評価も割れるわというもの。
だが少なくとも、距離差最大1000mの三冠を達成し、上下世代の最強馬と好勝負を演じ、ダービー馬たちを下してJCを制する馬は「並大抵のG1馬」とは格が違うとは言っていいだろう。

前述の通り、体質が弱いとはいえ引退は明らかに種牡馬入りを重視したもので、競走能力だけ見るなら翌年も問題なく走っていただろうと見られているため、
大人の事情でその機会が失われて未知数な部分を多く残してしまったことは、競走馬として評価する層にとっても「残念」になるし、否定的な者が「残念」扱いする理由の一つでもあるだろう。
「三冠馬の肩書きに縛られなかったり、5歳まで使える余裕があればマイルG1への挑戦もあったのでは?」などはよく言われるところである。

また、こうした評価において陣営の言動の不味さもその原因の一つになったのは確かだろう。
負けたレースに関しては前述した理由があるのでビッグマウスに関しては百歩譲れば不問にできるかもしれないが、宝塚記念を回避した際に球節の不安というレースを回避するには十分な理由を隠して取ってつけたような理由を公表したことは本馬の名誉を傷つける行為として批判に晒されても仕方ないだろう。こういうときは下手な誤魔化しをするよりもちゃんと正直に言ったほうが民衆は受け入れてくれるという例とも言える。

なお、歴代三冠馬の中で唯一年度代表馬を逃しているというポイントがあるのだが、これに関しては、他馬は全て三冠達成を以て年度代表馬を受賞しているのに対して2020年の年度代表馬はアーモンドアイだったという時点で「運が悪かった」としか言えないだろう。もちろんJCで勝ってれば文句なしだっただろうが、ディープは有馬で負けても年度代表馬だったんだし……
顕彰馬入りも2023年度、投票対象入り初年度時点でわずか1票の差で逃している*17……が、顕彰馬の選定はそもそも疑問が多分にあることでお馴染みなのでなんとも言い難い*18

24年度の投票にて投票率86.4%(176票中152票)を獲得し顕彰馬に無事選出された*19

【余談】

この馬は妙にかわいらしい逸話が多い。
具体的には
  • 受話器のような形の額の流星がトレードマーク。ファンの間では📞の絵文字でコントレイルの事を表すことも。
    幼い頃は牧場関係者から「もしもし君」と呼ばれていたとか。
  • 人参はすりおろさないと食べない。最近ようやく輪切りも食べられるようになった。
  • 注射が嫌いで、調教助手から「子供が嫌がるみたいな感じ」と言われてしまう。
  • 猫のように伸びをする姿や、狙いすましたかのようなかわいい舌ペロ写真などが多く収められている。
  • 文中で「※写真は本人提供」と表記され、自撮りができる馬扱いされる。
  • ウイニングラン後や引退式では福永騎手や矢作調教師と一緒にお辞儀をして見せる。
    矢作師を乗せて入場する際に「重い…」と言わんばかりにどんよりした表情を浮かべ、降りた瞬間に解放されたような感じに。
などなど。ディープも可愛いところがある馬であったが、さすがにこれほどの話題は出てこない。
さしずめ三冠馬の癒し枠とでもいうべきだろうか?

引退後ノースヒルズは牧場・大山ヒルズ・京都競馬場の3箇所にそれぞれ実馬より3/4程度大きさのコントレイルの銅像を建てている。

福永騎手はコントレイルの引退から約1年後に調教師免許を取得、騎手・調教師免許は同時に持てないため翌23年2月末で騎手を引退するが、
引退時46歳と十分高齢かつ前年に大怪我もしていたとはいえ、22年時点で騎手としては全盛期真っ只中、バリバリのトップジョッキーだっただけに驚く声も少なくなかった。
「コントレイルと出会ったことで日本競馬でやれることはやった。その産駒に携わりたい」と、コントレイルとの出会いが彼に大きな決断をさせたようである。
なお上記のように騎手時代に築いた人脈から新人調教師としては上記の馬以外にも複数の億越え・億に近い高額馬の預託が内定しており、彼や厩舎関係者の胃が心配である*20*21

静かなスタンド

今なお終息までの道筋は遠く、我々の生活に大きな影響を与えている新型コロナウイルス
コントレイルが活躍した2020年はちょうどその流行が猛威を振るい始めた頃であり、外出制限など非常に厳しい措置がとられた状況下だった。
その影響でコントレイルが臨んだ春のクラシック二冠はどちらも無観客での開催
場内にいたのはごく一部の関係者などのみであり、例年なら何万人もの観衆が集うスタンドはひたすら空席が並んでいるだけであった。
最後のクラシック三冠レースである秋の菊花賞も、当日の京都競馬場に入場できた一般客は1000人というごく少数。
もちろん声出しなど認められるような環境でもなかったため、親子での無敗三冠という世界初の快挙が達成されたのは、わずかな拍手が起こっているだけのがらんどうな競馬場だった。
そんな事情があったため、コントレイルはクラシックを勝った時の口取り写真も存在しなかったりする。

……そんな彼のラストランがダービーと同条件のジャパンカップでの勝利となり、今度はスタンドを埋め尽くさんばかりの観客と大歓声に迎えられながら勇退するというドラマは、競馬の神様の粋な計らいかもしれない。

