夢を見た。エイダと共に故郷に帰る夢を。故郷のレプテ村はダークエルフに焼かれることなく共和国同盟全国農業ギルドの支援の下で少しずつ収穫率が上がり、それにつられて生活水準も少し上がっている。とは言え裕福な生活を送るにはまだほど遠く、されど以前の貧困にあえぐ生活よりはマシな状況となっている。マシなだけでまだ家計は赤字であるため、博打だが当たれば相応に報酬が支払われることから村へ仕送りをするためにエイダの提案で冒険者となり村の外へ出稼ぎに出ていた。村には父さんも母さんもいて、共に村で育った友達やエイダと自分を見守ってくれた近所の人たちもいる。村に入ると皆、俺たち二人を笑顔で出迎えてくれる。それだけではない。
「お帰りなさい」
出稼ぎに出ていた時に出会ったシルフィーヌと言うエルフもいる。いろいろあってレプテ村に住んでいる。彼女を連れ帰った時はそれはもう周囲からは散々に囃し立てられたものだ。シルフィーヌ共々そう言った村の人たちの反応に困りはしたが満更でもなくて、いずれはそういう関係になりたいと思っている。
その日の夜は自分たちの帰郷を祝ってお祭り騒ぎとなった。何かしら理由をつけて騒ぎたいのだ。皆で酒場で飲み食いしながらどんちゃん騒ぎ。俺とシルフィーヌは酔っぱらったおっさんや友人たちにいつ籍を入れるのかと囃し立てられ、エイダはお節介なおばさんたちに婿を勧められてはのらりくらりと躱している。
決して嫌な訳ではなかった。むしろ楽しいのだ。誰もいなくなっていない。村も健在で平穏な日々が続いている。帰れば皆が出迎えて会話に花を咲かせ共に笑い合える。エイダもシルフィーヌも曇りなく笑っていられる。
だからこそどうしようもなく夢だと気づいてしまう。決して実現しない夢だと。現実は故郷を焼かれ、顔見知りや家族もみんな死んで、エイダは能天気なようでずっと村の事を引きずり続けていて表向きは笑顔を浮かべながら陰では過去を思い出しては何度も泣いている。シルフィーヌに至っては守ると決めたのに何度も危ない目に遭わせてしまっていて笑わせるどころか泣かせてしまっている。
自分が無力であることを何度も呪った。二人にそんな顔をさせたくはなかった。馬鹿なりに強くなろうと藻掻いたが結局は上には上がいて、そして村を焼いたダークエルフには完敗した。それが現実だった。
強くなりたかった。エイダもシルフィーヌも泣かせないために。三人でずっと笑っていたくて、幸せでありたくて。それなのにどうして自分はこんなにも弱いのだとシグル=トルーヴは周囲の喧騒を余所に己を責めた。徐々に笑い声が遠くなっていく。皆の笑顔が見えなくなっていく。視界が暗くなっていく。そしてシグルは夢に逃避することもできないまま、現実で目覚める。辛いことが続く現実に。
その日の夜は自分たちの帰郷を祝ってお祭り騒ぎとなった。何かしら理由をつけて騒ぎたいのだ。皆で酒場で飲み食いしながらどんちゃん騒ぎ。俺とシルフィーヌは酔っぱらったおっさんや友人たちにいつ籍を入れるのかと囃し立てられ、エイダはお節介なおばさんたちに婿を勧められてはのらりくらりと躱している。
決して嫌な訳ではなかった。むしろ楽しいのだ。誰もいなくなっていない。村も健在で平穏な日々が続いている。帰れば皆が出迎えて会話に花を咲かせ共に笑い合える。エイダもシルフィーヌも曇りなく笑っていられる。
だからこそどうしようもなく夢だと気づいてしまう。決して実現しない夢だと。現実は故郷を焼かれ、顔見知りや家族もみんな死んで、エイダは能天気なようでずっと村の事を引きずり続けていて表向きは笑顔を浮かべながら陰では過去を思い出しては何度も泣いている。シルフィーヌに至っては守ると決めたのに何度も危ない目に遭わせてしまっていて笑わせるどころか泣かせてしまっている。
