磯野波平(サザエさん)

登録日:2016/07/21 Thu 17:30:00
更新日:2025/03/20 Thu 09:29:53
所要時間:約 9 分で読めます






ばっかもーん!!

けしからん! 勝手にワシの項目なんぞ建ておって!

カツオ「すみません…」



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磯野 波平(いその なみへい)とは、漫画・アニメ『サザエさん』の登場人物である。

:永井一郎(1969年10月5日 - 2014年2月9日)→茶風林(2014年2月16日 - )
演:藤原釜足→森川信→宮尾すすむ→小林亜星→いかりや長介→片岡鶴太郎

●目次

【原作】


主人公である磯野(のちにフグ田)サザエの父親。
最初期は福岡在住で、後に東京に一家で引っ越す。
普段は標準語寄りの口調だが、「火鉢にあたりよるから」と一度だけ九州弁を使ったシーンがある。
一人称は「わし」*1

原作ではアニメ版と比べると非常に影が薄く、名前すらもかなり後になるまで判明しなかった。*2
また、アニメでお馴染みの「ばっかもーん!!」と子供を怒鳴るシーンは皆無。
「お父さんのオムツ用」と書かれた不要な布を入れる箱を作られるなど、どちらかというと情けない姿を描かれることが多い。
カツオの悪事を模倣したり、カツオを競馬場に連れて行くなど、保護者としてはむしろ問題のある行動をとることも。
一応父親らしい威厳を見せる話も皆無では無いが、4コマという性質上、そこで終わってはオチが付かないからという理由が大きいのだろう。

九州に双子の兄がおり、実はメインキャラで唯一誕生日が確定している(9月14日)。

最大の特徴はあの髪型であるが、毎日(無駄に)手をかけて整理している。似たルックスのキャラクターとして江田島平八が挙げられる。
福岡時代は当時の基準で考えればやたら豪勢な生活をしている上に、GHQらしき軍人や力士と人脈があるなどただものでは無い様子もあったのだが、東京に移住してからはすっかり普通になった。
また、太平洋戦争中に日本軍に徴兵された経験があるらしく、戦時中の苦しい食糧事情を経験しているためか、ある日の夕飯がサツマイモの天ぷらと知るや否や不機嫌になり「わしは食わん」と突っぱねたが、その日の夕飯に使われたイモはワカメが芋ほり遠足で持って帰ったものであったため、その様子を見たワカメを号泣させてしまった(さすがにまずいと思ったのか。マスオ共々その場を白々しくも取り繕い、自己保身を図っている)。
TTK(都下禿頭会(とかとくとうかい))という謎の組織の理事をしている。実際は休みの日に一緒に釣りなどをする、ただのおっさんの集団

会社では最初期は局長だった(この回は単行本未収録)が、その後なぜかどんどん降格して最終的には平社員になった。
なお、学歴は旧制中学校卒であることが分かる台詞が原作にはある。ネット上では大卒という噂があるが、アニメ版も含めて実際のところは設定されていないというのが正しいだろう。


【アニメ版】


基本設定は原作と大きく変わらないが、父親として威厳を見せるシーンが格段に増えたのは御存じの通り。
またサザエ・カツオと並んでメインを張る回が多く、同作中でも最も知名度の高いキャラの一人になった。

異常な多趣味であり、釣り囲碁・ゴルフ・骨董品収集・盆栽・飲み歩きなどなど、予算と収納スペースが心配になってくる。
その他「衝動買い」という趣味もあり、しばしば存在意義が不明なものや悪趣味なものを買ってくる。

厳しい頑固親父のようで、カツオに言い包められたり、フネに頭が上がらなかったりと、割と親しみやすいシーンも多い。
婿養子であるマスオとの関係は良好で、会社帰りや帰宅後に2人でよく酒を嗜んでいる。
頻度が高いこともあってカツオばかりを叱っているように見えるが、これはカツオの素行が特に悪いというだけである。
サザエやワカメに対しても叱るべきことがあればしっかり叱り、逆に家族を褒める時はそれが誰であれ笑顔で褒める。
それもあって、カツオは特に何かやらかした時には波平を怖がっているが、普段は仲の良い親子で、風呂に一緒に入るシーンも多い。
いわば「古き良き父親」。

そしてアニメ版最大の特徴は、現代で言うところのツンデレである。
  • カツオに養子の話が来たとき、「まあ好きにしろ」とクールに言い放ちながら、カツオがいなくなったあと頭を掻きむしりながら地団駄を踏む
  • フネにどんなタイプの女性が好みなんですがと聞かれて、「ワシは好みではない相手とは一緒にならん!!」と言いながら布団を被る
  • 雨の日に駅にフネを迎えに行った時の一言が「お前を迎えに来たんじゃない、その証拠に傘は一本しか持っていないだろう」

