加藤みどり(声優)

登録日:2024/06/15 Sat 21:02:00
更新日:2024/10/21 Mon 19:26:14
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わたくし、磯野サザエでございます。 どうぞよろしく。


加藤 みどり(1939年11月15日 - )は、日本の声優・女優・ナレーター。





【概要】

東京府(現・東京都)出身。所属事務所は河の会(現・劇団河)、東京俳優生活協同組合、NPSテアトル、シグマ・セブンを経て現在はフリーランス。

国民的アニメ『サザエさん』の主人公・フグ田サザエ役の声優として広く知られている。
1969年10月5日に放送を開始して以来、現在まで継続してレギュラー出演している唯一の声優でもある。

2002年からはテレビ番組『大改造!!劇的ビフォーアフター』のナレーターを2020年まで担当。彼女による「なんということでしょう!」などの言い回しは、番組を象徴する印象的なフレーズとして一躍有名となった。

御年80を過ぎた現在もなお、明るく若々しいサザエの声質を維持し続ける日本のレジェンド声優の一角。その衰え知らずの声については、野沢雅子などと同じく話題に挙がることが多い。


【来歴】

1939年11月15日、東京府(現・東京都)に生まれる。

東京都立豊多摩高等学校卒業後、松竹音楽舞踊学校に入学。1959年にNHK俳優養成所に移籍し、1960年4月にNHKのテレビ劇場『天使の部屋』でテレビデビューした。

NHKとの契約満了後、ラジオ番組『お茶のひととき』で声優・ラジオパーソナリティの若山弦蔵と共にパーソナリティとして出演。
ある時、視覚障害を持つリスナーから加藤の明るく可愛らしい声色を称賛するファンレターが彼女に届いたと知った若山は、目が不自由な分聴力の鋭い人の心さえ揺さぶる声の価値を加藤に訴えた上で、声優に関する様々な指導を施した。この出来事が加藤にとって人生の大きな分岐点となったという。

1965年に結婚し一度引退するも復帰し、アニメ声優の仕事を始める。『おそ松くん』の主人公・松野おそ松をはじめ、『魔法使いサリー』や『ハクション大魔王』など様々なキャラクターを演じた。

そして、1969年10月には『サザエさん』の主人公・フグ田サザエ役を担当。
当時子供や少年役を演じることが多かったため、磯野カツオ役でオーディションに参加したが、当時音響監督を務めていた岡本知がサザエ役として彼女を推薦。初代プロデューサーの松本美樹が、加藤の持つ「能天気な明るさ」や素直であっけらかんとした性格がサザエのイメージとマッチしたとして抜擢した。
本人は「自分がサザエ役に決まるとは思いもしなかった」と後年回想している。
以降現在まで、50年以上に渡りサザエの声を演じ続けている。

1996年に夫の協力で個人事務所「伊藤事務所」を設立。

2002年、テレビ番組『大改造!!劇的ビフォーアフター』のナレーションを担当。番組内における彼女の独特な言い回しが流行語となり、「ビフォーアフター」が新語・流行語大賞を受賞した際は、「番組の顔」として加藤に賞が贈られている。2020年に降板するまで同番組のナレーションを務めた。

2009年には実写版『サザエさん』にアニメ版における磯野波平役の永井一郎と共に顔出しでゲスト出演。加藤が実写ドラマに出演したのは45年ぶりとなった。また、2013年にはサザエさんの原作者・長谷川町子の生涯を描いたスペシャルドラマ『長谷川町子物語〜サザエさんが生まれた日〜』でも友情出演している。

2012年、天皇・皇后主催の園遊会に参列し両陛下と言葉を交わした。加藤は「名札だけでは誰だか伝わりにくい」と考えたため「サザエでございます」と名乗った。天皇・皇后両陛下はアニメも少しご覧になるとのことで、この「サザエさんの自己紹介」に対してもにこやかに応じられた。

2019年11月、「テレビアニメシリーズにおいて同じ役を演じた最長期間」としてギネス世界記録に認定された。



【サザエさん】

既に結婚していたため、当初こそ軽い気持ちで『サザエさん』のオーディションに足を運んだという加藤。そんな折、前述したように岡本監督や松本プロデューサーの目に留まった出来事は、彼女の人生を大きく変える転機ともなった。