自分が無力であることを何度も呪った。二人にそんな顔をさせたくはなかった。馬鹿なりに強くなろうと藻掻いたが結局は上には上がいて、そして村を焼いたダークエルフには完敗した。それが現実だった。
強くなりたかった。エイダもシルフィーヌも泣かせないために。三人でずっと笑っていたくて、幸せでありたくて。それなのにどうして自分はこんなにも弱いのだとシグル=トルーヴは周囲の喧騒を余所に己を責めた。徐々に笑い声が遠くなっていく。皆の笑顔が見えなくなっていく。視界が暗くなっていく。そしてシグルは夢に逃避することもできないまま、現実で目覚める。辛いことが続く現実に。
目を覚ますとシグルの視界には洞窟であることを示す土と岩で固められた天井と、彼を心配そうに見つめるシルフィーヌ二世の顔が映る。彼女は今にも泣きそうな顔をしながらシグルの手を握っている。ずっと見ていたからかすぐにシグルが目を覚ましたことにいの一番に気づき、そして表情を曇らせながら口を開く。
「ごめんなさい……私のせいで……」
そう謝罪しながらシルフィーヌは涙を流す。シグルは痛みに呻きながら上体を起こしシルフィーヌの肩に手を置く。少しでも気を宥めるために。
「シルフィーヌ様のせいじゃない……、俺の方こそ弱くてごめん」
そう言って慰めようとするが逆効果だったのかシルフィーヌはさらに泣き出してしまった。シグルはどうにかしようと手をシルフィーヌに伸ばそうとして。
「何シルフィーヌちゃんを泣かせてんのよバカシグル」
隣から聞こえてくるエイダの声に思わず手を止める。シグルはぎこちない動きで、シルフィーヌは泣いたまま声がした方を向くとエイダが上体を起こして二人をもの言いたげな目で見ていた。上半身から顔にかけて酷い火傷痕が目立つ。そんな痛々しい姿とは裏腹に両手を突き上げて背筋を伸ばしながらあくびをしている。大けがを負った人間のする反応ではないと内心で突っ込む。
「いやー、死ぬかと思ったわー。全く炎に焼かれて大火傷って昔魔法の制御に失敗して以来だわ。エイダ=トルーヴ一生の不覚……!」
「反応軽いな」
「反応軽いな」
エイダの軽い反応にシグルはツッコむ。
「全くだよ。そこの彼よりも重症なのに何でピンピンしてるんだい?」
別方向から声がしたのでそちらを向くと見知らぬエルフの男とウッドエルフのオーフィアがいたく引いたような表情を浮かべている。二人だけではなくそれ以外のエルフ達も同様の反応だった。
「ハハハハハ! 火属性魔法を使っていれば自分で出した火に焼かれることくらい経験するものだからね! 覚えたての頃なんて何度も火傷してたからこれくらいの痛みなんて慣れちゃったよ!」
「いや慣れとかそういう問題じゃないですよね? 普通に重症ですからね?」
「痕が残ったくらいだし無問題無問題! 命があっただけめっけもんだよ!」
「いや慣れとかそういう問題じゃないですよね? 普通に重症ですからね?」
「痕が残ったくらいだし無問題無問題! 命があっただけめっけもんだよ!」
そんな周囲の反応を余所にエイダはけらけらと笑っている。どう見ても重傷を負った人間のする反応ではなかった。
その後、ヨルクと名乗る見知らぬエルフの男から自己紹介をされつつ軽く容体を見てもらった。エイダもシグルもすぐにでも動ける状態だと判断された――――――シグルも無傷ではなくエイダほどではないとはいえ火傷や紫痣になるような打撲の痕などが見受けられたはずであった。その回復力にヨルクは彼を信じられないものを見るような目で見ていたのだが――――――。
