仁義なき戦い(映画)

登録日:2024/01/27 Sat 08:36:44
更新日:2025/03/20 Thu 04:40:47
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敗戦後、既に一年。戦争という大きな暴力こそ消え去ったが、
秩序を失った国土には新しい暴力が渦巻き、人々がその無法に立ち向かうには、自らの力に頼るほかは無かった。


『仁義なき戦い』とは、1973年に公開された東映製作の日本映画。監督は深作欣二。
飯干晃一による同名ノンフィクション小説を原作としたもので、本項ではそれについても解説する。


概要


第二次世界大戦後、広島県で起きた暴力団同士の抗争(通称「広島抗争」)を背景に、抗争に明け暮れる若手ヤクザの群像劇を描いたもの。

上述のノンフィクションを原作とし、徹底的な取材を行ったリアリティあふれる作風と、
俳優勢の個性的なキャラクターが高度経済成長が終結した当時の日本の状況にマッチして大ヒットを記録した。
どのくらいリアルだったかというと演技指導に本物のヤクザが多数関わっていたほか、
登場する拳銃類は米軍岩国基地から横流しされたもので、ガチの本物だったりする。

日本映画では本格的に手持ちカメラで撮影した作品であり、従来の映画にはなかった迫力ある荒々しい映像を収めることが出来た。
…と言っても当時はハンディカメラやステディカムなんて便利なものはなかったため、街中で警察の目を盗みながら大型カメラを持ち歩きゲリラ撮影をしていたという。

元々シリーズ化を前提に制作され、
仁義なき戦い 広島死闘篇
仁義なき戦い 代理戦争
仁義なき戦い 頂上作戦
仁義なき戦い 完結篇
が1974年6月までに公開、その後スピンオフとしてオリジナル作品の
新仁義なき戦い
新仁義なき戦い 組長の首
新仁義なき戦い 組長最後の日
3本が制作された。
加えて監督が交代した別作品として
その後の仁義なき戦い(監督:工藤栄一)
新・仁義なき戦い(監督:阪本順治)
新・仁義なき戦い/謀殺(監督:橋本一)
と、計11本も作られた。
また、これ以降も東映は「極道の妻たち」シリーズやVシネ等実録系ヤクザ映画を多数製作しており、今なおの東映の主力ジャンルとなっている。

前年に公開されたマフィア映画「ゴッドファーザー」ともども「裏社会の実態を世間に知らしめた映画」として公開から半世紀以上たつ現在も知名度が高く*1
日本映画史に残る屈指の名作に数えられている。


影響


本作公開までヤクザ映画といえば高倉健や鶴田浩二に代表される「任侠もの」が代表的で、
着流し姿で自らの歌をバックに刺青と華麗な剣さばきを見せる、一種のヒーローのようなテイストも見られた。
しかし、本作においては、広島弁で喋り、金にも女にも汚く、市井の人々を食い物にした挙げ句にバタバタと野垂れ死んでいく…という、
従来の作品のように美化されていない、生々しくリアルな人物像のヤクザたちが描かれている。
本作以降、このような生々しいヤクザを描く作品群は「実録もの」と呼ばれるようになり、
それまでのヤクザ映画の定番であった「任侠もの」というジャンルそのものを終結させたのみならず、以降ヤクザ映画の主流となった。
また、世間一般におけるヤクザのイメージは本作で決定づけられたと言ってもいいだろう。

著名人でも本作のファンが数多く存在し、業界関係者でも本作に感銘を受けてこの世界を志したものが多い。
中でもクエンティン・タランティーノ氏の映画作りに多大な影響を与えたことでも知られる。

前述したようにそれまで広島弁を一躍メジャーにし、それまで衰退傾向にあった方言が見直されるようになった最初の例である。
ただ、作風が作風なので有名になると同時に「広島弁=怖い」というマイナスイメージも付いてしまった。

津島利章によるテーマ曲もあまりにも有名で、バラエティのヤクザドッキリで必ず流れる効果音としてもおなじみ。
そのため、本作を始めとしたヤクザ映画は見たことがなくとも、この曲は聞いたことがあるという人も多いことだろう。

