以下はSCP-3333内部において、ウィリアムズ博士により携帯電話に録音されたものである。
ウィリアムズ博士の「探索のログ」は探索Ⅲの少し後から始まる。
博士はカメラを装着して、SCP-3333を登り続けている。
…いや、探索というよりも、なにかから逃げているようだ。
下方からは銃声が聞こえる。
ウィリアムズ博士はおよそ10分間登った後、休憩を取ろうとする。
博士、携帯電話のカメラをテーブルに立て掛け、椅子で下の跳ね上げ扉を封鎖する。
座り込むウィリアムズ博士。
ウィリアムズ博士は血で覆われ、パニック状態にあるように見える。
手には拳銃を持っている。
博士はカメラを見て喋り始め、そして泣き始める。
およそ一分間泣いた後、泣き止み、これまでの「経緯」を語り始める。
ウィリアムズ: やられたわ。完璧に。訓練された機動部隊が撤退を決定したのを、ちょっとした曖昧さを根拠に咎める人なんていないでしょう?あと勿論私は彼らを親しく知っていたわけじゃない。何かがおかしいなんて、誰に言えばよかったの…
何者かが跳ね上げ扉と開けようとしているらしい。
扉からガタガタという音がする。
ウィリアムズ博士、銃を手に取り扉に向ける。
声: ウィリアムズ博士?ウィリアムズ博士!こちらは機動部隊アルファ-3!我々はこの駐留地から救難信号を受信しました!我々はここの職員から攻撃されました!何が起きているのですか博士?[打撃音] 入れてください博士!
ウィリアムズ: [パニックする]さが - [咳] 下がって! - 騙されないわ!
Alpha-3: ウィリアムズ博士!お願いです!入れなければあなたを敵として扱います!
ウィリアムズ: [叫ぶ] 下がって!
補遺にある通り、そもそも財団本部に向けてSOS自体が発信されていないのだ。
ということは、彼らは…
何本かの指が跳ね上げ扉から現れ、押し上げ始める。
ウィリアムズ博士は扉の上に乗り、それらの指を踏む。
何かが砕ける音がして、指は扉に挟まれたまま完全に平らになる。
…その「潰された指」が引き戻されるのに従い、何かが裂ける音が聞こえてくる。
恐らく扉の向こうで機動部隊を語る何者かの正体は…。
ウィリアムズ博士、ドアの上から二発射撃し、カメラ=携帯電話を掴み再度SCP-3333を登り始める。
博士は跳ね上げ扉を封鎖しながらおよそ一分半登り、立ち止まり嘔吐し、およそ10分間泣く。
その後、博士は20時間以上ノンストップで登り続けた後、崩折れる。約2時間ほど意識を失っていた後、叫びながら起きる。
ウィリアムズ: [叫び止む ]ゆ - 夢じゃない。[間] 喉が渇いた。[間] キットを持ってくればよかった。
ウィリアムズ博士、携帯電話を立て掛け、雨を飲むために外に出る。
が、この雨は塩辛い雨だったらしく、程なくして唾を吐きながらSCP-3333の内部に戻ってきた。
再びSCP-3333を登り始めるウィリアムズ博士。
一時間登った後、SCP-3333のドアからノック音が聞こえてきた。
博士、即座に立ち止まり銃を取り出す、呼吸は荒く、手は震えている。
もう一度ノック音が聞こえてくる。…今度は逆の方向から。
博士が振り向くと、探索ⅠでSCP-3333に乗り込んだDクラス、D-4f68aがドアのところに立っている。
彼は極度に痩せており、ドアにもたれている。皮膚は乾いてひび割れ、潰瘍ができ、所々で殆ど剥がれ落ちている。
D-4f68aはドアを開けようとする。ドアにある簡素なノブ鍵が、D-4f68aの姿をした「何か」の侵入を拒んでいるが…。
D-4f68a: [枯れた声で] 入れてください、ドク!
ウィリアムズ: 下がって!
ウィリアムズはドアから下がり、銃をD-4f68aに向ける。彼はドアを叩き続ける。
D-4f68a: お願いしますドク、入れてください!外には水がないんです!
ウィリアムズ: 違う - あなたじゃない - 彼は私をドクと呼んだことはない!一度も!