そして生き残ったウッドエルフと近衛騎士団の面々と共に――――――第三者であるはずのヨルクも交えながら――――――今後の展望について話し合うこととなった。とは言えエイダとヨルクを除いで誰も彼も暗い表情を浮かべている。ダークエルフの魔の手からシルフィーヌ二世を逃がそうとしたその直後にテネブル=イルニアス軍団国の四天王アリュマージュに見つかったのだ。それは他のダークエルフも追跡してきているのではないかという疑念と逃げきれないかもしれないという絶望と可能性が浮上してきた。暗くなるなと言う方が無理な状況である。
そして生き残ったウッドエルフと近衛騎士団の面々と共に――――――第三者であるはずのヨルクも交えながら――――――今後の展望について話し合うこととなった。とは言えエイダとヨルクを除いで誰も彼も暗い表情を浮かべている。ダークエルフの魔の手からシルフィーヌ二世を逃がそうとしたその直後にテネブル=イルニアス軍団国の四天王アリュマージュに見つかったのだ。それは他のダークエルフも追跡してきているのではないかという疑念と逃げきれないかもしれないという絶望と可能性が浮上してきた。暗くなるなと言う方が無理な状況である。
「すぐにでもインブロジア森林帯を抜けるべきなのですが……そこからどこに逃げればいいのか全く当てがないのです……」
オーフィアはそう言って表情を暗くする。本来であればダークエルフに見つからないように逃げつつ安全な場所を探そうとする予定であったのだが、アリュマージュに補足されたことでその予定が大きく崩れることとなったのだ。その上エルヴン帝国はシルフィーヌ二世が援助のために周辺国へ外交に出るまでウッドエルフ共々リンデルの森の中に引きこもっており、潜伏先として選べる伝手も縁も隠れ家も持っていないのだ。
「他のウッドエルフの森に匿ってもらうとかは?」
エイダがそう提案するもオーフィアは首を横に振るだけであった。他のウッドエルフの集落に対しても伝手がないというだけではない。
「テネブルに追われている私達を危険を冒してまで匿ってもらえるとは思えません。エルヴン帝国と言う名もきっと役には立たない……」
「じゃあ、そこのヨルクさん……は? 何か当てとかない?」
「僕の方も……君たちを匿ってもらえる宛はないかな」
「じゃあ、そこのヨルクさん……は? 何か当てとかない?」
「僕の方も……君たちを匿ってもらえる宛はないかな」
ヨルクの言葉に再び雰囲気が暗くなる。エイダはヨルクが一瞬値踏みするような目つきをしたことが気になったが敢えてつつくようなことはしなかった。
「……トルーヴ姉弟には十分すぎるほどに手伝ってもらった。どこかの街に就いたらそこで別れよう」
近衛騎士の一人がそう呟いた。シルフィーヌ二世は思わずそちらに顔を向ける。内心で言いようのない焦燥感に駆られ彼女は疑問を口にする。
「それはどうして……?!」
そんなシルフィーヌ二世の反応に近衛騎士は大きくため息をつく。他の者たちも同様の反応だった。
「どうしても何も彼らにはこんな状況に巻き込むことになるとは想定していない。助けてもらいたいのは山々だがそこまでしてもらえる義理も理由も何もない上にお二人だってこれ以上損害を食らうのは御免でしょう。それにお二人は冒険者です。報酬合って我らを助けてくださっているだけです。ここまで二人のご厚意に甘え続けていましたがそれもここが潮時です。これ以上は巻き込めません。自分の事しか考えてないのですか貴女は?」
近衛騎士の言葉にシルフィーヌ二世は何も言えず言葉を詰まらせる。近衛騎士の言う通り、彼女は深く考えずにエイダとシグルについてきてもらうつもりだった。二人が先の戦いで傷ついていながら、傲慢にもこれからもついてきてもらえると思い込んでいた。近衛騎士の言う通り、エイダとシグルがこれ以上自分たちの都合で逃避行に巻き込むのは割に合わない。言葉を詰まらせるシルフィーヌ二世にオーフィアは軽蔑するような視線を向けため息をつく。
