ビワハヤヒデ(競走馬)

登録日:2023/07/08 Sat 04:52:28
更新日:2024/10/29 Tue 08:48:53
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鮮やかに、ひたむきに。


その走りが、父を、母を、この世に知らしめた。
弟との対決は夢に終わった。
レースではつねに堂々たる主役を演じてきた。
ビワハヤヒデ、強さとひたむきさを
あわせもつ、芦毛のヒーロー。

──JRA・ヒーロー列伝No.38

ビワハヤヒデ(Biwa Hayahide)とは日本の元競走馬

メディアミックス作品『ウマ娘 プリティーダービー』にも登場しているが、そちらでの扱いは当該項目参照。
ビワハヤヒデ(ウマ娘 プリティーダービー)


目次

【データ】

誕生:1990年3月10日
死亡:2020年7月21日
享年:30歳
父:シャルード
母:パシフィカス
母父:ノーザンダンサー
調教師:浜田光正 (栗東)
馬主:(有)ビワ
主戦騎手:岸滋彦→岡部幸雄
生産者:早田牧場新冠支場
産地:福島県
セリ取引価格:-
獲得賞金:8億1,769万円 (中央)
通算成績:16戦10勝 [10-5-0-1]
主な勝鞍:93'菊花賞、94'天皇賞(春)・宝塚記念

【誕生】

1990年3月10日生まれの葦毛の牡馬。
父はアメリカ生まれのシャルード。母はイギリス生まれのパシフィカスと共に外国産馬で、仔を身籠っているパシフィカスが福島県の早田牧場に持ち込まれ、そこで産まれた。
馬主の有限会社ビワ(琵琶湖より由来)から拝借した冠名及び、「さに秀で*1」という願いを込めこの名をつけられた。
パシフィカスはノーザンダンサーの仔であった一方、競走馬としての活躍は思わしくなく、
シャルードも重賞を2勝こそしていたものの、産駒は活躍に恵まれず種牡馬としてはさっぱりと言わざるを得なかった。
ビワハヤヒデも身体が丈夫ではなく、2歳時には柵にぶつかった際に折れた木の枝が脚に突き刺さるという、一歩間違えると予後不良モノの大怪我すら負っていた。
しかしそんな出生とは裏腹に、2歳になって入厩した栗東トレーニングセンターの調教にて、共に入厩し調教を受けていたビワミサキの併せ相手を務めた際に本命視されていたビワミサキに食らいついてみせたことから濱田氏をして「根性がある、デビュー戦が楽しみ」と評された。

【現役時代】

1992年9月に阪神競馬場の新馬戦でデビュー。結果はなんと、10馬身以上の差で勝利。
それ以後ももみじステークスをレコード勝ちし、3戦目には早くも重賞となるデイリー杯3歳ステークスに出走し、勝利して初の重賞制覇。
この活躍ぶりからビワハヤヒデは、オグリキャップメジロマックイーンに続く「最強葦毛伝説の後継者」として注目されていくこととなる。

続いて挑んだのは3歳(現2歳)牡馬の大舞台となる朝日杯3歳ステークス*2。1番人気に支持されるも、エルエーウィンにハナ差で負け2着、初敗北を喫した。
一方で、エルエーウィンの鞍上を務めた南井克巳は1馬身以上は抜けるだろうと考えていたことから、ハナ差勝ちを省みて「本当に強い馬」というコメントを残してもいる。

その後クラシック路線へ駒を進め、GI初挑戦となった皐月賞。
1番人気は柴田政人騎乗のウイニングチケットで、ビワハヤヒデは2番人気だった。
レースでは先行策を取り、ウイニングチケットとの競り合いに勝ったかに思えたが、後方から追い上げてきた武豊騎乗のナリタタイシンにかわされクビ差2着。
以後この3頭は「新・平成3強」及びそれぞれの名前の頭文字から「BNW」と呼ばれ、93年クラシックを代表する存在となった。

