鉄甲巨兵SOME-LINE

登録日:2024/06/29 (土) 22:21:53
更新日:2025/06/14 Sat 17:25:44
所要時間:約 10 分で読めます





行くぜ!レッツ!

LINE-ON!


鉄甲巨兵SOME-LINE(てっこうきょへいサムライン)』は富士見ファンタジア文庫で発売された小説。
作者は『宇宙一の無責任男』シリーズなどの吉岡平。イラストは『ゲーム天国』『トップをねらえ! NeXT GENERATION』などのそうま竜也。
1989年~1991年刊行とライトノベル黎明期*1の作品でありながら巨大ロボットものという意欲的な作品である。

開始当初は似た題材かつ4クール分話を持たせるために敵の背景を設定した笹本祐一の『ARIEL』(朝日ソノラマ文庫。女性型巨大リアルロボットSF)と対比させるかのように9話程度収録×3巻で2クール26話という構想だったが、だんだんと一話の分量が伸びて全四巻完結と相成った。その後『劇場版』と称した外伝1巻の他、ドラマCDも発売されている。


作者自身にしても『月刊吉岡』の異名を取った(少なくとも速筆ぶりという意味で)全盛期にあたる。*2
仮想戦記ものからスペオペ(タイラー)、アイドルもの(ハミングバード)、ハイファンタジー(エクウス)までと、この後の作風も多彩で追う方も大変。


登場人物

地球側

LINERチーム

防衛チームと言ったら高校生であろう、という謎のこだわりで全員高校生。

  • 利根木鷹彦
東京出身のラガーマン。学校も家も宅地造成された恨みを(物理的に)地上げ獣にぶつける直情径行タイプ。
年相応に欲得尽なところもあるが、そこそこ真っ当に主人公をやっていき最後には変な役得に預かる。

  • 米原尚晃
沖縄出身の空手少年。なので姓は『よなばる』と読む。
空手だけでなくいつの間にか射撃の腕も立ち、その他も合わせて属性てんこ盛りの漢。主役エピソードも多い。
鷹彦とはカチ合うことも多いが『どこおち』ネタをやったりと案外仲は良い。

  • 伊東果代
静岡出身の弓道少女。エグレツンデレ暴力ヒロイン。
なんだかんだで鷹彦への心情が変化していくのだが、表面的性格のせいで発展はしないまま。

  • 横山美猫
山形出身の裏番少女棋士。名は『みねこ』と読む。ドギツイ果代に対してブリッコ(死語)気味。
戦ううちに接触を持ったツク・リーンに惹かれていく、ストーリー後半部の実質的ヒロイン。

  • 山田保
北海道出身、IQ300の天才。ポジション的には小学生だがチビの高校生。
当人の言動も良くないのだが恐ろしく扱いが悪く、戦闘中に謀殺されかかる場面すらある(後述)。
しかし保も鷹彦を謀殺せんと画策するのでお互い様。よくもまぁエピローグで呼び出しに応えたものである。

  • 秋葉原石丸
太陽無限力エネルギー研究所の所長。ズブズブのオタクにして天才科学者。有用ながらも趣味に走りまくった代物を送り出し、LINERチームをサポートする。
彼による作者の代弁六畳一間でもいいんだ、地下にロボットの格納庫があれば」という極言はこの作品を過不足なく示している。そして後に要求が増える
なお、こんな名前だが香川県出身。なので幼少期は虫取り少年だったとかなんとか。

  • 秋葉原ミナミ
秋葉原博士の妹。腰の強さは確かに兄に似ており、兄にねだって機体をせしめたり服を買わせたりする。
そのせしめた機体で大活躍するのだから大したものである。

その他

  • 飯田博士
秋葉原博士の師匠。SOME-LINEの設計者であるが、完成以前に消息を絶つ。
その後登場した際は、ツイミ不動産に拉致された末に(予算に釣られて)裏切っていた。

  • 小柴防衛長官
リバース三輪防人 空自上がりの小役人常識人。
他の大国が宅地造成されてしまったので地球防衛の全権が肩にかかってしまった損な役回りである。暴れ倒す上に予算も食うSOME-LINEにはほとほと困らされている。
拉致された娘を救うために出撃するエピソード・第18話『小柴防衛長官海に散る』で活躍する。