松本、岡本をはじめ番組スタッフは『サザエさん』に対して並々ならぬ情熱を燃やしており、その実現のために主演声優となった加藤に対しては演出としての立場から様々な要求を下していた。
特に松本は、彼女の「サザエ像」に限りなく近い雰囲気やそれを声という形で表現できる可能性を高く買っており、
「彼女の才能を絶対に潰してはいけない」と岡本に告げており、加藤へは「マイナーな気分は捨て、いつも楽しい気持ちを持って収録に臨んでほしい」と伝えた。

松本は予てから「『サザエさん』を10年は続ける」という目標を掲げており、加藤にとって「どの100本にも勝る1本にする」と約束した上で自身の言う事を聞くように説得していた。
この時加藤は、松本から「アニメは現場の人々が一本に半年を費やして丁寧に作るもの」「もし主役であるあなたがあちこちで仕事をしていると誰もあなたのために働いてくれなくなる」と本作に専念するようにも要請された。
加藤がこれ以降『サザエさん』以外のアニメ作品に出演しなくなったのには、こうした背景がある*1

岡本からは「キャラや設定はスタッフが考えるから、わからないことがあればそう伝えればいい」「その代わり演出の要求には素直に答えろ」と求められていた。加藤は後に「音響監督の指示にすぐ対応できる素直さがあったからこそここまで続けられたのではないか」と仕事への姿勢について振り返っている。

こうして番組関係者との信頼を築いていった加藤も、放送開始から10年ほどはアドリブも交えていた。必ずしも脚本や演出に束縛されない自由な演技を行っていたものの、オンエアではほとんどカットされてしまった上、松本から「サザエは明るいのであってバカではない」「女性としての愛らしさを残さなくてはいけない」などとお叱りを受けることもあった。
しかし、2代目カツオ役の高橋和枝が、加藤のアドリブにもブレることなく役をこなすという高度な演技力やプロ意識に触発されたこと、「脚本家が一言一句書いた通りに演じられないようでは役者とは呼べない」という自責の念に駆られてからは、台本に忠実な芝居をするようになったという。


◆長谷川町子との関係

第1回放送後、新聞の投書欄には加藤演じるサザエの声について非難の声が相次いだ。この投書が加藤に与えたショックは大きく、涙ながら松本に降板を嘆願したほどだった。
この時に松本が励ましとして伝えた「原作者の長谷川町子も『声はあれでいい』と認めている」という事実は、以降サザエを演じ続ける中で彼女にとって大きな支えになった。

主人公を演じる声優でありながら、長谷川との交流はほとんどなかった。長谷川がサザエさんの声優陣と会話を交わすこと自体稀であり、特に主演の加藤とは話をしないという条件があったほどである*2
アニメが放送15周年を迎えた時期に、プロデューサーらを交えて長谷川と加藤ら出演者が顔を合わせる機会が設けられた。上記の取り決めを知らなかった加藤は、長谷川に悩みを打ち明けようと声をかけてしまったのだが、対し長谷川は「これからきっといいことがあるわよ」と温厚に接してくれたとのこと。
後にプロデューサーから真実を打ち明けられた際には「とんでもないことをしてしまった」と焦ったものの、原作者と会話を交わした最初で最後の貴重なエピソードについては、後年の取材で嬉しそうに語っている。


◆共演者との関係

1999年3月23日、2代目カツオ役の高橋和枝が以前から患っていた骨髄異形成症候群によりこの世を去った。
先述したように自身の演技に対する心得を大きく変えるきっかけとなった高橋の死は、全国の視聴者のみならず「姉」として長年共演してきた加藤にも立ち直れないほどのショックを与える。
一度は降板を申し出るほど平静を失ってしまうが、そんな加藤にフグ田タラオ役の貴家堂子が平手打ち。取り乱していた彼女を叱咤激励し我に返らせたのだった。
一部始終を垣間見ていた波平役の永井一郎は、「ママ」が「タラちゃん」に叱られている不思議な光景が微笑ましく見えたと回想している*3