「そういうわけでインブロジア森林帯を抜けた後、お二人をどこかの街にお連れします。幸い外交時に泊めて頂いた場所を知っています。そこでお別れといたしましょう。今の我らはともかくお二人は本来無関係の立場であります。シルヴァ様から預かった報酬以上の手当てをお支払いすることができないことを誠に申し訳ありませんが……」
近衛騎士がトルーヴ姉弟にそう告げる。シルフィーヌ二世が表情をさらに曇らせる。だが、これ以上二人が自分たちに付き合ってくれるとも考えづらい。結局は依頼者と冒険者と言う雇用関係でしかなかったのだ。シルフィーヌ二世の目に涙が溜まりそうになる、その時だった。
「勝手に決めるな」
シグルの言葉に周囲の視線が集まる。シグルはどこか憮然とした表情を浮かべながら再び口を開く。
「俺達の意思を勝手に決めるな。俺達もシルフィーヌについて行くし護衛も続ける。シルフィーヌが嫌だと言ってもな。文句は聞かないからな」
その言葉を聞いたシルフィーヌ二世の目から涙がこぼれる。それとは別にオーフィアが慌てた様子でシグルに疑問をぶつける。
「待ってください! どうしてですか? 貴方達は先ほどの戦いで酷い損害を受けたはずです。これ以上続けたって危険なだけです。貴方達の身の安全を考えればこれ以上は……!?」
「冒険者ってのは危険だとか身の安全だとかなんて二の次だ。日頃から命がけの仕事をこなしてるんだ。怪我するのも命の危機に遭遇するのもいつも通りなんだよ」
「ですが私達はこれ以上貴方達に払える報酬なんて……」
「だったらノーギャラでやってやるさ。それで文句ないだろ?」
「冒険者ってのは危険だとか身の安全だとかなんて二の次だ。日頃から命がけの仕事をこなしてるんだ。怪我するのも命の危機に遭遇するのもいつも通りなんだよ」
「ですが私達はこれ以上貴方達に払える報酬なんて……」
「だったらノーギャラでやってやるさ。それで文句ないだろ?」
オーフィアの言葉を遮りシグルはそう告げる。特に深い考えなどなかった。ただ自分たちの意思を無視して勝手に進退を決められることが、シルフィーヌ二世が泣きそうになっていることがとにかく気に食わなかった。
「俺達の損害とかそんなのどうでもいい。勝手に人様の進退を決めるな。俺達は何があってもシルフィーヌの護衛を続ける。嫌だって言っても勝手に付きまとって守ってやる。だから、俺達をシルフィーヌから引き離そうとするな」
そう言い切りシグルは口を閉じ、周囲もそれにつられて沈黙する。シルフィーヌ二世の小さくすすり泣く声だけがその空間に流れる。しばらくその状態が続いたが唐突にエイダがシグルの頭部を小突いたことでそれが変わりだす。
「アンタも勝手に私の意思を代弁するな。だいたいは同意だけどさ。後私の出番を奪ってんじゃないよバカ」
「知らねーよ。あと同意なら小突く必要ないだろ」
「出番を奪われたことに腹が立ったんですー。そういうわけで私達はシルフィーヌちゃんの護衛を続けまーす。反対意見とか聞かないからその辺よろしく☆」
「……本当によろしいのですか? これ以上関わるとテネブル=イルニアス軍団国との因縁に巻き込まれる恐れも……」
「そんなの今更だって。もうすでにダークエルフとか殺っちゃってるしさ」
「知らねーよ。あと同意なら小突く必要ないだろ」
「出番を奪われたことに腹が立ったんですー。そういうわけで私達はシルフィーヌちゃんの護衛を続けまーす。反対意見とか聞かないからその辺よろしく☆」
「……本当によろしいのですか? これ以上関わるとテネブル=イルニアス軍団国との因縁に巻き込まれる恐れも……」