距離適性

関係者も本来の脚質・距離適性は絞り込めなかったようで、まさに名前の由来である飛行機雲のように実態を掴めない馬であった。コントレイルの本来の適正距離については矢作調教師が「マイルから中距離」「どこまでいってもベストは1800~2000m」とする一方、福永騎手が「調教次第では1200でも走れる馬」というように関係者でも意見が分かれている。

しかしこれらの意見で一つ一致している点がある。それは、「長距離は適正距離外」というもの。
クラシック三冠制覇も持っている素質の高さでどうにかなったものの、菊花賞後は目に見えて疲弊しきっており、福永騎手が戦後に「もう長距離は使わないでくれ」と陣営に直訴したとされている。矢作師も菊花賞後には「もう3000mを走らせるつもりはない」としていた。
コントレイル自身も20’ジャパンカップの直前まで状態が戻って来ず、陣営では出走回避も検討されていた。
また有馬記念にも距離の長さを理由として参戦することはなかった。


追記・修正は親子で三冠を制してからお願いします。


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最終更新:2025年04月22日 08:55

*1 ノースヒルズ代表・前田幸治氏の実弟

*2 東スポ杯後、観戦していた福永にオーナーから直々に指名の電話があったそうな

*3 ヴェルトライゼンデ、ワーケア、オーソリティ、ガロアクリークの4頭で、ワーケア以外の3頭は後に重賞を勝っている

*4 ちなみに同じ矢作厩舎所属だったりする

*5 そもそも皐月賞は前年冬から春にかけて使い倒された中山競馬場の大トリを飾るレースであり、JRAの高度な馬場管理技術を以てしてもなお、内ラチ沿いの芝は例年かなり傷んだ状態で施行される

*6 ディープインパクトからコントレイルまでの間にクラシック二冠を制覇した馬はメイショウサムソン・オルフェーヴル・ドゥラメンテの3例があるがいずれも「無敗」ではない

*7 京都競馬場のリニューアル工事を控えていたことでこの年は関西主場の開催スケジュールが変更されたため、例年の阪神2400mとは違う条件となっている

*8 元々は短期免許で来日していたが(一気に知名度を上げたハーツクライとのコンビもこの時期)、2015年に通年騎乗免許を取得しJRA初の外国人騎手の一人となった。ちなみに同期は同じくイタリア出身の名手であるミルコ・デムーロなど。

*9 JRA賞騎手部門の一つで、その年の「最多勝利騎手(リーディングジョッキー)」「最高勝率騎手」「最多獲得賞金騎手」の3部門を受賞した騎手に与えられる賞。その条件上該当者なしの年も多い一方、達成するような騎手はとても限られるため、同じ騎手が複数受賞する場合も多い。現在ではルメール(2018年・2019年)の他は、シンボリルドルフなどの主戦で知られる岡部幸雄(現在は引退、1987年・1990年)、みんなご存知の武豊(1997年~2000年、2002年~2006年)、短距離・マイルを中心に大活躍する川田将雅(2022年)の計4人しか受賞していない。

*10 一応後にルメール本人が言うには枠(9番枠)の並びからマークする気はあったが意図してプレッシャーをかけに行ったわけではないとのこと

*11 地上波で実況を務めた川島壮雄アナ(フジテレビ系・関西テレビ放送)が発した言である

*12 重賞勝ち自体は複数いたものの、この時点での古馬G1勝ち馬は先述のレイパパレとカフェファラオ(フェブラリーS)の全く路線が違う2頭のみ。春2冠の2着馬サリオスは同年の毎日王冠、菊花賞の2着馬アリストテレスは明け4歳のアメリカJCC以降勝ちから遠のいてしまっていた。同馬主でクラシックを皆勤したディープボンドも、複数のG2勝利とGI2着を重ねながらも2023年7月現在に至るまでGIを勝てていない。

*13 ダッシュがつかない体勢でスタートしてしまったため、鞍上もどうにか遅れずに発馬させるのがやっとであった。これにより府中2000で最も有利とされる最内の1番枠がかえって仇となりポジションを取りに行けなかったのが敗因と分析している。ちなみにこれはこれで「なんで控えたんだ」と騎乗に対する批判があったそうだが、「控えたのではなく進めなかった」という話である。

*14 一見草食系に見えて中身は肉食系を肉を野菜で巻くロールキャベツに例えた呼び名

*15 日本最大の競走馬の競り市。特に当歳馬に関しては、世界最高クラスとも言われる。

*16 前田幸治氏曰く「3億くらいを見越して予算オーバーしたけど冷静に競った、福永調教師にいい馬をプレゼント出来た」と笑顔で語っている

*17 現在と概ね同じ基準で選考を受けている三冠馬であるディープおよびオルフェーヴルは一発で顕彰馬入りした。

*18 これに関しては2022年度の投票でアーモンドアイを一発突破させなかったツケをコントレイルの時に払うことになったという見方ができる(アーモンドアイは2023年度で顕彰馬入り)。

*19 同投票でキングカメハメハも投票率81.3%(176票中143票)で顕彰馬に選出された。

*20 明確に記事になった上位2頭だけでも8億を超えており、10億オーバーは確定、下手したら25億ぐらい行くのでは等と言われている

*21 実際、コンヴィクションⅡの2023の落札時には、普段明るい福永調教師も流石にこわばった表情を見せていたとか...。