  • 小柴刈穂
防衛長官の息女。離婚した奥方に引き取られた身の上、というゲストヒロインと思いきや、終盤で正式参戦する

  • 丸山秀宗
秋葉原の兄弟弟子。専門は冶金学。ネイティブばりの岡山弁*3で喋る静岡出身。
職人気質が行き過ぎて、LINERチームからは恨まれている。

  • ジョナサン・ゲルトリンク
アメリカのロボット工学者。飯田博士のライバル。乗機はペィスコ・ビル。

  • カメリア・ゲルトリンク
ゲルトリンク博士の孫娘。豪放磊落、イカニモなアメリカ娘。愛機はカラミティ・ジェーン。

  • ピーター・ウォン教授
飯田博士の弟子のひとり。『劇場版』の肝となる『ホンコニュウム』の開発者。
そのホンコニュウムで強化された地上げ獣への対処のために命を落としてしまう。

  • リチャード・ウォン
ピーター教授の兄。上記の事情から当然LINERチームを許すはずもなく「死ぬまで戦え」と突き放したが、後に弟の遺した『岳飛』で共闘する。

ツイミ不動産

その名の通りの不動産会社。名の元ネタはいうまでもなかろう。
現地の生物を強化改造した『地上げ獣』を用いて惑星を宅地造成し売り捌く、直言すれば地上げ屋。*4
地上げ獣以前にはやたらとスケールのデカいみみっちい嫌がらせ(体長数キロメートルの猫の死体とか千トン単位の犬の糞とか)で立ち退きを迫っていた。
なお、地球側は敵性組織が企業体であるとは認識していないため、最後まで『ツイミ星人』の外名で呼ばれる。

  • ツク・リーン
太陽系支店長。コネで出世したと見られている、ちょっと苦労人な美形悪役。最終的には『悲劇の』を冠しうるところまで追い込まれてしまう。
実はアイドルマニアで、その面を活かした作戦を立てたこともある。林明美*5混じってません?

なおその作戦は元ネタの不動産会社のCMをパロディしたもので、「移住先を斡旋する」ために電波ジャックを行っている。
内容はまるで伝わっていなかったが、さらに『CMに登場した女の子の顔しか認識されてなかった』辺りがなんともはや。
その状況を逆手に取って方針変更したリーンも大したものである。その顛末には独特のアイドル観が出ている

  • ツムラー
副支店長。妻子を残して単身赴任中の中年男。
本社幹部に目をかけられたリーンには現場叩き上げゆえの反感を抱いているが、業務は業務でこなす大人の男。
なかなかのアイデアマンで、彼の発案した(素体も彼の持ち込み)地上げ獣が凄まじい損害をSOME-LINE(および研究所)に与えていたりする。

  • サト・ミオ・ガワー
リーンの秘書。ぶっちゃけ『女狐』と呼ぶにふさわしい、ゲストキャラを破滅させる活躍ぶりが恐ろしい。
鷹彦すら手玉に取り、しかも“焼きが回る”こともなく逃げ切ったツワモノである。

なんだかんだでこの三人、共同戦線を張ると見事に合わせられる辺りは大人というか、あるいはノリが良いのか。


地球の巨大ロボット

SOME-LINE

『サムライン』。五機のLINERメカが『レッツ・LINE-ON』のコードで合体する、身長114m・体重1100tのスーパーロボット。動力源は太陽無限力エネルギー。
設計自体は飯田博士の手によるものだが、実際の建造は秋葉原博士が行った。モールドのダルさを彫り直すレベルで手をかけており、さらに改装を繰り返した結果、実質的に秋葉原の作品と言えなくもない。
なお、飛行機五機合体だというのに空を飛べないのが弱点。謎の質量増加が原因か*6 また合体したのもかなり遅い第七話。

  • ライナーファルコン
SOME-LINEの頭部。鷹彦機。15t。
初出撃時は非武装だったため、頑丈さを活かしての体当たりで地上げ獣を仕留めた。

  • ライナーコンドル
SOME-LINEの肩~両腕。尚晃機。28t。終盤では小柴刈穂が担当することになる
初出撃時は二機しかいなかったにも関わらず変形し『飛行正拳突き』で地上げ銃を撃破した。のちのフリーフォールグラッチェである

  • ライナーアルバトロス
SOME-LINEの胴体部で万能輸送機。果代機。80t。
パイロットの気質上、爆装しているととても危険。初陣での被害は地上げ獣以上だったりするし。