「そんなの今更だって。もうすでにダークエルフとか殺っちゃってるしさ」
オーフィアの懸念をエイダは一蹴して笑う。すでに因縁に巻き込まれてるようなものだと言外に含めている。
「……ま、シルフィーヌちゃんが関係してなくても私にとっては逃せないチャンスな訳だし」
誰に聞こえることがない声量でエイダは呟く。彼女にとって故郷の仇が向こうからやってくるチャンスを逃すわけにはいかなかったが、それをこの場で言うつもりはなかった。言ったところでどうにもならない、変にシルフィーヌに遠慮してもらうのも困る。その判断故だ。
「そういうわけだ。俺たちトルーヴ姉弟はシルフィーヌに関わり続けてやる。絶対にだ。文句は聞かないからな」
シグルとエイダの言葉にシルフィーヌ二世は涙をこらえきれなかった。嗚咽を漏らしながら二人の方に顔を向ける。涙で顔がぐちゃぐちゃになっていた。
「ありがとう……ございます……」
泣きながら頭を下げて礼を言うシルフィーヌ二世に二人とも礼を言われるほどではないと言いたげに微笑んだ。結局のところシグルとエイダのエゴで決めたことだ。彼女が泣く必要も礼を言われる必要もないと二人は思った。
シルフィーヌ二世が泣き止んだところで話し合いが再開された。この後どこへ逃げるべきか、どこまで逃げ続けるべきか話し合う必要があるからだ。しかし――――――。
「逃げ切ることは無理だと思うよ。ここまでの話を聞いた限りだときっとテネブル=イルニアス軍団国はシルフィーヌを狙ってどこまでも追ってくるだろう」
ヨルクの言葉に誰も反論できなかった。テネブル=イルニアス軍団国が、テルミドールがシルフィーヌ二世に執着し続ける限り、どこにも逃げ場などなく、逃げる当てもなかった。海の向こうに逃げるという判断もあまり現実的ではなかった。海を渡るための伝手がなく、仮にわたる手段を見つけても生きていく術もない。犬死する未来が目に見えていた。誰も彼もが頭を悩ませている時だった。
「……私が外交に向かった場所に助けを求めるのはどうですか?」
シルフィーヌ二世がおずおずとした様子でそう発言した。彼女の言葉に全員の視線が集まる。
「……エルニア帝国への経済的支援を求めたように、テネブル=イルニアス軍団国の、ひいてはテルミドールの危機を伝え武力支援を求めるんです。魔王や魔族の脅威を伝えればもしかしたら助けてくれるかもしれないと思うのですが……」
彼女の言葉を全員が咀嚼し思考を巡らせる。永遠に逃げ続けるよりは実現性があるのではないかとエイダは考える。ヨルクも同じ思考なのかシルフィーヌ二世の言葉に頷いている。
「確かに可能性という点では意味のある発言だ。ただ、どこに助けを求めるつもりだい?」
「……この国で最も有力な国々と勢力に。例えば共和国同盟や神聖イルニクス帝国、アルカナ教団に武力支援を要請するとか……」
「イルニクスは除外した方がいいだろう。あそこは知的種族全体の利益を守ることを標榜する割には自国の利益優先だ。利益にならないからと突っぱねられるならまだマシだ。あれこれ理屈付けて利用された挙句に何もかも徴収と言う可能性だってある。アルカナ団は……正直未知数だね。個人ならともかく国単位でとなると……。伝手がないし、まだエルヴン帝国がテネブルに狙われてるだけだから後回しにされることも考えられる」
「でしたら共和国同盟に助けを求めます。……正直、何を考えているか分からないところはありますが……それでも彼女なら話を聞いてもらえる可能性はあると信じたいです」
「……なるほど、伝手があるようなら利用すべきだね」
「……この国で最も有力な国々と勢力に。例えば共和国同盟や神聖イルニクス帝国、アルカナ教団に武力支援を要請するとか……」