また、サブカル作品ではストーリーやキャラクターのモチーフとして本作が使用されることもあり、
後者は「ONE PIECE」の赤犬や「NARUTO‐ナルト‐」のガマブン太などが代表例。

さらに、タイトルの「仁義なき○○」や「○○なき戦い」という言い回しはありとあらゆるパロディがなされ、
シリーズのサブタイトルで使われた「代理戦争」や「頂上作戦」の言葉も本作から一般化したものである。

以上のように公開から半世紀以上たつ現在でも本作の影響を受けた事象が多々存在しており、
後年への影響力の高さという点で、本作を超える日本映画は存在しないと言っても過言ではない。


あらすじ


敗戦直後の広島・呉市。復員したばかりの広能昌三はふとした事情から殺人を犯してしまい、刑務所に服役する。
そこで呉の大物ヤクザ土居組の若衆頭の若杉寛と知り合い、その縁から保釈後広能は山守組の組員となった。

一方、山守組は市議会選挙とのかかわりから土居組と敵対関係になり、ついには土居組組長の暗殺を決意する。
そこで名乗りを上げたのは広能だった…


登場人物


※本作は実録路線であることから、一部を除いてモデルとなった人物の名称も()内に併せて記述する。
ついでに若干のネタバレ含みます。

山守組

  • 広能昌三(美能幸三)
演:菅原文太

「山守さん、弾はまだ残っとるがよぅ……」

本作の主人公。
敗戦後広島をぶらぶらしていたところ殺人を犯してしまい、服役から釈放後に山守組の組員となる。
義理人情に厚い性格で若衆の面倒見がよいが、その性格故さまざまな策略や抗争に巻き込まれてゆく。

菅原は本作で一挙にスターダムにのし上がり、後年のCMなどでも本作のイメージから広島弁を披露する機会が多かったが、氏は宮城県出身だったりする。

  • 坂井鉄也(佐々木哲彦)
演:松方弘樹

「昌三、ワシらぁどこで道間違えたんかのぉ……」

山守組の若頭で、サングラス姿がトレードマーク。
組を公平に運営しようとするために反対派の幹部を次々と粛清する等かなり強引なやり方を推し進め、
それが山守からは疎ましく思われ、子供へのお土産を買いに行った玩具店で銃撃されて死亡。

  • 槙原政吉(樋上実)
演:田中邦衛

「ワシの事はおやっさんがよーぅ知っていおんなら」

山守組の幹部で坂井の部下に相当するが、矢野の死後は山守の腰巾着的ポジションに就く。
シリーズでは数少ない同一配役で出演し自ら率いる槙原組組長にまで昇格するが、
完結編では呉の露店巡回中に広能組の若衆により射殺される。

  • 新開宇市(新居勝巳)
演:三上眞一郎

「あのバカタレ、跡目でも貰うたつもりでおるんかのぉ!」

山守組の幹部にして新開組の組長。
ヒロポンの売買を巡って坂井と激しく対立するも、坂井一派の猛攻に押された末に駅の構内で殺害される。
ちなみにこの殺害シーンは上述したゲリラ撮影を実施したカットの一つで、
映像にはロケ先である京都駅構内で「本当に殺人が起きた」と勘違いして混乱に陥る一般市民の生々しい表情が映されている。

  • 有田俊男(今田泰磨)
演:渡瀬恒彦

「なーにも知らんと、若頭ともあろうもんがよ!人の茶碗取るなぃ!」

新開の舎弟で新開組の幹部。
禁止されているヒロポンの密売を行い、度重なる警告にも従わなかった事で坂井から叱責を受ける。
しかし、独自の調査で坂井に没収されたヒロポンを山守が密かに広島で売り捌いていることを突き止め、山守組の内部抗争の遠因を作ることに。
中の人は渡哲也の弟にして後のロングの夜明
俳優陣の中でも随一の非常に堂に入ったヤクザ演技で本職顔負けの怖さと評判。