2度目の3強対決となった日本ダービーでも、ウイニングチケットに半馬身差勝利を許しまたも2着と惜敗。

ビワハヤヒデはこのまま善戦マンに終わってしまうのだろうか?否。秋も近づく頃、神戸新聞杯に出走した時の彼は何かが違っていた。
夏の間に他の馬たちが身体を休めていた中、ビワハヤヒデは厳しめのトレーニングを課せられたことで心身共に鍛えられており、
外見でもそれまで身に着けていた赤いメンコを脱ぎ捨て去っていたのである。その様相に恥じることなく、見事レースを制してみせる。

そしてクラシック三冠最後の1つとなった菊花賞。
当然ライバルのウイニングチケット、ナリタタイシンも出走していた…のだが、
後者は肺出血からの病み上がりの中で挑んだぶっつけ本番だったこともあり実質2強対決と見られた(そしてこれが3頭が集う最後のレースとなった)。
レースでは3コーナーから前に出始め、最後の直線に入ったところで戦闘に立つとたちまち後続を突き放し5馬身差勝利。
ついに念願のGI初勝利を収めたのであった。
5馬身以上つけての菊花賞勝利はG1に格付けされて以降はビワハヤヒデのほかは1988年スーパークリーク(5馬身)、94年ナリタブライアン(7馬身)、2013年エピファネイア(5馬身)、21年タイトルホルダー(5馬身)の5頭のみ。

次走となった有馬記念ではファン投票第1位に選出。菊花賞と同様のパターンで勝ちに行こうとするが、奇跡の復活を遂げたトウカイテイオーの前に敗れた。
翌年1月、菊花賞で見せた圧倒的勝利や、負けてなお強しの活躍で評価され93年度代表馬に選出される。
この時点でGI勝利自体は1つしかなかったことから、選出には今なお懐疑的な声も見られるが、デビュー以来2着より下に落ちたことのない安定ぶりを考えれば疑問の余地はないといえよう。

そんな彼が古馬となった94年、世間の関心はある馬に向けられていた。
93年末の朝日杯3歳Sで勝利を収めたビワハヤヒデの半弟・ナリタブライアンである。
ビワハヤヒデが始動戦となった京都記念を制した翌日、ナリタブライアンは共同通信杯4歳Sを勝利し、さらにクラシック3冠に駒を進めると皐月賞もレコード勝ち。
だがビワハヤヒデも負けじと、久しぶりにナリタタイシンとの対決ともなった天皇賞(春)を勝ってみせた。

「兄貴も強い、兄貴も強い!弟ナリタブライアンについで、兄貴も強い!」

その後、ナリタブライアンもまたダービーを制して三冠に王手をかける。かと思えば今度はビワハヤヒデが"涼しい顔で"宝塚記念を勝利する。
94年 宝塚記念

ファン投票で集まった148,768の期待

その馬にとっては、重圧ではなく自信だった

愛されるから強いのか?あるいはその逆か?

五馬身差の余裕

ビワハヤヒデ

真の強さはスリルすら拒む

──2013年 JRA宝塚記念CM
この時多くのファンが考えていただろう…「この兄弟の対決が早く見たい」と。
ビワハヤヒデ陣営も有馬記念にぶつかるであろうことは想定しており、オールカマー、天皇賞(秋)を経て参戦する意向を示す。

そして天皇賞(秋)。
単勝1.5倍の1番人気の圧倒的な支持を集める。
しかしいつもの先行策を取ったビワハヤヒデが、最終直線で伸びてこなかった。結果はネーハイシーザー*3の5着。
ここまで15戦、たった1度もなかった連対を外す結果となる。
そしてレース後…左前脚に屈腱炎を発症していることが判明。全治に1年以上はかかるという見通しだった。

レースから3日後、陣営はビワハヤヒデの引退を発表。こうして、多くのファンが待ち望んでいたであろう兄弟対決は夢と消えた。
一週間後に行われた菊花賞ではナリタブライアンが勝利し、見事三冠達成。
この時、フジテレビ系列にて杉本清氏が発した「弟は大丈夫だ!」という実況を、ビワハヤヒデを鍛えてきた浜田氏も聴いていた。どのような胸中だったのだろうか…。