なんだこのかわいい生き物。

補足すると、昭和時代に顕著な価値観*3として現代以上に父親とは一家の長とみなされており、父親としてはもちろん当時の価値観から見た「男として」威厳があるふるまいを要求されていたのである。
家庭内暴力に厳しくなった現代はもちろん、当時から見ても一見すると厳しいように見えるほどではないと父親らしくないと見られてしまうため、
本心ではかわいい、手放したくない、殴りたくない、甘えたい、泣きたい、弱音を吐きたいと思っていても露骨にその感情や行動を表に出せなかった。

むしろ父親として、男としてそのような感情は弱虫、軟弱みなされ軽蔑の対象となり表に出すことができなかった。

今となっては古いとみなされる「男は泣くな」「男たるもの強くあるべし」といった考え方が当たり前だったのである。
彼を想起させるセリフの一つである「ばっかもーん!!」と大声で叱責するのもこのあたりのイメージからである。


【関連人物】


  • 磯野海平
九州に住む双子の兄。実は原作では名前は出てこない。
波平よりも若干丸い性格。双子入れ替わりネタはもはや伝統芸。
大体年に1回のペースで上京する。
アニメ版では50を過ぎてから運転免許を取得したが、「速度が遅い割に不注意」という運転で、同乗した磯野家には大不評であった。
頭頂部の毛は、波平より1本多い2本。

甥(妹の息子)。都内の出版社で働く。
仕事人としては優秀なのだが、私生活ではしょっちゅう磯野家に食物をたかりに来る、カツオ相手にまで借金を申し込む、波平のおごりで飲むことを常に狙っていると、はっきり言って全くのダメ人間である。
このため未だにしょっちゅう波平に雷を落とされる。

  • 伊佐坂難物
原作では特に親しい様子は無かったが、アニメ版では親しい友人に位置づけられており、時折小説やエッセイのモデルになっている。

  • 岡島さん
アニメ版に登場する会社の同僚。なんともインパクトのあるご尊顔をしている。
Wikipediaには一時期恐竜のパキケファロサウルスに似ているなどと書かれていた。


【主な波平回】


  • 「ぼくはもらわれる」
1970年10月4日放送。
前週放送「カツオの修学旅行」の後日譚。
修学旅行からカツオが帰ってきたと思ったら、旅館の番頭がついてきて「是非ぼっちゃんを養子に」などと言われることに。
内心では何としてでも止めたいくせに、見栄からか「理解のある父親」を演じてしまい、結果的にカツオを追い詰めてサザエたちも振り回すことになる。
ツンデレをこじらせると周りに迷惑がかかるというのがよくわかる話。

まあ「最後はカツオは断ってくれるだろう」と信頼していたようなのだが、カツオが番頭の押しに屈して養子に行くことを決めたと電話で聞くやいなやマスオと居酒屋で暢気に飲んでたくせに勘定もせず飛んで帰り、

「カツオ、わしはお前をどこにもやらんぞ!! 文句あるか!!」

と、ツンデレ度300パーセントくらいの名言を吐いた。

その他、タラちゃん「いいぞーやれやれー」という煽り、マスオ無双(対襖)など見どころの多い回である。

  • 「波平・一年の計は」
2003年1月5日放送。
新年早々カツオとワカメを居間に呼んだ波平は、「一年の計は元旦にあり」を説き、自ら「健康第一」「早起き体操」「晩酌は一日1本」「タバコは一日103本」といった目標を立てる。

最初は順調だったが、タバコは結局6本も吸ってしまっただけでなく、晩酌も1本どころではなくなり、さらには早起き体操も昨日の晩酌による二日酔いで起きれずに実行できなくなり、三日坊主で終わってしまった。
意外と飽きっぽい一面が見受けられるエピソードである。

  • 「父さん発明の母」
2007年5月27日放送。
下手したらサザエさんで最も有名かもしれない回。
全自動卵割り機の項目も参照。
全編ツッコミどころしかないという怪作で、波平のセリフもいちいちおかしい。

「お前は当分出入り禁止だ!!」

なお、Bパート+「父さん○○」というタイトル+雪室脚本、というのは、アニメ版サザエさんにおいてハズレのないとされる黄金パターンの一つである。


  • 「父さん新婚時代」
2007年6月24日放送。
ワカメが亭主関白に振舞う波平に対して「お母さんに優しくしたことがあるのか?」という疑問を持つことから始まる、波平とワカメの心の交流を描いた回。
アニメとして非常に完成度の高い回として名高い。
そしてツンデレの本領発揮。