その後、2014年1月27日に永井が急逝。葬儀では加藤が3代目カツオ役の冨永みーなと共に弔辞を担当した。
永井死去直後の1月30日に行われたサザエさんのアフレコでは、彼の死が受け入れられずスタジオでも泣き続けていた冨永を「泣くな!つられるじゃないか!」と一喝したという。



【その他のエピソード】

『ハクション大魔王』ではカンちゃんの声を演じた。なお、ハクション大魔王とサザエさんは、「1969年放送開始」「フジテレビ系列の日曜18時台アニメ」など複数の共通点を持っており、なおかつ連続して放送されていたため、加藤は2本連続で主要キャラクターの声を演じていたことになる。さらにナレーションを担当した「劇的ビフォーアフター」も含めると昔から日曜日と縁の深い人だったことが窺える。
前述の通りサザエ役を演じるにあたり他の仕事に制限がかけられたため、サザエさん以外に出演したアニメとしては最後の作品となった。

現在では耳にする機会も減ってしまったものの、歌手としてアニメ主題歌を中心に数曲の歌唱を手掛けた実績がある。
中でも有名なのは、『ゲゲゲの鬼太郎』第1作第2作のエンディングテーマ『カランコロンの歌』だろう(コーラスはみすず児童合唱団)。
この他、『サザエさん』の挿入歌『レッツゴー・サザエさん』、『夕やけ番長』のオープニング主題歌など、自身が本編に出演した作品の楽曲を担当することが多かった。また、天地総子の代打を務めたことがきっかけでCMソングも多数担当していた時期がある。

若い頃から大の競馬ファンで、なんと日本初の女性競馬レポーターという歴史的な肩書きを持つ。過去には競馬界の人物への直撃インタビューを収録した『競馬狂本』という著書も執筆していた他、テレビ東京で『私と馬』という番組にレギュラー出演していた。
現在でもラジオの競馬中継など競馬関連番組にゲスト出演することがある。



【主な出演作品】

★は関連楽曲の歌唱も担当した作品。

◆テレビアニメ

  • 少年忍者 風のフジ丸(ミドリ)
  • おそ松くん(松野おそ松、ハタ坊)
  • 魔法使いサリー(花村よし子)
  • とびだせ!バッチリ(ベン公)★
  • かみなり坊やピッカリ・ビー(ポン太郎)
  • ピュンピュン丸(チビ丸)
  • 夕やけ番長(赤城忠治)★
  • ゲゲゲの鬼太郎(第1シリーズ)(座敷わらし)★
  • もーれつア太郎(デコっ八)★
  • ハクション大魔王(カンちゃん)
  • サザエさんフグ田サザエ)★

◆テレビドラマ

  • がんばれ!!ロボコン(大山初江)
  • サザエさん〈実写ドラマ〉
    • サザエさん(波平の勤務先の女性社員)
    • サザエさん2(湯水夫人)
    • サザエさん3(たばこ屋のおばさん
    • サザエさん4(足をくじいた老婦人)
  • 長谷川町子物語〜サザエさんが生まれた日〜(フグ田サザエの声、友情出演)

◆ナレーション





なんということでしょう。
匠の手によって、物足りなさのあった項目が
より充実したものへと生まれ変わりました。

…と、加藤さんも思わず唸る追記・修正をよろしくお願いします。



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最終更新:2024年10月21日 19:26

*1 吹き替えやサザエさん関連以外のナレーション、実写での出演はこの限りではない。また、サザエさんと同時期に放送を開始した『ハクション大魔王』のカンちゃん役やそれ以前から出演していた『ピュンピュン丸』、『もーれつア太郎』などは持ち役の降板などの措置はなく最終回まで演じた。

*2 長谷川は非常に人見知りの激しい人物として知られており、気心の知れた間柄ならまだしも赤の他人とは会話がままならないほどだったという。

*3 貴家は加藤と同様に放送開始当初から共演していた声優の一人でもあり、2023年2月5日に死去するまで約53年に渡り代役を挟むことなくタラオを演じていた。

*4 ※放送開始〜2020年3月29日放送分まで。