D-4f68aも、機動部隊Mod-0のメンバーも、当初はウィリアムズ博士のことを「博士」と呼んでいたはずである。
「ドク」と呼び始めたのは、探索の途中からのはずだ。
沈黙のあと、D-4f68aの顔が完全に弛緩する。
D-4f68a: 俺は実際に彼を見たことはない。でもお前が子供だった頃から、お前の目は可愛いと思っていた…
Dクラス、ドアの木板の一枚を拳で破壊する。血は出ない。
Dクラスはそこから手を差し込んでノブを回す。
ウィリアムズ博士、発砲し始める。
Dクラスはついにドアを開け、博士に向けて走り始める。
博士はDクラスに向けて5発の発砲を行う。そのうちの一発がDクラスの脚に当たり、Dクラスは崩折れる。
Dクラスは地面でのたうち回る。
Dクラスの皮膚は一部しか動きについていかない。まるで彼の内部で何かが動き回っているかのようだ…。
さらに5発発砲する博士。そのうちの一発がDクラスの腕に命中するが、血は出ない。Dクラスの腕は平たく見える。
Dクラスは裏返って這い去ろうとする。…Dクラスの
腕はゴムのように後ろ側に揺らめいている。腕の中に「中身」は無いようだ。
Dクラスを見て叫ぶ博士。何故ならDクラスの胸部の中央で、なにか大きな物体がうごめいているのだ。
Dクラスの中で大きな羽ばたき音がする。博士は4発発砲する。銃弾が無くなったため、クリック音が虚しく響く。
大きな、乾いた「ドシン」という音がした。博士はカメラ=携帯電話を拾う。博士はショックを受けたように見える。
博士、携帯電話を置き嘔吐する。
再び携帯電話を拾い、Dクラスの「死体」に向ける。
壊れた窓に寄りかかった、何か大きな黒い塊がある。
その「何か」からは、透明なゼラチン状の"血液"がにじみ出ている。…おそらくはもう死んでいるのだろう。そして、こいつこそがSCP-3333-1実体なのだろう。
実体がどうなっているのかを見分けるのは難しいが、それは厚い半透明の羽を持っているように見える。
床に積み上がった皮膚があり、それらは引き裂かれている。
ウィリアムズ博士は再び嘔吐しようとするが、数秒えずいただけである。
ウィリアムズ: [素早く、静かに] 人間の奥底には悟りと高みについて、無知と深淵についての信仰がある。我々は、ここ天空の城、空に浮かぶ山、神の柱、繰り返し重なるものの上にいて、そしてここ頂上で我々は何も見えてない、死んだ世界、果たされない約束… [間] 私はただ - 家に帰りたい…
ウィリアムズ博士は跳ね上げ扉を封鎖しつつ数分間登っていく。
数秒立ち止まった後、彼女は笑い始める。
…もはや、博士の精神は限界に近いのだろう。
ウィリアムズ: 私はついにやったのに…アネット…
泣き始めるウィリアムズ博士。
その数分後、立ち直り上昇を開始する。
約30分後、博士はSCP-3333の「頂上」に到達した。
ライトを付けるウィリアムズ博士。
ウィリアムズ: ハロー? [間] [大声で] ハロー?
何も返答はない。静寂と暗闇に支配された、SCP-3333の頂上。
ウィリアムズ: ここには何もない。内もなかった。浮かぶ言葉も、山の幻影も…ハハッ。[間] でもまだ希望はある。と思う。
数分間、SCP-3333の頂上を歩き回るウィリアムズ博士。
何もない。
全く何もない。
座り込み、カメラをテーブルに立てかける博士。
足音が遠くに聞こえてくる。
近づいてくる足音。
乱れて荒く、一歩ごとに重い足が叩きつけられるような足音。
突然、足音が止まり、人が壁か何かにあたったような、湿った「ドシン」という音がする。
ウィリアムズ: [静かに] 嫌、嫌…
その足音の主は、スペシャリストことアネットだった。
スペシャリストだったものの身体がよろめき視界に入ってくる。
肉体は不揃いに引き伸ばされ、ずんぐりとして不格好になっている。
先程のDクラスだったものと同じく、ツギハギのような皮膚が剥がれ落ち、中にいる「モノ」=SCP-3333-1がのたうち回るのが見える。
頭部が垂れ下がり、ぶら下がっている。
体全体は方向も目的も定かでないような動きをしている。
ウィリアムズ博士は、明らかに臭いのためにえずく。
ウィリアムズ博士のいる「部屋」へと侵入した、スペシャリストだったもの。
何かが頭部に入って持ち上げ、発声しようとするが、ゴボゴボという音にしかならない。
アネットの名を叫び、すすり泣くウィリアムズ博士。
アネット=スペシャリストだったものは頭部から骨組みを抜き去る。
その内部構造は完全になくなり、頭部が後方に垂れる。
博士は銃を持ち、スペシャリストだったものを撃とうとする。
が、既に弾は撃ち尽くしている。それでも撃とうとする博士。
カチッ、カチッという音が虚しく暗闇に響く。
泣き続ける博士。
カチッ、カチッとしか言わない銃。
博士は崩折れて、銃を落とす。
スペシャリストだったものが博士に近づく。ぎこちない動きで近づく。鈍い。奇形的だ。
スペシャリストだったものの胴体はのたうっている。シートに絡まった何かが抜け出ようとしているかのように。
ウィリアムズ: ごめんなさい。
何かが裂ける音がする。
スペシャリストだったものの肉体が裂け、SCP-3333-1実体が飛び出そうとしている。
棘の生えた刺突起が裂け目から突き出し、ウィリアムズ博士の皮膚に穴をあける。
倒れる博士。恐らくこの「刺突起」には麻痺毒が含まれているのだろう。
スペシャリストの皮膚はさらに裂け、大きな黒い実体がスペシャリストの皮膚を脱ぎ去って現れた。
実体=SCP-3333-1は、大きな半透明の羽と、吸引管状の器官を胸部に持っているのが確認できる。
目はついているようには見えない。
その皮膚は極度に薄く、内部の「血液」を通して内臓が見えるが、骨は見当たらない。
SCP-3333-1実体は動くたびに、羽から衣擦れのようなサラサラという音を立てながらウィリアムズ博士に近づく。
ウィリアムズ博士にたどり着くと、SCP-3333-1実体は吸引管のような器官を博士の傷に突き刺す。
博士の「内容物」を吸い出し、滴る音。
SCP-3333-1の実体の背面から、半液化した博士の臓器と骨の塊が排出され、博士が皮膚だけになるまで吸い出される。
実体は博士だったものの皮膚に吸引管で触れたまま、身体を捻じ曲げ傷口に入り込む。
グニグニと曲がり、実体にフィットしていく皮膚。
皮膚は満たされ、ウィリアムズ博士の形になる。
ウィリアムズ博士だったものは立ち上がり、カメラを止める。