  • ライナーストーク
SOME-LINEの腰~両脚。美猫機。100t。
全体に対空機銃を配した重爆撃機。女子担当機がヤバい

  • ライナースイフト
SOME-LINEの両足。35t。もちろん真っ二つに割れる。電子戦機であり火器は一切ない。
保機だが、終盤ではカメリアが代理で乗り込む

  • ライナーフェニックス
ジェットスクランダー ミナミが乗り込む重装航空機。中身は飛び道具満載。
『フェニックス・クロス・スクランブル・イン』のコードでSOME-LINEと合体し、飛行能力を与える。合体後の方が速力が上がる辺り、実にスーパーロボット。

  • ライナーロビン
番外。合体には加わらない小型偵察機……といっても22mもある。あくまでSOME-LINE基準で小型。
本来は秋葉原博士が現場指揮を取るための機体だったが、ミナミがねだって持って行った。
ライナーフェニックス参戦後は予定通りに秋葉原博士が乗ることもあった。

SOME-LINEの武器・技

初期は特定の決め技を持たないマジンガーZに近いファイトスタイルだったが、ライナーフェニックス登場辺りで路線変更している。

  • 雷光剣
外付け兵器その1。SOME-LINEサイズの日本刀。
まともな工法では作成すらできず、丸山の指導の下でSOME-LINEそのものを刀鍛冶とした曰く付きの一品。
その際のドタバタでかなりの怨念が込められた妖刀であったが、中盤であっけなく折られてしまった。

  • LINERガン
外付け兵器その2。初登場回のタイトルが『LINERガンの怒り』とまんまイデオンだが、接続時に『トップをねらえ』に走る*7始末。
ネタ元がネタ元だけに(それに及ばぬまでも)威力は絶大で、攻めあぐねていた地上げ獣をあっさりと消し飛ばした。

  • 雲龍丸&風虎丸
二代目雷光剣。外伝"劇場版"で登場した大小の刀。強化された地上げ獣に対抗するために登場した逸品。
装備すると機体BGMが暴れん坊将軍・殺陣のテーマに変化する。もとい、劇中で流しながら戦闘しやがった

  • ビームアーチェリー/ビームチェリー
ビーム鏃のついた矢を射る巨大和弓。果代担当武器。

  • ライナーフレイル
巨大三節棍。連結して長い棍として使うこともできる。

  • スピンカイザー・ナックル
手首射出型のロケットパンチ。回転するだけでなくメリケンサックを握っているのがポイント。

  • プラズマリッガー
定番・目からビーム

  • バーストフレイム
フェイスオープンして口から火を吐く。

  • フリーザ―ストーム
マイナス230度の冷風攻撃、敵は凍る。スーパーエレクトロマグネ竜巻的な何か。
オマケで漏れる大量のフロンガスによって環境破壊も決める、別な意味で必殺兵器。

  • ライナーウイングアタック
ライナーフェニックスとの合体時のみの大技。高空でエネルギーチャージして急降下攻撃を仕掛ける。

  • LINERリモコン下駄
キックと同時に右足首を分離して飛ばす攻撃。ロケットパンチならぬロケットキック?
攻撃技としては全く期待しておらず保を抹殺する目的で実行された。


ペィスコ・ビル&カラミティ・ジェーン

ジョナサン・ゲルトリンク博士の開発した西部劇風巨大ロボ。投げ縄を使ったり星条旗柄のマントを羽織っていたりと国別代表もののノリ、あるいはテキサスマック
前者は博士自らが搭乗して地上げ獣と戦い刺し違えた。エネルギー周りの欠陥の他に、ソフトポイント弾を用意するポカもやらかしていたりする。*8
後者はカメリアが乗る(名の通りの)女性型。*9ペィスコ・ビルの欠陥も解消されており、なかなかの活躍を見せた。

岳飛

『ユイエフェイ』。南宋時代の同名の人物に由来する(はず)。
ピーター・ウォン教授の作品。当然のごとく、武侠もの・カンフー映画のノリ。
劇場版の序盤から言及されていたが、後半でピーター博士の兄・リチャードによる操縦で滝行登場する。

鋼鉄双葉山

飯田博士の作品。遠隔操縦タイプ。ツイミ不動産側に寝返ったことにより強化され、SOME-LINEを苦しめた。
何しろ使用するサブマシンガンが460mmである。その他銃器や殺人音波"紫外音楽"など武装も豊富。
しかし最期は、タッグの相方であった地上げ獣・サザサザとの相性が命取りになった。名の元ネタは史上最強の横綱、双葉山定次。直接ネタにした台詞もある。


