時臣のサーヴァントである 金色のアーチャーに対して雁夜のバーサーカーは相性がよく、ある時はアーチャーの宝具を奪って善戦し、
ある時はアーチャーが呼び出した古代インドの高速飛行船ヴィマーナと空中戦の末撃墜するなど大金星をあげ、当初は喜んでいたのだが、
それだけ大暴れすれば雁夜の魔力負担もとてつもなく、また何故かバーサーカーは アインツベルンのセイバーを目にすると雁夜の指示に従わず襲いかかってしまうという問題も抱えていた。
肝心の時臣に対しては使い魔の蟲達は時臣の得意な火の魔術と最悪の相性であったため、容易く燃やされてしまう。
挙句時臣に自身ごと燃やされ、一時本当に死んでしまった。
しかしアサシンのマスターだったが既に敗退した言峰綺礼の手助けにより蘇生。そして共闘とその条件として時臣との再戦の場を用意することを提案された。
目的のために綺礼と手を組んだ雁夜は綺礼に言われるままに協力した後、時臣との再戦の場とされた冬木教会へと向かう。
しかし、教会の最前列の席に座っていると見えた時臣は既に死んでいた。時臣の魔術師としての弟子であり此度の共同戦線であった綺礼が、師を裏切って刺殺していたのだ。
唖然としていた雁夜に声をかけたのは綺礼によりこの場に誘い出された葵だった。
明らかに雁夜が時臣を殺したとしか思えない状況(事実、雁夜も時臣への殺意はあったのでこうなっていた可能性はある)に葵は激昂し、雁夜を批難した。
時臣の死、葵の登場と批難という思わぬ事態に雁夜は動揺し、混乱する中、葵に対して言ってはならなかったことを叫んでしまう。
「そいつが――そいつの、せいで――」
「その男さえ、いなければ――誰も不幸にならずに済んだ。葵さんだって、桜ちゃんだって――幸せに、なれた筈――」
当然、そんな雁夜の独りよがりの言葉は時臣が魔術師であり一般人から見れば歪んでいることを理解してなお心から愛する葵の怒りを煽るだけで、葵もまた、雁夜に言ってはならなかった言葉を叩きつけてしまった。
「ふざけないでよ!」
「あんたなんかに、何が解るっていうのよ! あんたなんか……誰かを好きになったことさえないくせにッ!」
最愛の人に自分の想いを否定されて雁夜の精神は限界を迎えてしまう。
葵が葵であることさえ認識できなくなり、ただ自分の「誰かが好きだ」という想いを否定する存在を黙らせようとした結果、雁夜は葵の首をその手で締めていた。
「あああぁああアアアァあああァあああ……ッ!」
自分が首を絞めたのが葵であると気づいてしまった雁夜はそのまま逃げるように教会を後にする。
(なお葵は死にはしなかったが酸素欠乏のため脳に後遺症を残し、時臣が死んだ現実を忘れ、家族が幸せに過ごす夢の中で生きるようになったあと、第五次聖杯戦争より前に病死した)
聖杯戦争はまだ終わらないものの雁夜の精神は葵を手にかけたこと、時臣が既に死んでいたことを現実として認識することを放棄し、ただ桜を救うことだけを目的として綺礼に指示されるままに動き、バーサーカーをセイバーと対峙させる。
バーサーカーがセイバーと戦う際、極限まで雁夜から、つまり刻印蟲から魔力を絞り上げたため、蟲は体内から消滅する。
それは雁夜の命もまた終わりであることを意味していたが桜を救うという一心だけで間桐家に戻り、蟲蔵にいる桜の下へたどり着いた。
「桜――助けに来たよ。もう、大丈夫だよ――」
最後に雁夜が見たのは「ありがとう……雁夜お父さん!」と喜ぶ桜と凛、二人の後ろで微笑む葵の幻。
実際は雁夜の姿に更なる絶望をその心に刻まれた桜の目の前で力尽き、蟲蔵の蟲に喰われる最期であった。
|