【引退後】

引退後は日西牧場で2005年まで種牡馬を務めたが、残念ながら地方重賞馬を2頭のみで中央重賞産駒を出すには至らなかった。
所在が判明している著名な産駒としては、タニノギムレット等が繁養されているヴェルサイユリゾートファームにて共に繁養されているペガサスマジック*4がいる。
ナリタブライアンも種牡馬となって約1年半2シーズン分の種付けだけで夭折しており、兄弟ともども種牡馬としては残念な結果となってしまった。
種牡馬を引退した後は引き続き日西牧場にて余生を過ごしており、2010年には函館競馬場に来場して、ウイニングチケットと久々の再会を果たしている。
穏やかな性格で、競走馬や種牡馬を引退したサラブレッドはなるべく気性を大人しくさせたり、意図しない種付けを防いだりするために去勢されることが大半だが、ビワハヤヒデは種牡馬を引退後も去勢されずに過ごしていたという。*5

2020年7月21日に老衰でこの世を去る。享年30歳。
なお同年2月に半弟ビワタケヒデが、更には4月にナリタタイシンがそれぞれ別牧場で他界しており、弟達やライバルの後を追う形となった。
そして23年2月にはウイニングチケットも逝去。BNWは3頭とも空の上へ旅立っていった。

ちなみにGoogle Earthで日西牧場を検索すると、穏やかに草を食んでいるビワハヤヒデの姿を収めた写真が見られる。

【評価】

故障発覚した最後のレースを除くと着順は1か2という驚異の連対率の高さを誇り、連続15回と2022年時点でシンザンの19に次ぐ記録。
しかし、かつてはそれに反して一部ファンやマスコミからどうも「地味」と扱われることが少なくなかった。

  • 当初ハヤヒデとチケットの二強とみられていた皐月賞で、小柄さ故の下馬評を覆して武豊騎手の皐月賞初勝利となったナリタタイシン
  • 柴田政人騎手に悲願のダービー勝利をもたらしたウイニングチケット
  • 約1年ぶりに挑んだ有馬記念にて、ブランクをものともせず「奇跡」を起こしたトウカイテイオー
  • ハヤヒデの古馬時代、クラシック三冠を獲ったこととその後の不調、迷走ぶりで良くも悪くも話題に事欠かない弟・ナリタブライアン
…と、周囲に劇的な勝ち方をした馬の多さ(加えてうち3つはハヤヒデが負けたレース)に加え、ビワハヤヒデ自身は先行策中心だったためあまり派手な勝ち方をしない…所謂「横綱相撲」だったことでそういう印象を与えやすかったのだろう。
「レースの中心にはいたが物語の中心にはいない」「真のスターになることなく現役を終えた」「物語がない」などと評されたことも。
当初は「葦毛の王者の系譜」扱いだったのに…。

流石に現在では「地味」という印象こそ覆せてはいないものの、その安定した実績に対する評価の声も多くなってきている。
評論家の井崎脩五郎氏いわく「『15戦連続連対』はもっと大威張りしていい勲章」とのこと。

彼もまた、"怪物"と呼ばれた弟に勝るとも劣らない"無敵の兄貴"にして、競馬史にその名を残す名馬たる存在なのだ。

【余談】

顔がデカい?

ビワハヤヒデを語る上で外せないネタとして

顔がデカい

というものがある。
葦毛の馬は歳をとると人間の白髪同様に体毛が白くなって*6いく事が多いのだが、ビワハヤヒデは頭部だけ先行して白化が進んでいたため、余計に目立っていたことも手伝っているのだろう。
この顔だけが異様に白いビワハヤヒデの姿は多くの写真に残っており、その様子は突っ走る骸骨のような凄味があった。特に、有馬記念の最終直線で、並んで叩き合いをしていた相手が小顔で美形と評判だったトウカイテイオーだったことも手伝い、このレースで2頭一緒に写っている写真では、その対比がネタにされることも多い。
因みに毛が完全に白化した晩年の2010年に函館競馬場でかつてのライバルであるウイニングチケットと並走する写真が撮られているのだが、膨張色云々を抜きにしても明らかに隣のウイニングチケットより頭の長さと幅がある。
また、冬の時期になると冬毛が伸び切った姿を見た関係者が「熊ですかコレ」と漏らすほどモッサモサだったともいわれている。

バナナ好き

濱田光正調教師いわく、ビワハヤヒデはバナナが大好物。濱田氏が目の前でバナナを取り出したと見るや、それまで口に含んでいた人参を吐き出してまでバナナを食べ始める映像も残っている。