余談

三十年ばかり経った後の世からすると、妙に先進的なアイデアが盛り込まれていたりする。
  • 軽くではあるが、『怪獣の死体処理』に触れた(当時としては珍しい)作品である。捕鯨業者が新規開拓できるとか何とか。
    また、あるエピソードでは地上げ獣の残留物質でスタッフに殉職者が出たりと、割とモブ厳洒落にならない事態も起きていたりする。
  • 予算がらみの話も時折挟まれ、中でも"劇場版"のネタとして、SOME-LINEの全身に企業広告を配した姿が登場している。90年代前半の作品で。
    アイデアの元はF1マシンだし、「一番おいしい広告は足の裏」なんてブラックなネタだったりもするが。

それと並行して時代性剥き出しのネタや(当時から見ても)レトロなネタも盛りだくさんで、吉岡氏の玩具箱をひっくり返したような作品である。時事ネタに乗ろうとしたら事態の流れの方が早くて乗り損ねたと愚痴ってたりする
タイラーだってそう*10じゃん? と言われればぐうの音も出ないんだが


アニヲタは 二十六回 追記をし
                 修正人知らず































おっと、こいつを忘れてた。




行くぞ!レッツ!

LINE-CROSS!!


超甲騎兵SOME-LINE R

『サムライン・アール』。身長138メートル、体重2800トン。
劇場版『巨人たちの挽歌』にて、SOME-LINE絶体絶命の危機に駆けつけ現れたスーパーロボット。
謎の大富豪・両国全自郎博士の名の下、クセのあるイケメン四人組で構成された新生LINERチームが搭乗する。
顔こそSOME-LINEに酷似しているが、四つの球体が施されより戦闘的なシルエット。つかダンガイオー
冷静沈着なチームのまとめ役日下部秀麿が操縦する『豪雪王』、容姿端麗でキザなナルシスト楓小路魔世が操縦する『涼月王』、無口な剣の達人扇谷舟一郎が操縦する『橘花王』、タレ目とウェーブヘアーでその上ド音痴なチャラ男麻風廉が操縦する『極星王』の四機が『レッツ・LINE-CROSS』のコードで合体する。*11
地上げ獣ウニウニの溶解攻撃をものともしない特殊超合金ネオSSSで構成され、全身から放出する超電撃攻撃・ライトニングスプラッシュや雷光剣以上の切れ味を持つライナーブレードと言った強力な武装を持つ。
さらに、インパルスウイングという翼も内蔵しており、フェニックスクロスしなくても飛行が可能。

LINERチーム「どうするんだ、博士……」

秋葉原博士「どうするんだ、吉岡平!?」

秋葉原博士すらも知らないこの強力なロボットにLINERチーム一同は唖然とし『巨人たちの挽歌』は幕引き。
このロボットが活躍する新シリーズの布石か?と思われたが……


え、聞いてないですけど?
By作者


完全な出オチである。


かくしてSOME-LINEシリーズは終了。
吉岡先生が急逝した今、この作品が再び世に見られる機会は極めて困難であろう……。




今作の復刻および幻の『超甲騎兵SOME-LINE R』をこの目で見たいと今でも夢見ている方は追記・修正お願いします。


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最終更新:2025年06月14日 17:25

*1 『無責任艦長タイラー』や『スレイヤーズ!』と同時期である

*2 あとがき部分で「刊行ペースを落としたら税金を払えなくなる」という旨のジョークを飛ばしていたほどである

*3 作者は岡山出身である

*4 ドラゴンボールのフリーザ軍と同時期か若干早い作品である……と言いたいが、五年ほど早い84年に『超力ロボ ガラット』という敵が地上げ屋異星人のロボットアニメが存在する

*5 リン・ミンメイ……ではなく、はやし・あけみ。吉岡平の別名義、アイドル評論家。『タイラー』の解説で目にした読者もいるかと思われる

*6 各機の重量を総計しても合体後に全く足りないことは、劇中でも突っ込まれ開き直っている。

*7 エネルギー供給用のプラグの蓋をSOME-LINE側に付け忘れたので、装甲を引っ剥がした

*8 名の元ネタは伝説上のカウボーイ、ペコス・ビル/ペイコス・ビルだと思われる

*9 こちらはそのまま、西部開拓時代に活躍した女性兵士からと思われる

*10 主人公のモデルが植木等だったり、昭和東宝映画と特撮モノのネタがゴロゴロしていたり、ミリタリー趣味剥き出しだったり、ヒロインの一人がのじゃロリビキニ女帝だったり、某事件+某アイドルグループなんてモロ時事ネタで大長編書いたり……

*11 各機体の名前は雪月花+星で宝塚歌劇団が元ネタと思われる。SOME-LINE刊行当時、宙組はまだ存在しない(98年創設)