「イルニクスは除外した方がいいだろう。あそこは知的種族全体の利益を守ることを標榜する割には自国の利益優先だ。利益にならないからと突っぱねられるならまだマシだ。あれこれ理屈付けて利用された挙句に何もかも徴収と言う可能性だってある。アルカナ団は……正直未知数だね。個人ならともかく国単位でとなると……。伝手がないし、まだエルヴン帝国がテネブルに狙われてるだけだから後回しにされることも考えられる」
「でしたら共和国同盟に助けを求めます。……正直、何を考えているか分からないところはありますが……それでも彼女なら話を聞いてもらえる可能性はあると信じたいです」
「……なるほど、伝手があるようなら利用すべきだね」
ヨルクがシルフィーヌ二世の案に肯定的な反応を見せる一方、近衛騎士とオーフィアをはじめとしたウッドエルフの面々は否定的な反応を見せる。シルフィーヌではまともに相手にされないだの、ポンコツな皇帝に任せるのは不安だのどっちにしても実現性に欠ける、可能性が低いだの散々な反応を見せた。だが―――――――。
「じゃあ、他に代案ある? 逃げる以外で。あるなら今すぐ出してよ」
エイダのその一言に反対意見を持つ者たち全員が押し黙ってしまったこともありシルフィーヌ二世の案に沿って行動を決めることとなった。それ以外に選択肢等ないことが目に見えていた。それでも反対意見が出たのはシルフィーヌ二世に自分たちの命を預けることに不安があったからだろうとヨルクは考える。とはいえ今それを指摘してもどうにもならないのは分かり切っていた。それよりもシルフィーヌ二世以上に逃げるか隠れるかということしか考えられないウッドエルフ派と近衛騎士団に期待できないという信用の無さから彼らに何も指摘しないことを決めた。
(……それにしてもシルフィーヌは変わった。昔だったらあの場で自分の意見を言うことなんてできなかっただろうに……)
とうの彼女はというとエイダとシグルの怪我の心配をしているようだった。心配されている二人はどうも普通に動けそうな様子を見せている。そればかりか戦闘も普通にこなせそうな気配すらある。その様子にヨルクはやはり引いていた。エイダは言うに及ばずシグルも診た時は碌に動ける状態ではなかったはずだ。だが目覚めてからの様子を見る限り健常者のように体を動かせている。
(アリュマージュとやり合えるだけの実力者ではある……か)
そんなことを考えつつふとエイダに視線を向ける。怪我の具合や話し合いの時はさほど気にはならなかったがよく観察していると記憶の奥底にしまっておいた、大切な誰かの姿とエイダの容姿が重なる。
髪の色や長さ、服装は異なるがセレーネに似ているのだ。どこか大人びている容姿、曲線美のある体型、どこか溌剌とした雰囲気、シルフィーヌをかわいがっている様子などセレーネとの類似点が良く見受けられる。
世の中には他人の空似と言う物もあるのだ。ただの偶然でしかないというのは分かっている。だがそれでもセレーネと面影が重なるエイダ=トルーヴの存在にどこか引っ掛かりを求めているのだ。まだ、碌に会話もしていないのに。セレーネの面影を求めているのかやけに気になる。セレーネ本人ではないのに。その事実にヨルクは自己嫌悪を覚えた。セレーネ以外の女性に目移りしないと決めたはずなのに、エイダ=トルーヴに彼女の面影を重ねている事実に。やり場のない悔恨と悲哀が心の奥底から湧き上がってくるようだった。
髪の色や長さ、服装は異なるがセレーネに似ているのだ。どこか大人びている容姿、曲線美のある体型、どこか溌剌とした雰囲気、シルフィーヌをかわいがっている様子などセレーネとの類似点が良く見受けられる。