「お前を迎えに来たんじゃない、その証拠に傘は一本しか持っていないだろう」
*4

このころはまだまともだったホリカワくんが名脇役っぷりを演じている。

  • 「父さんマンガの星」
2010年2月7日放送。
タイトルキャッチのインパクトが抜群の回。
マンガを馬鹿にしていた波平が、ワカメのハマっていた「ソレントの星」という少女漫画に夢中になり、寝言でヒロインの名前を叫ぶまでになっていく。
このヒロインの「カロリーナ」は、大きな瞳に細かい線と言うサザエさんらしからぬデザインであり、波平との2ショットは腹筋崩壊もの。

「カロリーナ……!!」

  • 「父さんネギを買う」
2011年6月12日放送。
タイトルからしてもう……。ネギくらい黙って買え。
カツオに「仕事帰りにネギを買ってきて」というメモを渡されて、
「失敬な、ワシにネギを買わせるとは!!」
と怒り出す波平も謎だが、
「父さん怒っているだろうねえ……」と気を揉む磯野家や、
「磯野君のお父さんがネギを買って帰っていた」ということを町中で噂にする住民たちなど、周囲もメチャクチャだ。
(現代から見ると)登場人物全員の常識がぶっ飛んでいるという回。*5

  • 「父さんバイクに乗る」
2013年2月3日放送。
タイトルキャッチで珍しい波平ライダークラス形態が拝める。
バイク(原付)の免許*6を取ることにした波平。家族は波平の身を案じて反対。
それでも譲らなかった波平だが、鏡の前で付けていたヘルメットを外した時に思わず悲鳴を上げて腰を抜かす。
なんと大事な頭頂部の一本が、ヘルメットの重さによって頭皮に張り付いて、まるで抜けたように見えたのだ。
結局「ヘルメットは蒸れて禿げる」という理由で断念。最初に気付けよ……

  • 「父さんの散歩道」
2013年5月26日放送。
波平の代名詞の一つ「散歩」に焦点を当てた回。
ミステリー仕立ての回であり、緻密に伏線を張りながら、最後のカットで全ての真相が判明するという構成は見事。
決してサザエさんは「カオス」だけが取り柄のアニメではないことがわかる一話である。

  • 「ダンディ波平」
2016年11月27日。
なんとも言えないタイトルで予告の時点で視聴者を沸かせた、2016年のサザエさんを代表するエピソードの一つ。
駅で見知らぬ人に「いつもダンディ」などと褒められて調子に乗り(実は誤解)、にわかに身支度に力を入れだしたり、急にワインバーに通ったりする波平の厨二っぷりと、それを冷めた目で見つめる磯野家の面々との対比が面白い傑作。

フネ「だあんでぃぃぃ?」
カツオ「すっwwかりwwwダwンwwディwにwなりwwきってwwるwよwww」
(※上記2つとも本当にこういう風に言ってる)


【余談】


東京都世田谷区の桜新町は原作者の長谷川氏が晩年を過ごした地ということで、サザエさん一家の銅像が建てられているのだが、そのうちの一つである波平の銅像は頻繁に頭の毛を盗まれることで有名。
頭頂部の毛は安全性の問題や雰囲気を壊さないためにワイヤーを挿し込む形でデザインされていたのだが、これを引っこ抜いて持っていく輩がいるのである。2025年現在、7回ほど盗まれている。



追記・修正は頭頂部の毛が一本になったらお願いします。

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最終更新:2025年03月20日 09:29

*1 ごくまれに「おれ」。

*2 連載開始が1946年だが、名前の初出は1965年。酔っ払って自宅を警察と間違えて「磯野波平54歳、月給税込み7万円」と自己紹介するシーン。なお、この時に生年も「1895(明治28)年」と判明している

*3 ただし、時代が下るほどこの価値観が薄まっていく傾向がある。

*4 つまりは、「相合傘をしたい」という意味。

*5 現代だと父親も買い物に参加するのも当たり前になっているため周囲の人物がおかしく見えるが、当時買い物を含めた家事は妻・フネの仕事であり、父親は家事は一切やらず会社と家を往復するだけ、というスタイルが普通だった。そのため男が女の領域に入っていると奇異の目で見られる上、男尊女卑の価値観が今以上に残っていた時代なので波平が怒ったのも「ワシに女の仕事をやらせるのか!」というところからだろう。類似の価値観は美容室(美容院)エピソードにもあり、現代は老若男女問わず利用される美容室だが当時は女性専用という認識が普通だったことから「男性キャラが美容院に行く」というネタも存在する。今でも通じる価値観だと「男性が女性もの売り場で品定めをしている」という感じに近いだろう。

*6 原付免許が登場したのが1965年からなので、波平の年齢的にそれまで自動車免許を持っていなかったのだろう。ちなみにそれ以前だと四輪免許を取得するだけで自動的に二輪免許が付属していた。もちろん原付ではなく制限なし=現代で言う大型自動二輪免許が付属した状態だった。