演:金子信夫

「調子に乗りゃあがって!ええ加減にせえよ!ゼニになりもせんことしやがって!」

山守組の組長。朝鮮戦争で一挙に広島県有数の実業家になったが、その性格は非常に憶病かつ強欲。
しかしそれと同時に知恵も働くため、自分の地位を守るため子分同士を争うように策謀を巡らせていく。
余談だが、2014年に放送されたNHK大河ドラマ『軍師官兵衛』で小寺政職役を演じた片岡鶴太郎氏は、
「本作の金子氏をイメージして演技する*2ように」とプロデューサーから指示されたという。

土居組

  • 若杉寛(大西政寛)
演:梅宮辰夫

「盃がないけん。これで、腕切って血ィすすろうや」

刑務所内で広能と杯を交わし、以降一貫して広能の兄貴的ポジションとして君臨。
一連の事件では山守組側に就いたものの、山守組長を信用できなくなり一旦逃亡しようとした矢先、密告により警察に襲撃されて死亡。

  • 江波亮一
演:川谷拓三
元々は組長のボディーガードだったが、土居の死後は山守組の手下となり、反目する坂井との対立の末に死亡。

演者は長らく東映の大部屋俳優として活動しており、本作で初めて映画に名前がクレジットされた。
以降もシリーズに欠かせない名脇役として出演し、自身のブレイクへと繋がることとなる。


その他

  • 上田透(小原馨)
演:伊吹吾郎

「これァ馬のションベンか、えぇ?ビールならもっと冷やいの持ってこいや!」

愚連隊の上田組組長。呉の長老・大久保(演:内田朝雄)の親戚筋にあたる。
山守組の客員となって坂井とも仲が良かったが、それが原因で射殺されてしまい、坂井一派と新開一派の抗争が激化する。


余談


原作が出版されるきっかけになったのは、当時文藝春秋に掲載された中国新聞記者の手記である。
この手記に描かれた「広島抗争」の当事者の一人であり、当時獄中でこれを読んだ美能組組長・美能幸三氏は、
内容の間違いの多さに腹を立て、汚名返上を目的に7年間で原稿用紙700枚分の獄中手記を書き上げた。
この手記は出所後、飯干晃一氏による解説を加筆して『週刊サンケイ』(現:週刊SPA!)で連載開始。
ヤクザのみならず芸能人や野球選手の名前が実名で記載されるという生々しい作風から一挙に人気となり、連載の時点ですでに映画化の話が出ていたという。

一方、その「広島抗争」を扱った中国新聞の取材記録は『ある勇気の記録 -凶器の下の取材ノート-』というタイトルで出版され、
菊池寛賞を受賞しテレビドラマ化もされたが*3、現在の知名度は非常に低く、ドラマの映像現存状況も不明。

本作の製作には暴力団のみならず、広島県警も協力している。
これは公開当時未だに抗争の残党が燻り続けていたため、それらを追放するキャンペーンの意味もあったという。
完全にクレームやお叱りが無かったわけではないが、映画に対してモデル側が比較的協力的な姿勢を見せていた点は、
撮影期間中にマフィアによる妨害が頻発した「ゴッドファーザー」とは対照的だったと言える。

ヤクザのダボシャツ・ステテコ・ニッカポッカ姿は、広島弁のキャラクターに合う衣装がどれかと悩んでいた際、
監督の深作が大阪の新世界で出会った人々を参考にして決められたという*4決して吉本新喜劇の花紀京を参考にしたわけではない



山守さん、追記・修正はまだ残っとるがよぉ…。


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最終更新:2025年03月20日 04:40

*1 そもそも映画化もゴッドファーザーに触発されて実現したものである。

*2 芸人時代の片岡の持ちネタの一つである。

*3 かの池上彰氏も、中学生時代にこのドラマを見てジャーナリストを志すきっかけになったという。

*4 現実の広島抗争時代のヤクザは映画よりもずっとオシャレでファッショナブルな服装をしており、深作監督は広能のモデルだった美能から「俺たちあんな格好してなかったぜ。ひどいじゃないか」とクレームを受けたという。