世の中には他人の空似と言う物もあるのだ。ただの偶然でしかないというのは分かっている。だがそれでもセレーネと面影が重なるエイダ=トルーヴの存在にどこか引っ掛かりを求めているのだ。まだ、碌に会話もしていないのに。セレーネの面影を求めているのかやけに気になる。セレーネ本人ではないのに。その事実にヨルクは自己嫌悪を覚えた。セレーネ以外の女性に目移りしないと決めたはずなのに、エイダ=トルーヴに彼女の面影を重ねている事実に。やり場のない悔恨と悲哀が心の奥底から湧き上がってくるようだった。
シグルのことを心配しているシルフィーヌ二世とそんな彼女に回復した様子を見せるシグルの二人を眺めながら、エイダはどこか安堵していた。シグルがシルフィーヌを守るために同行することを言いだしたことに。内心では常にシグルの事が心配だった。シグルはバカだから、一人にさせるのが不安だった。だから常に自分が付いていなければいけないと思っていた。
シグルを冒険者として戦わせているのもこんな世界で生きていく以上戦う力がなければあっという間に殺されるだけ、自分の目の届く範囲に置くことで守るつもりだった。シグルを死なせないために/シグルの傍に自分が安心するために。いつか故郷を焼いたアリュマージュに復讐することを考えながらシグルの傍に居続けた。自分が死ぬときはシグルも連れて行かねばならない。そんなことをいつも考えていた。
そんなシグルがシルフィーヌを守ろうとしている。誰に言われたわけでもなく、自分の意志で。そんなシグルの姿を見てエイダはもう大丈夫だと思った。きっと自分がいなくなってもシルフィーヌの傍にいさせればシグルはきっと安心だ。守るべきものが、拠り所が出来たのだから。
だからもう、大丈夫だと思った。後はシルフィーヌを守りつつかわいがりながらシグルの恋路の応援をして、アリュマージュを殺してレプテ村の人たちや家族の仇を討って死ぬだけ。それでいい、そんな人生でいい、もうシグルを置いて行くことになっても大丈夫だとエイダは心の底からそう思えた。
いつも通りに振舞ってそして来るべき時に死ぬだけ。それでいい。そう考えながらエイダはいつも通りにシルフィーヌに抱き着いて可愛がった。誰にも悟られないように、シグルにすら気づかれないように。
シグルを冒険者として戦わせているのもこんな世界で生きていく以上戦う力がなければあっという間に殺されるだけ、自分の目の届く範囲に置くことで守るつもりだった。シグルを死なせないために/シグルの傍に自分が安心するために。いつか故郷を焼いたアリュマージュに復讐することを考えながらシグルの傍に居続けた。自分が死ぬときはシグルも連れて行かねばならない。そんなことをいつも考えていた。
そんなシグルがシルフィーヌを守ろうとしている。誰に言われたわけでもなく、自分の意志で。そんなシグルの姿を見てエイダはもう大丈夫だと思った。きっと自分がいなくなってもシルフィーヌの傍にいさせればシグルはきっと安心だ。守るべきものが、拠り所が出来たのだから。
だからもう、大丈夫だと思った。後はシルフィーヌを守りつつかわいがりながらシグルの恋路の応援をして、アリュマージュを殺してレプテ村の人たちや家族の仇を討って死ぬだけ。それでいい、そんな人生でいい、もうシグルを置いて行くことになっても大丈夫だとエイダは心の底からそう思えた。
いつも通りに振舞ってそして来るべき時に死ぬだけ。それでいい。そう考えながらエイダはいつも通りにシルフィーヌに抱き着いて可愛がった。誰にも悟られないように、シグルにすら気づかれないように。
そうして一行は旅立つ。シルフィーヌ二世を守るために、エルヴン帝国をテネブル=イルニアス軍団国の侵攻から救うために。どれほどの困難が待ち受けているかも知らないまま、逃げ場のない各国を巡る旅が始まった。