【創作作品への登場】

幼馴染ビワミサキに世話の焼ける弟扱いされながら、オカベ騎手に愛されるためメンコをキャストオフしてまで奮闘する馬として登場。
なんでもアリま記念の93年版では自ら「アリまデカい顔賞」にエントリーするも、同じく顔デカキャラであるスーパークリークが参戦。
これに対抗すべくメンコで顔を蒸らしてさらに大きくしようとした。
弟ナリタブライアンデビュー後は彼の兄としてもフィーチャーされ、他にも半妹ビワカレンのデビュー戦を応援したり、半弟ビワタケヒデを巡ってブライアンとマウントを取り合ったりしていた。
その一方で同じ牧場育ちのマーベラスクラウン(せん馬)も高く評価し、自身の引退直後ジャパンカップにマーベラスの他に海外から来た彼の半兄グランドフロティラも出ると知り兄弟ネタをも託している。
引退後はビワカレンデビューと同時期にそっちの弟ロイヤルタッチもデビューしたせいでウイニングチケットとの絡みが複数回あり、2010年に再会した際にはすっかり白くなった姿を漫画内でも披露した。

  • 優駿劇場
93年有馬記念題材の回にて登場、一応主役的存在。
ファン投票で堂々の1位を獲得したこともあり、勝利への執念を燃やす。
そしていざレースが始まるや否や、休養を経てほぼ1年ぶりにレースに出てきたトウカイテイオーに対し「お前はもう終わった馬だ」などと野次を飛ばす。
堅実でひたむきなビワハヤヒデのイメージとはやや乖離した不遜な言動だが、その裏にはある真意が隠されており…?

  • 新・優駿たちの蹄跡
主役回で登場。厩務員の視点から彼らに応援され奮闘する彼の姿が描かれている。
作中では精力付けのために用意されたニンニクを前にげんなりしたり、暑さにへばって舌を出したりと顔芸も披露していた。

ナリタブライアンとの兄弟関係が反映されており、妹の圧倒的才能に対抗すべく、自ら計画を練り導き出した「勝利の方程式」をもってレースに臨む頭脳派。
理屈っぽくクールだが、時折天然ボケみたいな一面を見せることも…。
メジロアルダンとメジロラモーヌが登場するまで史実における(半)兄弟が共に実名でウマ娘化している唯一の例だった。

実馬の「顔がデカい」という特徴は流石に美少女擬人化もので文字通り再現するわけにもいかなかったのか、
「頭脳明晰だがそれ故に必要以上に考え込んでしまう頭でっかちな性格」「量が異様に多い上にパーマでも直せないほど癖が強いせいで広がりやすい髪の毛」といったかたちでキャラ造形に取り入れられている。その表現の結果、顔の輪郭やパーツが相対的に小さくなっており却って小顔に見えると指摘するプレーヤーも。
あと身長に加えてある部分も大きめにされている

実馬同様にバナナが大好物なのだが、これに関しても上記の理屈っぽい性格ゆえか「栄養効率が高いからよく食べているだけ」という事で周囲には通している。

アニメ2期では必然的にラスボスポジションに収まるが、世代の都合上それまでのレースには絡まない+1期OVAでキャラの掘り下げを済ませてしまっていたせいかそこ以外はほぼ出番が与えられておらず、ポッと出感も否めない感じに。
しかもその数少ない出番が無駄に再現度の高い刃牙パロというカオス。

詳しくは当該項目を参照。


追記・修正は、ニンジンを吐き出しながらバナナを食べられる方がお願いします。

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最終更新:2024年10月29日 08:48

*1 「早」田牧場の「秀」才とかけていると言われることも。

*2 現:朝日杯FS

*3 父はダービー馬サクラチヨノオーの全兄サクラトウコウ。奇しくも93年菊花賞のシンガリだった。

*4 未出走馬 現:アニバーサリー

*5 元から気性が穏やかな馬や、高齢で手術の際のリスクが大きい馬は去勢せず功労馬になることがあり、ビワハヤヒデもその例に則ったものと思われる。

*6 例えばオグリキャップ号やゴールドシップ号は、歳を取ると全身真っ白になっている。